東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 序曲

 

 

 

 

   〝生きる意味 探してる

 

    誰も皆 旅人

 

 

    遥かなる旅路辿り 今歩き出す

 

 

    棘の道の向こうへ……〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-カール王国-

 

 

ブンッ

 

 

王の間にスキマが広がる

 

「……!!」

 

王と女王しか居ない間に僅かな緊張が走る、その前で運命に導かれ幻想郷へと迷い混んだ一行達が続々と姿を現した

 

「よっと……お?先生と女王様だけと思ったら姫さんまで居んのか」

 

最後にポップが出て来た

 

「……安心しましたよ皆さん、お帰りなさい」

 

皆の表情を確認したアバンが迎える声をかける

 

「へへっ……ただいま」

 

気恥ずかしそうに帰還の言葉を返し、久し振りに元の世界に帰ってきた事を実感した

 

 

「ちょっと!!?」

 

 

そこにポップが姫さんと呼んだパプニカ王国の女王レオナの声が響く

 

「ダイ君はッ!?」

 

怒鳴るように叫ぶレオナの前でスキマは閉じた

 

「何でダイ君が居ないのよ!」

 

帰ってきた中にダイの姿だけが無かったのだ

 

「ねぇ!どうなってるのポップ君!?どうしてダイ君が居ないの!?」

 

「まぁまぁ落ち着けって姫さん……ぐえっ!?」

 

詰め寄られたポップはレオナに首を絞められ揺さぶられる

 

「落ち着けるわけないでしょ!?まさか見捨てて来たんじゃないでしょうね!?もしそうなら死刑よ死刑!絶対許さないんだから!!」

 

ポップを絞め殺しかねない勢いで詰め寄るレオナ、ダイを心配する故だが激し過ぎてポップの息の根を止めんばかりだったので慌ててマァムに抑えられる

 

「げほっ……だ、だから落ち着けって姫さん……げほげほっ!?あー死にかけたぜ……」

 

「そうですよレオナ女王、まずは落ち着いて話を聞きましょう」

 

アバンが言う、皆の表情から心配無いと既に読み取っていたから落ち着いている

 

「でも……ごめんなさい、取り乱したわ」

 

尚も食い下がろうとしたレオナだが食い下がったところで意味が無くむしろ迷惑をかけると察しようやく落ち着いた

 

「やっとかよ、姫さんはダイ大好きだから仕方ねぇとは言え勘弁してくれよな」

 

ポップが余計な一言を言った次の瞬間、思い切り張り手を食らわされた

 

「早く話して!!」

 

レオナが怒鳴る

 

「あんたってホントバカよね……」

 

「んがぐ……」

 

しばき倒されたポップは苦笑いしながら起き上がり

 

「話すよ、ダイが何で一緒じゃないのかをよ……」

 

語り始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-紅魔館・門前-

 

「いよいよお別れね……」

 

幻想郷での滞在期間が終わり集まった一行にレミリアは言う

 

「3日だったのが延びちまったな」

 

ポップが言う

 

「鞘の作成に時間が掛かったんだから仕方ないわ」

 

3日程の延長だったのだがダイの鞘が3日で終わらず4日になっていた、今は5日目の早朝

 

「それに貴方の修行も終わらなかったみたいだし」

 

「あー……まぁなー……うん……」

 

ポップが遠い目をしている

 

「限界来てぶっ倒れたからなーお前」

 

魔理沙が嫌らしい目で言う

 

ポップの修行は終わらなかった、スペシャルハードコースの中盤で精神が限界でぶっ倒れたのだ

 

「面目ねぇ……」

 

「謝んなってポップ、無茶は最初からわかってたんだ、いくらお前が天才でも私達のうん百年をたった3日やそこらで追い付けるわけねぇだろ」

 

「だけどよ……せっかく鍛えて貰ったってのに不甲斐ねぇよ」

 

「バーカ、そんだけ悔しさ吐けんなら充分だぜ、なぁパチュリー!」

 

師がもう一人の師を呼ぶ

 

「ええ、貴方は逃げなかった……その結果だけで満足よ」

 

ポップの前に立ったパチュリーは一冊の本を差し出す

 

「餞別にくれてあげる」

 

「何の本だいこれ?表紙に何も書いてねぇけど……」

 

「それはバーンの魔道書」

 

「は……?」

 

受け取ったポップは固まった

 

「一冊に纏めた写しだけどね、オリジナルは私達とバーンとの絆の証だからあげられないの」

 

「いやいや待ってくれ……バーンの魔道書ってどういうこったよ?」

 

「その昔に、バーンが私と魔理沙に遺してくれたのよ」

 

「そんな大事な物……」

 

「だから写しだと言ったわ、別に門外不出って訳でもないから……ちなみにそれには残りのメニューと私達二天の知識も入れてるから参考にしなさい」

 

「……わかったよ、ありがたく貰っとく」

 

貰った魔道書を懐に入れポップは二人を見つめる

 

「世話になったよ二人共……いや、大師匠!大先生!」

 

真剣に、想いを込めてポップは頭を下げ、伝えた

 

「ありがとうございました!」

 

感謝を……

 

「おう!何かあったらお前が守んなきゃなんねぇんだ!しっかりやれよポップ!楽しかったぜ!」

 

「最後の最後でやっと言葉使いがマシになったようね……達者でねポップ」

 

勇気の大魔道士と魔女の二天の送別が済んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「世話になった萃香、神奈子殿」

 

クロコダインが話しかける

 

「いいって事さクロコダイン!ワニ柄の良~いサンドバッグ相手にしてストレス解消したからね~」

 

「ガハハ!そうか!」

 

「良いところまでは行っただけに惜しかったな、だがお前は確実に強くなった」

 

「これからさ神奈子殿、俺はまだまだ強くならねばならん、この程度で満足するわけにはいかん」

 

ポップと同じくクロコダインの修行も終わっていなかった

 

二人の攻撃をかなり耐える事が出来るようになり目標のフランへ挑む寸前で時間が来たのだ

 

目標は行けなかったが結果は満足しているクロコダインは修行に付き合ってくれた二人と固い握手を交わす

 

「……勇儀」

 

「ん?」

 

最後に自分を好いてくれている者と目を合わす

 

「待っていろ、必ず答えを出す」

 

「ん~ああ……!そうだったね、あいよ、期待して待ってるよ」

 

「……?」

 

何とも歯切れの悪い返事にクロコダインは少し怪しみながらも勇儀と熱い握手を交わす

 

「ちょっと勇儀!貴方言ってないのですか!?」

 

「言ってないよ?その方が面白いじゃないか」

 

「貴方って鬼は……」

 

 

「……?」

 

小声でさとりと勇儀の声はクロコダインには聞こえていない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様でしたマァムさん、帰った後もたゆまず鍛練を続けてくださいね」

 

「はい!お世話になりました美鈴さん!」

 

美鈴とマァムが武道家の挨拶を交わす

 

「焦る必要はありません、一歩ずつでも進めばいいんです」

 

「はい!」

 

「貴方はまだまだ登り始めたばかりですから……この果てしなく遠い、武の坂を……」

 

