マルバ・アーケイ、再起する   作:なみ高志

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次話投稿します。


補足 デクスター:本名デクスター・キュラスター。
         原作ではCGS経理担当の一軍で比較的善良な眼鏡の人。
         今作では並狙撃手として並み程度の腕前と、優秀な情報分析力をもつ。
         ビスケットと原作より深い付き合いをしている。




くだらない、そして大事な事

 襲撃から明けて翌朝、CGSの社長室にてマルバとルイス、雪之丞の三人は纏まった被害状況について話し合っていた。

 

 「死者は一軍が三十二名、参番組が十四名。重傷者は一軍がハエダ含む十名に参番組が二十名、整備班と教導隊に一名ずつだね。三日月は気絶してた以外は軽傷程度だね」

 「そうか、三日月とバルバトスがいなかったらと思うと、ぞっとするぜ」

 「そうだね、MSがなければ僕らが全滅の可能性もあったはずだよ」

 「重傷者は医療ベッドを使えば何とかなるとして、機材の方はどうだ?雪之丞」

 「そうだな、修理不能なのが四割、ギャラルホルンの連中から分捕った分を合わせれば、まあ九割がたなんとかなんだろうが、時間はかかるぜ。後MS二機のうち一機は予備パーツとして分解するぜ」

 

 結果としては、ギャラルホルンの中隊一つと当たったにしては損害は少ないといえるものであり、物的損害については、鹵獲したMSを売却なりすれば補って余りある状況。

 が、これはあくまで今回の襲撃の結果である。

 

 「だが問題はここからだね。ギャラルホルンもだけど、あのクソ野郎が何もしてこないはずないだろう」

 

 ルイスの言葉に、マルバと雪之丞はうなずく。

 ギャラルホルンを敵に回したことが知られれば、取引相手のなかには恐れをなして取引を中止してくる所がでるだろうし、ルイスの言うあのクソ野郎こと、ノーマン・バーンスタインは吐き気がする悪党だが無能ではない。

 予定ではギャラルホルンがCGSごと処分していた、自身が娘を売った証拠を握るマルバたちを消し去るために、合法非合法問わず何らかの手を打ってくるだろう。

 

 「まあ、ギャラルホルンの方は中隊規模が全滅に近い被害を出しちゃったんだし、すぐには襲っては来ないだろうけどね」

 「だな、いっくらあいつらでも、すぐさま動けるはずもねえだろうよ」

 「それに取引先なら、MWバトル関係は大丈夫だろ。テイワズ絡みの件にギャラルホルンもあの野郎もうかつには手を出してこねえさ」

 

 加えて、今マルバたちの手元にクーデリアという鬼札が存在している。

 切り方一つで、どのような展開にもなりうる危ういが強力なカードだ。

 

 「となるとだ。あいつらがうごかねえ内に先手を取る必要があるわな」

 「何か、いいアイデアでもあるのかい?マルバ」

 「前におまえらに相談してた件、実行しようじゃねえか」

 「おいおい、まだ早すぎねえか?」

 「いや、雪之丞。逆に今なら一軍と参番組も纏まって同じ敵を相手にした直後だし、抵抗が少ないはずだよ」

 「それによ、今なら俺らであいつらをサポートしてやれば、独り立ちまでなんとかできるんじゃねえか?」

 「ふむ…確かにそれならありだな」

 「よし、じゃあ例の件をあいつらに飲ませるぜ」

 

 マルバの言葉に、残る二人はうなずいて了承した。

 

 

 

 その日の夕方、ルイスに呼ばれたオルガ、昭弘、ハエダが社長室にやって来る。

 利き腕を手巾で吊り固定したハエダを、横目でチラチラと見るオルガらを出迎えたのは、マルバ、ルイス、雪之丞にデクスターを加えた四名であった。

 

 「おう、ご苦労さん。今日は重大な決定をお前らに伝えたくてな」

 

 新たに入ってきた三人の顔を見ると、マルバはにやりと笑う。

 

 「まずは結論からいうとだ。俺、マルバ・アーケイはCGS社長職を引退、CGSの全業務と全資産に加えて私財の一部を後継者を指名して、譲渡することにしたぜ」

 

 その言葉にオルガら三人は驚きの表情を浮かべる。

 

 「随分急な話ですね。で、誰が後を継ぐんですか社長、ルイスさんすか?」

 「お前だよ、オルガ・イツカ。お前が後継者だ」

 「えっ、いや。そりゃ無茶じゃ」

 「まあまあ、僕から説明するよ」

 

 マルバの言葉に驚くオルガをルイスが執り成し、CGSの現状を説明する。

 

 「まあ、そんなわけでね。今のままCGSを続けるのは詰みが見えたチェスをするようなものなのさ。でゲームとプレイヤーを変えて、一から始めようって事さ」

 「はあ、まあ理由はわかりましたけど、何で俺なんすか?」

 

