魔導国の日常【完結】   作:ノイラーテム

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街道編
レイバー=ロード


 エ・ランテルにある魔導国の執務室は今日も忙しい。

 部屋の主人は夜も眠れない日々に追われながら……その必要無いのだが、多忙な日々を過ごしていた。

(あー、課金したら決裁をスキップできるようにできないかなー。でも自分でできることに無闇に課金するのも駄目だよな……。どっちみちお金ないし我慢我慢)

 そんな他愛のないことを考えていると、来客を知らせるノック音がする。

「アインズ様。冒険者組合長が、供を連れて参っております」

「アインザックが? 構わん、通……。通した後で少し時間を取る。直ぐに終わるかもしれんが、ゴンドとの予定以外は適当に空けておけ」

「承知いたしました」

 言いながら今後のスケジュールを思い出していく。

 数日もしないうちに、ラケシルらを交えて冒険者ギルドの今後を話し合う予定だ。急ぎの用ができたか……あるいは公式に訪問する用事があるということだろうか?

 思念を飛ばして手隙のエルダーリッチに、行政用に作られたドワーフ製紙を持たせて控えさせておいた。

 

「魔導王陛下には御機嫌麗しゅう」

「うむ。早速だが時間が惜しい、本題に入りたいので楽にしてくれて構わない」

 嘘だけどな…。と呟きながらアインズはアインザックともう一人に声を掛けた。

 どちらかといえばスケジュールよりも心理的なものだ。

 対等の目線で話すというポーズを作りつつ、長話や難しい話をいつでも切れるように布石を打っておく。

 これがラケシルやモックナック辺りであれば別だが、連れてきているのは官僚風の小役人だったからだ。

「それで…? 急報が入るほど進展したのだとすれば喜ばしいのだがね」

「申し訳ありません。本日は冒険者ギルドに直接関わることではなく、この男が魔導国にとって魅力的な提案があると…」

 コネクションを利用しての提案であれば、無礼者として処分されてもおかしくない。

 そう目くじらを立てようとするメイドを、アインズは視線で制止した。

 横紙破りは組織運営上よろしくないが、冒険者ギルドに命じている内容と絡むならば仕方のない範囲だ。

 何よりも、本当に魅力的かどうかは別として、せっかく国のために役立ってくれるという人材を、野に置くのは惜しいし、忠誠を誓ってくれるならばドンドン増えてほしいものだ。

「同時に並行するプランもあるゆえ確約はできぬが、真に役立つ提案であれば採用しよう」

「お聞き届けくださり、ありがとうございます。私はレイバー…」

 長ったらしい挨拶になりそうだったので、アインズは片手を上げて制止した。

 それだけでレイバーと名乗る官僚はビクリと震え、怯えたように口ごもる。

「会合中にたまたま引き合わされたに過ぎぬ。今はアインザックの友人レイバーで良かろう。採用するのであれば、重要な責任者の名前だ…しっかりと覚えさせてもらうがな」

「も、申し訳ありません! …で、ですが、陛下にとっても魔導国にとっても、有益な案件であると確信しております!」

 面倒くさいなーと思いつつ、支配者ロールに慣れてきたこともありこういった面倒事は問題無く調整できるようになってきた。

 反面、笑って付き合えるような仲から遠ざかるのが難点だが、まあ全てを同時にこなすなんてデミウルゴスやアルベドでも無ければ無理だろう。

「案とは見方や時期一つで良くも悪くもなるものだ。提案内容で罰したりなどせぬ」

 自分にはとうてい無理だとか思いつつ話の続きを促す。

 

 レイバーと名乗る男は暫くの間、恐怖で躊躇っていたようだが、意を決して口を開き始めた。

「魔導国の街道に舗装路と中継地点を設置してはいかがでしょうか? 王国時代にもラナー王女殿下が発案された有用な案でございます」

「街道の件か。悪くは無いがそれだけでは魅力的には感じぬな」

 まずは第一段階クリアー。

 確かに各地に中継拠点があれば、冒険者たちも行商も楽になるだろうし、アインザックに任せて居る範疇に被っているから後で責任問題にはならないだろう。

「な、何故でございます!? 交易にも役立つ立派な案で、王女様が提案されたときもその点では反対者は…」

「王女が提案したときと今では条件が違う、だから可能か? 逆の見方もできるな。当時は問題だったことが普通になり、当時は普通だったことが問題になる」

 利点を認めつつも、アインズには採用できない大きな理由があった。

 ぶっちゃけお金が無い、第二に街道に舗装するほどの理由が無い。

「ですがっ…」

「レイバー。アインズ様を煩わせてはならん。旧知の仲であるし、ギルドにも意味があるから仲介しはしたが…」

「良い。提案自体を否定している訳ではないのだ。そうだな…確かにアンデッドの人足ならば岩を切り出すのも運ぶのも簡単だ。だが、我が国の馬車馬はソウルイーターであることを忘れてはいないか?」

