マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。

補足:仇討ち(ギャラルホルン式)…決闘と同じくギャラルホルン内での問題解決方法。
 本来は身内を殺された者に限定した復讐対象を提示し、際限ない報復の連鎖を抑止する目的で作られたが、最近ではセブンスターズと繋ぎを持つ為の申し出が多い。
 セブンスターズのいずれかに申し出て、許可を得た後に見届け人を同行させた上で行うことが義務づけられている。
 なお助太刀に関しては、個人の裁量次第ということで制限はないが、全て私事としての行動となる。




取られたものは取り返すだろ? その二

 「よっしゃ、ビンゴだぜ!」

 

 イサリビを操るユージンがデブリ帯を抜けた先には、彼らの予想通りにブルワーズのものらしき強襲装甲艦二隻が彼らに腹を向けてその場に存在していた。

 相手の二隻が反応する間もないうちに、イサリビとその後に続くハンマーヘッドが襲いかかる。

 ハンマーヘッドが、その肉厚な前面に張り出した装甲部分を一隻の強襲装甲艦の側面に叩きつけ、そのまま近くに浮いていた大型のデブリへとぶつけて動きを封じる。

 残る一隻に対しイサリビが前面についたアンカーを射出命中させ、イサリビの軌道を固定すると直ちにアンカーの巻上げを開始し、彼我の距離を一気に詰めた。

 

 『よし、襲撃部隊行け!』

 

 オルガの号令に従い、イサリビから敵艦へノーマルスーツを着用し武装した鉄華団員数名を上に乗せたMW十機が、イサリビの格納庫から敵艦へ発進しすぐさま敵艦へと取り付く。

 がそれと同時に、敵艦の格納庫が展開しマン・ロディ二機と緑の重武装ガンダムが出撃する反応を捕らえたフミタンの報告に、オルガもイサリビからもMSを出撃させる。

 出撃したのは二機、一機は昭弘の乗る腕部装甲を追加した方天画、残るもう一機は適正重量の装甲に変更した結果、スリム化したピンクに塗られたマン・ロディであった。

 

 『昭弘・アルトランド、方天画。出る』

 『ノルバ・シノ!流星号いくぜえ!』

 

 掛け声と共に出撃した方天画と流星号は緑の重武装ガンダムと二機のマン・ロディの足止めを図った。

 

 『このクダル・カデル様のグシオンの邪魔するんじゃないわよ!お前ら行け!』

 

 緑の重武装ガンダム(以下グシオン)から耳障りな声が響くと、それにあわせて二機のマン・ロディが動き、それぞれが方天画と流星号に手にしたマシンガンで牽制攻撃を行う。

 方天画は両腕を肘のところで曲げ、装甲を厚くした両腕で頭部センサーとコクピットを防御したが、流星号は射撃を回避してしまい、後方のイサリビに被弾させてしまう。

 

 『あっ、わりい!』

 『こら!俺たちの盾が避けてどうすんだ!』

 『つい反射的にな、すまん!』

 『お前はもう少し頭使えよ!』

 

 戦場らしからぬユージンとシノの、平素と変わらないやり取りはイサリビを襲った突然の衝撃で中断された。

 

 「おい、ビスケット今のは敵艦の砲撃か?」

 「いや、違うよオルガ。あのガンダムフレームからの射撃だよ」

 

 オルガに返事を返したビスケットはコンソールを操作し、メインモニターにいつの間にかイサリビに肉薄したグシオンの姿を投影する。

 巨大なハンマーを担いだグシオンには銃器の類はないように見えたが、熱反応センサーでスキャンした結果を同調させると、胸部に高い熱反応が左右に二つあることがわかる。

 

 「何だよ、あの機体対艦砲を埋め込んでるのかよ!」

 「不味いね、今の攻撃でイサリビのナノラミネート装甲に弱いところが出来てる。そこをあのハンマーで叩かれ続けたら、いくらイサリビでも無事じゃすまないよ」

 「さて、どうするかだな」

 

 ユージンとビスケットの言葉にオルガは待機させていたMW隊を出撃させる事を考える。

 艦に設置された砲ではグシオンの機動力に追いつくことができず、MWでの牽制攻撃ではMW搭乗者の生存率はほぼゼロに近くなるだろう。

 団員の命のかかった選択に、オルガはその重圧をひしと感じた後にそのプレッシャーを跳ね返す。

 