「……打ち切りみたいな気がする激励ですねなんか」

 

「そうですかね?」

 

緩く笑う二人、その関係は師弟というよりは姉妹のよう

 

「ミストも手伝ってくれて助かったわ」

 

「……手伝ったつもりは無い、鍛練内容が同じだっただけの事だ、私も美鈴に指導を受ける上の必然に過ぎん」

 

「最後まで相変わらずね、兄弟子」

 

「……お前をそう思った事は無い」

 

「なら私だけ思っとくわね、ありがとうミスト」

 

マァムは手を差し出す

 

「……ふん」

 

その手に応えずミストは背を向けた

 

「常在戦場……その心得を忘れず鍛練に励め」

 

門番へと戻って行く

 

「気にしないでください、ミストなりの激励ですから」

 

「ええ、わかってます」

 

晴れやかな顔でマァムは微笑み、武道家の別れが済む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラーハルトさん!ヒュンケルさん!」

 

見送りに来た妖夢とロンが二人へ向かう

 

「とても有意義な時間でした!ありがとうございました!」

 

「礼を言うのは俺達もだ、あれ程剣に没頭出来たのはお前が居てこそだった」

 

「……」

 

爽やかに微笑むヒュンケルとは対称的にラーハルトは不機嫌だった

 

「もう1日あればお前達を越えていた」

 

「まだ勝率を気にしているんですか……」

 

3人の何百と成された技術交換と言う名の手合わせ

 

闘気や妖力など使わない純粋な剣技・槍技での手合わせ

 

その勝率は最終的にヒュンケル、妖夢、ラーハルトの順になっていた

 

ヒュンケルと妖夢がほぼ互角でラーハルトが半歩劣る形であり内容的には日々切磋琢磨の伯仲であった

 

「妖夢、俺は帰った後もダイ様の槍として更なる精進を遂げる、そして……お前もヒュンケルも必ず越える」

 

「望むところです!私も幽々子様を守る剣、ひいては幻想郷を守る剣!貴方には負けません!」

 

互いに槍と剣をかざし誓い合う

 

「お前はやらないのか?」

 

見ていたロンが酒を飲みながらヒュンケルへ問う

 

「言わずもがな、と言う事だ、俺も同じ思いだ……竜の騎士すら切り裂く地上最強の剣士、まずはそれを目指す」

 

「はっ……!まずはでそれとはデカイ事言いやがる、なら行く行くは大魔王……か?」

 

「フッ……」

 

ヒュンケルは笑う

 

それはロンの言った大魔王にバーンを思い浮かべて奴はもう違ったかと思い出したかのように……

 

「ひとつ言っといてやる、妖夢は破壊神に傷を付けた事が有る……小さな傷だ、掠り傷とも言えんような小さな、だがな」

 

「……!!」

 

ヒュンケルの目が見開かれる

 

バーンが来てからの幻想郷の歴史を聞いた上で知った大魔王すら赤子扱いする破壊の神

 

あのバーンが僅かなダメージすら与えられなかったと聞いた次元違いにして正真正銘の化物

 

それに傷を付けたのが妖夢だと聞かされては驚く他無い

 

「……何が言いたい?」

 

それを今言う意味を問う

 

「可能性は夢幻ではなく無限だと言う事だ、いつの日か……誰かは届くかもしれん」

 

「……」

 

気分良さそうにロンは酒を飲む

 

「理由はそれだけではないだろう?」

 

「ん……まぁな、早い話が自慢だ」

 

「フッ……そうか」

 

嫁が実はお前よりも凄い奴なんだという身内贔屓のような軽い自慢話

 

そうだとわかっていたヒュンケルは微笑ましく目を閉じ風を感じる

 

「永琳達へ挨拶に行ってくる」

 

貰った激励を胸に歩いて行った

 

「ああ……まぁ精々頑張るが良いさ」

 

剣士達の行く末を思い、ロンは酒を飲む……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「風見幽香は……来てるわけねぇわな」

 

送別に来てくれた者達を眺めながらヒムはやはりかと鼻を鳴らす

 

(まっ良いさ、もう会う事はねぇけどお前の事は忘れねぇ)

 

心身共に幻想郷で大きく成長したヒムは不適に笑う

 

「……ん?」

 

ふとヒムは遠目に誰かが飛んでいるのを見つけた

 

(ありゃあ……風見幽香だ!見送りに来た……わけじゃねぇな、明後日の方向行ってやがる……ただの偶然か)

 

どう考えても見送りに来る筈が無い相手とわかっている、来るなら理由は殺しに来るしか考えられない相手

 

なのに期待してしまうのはそれだけ印象深い幽香に尊敬のような勝手で小さな親しみを抱いていたから

 

(わかってるさ……言わねぇよ)

 

幽香がそれを知ればキレるのは間違いない

 

(あばよ……誇り高き花の大妖怪さんよ)

 

だからそれを内に秘め、恐怖を闘志で乗り越えた男は別れを勝手に1人思う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チウ~~~~~~~!!」

 

「チルノ~~~~~~!!」

 

二人が泣きながら抱き合っている

 

「チウさ~~~~~ん!!」

 

「チウ~~~~~~~!!」

 

「大ちゃ~~~ん!!フラ~~~ン!!」

 

更に二人も加わり四人は泣く

 

「チウさん~~~~~!!」

 

「チ~~ウ~~!!ガブガブなのだー!!」

 

「ルナ~~~ルーミア~~~イタタッ!?イタイ!尻尾噛むなってルーミア!?」

 

ルナとルーミアも加わって六人は大いに泣いていた

 

この数日で余程仲良くなったのだろう、皆が別れを惜しんでいる

 

「チウ……あんたあたいの子分にしてあげるから幻想郷に残りなさいよ」

 

「お前こそ獣王遊撃隊の隊員にしてやるから一緒に来いよチルノ」

 

ピタリと二人の涙が止まった

 

「なんでサイキョーのあたいがあんたの子分になんないといけないのよ!」

 

「どうしてボクがお前の下になんなきゃなんないんだ!逆だろバカなんだから!」

 

「言ったわね!この生意気なチビネズミ!」

 

「お前だってチビじゃないか!このぺったんこ!」

 

「それ言うならチウも無いじゃん!」

 

「ボクは男だこのバカ!」

 

「また言ったわね!このォ~~!!」

 

「ぐみみ……負けるかァ~~!!」

 

いつの間にやら互いをつねり合う喧嘩になっていた

 

「もうやめてチルノちゃん!最後なのに喧嘩して!」

 

「そうだよ!チウもやめないとミンチにするよ!」

 

大妖精とフランの言葉に二人はまたピタっと止まりお互いの手を離す

 

「帰っちゃヤダよチウ~~~!!」

 

「ボクもだよチルノ~~~!!」

 

また泣いて抱き合う

 

「もう……仲良しさんなんだから」

 

「ホントだよねー大ちゃん」

 

「喧嘩する程ってヤツなのだー!」

 

「親友……いや大親友だよ!」

 

泣き笑いながら見守る友四人

 

「あたいの事……忘れないでよ!」

 

チルノが小指を差し出す

 

