歳星にて限りなく厄祭戦当時の姿に復元されたバルバトスを搭載した、武装長距離輸送機クタン参型はイサリビとハンマーヘッドに合流すべく宇宙の海を高速で航行中に、そのイサリビからの緊急通信を拾う。
哨戒に出ていた昭弘の乗る方天画が所属不明のMS三機に襲撃された事を受け、イサリビとハンマーヘッドの両艦が迎撃と防衛の準備を急いでいる、という内容を受けマルバは、自身の操縦するクタン参型に搭載されているバルバトスに乗る三日月に通信を繋ぐ。
『三日月、イサリビとの合流は後だ。先に昭弘の加勢に行くぜ。いいな?』
『そうだね。この機体なら俺たちのほうが早く駆けつけられる』
『じゃあ、ちっととばすぜ覚悟しとけよ』
『了解』
「お、おい俺を降ろしてからでも」
マルバと三日月の会話を聞いて横から口を出したのは雪之丞である。
現在マルバが操縦するクタン参型の後部座席で、雪之丞はその大柄な体を窮屈そうに屈めアーム操作等を担当する席に着いていた。
「んな暇ねえだろが、まあ落とされねえ様に頑張るから、ちいと我慢しとけ」
「そんなこといってもよお、こういう狭いスペ」
マルバは雪之丞のボヤキを無視して、取り付けられた追加ブースターを最大速へと加速させ襲撃現場へと機体を走らせた。
途中、席の後ろから断続時に雪之丞のうめき声が聞こえてきたが、マルバは無視をして先を急ぐ。
暫く後、バルバトスに乗る三日月から通信が入り、昭弘と襲撃者らの反応を捕らえた旨を告げた。
『三日月、お前の操縦じゃあ俺も雪之丞も体がもたねえから、こっからおめえが先に行ってくれ』
『わかった。顧問は危ないことしなくて良いから』
『よし、クタンのアームが外れたら、好きに動きな』
マルバはそういうと燃料のなくなった追加ブースターを切り離した後に、減速で復活した雪之丞に指示を出し、クタン参型のアームを操作させバルバトスを切り離す。
クタン参型から切り離されたバルバトスは、クタン参型に積まれた唯一の白兵武器である太刀を掴むと自らのスラスターを使い、空間を切り裂くような速度で目的の場所へと飛んでいった。
「おお、はええはええ。エイハブリアクター二基持ちは伊達じゃあねえねあ」
「お、おう…吐きそうだぜ」
感心するマルバの後ろで、顔色を悪くした雪之丞が久しぶりに言葉を発する。
「まあ三日月と昭弘の二人が揃えば、めったな敵にはやられねえだろ」
「そりゃ、そうだな。とイサリビからの通信だぜ」
クタン参型の中で気を抜いた二人にイサリビからの通信が入り、それに応じ通信内容を聞く内に二人ともに顔をしかめる。
「哨戒にタカキがMWに乗って着いていったとなると、話は別だぜ。MWを庇いながらじゃ思うように動けねえな」
「スペースデブリの警戒だけなら、問題なかったろうがな。で、どうするよマルバ」
「どうするもねえわな。雪之丞、もう少し付き合ってもらうぜ」
「せいぜい俺の意識があるうちに、終わらせてくれよ?」
「約束はしねえが、まあ気に留めとくぜ」
少しの間、会話を交わしたマルバと雪之丞はすぐさまタカキのMWを回収するべく、クタン参型を戦闘宙域に向わせる事を決め、機体を加速させた。
やがて、エイハブリアクターの反応を捕らえたマルバは、そちらにクタン参型を向けて暫く後に方天画の機体を視界に捕らえる。
そこには緑色のずんぐりしたMS二機と、その後ろからその親分のような一回り以上でかい緑色の機体の計三機が方天画に迫っているところであった。
片手でMWを抱え、空いた手でハルバードを振り回し牽制する方天画に、追髄する緑の二機の速度は高出力を誇るテイワズフレームの方天画にも劣らない上に二機の連携もうまくとれており、巧妙に方天画の逃走経路を妨害し、戦闘宙域からの逃走を容易ならざるものにしていた。
幸いにも後方にいたでかい緑のMSは、さらに後方からやってきたバルバトスとの交戦に入ったため、方天画はかろうじて持ち堪えていた。
「『阿頼耶識付き』の方天画にあれだけ食いつける、ということは」
「ああ、恐らく敵も使っているな、『阿頼耶識システム』をよお」
「ちっ、厄介そうな敵だな『昭弘、マルバだ!こっちにタカキをよこせ!』」
『顧問!…タカキ許せ』
『エッ』
一瞬の逡巡のみで昭弘は、片手で掴んでいたタカキの乗るMWをクタン参型へと全力で投擲した。
