東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 前奏曲(プレリュード)

 

 

 

 

-竜の住む町・コーセルテル-

 

「……ッ!?」

 

大柄の魔族の男が全神経を集中している

 

「ムゥ……!!」

 

完全なる装備をその身に纏い手にした様々な武器を振るう

 

「ヌゥゥゥゥゥゥッ……!!」

 

気合いを溜め武器を構える

 

「オアアアアアアアアーーーーッッ!!」

 

会心の一撃!

 

「……よし、出来たぞ」

 

戦いの終わりに男は晴れやかな顔で汗を拭った

 

「我が全身全霊の傑作、ケーキドラゴン「竜王」の完成だ!」

 

お菓子作り(戦闘)は男の勝利で幕を閉じた

 

 

 

 

 

『まさか竜王様をケーキで再現するなんて……なんと不敬な』

 

内なる聖母竜が溜め息を吐く

 

「この程度で怒るほど奴の器量は小さくあるまい」

 

『ですが食べるのでしょう?自分の姿をしたケーキを食べられるはさすがにいい気分ではないのではありませんか?』

 

「……言われてみれば確かにそうか、ヌゥ……奴には内緒だぞ聖母竜」

 

『言えませんよこんな事……しかしとんでもない出来ですね、色も竜王様の細部も完璧に再現してあります、本物に見えて私少し本能が怯えてます』

 

「お前にそう言わせれたのなら上出来だな」

 

男は水を飲みながら一息つく

 

「俺達だけで食べるのは勿体無いな、バーン様達と食べるとするか」

 

『良いですね!そうしましょう!』

 

「よし、そうと決まればケーキを運ぶ準備を……」

 

男が立ち上がろうとしたその時、空間に小さく開いたスキマから手紙が男の元に落ちた

 

「噂をすればか……レミリアから手紙だ」

 

『何て書いてあるんですか?まさかまた幻想郷が危機に陥っているなんて事じゃありませんよね?』

 

「今読む……中には便箋と映像を記録した魔道具が入っているな、便箋には……魔道具を見ろと、見たら消せとだけ書いてある」

 

『どうやら危機ではなさそうですね、見てみますか?』

 

「そうだな、お茶でも飲みながら見てみるとしよう」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・魔族鑑賞中・・・・・

 

 

 

 

 

 

「……」

 

見終わった後、男は茶を飲み干した

 

 

バキャ

 

 

映像魔道具は握り潰された

 

「ジゼル!!」

 

娘の名を呼び立ち上がる

 

「はーい!どうしましたー?」

 

呼ばれた娘の仔竜が足早にやって来た

 

「幻想郷へ行ってくる、一人で留守番出来るか?」

 

「私も行きたいです!」

 

「ならん、俺の個人的な理由で行くのであって遊びに行くわけではないのだ」

 

「……!?」

 

ジゼルと呼ばれた娘は男から怒気を感じ我儘を言う時ではないし聞いてくれないと察した

 

「わかりました!お気をつけて!」

 

「良い子だ……すぐに戻る」

 

男は身に付けていた装備であるエプロンを豪快に外し、準備を始める

 

 

「何をするか聞いてもいいですか……?」

 

手伝う娘が問う

 

「聞きたいか……?」

 

「や、やめときます……」

 

恐ろしくなってジゼルは冷や汗を流しながら首を振った

 

「そう怯えるなジゼル、ただ俺は……」

 

男は装備したマントを翻し進む、その背に怒気を纏わせて

 

「息子の再教育に行くだけだ」

 

魔王……出陣!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こうなった経緯は数時間前に遡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-幻想郷・紅魔館-

 

「ハッ!?」

 

ダイは飛び起きた

 

「……」

 

ベッドの上で周囲を見渡す

 

(赤い部屋……紅魔館の部屋だきっと、寝ちゃったのかオレ……)

 

状況を理解したダイは大きく深呼吸して誰も居ない部屋を見渡す

 

(居るわけないよな……)

 

寝てしまう直前に一緒に居た者がまだ居るのを期待したのだ

 

(……こんなんじゃまた甘ったれてるなんて言われちゃうな)

 

苦笑するとドアがノックされた

 

「オーイ起きてるかーダイー?もう昼前だぞー」

 

ポップの声だった

 

(……!そんなに寝てたのかオレ)

 

心労からここ数年程まともに寝れていなかったのに何の心配無くグッスリと眠れた事に驚いた

 

(感謝しかないよ……ホントにさ……)

 

幻想郷に、そしてその最たる原因であるバーンに想う

 

「ダイー?」

 

「あ、ごめんポップ!今行くよ!」

 

部屋の外へ足早に駆けて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方達今後の予定は?どう過ごすか決まってるの?」

 

紅魔館の食堂で一行は軽い昼食を一緒に取っていたレミリアに問われる

 

「鍛えるつもりでいるぜ、いわゆる修行パートってヤツだな」

 

「ふぅん……良いんじゃない?弱っちぃしね貴方達」

 

「ほっとけ!だから鍛えるんじゃねぇか」

 

「それもそうね、無駄な努力にならない事を祈ってあげるわ感謝しなさい」

 

「……おめぇもしかして悪口と金持ちの頂点なんじゃねぇのか?ホントに強いのかよ?」

 

「試してみる?」

 

「冗談だ、それがわからねぇほどバカじゃねぇさ」

 

「残念ね、墓標を作り損ねたわ」

 

「ハハ、自分で言っといて肝冷えたぜ……あーおっかねぇ」

 

ポップとレミリアは笑う

 

「誰か指導してくれるの?」

 

「あーそれな!俺は魔理沙とパチュリー大先生でマァムは美鈴さんだ、今更だけど美鈴さん借りても良いかい?」

 

「なら門番の仕事には暇を出しといてあげるわ、ミストが居たら充分だしね」

 

「良いのかよ!?よかったなマァム!」

 

「ありがとうございますレミリアさん!」

 

マァムは昼間から指導を受けれる事になった

 

「えーとそんでヒュンケルとラーハルトが妖夢と技術交換すんのとチウがフランドールと一緒に筋トレするんだってよ、おっさんとヒムとダイは決まってねぇな」

 

「へぇそう……」

 

レミリアは少し考える

 

(指導役か……)

 

一行の素性を考えた時にある男が浮かび上がる

 

「どしたよレミリア?なんか問題あんのか?」

 

「気にしなくていいわ、それより決まっていない3人はどうするつもり?」

 

「ひとまずは自己鍛練って形だな、おっさんは何か考えてる事があるんだっけ?」

 

ポップがクロコダインに促す

 

「うむ、腕力と耐久力を伸ばそうと思っているのだが腕力は幻想郷じゃなくても伸ばせるから耐久力を鍛えようと思っている、皆の盾にならんとな」

 

クロコダインは主に防御力を鍛えようと考えていた

 

「そこで勇儀と萃香の鬼二人と神奈子に協力して貰おうと思っている」

 

「何する気?神奈子はともかく鬼の二人は指導には向かないわよ?」

 

「それはわかっている、3人の攻撃を耐えきる修行をしようと思ってな」

 

「ああ……それなら指導力なんて関係無いわね、でもまさかサンドバッグに志願なんてね……狂気の類いよその行為は?」

 

「それが俺の覚悟だという事だ」

 

クロコダインの覚悟の修行は決まった

 

「俺は一人でやるぜ」

 

ヒムが手をあげる

 

「幽香にフラれたものね貴方」

 

「うっせぇほっとけ!」

 

レミリアはヒムを見つめる

 

「……ふぅむ」

 

「あん?何だよ?」

 

「いえ別に」

 

「何なんだよ……」

 

訳がわからずヒムは困惑に喘いだ

 

「ダイはどうすんだ?一緒に修行すっか?」

 

「うーん……どうしようかな」

 

「つってもおめぇの場合は相手が問題か、バーンくらいじゃねぇと実入りは少ないもんな」

 

