補足 鉄雄・ブランドン;20台後半の童顔黒髪の青年。
細かい機械操作の腕は鉄華団一の持ち主。
元々はCGS弐番組に所属していたが、とある事件から弐番組が壊
滅し一軍に編入される。
失意の中、参番組をまとめるオルガの姿に心酔し、彼らの側に立つ
事を心に誓い再起する。
コーラル・コンラッドの起こしたシャトル人質事件より数時間後、マルバたちは無事ビスケットたちの操る強襲装甲艦『イサリビ』へと到着した。
「皆無事でよかったよ」
「心配掛けたなビスケット」
「他の艦からの途切れ途切れの通信で、ギャラルホルンのMS同士が戦闘しているって情報を聞いたときは、てっきり積荷のアレを使ったのかとひやひやしたよ」
「いざとなりゃ、使っていたがよ。ミカと顧問のお陰でそこまでの事にはならなかったぜ」
イサリビに到着しオルガは鉄華団の面々に艦での役割を割り当て、各自が作業に取り掛かるのを確認した後に、マルバを始めとする鉄華団幹部らとクーデリアらを連れブリッジへと向かいビスケットとの再会を果たすと、シャトルでの出来事を説明した。
「でも、僕らがクーデリアさんたちを連れていると知ったら、ギャラルホルンの連中が追ってくるんじゃないの?イサリビの登録した船員名簿とか調べられたらばれるんじゃないかな?」
「ああ、そっちは心配ねえぜビスケットよう、元からマルバ・アーケイでは登録しちゃいねえからよ」
「えっ、どういうことですか?」
「昔、俺は傭兵でなあ、あちこちと飛び回ってる時に別の名前を手に入れてな。そっちで船員登録してあんだよ。よく見てみな『マルバ・アーケイ』じゃなく『カリー・ジャワナン』てのがいるはずだぜ」
それを聞いたビスケットは、慌ててタブレットを操作し船員名簿を確認する。
「本当ですね。マルバ・アーケイの名前は無くて、代わりにカリー・ジャワナンで登録されてる」
「だろ?つまりギャラルホルンはまだ火星にいるはずの『マルバ・アーケイ』の捜索に必死こいて人手をまわさなけりゃならねえってことさ。その間に俺らはタービンズと合流すりゃいいってわけだ」
「うわあ、俺ギャラルホルンに少し同情するぜ」
「おいおいユージン、俺は使える手を使っただけだぜ。これもギャラルホルンの穴だらけ統治のお陰だからよ。それでギャラルホルンが苦労するんだから自業自得ってえやつさ」
そういって悪い笑顔を見せるマルバの言葉に偽りは無く、今の火星で孤児にヒューマンデブリ、不法入出国者などが入り乱れ、正確な人口など測れない状態にあるのは 一部の特権階級者たち以外の治安を放置していたギャラルホルンと地球側の姿勢による賜物であるのだ。
「問題は、どうやって火星にいるデクスターに連絡を取るかだな、なあオルガ団長」
「ですね、あんな事件に巻き込まれるなんて予想はできませんから」
「そうか、この艦からじゃ短距離通信しかできないね」
「そりゃ、タービンズさんとこの船からうちの本部へ連絡するしかねえんじゃないか?」
「普通ならユージンのいうとおりで、良いんだけどね。こういう予定と違う事があったら、なるべく早く動いておかないと後手後手に回ると僕らには損しかないんだ」
「でもよ、ビスケット。他に方法がねえんじゃ」
「あの」
マルバらが、火星への迅速な連絡方法がないかを話し合っているところに、フミタンが声をかける。
「一つ方法がありますが、よろしければ試しましょうか?」
「そりゃありがてえけど、できるんですかいアドモスさん」
「ええ、すみません席を失礼」
そう声を掛けて、フミタンはそれまで座っていた褐色の小年と席を代わってもらい、暫く操作をする。
「これで大丈夫です」
「すげえな、どうやったんだ?」
「正規航行ルートを示すアリアドネのネットワークを利用しました。毎回暗号通信でランダム化すればほぼ盗聴の類の心配はありません」
「すごいわフミタン!いつの間にそんなことを」
「…お嬢様の指示にある連絡を取るのにどうしても必要でしたので」
「あら…あははは」
クーデリア・藍那・バーンスタインは優秀な頭脳による判断力に不屈の精神力、可憐な容姿を持つ才女だが、細々とした調整や身の回りのことについてはかなり残念な性能であった。
平静なフミタンの返しになんとなく事情を察した一同を代表をし、マルバは話題を変えることにした。
「お、おう、それじゃ、オメエやり方を教えてもらっておけ」
「判りました、チャド・チャダーンです」
「フミタン・アドモスです。よろしく」
「へえ、そんな名前だったんだ」
