マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。

書くほどに文字数が増えてすみません。





これで後は進むだけ

 「私は、諦めるわけには参りません。鉄華団の皆様、私を地球まで連れて行ってください」

 

 結論として、クーデリアは地球行きを諦めなかった。

 追加予算についても、出させるあてがあるとのことで問題は無いそうだ。

 

 「で、そのあてがノブリス・ゴルドンてわけか」

 「しゃ、じゃなくて顧問。知ってるんですか?」

 「ああ、超のつく金持ちだな。武器からおしめまで、扱わないものが無いほどの大商人様だ」

 「なら、金については心配ねえすね。やったなオルガ!」

 

 鉄華団に移行した翌日の朝、社長室にて地球行きの打ち合わせがおこなわれていた。

 参加者はオルガとビスケット、マルバにデクスターに加え、副団長に就任したユージンの五人である。

 

 「まあな、だが油断はするなよ」

 「どういうことすか?」

 「もつ金が増えるほど人はひとでなしになりやすいってこった。肝に銘じておけ、ノブリスは俺らの味方じゃねえ、自分の利益にならないと思われたら、俺らはどこぞに売り飛ばされるだろうよ」

 「隙を見せるな、自分の価値を示し続けろ、ってことすね」

 「そういうこった、まあ今すぐはどうという事はねえだろうが、用心はしておけよオルガ団長」

 「うす」

 

 自分の経験からの忠告をしたマルバの言葉に、オルガはうなずいた。

 

 「となると問題は地球までの案内人、ということか」

 「そうですね、ギャラルホルンが介入してきた以上は正規ルートは使えないですね」

 「じゃあ、どうすんだビスケット」

 「民間業者で地球までの独自ルートをもっていて、信用できるところとなるとマルバ顧問の知り合いにお願いするのが一番確実だろうね」

 「…タービンズ、確かにテイワズ直系のあそこなら信用も実績もあるな。どうすか、顧問」

 「おう、連絡はいつでもとれるぜ。後はまあ相手の条件次第だな」

 

 二年前から続く取引で、互いの信用にある程度の実績をつけているマルバの返事に、オルガは片目をつぶり言葉を続ける。

 

 「助かります、ついでというわけじゃあないですが、俺らも入れませんかね、そのテイワズの傘下に」

 「おいおい、オルガマジでいってんのか!?」

 「俺はマジだぜ、ユージン。考えてみろよ、俺らはあのギャラルホルンと事を構えちまった。加えてこれからお嬢さんを地球へ連れて行くとなれば、今後もギャラルホルンの連中との衝突は避けられねえぜ」

 「まあ、オルガの言う通りテイワズ傘下となれば、ギャラルホルンもそう簡単には手出しできなくなるだろうけど、オルガはそれでいいのかい?」

 

 ビスケットがオルガに問うのは、いくつかの意味がある。

 テイワズは表向きは複合企業であるが、実体はマフィアともヤクザとも呼ばれる地球由来の暴力組織であり、それに加われば当然母体組織であるテイワズへの少なくない上納金を納める必要が生じる。

 加えて、独立組織でなくなれば鉄華団の行動にも様々な制限が生じる事もあるだろう。

 それらを含めて、ビスケットはオルガに問い、オルガもビスケットに答えを返す。

 

 「かまわねえよ、ビスケットそれにユージンよ、俺らの相手取るのはあのギャラルホルンだぜ?多少の制限があろうと勝ちの目は多くしておくべきだ。それに、テイワズに入ってそこでのしあがったほうが面白いだろ?」

 「まったく、いきなり無茶な事を言うけど、間違いはないね」

 「おう!成る程な、そう考えれば悪い事はねえな!」

 

 苦笑するビスケットと笑顔で応じるユージンの了承に、オルガも笑顔を見せてマルバに向き直る。

 

 「そういうわけで、一つ頼みますよ顧問。鉄華団のテイワズ入り」

 「馬鹿野郎、簡単に言ってくれるけどな、交渉するのは俺だぞ?」

 「顧問なら、何とか出来ますって」

 「へっ、お望みならやってやるがよ、まずはビジネスの話をつけてからだぜ。それから面談でナシを通す。いいな?」

 

 渋い顔をしたマルバの答えに、一同は了承のうなずきを返したのであった。

 

 「ああビスケット君、そろそろ農場の手伝いに行く時間じゃないかな」

 「あ、もうそんな時間か、じゃあ皆悪いけど僕とデクスターさんはちょっと出てくるよ」

 「おう、ココの食事と燃料もかかってるからな、頼むぜ」

 