「忘れるもんかチルノ!大ちゃんもフランもルーミアもルナもだ……!みんなの事、絶対忘れない!」

 

チウも小指を差し出し互いで折り合う

 

「私もです!」 「私もなのだー!」

 

「あたしも!」 「私も!」

 

重ねられる四人の手が二人の手を包む

 

幼き契りは成されたのだ

 

(……!あ……なんか、わかった)

 

その時ルナは前に母・妹紅から聞いた言葉を思い出す

 

(心を置き合うって、こういう事なんだ……)

 

妹紅の魔族の友・バラモスとの今生の別れの後に言っていた言葉

 

育んだ友情は心を置き合えるまでになる、そうなれば距離も世界も無い、どれだけ離れてようが友なのだと

 

それを幼心にルナは、否……六人は理解したのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

皆が各々に別れを惜しんでいる中、ダイは集まった人達を見ていた

 

(居ない……)

 

誰かを探すように……

 

「ダイさん」

 

話しかけられてダイは振り向くとそこにはさとりが立っていた

 

「あ、さとり」

 

「あの夜以来ですねダイさん」

 

ニコリと笑ったさとりは顔を真顔に戻し、ダイを見上げる

 

「貴方に謝らないといけない事があります」

 

「え……?何の事?何かされたっけオレ?」

 

わからないダイが首を傾げるとさとりは頭を深々と下げた

 

「あの夜、貴方の心を勝手に読んでしまい申し訳ありませんでした」

 

「え!?あの……心を読んだっていきなり言われてもわからないよさとり、どういう事?」

 

「勿論説明します」

 

顔を上げたさとりは自分が心を読める覚の妖怪である事、バーンの頼みでダイの心を読んで話した事を話した

 

「そっか……そう、だったんだ」

 

「本当に申し訳ありませんでした」

 

正直にさとりは話した、黙っていればバレないにも関わらず話した

 

それはもうしないと決めた心を読む行為を頼まれたとは言え行ってしまった罪悪感から

 

このまま帰らせるのは良心の呵責が許さなかったのだ

 

「如何なる罰も甘んじて受けます、どうかお許しを……」

 

言葉に嘘は無い、死ねと言われてもおかしくない事をしたのだから

 

「……」

 

しかし、ダイは怒ってはいなかった

 

ただ悲しんでもいない

 

(そうだったのか……だから……)

 

知らされた事実から何かに思い至ったような、そんな顔をしていた

 

「ダイさん……?」

 

「あ、ああ……そんな謝らなくていいよさとり、全然気にしてないから」

 

気付いたダイは笑顔を見せた

 

「ですが……」

 

「ホントに気にしてないから!大丈夫だよ!だからさとりももう気にしないでよ!」

 

「……」

 

さとりはダイを見つめる、心は読んでない

 

「わかりました、ありがとうございます」

 

本当に気にしていないと読まなくともわかった、だから許されたさとりも笑顔を向けた

 

「終わったか?ならダイ貸してくれよさとり」

 

横から妹紅とロランが顔を出す、世話をしたよしみで二人も話したかったのだ

 

「ええ……どうぞ」

 

二人に譲り、言葉を交わす三人を見ながらさとりは小さく呟いた

 

「ダイさん、どうか貴方に……永久(とこしえ)の平穏があらん事を……」

 

祈りを込めて、行く末に想いを馳せる

 

この勇者の願いが叶うようにと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷で関わった者達が次々に集まり、勇者達と別れを交わす

 

その光景はまさに勇者の思い描く理想

 

望み想った……今は遠き理想郷

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブンッ……

 

スキマが広がり紫が姿を見せる

 

「そろそろよろしいかしら?」

 

落ち着いたのを見計らって出てきた紫、平静を装った顔をしているが疲れを声から感じさせている

 

「ええ……苦労を掛けたわね貴方には」

 

小さな溜め息と共に紫はレミリアを睨む

 

「全くよ……金輪際こんな事はしないで欲しいわ」

 

愛する幻想郷の為に気を張り続けていた紫、万が一を考え今の今まで一行に目を光らせ続け片時も休めなかった

 

幻想郷の管理者の立場からすれば当然なのだがそれでもようやく終わるのだから愚痴の一つも言いたくなる

 

「わかっているわ、これが最後よ……悪かったわね紫、感謝するわ」

 

無理を通した事を申し訳なく思うレミリアもこれが最後の我儘だと約束する

 

「……」

 

無事に今を迎え、更には謝られて感謝までされては紫はもう何も言えなくなりバーンから貰った扇子で口元を隠しダイ達の世界へ繋がるスキマを広げた

 

「っと……いよいよか」

 

開かれた帰還の扉が集まった者達に終わりを強く感じさせる

 

「レミリア」

 

別れを済ませスキマの前に集まった一行の中からポップがレミリアの前に立つ

 

「おめーさんには一番世話になったな、いや世話になりっぱなしだった、本当に……ありがとよ」

 

「そういうのいいからさっさと帰りなさい」

 

恩を感じるポップに恩に着るなと言うレミリア

 

「そこは何か気の利いた事言えよな……マジでひねくれたヤツだよおめーは、ダチにゃあしたくねぇタイプだ、かわいくねぇ」

 

「そう?残念……」

 

レミリアは言う

 

「私は友人だと思っていたのにね」

 

綺麗に微笑んだ

 

「ッ……お前!」

 

それにポップは激しく動揺した

 

「ズリーだろそりゃ……!最後の最後で……」

 

今思えば自分だけがレミリアと素で話し、レミリアもまた友である頂点達と話すように自分とは接してくれた

 

「ひねくれ過ぎだおめーはよぉ……」

 

イジリやすくからかいやすいのだと思っていたが違った

 

それは自分を友と思ってくれていたからだったのだと……

 

「バッカヤローテメーコノヤローが……」

 

そう知ったポップは感極まって震えている

 

「フフッ……」

 

泣きそうなポップへ浮かんだレミリアはポップを抱き寄せる

 

「元気でね、私を助けてくれた……異界の友人、ポップ」

 

「おめーも……達者でなレミリア!あばよ!幻想の……ダチ公!」

 

互いに抱き合い、奇縁の始まりを紡いだ二人の終わりは最後に友の別れとして済まされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心地好い風が吹いている

 

 

 

「名残惜しいよなぁ」

 

スキマの前に皆が集まり幻想郷の人達へ振り返る

 

「そうよね、もっと居たかったわ」

 

「ボクも」

 

「皆同じ思いだ、だが……」

 

皆同様に惜しんでいる

 

それ程までに幻想郷で過ごした日々は楽しかった、素晴らしい時間だった

 

ずっと居ても良いと思える程に

 

「だな……先生達も心配してるし、帰らなきゃよ」

 

それでも帰らなければならない、故郷の世界を捨てるつもりは誰も無かったから

 

「じゃあ……行くぜ皆!!」

 

ポップの号令に皆は頷く

 

 

「あばよ!幻想郷!」

 

 

幻想郷が見守る中、一行はスキマへ歩いていく

 

 

「……」

 

一人、歩みが遅い者が居た

 