「そうなんだよなぁ……みんなの手伝いでもしようかな」

 

相手が居らず相手も選ぶダイがそう呟いた

 

「待てよ!私達が相手してやるよ!」

 

食堂のドアが開き妹紅、ロラン、ルナの3人が入って来た

 

「良いかなダイ君?」

 

「私はチウさんのお手伝いしに来ましたー」

 

3人が席に座るとテーブルに紅茶が出現した、咲夜様々である

 

「それは、良いですけど……」

 

ダイは不安な顔をする、強過ぎる力で怪我をさせてしまうと思っている

 

「あんま舐めないでくれよ?そりゃバーンには及ばないけど二人がかりでお前にも勝った事があるんだからな」

 

「え!?オレいつ負けたの!?」

 

「その話は追々話そう、それでどうかな?僕としては是非お願いしたいくらいなんだけど……それに教えたい事もあるしね、勇者の気構えとか、ね」

 

「……!よろしくロランさん!妹紅さん!」

 

ダイの相手も決まり握手を交わす

 

「待てダイ、ロン・ベルクが鞘を作ってやるから剣を見せに来いと言っていたぞ」

 

「本当!?じゃあ先にそっちを済ませるよ!いいかなロランさん妹紅さん?」 

 

「ああ構わないよ、行ってくるといい」

 

「待て待てロラン、ダイは白玉楼行った事無いだろ?案内してやろう、暇だしさ」

 

ダイは先にロンの用事を済ませる事になった、鞘を新調して貰えるとわかって上機嫌

 

「相手居ねぇのは俺だけかよ、まぁいいけどよ」

 

ヒムのぼやきが昼食の終わりとなって各々幻想郷の各地へ散って行った

 

 

 

「……」

 

食堂に一人残ったレミリアは思案していた

 

(すっかり忘れてたわ……彼の息子だったわね確か)

 

新しく淹れた紅茶を飲みながら物思いに耽る

 

(次元は違うけれど一応親だし連絡しときましょうか、久し振りに会いたいし……ああそうね、言うより見て貰う方が面白くなりそうね)

 

咲夜を呼んだレミリアは手紙と映像魔道具を用意させ送るのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「では本格的な指導に入りましょうかポップ」

 

「よろしく頼むぜ大先生」

 

「はいこれ、私と魔理沙が煮詰めた貴方用のスペシャルハードコースの内訳よ、目を通しといて」

 

ポップはパチュリーから受け取った紙面を見て、血の気が引いた

 

「ま、待ってくれよ!24時間休み無しのぶっ続けで修行になってんのおかしいだろ!?内容もクソハードだし殺す気か!?」

 

「そりゃしゃあねぇよ、時間無いんだもんよ、けどこれをこなせたらお前は間違いなく私達に並べるぜ!」

 

「……成程な魔理沙、そりゃ完璧な計画だなぁおい、不可能って点に目を瞑ればなぁ!!」

 

「嫌なら辞めてもいいんだぜ?無理強いはしてねぇだろ?私もパチュリーもよ?」

 

「ッ……嫌とは言ってねぇだろ、ただもう少し手心をよ……くれっつーか」

 

「わーった!そこまで言うならベリーイージーコースにしてやるよ、弱っちぃ雑魚魔法使いのままで満足したいならそれでいいさ」

 

「その言い方はずりぃだろ……あーもー!わかったよ!やるさ!やりゃあいいんだろ!やってやらぁ!」

 

覚悟を決めたポップはやっぱり遺書を書いといた方が良かったと無意味な後悔をする

 

「ふふっ、まぁ出来る限りサポートはしてあげるわ、回復アイテムも用意したし寝たらザメハで叩き起こしてあげれるし」

 

「ああ……ありがたいぜ、生き地獄を体験出来るたぁよ……」

 

「至れり尽くせりね」

 

「はは……ははは……」

 

遠い目をして乾いた笑いしか出せなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私が教えるのは主に鍛練方法です」

 

門の前で美鈴がマァムに言う

 

「必殺技とかそういうのは無いです、何故かわかりますか?」

 

「……流派が違うから?」

 

「正解です、貴方は武神流の武道家ですので武神流を上達させるのが正しい道だからです、なので武神流に合った鍛練方法を伝授します」

 

「それなら帰った後でも出来るわね」

 

「そういう事ですね、ではまずはマァムさんの正確な実力を計る事から始めましょうか、鍛練の指標にしますので、それである程度目処が立ったら武神流にも無理無く取り入れれそうな技術も伝授しましょう」

 

「よろしくお願いします!」

 

スパルタなポップとは違い早くはないが確実に伸びて行ける修行方針のマァム

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……キッツイ……!?」

 

体に重りを付けて腕立て伏せをするチウが苦声をあげる

 

「うーんもうちょっと重くしようかな、慣れてきたなー1t」

 

同じ筋トレをしているフランはウォルターに重量の追加を頼む

 

「頑張ってくださいチウさん!」

 

「私も付き合うよチウ!」

 

「あたいはかき氷食べながら口出しするわ!」

 

大妖精、ルナ、チルノが見守る

 

「ありがとうみんな、頑張るよボク……チルノは帰れ」

 

「なにおー!生意気言う奴はこうだー!えいっ!」

 

チウの背に雪だるまが落とされる

 

「ぐえっ!?お、重っ!?んぐぐぐ……負けるかくそーーー!!」

 

覚悟が決まっているチウは崩れず筋トレを続行

 

「やるじゃんチウ!」

 

最強の後押しが小さな隊長の魂を燃やす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にいいのかクロコダイン?」

 

神奈子が正気を疑う顔で問う

 

「構わん」

 

既に覚悟が完了しているクロコダインの考えは止まらない

 

「私等相手にサンドバッグを志願なんて狂気の沙汰さね、酒で頭やられたかい?もしくはメダパニ食らってんのかい?」

 

「俺は正常だ」

 

萃香の問いにも毅然と答える

 

「……最後にもう一回聞くよ?いいんだね?」

 

「俺は一向に構わん!」

 

勇儀の最後の問いにも漢らしく答えた

 

「あっそう、なら遠慮無く行かせて貰うよクロコダイン……どりゃあ!!」

 

「ぐああああああああああッ!!?」

 

クロコダインは豪快に萃香に殴り飛ばされた

 

「こ、これが勇儀を越える最強の鬼の力か……ッ!?」

 

恐るべき力に打たれ一発でもう体はガタガタのクロコダインは頭上に浮かぶ御柱を視認した瞬間、落ちてきた

 

「ぐああああああああああッ!!?」

 

御柱に潰されまた絶叫をあげる

 

「ん~……よく考えたらあたしの攻撃に耐えきったクロコダインにあたしがやってもあんまり意味無いよねぇ……気絶したら膝枕の係になろうかねあたしは」

 

「ぐああああああああああッ!!?」

 

早く気絶しろと不謹慎に祈る勇儀の横で響くクロコダインの絶叫

 

「最終的にはフランの攻撃すら耐えきるのが目標だなんて言ってたけどこの調子じゃ居る間には間に合いそうにないねぇ」

 

「ぐああああああああああッ!!?」

 

元獣王の絶叫が響き続ける……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お待たせしましたラーハルトさん!ヒュンケルさん!」

 

待ち合わせた場所へ妖夢がやって来た、包帯も無く綺麗に傷は治っている

 

「怪我はどうした?」

 

「幽香さんに土下座して世界樹の雫を飲んで来ました!本当はあの傷は未熟の戒めで回復させない気だったのですがこの時間をどうしても怪我したままは嫌だったので仕方無く……」

 

「いや、むしろありがたい……これで憂い無く技術交換が出来るからな」

 

「そうでしょうそうでしょう!では早速やりましょう!」

 

誰よりもハイテンションの妖夢が楼観剣を抜き応じて二人も修復と手入れの代剣と代槍を手に取る

 