 アインザックが引き下がらせようとするが、アインズは笑って許してやった。

 鷹揚で開明的な王であるという評判は悪くないし、将来に余裕ができたときに、仕事を押し付けるには確保しておいた方が良いだろう。

 何しろ魔導国には提案のできる…人間の官僚が殆ど居ないのだ。

「そ、ソウルイーター…」

「そうだ。疲れ知らずで馬の何倍も運ぶことができるし護衛にもなる。もちろん舗装などしていなくとも移動距離に変わりは無い」

 そう、金を掛けて道路を舗装する意味が無いのだ。

 箱庭としての見栄えは良くなるかもしれないが、ソウルイーターの移動距離・速度に変わりがないのなら、現時点ではまるで採用する意味が無い。

 冒険者の休憩所としては意味があるだろうが、そんなものは村の空き家でも足りる話だろう。

 

 しゅんとして項垂れるレイバーに、アインズはどうフォローするか少しだけ悩んだ。

 断る理由は主に金銭的なもので、将来に金があるという前提でなら、採用しても良いレベルだ。

 ここはやる気を失わないようにしつつ、価値のあるプランを練り直させる方が良いだろう。

「それにこの計画のままでは王女を褒める理由にはなっても、お前である必要はあるまい? そうだな…」

 言いながら執務室に目を這わせると、以前に手に入れた地図が見えた。

 既に描き写しているし、より詳細な地図を作っているから不要な物だ。

 手に取って、机の上に放り出した。

「これをやろう。この地図に書き加えるに足る、有用な計画を考えるが良い」

「ち、地図ですか!? お、お待ちください、地図は国防上の重要な…」

 はて?

 アインズは聞きなれない言葉を聞いた。

 地図が国防上、重要な?

 不正確で詳細でもなく、場所によっては数日分の誤差もあるのに?

 そう思っているのは、どうやら、アインズだけであったようだ。

「確かにワザと誤差を入れておりますが、この地図があれば、何日でエランテルに攻め込めるか丸判りではありませんか! 村々を略奪し放題で…」

「あぁ…そのことか」

 しまったー!?

 この時代の地形って、他所者には教えないんだっけ?

 そりゃスパイ放つからある程度は判るだろうけど、確かに調べる手間とか考えると大きいよね。

 そういえばラケシルにクドイほど忠告されたなァ…。

 とかアインズは今更のように思い出しつつ、どう誤魔化そうか必死で悩んだ。

 このままでは無知を晒すことになるし、かといって、王たるものが軽々しく撤回すべきではない。

 そう思ってアインズザックに相談しようと視線を移すと、ブルブルと震えながら提案してきた。

「よ、よろしければ陛下。わたくしめの方で説明してやってもよろしいでしょうか?」

「アインザックがそう判断したのなら構わない、特に許す」

 よし! 解決手段があるならアインザックに任せた!

 自分が思いつかないときは、思いついた部下を活用するに限るよなー。

 問題があってもアインザックの説明が悪いんだし…と、これは人が悪いか。説明のフォローくらいはしようとアインズは自分を納得させる。

「くれぐれも迂闊に口外してくれては困るが…。冒険者ギルドではより正確な地図を作製し、未知の領域の情報を集めている」

「そ、そうだ。この程度の情報は、いずれ街全体に公表しても良いレベルになる。どうだ? お前の手で古い地図を取るに足らない情報に変えてみたくはないか? お前の手で新しい光景を創り出してみるが良い」

 我が国の戦力ならば国防には何の問題も無い。

 

 そう言った辺りで、アインズは冷や汗を拭いたくなった。

 勿論、冷や汗をかくはずもないが。

「わ、わたくしをそこまで買ってくださるのですか?」

「今はアインザックの友人程度と言ったぞ? だが、計画が完成したそのときこそ、お前の名前を聞かせてもらうとしようか。必要ならドワーフのトンネルドクターを招聘しても良い」

 取り繕ったことを隠しつつ、あえて創られた新しい地図を公表するとは言わなかった。

 知識は独占してこそであるし、詳細な地図がナザリックの場所を特定し、転移攻撃されては困るからだ。

 そこまで考えた段階でようやく、確かに地図は国防上重要だなーと振り返るのであった。




他の話を書いてる時に、ふと思いついたネタを書いて行こうかと思います。
今回は、街道が中途半端に舗装されている話から。
地図に関する認識は、レア狩り場や鉱山なら別として、国防上ではそれほど認識してないかな? という程度に解釈して書いております。

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