皆に置いていかれるように離れて行き、立ち止まる

 

「……ん?」

 

スキマへ入ろうという刹那にポップが気付き、振り返る

 

「どしたよダイ?」

 

それは親友・ダイだった

 

「……ごめんみんな」

 

ダイは言う

 

「先に行っててくれないかな?オレ……最後に行かなきゃならない所があるんだ」

 

まだ残ると……

 

「ちょっと……何言ってるのよダイ!」

 

マァムが悲鳴のような声をあげる

 

「……」

 

ダイは答えない

 

「これ以上我儘はよせ、迷惑をかけるだけだダイ」

 

クロコダインも言うがダイは聞く気が無いように首を振る

 

「皆は先に帰っていろ、俺がダイ様と共に後で帰る」

 

その忠義からラーハルトが動き出した

 

「待てよ」

 

それをポップが止めて身を乗り出す

 

「ダイ」

 

ポップは言う

 

「すぐ……帰ってくんだろ?」

 

ダイを真っ直ぐに見つめて

 

「……ああ、約束するよポップ」

 

理解してくれた親友に嬉しそうにダイは笑顔を見せた

 

「わーったぜダイ!ほら聞いたろおめーら!先に帰んぞ!行った行った!」

 

何も心配していないポップはダイの願いを叶えるべく一行を無理矢理スキマに押し込んだ

 

「ありがとう……ポップ」

 

「いいってこった、ほら……さっさと行けって、向こうで待ってるからよ」

 

「ああ……!行ってくる!」

 

トベルーラを唱えたダイは紅魔館を飛び出しある場所へ向かって行った

 

「行って来い……親友(ダイ)

 

ダイが見えなくなるとポップもスキマへ入って行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-カール王国-

 

「とまぁこんな感じだよ」

 

話し終えたポップが三人を眺める

 

「そういう事でしたか、成程」

 

アバンと女王フローラは納得し頷く

 

「だから姫さんよ?ダイは心配要らねぇから……よ……」

 

安心させようと声をかけたポップはレオナの様子に言葉を失った

 

「なん……で……」

 

その目に涙を浮かべていたから

 

「なんで連れ帰って来なかったのよ!」

 

感情が叫ばれた

 

「どうしてダイ君を一人にしたのよ!一緒に連れて帰って来てよ!」

 

怒鳴るレオナ、抑えきれない感情が目から流れている

 

(しまったぜ……姫さんが我慢出来る状況じゃなかったのなんて想像出来ただろ!)

 

ポップには何故レオナがここまで感情を露に怒るのかがわかっていた

 

ポップ達はダイと幻想郷で一緒に居て立ち直った後も知っている、だから心配無いとわかっている

 

だがレオナは違う、幻想郷には一緒に行っていないレオナは立ち直ったダイを知らないのだ

 

「なんで心配無いってわかるのよ!?」

 

いや、アバンから知らされてはいたが実際見ていないからレオナの中でダイはまだ幻想郷に行く前の病んだダイの印象のままだった

 

だから心配で堪らなかったレオナにダイが一人で幻想郷に残った事実はトドメだったのだ

 

「ダイ君が帰って来なかったらどうするのよ!!」

 

もう会えなくなるかもしれない不安に現実味を与えられてしまったから

 

一番間近でダイの絶望を感じていたレオナには耐えられないのはわかっていた事だったのだ

 

 

「ダイ君……ダイ君……!」

 

膝が折れてレオナは咽び泣く

 

それも深い愛故に……

 

「悪い姫さん……だけど信じてくれよ、あいつは……ダイは絶対帰ってくるからよ」

 

信じて待て、そんな気休めしか言えないポップは天を仰ぐ

 

(ダイ……)

 

親友を想い……目を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-幻想郷・紅魔館門前-

 

「そう来るとはねぇ」

 

ダイが飛んで行った方角を見ながらレミリアは呟いた

 

集まった者達は一部を除いて解散を始めている

 

「……ルナ、僕と慧音さんのところに行くよ」

 

「なんで?お母さんは?」

 

「なんででもさ、妹紅は今日はゆっくりさせてあげよう、さっ行こう」

 

「よくわかんないけど……わかった」

 

残ったのは頂点の7人と紫

 

「悪いけど最後にもう一仕事お願いするわね紫」

 

レミリアの横に居た紫は大きな溜め息を吐いた

 

「わかっているわ……」

 

うんざりしたように答えた紫はスキマを開き中へ入って行く

 

「私達もぼちぼち行くか」

 

魔理沙が言う

 

「ええ、行きましょう……ただしゆっくりね、歩くような速さで……時間をかけて」

 

「わかってるよ、たまには皆で散歩もいいもんだ」

 

妹紅が笑う

 

「あいた!?」

 

チルノが転ける

 

「チルノちゃん浮かれ過ぎだよ~」

 

「滑っちゃったねー」

 

大妖精とフランが笑う

 

「怪我してるじゃない、ほら見せてみなさい」

 

パチュリーが呆れながら手当てする

 

「あたい痛くて歩けない!妹紅!おんぶしなさい!」

 

「唾つけときゃ治るような擦り傷で何言ってんだ、歩けって」

 

「早くおんぶ!」

 

「あーもーはいはいわかったよ親分」

 

楽しそうにゆっくりと7人は歩いて行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ダイ降り立ち、その巨大な建物を見上げ、中へ入って行く

 

(何か……不思議な気分だ)

 

そこは強者達が夢の跡

 

幻想のような時間が流れた場所

 

(そんな気がしたんだ……お前は絶対、此処に居るって……)

 

通路を抜けたその先に広がる舞台

 

「……やっぱりだ」

 

ダイは呟いた

 

その舞台の中心に見つけたから

 

 

「こんなところに居たんだ……バーン」

 

 

此処は闘技場

 

運命が誘った聖域

 

勇者と大魔王の因果が眠る、夢幻の跡地

 

 

そこにバーンは居た

 

 

「……」

 

歩み寄って来るダイへバーンは振り返り、睨む

 

「何の用だ」

 

問うバーンのその顔には何故此処に居ると書いてあった

 

「お前こそ……ここで何やってるんだよ」

 

臆する事無くダイは返す

 

「……余はお前達と馴れ合う気は無かった、故に此処に居たに過ぎん」

 

ダイは首を振る

 

「そうじゃないだろ、お前はオレ達に気を遣ったんだ……そうだろ?」

 

「……何故そう思う?」

 

バーンの返しにダイははにかんだ

 

「だって……紅魔館はお前の家じゃないか」

 

紅魔館はバーンの住む場所、そこから居なくなる理由が無い

 

だからダイは残る日数を自分達に気兼ねする事無く過ごせるように配慮したバーンの気遣いだと確信していた

 

「余を誰だと心得る……そんな筈がなかろうが」

 

バーンに変化は無い、その表情からは読み取る事は出来ない

 

「そっか、じゃあ……そう思っとくよ」

 

真偽はどうだっていい、そう信じたかったダイはそれ以上は追求せずまた微笑む

 

「……そんなお前に会いに来たんだ、最後だから」

 