「私達の実力なら手合わせだけで言葉より理解出来ます、なので5割の手合わせから始めて最終8割でお願いします!」

 

「了解だ、俺から行かせて貰うぞラーハルト、魂魄妖夢とは戦ってみたかったからな」

 

「いいだろうヒュンケル」

 

実践形式での技術交換が始まり妖夢とヒュンケルの剣が火花を散らす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-白玉楼-

 

「おーいローン!ダイ連れて来たぞー!」

 

妹紅が開けた玄関で尋ねると奥から山盛りのご飯を乗せた茶碗を持った幽々子が顔を覗かせ続いてロンが顔を出した

 

「お前等も来たのか」

 

「付き添いだよ、ほらダイ」

 

「鞘を作ってくれるって聞いたよ、ありがとう」

 

「礼なんざ要らん、剣をよこせ」

 

ダイから剣を受け取るとロンは顔をしかめた

 

「……こいつは想像以上に気合いを入れないとな」

 

「え?何か問題があったの?」

 

「この剣を作った時以上に気合いを入れなきゃ壊れないが半端な鞘が出来るって事だ、当然だな……あの最後の魔法剣以上を視野に入れなきゃならんのだからな」

 

「出来そう?」

 

「馬鹿にするな、出来るに決まってる、だが時間は掛かる、3日では厳しいかもな……そしてダイ、鞘にも命を与え生きた鞘にする」

 

「鞘も?」

 

「ああ、そうすれば剣との親和性が生まれより強くより速くチャージが可能になるだろう」

 

「凄い……是非お願いします!」

 

「いいだろう、なら剣は預かる、言わば剣の兄弟とも相棒とも言える鞘を作るからな……その間はこれでも使え」

 

ロンは剣を投げ渡す

 

「見覚えあるな……あ!覇者の剣!?」

 

「そうだ、そのうち奴が来た時にくれてやろうと思って作った模倣の覇者の剣の2代目だ」

 

「奴って……?2代目……?」

 

「それはまた後で時間があれば話してやる、妹紅とロランが待ってるぞ早く行け」

 

「あ……わかった、じゃあ頼むね!お待たせ妹紅さんロランさん!」

 

3人は白玉楼から出ていき修行場所へ向かって行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜

 

-紅魔館・図書館-

 

 

 

バンッ!

 

 

 

図書館の扉が勢い良く開いた

 

「来たわね」

 

予想通りだとレミリアは微笑む

 

「久し振りねハドラー」

 

現れた魔族へ笑みを向けた

 

「息災のようで何よりだレミリア、土産を咲夜に渡してある、後で皆で食べろ」

 

魔族・ハドラーも笑みを返す

 

「ありがと、その様子だと見てくれたみたいね」

 

「ああ、あんなものを見せられてじっとしては居れん……バーン様は?」

 

いつもならこの場に居る筈である元・主が居ない事に周囲を見渡す

 

「さぁ……昨日から見てないわね」

 

「……そうか」

 

その言葉だけで察したハドラーはレミリアの座るテーブルの対面に腰掛けた瞬間に紅茶が出現し当然のように飲む

 

「もう遅いし明日にしなさい、私から話をしてあげるから今日はゆっくりしなさいな」

 

「そうだな、今すぐこの煮え滾る思いをあいつにぶつけたいが仕方あるまい……ところで少し小腹が減ったな」

 

「あら奇遇ね、私もよハドラー……一緒に作る?御師匠様?」

 

「腕は落ちていないだろうなレミリア?」

 

「見て判断して貰うわ……行くわよ」

 

不適な笑みを浮かべながら二人は互いに愛用のエプロンを身に纏い厨房へ向かって行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-翌日・紅魔館門前-

 

「修行中に呼び出してどうしたよレミリア?」

 

一行は全員集合していた

 

「何かあったのか?」

 

不眠不休で目に隈が出来ているポップが問う、キツイ修行なのにまだ元気なのはパチュリーに飲まされた怪しい薬のお陰だろう

 

「ちょっと貴方達に会わせたい人が居てね」

 

「誰だ?見当つかねぇな」

 

レミリアが言うのだから幻想郷に縁ある者だろうと思うが修行中にわざわざ集める程の人物に誰も想像がつかない

 

「貴方達も知ってる奴よ」

 

「はぁ?尚更見当つかねぇな……ロン・ベルク以外だろ?誰だ?」

 

全くわからないポップ

 

(まさか……)

 

クロコダインだけが淡い予感を持った次の瞬間、美鈴とミストが門が開けた

 

 

「「「!!?」」」

 

 

一行に衝撃が走る

 

 

「「「ハドラー!!?」」」

 

「ハドラー様!!?」

 

 

そこにはかつて激闘を繰り広げた魔王が立っていたのだから

 

「フン……お前達にはこれが適切か、久し振りだな……アバンの使徒共」

 

覇気纏う魔族の漢・ハドラーが現れた!

 

「ッ!?なんでお前が居んだよ!!」

 

一行の全員が警戒体勢に入る

 

「待ちなさい」

 

その反応がわかっていたレミリアが両者の間に入り一行を制止する

 

「気持ちはわかるけど警戒を解いて、見てわかる通りハドラーに敵意は無いわ、そして私の客人でもある……これ以上無礼をするなら私が相手になるわよ?」

 

本気だとわからせる程度の威圧を出しポップを睨む

 

「……わかったよ、けど人が悪いぜレミリア……何の説明もねぇあんな再会じゃこうなって当然だろ」

 

ある意味一番の恩人であるレミリアを信じたポップが警戒を解き続いて一行も警戒を解いた

 

「まぁね、狙ったもの……サプライズよ」

 

「悪趣味な奴だぜオメーはよぉ……まぁそれはいい、んで?説明してくれんだろ?」

 

「勿論」

 

 

「俺から皆に説明しよう」

 

説明しようとするとクロコダインが前に出た、レミリアが何故知っているのかと首を傾げて見る

 

「神奈子殿から聞いてな」

 

「ああそういう事……じゃあお願いするわ、補足があれば言ってあげる」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・先代獣王説明中・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「……マジかよ」

 

説明が終わり、ポップが呟いた

 

「平行世界ってののハドラーで俺達の知ってるハドラーとは限り無く近い別人で……中には聖母竜が居て先生に習って家事全般が魔王級、火竜の娘が居て平行世界のダイの親父でもあって……んでレミリアの料理の師匠、と」

 

一行全員が唸っている

 

「どこからツッコんだらいいんだよ!オイ!」

 

「スゴいね……幻想郷に来て一番驚いたよオレ、違う意味で」

 

凄まじいハドラーのサクセスストーリーに驚きで言葉が出ない

 

「……理解出来たか?出来たのなら俺の用事を始める」

 

ハドラーの言葉に一行はハッとする

 

ただ紹介するだけではなく何か用が有るからこそわざわざ来たのだと思ったからだ

 

「……ダイ」

 

ハドラーはダイの前に立ち、見下ろす

 

(やっぱり目的はダイか……そりゃそうだよな)

 

最後まで勇者に、ダイに固執したハドラーなのだから当然だろうと一行は敵意が無いとわかっていても緊張し息を飲む

 

バーンと同じくハドラーにとってもダイは宿敵だったのだから

 

「……ハドラー」

 

ダイは気後れず真っ直ぐ見つめ返す

 

「事情は聞いている……よくぞ立ち直った」

 

微笑んだハドラーはダイの肩に手を置きながら通り過ぎる

 

「俺ではこうは行くまい、流石はバーン様か……なればこそその類い希なる奇蹟に感謝し、永劫に魂へと刻むがいい」

 

そう言ってハドラーは進む

 

「待てよハドラー!」

 

ダイが呼び止める

 

「それだけ……なのかよ?それを言う為だけに……来たっていうのか?」

 

目的は自分だろうにも関わらず一言、ただそれだけなのが信じられなかった

 

