魔導国の日常【完結】   作:ノイラーテム

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狙いによる転換

「久々の町中だけど、気が重いなぁ」

 パンドラズアクターを呼びだし、面倒くさい業務を押し付け…。

 じゃなくて、任せて居た冒険者たちとの会話を聞きだしたアインズは、入れ替わって久々の自由を満喫していた。

 その時に魔法を覚える労力やタレントの事を詳細に確認したのだが、これが芳しく無い。

「悪い知らせが無いのはいいけど、まさか良い知らせも無いとは」

 齟齬をきたす様な深い会話や、独特の挨拶をして無いのは知っていたが…。

 そういう余計な事が無かった代わりに、意味がありそうな情報自体が無かったのだ。

「失敗した。こんなことなら、アインザック達へのアプローチを考えさせるんだった。…適当に考えるか」

 とか思っていると、つい、昔の感覚で冒険者ギルドに向かっていた。

 

 お陰さまで相談内容を考える間も無く、貴賓室まで通される。

(アンデッドの普及に関しては目に見える成果さえあれば、実績と時間の問題かな? なら、ここは魔法やタレントの学習に関して尋ねるべきだ)

 とはいえ、数日後の会合に向けてラケシルとの打ち合わせ中らしく、僅かばかりだが、考えを整理する時間が取れた。

 まず尋ねるべき内容を1つに絞ることにする。

(本当はカルネ村やリザードマンの村付近にチェックポイント造る話もしたいんだけど、アインズとして命じるかモモンとして誘導した方がいいか悩むんだよな)

 そうしてる間に時間が過ぎ、受付嬢がすまなさそうに頭を下げて呼びに来た。

 規定通りに時間掛けてくれても良いのに…とは思うが、あちらとしてもモモンを入れて三人で話したいのだろう。

 

(仕方無い。自業自得だし…自分をダシに使うか)

 魔導王としての政策の為に、魔導王への脅威を語る。

 なんという矛盾だろうか? もし仮に心を許してくれているのであれば、悪戯に脅威を説くだけなのに。

 その辺のフォローも自分で…いや、何してんの俺?

「お久しぶりです組合長。それにラケシル殿も」

「良く戻って来てくれたモモン殿。私と君との仲じゃないか、もっと気を楽にしてくれたまえ」

 馬鹿馬鹿しいマッチポンプになるが、考える暇も無い。

 いつものやり取りをしながら、一度アインズとしての自分の脅威を語りつつ、その脅威が無い事を確認する為にしようと決めた。

「申し訳ありませんが、相手や立ち場で話し方を変えたりはしませんので。何度目のやり取りか忘れましたが、気にしないでください」

「そうだそうだ。毎度同じ流れで飽きて来た所だ。この次は……我が家と思って寛いでくれたまえ…だっけか?」

「ラケシル…そういう話では無いのだがな」

 他愛ないやり取りに、政務の堅苦しさが抜けて行く様な気分を感じる。

 とはいえあまりに寛いでいたら誘導できないので、ここは切り込んで行こうと、アインズは話し始めた。

 

「私が居ない間に変わりはありましたか? 目に見えて変化は無い様ですが」 

「モモン殿が出るほどの用件では無かったろうから、気にはなるだろうが…。今のところ特には無いな」

 愚痴を言おうとするアインザックを制する為にアインズは首を振った。

 ここで愚痴に乗っては、せっかく誘導し始めた話が瓦解してしまう。

「ある種、私も望んで居たので問題ありません」

 悪いと知りながら、強引に持って行く。

 怪訝な顔をするアインザックに矢継ぎ早に言葉を浴びせる。

「私が居る間は対外的にも無茶はしないでしょうが、離れて居る間も本当に何もしないのか、信義を守って本当に何もしないのかを確認したいところですから」

「なるほど、言われてみればその通りだ。とはいえ、以前と変わらないのは同じだよ。魔導王陛下はともかく、側近たちの方は取りつく島も無い」

 痛くも無い腹を探り合って、友好を結ぶ相手との争いは避けたい。

 まあ頷くだろうなとは思いつつ、アインズは自分への評価が一定数あるのを感じた。

 もっとも、ゴンドのように親しみを窺わせる程では無いし、モモンとしての自分へ向ける様な感覚ではないのが残念だ。

「ともあれ今後も遠ざけられたり、こちらからも遠ざかって様子を窺う事はあり得るでしょう。物は相談なのですがタレントや魔法で調整できませんかね?」

「魔法で陛下たちを出し抜くのは不可能に近いと思うが…どうなんだラケシル?」

「内容にもよるが協力はさせてもらおう」

 兜の奥でニヤリとしつつ、アインズは誘導に成功した事に満足を覚える。

 心の中でガッツポーズを決めながら、必要最低限の事を語り始めた。

 