「そうか、ならば用は済んだな……さっさと行くがいい」

 

バーンの促しにダイはまた首を振った

 

「まだだ……まだお前に言いたい事があるんだ」

 

ダイは意を決し、その言葉を告げる

 

 

「ありがとう」

 

 

言えなかった言葉

 

情けない自分が最後まで言えなかった……

 

感謝の言葉

 

「お前のお陰でオレは立ち直れた、生きる理由に力を貰えた……!」

 

「……」

 

「お前が……オレに勇気をくれたんだ!」

 

黙するバーンを前にダイの言葉に力が籠る

 

「本当に嬉しかったんだ!間違ってないって言われて、オレのままでいいって言われて……オレは救われたんだ!!」

 

絶望に沈んでいた魂を引き上げてくれたバーンにダイは深く果てしない感謝していた

 

「ありがとうッ……バーン……!」

 

竜の(こうべ)が下げられる

 

勇者が大魔王に贈る禁忌の所業

 

 

……否

 

 

今は何の位も肩書きも無い、ただの人間として……ダイからバーンへの礼儀だった

 

 

「……くだらぬな」

 

バーンは言う

 

「お前の感謝を求めたつもりは無い、恩を着せたつもりもな……するだけ無駄だ、何の価値も無い」

 

その言葉に嘘は無い、バーンは本当に自分が気に入らなかっただけだったのだから

 

感謝を言われても何の感慨も感じない

 

「いいよ……オレが勝手に思ってるだけだから」

 

ダイもそれはわかっているからすぐに顔を上げた

 

「それに……ヒュンケルを治したのもお前なんだろ?」

 

「……」

 

バーンは答えない、肯定も否定もしなかった

 

「やっぱり……何となくだけどそうだと思ったんだ」

 

証拠など無いがダイはそう感じていた、そしてバーンの今の様子で確信した

 

「みんなには言わないよ、そうして欲しいんだろ?」

 

「……」

 

やはりバーンは答えないがダイは勝手に自分の内に秘めると決めて微笑んだ

 

「ちっ……」

 

こうなってはいくら否定しようが意味は無いし事実でもある事がバーンに面白くない舌を打たせる

 

「……」

 

バーンがダイを睨む

 

「ならば余もついでに聞こうではないか……」

 

ただ唯一わからなかった事がバーンにはあった

 

「お前は何故、地上を去らなかったのだ?」

 

最終決戦のあの時、自分に言った「人間がお前の言う通りならお前を倒して地上を去る」と言うあの覚悟の言葉

 

バーンの予言の通りとなっても地上を去らなかった理由を

 

「それは……」

 

ダイは口ごもる、その顔に辛さと悲しみが浮かんでいる

 

「……言いたくなくば言わずともよい」

 

「違うんだ!そういう訳じゃない……ただ、まだ会えてないから……」

 

「……誰にだ?」

 

バーンは見当がつかない

 

それもその筈、あれはダイしか知らない、ダイだけが交わした二人だけの約束だったから

 

 

「ゴメちゃんを……探してるんだ」

 

 

それがダイが迫害を受けながらも地上に残り続けた理由

 

(……神の涙か)

 

バーンが握り潰した生きた道具

 

最後に世界中の人間の心を繋げる大奇蹟を起こした……ダイの友達

 

「約束……なんだ、絶対にまた見つけるって……ゴメちゃんとの……」

 

神の涙は叶えた年月の分だけ復活に時間が掛かる

 

次に現れるのは約10年、まだ半分程しか経っていない

 

「だから……」

 

待ったのだ、また神の涙が現れるのを地上で

 

探したのだ、もしかしたら10年よりも早く復活するかもしれないし復活する世界で最も穢れの無い場所が決まっているわけでもないから

 

ダイはただあの日の約束を守り、友達を探し待ち続けていただけに過ぎない

 

そこに悪意が襲ったのだ

 

「そうだったか……」

 

その意味をバーンは理解する

 

(それならば……道理か)

 

そしてバーンは深く納得した、例え迫害されようとも逃げない理由の重さを

 

「友との約束ならば……是非もなかろうな」

 

今ならその想いがわかるから

 

「約束を果たしたその後はどうするつもりだ?」

 

「……ああ」

 

ダイは言った

 

「もう……決めてる」

 

決意を持って

 

「……そうか」

 

その顔を見たバーンはダイの覚悟を知り、その内容が聞かずとも恐ろしく辛く困難な道だと感じ取れた

 

(それでもお前は行くのだな、棘の道だとわかっていても尚、己の決めた道を覚悟を持って……真摯に……)

 

そしてそれをもう曲げる事はないとも知っていた

 

(それでこそ……どんな困難にも恐れぬ不屈の姿、それこそが……余が恐れ求めた……男の姿……)

 

地上を去ると決めた時と同じ覚悟にもはや言う事は何も無いのだから

 

(進むがいい、それがお前の魂からなる決意の道ならば……突き進め、迷う事無く……)

 

言う事は無い

 

(……だが)

 

無い、筈なのだが

 

「…………」

 

バーンは目を閉じ、少しの沈黙が訪れる

 

 

 

「……そろそろオレ……行くよ」

 

皆を待たせているダイはこれ以上居られないと告げ、動き出した

 

「待て」

 

それをバーンは呼び止めた

 

「お前の歩む道は棘の道だ」

 

「……」

 

見抜かれていると知ったダイはバーンを静かに見つめている

 

「歩んだ道の何処かでまた悪意に傷付き……心が迷う事もあろう」

 

「……」

 

ダイは何も言わず聞いている、いや……何も言えなかった

 

「そんな時には……」

 

「……!」

 

見とれてしまっていたのだ

 

「また……幻想郷に来るがいい」

 

その余りに優しきバーンの表情に……

 

「ッ!!?」

 

言葉にならない

 

ダイにとってそれは本当に衝撃で真に心へ響く言葉だった

 

(余は何を……何故あのような事を……)

 

バーンも思わず出た言葉に内心で狼狽えている

 

それは二人の間に何かが芽生えたからなのかもしれない

 

勇者と大魔王という因縁を越えた何かが……

 

 

「……ッ!?」

 

ダイは拳を握り、震えた

 

嬉しかった

 

あのバーンが辛くなったら来いと言ってくれた事が堪らなく嬉しかった

 

勇者としてではなくダイとして心配してくれている

 

掛け替えの無い絆を強く感じさせてくれている

 

「嬉しいよバーン……本当に、嬉しい……」

 

だが……

 

「けどもう……幻想郷には来ないよ」

 

その優しさをダイは払った

 

「決めた事なんだ……」

 

それがダイがハドラーが帰る前日に皆へ言った決意

 

幻想郷へは二度と来ないという……覚悟だった

 

「だから……ごめん」

 

己の道を生きると改めて決めたダイだったがその道は険しいともわかっていた

 

苦しい時、そこに幻想郷という逃げ道があれば行ってしまうだろう

 

だがそれは甘え

 

決して諦めない勇者の在り方を揺るがす甘い逃避の道だから

 

故に背水を決めたダイの真の覚悟とは幻想郷との永遠の別れだったのだ

 