「……自惚れるなダイ」

 

立ち止まったハドラーは言う

 

「バーン様が立ち直らせたお前に俺から何かする事が有る筈なかろう、お前の事などついでに過ぎん」

 

ダイに用など無いのだと

 

「じゃあ……お前は何しに来たんだよ」

 

「知れた事よ」

 

ハドラーは再び歩を進め一行の中を行き

 

「俺が用が有るのはお前だ……ヒム」

 

ヒムの前で止まった

 

「ハドラー様が……俺に?」

 

まさかの自分への用とハドラーの強張った顔と雰囲気に緊張した赴きでヒムは次元違いの主と相対する

 

「風見幽香に負けたなヒム」

 

「ッ!?」

 

その一言がヒムの緊張を更に高めた

 

「試合の映像を見た、不様そして情けない試合だったな」

 

「ッッ!?それ……は……」

 

狼狽えるヒム、それは自覚があるから

 

「負けた事にどうこう言うつもりは無い、だが負けるにしても負け方があろう……風見幽香の気迫に気圧されるとはそれでも元は俺の親衛騎団の一員か?騎団の面汚しめが……お前の兄妹達もあの世で嘆いておるわ」

 

「ッ!?だけどよハドラー様!あいつはとんでもねぇ奴だったんだ!ハドラー様に引けを取らねぇくれぇ恐ろしい奴だったんだよ!」

 

「だからどうした?それが腰が引ける言い訳で通じると思うのか?フェンブレンは遥か格上の竜の騎士にすら挑んだのを忘れたか……?いつからお前はそんなに弱くなった」

 

「ッッ!?」

 

ヒムは言い返せない、ハドラーの言う通りだからだ

 

「俺から受け継いだその髪は飾りのようだな、お前はもう戦いを辞めろ、ダイ達の迷惑だ」

 

「……ッッ!?」

 

容赦無いハドラーの言葉にヒムの雰囲気が変わった

 

「聞き捨てならねぇぜハドラー様……!」

 

怒気を顕著にハドラーを睨みつける

 

「あんたから受け継いだ魂は飾りなんかじゃねぇ!!」

 

誇りあるこの髪を貶す事は例え本人だろうと我慢ならなかった

 

「フン、口だけなら何とでも言える、違うかヒム?」

 

「あーそうだなハドラー様、だったらよ……」

 

ヒムは一歩ハドラーへ踏み出す

 

「試してみろよ、俺が腰抜けかどうかよ……?」

 

親に向かって……喧嘩を売った

 

「ドラ息子が一丁前に跳ねっ返るではないか……面白い」

 

息子からの威圧にハドラーは些かも動じていないどころか不適に笑みを浮かべる

 

「少し灸を据えてやるのも親の務めか、いいだろう……付いてこい」

 

紅魔館から離れていくハドラーの後をヒムが続く

 

「……空気に圧倒されちまったぜ」 

 

二人が少し離れた時にポップが息を吐く

 

「どうする?オレ達も付いてった方がいいんじゃ……」

 

「だな、ヤバイ時には止める役が要るしな……ちっと修行は休憩だな」

 

一行の皆も見守る事を決め付いていく

 

「さぁ行きましょうか」

 

その先頭をレミリアが楽し気に進んで行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちっ、みんな付いてきやがったか……まぁいい、ハドラー様だからって容赦しねぇぜ!」

 

「加減出来る程強いつもりか?あの情けないザマでよく言えたものよ」

 

紅魔館から充分に離れた平地で親子は睨み合う

 

「少なくともあんたにゃ負けねぇ!料理だ何だと腑抜けたあんたにはよぉ!」

 

ヒムが闘気を噴き上げる

 

「皆の時間を取るのは悪いからさっさと始めようぜハドラー様よぉ!」

 

構え、促す

 

「フン……下らん些事をお前ごときが気にするなヒム、勝負になると思っているその態度が気に入らん、分を弁えろ愚か者が」

 

マントと兜を外し、ハドラーの体に戦気が満ちる

 

「時間を取る程……立ってられるつもりか?」

 

常魔ならざる覇気を立ち昇らせハドラーは手招きした

 

 

「オラァ!!」

 

 

ズドオッ!!

 

 

ヒムの拳がハドラーの腹部を強く打ち抜いた

 

「オラオラオラァ!!」

 

怒涛の拳打、全てがハドラーを捉える

 

「オラァ!!」

 

強烈な蹴りがハドラーを打ちズラす

 

「ラァッ!!」

 

息をつかせぬ追い打ちの拳打、次に繰り出すは一撃の威力に比重を置いた重い連打

 

「オォ……ラァッ!!」

 

最後に渾身の闘気拳を打ち込んだ

 

 

ズザザッ……!

 

 

打たれたハドラーが耐えながら大地を擦り押され、踏み止まる

 

「どうだハドラー様!これでも腰抜けだと言うかよ!?」

 

ヒムの呼び掛けと同時にハドラーの乱れた体勢が直立へと戻された

 

「……ガフッ」

 

ハドラーの口から血が弾けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やり過ぎだヒム!!」

 

「そうだよヒムちゃん!」

 

クロコダインとチウが叫び身を乗り出す、殺す勢いに見えたのだ

 

「落ち着けって二人共、大丈夫だからよ」

 

ポップが二人を制しヒュンケルが続く

 

「いくら怒っていてもヒムにも限度はわかっている、今のアレは殺す勢いで行かねばならんほど本気にならねば危険だと本能が察した結果だろう」

 

その言葉にラーハルトが頷きマァムも僅かに感じるのか二人を止める気無く見ている

 

「しかしだ……」

 

一方的にやられたハドラーを見てられないクロコダインが抗議しようとするとダイが首を振った

 

「見ててよクロコダイン……ハドラーを」

 

一行の中で気付いているのはダイとポップとヒュンケルとラーハルト、微かにマァムの5人

 

そして、対峙している……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ククク……中々効いたぞヒム」

 

ハドラーが血濡れで笑った

 

「思ったよりはマシか、まぁ腰抜けにしては……な」

 

「……ッ!?」

 

睨むヒムをハドラーは気にせず口の血を拭いながらヒムへ進む

 

「ッダラァ!!」

 

その歩みを阻止するようにヒムは殴る

 

「オオォ……オオオオオオオオッ!!」

 

滅多打ち、倒れるまで止めるつもりは無いと言わんばかりの連打

 

「……」

 

それを無防備に受け、血を飛散させながらもハドラーは倒れる事は無く、その鋭い眼光がヒムを見据え続ける

 

「歯を食い縛れ」

 

一言、告げた瞬間にハドラーの腕が消えた

 

 

ズドウッ!!

 

 

強烈な拳がヒムを打ち、浮き上がらせた

 

「なあッ!?」

 

驚愕に染まるヒム

 

「ヌンッ!!」

 

 

ドギャ!!

 

 

振り抜いた裏拳が頬を打ち抜きヒムは打ち飛ばされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

一行は驚きの表情を見せる

 

「何だと……!?」

 

「……」

 

純粋な驚きがクロコダインとチウの2名、驚きの中にやはりなという思いが混じっているのが残りの5名

 

「……なぁ聞いていいかレミリア?」

 

「いいわよ、何?」

 

ポップが問う

 

「ハドラーって強いよな?」

 

「当然、強いわよ」

 

「どんくれぇ強ぇかわかるのか?」

 

強いのはわかる者の正確な実力を

 

「そうねぇ……少なくとも私達と同格、もしくはそれ以上かも」

 

「ッ!?って事は頂点クラス……って事かよ!」

 

頂点の一角であるレミリアからの言葉に衝撃を受ける

 

「そんなに驚く事?考えてみなさいな、元は魔王よ?強くて当然じゃない」

 

「いや、でもよ……」

 

聞いた話だけでは強い理由は無かった、むしろ家事だの料理だの弱くなっていても不思議ではない事ばかりだったのだから

 

「子に見られて恥じの無い姿を保つのは大変だという事よ……実際やり合った事は無いけどさすがにチルノより上ではないわ、だけど強さは保証する、少なくともポップ……貴方では勝てないのは間違い無い」

 

「……!!」

 

レミリアが太鼓判を押した事がハドラーの強さを確信に変える

 

「それに慌てる必要も無いわ、見てなさい……悪いようにはならないから、多分ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「~~ッ!?ちくしょう……!クソッタレが!」

 

粉塵収まろうという大地のクレーターの中でヒムが愚痴る

 

(ッ!?ヒビ入ってやがる……)

 

最初に打たれた腹に小さな亀裂を見つけた、それが意味するのはハドラーはヒムのオリハルコンの防御力を超える力を持つという事

 

(意識の集中が間に合わなかったか……いやそうじゃねぇ!ハドラー様が強いって事だろ!)

