東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

84 / 86
-秘伝- 間奏曲(インテルメッツォ)

 

 

 

 

相容れぬからぶつかった

 

決して交わらぬ理想故に潰し合うしか道は無かった

 

互いの正義をかざし、殺し合うしかなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それが今は無いからこそ……

 

幻想の如き奇蹟の光景が月明かりに照らされるのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奇妙な沈黙がその場を支配していた

 

 

 

 

「……」

 

バーンは何も言わずダイを見つめている

 

「あ……いや、今のは違うんだ……!」

 

ダイは焦っている

 

バーンを見つけてどう声をかけていいかわからなかった

 

友でも仲間でもなく敵でもない、だけど気軽に話せない間でもある、そんな相手を見つけて咄嗟に出た言葉がアレだったのだ

 

「そんなつもりなんかじゃなくて……えっと……」

 

オイと高圧的な言い方になってしまった事にダイは弁明しようとする

 

敵対するつもりも見下したりするつもりも無いと

 

しかし上手く言い繕えず口ごもる

 

「……」

 

バーンはそんな焦ったダイを眺めている

 

「わかっておる」

 

そんな事はわかっていたバーンは意地悪く間を置いて小さく微笑んだ

 

「そ、そっか……」

 

安堵したダイだがまた口ごもる、次の言葉が出ないのだ

 

「……」

 

そんなダイから視線を外し、バーンは繋げた空間からもう一つのグラスとボトルをテーブルに置いた

 

「座るがいい」

 

ダイに言葉で促した

 

「ッ……」

 

それを聞いてダイは更に混乱していた、同じテーブルに座る事を許す好意的な行為が逆に余計な混乱をダイに与えていた

 

いや、混乱というよりは覚悟が決まっていなかったのかもしれない

 

「……」

 

戸惑い動かないダイを見てバーンは言う

 

「さっさと座れ、案山子だとしても目障りだ、座らぬのなら失せよ」

 

敢えて強い言葉を使い命令する、ダイの知る最終決戦の際の雰囲気を出しそれで落ち着かせようとした

 

「!!……わかった」

 

効果は覿面だった

 

威圧に負けないように努めた事で自然に覚悟が決まったのだ

 

「……」

 

「……」

 

テーブルを挟んで座り合う2人

 

「……」

 

ダイはバーンを真っ直ぐに見つめている

 

「……」

 

バーンは斜めに構えその顔は天に向き月を眺めている

 

「……」

 

「……」

 

言葉は無い、そのまま時間が流れていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?魔力って魔法使いとしてのレベルが上がる程伸びは悪くなるんじゃないのか!?」

 

ポップがパチュリーに驚きの声をあげる

 

「それは誤った認識、ある一定のレベルで満足した似非魔法使いの定義よ、魔力は魔法使いとして練魔すればする程上昇していくモノ……その認識は底無しの魔法の深淵に絶望した者達が作った諦めの定義」

 

「諦め……成程ね、半端な奴は諦める言い訳を作りたくなんのか……昔の俺みたいによ」

 

「魔法の扱いに関しても種族的な差はあるけれど雲泥みたいな差ではない、バーンだって数千年力を蓄えたからあの力を持つのよ」

 

「言われてみりゃそうだよな……最初から強ぇ奴なんていねぇよなそりゃあ」

 

「……例外は居るけれどね、破壊神みたいな理から外れた次元違いの化物が……まぁそれは例外中の例外、気にする必要は無いわ」

 

「気になるじゃねぇか大先生……」

 

 

 

「魔法の威力を高める良い方法教えてやるぜポップ」

 

「魔力覚醒について教えてくれんのか?」

 

「違う違う、魔力覚醒は言ってみりゃ魔法魔術の応用だぜ、私が言ってんのはその応用の効果を高める基本魔力の事だぜ」

 

「増幅する前の魔力って事ね、了解……そんで?」

 

「お前は最後の最後で残った魔力注ぎ込むくらいの使い方しか出来てねぇ、つまりガス欠になる前の魔法に強弱を設定するって事だぜ」

 

「あー成程ね、んで?」

 

