遊戯王ARC-V ある脱走兵の話   作:白烏

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トキノ(3)

「ガイアドラグーンでサイバードラゴンを攻撃!」

「……くっ、また負けた……」

 

リョウジとトキノのテーブルデュエルは今日も行われていた

ライフ計算モードになっている盤を操作するリョウジ

小気味よい効果音とともにライフがゼロになった

 

「やった!三連勝!」

「くっ……もう1回……」

 

最初の頃こそ五分五分だったものの次第に調子を取り戻してきたトキノは元々の実力を発揮しはじめ、勝率は7:3でトキノ優勢だった

 

「っと…すまない、そろそろ時間だ」

「あ…そうだよね」

 

しかしその楽しい時間は長くは続かない

レジスタンスは常に交代で見回りを行い、アカデミアを発見した場合すぐに行動できるようにシフトが組まれている

リョウジはその合間の休憩時間を利用してここに訪れていた

 

「…ねぇ、リョウジ君」

「どうした?」

「……いつまで続くのかな?」

 

戦地へ向かおうとするリョウジを呼び止め、問いかける

 

「…分からない」

 

リョウジはそう答えるしかなかった

ここですぐに終わると言えるほど楽観的ではない

このままエクシーズ次元に来るアカデミア兵を撃退し続けていても戦争は終わらない

かといって直接乗り込もうにもレジスタンスにはその手段がない

 

「そう…だよね、ごめんね、呼び止めちゃって」

「…すまない」

 

その謝罪は何に対してだっただろうか

戦争を止められない己の無力さか

それとも気の利いたことも言えないことに対してか

ただ、彼女の寂しそうな顔だけが深く印象に残った

 

 

…………

 

 

胸のモヤモヤがずっと消えない

今までこんなことは無かった

 

「……ジ」

 

どう答えればよかったのだろうか

『すぐに終わる』…そんな無責任なことは言えない

『まだ続く』…もっと駄目な気がする

 

「…ョウジ…」

 

いやそもそもなぜこんなことを続けている?

彼女は確かに実力はある、だが戦力としては役に立たない、関わったところでなんの得にもならない、ならばなんでわざわざ時間を割いて……

 

「……リョウジ!」

「うおっと!」

 

アレンの大声で思考が中断される

 

「ったく、見回り中になにボンヤリしてんだよ」

「すまん、考え事してた」

「ま、今日はアカデミアの連中も休みみてぇだけどな」

 

アカデミアの侵攻には波がある

一気に攻めてくる時は何十人と送り込んでくるがそうでない時は残党刈りと称して数名がうろついているだけの時もある

 

「ん?…これは?」

 

ふとガレキの中から何か光るものを見つけて拾い上げる

 

「メモリーカード…か…?」

「でもだいぶボロいな」

 

雨風に晒されてしばらくたっているのだろう

試しにと盤に差し込むが反応がない

 

「これがアカデミアの連中のデータって可能性は?」

「可能性は低いだろうな……まぁ、この後葉繰の所に持っていくか」

 

元々行く予定もあった事だしとポケットに入れた

 

…………

 

「葉繰、ちょっといいか?」

 

ガラガラと音をたてて工作室の扉を開く

 

「あっ!リョウジだ!リョージー!」

 

ピシャンと音をたてて扉を閉じる

葉繰はあんなテンション高い奴だったか?と首をかしげていると

 

「ちょっとーー!なんで閉めるのさー!?」

 

ガシャーン!と音をたてて扉が開かれる、窓にヒビが入った

 

「いや…どうした…?」

「んー?なにがー?」

 

何があったのかと室内を見渡し…原因を見つける

 

「……酔ってるのか」

 

エナジードリンクの缶に混ざっている酒の缶が見えた

なぜこの次元の酒の缶はエナジードリンクとそっくりな外見なのだろうか…と次元ギャップを感じてから

 

「…出直す」

 

逃げ出した

 

「大丈夫大丈夫ー!例の件で来たんだよね?」

 

しかしまわりこまれてしまった!