 ルイスの説明に納得はしたオルガだが、自身が後継者といわれたことにはまだ疑問を残していた。

 

 「疑問はもっともだがよ、俺らの中で誰かと言われりゃおめえしかいねえよ,オルガ。おめえには人を惹きつけて引っ張っていく力があんだよ」

 「そういうこと、それにここにいる僕ら四人が、オルガをきっちりサポートするからね。その間にきっちり足場を固めればいいよ」

 

 オルガの疑問に雪之丞とルイスが応じ、デクスターも笑顔でうなずいた。

 

 「まあ、そんなわけだ。この話、受けてくれや、オルガ・イツカ」

 「…基本的に俺らのやり方に従ってくれるんすね」

 「意見と小言はいうけどな、最終決定はお前のもんだぜ」

 「わかりました、謹んで継がせてもらいます社長」

 

 オルガは真剣な表情でマルバの要請を了承し、明日の朝に引継ぎの旨を社員全員に知らせる事とその前にオルガが幹部候補とするもの数名へ話を通しておく事で決め、その場は解散となった。

 

 「おい、オルガ」

 

 その帰りの通路で、終始無言であったハエダがオルガに声をかけた。

 

 「夜、慰霊碑前まで顔を貸せ。サシできっちりしときたい事がある」

 「いいすよ、俺もアンタにはきっちりしときたいすから」

 「逃げんなよ」

 「あんたこそな」

 

 それだけ言葉を交わし、オルガとハエダはその場で別れた。

 

 

 

 

 

 

 夜中、CGSの慰霊碑が建つ裏口前の広場で、オルガとハエダは対峙する。

 お互いに相手から視線をそらさずに睨みあう。

 

 「オルガ、俺は昔からお前が気にいらねえ。ガキの癖にいきがりやがって」

 「奇遇だな、ハエダのおっさん。俺も昔からあんたの偉そうな態度がむかついてたんだ」

 「なら、こいよ。ガキの相手なんぞ片手で充分だ!」

 「そうか、よっ!」

 

 言葉が終わるか終わらないか之タイミングで、オルガが素早くハエダに近づき、その拳でハエダの顔面をとらえる。

 のけぞったハエダも、体勢を立て直すとお返しとばかりに、無事な方の拳でオルガのボディに拳をねじ込んだ。

 その後も両者は退かずにお互いの体を殴り、蹴り、を繰り返し、互いの体にダメージの刻み会いを続け、お互いに顔がはれ上がるも、どちらも一歩も退かない。

 やがて、よろよろとしだした足どりで両者はお互いの距離を縮めると、互いの襟元を掴み取り互いの額に頭突きを食らわせあうと、そのまま二人とも地面へと倒れこんだ。

 それがオルガとハエダのどちらとも、最後の力を振り絞ったものだったのか、どちらもその場から立ち上がる気配は無かった。

 

 「オラ、どうしたオルガ!さっさとかかってこいや!」

 「うるせえ!てめえからかかってこいってんだ!」

 「ばかやろう!てめえのほうが体力あんだから、そっちからこいや!」

 「おっさんのほうが、ガタイあんだから、そっちからこいよ!」

 

 お互いに持ち上がらない体をよそに、顔だけ突き合わせて罵倒しあっていたが、やがてハエダが眼をそらしため息をついた。

 

 「ハア、わかったよ!俺の負けだ!」

 「何だよ、ガキに使われていいってか?」

 「ああ、てめえのしぶとさなら、まあ何とかなんだろ。せいぜい上手く俺らを使いこなしてみろや」

 「おお、そうさせてもらうぜ。末永くこきつかってやるぜ」

 「へっ、いってろよ」

 「…後よ、あの時助けてくれてありがとな」

 「ふん、今度酒でもおごれ」

 

 そこまで会話を交わした後に、お互いのボコボコになった顔を見て、両者は笑いあった。

 その光景を見たトレーニング上がりの三日月と昭弘は、不思議そうな顔はしたものの険悪な雰囲気もないオルガとハエダの様子に、そのまま通り過ぎていった。

 

 

 翌朝、緊急集合の合図とともに集められたCGS社員の皆に、マルバの口からCGSの解散とオルガを代表とした新組織の設立を告げられた。

 

 「今日から俺達は『鉄華団』だ!決して散らない鉄の華のお前らを、俺が束ねて率いる!」

 

 はれ上がった顔をしながらも、オルガは強い意志の瞳で元CGSの皆を見つめて宣言したのであった。

 

 

 




ご意見ご感想、誤字脱字のご指摘、評価等ありましたらお願いします。

ギャラルホルン側の描写は、基本カットしていく予定。

描写するとしたら、幕間になるかと思います。





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