「お前の魔力の出し方は型に嵌まってっから低い最大値で最低値でもあんだぜ、んで魔力の出し方だけどよ、魔力をスッと出すんじゃなくてガッって出すんだぜ、やってみな」

 

「んな説明でわかるか!……えーと?多分魔理沙が言いてぇのは自分の魔力にもっと意識を向けろって事か?そんで……魔力を出すんじゃなく引っ張り出す、みたいなイメージか?……こうか?」

 

「お?おーおーそれだぜ!クソショボイけどよぉいつもより魔力出せたろ?」

 

「確かに出来た……コレで魔力の強弱に段階付けんのか、魔力操作の練習にもなるし戦術の幅も広がる、か」

 

「そういう事、パチュリーの方が断然上手いから私は入門編な!それにしてもクソショボイなお前の」

 

「ショボイのはほっとけ!そのクソ説明で出来た俺を褒めろってんだ!」

 

「あ?泣かすぞお前」

 

「いやー!マジでスゲーな大師匠はよー!」

 

魔法使いの談議は続いている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……美味い」

 

巨大な杯の酒を飲み干すクロコダイン

 

「いい~っ飲みっぷりだねぇあんた!ハハッ!気持ちいい奴だよ!勇儀が気に入るのもわかるねぇ!」

 

「だろう萃香!」

 

気分良く飲む萃香と勇儀

 

「驚いたわ本当、鬼や私と対等に飲める魔族がいるなんてね……その強さとても稀有なモノよ」

 

神奈子はクロコダインの酒の強さに感心している

 

「ああそうだ勇儀」

 

「どしたい?」

 

「バーンと話は出来るのか?」

 

「あぁん?」

 

妙な問いを受けた勇儀は萃香と神奈子を見る

 

「あいつと話すのに今は許可制かなんかになってんのかい?」

 

「いんや?誰の許可がいるってんだいアホらしい!あぁミストが居たねぇ……まぁ気にせず普通に話せばいいじゃないか!なんならぶん殴っちまえばいいさねハハハ!」

 

萃香はケタケタ笑う、鬼の二人はクロコダインがわざわざ問う理由がわかっていない、細かい事を気にしない鬼の二人らしい答え

 

「まぁ……難しいところではあるな」

 

神奈子だけは微妙な関係がわかっているから真面目に答える

 

「私達では判断がつかない、良いのか悪いのかバーンの答えに予想が出来ない、が本音だよクロコダイン……確実な事は言えない」

 

「そうか……」

 

「ただ私から言えるのは少なくとも敵とは思われていないという事だけ」

 

「やめておく方が賢明か……むぅ」

 

クロコダインは大きく鼻息を出す

 

「ん?ああ……そういえば似た奴が一人居るわ」

 

「似た奴……?ええい抱きつくな勇儀……似た奴とは神奈子殿?」

 

「彼も貴方と同じ元魔王軍、バーンの配下だった男ね、似た立場だったけど今では知古としてバーンとよく話しているわ」

 

「ロン・ベルクの事か?」

 

「いやあいつではない、名はハドラー、貴方も知っているんじゃない?魔軍司令と言っていたから上司になるのかしら?」

 

「なにッ!?ハドラー……だと!?」

 

クロコダインは聞かされた名に驚いた

 

「知っているようね、そのハドラーはバーンに敬意を持ちながらも対等に話しているわ」

 

「待ってくれ神奈子殿、その話を詳しく聞かせてくれ」

 

「構わないわよ、ただし飲みながらね……潰れたら話は終わりよ」

 

「いいだろう、乗った」

 

酒を注げと杯を差し出すクロコダイン

 

「なら私がガルヴァスの話をしてやるさね~」

 

「何だと萃香!?ガルヴァスも居るのか!?」

 

「死んだけどねぃ」

 

「それも聞かせてもらう……長い夜になりそうだな」

 

昔話を酒の肴に酒盛りは続く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでですねーその時ミストがですねー」

 

「はい!それでどうなったんですか!?」

 

美鈴、マァムのガールズトークが続いている

 

「……」

 