 

相手の強さを認めたヒムは立ち上がろうとした時に気付く

 

「立てぃヒム、お前への仕置きはまだ終わっておらんぞ」

 

ハドラーがクレーターの外から見下ろしていた

 

「それとも……終わりか?ならば拳を置き二度と戦いに戻ってくるな」

 

「……言いたい放題言いやがって、舐めてんじゃねぇぞハドラー様よぉ!!」

 

勢い良く立ち上がったヒムは跳躍しハドラーへ殴りかかった

 

「懲りぬ奴よ……」

 

その拳を今度は見切ったハドラーは避け、カウンターの拳を入れる

 

 

ガンッ

 

 

ハドラーの拳はヒムを打ち抜けず乾いた金属音を響かせた

 

(……闘気を集中させて防御力を飛躍的に上げたか)

 

何をしたのか理解するハドラーの眼前には既に拳を振り始めたヒムの姿があった

 

「油断したなハドラー様!貰ったぜ!闘気拳ゥ!!」

 

 

ドウッ!!

 

 

硬拳炸裂

 

 

「油断……?」

 

ハドラーの声が響く、その手はヒムの闘気拳を受け止めていた

 

「違うな、これは余裕だヒム……お前程度では俺に警戒を抱かせるに値せん」

 

「ぐっ……ウソだろ……ッ!?」

 

防がれたヒムは拳を引くが恐ろしい力で握られた拳はビクともしない

 

「ヌンッ!!」

 

ハドラーは掴む拳を瞬間的に捻った

 

 

ビシビシィ

 

 

一瞬に加えられた力でヒムの利き腕である左腕の肩の付け根が割れヒビが走る

 

「うおおおおッ!?」

 

このままではかつてバーンの肉体を使ったミストにされたように捻り折られると察したヒムは宙に浮き捻る力に逆らわず脚を浴びせ蹴りのようにハドラーの側頭部へ放った

 

「……いくぞ」

 

その浴びせ蹴りをまともに受けたにも関わらずハドラーは微動だにしていなかった、そして掴んでいない拳に力を集中させる

 

「超魔爆炎覇」

 

ヒムに剛拳が炸裂し爆発を起こす

 

 

ボッ

 

 

爆発の直後にヒムが吹き飛ばされていく

 

「フン……」

 

その様を見ながらハドラーは持っていた折れ千切れたヒムの左腕を捨てた

 

 

「くあっ……!?くっ……チックショウがぁ!!?」

 

倒れたヒムが呻く、その胸には風穴が空いていた

 

「オリハルコンの防御力を過信し意識を疎かにしているからそうなる……なんと情けない姿だヒム、呆れてこれ以上言葉がでぬわ」

 

「ぐっ……」

 

左腕を無くし胸に風穴を空けられたヒムに言い返せる言葉は無い

 

完膚なきまでに負けたのだ

 

「そこで頭を冷やして考えろ、お前という存在を……俺から受け継いだお前の魂とは何なのかを」

 

身を翻したハドラーはダイ達の元へ行く

 

「すまんな、時間を取らせた……もう行くがいい」

 

「……そういう訳にいくかよ」

 

散れと言うハドラーに仲間を放っておけないポップが言う

 

「今は放っておいてやれ、今のあいつに同情や慰めはみじめになるだけだ、頼む」

 

その言葉に一行は顔をしかめる

 

ハドラーの言いたい事も理解出来るが放っておけない気持ちもある、何よりあのハドラーが頼むと言った事が葛藤となっていた

 

「……責任はおめぇが取ってくれんだな?」

 

ポップは問う

 

「でなければあんな真似はせん」

 

「……わーったよ」

 

大きく息を吐いたポップは身を翻し歩き始めた

 

「そこまで言うなら信じてやらぁ、んじゃ俺は大先生達待たせてっから行くぜ、じゃあな」

 

ルーラを唱えて消えて行った

 

「大丈夫……なんだろ?」

 

ダイが問う

 

「奴次第だが……心配無い」

 

「……本当に?」

 

「親の……俺の言葉は信じれんか?」

 

「……!!」

 

その言葉でダイは確信した、ハドラーは憎悪でなく想いでヒムを相手しているのだと

 

「わかった……オレも信じるよ」

 

頷くダイ、それに合わせて残りの者も頷き各々の修行場所へ向かって行った

 

「行くぞレミリア、今日は俺のアレンジを入れたアバン流特製料理「ハドラーメン」を教えてやる」

 

「ふーん?名前が壊滅的にアレな事を除いたら美味しそうね……何なら勝負しないかしら?私も作るから」

 

最後にヒムの居る場所を一瞥し、ハドラーはレミリアと紅魔館へ戻っていった

 

 

 

「ッ……ッッ!!?」

 

残されたヒムは打ち震えていた

 

「~~~~ッ!!?」

 

言葉にならぬ慟哭が鳴り響く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-夕方・紅魔館-

 

「ハドラーさん来てるんですか!」

 

大妖精が図書館に急いで入ってきた、続いてチルノとフランも入ってくる

 

「元気そうだな大妖精」

 

ハドラーが微笑むとチルノが飛び込んでいき抱き止められる

 

「久し振りー!」

 

「うむ、ジュースを用意してある、飲むか?」

 

「飲むー!」

 

チルノが離れた瞬間、赤い流星がハドラーの腹にめり込んだ

 

「ごふっ!?」

 

「あ、ハドラーごめーん、つい力入っちゃった」

 

「い、いや気にするなフラン、油断した俺が悪い……ぐふっ!?アバラが折れたか……また力を上げたな」

 

「えっへへ~」

 

体をプルプル震えさせながら気丈に振る舞いフランを撫でる

 

「ジゼルちゃんは来てないんですか?」

 

「今回は俺がヒムに用事があってな、あいつは留守番だ、お前達こそ指導は終わったのか?」

 

「今日は終わりました!他の人はわかりませんけど終わってると思いますよ」

 

「そうか、ご苦労だったな……お前もジュースでも飲め」

 

「わーやったー!ありがとうございますハドラーさん!」

 

ハドラーが3人にジュースを渡すと次は魔理沙が顔を出した

 

「他の奴等も終わってるぜ、ポップ以外はな」

 

「楽しそうだな魔理沙、ポップはまだ修行しているのか?」

 

「時間足りねぇから休み無しなんだよ、私等は交代で休憩するけどな、今はパチュリーが見てる」

 

「……殺すなよ?」

 

「大丈夫だぜ、死んでも世界樹の葉があるからよ!それより私もジュースくれよハドラー!」

 

「そういう事ではない魔理沙……ほら飲め」

 

「へっへへ!わかってるぜ!サンキューハドラー!」

 

冗談を言う魔理沙に呆れるも笑う

 

「んで聞いたぜ?ヒムをベコベコのガタガタのギタギタにわからせてやったんだって?エロ同人みたいによ?」

 

「いちいち誤解を招く言い方をするな、まったくお前は……」

 

 