(ならば……他の奴等も同様か)

 

バーンの想像通り他の者もダイの決意に合わせ幻想郷には行かないと決めていた

 

だから別れの際に誰も次に会う時の事を言わなかった、幻想郷の者達も言わない事に察して誰もまた来いとは言わなかったのだ

 

 

 

 

 

「……そうか」

 

バーンはダイを真っ直ぐに見つめる

 

「……」

 

「……」

 

互いの視線が交差し、ダイは覚悟を見せ、バーンはその覚悟を見る

 

 

二人違う場所でしか叶わぬ夢を持っていたから

 

僅かな時間しか残っていないと……わかったのだ

 

 

「澄んだ目だ」

 

バーンは言う

 

「あの日と同じ……気に入らん目だ」

 

身を翻し、バーンは告げる

 

「失せろ」

 

恐ろしく冷たい拒絶の言葉にダイは驚き立ち竦む

 

「そして二度と幻想郷に姿を見せるな……貴様の顔はもう見たくない」

 

「……!!」

 

だがすぐに理解した

 

「ああ……わかったよ……」

 

それが自分に贈れるバーンなりの激励の言葉なのだと

 

 

ブンッ……

 

 

直後にダイの背後へスキマが開かれる

 

「……」

 

「……」

 

二人に言葉は無い、背を向け合い流れた無言の一瞬が永遠の別れを酷く儚く感じさせる

 

「……」

 

スキマに入る直前、ダイはバーンへ振り向いた

 

 

 

 

""さよなら……バーン""

 

 

 

 

それが……バーンが聞いた最後の言葉

 

 

そして……ダイが残した最後の言葉だった

 

 

 

 

「……余の最大の宿敵よ」

 

去った後にバーンは太陽を見上げ、もはや永劫に届かぬその言葉を紡ぐ

 

 

 

 

 

""さらばだダイ……強く生きるがいい""

 

 

 

 

 

永遠の別れの言葉を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-カール王国-

 

「ダイ君に会わせてよぉ……」

 

レオナはずっと泣いていた

 

「もう少し待ってくれ姫さん……絶対ダイは帰ってくるからよ」

 

慰めるがレオナは泣き止まない

 

「ダイ君に会えないなら死んでやるんだからぁ!」

 

「物騒な事言わねぇでくれよ……」

 

困り果てたポップがもう限界だと感じ始めた直後だった

 

 

「そうだよレオナ、そんな事言ったらダメだよ」

 

 

スキマが開き、ダイが姿を見せた

 

「ダイ君ッ!!」

 

レオナが抱き付く

 

「心配……かけたよね、ごめん」

 

ダイも抱き返しあやすようにレオナの頭を撫でた

 

「本当よダイ君!すごく心配したんだからぁ!」

 

ダイの胸で大いに泣くレオナに嬉しい笑みをダイは浮かべる

 

「ごめん……でももう大丈夫だから、オレはもう……負けない」

 

安心させるように強くレオナを抱き締めた

 

「いやぁめでたいですねぇ、甘酸っぱい光景に私もフローラとの昔の蜜月を思い出しちゃいましたよ」

 

アバンが和ませるように笑いフローラに太股をつねられる

 

「コホン……では軽く食事でもしながら聞かせて貰いましょうか、皆さんの大冒険を、ね」

 

「だな……聞かせてぇ土産話がたっくさんあんだよ先生!」

 

食堂へ向かう為に皆は立ち上がった

 

「ちょっとレオナ放してよ、歩きにくいって」

 

「嫌よ、もう放さないから!」

 

レオナはダイを掴んで放さない

 

「そうよ、逃げられないようにずっと掴んどきなさいレオナ」

 

「はいフローラ様!」

 

「まいったな……」

 

笑いながら歩む元の世界

 

「アバン先生」

 

「ん?どうしましたダイ君?」

 

「うん……決めた事があるから後で話すよ」

 

「そうですか……わかりました」

 

 

 

「あ、私もあります!」

 

「レオナさんもですか?」

 

「はい、私はパプニカ王国としてですけど」

 

「……レオナ女王として、ですか……何やら嫌な予感がしますねぇ」

 

 

 

 

大冒険は今……終わったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-幻想郷・鈴奈庵-

 

「……」

 

稗田阿求は幻想郷の歴史を書いていた

 

今回の勇者来訪という異変ではないが残すべき記録として編纂していた

 

「…………」

 

スラスラと書かれていた手が突然止まる

 

「やはり……やめましょう」

 

筆が置かれる

 

(試合を記録した魔道具……見れなかった者達が見た後に壊すらしいですし、文さんが撮った写真も全て……)

 

勇者達が来た痕跡は全て無くなっている、闘技場も解体予定

 

(一時の幻、夢幻だと……そう言いたいのでしょう、証明するものの無い御伽噺にする気ですか)

 

阿求は頬杖をついて微笑む

 

(幻想郷の語られぬ歴史、言わば秘伝……それで、それくらいがいいのかもしれません)

 

窓から太陽を見上げる

 

(永遠に消える事の無い……心の思い出くらいで)

 

書いていたページは黒く塗り潰され、阿求はいつの間にか居なくなっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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太陽が輝いている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやいやしかし……困りましたね、ああ忙しい忙しい」

 

カール国王アバンは多忙に喘いでいる

 

(ダイ君の方はともかくとしてもレオナさんがこんな大変な事を考えていたとは……あのダイ君の件で踏ん切りがついたのでしょうね、きっと……)

 

忙しさと応援したくなる慈しみを合わせアバンはヤル気に満ちる

 

「国王様、次はこの書類に目を通してサインをお願いいたします、期限がありますのでお早めにお願いいたします」

 

大量の書類を持って来られる

 

「えっ!?まだこんなにあるんですか?」

 

「まだまだありますよ、三国に関する事ですから」

 

「そ、そうですか……」

 

嫌な汗を流すアバンに追い打ちがかかる

 

「アバン?そろそろ会談に向かう時間よ?」

 

「あれ!?もうそんな時間でしたかフローラ!?わ、わかりましたすぐ準備しますね……君!道中に書類を片付けるから申し訳ないですが纏めといてください!あー忙しい忙しい」

 

 

 

あの大冒険から1年が経っていた

 

 

 

「ふぅ……残りは会談の帰りにやりましょうかね」

 

一息ついたアバンは紅茶を飲みフローラを見る

 

「今回の会談で正式に決まるでしょう、カール合衆国が、ね」

 

「長いようで早かったわね」

 

ダイの居る世界には変化があった

 

「しかし三国合併とはレオナさんも思いきった事をしましたね」

 

「そうね、まさか私達が三国を束ねるなんて思いもしなかったわ」

 

パプニカ王国の女王レオナがテランの国と共にカール王国と合併される事を提起したのだ

 

「竜の騎士を信仰するテランは国として体をなしておらず脅威に晒されていました、滅ぼされる前に保護するのは私も考えてましたがレオナ女王が退位しパプニカ王国まで加わるとは予想外にも程があります」

 

「お陰で私達はこの1年忙殺の日々だったわね」

 

思い出し二人は苦笑する

 