蚊帳の外のミストは恨めしそうに睨んでいるも二人は全く気にしていない

 

「機嫌が悪そうだねミスト」

 

「……森近とマーガトロイドか」

 

霖之助がアリスとやって来た

 

「どうしたんだい?……っとそういう事か、大変だね君も」

 

ガールズトークの内容が聞こえた霖之助は察して苦笑する

 

「良かったら私達と一緒に向こうでお話する?」

 

アリスが提案するもミストは首を振った

 

「いや、ここで何かトラブルがあった時の為に待機する、咲夜殿とウォルターと屋敷妖精だけでは辛いだろうからな」

 

「え?咲夜なら向こうでにとり達と花札してたわよ?」

 

「……ならば尚更私が気を抜くわけにはいかん」

 

「仕事人ね貴方って本当に……」

 

「それが私という存在だという事だ……見回りをしてくる」

 

席を立ちミストは人混みに消えていった

 

「損な性格してるわよね彼って」

 

「それは僕達他人の目線だ、彼自身は損なんて思ってないよ、バーンの配下として恥じないよう努めているだけさ……本当に損に関係するのはバーンとこのヘベレケの美鈴に萃香の3人に関する事くらいだろう」

 

「……私には真似出来ないわ」

 

「僕も無理さ」

 

二人が苦笑していると霊夢と靈夢、早苗が合流し一気に賑やかになった

 

「そんれれすね~きいれるんでふかマァムさん~」

 

「……zzZ」

 

まだ夜は長い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけましたよお二方!」

 

ヒュンケルとラーハルトとヒムの場に少女が声をかける

 

「お前は魂魄妖夢……」

 

「それとロン・ベルクか」

 

「よう、飲ってるな」

 

包帯だらけのミイラのような妖夢の後ろにロンも居る

 

「お前等と話がしたいそうだ、俺も用がある……構わんか?」

 

「ああ……構わんさ」

 

二人を加え酒は進む

 

「まだ幻想郷に滞在するんですよね皆さんは!?ではその間に技術交換をしませんか?ついでにヒュンケルさん模擬戦をしませんか!?」

 

「落ち着け魂魄妖夢、傷が開くぞ」

 

興奮している妖夢をラーハルトが相手している

 

「貴方にもリベンジマッチを所望します!次は絶対に負けません!」

 

「ふん、次も勝つのは俺だ」

 

再戦を望む妖夢にラーハルトは挑発のように笑みを浮かべ返事を返す

 

「後で魔剣と魔槍を預けろ、手入れと修復してやる」

 

「俺の魔剣はともかくラーハルトの魔槍は穂先が両断されたからな……自己修復ではかなりの時間が掛かるだろう、わかった……後で渡す」

 

「それとダイは何処に居る?」

 

「さぁな、今あいつは一人で何処かに居るだろうさ」

 

「フッ……そうか、なら戻ってきたら伝えとけ、新しい鞘を作ってやるから剣を見せに来いとな」

 

「……あの力に耐え得る鞘を作れるのか?」

 

「舐めるなよヒュンケル、昔なら不可能だったが此処で腕を磨いた今の俺ならば可能だ、心剣一体の技法を用いて鞘を作る」

 

「心剣一体……心の限り不破を保つというアレか、俺の魔剣にもして欲しいくらいだ」

 

「俺としてはしてやってもいいんだが妖夢の奴がな……嫌らしい」

 

「何故だ?」

 

「楼観剣と星皇剣以外にはして欲しくないとごねてな、技法の独占というわけじゃなく俺とあいつだけの絆を独占したいみたいでな、ダイの件も鞘だから納得してくれた」

 

「そうか……そういう事なら仕方無い、何も言えんな」

 

「すまんな、代わりと言ってはなんだが良い酒を持ってきた、注いでやろう」

 

「貰おう」

 

 

 

「おーい誰か俺の相手してくれよ……」

 

男達の宴は続く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウマァァァァァイ!!」

 

チウがご馳走に舌鼓を打つ

 

「すっごい美味しいな!」

 

ようやくルーミアから解放されたチウはご馳走を食べまくっている

 