「わからせって何ですか?」

 

「お前は知らんでいい大妖精、見ろ魔理沙、お前が要らん事を口走るからだぞ」

 

面倒な事になりかけたと睨むと魔理沙は悪戯っぽく笑う

 

「ハハッ!悪い悪い!んであいつはどうなんだぜ?良くなりそうかよ?」

 

「フッ……」

 

魔理沙の問いにハドラーは微笑む

 

「舐めるなよ、あいつは俺の魂を受け継ぐ男だぞ?」

 

確信を持って答えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ヒムは喧嘩をした場所でずっと居た

 

(俺が……ハドラー様から受け継いだ魂……)

 

考えていた

 

自分とは何なのか、存在を構成する受け継いだ魂は何なのか

 

(俺が受け継いだのは……ただの髪なんかじゃあねぇ、ハドラー様の誇りも一緒に受け継いだんだ)

 

自らのルーツ、自分が自分足る由縁

 

(アルビナスは……情愛だろうな、シグマは騎士道精神、フェンブレンは残虐性ってとこか、ブロックは……義侠心、自己犠牲……だろうよ)

 

兄妹達のルーツに思いを巡らせる

 

(なら俺は?俺は……ハドラー様の何を受け継いだ?)

 

ヒムは思い出す

 

『今の俺に一番似ている』

 

そう言われたあの時を

 

(あの時のハドラー様は闘志に燃えていた、勇者に勝つ為に心魂を燃やしていた……闘志ッ!?)

 

ハッとしたヒムは身を起き上がらせる

 

「そうだ、闘志だ……ハドラー様は勇者を最後の敵と定めて燃えていた、あのバーンにだって臆する事無く噛み付くくらいに!!」

 

ようやくわかった、ハドラーから受け継いだ魂の本質とは何なのかを

 

「闘志……!それが俺の……ッ!!」

 

同時に理解した、何故ハドラーが自分に怒ったのかを

 

(そりゃ当然だよな、大魔王にだって挑む闘志を受け継いだ俺が風見幽香にビビってたのなんざ見たら……怒って当然だよな)

 

誰よりもヒムを知るからハドラーは怒ったのだ、受け継いだ闘志が陰っていたから

 

「はぁ……」

 

大きく息を吐く

 

 

「クッソォォォォォォォォッ!!」

 

 

喉が砕けるのではないかという程の咆哮を出し、立ち上がる

 

「終われるかよ……!このままじゃあよ!」

 

ヒムはある場所へ向かって行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜはぁ……ぜぇー……ぜぇー……」

 

ポップは死にかけていた

 

「そろそろ死にそうね、1本いっときなさい」

 

見ていたパチュリーがお薬を処方する

 

「いっそ殺してくれ……」

 

飲んで元気にはなったが精神だけはガリガリに磨り減っていく

 

「……ん?」

 

ポップは気付いた

 

「ヒム……」

 

遠目に仲間が来たのを

 

「よっポップ、回復してくんねぇか?」

 

「そりゃ良いけどよ……大丈夫なのかよお前?」

 

「ああ、俺もダイと一緒で迷いが無くなったつーか原点に立ち直ったって言うか……とにかく大丈夫だ」

 

「そうかよ……ちょっといいかい大先生?」

 

パチュリーが頷くとポップは回復魔法でヒムを治した

 

「そんで相談なんだけどよ、ヤル気……まぁ精神性はバッチリに覚悟決まったんだが問題は伸ばす方向性なんだよ、どうすっかな……」

 

「お前一人でやるって言ってたじゃねぇか」

 

「正直に言うとちょっと拗ねてたんだよ、風見幽香にフラれてよ……」

 

「ガキかよ……実年齢はガキだったなおめぇ」

 

「ほっとけ!……で、なんか良いアドバイスあるかよ?」

 

「ん~……そうだなおめぇは……」

 

ポップが自分なりの意見を言おうとするとパチュリーが止めた

 

「待ちなさい、今……貴方にはもっと良い相談相手が要る筈よ、誰よりも一番の……」

 

「!!?」

 

「……あ、確かに」

 

ヒムが即座に気付きポップが次いで気付く

 

「けど大丈夫かよ?喧嘩してんだ……」

 

「そうだった!!」

 

ポップの言葉を掻き消してヒムが叫んだ

 

「感謝するぜ魔女のねーちゃん!行ってくるぜ!じゃあなポップ!修行頑張れよ!!」

 

すぐにヒムは駆けていった

 

「行っちまいやがった……ホントに大丈夫かよ?」

 

「ハドラーなら大丈夫よ、それより……魔女のねーちゃん、ねぇ……」

 

「ッ!!?」

 

ポップはヒヤリとした悪寒を感じてパチュリーを見る

 

「バカにしてる?消してやろうかしら……」

 

「待て待て待ってくれよ大先生!あいつも悪気があったわけじゃねぇんだ!せっかく立ち直ったのに水を差さねぇでくれ!頼むよ!」

 

怒るパチュリーに焦るポップ

 

「では仲間である貴方に責任取ってもらうわポップ、メニューの難度を1段階上げるわ」

 

「……恨むぜぇ……ヒム……」

 

ポップの恨み言が響いた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館-

 

「美味しい~!」

 

食卓を皆で囲んでいた

 

「すっごく美味しいです「ハドラーメン」!」

 

「お姉様が作った「カリスマラーメン」も美味しいよ!」

 

二人が作ったラーメンは好評のようである

 

「どちらが美味い?」

 

「嘘偽り無く答えて」

 

ハドラーとレミリアが真剣に見ている

 

「ハドラーメン!」

 

「あたしもハドラーメン!」

 

「私はカリスマラーメンだぜ」

 

「えーっと……ハドラーメン、かな?あ!すっごく僅差ですけど!」

 

チルノ、フラン、大妖精がハドラー、魔理沙がレミリア

 

「……咲夜と美鈴は?」

 

現在3対1、二人がレミリアに入れても同点

 

「正直に答えなさい、これは命令よ」

 

主であるレミリアを贔屓させないように二人には念を入れる

 

「ハドラーメンですお嬢様」

 

美鈴は即答した

 

「……くっ!?非常に、非常に無念ではありますが……ハドラーメン、です……ッ!?」

 

苦渋の極みを舐めたかのように咲夜はその言葉を絞り出した

 

「そう……はぁ、完敗よハドラー」

 

レミリアは負けを認めてハドラーメンを食べた

 

「美味しい……流石は私の師匠よね」

 

「何の、お前のラーメンも成長を窺わせる良い出来だ」

 

ハドラーもカリスマラーメンを食べながら弟子の成長を喜ぶ

 

「あのダークマターを錬成していた同一人物とは思えん」

 

「それはもう忘れて」

 

勝負の場は一転して夕食となった

 

「妹紅一家とパチュリーとポップの分も用意してある、妹紅の方は明日にでも届けてやれ、パチュリーとポップは咲夜、時を止めて持って行ってやれ」

 

雑談しながら仲良く食べているとミストの声が響いて来た

 

「止まれヒム!」

 

「ルセェ!てめぇが夜は通さねぇなんか抜かしやがるからだろうが!」

 

「止まらんと四肢を捥いで達磨にするぞ!」

 

「やってみやがれ!バーンの体使ってねぇてめぇに出来るんならよぉ!」

 

扉が開いてミストとヒムが揉み合いながら突っ込んで来た

 

「殺してやるぞ貴様ッ!!」

 

「返り討ちにしてやらぁ!!」

 

食事の場に突っ込んできてまだ暴れようとする二人を気にせず食べる幼女3人と魔理沙と咲夜、あちゃーと顔を覆うミストの同僚の美鈴

 

そして青筋を浮かべる紅魔館の主レミリアとその師ハドラー

 

「「やめろ」」

 

同時に発した二人の言葉でミストとヒムは止まる

 

「も、申し訳ありませんレミリア様……」

 