「カール合衆国が形になり、世界が安定したのも……全てダイ君のお陰です」

 

「ええ……そうね」

 

ダイに怯えていた世界、今は平和になっている

 

「デルムリン島から出ない……か」

 

「あの若さで世捨て人とは……惨いものですよ、世界の畏怖を一身に引き受けて……」

 

ダイが決めた覚悟

 

それは世界との関わりを断つ事だった

 

「ですがそうしなければダイ君はおそらく……世界に殺されていた」

 

ダイが自らをデルムリン島に隔離した事を各国の王達が協力してダイは死んだ事にされ、出身であるデルムリン島は禁域とされ厳重な結界を張られ立ち入りはごく限られた者以外禁止にされた

 

目下の脅威が死んだとされ恐怖が消えたと感じ民は大いに喜んだ、それは竜の騎士を信仰するテランをカール王国に合併するという問題を問題と思わぬ程であった

 

そうして世界は確かに平和になった

 

勇者の自由を引き換えに……

 

「ただ救いなのは……ダイ君は決して人間を見限ったのではないという事だけです」

 

ダイはアバンに、皆に言っていた

 

 

人間が好きだから距離を取るのだと

 

それで人間が幸せならそれでいいと

 

それが決めた自分の生き方なのだと

 

 

「それでもやるせないですよ……これ程自分の無力を呪った事が無い程に」

 

「……これからよ、いつか勇者が何の不安も無く帰って来れる日を作るのが私達が課せられた義務ね」

 

「ええ……わかっています」

 

いつか勇者が拒絶されない世界を夢見てアバンは意気を改める

 

「それにしても……レオナさんは上手くやりましたねぇ、王位と仕事を私達に押し付けてダイ君について行っちゃいましたからねぇ」

 

「恋は盲目と言うから仕方ない事かもしれないわ……それが若さ、眩しいわね」

 

「そうは言いますが放すなとさんざん焚き付けたのはフローラ貴方でしょう?」

 

「だから私も貴方と一緒に頑張っているのよ」

 

「……それを言われては仕方ありません」

 

また二人は笑う

 

「まぁ構いませんとも、面倒事は私達に任せて若者は自由にすればね……新しい時代を作るのは老人ではないのだから」

 

「ええ……そうね」

 

太陽が世界を照らす……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この後の歴史にはおよそ一世紀、100年の月日の間は平和が続いたとされる

 

後の世で伝説とされる者達が生きていた時代

 

その軌跡はいつまでも語り続かれる……

 

 

 

 

 

マァム

 

[幻想郷で未熟を恥じた彼女は元の世界に帰った後も常在戦場の心掛けを忘れる事無く鍛練に励んだ

 

その最盛期は並ぶ者は存在しないと言われた比類無き武道家、オリハルコンを素手で破壊する鍛えぬかれた四肢を積み重ねた圧倒的な技量で繰り出す進化発展させた武神流に討てぬモノは無しとまで語られる慈愛の武神

 

間違いなく世界最高峰の一角

 

尚、その生涯の伴侶については独身だったとも戦士か大魔道士と結婚したとも言われ謎に包まれている]

 

 

 

 

 

 

ラーハルト

 

[その存在は知る人のみぞ知る稀代の槍の名手

 

その出生からか滅多に人の世に姿を見せる事が無く、達人にすら影を拝ませぬ速さで魔物を討つ様子から神速と恐れられている

 

仕えた主と秘境で暮らし、その生涯を捧げた忠義の者としても伝えられている

 

語られる最高峰の一角]

 

 

 

 

 

 

 

 

クロコダイン

 

[陸戦騎と同じく秘境で住んだとされる魔物

 

人間に友好的であったとされ幾多の戦いにおいて盾となり続けた、その姿に人間は敬意を持って獣王とは異なる王として獣帝の名で呼ぶようになった

 

鍛え抜かれた強靭な肉体は屈する事を知らない不沈艦、どれ程の数、どれ程の相手の攻撃から仁王立ちしようとも膝をつく事も無かったと言われている

 

時代の最高峰の一角

 

真偽はわからないが幻想から来た鬼の押し掛け女房が居たとか居なかったとか……]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒム

 

[世代を経て今もなお続く獣王遊撃隊の初代メンバーにして今だ現役の生ける闘神

 

天性の格闘センスを努力が磨き、父譲りの魔法を組み合わせた魔闘技に敵う者は居ない

 

時折、花を見て苦く思い耽る最高峰の一角]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

チウ

 

[世界最強の傭兵部隊と言われる獣王遊撃隊の隊長

 

その小さな体に似合わぬ怪力から繰り出される攻撃は当たればオリハルコンすら豆腐のように粉砕し竜の闘気すら貫き悶絶させるらしいが中々陽の目は当たらない

 

秘境を本拠地として秘境の殆どの魔物は遊撃隊の隊員であり非常に慕われている

 

個人としては最高峰ではないがヒムを擁する遊撃隊の隊長としては最強と言われている]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒュンケル

 

[世界を流離う最強の戦士として名が残っている

 

その最盛期における心技体全てを極めし無双の剣技はかつて存在した伝説の竜の騎士に勝るとも劣らないと言われる

 

だが勝った事は無いと言っていたのを誰かが聞いた事があるらしい……

 

世界の危機に集う最高峰の一角]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ポップ

 

[その生涯を魔法に生きた勇気の大魔道士

 

この先、どれ程の天才が現れようとポップを越える者は絶対に現れないとまで断言される黒白天と紫天が導いた至高の魔法使い

 

その人間の生を最期まで魔法の探求に使い、最期まで三人の魔道の師への尊敬を抱き続けたとされる

 

 

歴史の中で一度、秘境近くの巨大な無人島が消滅した事件があり犯人はポップであった

 

『ダチと喧嘩しただけさ』

 

そう語るも相手は不明でありポップも語らなかった事から真相は不明

 

『どっちが勝ったかって?俺だよ!……ようやく横に並べたなぁ……』

 

真相はもはや……幻想の彼方]

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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~永遠の時の中の一幕~

 

 

 

 

 

-秘境・デルムリン島-

 

「よぉ皆!久し振りだな!」

 

壮年の男が集まった皆に声をかける

 

「おせぇぞポップ!」

 

「遅刻だぞ~!」

 

迎えるヒムとチウ率いる獣王遊撃隊

 

「また少し老けたなポップ、マァムはそうでもないが」

 

「そんな事ないのよクロコダイン、30越えてから酷いんだから」

 

クロコダインとマァム

 

「ラーハルトがいねぇじゃねぇかよヒュンケル?」

 

「あいつはいつも通りだ、わかるだろう?」

 

ヒュンケルの答えに確かにそうかとポップは納得した

 

「全員集合なんていつ振りだ?幻想郷の時以来か?」

 

「そんな事ないわよ、たまに会ってたじゃない」

 

「そうだっけ?年単位の話だから忘れちまうぜ」

 

あの幻想の大冒険より18年が経っていた

 

「んじゃま揃ったし行こうぜ」

 

6人はデルムリン島の奥へと進む

 

「戦況はどうだポップ?」

 