「美味しいでしょ!あたいも大好きなのよ!レミリアが作ったのが一番好きだけどね!」

 

「あたしもお姉様のが一番好きだよー!」

 

「本当に上手になったよね、私より料理が上手くなったのスゴいなぁ、ハドラーさんのお陰だね」

 

「私もお母さんに教えて貰わないとな~レックスに食べてもらいたいし」

 

「美味しいのだー!」

 

チルノ達5人も仲良く食べている

 

「……ねぇ、君達ってどうしてそんなに強いんだ?チルノなんて特に……」

 

不意にチウが問う

 

「君達バーンを越える為に頑張ってるってポップから聞いたよ、あんなダイより強い奴に……」

 

ヒュンケルに負けず劣らずのフランにダイとも戦えるだろうチルノ、その二人と同格の大妖精に対してどうやってそこまでに成れたのかが気になったのだ

 

「あたいがさいきょーだから?」

 

「いやそういう事じゃなくて」

 

チルノは問いの意味がよくわかっていない

 

「ん~チウが聞きたいのは方法?それとも理由?」

 

フランが問い返す

 

「どっちもだけど……一番知りたいのは理由だよ、そこまで強くなれる理由が知りたいかな」

 

「それはねー……大ちゃんパス!」

 

「えぇ!?」

 

いきなり振られて驚いた大妖精だが息を整え考える

 

「……それがバーンさんとの約束だからですかね」

 

「約束……どんな約束したの?」

 

意外な答えにチウは大妖精を見つめる

 

「強く生きろ、って約束です、もちろん強さだけの意味じゃないですよ……生き方です、自分の決めた生き方を強く生きろって意味だと私達は思ってます」

 

「強く……」

 

「私、昔はとっても弱かったんです、皆に守ってもらってばかりで……そんな私にバーンさんは言ってくれました、力は弱くても生き方を貫け、って」

 

「……そうなのか」

 

「その約束を支えに頑張ったらいつの間にか力も強くなってたって感じで……おまけですね私にしてみたら」

 

「弱くたって生き方を貫く強さ、覚悟や信念を持って生きろって事か」

 

「弱くても貫く姿は格好良いですけど力無き正義は無力とも言われます、ですがその意思は無駄でも無意味でもないです、きっと力を養う活力になると思いますよ」

 

「そっか……」

 

大妖精の答えに静かに考えるチウにルナが呟いた

 

「あー私も前にバーンさんに言われたなぁ、力は後からいくらでも養える、覚悟が必要なんだって……バーンさんも覚悟があって何千年も鍛えたからあんなに強いんだろうね」

 

「ルナも頑張ってるんだな……」

 

「そうだよ!だからチウも絶対強くなれるよ!」

 

ルナの笑顔のサムズアップ

 

「あんた人に言えるほど強くないじゃん」

 

「まだまだ全然弱っちぃよね~」

 

「う、うるさいですよ!私はこれから強くなるんですぅ!イカれた冷気とフィジカル持った2人は黙っててください!」

 

「生意気じゃん子分のクセに」

 

「やっちゃうチルノ?お仕置きやっちゃう?」

 

「え!?ちょ!?ふぎゃあああ!!?寒い寒い腕を変な方向に曲げないでぇぇ!?」

 

イジメられるルナに大妖精がほどほどにと一応言うが言うだけで止めない、ルーミアはそれを見てケタケタ笑っている

 

「覚悟……かぁ」

 

チウは拳を握る

 

(そんなの当たり前の事だ、聞かなくたってわかってた筈なのに……)

 

チウも覚悟は持っていた、獣王遊撃隊の隊長として隊員達を守る覚悟が

 

持っていたが平和な時間が長かったから薄れてしまっていた、平和ボケしていたのだ

 

(こんなのじゃダメだ!もっと隊員達が誇れる隊長にならないと!それでダイを助けれるように……強く生きないと!)