 

「……じゃあ、次元転移の件はどうなっている?」

 

早く要件を済ませよう、そしてウザ絡みされないうちにここから立ち去ろう、そう心に決める

 

「昨日から徹夜で解析してたんだけどまったく分かんない!お手上げ!」

 

なるほど、徹夜のテンション+アルコールでこのハイテンションな訳かと納得する

 

先日アカデミア兵を撃退した際にアカデミア製の決闘盤をいくつか確保出来た

それを解析すれば次元転移も可能になる……そう思っていたのだが

 

「なに自壊装置って!敵に奪われた時の対策って訳!?悔しいくらい綺麗に壊れてるから修復も出来ないしっ!」

 

ばしんばしんと机を叩きながら嘆く

 

アカデミアの盤には自壊装置が組み込まれており、敗北後の強制送還が行われなかった時はオートで自壊するようになっている

カード化の機構は何とか復元してレジスタンスの盤に組み込んだらしいが次元転移はより厳重に壊されているらしくお手上げ状態とのことだ

 

「……まさかとは思うが…やけ酒じゃないよな?」

「そんなことどーでもいいじゃん!ん?なにそれー?」

 

持っていたメモリーカードに目ざとく反応し取り上げた

 

「見回り中に拾ったんだがどうも壊れているようでな」

「んー?この程度ならちょちょいのちょいよー!」

 

「ほいやー!」という謎の掛け声とともにメモリーカードを修復してパソコンに挿入する

 

「ほい!これでオッケー!」

「早いな…」

「ま、この程度朝飯前よ!」

 

むふー!と胸を張るマオ

それに感謝しながらもウザ絡みされないようにスルーする

 

「中は…映像データか?」

 

モニターには高校生程度の少年同士が向き合って決闘している映像が映し出された

 

「んー?あー、これ去年のスペード校デュエル大会じゃん」

 

画面の中での決闘が終わる

よく見れば片方はリョウジのよく知る人物だった

 

「……黒咲?」

 

すぐに気づくことが出来なかったのも無理はない

リョウジの知る黒咲は戦争で変わってしまった後だけ

純粋にプロ決闘者を目指していた頃の黒咲の事は知る由もなかった

 

「お、これは丁度いい、一番いいところだー」

三位決定戦の決闘が終わり決勝を戦う決闘者が現れる

ユートとトキノだった

 

「……」

 

決勝の記録映像を見る

光り輝く身体を持つドラゴン達と暗い空気を纏った戦士達の戦い

強大な力を持つドラゴンが戦士達を蹂躙するも決して倒れない戦士達はドラゴンへと食らいつく

やがて戦士達の場に現れた黒いドラゴン…ダークリベリオンエクシーズドラゴンが敵のドラゴンを打ち倒す

しかしトキノはその状況に焦ること無くエースモンスター、聖刻神龍エネアードを繰り出して応戦する

魔法、罠、モンスター効果をフルに生かしてダークリベリオンとエネアードは何度も激突する

幾度も繰り返された黒と白のドラゴンの戦いはやがて黒のドラゴンに軍配が上がった

 

「…………」

 

決闘が終わり決闘場で握手をする二人それは融合次元では考えられない光景だった

 

「……楽しそうだな」

 

楽しい決闘が出来る、そんな彼らが羨ましかった

観客の歓声に照れくさそうに笑いながら応えるトキノの姿を見てそう思った

 

「トキノはね…よく笑う子だったんだー…」

 

マオは語り始める…それは誰かに向けてという感じではなかった

 

「決闘に勝っても負けても楽しそうに笑ってて…そんなトキノが皆大好きだった…」

 

悔いるように、懺悔するように言葉を絞り出す

 

「皆の盤にカード化の機能を付けたのは私なんだ…アカデミアの盤を解析して…アカデミアが憎かった…でも…それでトキノを傷つけた…」

 

リョウジはそれを黙って聞いていた

 

「……脱走兵とトキノの決闘…楽しそうだったなぁ………いいなぁ…また……あんなふうに………皆で……笑って……決闘を……」

 

 

「…………葉繰?」

 

不意に動かなくなったそちらに目を向ける

 

「…………すぅ……」

「……寝てるだけか」

 

徹夜の疲れで限界だったのだろう

 

「……楽しそう…か」

 

なんで戦術的に無意味な交流を続けていたのかが分かった、……純粋に楽しかったんだ、彼女との決闘が

楽しむために決闘をする……か、融合次元だったらありえない考え方だけど

 

「笑って決闘が出来る世界……だったんだな…ここは……」

 

皆笑ってた

皆幸せそうだった

 

「……取り戻さなくちゃ…だよな」

 

俺には人をカードにする覚悟は出来そうにない

けど、俺は見たいんだ

みんなが笑って決闘ができる世界を

トキノがまた笑って決闘が出来る世界を

そのために……俺は戦う

 

 

 

 

 

そう心に誓った矢先だった

あの事件が起こったのは




ちょこちょこ更新できるように頑張ります

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