「心配無いから戻って」

 

「……はっ、失礼します」

 

主バーンと同等とも言えるレミリアの命令に従いミストは門番へ戻って行った

 

「ヒム」

 

いつの間にかヒムの傍に居たハドラーがヒムに拳骨を入れた

 

「食事の時間を邪魔するとはどうやら躾が足りんようだな」

 

「そんな事よりハドラー様!」

 

「そんな事だと?」

 

またヒムは拳骨を食らわされた

 

「ッテェ!?あ、いや邪魔して悪かったよハドラー様、それにお前等もよ!」

 

皆に悪い事をしたと自覚したヒムは頭を下げた

 

「謝りに礼儀が無いがまぁいいだろう、それで何の用だ?」

 

「ッ……ハドラー様!!」

 

意を決してヒムは言った

 

「俺を……鍛えてくれ!!」

 

揺るがぬ眼差しを持って

 

「俺はもう誰にも恐れたりしねぇ!!」

 

「ほう……」

 

ハドラーは見定めるようにヒムを見つめる

 

(……気付いたか、俺から受け継いだ闘志の魂を……良い目をしている、闘志が燃える……良い目だ)

 

陰っていた闘志の熱を感じ取り、笑みを見せた

 

「よかろう、俺が鍛えてやる」

 

「ありがとうございますハドラー様!!」

 

二人は腕を熱く交差させた

 

 

 

「……喧嘩したって聞いたぜ?マジで喧嘩してたのかよアレ?」

 

見ていた魔理沙がレミリアに聞いた

 

「喧嘩したって謝らずに仲直りが出来る、それが親子って事よ」

 

レミリアにはわかっているのだ、ハドラーは情けないヒムに怒っていただけであり嫌悪していた訳ではないのだと

 

自らの魂を与えた息子を強く導く為に来たただの父なのであると

 

「良いモノよね親子って……子育てか、私もいつか……バーンと……」

 

「かりちゅまな妄想に耽ってるとこ悪ぃけどお前はまずそのちんちくりんで貧相な体成長させるとこからだぜ?あと500年くらい先か?1000年か?」

 

「うるさいわよ生涯生娘の行き遅れババァ」

 

「おまっ……それは言うなよ」

 

幻想の夜は過ぎていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昨日も言ったがヒム、お前はオリハルコンの体を過信し意識が疎かなのが弱点だ、全身の闘気を常に無意識で安定させ必要に応じて淀み無く集中させる訓練をしろ、人間の武道家と同じ事をするのだ」

 

「わかったぜハドラー様!」

 

翌日、早速指導を始めるハドラー

 

「その体に人間のような衝撃を吸収するような柔軟さは無い、逆もしかり、ならばその長所を伸ばせ!強敵との戦いでは基礎技術の練度が重要になる事は多々ある」

 

「こう……か?」

 

「そうだ、その全身に一定で纏わせている闘気を常に維持しろ」

 

「難しいぜ……これ」

 

「怠らなければすぐに慣れる、慣れれば次は組み手をして闘気を攻撃する四肢に瞬時に集中させる訓練をしろ」

 

「え!?今の言い方……ハドラー様付き合ってくれるんじゃねぇのかよ!?」

 

「乱れているぞヒム……俺とて忙しい身だ、娘もいつまでも一人に出来ん、明日の朝帰るつもりだ」

 

「……娘、俺の妹か……わかったぜハドラー様、そりゃしょうがねぇ」

 

「すまんなヒム」

 

「いや!俄然ヤル気出てきたぜ!帰るまでに絶対に組み手まで行ってやるぜ!」

 

「その意気だが……乱れまくっているぞ」

 

「す、すいませんハドラー様……」

 

親子の修行は続く

 

 

 

「おーすハドラー!」

 

しばらく二人で修行していると妹紅がやって来た

 

「ラーメンありがとな、美味しかったよ」

 

「そうか、口に合って何よりだ」

 

妹紅がお礼に飲み物を渡す

 

「ダイの方はどうだ?今はロランが見ているのだろう?」

 

「まぁ……ぶっちゃけ戦闘面で私達が教えれる事はほとんど無いよ、メンタルケアって言うのか?そっちがメインだよ、まっそっちも大丈夫そうだけどな」

 

「流石はバーン様という事か」

 

「そういう事、そっちは?」

 

妹紅が見るとヒムは大きく息を吐いて息を荒げる

 

「それなりに順調と言ったところだ……ヒム!少し休憩しろ!」

 

「了解……ハドラー様……」

 

ヒムも集まって一息つく

 

「難しいぜー!けどコツは掴んで来たぜハドラー様!」

 

「うむ、良いぞその調子だヒム」

 

「へへ……」

 

褒められて嬉しそうにヒムは笑う

 

「なぁ聞いていいかよハドラー様?」

 

「何だ?」

 

「昨日ハドラー様と戦ってから何かぼんやりと思うんだよ、何かこう……新しい技っつーか俺の可能性?みたいなモンをよ」

 

「可能性か……ヒムよ、お前の戦い方は闘気を使った肉弾戦、だけか?」

 

「そうだけど……」

 

「成程、お前の感じた朧気な疑問……それはおそらく魔法の事だろう」

 

「魔法……?あっ!?」

 

「気付いたな、そうだ……お前が俺から受け継いだモノは闘志だけではない、メラ系呪文の力も有る筈だ」

 

「そうだ!それだよ!」

 

「昇格し闘気を得た事で誤解を生んだようだな、闘気は物理攻撃に適する為にお前の戦闘スタイルと相性が良過ぎ……魔法を下位と認識してしまったのだ」

 

ヒムが闘気を得てからも闘気拳を使う時にしか使わないメラ系の呪文の力

 

「本来闘気と魔法に格差など無い、武道家と魔法使いという職があるように適正の問題だ……お前は俺の呪文の才能も受け継いでいる、よし……試しにメラの魔法を最大に高めてみろ、闘気は一旦置いておけ」

 

「ああ!やってみるぜハドラー様!」

 

ヒムは魔力を全力で高めると体が全身熱を持ったように淡く光った

 

「……威力はギリギリメラゾーマと言ったところだが……外には出せんのかヒム?」

 

「だ、出し方がわからねぇ!」

 

「超熱拳の使い方しか知らぬからか……しかしこれでは技とは言えんな、触れれば並みの者なら火傷するほど熱いが強者にはこの程度は通じん」

 

実際ハドラーは直接触れているが全く効いていない、魔炎気をも扱える故もあるが

 

「どれどれ……?」

 

その時、見ていた妹紅がヒムに手を触れた

 

「あーそれじゃダメだ、いいか?火ってのは高めるんじゃなくて燃え上がらせるんだ、そうすると燃え上がった火は炎になる、そういうイメージでやってみな」

 

「え!?オイ……熱くねぇのか?」

 

いきなりの助言に戸惑うヒムにハドラーは言う

 

「妹紅はバーン様と並ぶ炎の使い手だ、俺よりも火の扱いは上だ、いいからやってみろ」

 

「わ、わかったぜハドラー様……」

 

妹紅に言われた通り火の魔力を高めるのではなく燃え上がらせるイメージで強める

 

 

カッ

 

 

一瞬光が増すとヒムの体は熱された鉄のように真っ赤になった

 

「これは……想像以上の結果だな」

 

凄まじい変化に驚きの声をあげるハドラー、その熱は強者にも通じるレベルであると確信している

 

「いいんじゃないか?まだ温いけど」

 

バーンと並ぶ最高峰の炎の使い手の妹紅にはまだ物足りないがかなりの飛躍なのは間違いない

 

「さしずめ……ヒートボディってとこか」

 

ヒムもこの結果に満足していた

 

「これなら火が得意な奴以外は触るだけでダメージ与えられるし当然攻撃の威力も上がるな」

 

「助言感謝するぞ妹紅、お前も礼を言えヒム」

 