 

決意を新たに覚悟が戻る

 

「なぁ大ちゃん?ボクどうしたら強くなれるかな?」

 

「え?えっと……チウさんって確か武道家でしたよね?」

 

「そうだよ」

 

「でもその……手足のリーチが……」

 

「それはわかってる、それもふまえて忌憚の無い意見をくれないか?」

 

「でしたらフランちゃんに教わるのが良いと思いますよ、フランちゃんもリーチが短い似たタイプなので」

 

「そっか……なぁフランドール!」

 

チウはルナをイジメているフランに声を掛ける

 

「何?どしたのチウ?」

 

「ボクを鍛えてくれないか?」

 

「ん~いいけど体鍛えるぐらいしか教えられないよ?それでもいい?」

 

「勿論だ!それで頂点まで登り詰めたんならボクには充分だ!」

 

「ふーん……あたし1tの重しつけて筋トレしたりするけどいいの?」

 

「……20キロくらいからで頼むよ」

 

「オッケー!ウォルターに用意してもらっとくね」

 

「お願いするよ……よし!頑張るぞ!」

 

「応援してますよチウさん!」

 

小さな者達の団欒は続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・バルコニー-

 

元大魔王と勇者を月光が照らしている

 

「……」

 

「……」

 

沈黙は続いていた

 

「……ッ」

 

何か言おうとするも言葉が出ないダイと

 

「……」

 

そんなダイを気にもせず月を眺めてバーンは酒を飲んでいる

 

(何してんだオレは……!?)

 

何も言い出せない自分が酷く情けないと思うが口がまるでマホトーンを受けたかのように声が出せないのだ

 

(聞きたい事があるんだろ!それに……言わなきゃならない事だって……!)

 

ダイがそうなるのも無理はない

 

相手は友や知り合いではない、知っているという意味では知り合いだがその本当の意味は因縁になるのだ

 

気軽には話せない、否、気軽に話す事が有り得ない相手だからこそ言葉が出ない

 

敵対していないといえど簡単に話すには因縁が深過ぎるのだ

 

 

「……何か用が有って来たのではないのか?」

 

バーンが月を見上げたまま言った

 

「……!」

 

ダイが体を震わせる

 

「今、余は気分が良い……お前の抱く疑問に答える事もやぶさかではない」

 

バーンはゆっくりとダイへ向いた

 

「……」

 

言い出せないダイにとってバーンからの言葉は願ってもない言葉だったが同時に先に言わせてしまった情けなさを噛み締める

 

「……どうして、負けを認めたんだ」

 

未熟を忌みながらも問うた

 

「あれだけお前は勝ちたいって言ってたのに……どうしてだよ」

 

不満有る試合の結果を

 

「納得出来ぬか……まぁ、出来ぬだろうな」

 

「当たり前だ!お前の方が強かった!なのにオレの勝ちだなんて……納得出来るわけないだろ!」

 

彼我の差は誰の目にも明らかだった、にも関わらず勝ちを譲る真似をされて喜ぶようなプライドをダイは持っていない

 

「抗議は尤も、答えぬ訳にはいくまい……」

 

バーンはダイから視線を外して語る

 

「お前に勝ちたい想いは真であった、しかし……余はあの最後……」

 

「……」

 

「お前の一度きりの最大の技と相撃った、お前に勝ちの目が無かったのは純然たる事実、にも関わらず……だ」

 

グラスに手をかけ、ゆるりと回す

 

「お前は決して諦める事無き勇者の姿を見せた、あの閃光のような強く雄々しき……太陽のごとき姿を……」

 

一口飲み、自嘲するように……小さく笑む

 

「その陽の光に見とれ……一手遅れた」

 

「……!!」

 

ダイは目を見開いた

 

バーンが言っているのはあの最終決戦の最期だった、内容は違えど焼き直し

 

しかし意味は大きく違っていた

 

あの時は太陽に目が眩み討たれた

 

だが今回は太陽のような自分に目を奪われた

 

「……」

 

今回の最期もバーンの手刀は充分間に合っていた、自分が先に切られていてもなんら不思議ではなかった

 

なのに手刀は途中で止まっていた理由はそれだった

 

「満足……してしまったのだろうな、元はお前に生き方に覚悟を持たせる目的であった、お前に勝つなど目的が上手く行った際に湧いた副産物に過ぎん、本気のようで芯が無い、見てくれだけだったという事だ」

