「……ねえちゃん。……きて」
微睡みの中、声が聞こえた。
「……起きて。……お姉ちゃん」
誰かに呼ばれている。
その声に誘われるように目を開ける。
「あっ、おねえちゃん、起きた?」
すると目の前には。
「ああ。おはよう。クリス」
最愛の妹、クリスがいた。うむ、今日も可愛らしいな。
「おはよう。って言ってもまだ夕方だけどね」
「ん? そうか」
「うん、お姉ちゃんお昼のあとすぐに寝ちゃったから」
「そう、だったか?」
寝る前が少しあやふやだな。
「少し疲れていたのかもしれないな。すまないクリス。起こしてくれてありがとう」
「ふふっ、どういたしまして。いつもお疲れ様です、お姉ちゃん」
「そういえばクリス。さっきからなにか甘い匂いがするような気がするんだが」
「あっ、そうだった! お姉ちゃん、今日は何の日でしょう」
「今日は……」
たしか二月十四日だったな。
「バレンタイン、か?」
「ピンポンピンポーン! 大正解でーす。というわけで今日はお姉ちゃんに素敵なプレゼントを用意してまーす」
なにっ。クリスが素敵なプレゼント!?
一体なにをくれるのかと心をときめかせた私に聞こえてきたのは。
「クリスちゃーん。バルクホルンお姉ちゃん起きたー?」
こ、この声は!
「宮藤か!?」
「あっ、おはようございますバルクホルンお姉ちゃん!」
お姉ちゃん!宮藤が私のことをお姉ちゃんと!
それだけではない!
「み、宮藤。その恰好は?」
「えへへっ。バルクホルンお姉ちゃんがくれた衣装着てみたんですけど。……どうですか?」
私が送った! ディアンドル衣装を着てくれている!
「も、もちろん似合っているとも。かっ可愛いぞ……宮藤」
「えへへっ、良かったー」
良かったねー、と笑いあう宮藤とクリス。天使がここに二人いる。
「そ、そういえば結局この甘い匂いは何なんだ?」
「あっ、そうだった。お姉ちゃんこっちこっち」
そうして宮藤とクリスに手を引かれた先にあったのは。
様々なお菓子とフルーツ。溶かしたチョコレイト。
「「じゃーん。チョコフォンデュでーす」」
「おおっ。これはすごいな」
「ささ、お姉ちゃん座って座って」
「あ、ああ」
「マシュマロにたーっぷりチョコを絡めてー。はい、バルクホルンお姉ちゃん。あーん」
あーん!? こ、ここは天国なのか……。
「んんっ。うむ。では……あーん」
さあマシュマロカモーン!
「お・き・ろ! バルクホルンっ!」
「げふうっ!?」
こ、ここは!? マシュマロは? 宮藤は? クリスは?
「ずいぶんいい夢を見てたみたいだなあ、バルクホルン?」
「シャ、シャーリーか?」
ということはさっきまでの宮藤とクリスは夢だったというのか!?
なんということだ! なんということだ!
「まったく。人の気も知らないで……」
「どうした? シャーリー」
「なんでもないっ! ……ほらっ」
「んっ、これは?」
突きつけるように渡されたのは子洒落た包み。
「バレンタインだよバレンタイン」
「バレンタイン?」
だんだん思い出してきたぞ。501のみんなでバレンタイン会をやっていて……そのまま疲れて寝てしまったのか。
だが。
「さっきみんなで渡しあっただろう?」
「さっきのは全員で分け合うようだろう? これは私からの個人的なやつさ。フソウ式ってやつ?」
早口でそれだけ言って、じゃーなと立ち去るシャーリー。
フソウ式。たしか宮藤がいつだったか言っていたような。
フソウでは好きな人に――。
「おっ、おい! まて! シャーリー!」
呼び止めると早足になる。なぜだ!
「待てと言っているだろう!」
後姿でも耳が赤くなっているのは見逃してないぞ!
「まーてー! こらっ、基地内で走るなー!」
fin