「助かったぜ!ありがとな!」

 

「いいよこれくらい……ん?あれお前……」

 

妹紅は気付いてヒムの体を指差す

 

「溶けてねぇか?」

 

「は?ウソだろ!?」

 

ヒムが見ると体が溶け始めていた

 

「高過ぎる熱がオリハルコンの融解温度を越えたか……ヒム、闘気で体の強度を上げろ、そうすれば溶けぬ筈だ」

 

「いや……やってんだけどよハドラー様……高レベルの魔法と闘気の両立が、難しくて……出来ねぇ!?」

 

「ならば早く魔法を解け!死ぬぞ!」

 

「うおおおお溶けるぅぅぅぅ!?」

 

「解いたら熱が下がるまで闘気だ!慌てるな愚か者!」

 

「アハハ!面白いなお前等!」

 

ヒムは九死に一生を得た

 

「はぁ……えらい目にあったぜ」

 

「今のでわかったな、その技を使うには魔法と闘気の繊細な両立が必要不可欠だと」

 

「身に染みてわかったぜ、けどこれで目指すべき道が見えた!感謝するぜハドラー様!炎の頂点さんもよ!」

 

「妹紅だ、礼くらい相手の名をちゃんと言え」

 

ヒムが改めて礼を言ってハドラーに拳骨を食らう

 

「あ、ありがとな妹紅」

 

「妹紅さんだろうが」

 

「は、はい……ありがとうございました妹紅さん」

 

「ハハッ!じゃ私はダイのところに戻るよ、頑張れよヒム、また後でなハドラー」

 

妹紅が戻っていきまた二人になった

 

「やる事が増えたがやれるかヒム?」

 

「当然!やるぜ俺は!!」

 

ヒムのヤル気にも更に火がつき修行は続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「充分用意してある、たらふく食べて英気を養え」

 

その日の夜は一行を全員集めハドラーが豪勢な料理を振る舞っていた

 

「私が作ったのもあるからね」

 

レミリアと二人で作ったおそらくは幻想郷で一番豪華な食卓

 

「特にダイ……聞けばしばらくまともな食事をしていないらしいな?お前は倍食え、お残しは許さんぞ」

 

「う、うん……いただきます」

 

慣れないハドラーのエプロン装備に気圧されながら一行は料理を口に入れる

 

「うっわ……めちゃくちゃ美味しい!」

 

「本当に美味しいわハドラー」

 

すぐにあがる絶賛の声

 

「ヤベーいくらでも食えるぞ!」

 

招集に合わせて修行が中断になったのが嬉し過ぎるポップが料理をかっ食らう

 

「好きなだけ食え、デザートもとびきりのを用意してある」

 

レミリアと共にエプロンを外したハドラーも席に座り頂点達と一行の夕食は賑やかに行われる

 

「俺もハドラー様の料理食ってみてぇなぁ……」

 

「む?どうしたヒム?食わんの……そうだったな、お前は食えんのだったな」

 

羨ましそうに見ているヒムの事情をハドラーは察する

 

「どれ……動くなヒム」

 

ハドラーが手をかざすとヒムは淡く光った

 

「……よし、これでいい」

 

「何をしたんだよハドラー様?」

 

「お前の体を少し改良した、食事を出来るようにして微量だが魔力に変換出来るようにしてある、勿論味覚も有る」

 

「マジかよ!スゲェぜハドラー様ッ!」

 

「次元違いとはいえお前が俺から生まれたから出来た事だ、これで皆と一緒に食事を楽しめよう」

 

「感謝するぜハドラー様!よっしゃあ!俺もいただくぜぇ!」

 

感激したヒムが料理を貪る

 

「ウメェウメェ!……ゲホッ!?」

 

「一気に食い過ぎなんだよおめぇはよー、あー悪い咲夜さん拭く物あるかい?」

 

奇妙な、それでいて幻想的、そして奇蹟の時間は過ぎて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-人間の里-

 

「いやーマジで美味かったな!こんなに食ったの久し振りだぜ」

 

夕食が終わり解散した一行は宿屋を目指し里の中を歩いていた

 

「ここまでして貰ったんだしよ、見送りはちゃんとしねぇとな」

 

「そうだな、それが礼儀だろう」

 

一行はハドラーに感謝している

 

「会えて良かったぜマジでよ」

 

誰よりも得るモノがあったヒムは胸に拳を当てる

 

(ありがとうございます……ハドラー様!)

 

かつての主へ、受け継いだ魂に恥じぬように生きると子は父へ誓う

 

 

 

「そういや皆に聞きてぇ事あったんだ」

 

歩きながらポップが言う

 

「誰かバーン見たか?」

 

その問いに皆が首を横に振る

 

「やっぱりか、誰に聞いても知らないっつーんだよ、あのレミリアもだ……どうにも腑に落ちねぇ、あぁいや何か企んでるとか言う気はねぇし用があるってわけでもないんだけどよ」

 

「わかっている、気になるのは確かだ……意図的に姿を消しているなら何の理由で……」

 

考えるもわからない

 

ただ言える事はあの宴会の後から誰もバーンの姿を見ていないという事だけであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ねぇみんな」

 

もう宿屋も目前といった所で突然ダイが立ち止まり、皆を呼び止めた

 

「どしたよダイ?」

 

皆が注目するもダイは言い出せないのか中々言わなかった

 

「……無理すんな、また今度にすっか?」

 

「ごめん……大丈夫」

 

大きく深呼吸しダイは改めて皆を見る

 

「決めた事があるんだ……聞いてくれる?」

 

覚悟を胸に、ダイは決意を語りだす……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-???-

 

「……」

 

その場所でバーンは居た

 

何をするのではなく中心でただ佇んでいる

 

「居るなら此処だと思いましたぞバーン様」

 

背後から声がかかる

 

「……ハドラーか、久しいな」

 

「御無沙汰しております、壮健そうで何より」

 

横に並んだハドラーは共にその場に残る夢幻の残り香を感じる

 

「満足されましたか?因縁のダイと戦えて?」

 

「……からかいに来たのか?」

 

「ふっ、まさか……」

 

不敵な笑みを浮かべながらハドラーはバーンへ切り分けられたケーキが乗る皿を差し出す

 

「俺が作ったケーキドラゴン「竜王」です、レミリア達とダイ達も食べている、これは貴方の分だ」

 

「いただこう」

 

バーンは受け取ったケーキを食べる

 

「……美味いな、流石の腕だ」

 

「酒もあります、少々付き合ってくれますな?たまには俺とも月見酒をしてくだされ」

 

「相変わらず気が利く奴よお前は……よかろう、酒を持てハドラー」

 

月が照らす王と漢の静かな時間

 

「いつでも飲み交わせるのが俺と貴方の仲だ、それでも今この場所で飲むこの瞬間は……二度と無い時間でしょう」

 

「そうだな、確かに……違いない」

 

それ以上の言葉は無く、二人はただ静かに酒を飲み交わす

 

話さないのではない

 

言葉は無くとも通じ合い、語っているのだ

 

 

二人だけにしか通じぬ言葉で……

 

 

「フッ……」

 

「フフッ……」

 

 

無二の時間は厳かに、穏やかに過ぎて行き

 

二人を闇の中へ隠していった……

 

 

 

 

特別でもない、何でもないような時間

 

それが幸せであり、二度とは戻れない夜

 

 

 

 

宿敵達が奏でる逢魔の前奏曲(プレリュード)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




毎度遅くなって申し訳ありません。

今回はウジョー様のハドラー様をお借りした外伝の外伝……にするつもりだったのですがいっそという事で本編に組み込んだお話になりました。
ヒムだけ何も無かったのは対戦した幽香のせいもありますがハドラー様を見越していたからでもあります。

ヒムの強化は感想でいただいた案を参考にしてあります。

それでは次はいよいよラスト……次回も頑張ります!

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