「私はタレントや魔法の習得には詳しく無いのですが、『伝言(メッセージ)』を使える術者を増やしたり、あるいは記録を残したり伝達するようなタレントの使い手確保などは無理でしょうか?」

「習得…。この場合は新たに伝達要員を獲得したい。という事でいいかな?」

 流石にラケシルはエ・ランテルで魔術師のトップだった事もあり(今でもそうではあるが)、言いたいことを即座に理解した。

 その上で、齟齬が無いかどうかを確認してくれるのでやり易い。

「正直な話、今のまま平穏なら痛くも無い腹を探り合うのは止めにしたい。大過無いか急いで戻るべきか確認できればと」

 アインズの言葉にアインザックがしみじみと頷きつつも、ある種の否定の言葉を入れた。

「モモン殿には言って無かったが、『伝言(メッセージ)』は少し欠点がある。ただ、お互いに探り合って、不信を募らせるというのは私も避けたいな。ただ、タレント発見は難しいんじゃ無かったか?」

「ああ。精神系の第三位階にあるが、使い手は少なく、しかもタレントの方が曲者だ」

 伝言が持つ、誤情報が入り込む欠点を指摘しつつも、アインザックは融和そのものには肯定を示す。

 ラケシルは二人の視線を受けて、軽く考えを整理した後で説明を始める。

(第三位階か…。ユグドラシルでは低いが、こちらの住人だとほぼ最上位だから、そのままだと確保が難しいな…)

 アインズはしっかりと小耳に挟みつつ話題を邪魔しないように、口を挟まないでおく。

 

「例えばオレ達の知り合いだとレイバーだな。仲間に一人欲しい能力だったが…」

「そういえばレイバーは判り易いタレントだったな。だが、その彼でも魔術師に成れる適正を持って居なかった。ままならん物だ」

「…御二人の知り合いのレイバーという方は、魔術師向きのタレントだったのですか?」

 二人の会話を聞きながら、アインズは思わず口を出してしまった。

 つい最近紹介されたばかりだし、行政官に成れるくらいだ頭脳には問題無いだろうに? という疑問と、どんなタレントがあるのか気に成ったからだ。

「どう言ったら良いのかな? 彼は距離感がつかめると言うか、高位の魔法なら詳細に可能なのだろうが、それを漠然ではあっても魔力消費無しに判断出来るんだ。ただ、体力的にもレンジャーには向かない」

「同じ様に魔術師の適正が無いから、第一位階も難しかった」

「魔力消費無しにできるのは便利そうですが、魔術師や盗賊の才能が無いのが残念ですね。聞いた感じだと戦士の方もアレでしょうし」

 この世界での魔術の才を決める基礎能力値が、仮に知力と魔力として、魔力の方とMPが低いのか…。

 それは致命的だなーとか思いつつ、ニニャが自分の事を幸運だったと言ったのを思い出す。

 彼女は魔法の習得が早いと言うタレントと、魔法の才能を同時に有していたが、そんな例はごく稀少なのだろう。

 

 数多くのタレント持ちを見て来た筈の、彼ら冒険者ギルドに魔術師ギルドの長たちとしても、そんな例は珍しいのだそうだ。

(魔法を見抜くワーカーだっけ? あれも含めて復活させなかったのはやっぱり惜しかったなー。まあ今更だし、他に必要があったら蘇生を検討するか)

 思い出としてもニニャは前向きだが、アルシェの方はむしろマイナスが多い。とはいえ一々考えて居たら良い意味でも蘇生のチャンスを失うだろう。

 そんな手前味噌な事を考えながら、アインズは二人の話を他人事の様に眺めて居た。

 これが有効な話があったなら別なのだが、ニニャから聞いた時とそう変わる物でも無かったからだ。

「と言う訳ですまないが、冒険者の本分からは外れるし、どちらも使い手を増やすのは無理だな。もちろん既に覚えて居る者を確保するのは不可能ではないが」

「いえ、こちらも無理を言ってすみません。断片的な確認であれば暗号でも済みますので御気になさらず」

 習得数の問題で余分が無いこともフールーダの情報防御が薄かった時に判っていたし、ショックではないが徒労感が強い。

 とはいえ、何も判らないよりは良かったかもしれない。

(収穫は第三位階の精神系って判っただけか。伝言もだけど冒険者は確かに覚えないよな。必要無いし…、ん? 必要?)

 待てよ…とアインズは新しい考えが湧きでた事を自覚する。

 

 アインザック達が魔導王としての立場で協議したことを、モモンとしての自分に伝えて来るがソレは聞き流しても問題無い。

 これ幸いと没頭するのだが…、ふと、脳裏に電球が灯ったり、道が開けて来た気がする。

(確か貧乏な魔法使いは香辛料を造る魔法や水質改善とか覚えるとか言っていたが、同じ様に有用な目的があればいいんじゃないか?)