なおブリッジにいた者たちの一部が、褐色の少年ことチャドの名前を改めて知った瞬間でもあることは秘密である。
結果として通信に関しては操作が難しいため、クーデリアの許可を得てメインオペレーターをフミタン、サブをチャドが担当することを決めたオルガは、火星のデクスターらへの連絡はビスケットに一任した後、クーデリアとフミタンをイサリビ内に用意した船室へと案内する事にした。
「どうもしょっぱなから苦労掛けました。お詫びします」
「いえ、アレは団長さん達のせいではないですから。お気になさらないで」
道中で船内施設を案内しつつ、申し訳なさそうな顔をしたオルガの謝罪を、クーデリアは鷹揚に受け入れる。
「ありがとうございます。で、もう一つ謝らなきゃいけない事があるんです」
「?なんのことでしょう」
「そいつは俺から、お話しますんで」
目的の部屋の前で今しがた到着したオルガたちを、マルバが待っていた。
シャトルからイサリビへと皆が乗り移る時に、最後まで残ったオルガとマルバの間での話し合いで、各施設を案内する口実で回り道をしていたオルガたちを、最短のルートでマルバが追い抜き部屋の前で待機する事にしていたのだ。
「あまり他人に聞かせられるもんじゃねえんで、中で話しましょうや」
マルバの口調からかなりの重要な内容であると察した、クーデリアはフミタンの方を一度振り返ると意を決してうなずき室内へと誘われた。
その部屋の中でマルバの口から、今回のCGSへのギャラルホルン襲撃に関するマルバの知る情報をクーデリアとフミタンに説明を行った。
「そうですか、やはりお父様は私を始末しようとそこまで…」
並みの少女ならば、泣き叫んで錯乱してもおかしくない情報であるが、青ざめた表情ながらクーデリアは冷静に情報を受け止めた。
「思ったより、取り乱さないあたり予想してましたか?」
「ええ、最悪に類する予想ですが。『あの人』がする事にしてはおかしいとは思ってましたので、覚悟だけはしておりました」
「お嬢様…」
クーデリアの返答に悲痛な顔をするフミタンと、感心した表情のオルガをよそにマルバは話を続けることにする。
「でまあ、今後の話ですがね。今回の地球行きでまとめる話がまとまったとしやしょうか、どうなると思います?」
「それは、火星の人たちが少しでも豊かになる…」
「そうなる前に派手なことになるでしょうな。クーデリアさんのもたらす権利の奪い合いで、それこそ火星全体を巻き込む奪い合いですぜ」
「そんな!それは交渉で決めるべきことです!」
「甘いですぜ。食うや食わずの火星の連中がお宝を目の前にして大人しく話し合いで解決させる?そんなのはお互いの力が消耗しきって、手打ちにする気にならねえ限りはあり得やせん。そうなっても恨みつらみは残っちまうんで、また力を取り戻せば奪い合いの再開って寸法でしょうなあ」
クーデリアはその言葉にフミタンとオルガの顔を交互に見るも、彼らの顔にマルバの言葉を否定や非難するものは読み取れなかった。
「失礼ですが、お嬢様。私もそうなる可能性が一番高いと思います」
「そんな…」
自分が売られた事実よりもよほど傷ついた表情になるクーデリアに、マルバは幾分か柔らかい口調で語りかける。
「でまあそんな事態を防ぐ手、ないわけじゃあねえです。まあギャラルホルンの連中みたいな手で、癪には触りますがね」
「…つまり、誰かの大きな力でそういう揉め事をおさえると?でもそんな力は」
「無論、俺達もありませんぜ。ありませんが、一つそういう力のある組織を知っていますぜ」
「それは、まさか、今から行くテイワズ?」
理解の早いクーデリアにマルバは笑みを浮かべる。
「遠い地球のギャラルホルンより、近くの木星のテイワズ。悪い手でもねえでしょうし、まだ火星の得になるように話は付けやすいでしょうぜ」
「確かに有効でしょうが、彼らとて火星の人たちとは立場が違うとなると、ただ搾取されるものが変わるだけになりませんか?」
「そこで、俺らの出番ですな。俺らがテイワズ傘下になれば、その話にもいっちょ噛みする事もできるでしょう。で後は相談になりますがね」
疑問を浮かべるクーデリアに、マルバから促されたオルガがうなずき、片目をつぶりながら口を開く。
「クーデリア、この仕事が終わっても俺らと一緒に仕事を続けねえか?」
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オルフェンズの二次創作が増えてきて嬉しい事です。