 「外で戦ってる奴らを信じるぞ。出来る限りの回避行動で時間を稼げ!」

 「了解!」

 

 オルガの指示にユージンは制御下のイサリビの挙動を微調整し、グシオンのハンマーが当たる箇所を微妙にずらす。

 再びイサリビに衝撃が走るも大きい破損は無く、ユージンの操縦技術の優秀さが伺えた。

 

 「新たなリアクター反応。…バルバトスです」

 

 暫く衝撃の続いたイサリビ内でフミタンの朗報がもたらされ、ブリッジの雰囲気が和らぐ。

 

 「よし、フミタンさん。ミカに表の張り付いた奴らの相手を頼んでください」

 「ああそれと、あの緑のデカブツの胸部に弱点があることを伝えとけ」

 「対艦砲のついたところですか、顧問?」

 「そうだ。イサリビのナノラミネート装甲を削るほどの火力だぜ。それをあんな埋め込み式で発射したら、そいつ自体のナノラミネート装甲も無事じゃすまねえだろうぜ」

 「それに加えて、機構が埋め込まれた分装甲も薄いということですね」

 「そういうこった。じゃフミタンさん。よろしく」

 

 オルガとマルバの言葉にフミタンは頷くと、バルバトスに乗る三日月へと連絡を取る。

 

 『わかった。何とかする』

 

 フミタンからの連絡に短く返した三日月は、残り燃料の少なくなったクタン参型を分離させると、片手に持ったライフルでグシオンの妨害を行う。

 先の襲撃時の情報を元に、グシオンの装甲が薄いと予想される箇所への的確な射撃に、グシオンは攻撃を嫌がるようにイサリビから離れるとバルバトスへとその攻撃の矛先を変える。

 

 「よし、釣れたな」

 

 三日月はグシオンの反応を確認すると、方天画へ通信を繋げる。

 

 『昭弘、向こうは俺と姐さんで大体大人しくさせた。多分誰も死んでないと思うから、弟を探して』

 『了解、こっちは海賊の大人だったから、そちらに向かう』

 

 接触時の通話でこちらの二機のマン・ロディに昌弘らヒューマンデブリたちが乗ってないことを確認した昭弘とシノは攻勢に移っており、今しがた方天画のハルバードの槍の部分で一機のマン・ロディのコクピットを貫いたところだ。

 残る一機も、流星号のチョッパーによる乱打の前に防戦一方であり、イサリビの当面の危機は去った状態である。

 

 『シノ、もう一機は任せて良いか?』

 『おう、こっちは任せて行って来い昭弘!』

 『頼む、じゃあいってくる!』

 

 シノの答えに昭弘は焦る気持ちを抑えつつ、三日月に教えられた宙域へと方天画を奔らせた。

 この時、敵艦に取り付いた鉄華団員たちはハッチをMWの攻撃で吹き飛ばし船内に浸入、ダンテのハッキングにより割り出されたブリッジへの最短ルートを進んでいた。

 

 「おら、そこ!勝手に頭出すんじゃねえ!」

 

 ハエダはそう叫び、通路角から不用意に飛び出そうとした鉄華団ヒューマンデブリの一人を後ろに吹き飛ばす。

 それとほぼ同時に通路の向こうから射撃音が断続的に響きわたり、ハエダが止めていなければうかつなヒューマンデブリは死んでいたであろう。

 やがて角の向こうからの射撃音が途絶えたのを聞き逃さずに、ハエダがハンドサインで攻撃を指示する。

 ルイス率いる教導隊の訓練により、ハエダら一軍と鉄華団ヒューマンデブリらの動きは淀みなく的確に障害を排除していく。

 無論、敵艦内での遭遇戦である以上、被害ゼロとはいえないが重傷者は後方のチャド率いる脱出口確保組に連れて行き、できる限りの応急処置を行っている。

 

 「てめえらの命は鉄華団のものだ!団長の許可なく簡単にくたばるんじゃねえ!」

 