タカキの悲鳴とともに迫るMWをマルバはクタン参型を上手く操り、バルバトスを収納していたスペース内へ納めるように機体を操作する。
収納時に内壁にMWが衝突し、若干の衝撃がクタン参型を襲うも素早く正確に収納アームを操作する雪之丞により、タカキのMWが再び外へと飛び出すことはなかった。
息をついたマルバが見ると、一機の緑のMSが方天画に組み付いたところであり、後少し遅れていたならば、タカキと彼の乗るMWに重大な損傷が生じていたであろうことが予想され、マルバは冷や汗をかく。
『よし、昭弘!タカキは回収した!後は任せるぜ』
『了解です!タカキを頼みます!』
昭弘の乗る方天画は、そのまま緑のMSに組み付いて動きを抑えるとともに、残りの一機にもクタン参型への射線を通さないように上手く位置取りをおこなう。
昭弘の腕と、阿頼耶識、高出力MS方天画の組み合わせでなければ難しい芸当である。
エイハブリアクターのないクタン参型のエネルギー残量を使い尽くす勢いで、マルバは戦闘宙域からの離脱を図った。
方天画と組み付いていない緑のMSが、クタン参型に追いすがろうとするもイサリビのある方向から射撃が行われ、襲撃者側の意図をくじいた。
『昭弘、マルバのおじ様!助けに来たよ!』
『ラフタさんとアジーさんか、すまねえ助かる!』
ラフタの乗る百里につかまった、アジーの百錬の到着により戦況はマルバたちのやや優位へと傾きを見せたのを感じたのか、でかい緑のMSから信号弾が発射され、それを合図に襲撃に来たMSは速やかに撤退していった。
ラフタが昭弘に声を掛けるも、生返事を返すのを横目に見つつ、マルバは三日月へ通信を繋げる。
『ご苦労さん、怪我ないか三日月。あの丸い緑の奴らどれか倒したか?』
『うん大丈夫、これであいつらの一機倒したからまだその辺に浮いてると思う』
『なら、それを回収してからイサリビへ戻ってくれ。できるだけ襲撃者の情報が欲しいからよ』
『了解、アジーとラフタ。どっちか手を貸してくれる?』
太刀を手にしたバルバトスに乗る三日月からの求めに、アジーが応える。
『それなら、アタシがやるよ。ラフタは昭弘連れて艦の警備に戻ってなよ』
『あっうん、そうするね。いこっ昭弘』
『あ、ああ』
『じゃあ俺らはタカキ連れてイサリビへ戻るから、よろしく頼むぜ。後アジーさんもすんませんが三日月を頼みます』
かくして三日月とアジーをその場に残し、残りの者たちは自分達の艦へと帰還を果たした。
クタン参型の回収したMWに乗っていたタカキは、気を失っていたが目立った外傷はなく、昭弘と三日月の乗る機体の装甲に多少の損壊が認められたが、当人らに大きな怪我はなかった。
だが念のため、とオルガに医療チェックを受けるように言われたマルバら五人はタカキを肩に担いだお米様抱っこしたオルガを先頭に医務室へと向かった。
医務室でオルガらを出迎えた音羽・テレジアは、マルバと雪之丞との挨拶もそこそこにタカキの診察を始める。
「失神してるだけだね。脳に後遺症の心配はないよ」
いくつかの機械での手際よい音羽の診断結果に、一同は安堵のため息を漏らす。
「ただ緊張と疲労が大分溜まってたみたいだね。自分のペースを掴めない張り切りすぎた新米がよくなりやすい奴みたいだけど、心当たりはあるかい団長さん」
「…最近、火星の家族からのメールが来たんで、それで色々と張り切ってたんじゃないかと」
「なら、そこらの管理もきっちりしときな。人の精神力も肉体あってのもんだからね、程ほどにしとかないと壊れちまうよ」
「はい、助言ありがとうございます。テレジアさん」
「俺もその辺甘くみてましたんで、すいやせん」
音羽の強めの助言に、オルガとマルバは素直に謝罪の言葉を返した。
タカキをそのままベッドに寝かせて安静にした後、戦闘に遭遇したマルバたちも簡単な身体チェックを行い、何れも異常無しと判断した音羽は昭弘に向き直る。
「で、昭弘。何かあったかい?表情が暗いし、動きも硬いよ。そんなんじゃ次の時に無事に帰ってこれないよ」
音羽の真剣な表情の指摘に、昭弘は一瞬言葉を失い今まで見たことの無い程に逡巡した後に、搾り出すように呟いた。
「襲撃してきた緑のMS,その一つに、俺の弟、昌弘が乗っていやがったんです…」
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ガチムチナイト、人生の岐路に立つ。