 

「……」

 

「だからだろう、お前に見とれた瞬間……余の魂が負けを悟った」

 

「ッ……だからって……!」

 

ダイは拳を握り締めていた

 

「納得出来ぬだろうな、わかっている」

 

「ッ!?」

 

「故に……謝ろう」

 

「……え?」

 

思ってもみなかった言葉に呆気に取られるダイ

 

バーンがダイを真っ直ぐ見据え、その言葉を紡ぐ

 

 

「やめろッ!!」

 

 

叫びがバーンを制止する

 

「やめろよ……オレはそんな事聞きたくて来たんじゃない!理由を知りたかっただけなのに、なんでお前は……!」

 

謝って欲しいのではない、ただ理由が知りたかった、謝るのはむしろ自分、なのにバーンにそうさせようとしてしまった自分の至らなさ、幼さがダイに苦しい声を出させる

 

「……ならばお前は何をしに来たのだ?再戦をしたいのか?次は枷の無い余と本気の戦いを望むのか?」

 

「違う……確かにあの時は頭に来たけど今はそんな気全然無い」

 

「では何だ?」

 

「それ……は……」

 

ダイは想いを口に出せない

 

「ッ……」

 

最大最強だった因縁の相手、勇者と大魔王の業深き因果は根深く例え敵でないとわかっていても心の縛りは取れないでいた

 

「……」

 

そんなダイをバーンは眺めている

 

「ふっ……二度も勝った相手に怖じ気づくか」

 

心の機微は見透かされていた

 

「なっ……!?お前……!」

 

「情けなさは変わっていないようだな」

 

バーンは何の遠慮無く言い放つ

 

同じ因縁だがバーンは縛られない、勇者相手に言い辛い事も怖じ気る事も無い

 

「ッ……!?試合はお前の勝ちだ!だから一勝一敗の引き分けだ!」

 

「結果は確定している、余の負けは覆らぬ」

 

「だから違うって……!」

 

「お前がそう思うのならそうなのだろう、お前の中ではな」

 

「~~~~ッ!?」

 

気付けば歪ながらも会話をしていた

 

「認めないぞオレは……!」

 

「好きにするがいい」

 

バーンがリードする形で会話をしている、ダイの縛りをバーンが払ったのだ

 

「……」

 

息を落ち着かせ昂る心を静めたダイ

 

「オレを……恨んでいるのか?」

 

覚悟を決めて……問うた

 

「……ふん」

 

問われたバーンは鼻を鳴らし顔をダイから背ける

 

「愚問だな、恨んでいたならお前は今……生きていない」

 

バーンが本当にダイを恨んでいたなら言葉通り殺している、試合になどならず再会したあの場で息の根を止めていただろう

 

立ち直らせる真似などする筈が無い

 

「そう……か……」

 

ダイもそんな事はわかっている、わかっていて聞いたのだ、大望を挫いた本人だったからわかっていても気になり直接聞きたかった

 

「だったら……」

 

その上で聞きたい事があった

 

「お前は今……幸せなのか……?」

 

幻想郷でバーンが生きていると知り、幻想郷でしか生きられない現状を知ってダイがずっと思っていた……

 

一番聞きたかった事

 

「お前にはどう見えた?」

 

バーンは逆に問い返した、自分の答えは決まっている故の試すような問い返し

 

「……幻想郷の人間も妖怪もみんなお前の事を恐れてなくて受け入れてた、それだけじゃなくてみんな……お前の事を友達や仲間だって、好きだって……言ってた」

 

幻想郷で自ら見て感じた事を飾らずありのまま話す

 

「幸せだって……思った」

 

それがダイの感じた答え、そう感じたからこそ自らの現状と比べてしまい嫉妬し闇を助長させたのだから

 

「確かに……あの時、魔界に太陽を与えるという余の目的は大望であったのは間違い無い」

 

バーンは語る

 

「その大望を挫かれ、幻想郷へと流れた……此処へ来た当初はお前への恨みも無かったとは言い切れん、しかし余は此処で……自らを暖かく照らす新たな太陽を得た」

 