 はっきり言って、香辛料を覚える魔法なんか冒険には必要が無い。強いて言うなら水質を改善する魔法でどうにかだ。

 だが、そう言った魔法があれば有利になるなら、余裕の範囲で取得しようとする者もいるはず。

(それに、必要性が無くてもロマンがあるなら取る奴は居るよな。エクリプスもそうだったし…最初は隠し職業みたいな感じで、国が優遇すれば良いんじゃないか?)

 アインズは自身がネタビルドでクラスを修めて行った過程で、幾つかの条件を揃えた形に成り、隠し職業であるエクリプスに辿りついた。

 つまり、最初から優遇するつもりで何パターンかの待遇を用意しておき、民の為になるとか言う名目の魔法の中に、こっそりタレントを見抜く魔法などを入れておくのだ。

 これならばアインズが魔術師を招くとしても穏健に聞こえるし、最後にそういう魔法を覚えて隠居する冒険者も出て来るだろう。

 

 冒険者として見果てぬ地を目指し、それに飽きたら魔導国で後進を指導する。

 あるいは、魔導国のエージェントなりオフィサーになる未来予想図を描いて、そっち方面に腕を磨く若者が出る…と言うのも面白いかもしれない。

(いいな。クソ運営思い出すけど、方向性としては悪く無いや。…その上で学校出身者は安く確認出来る、教師に才能を見込まれた者は無料で判定可能ってどうだろ)

 そうなれば、学校と言う物に別の意味が出て来る。

 孤児院として運営している初歩の学校では、計算や読み書きを適当に覚えさせながら、裏で才能の方向性を見るのだ。

 その上で魔術師・戦士・野伏と言った判り易い才能の者たちには、無償で判定する。

 そして、才能が判り難い者でも、様々な才能を安く見出せるなら、勝手に受けてくれるだろう。

(単発ガチャより十連ガチャ、一気にやって駄目なら時間帯をずらして引けっていうもんな。これなら学校経営ってwin-winなんじゃないか?)

 中には単発で引き当てる猛者も居るけど…。

 と、ガチャに関する苦い思い出を苦笑しながら、アインズは人間でガチャをやると言う暴挙を知らず知らずのうちに肯定していた。

 単発で目当てを引き当てた、かつてのギルドメンバーなら絶対に許さないかもしれないのに…。

 

 そしてアインズは、ここで得た逆転の発想で振り返ってみた。

(状況に流されて必要な事を模索するんじゃなくて、状況を動かす為に、新しい視点を設定してみる…か。これで街道に関して見直してみるのはどうだ?)

 アインザックとラケシルの話は、もうちょっとで既に聞いて居る範囲を終えてしまう。

 考えがまとまっていないが、逆に言えば、思いついた案を披露するなら今が丁度良い。

(魔導国…いやナザリックとして困ることは、アインズとして命じるべきだ。後から言われても不快だろうし、本拠地があるとバレるのは絶対に避けたい。逆にそれ以外は任せるべきだよな)

 例えば、カルネ村の周囲に避難所と交易所を兼ねたチェックポイントを造るとして、森の近く側に成るか、遠い側に成るか判らない。

 だが、万が一を考えれば、遠い場所にすべきだ。理由など森の保護なり、カルネ村の権益とでも言えば済む。

 逆に、リザードマンの村周辺に関しては、街道を敷設しようとするレイバーとか言う行政官や、冒険者ギルドなどに任せておいても良いだろう。

「なるほど判りました。先ほど出た異種族との付き合いですが、まずは互いに一歩離れた位置から、お互いの都合の範囲で歩み寄るのはいかがですか? 最初は物々交換希望者だけで十分でしょう」

「確かにな。文化の差もあるし、話したのは何人かだが、見解が全く異なる者も、我々とそう変わらない者まで多岐に渡ったよ」

「おおむね賛成なんだが…。ルーン工匠の所に行くのはオレに任せてくれよ! 実際に造ってるところを見て見たいんだ!」

 リザードマンという種族との交渉だの、双方に都合が良い位置など考えるだけでも一苦労だ。

 それを国から先に口に出して、厄介事に成るのはコキュートスとの調整もあって面倒くさい。

 あくまで現場組に任せることにして、いつもの戯言を口にするラケシルを二人掛りで宥めることにした。




1:魔法習得に関して = ニニャとの話とほぼ同じ
2:タレントに関して = 王女の話とほぼ同じ

 という訳で、あまり差はありませんが、2の事を改めて知ったことくらい。
それらの事を改めて考慮した結果

学校 = オート十連ガチャ

という結論に辿りついた感じなります。

とはいえ魔法に適正のある幼女発見、英才教育を施して!
と言う話には成りません。

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