 CGSはビスケットの祖母やその周辺で経営している農場と収穫の手伝いに加え、基地内で使うバイオ燃料の原料及び食材としての収穫物の買取りをおこなっており、その仕事は鉄華団にも引き継がれていた。

 金銭的な収入としては然程ではないものの、人手の不足がちな農場の需要は途切れることはなく、消費する燃料や食料の安価な供給先としての地位を確立した仕事先である。

 また、一部社員には退職後に農作業従事を希望するものもおり、その予行演習と受け入れ先にもなりつつあった。

 

 「じゃあ、残った者たちで後片付けと地球行きの準備だな。また夕飯後に集合だ、いいな?」

 

 オルガの指示に従い、その場にいた者たちは各自の仕事へと動き出した。

 

 

 

 

 「で、ウチに話もって来たってか?また面白いこと始めたな、マルバ社長」

 「予想外にでかい獲物が釣れちまったんで、もう大慌てですぜ。ああ後これからは顧問でお願いします」

 

 マルバの私室での暗号回線をつかった名瀬との映像付き通話は、比較的穏当に進んでいた。

 

 「鉄華団だったか、また思い切ったもんだ」

 「ギャラルホルンと事を構えちまった以上、CGSの看板は出しておけねえ。ならいっそ新しく立ち上げたほうが早かったってことですよ」

 「だからってまだガキのオルガだっけか、そいつに跡目を譲るこたあなかったんじゃねえか」

 

 瞬間、名瀬の目が鋭くなるもマルバに動揺は無い。

 

 「ウチのオルガはそれだけの器がある、俺はそう思ったからそうしただけでさあ。まあ当面は俺も含めて皆で世話焼くつもりですがね」

 「そうかい、世の中美味い餌だけぶら下げてひでえところへ進ませる奴もいるからな、おまえさんがそうじゃねえなら問題はねえさ」

 「まあ、名瀬さんのところで断られたら、ひでえことになりそうですがね」

 「安心しな、仕事の件はわかったしもう一つの件もまあ選択としてはわかった。だが、それなりの手土産はあるんだろうな?俺が親父に口を聞くにしても、手ぶらってわけにはいかねえぜ?」

 「もう情報はもってるでしょうに…それ以外にも色々と用意はしてますぜ、まあ詳しくは会ってからにしましょうや。いつがいいですかね」

 「そうだな…火星で会うのはヤバイから、五日後に今から送信するポイントで会おうや。お前らも宇宙船はもっているんだったな」

 「ええ、名称は恐らく変わるでしょうが、エイハブリアクターの波は変わらんですからな、うちの船なのはわかるでしょう」

 「じゃあ、そういうことでいいな。土産は期待しておくぜ」

 

 合流ポイントのデータを受け取り、通信を終えたマルバは大きく息をつく。

 ひとまず、地球行きの案内に関しての問題は片付き時間を確認するマルバは予想以上に時間がたっていた事に気がつき、緊張していた事に気がつき苦笑する。

 

 「ったく、そう簡単に楽は出来ねえなあ」

 

 一人つぶやきつつ、屋外の食堂施設へとマルバは向かう。

 鉄華団になって所属員は仕事のない限りは同じ時間と場所で食事を、という方針に変わったからであり、暫くは宇宙にいくことになるならばなるべく日の光を浴びていようと、マルバは考えたからだ。

 建物の外に出たマルバは日没前の強い日差しに少し目が眩む。

 やがて目が馴染んだ頃に目に入ったのは、施設の壁になにかを書き終えたライド・マッスとそれを見上げているオルガだった。

 

 「そんなところでどうした、団長よう」

 「ああ、しゃ、じゃねえな、顧問。今ライドに頼んでた鉄華団のシンボルが書き上がったところです」

 「ほう」

 

 白い塗料で書かれたそれはシンボルとしての高い完成度があり、マルバは感心する。

 

 「上手いもんだな。ありゃあ、華かなにかか?」

 「ええ、俺らの鉄華団の名前をこのシンボルと一緒に、世間に広めてやりますよ」

 「その心意気は買うがよ、無理はすんなよ。とりあえずの一歩としてタービンズに了解は取れたぜ。五日後に合流だから、準備を急がせな」

 「ありがとうございます、この仕事成功させて見せますよ」

 

 オルガとマルバが笑みを浮かべて語り合う内に、他の者たちがシンボルに気がつき集まり始める。

 鉄華団がまた一歩、その歩みを始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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