自ら語られる幻想郷での歩みに連なる心の内、過程に重きを置いて語られる答えへの道筋

 

「友情、友愛、お前達の言う……絆と言うモノを余は得た、その頃にはお前への恨みなど寧ろ、感謝へと変わっていた」

 

「!!」

 

ダイが目を見開くもバーンの語りは気にせず続く

 

「友や仲間の不幸を思いたくない、幻想郷は平和を保っていたい……何でもないような日常を続かせて行きたい、失って後悔するような事はしたくない、それだけが今の余の生きる理由になっている」

 

純粋に友や仲間の幸を願い、小さな世界である幻想郷の恒久の平和を願うだけの男の想い

 

「まぁ現状……嫌われてはいないようではあるな、お前と違って」

 

「……!」

 

ダイの不機嫌な睨みが飛ぶがバーンは笑みで受け流す

 

「ふっ……それで問いの答えだが、これが幸福と言うのなら、そうなのだろうな」

 

語りの終わりに酒を飲み、ダイの様子を横目で窺う

 

「……幸せだよ」

 

握り締めた拳に更なる力が入る

 

「幸せだよお前は!オレと違って!ちくしょう……!」

 

悔しさが顔と言葉に出ていた

 

ダイにとっては羨む事、そうなって欲しかった理想の現状なのだから

 

「何でこんなに差があるんだよ……」

 

ドス黒い嫉妬ではなく羨望になってはいるのが試合の時との違いなので闇を抱える事は無い

 

だからこれはただの愚痴のようなモノ

 

「……もう聞く事は無いのか?」

 

「無い、オレより強くて幸せな奴にもう聞く事なんて無い」

 

ふて腐れ吐き捨てるようにダイはそっぽを向いた

 

「そうか……なら次は余から問おう、酒は飲めるか?」

 

バーンはグラスをダイの前に置く

 

「……飲んだ事はあるよ、勇儀さんと……初めてだったけど」

 

そっぽを向いたまま片目でダイはグラスを睨む

 

「そうか、ならば付き合え」

 

「……」

 

その提案にダイは顔をしかめる

 

「無理強いをする気は無いが返事くらいはしろ、嫌なら嫌でよい」

 

「……嫌じゃ……ない」

 

「なら何が不満だ?」

 

「……お酒は美味しくなかった」

 

「ふっ、体は成長しても舌はガキのままか」

 

「……悪かったな」

 

ダイの睨みに微笑んだバーンは繋げた空間から新たなボトルを取り出した

 

「カクテルを作ってやる、果汁と合わせたジュースのような酒だ、それならばお前にも飲めよう」

 

「……」

 

ダイは固まっている

 

バーンの言葉の意味を飲み込めていない

 

「え?……はぁ?」

 

ようやく理解したダイは信じられない顔をした

 

あのバーンが自分の為に飲み物を作ると言ったのだから

 

(あぁもう……何なんだよ……)

 

大魔王が勇者に酒を作る

 

天地がひっくり返っても有り得ない事が起きているのだからもうダイの情緒は滅茶苦茶になっていた

 

(……ああ、そうか)

 

酒を作っているバーンを眺めているとダイの乱れた心は不思議と静まった

 

(これが、今のお前なんだな……大魔王じゃなくなって、絆を知った……幻想郷のバーンなんだ)

 

その時、ダイは因縁が完全に無くなったのを感じた

 

 

 

「出来たぞ」

 

バーンがカクテルをダイに差し出す

 

「あ……ありが……」

 

「ライジングサンと言うカクテルだ、意味は朝日、日の出、夜明けとも言える」

 

ダイの言葉は被せられ止められる

 

「夜明け……」

 

「お前の為に在るような酒だ、泣いた夜が明けた……今のお前のな」

 

「……」

 

「飲んでみろ、毒など入れておらぬ」

 

促されダイは恐る恐る一口飲んだ

 

「美味しい……!これなら飲める!」

 

その味は格別に感じた

 