「皆のお陰で悪かぁないが油断は出来ねぇ状況だ、ここまで膠着すっとは思わなかったぜ」

 

「ヴェルザー、バーンに続く三人目の大魔王が率いる魔王軍か……」

 

世界はまた危機に直面していた

 

雌伏の時を経て始動した新たな大魔王が地上に侵攻してきたのだ

 

ただ備えていた地上の戦力により侵攻は水面下で止められており国の軍や一部のみぞ知る事であり民の殆どが侵攻を知らない

 

「お!居た!ラーハルトと姫さんだ」

 

「いつまで言ってるのよ、もう姫でも女王でもなくなって何年経つと思ってるの」

 

奥地にある崖の下でラーハルトとレオナが居る

 

「久し振り姫さん!おチビは?」

 

「ポップ君久し振り!今はブラスさんと勇儀姉さんが見てくれてるわ」

 

「そっか、後でちょっくら遊んでやるかな」

 

「イジメないでよね」

 

ジト目で睨むレオナへ微笑むとポップは崖の上へ向かって叫んだ

 

「おーい!ダイー!」

 

崖の上に居る者は反応し返事を返した

 

「ポップ!」

 

忘れられた勇者が……

 

 

 

 

 

ダイ

 

[幻想の大冒険から帰還した後、宣言の通り世界と関わりを断ちデルムリン島で自ら世捨て人となった最強の竜の騎士、世がどれほど良くなろうと覚悟を決めた生き方を貫き通し、その生涯を終えたと後年、発見された大魔道士の手記に書かれていたらしい]

 

 

 

 

「どうしたんだよ?話に聞いてる新しい魔王の事?」

 

壮年になり幼さも消え落ち着いた大人になった勇者

 

「そうそう!手強いからちっと手伝ってくんねぇかー!」

 

「わかった!」

 

即決でダイは答えた

 

 

 

[後世の歴史において竜の騎士の存在は消えた、しかし……英雄達とは異なる謎の男の姿が時折確認されている]

 

 

 

「わりぃな!こんな時だけよ!」

 

「いいよ!気にするなってポップ!」

 

 

 

[世界に危機が訪れた時にのみ現れ、人知れず世界を救う……英雄達と一部の者だけが知る謎の男]

 

 

 

「地上は先生と遊撃隊や弟子達に任せて俺等は魔界にカチコミかけようと思ってんだ!」

 

「久々に最強パーティーの復活って事か!」

 

 

 

[その男が居たからこそ世界は平和だった……世界に忌み嫌われた竜の騎士が世界の為に己の決めた生き方を貫いたからこそ平和がある]

 

 

 

「ゴメちゃんも一緒に行こうよ!」

 

ダイは肩に声をかける

 

「ピイッ!」

 

約束の友が嬉しそうに返事を返す

 

 

輝く太陽が竜の未来を照らす……

 

 

 

「……」

 

不意にダイは何かを感じ、太陽を見上げた

 

(大丈夫さ、皆が……お前が灯してくれた勇気の炎は……永遠に消えない)

 

幻想の彼方に居る大いなる者へ向けて想いを飛ばす

 

(オレはひとりじゃないから、みんなが、お前の想いが……オレに生きる力をくれるから)

 

想いはそっと風にのって飛んでゆく

 

(だから……行くよ)

 

 

 

 

 

 

 

幻想の彼方まで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  "いつか描いていた明日へ

 

 

            もう一度歩き出そう〟

 

 

 

 

 

 

 

 

  "例え全てを失っても

 

 

          何かが生まれると信じて〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

バーンは空を見上げている

 

(繋がりは断えた……もう会う事は二度とあるまい、今……こうしている内にも向こうでは数十、数百年経っているかもしれん)

 

ただ想う

 

最大の宿敵だった男の事を

 

(そう、もう会う事は無いのだ……)

 

宿敵との永遠の別れは何故か酷く切なく、寂しさをバーンの心に残す

 

(もし再会が叶うとするならば……死した後か)

 

同じ所へは行かないとわかっている

 

それでも思う

 

(その時はまた……飲み交わすのも悪くはなかろう)

 

太陽を見上げ、微笑み、目を閉じる

 

 

 

 

 

「おー!いたいた!」

 

 

声がかかる

 

 

「やっぱここだったな!なぁ皆!」

 

「良かった、終わってるみたいね」

 

「邪魔しちゃ悪いもんな」

 

それは知る者達の声

 

誰よりも、何よりも大事な者達の声

 

因縁よりも強く、勇者をも越えた……

 

 

友の声

 

 

「……フッ」

 

バーンは薄く口角を上げ、振り返り

 

「遠慮というものを知らんのか、少しは浸らせろ」

 

友に笑顔を見せた

 

「つれねぇ事言うなよ、慰めに来てやったんだからよ!」

 

「ふん、余計な世話だ」

 

「へっ!そうかよ!悪かったなバーン!」

 

魔理沙は笑う

 

「ゆっくり来るつもりだったのだけどチルノに急かされてね」

 

「構わぬ」

 

「そう、なら良かったわ」

 

パチュリーも笑う

 

「バーン!!」

 

「やっと見つけたー!」

 

「あ、あ……私も!」

 

チルノ、フラン、大妖精が抱きつき頭を撫でられる

 

「もういいんだろ?全部?」

 

「ああ……全て終わった」

 

「そっか、よかったな」

 

妹紅も晴れやかなバーンの顔に笑顔になる

 

「では……行きましょバーン」

 

レミリアが手を差し出す

 

「ああ……そうだな」

 

その手をバーンは取った

 

 

 

 

その時、輝く太陽が王達を照らし

 

小さな奇蹟を起こす

 

 

 

『みんなとなら……』

 

「お前達となら……」

 

 

 

勇者と大魔王の言葉が重なる旅立ちの福音

 

もう交わる事の無い二人の道の始まりを司る奇蹟の旋律

 

 

 

「『何処までも』」

 

 

 

序曲のファンファーレが鳴り響く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      閃光のように一瞬……だけど

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          永遠に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-エピローグ-

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さん!」

 

小さな仔竜が声をあげる

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「「父上!」」

 

小さな双生の魔子が声をあげる

 

 

 

 

 

 

 

 

「お父さんより強い人っているの?」

 

何の意図も無い

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「父上より強い者が居るのですか?」

 

純粋な疑問

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ああ、居るよ」

 

親竜は誇らしく微笑んだ

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

「……幾人か居るが、そうだな……敢えて言うのならば」

 

親魔は遠き記憶に想いを馳せる

 

 

 

 

 

 

 

 

二人の親の声は時を越え……重なった

 

 

 

 

 

 

 

     ''大魔王さ,,    "勇者だ,,

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  "きっと二人の再会も……

 

 

           遠い日の奇蹟だったから〟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                 秘伝 -完-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お待たせしました、最終回となります。

しかしこんなに長くなるとは思ってなかった……楽しんでいただけたのならば幸いです。

これにて本当の更新終了です。
名残惜しい気はかなりありますがもう話を作る事が出来ないので本当に終わりです。

お付き合いいただきありがとうございました、また何処かで……



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