 ハエダはそう叫びつつも、部屋から飛び出してきたブルワーズらに躊躇なく銃弾を浴びせ、先陣を切り開いていくのであった。

 

 

 

 『待たせたな、昌弘。迎えに来たぞ』

 

 三日月とアミダによりほぼ無力化されたブルワーズのマン・ロディの中から、昌弘の乗る機体を見つけた昭弘は方天画でマン・ロディを抱きしめ、説得の言葉を投げかける。

 

 『何だよ、兄貴。いまさらだよ!俺はもうこの手で何人も殺したヒューマンデブリの屑だ!どうせいつか誰かに殺されるだけなんだよ!』

 

 応じたのは昌弘の涙交じりの悲痛な叫びであり、拒絶の意思であった。

 

 『違うぞ昌弘。俺もヒューマンデブリだ、人に自慢できる仕事ばかりやってきたわけじゃねえから、お前の気持ちは少しはわかるつもりだ』

 『兄貴?』

 『だがな、本当に屑なのは、俺たちヒューマンデブリをそういう気持ちにさせる仕事ばかり押し付けてくる持ち主の奴らだ!昌弘、お前や俺が屑だなんだと傷ついて、泣かされて良いわけじゃ断じてねえ!』

 

 昭弘は出撃前にマルバから自身が言われた言葉を、自分なりの言葉で昌弘に伝える。

 

 『それによ昌弘、お前は俺の弟だ。それだけは誰にも否定させねえ!お前をそんな気持ちにさせる場所においておく事を俺が許せねえ。だから俺と来い』

 『なんだよ、勝手じゃないか兄貴…でも駄目だよ。俺だけ兄貴に救われるなんて』

 『ならお前の仲間も一緒で良い。今の俺たちの所有者、団長からも許可はもらってる』

 『えっ、そんなまさか』

 『俺の言葉だけで信じろ、というのは無理か?なら今からうちの団長からのメッセージを見せる、それで判断してくれ』

 

 一度言葉を切った昭弘は、オルガから預かった録画メールを、接触通信で繋がる昌弘だけでなく周囲のマン・ロディに乗る者たちへと聞こえるように、共通回線で発信する。

 

 『初めましてだ、俺は鉄華団団長のオルガ・イツカだ。俺は仲間の昭弘の弟の昌弘だけでなく、その仲間たち、いやヒューマンデブリと呼ばれるお前達だからこそ、仲間として歓迎して迎える!だから俺たちと一緒に仕事しねえか?』

 

 簡潔なメッセージであったが、そこに映るオルガとそれを囲むヒューマンデブリ達、年少の団員達の楽しげな笑顔に、ブルワーズのヒューマンデブリ達は衝撃を受ける。

 

 『なあ、兄貴。俺も俺達もあそこにいけるのか?』

 『そうだ。そこに俺もお前も、そしてお前の仲間達もこれるんだ。だから俺と来い、昌弘!』

 『…俺は行く、兄貴!俺をあそこに連れて行ってくれ!皆と一緒に!』

 『ああ、昌弘。俺達はまた一緒だ』

 『昭弘、昌弘!気をつけな!敵が近づいてる!』

 

 涙声で昭弘の言葉を受け入れた昌弘と静かに涙を流す昭弘に、アミダが警戒の言葉を発する。

 

 『よおし、そこのお前!そいつをそのまま抑えとけ!』

 

 三日月のバルバトスに追われた、クダルのグシオンがいつの間にかこの宙域に侵入し昭弘と昌弘の二人の機体をと攻撃範囲内に捕らえていたのだ。

 ガンダムフレームの機動力に、説得に全神経を注いでいた昭弘も説得を受け入れて放心状態にあった昌弘も、咄嗟の対応が出来ず、気がつけばもはやグシオンの振り上げたハンマーが目前に迫っていた。

 

 が二機の乗るMSは横合いから飛び出したマン・ロディのタックルにより、ハンマーの軌道から逃れた。

 そして、その代わりにタックルをしたマン・ロディのコクピットに、グシオンのハンマーは炸裂した。

 

 『ビトー!!』

 

 昌弘の悲痛な叫びが、デブリの海に響き渡った。

 

 




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 映像でわかるということは強いですね。

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