味もそうだがバーンが自分の為に作ったという事実がとてもむず痒く、言い様の無い嬉しさを胸に込み上げさせた

 

「口に合ったか、ならばグラスを持ってこいダイ」

 

「……?わかった……」

 

言われるがままダイはグラスをバーンに差し出した

 

 

チンッ

 

 

バーンの持っていたグラスと合わせられ小さな音が響く

 

「……今のって」

 

ダイがバーンを見るとバーンは何も言わず自分の酒を飲んでいた

 

「……へへ」

 

バーンは何も言わないがダイは今のグラスを合わせる意味を理解した

 

それが妙に嬉しくて口元を緩く綻ばせる

 

(乾杯……!!)

 

心の中でその言葉を出した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは奇蹟の音色

 

 

勇者と大魔王が何のしがらみ無く

 

 

ただのダイとバーンとして心を通わせた

 

 

最初で最後の奇想曲(カプリチオ)……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから半刻にも満たぬ時間を二人は無言で酒を飲んだ

 

「……」

 

立ち上がったバーンがダイを見ている

 

「…………」

 

ダイは眠っていた

 

試合による疲労と満腹による眠気、トドメに慣れぬ酒、バーンが作った酒を飲み干した時に限界で寝てしまったのだ

 

「無防備な……友になった訳でもあるまいに」

 

今ならダイの命を断つのも容易いがバーンはそんな事は欠片も考えていない

 

「……」

 

月を見上げ、呟いた

 

「お前の仕業だな……レミリア」

 

その言葉に応じ、柱の裏から王女が姿を見せる

 

「迷惑だった?」

 

ダイを導いた張本人であるレミリアはバーンの隣へ並び立つ

 

「そういうつもりで言ったのではない、こんな真似が出来るのはお前だけだと思っただけだ」

 

「そっ……じゃあ、楽しめた?」

 

「悪くはなかったとだけ言っておこう」

 

「フフッ……そう、なら良かったわ」

 

微笑むレミリアに連れてバーンも口元を緩ませる

 

「苦労を掛けたな、すまぬ」

 

「そこは謝罪じゃなく感謝するところよ?貴方の為ならこのくらい何ともないもの」

 

「フッ……つくづく余は良き女を得たと思わざるをえんな」

 

「当然、私より良い女は存在しないわ」

 

感謝を伝えたバーンは魔力を高める

 

「後の事は任せてよいか?」

 

何の説明も無くバーンは言う

 

「わかったわ」

 

レミリアも何も聞かず二つ返事で頷いた

 

「……」

 

ルーラを唱える直前、バーンは眠るダイを一瞥し

 

紅魔館から姿を消した

 

「ん~……フフフ……」

 

残ったレミリアは一区切り終えた達成感と満足感に一人笑い、月を見上げる

 

「終曲に竜が謳った絶望の哀歌、重ねた王の鎮魂曲が荒む魂を清め、月下の夜想曲へと至り……間奏曲が心魂を凪ぐ」

 

誰にも聞かれない運命の呟き

 

「終わりがあるから始まり、始まりがあるから終わる……そして流転する運命は新たな始まりの音を奏でるでしょう……」

 

指を鳴らし呼んだ咲夜にダイを任せると運命の紅き王女は一人紅魔館の中へと消えて行く

 

(竜が生き方を探し求める、竜の探求(ドラゴンクエスト)、か……なら次に冠する曲名は……アレなんて相応しいかもしれないわね……)

 

終わりと始まりを祝う宴会は静かに、盛大に明けていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

明け昇る太陽が……夜の終わりを告げる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お待たせしました。
二人の会話が難産でして……書けば書く程不安になる回でした。

今のバーン様とダイが対談するならきっとバーン様主体でダイは言いたい事があんまり言えないこういう感じになるんじゃないかなぁ?と思い書いてました。
なんか上手く言えない関係なんですよね、敵ではないけど仲良くもない、好き嫌いでは表せず苦手が近いけど似て非なる……これ以上は良くも悪くもならない微妙で曖昧な関係だと思ってます。

次回は許可をいただけたのでウジョー様とのコラボ話になります!精一杯頑張ります!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。