遊戯王ARC-V ある脱走兵の話   作:白烏

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覚悟

ガンっ……!とリョウジは黒咲に胸ぐらを掴まれてレジスタンス本部の壁に叩き付けられる

 

「おい隼、落ち着けって!」

「やめろ!そんなことをしても!」

「いい…こいつは、俺を殴る権利がある…」

 

それを静止するアレンとユート、それを受け入れるリョウジ

結局……瑠璃を守ることは出来なかった

追いかけたユートの目の前で瑠璃はユーリと共に消えてしまった

そして目的を達したアカデミアも続くようにその姿を消した……

ひょっとしたら、という淡い希望を捨てきれずに日が昇るまで皆で走り回ったが、何も見つけることは出来なかった…

 

「……貴様が手引きしたんだろう!協力者を偽ってレジスタンスに入り込み!瑠璃を攫う機会を伺ってたんじゃないのか!」

 

瑠璃は黒咲にとって唯一無二の家族、それが敵に攫われたとなれば怒り狂うのも至極普通のこと

 

「冷静になれ隼!仲間同士で争っている場合じゃないだろう!」

 

ユートはその手を引き剥がして間に割り込む

が、逆にそれが神経を逆なでしてしまった

 

「仲間……仲間だと!?こいつは奴らと同じアカデミアだ!俺はこいつを仲間だとは認めない!絶対に!!」

 

そう言うと黒咲は部屋を出ていこうとして

 

「……ユート、奴は瑠璃を抱えたまま消えたんだな?」

「……ああ」

「なら、…まだ取り戻せる」

「っ!どういうことだ!?」

 

リョウジのその言葉にユートだけでなく集まっていたレジスタンスもにわかにざわめき、黒咲はその足を止める

 

「ユーリは…アカデミアは瑠璃を狙っていた、理由はわからないが奴らにとって瑠璃は特別な存在だという事だ、それにカードにするならわざわざ抱えて転移する必要も無い」

「……たしかに」

 

仲間を救えるかもしれない、その可能性が見えたことで少しではあるが意気消沈していた空気が軽くなる

 

「……ならば」

 

黒咲はその話を聞くと

 

「奪われた仲間は…瑠璃は、俺が必ず取り戻す!例え何があろうとも!アカデミアから救い出してみせる!!」

 

誰でもない自分に誓うようにそう宣言した

 

 

…………

 

 

被害の報告などが終わるとリョウジは工作室へ足を向けた

ガラガラ音をたてて扉を開く、中ではマオが鬼気迫る顔でキーボードを叩き続けていた

 

「これなら……復元プログラム………ダメか」

「……あ、リョウジ君」

 

そしてその隣ではトキノがジャンクパーツをより分けている

昨日の襲撃でもいくつか盤を回収出来た、そしてまた解析をした訳だが…今回も芳しくないようだ

 

「まだ解析中……でも今回も収穫無しになりそう」

 

画面から目を離さずにそう言う

やはり今回もアカデミア性盤の自壊装置はしっかりと次元転移装置を壊していたようだ

 

「……瑠璃は」

「知ってる、アレンがさっき報告に来てたから」

「瑠璃ちゃん……」

 

淡々とそう答えるマオと目を伏せるトキノ

マオは誰かを失うことに慣れてしまった

トキノはまだそれに慣れることが出来ていない

そのどちらが正しいなど言えない、どちらも正しいのだから

 

「…じゃあ、俺は見回りに行ってくる」

「あ…うん…いってらっしゃい…」

 

リョウジは報告が不要だと分かれば踵を返して部屋を後にした

 

 

 

 

 

「あ……」

 

行かないで、そう言いかけて

 

「…うん…」

 

届きもしないのに手を伸ばして

 

「…いってらっしゃい」

 

言葉を飲み込んでその背中を見送る

 

このまま居なくなってしまうのではないか

これが最後の別れになってしまうのではないか

 

そんな不安で胸が苦しくなる

 

カタカタとキーボードを叩く音だけが部屋に響く

 

『お前は俺やユートに並ぶ実力者だ!』

 

ふと、言われた言葉が脳裏によぎる

 

『お前が戦線に復帰してくれれば戦況も変わる!』

 

その光景を想像する

 

『アカデミアを倒せるんだ!』

 

…手の震えが止まらなくなり

ギュッと目を閉じる

 

自分がカードにされるのが怖い

誰かをカードにしてしまうのが怖い

 

……でも……

 

「……マオちゃん」

「ん?…どうかした?」

 

マオはトキノの強い決意を含んだ言葉に作業する手を止めて振り向く

 

「…お願いしたいことがあるの」

 

 

…………

 

 

「葉繰、俺に用事とは?」

「……来れば分かる、こっち」

 

見回りを終えたリョウジはマオに連れられて階段を登っていく

 

「ほら……連れてきたよ」

 

そう言って屋上へのドアを開ける

 

「……聖?」

 

屋上にはトキノが待っていた

…普段なら付けていない薄い黄色の盤を装着して

 

「あのね……リョウジ君、私…」

「…戦うつもりか?」

 

トキノの言いたいことを察したリョウジが言葉を挟む

少し面食らった様子のトキノだったが、すぐに真剣な顔に戻って頷いた

 

「…うん…私も皆と一緒に戦いたい」

「……お前が戦場に出る必要は無い」

 

マオは黙ってその様子を見守る、それがトキノからのお願いだったからだ

 

「でも、このままだと…」

「お前は戦士にはなれない」

 

どの口が言うんだ、と内心で自嘲しながら否定するリョウジ

 

「はっきり言ってやる、お前が戦場に来ても足でまといでしかない、足を引っ張る味方は敵よりもタチが悪い」

「あんたっ!そんな言い方」

「マオちゃん!」

 

トキノに投げつけられる厳しい言葉へ怒ろうとしたマオだったが、それはトキノによって止められる

 

「……私は大丈夫だから」

「っ!……分かった……」

 

マオに向かって微笑むとそう言う

その下手な笑顔を見れば怒りを抑えて引き下がるしかなかった

 

「……それでも、私は…」

「……いいだろう」

 

リョウジの纏っている空気が変わる

普段の冷たくも優しい雰囲気から、戦う時の鋭い殺気へ

 

「なら思い出させてやる、聖、お前に…融合の恐怖を……!」

 

決闘盤を展開させそう言い放った




次回、リョウジVSトキノ

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