東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 夜想曲(ノクターン)

 

 

 

 

 

「……」

 

武闘会場の外に出たバーンは立ち止まり、体に力を入れる

 

「……」

 

欠損した肉体が再生し次いで魔法力が体を包み破損した服を修復した

 

「……」

 

再生した左腕の調子を確かめたバーンは武闘会場へ振り返る

 

「……」

 

一瞥だけくれるとルーラで何処かへ帰って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら、左足を見せなさい」

 

永琳は世界樹の葉をダイの欠損した左足の付け根に当てると葉が輝き足も光だす

 

「お?おぉ~!」

 

その様子を見守るポップ達

 

「……スゴイや」

 

強い光に目が眩み、光が収まるとダイの焼滅した左足が復活していた

 

「感覚はどうかしら?」

 

「全然問題無いよ!ありがとう永琳さん!」

 

「どういたしまして」

 

微笑む永琳が一歩下がるとポップが入れ替わるように入る

 

「ほらよ」

 

ベホマをかけてダイの傷はほぼ回復した

 

「しっかしスゲェもんだな永琳さんよ?まさか無くなった足を復活させるなんて思いもよらなかったぜ」

 

「世界樹の葉は死者一人を甦らせる、なら死んだ部位を甦らせるなんて事は当然の理屈になるのよ、でもその場合でも一枚消費するからコストパフォーマンスの意味で言えば悪いと言えるわね」

 

「へぇ~余ってるなら何枚かくれねぇかな?」

 

「それは八雲紫に聞いてみなさい、世界樹の葉は幻想郷の共有財産だから私の一存で譲渡は出来ないの、ごめんなさいね」

 

「そっか……聞いてみるかね」

 

「では私はこれで……楽しかったわ」

 

永琳が去っていく

 

「……みんな!」

 

ダイが立ち上がる

 

「今まで……ごめん!」

 

頭を下げた、迷惑をかけた事を全力で謝った

 

「何謝ってんだおめーはよ?」

 

ポップは気楽に返す

 

「今までの事なんざどうでもいいんだよ、おめーが元気になったんなら……よ!」

 

「イテッ」

 

デコピンを食らわされたダイが見たのは皆の笑顔

 

「……ありがとう、みんな」

 

変わらない友情をくれる皆に感謝する

 

「……」

 

ダイは皆に背を向け舞台を見る

 

「…………」

 

仲間への心配事が済んだ後に胸に残るのは今しがた終えたばかりの戦いの事

 

(オレは勝てなかった……本当の勝者はバーンだ……)

 

死力を尽くして届かなかった、ルール無用の死合ならば殺されていたと確信するまでに力の差はあった

 

(お前の方が勝ちたかったんじゃないのかよ……?オレより……お前の方が……)

 

枷付き、言わば手加減された状態でも勝てなかった

 

なのにバーンは自ら負けを認め、抗議も聞かずに消えていった

 

納得が出来る筈がない

 

(バーン……お前は……)

 

だが、落ち着いた今思うのは自分の不満よりも相手の心の内だった……

 

 

 

「おめーの負けだったなぁダイ」

 

ポップがダイの肩に顎を乗せて言う

 

「……ああ、完敗だった」

 

親友との飾り気無いやりとり

 

「誰がどう見たってバーンの勝ちだった、のくせにダイが勝ったなんて言われたって納得いかねぇよな」

 

「……うん」

 

「でもあんなに勝ちたがってたヤローがなんで負けを認めたのか今は気になってる……だろ?」

 

「……すごいなポップ、何でわかったんだ?」

 

「へっ……おめーの事はお見通しだってーの!まっ俺も気になってる」

 

「だよね……」

 

苦笑する二人

 

「その答えを知りたいなら本人に聞けばいいんじゃない?」

 

そんな二人に声がかけられる

 

「現れやがったぜ性悪吸血鬼さんがよぉ……なぁレミリア!」

 

「お疲れ様ポップ、愉快なイベントだったわ」

 

全ての仕掛人レミリアは妖しい笑みを見せた

 

「待ってたぜレミリア、まずはおめーに言わなきゃなんねぇ事がある!」

 

ポップは怒気にも似た雰囲気でレミリアに詰め寄って行き、勢い良く……

 

「止まれ三下」

 

レミリアに威圧され制止された

 

「……バレてたか、俺の渾身のトベルーラ土下座をよ?」

 

驚いたポップが気まずそうに頬を掻く

 

「お前みたいな賢いバカのやりそうな事くらいわかるわよ、くだらない真似はやめて」

 

「あーなんつーんだ、俺が本気で感謝してる証明っつーか……疑った謝罪も含めた、だったんだが……とにかく言葉だけで終わらせたくなかったんだよ俺は」

 

「バカね、貴方達を見せ物みたいに使ったのだから謝るべきはむしろ私の方なのに」

 

「そんでもだ、内容はどうあれお前さん達は俺達が心配してたダイの心を救ってくれたんだ……正直感謝してもし足りねぇ恩を感じてる」

 

「鬱陶しいからいいわそういうのは、お互いに利益があった、それでこの話は終わりよ」

 

「利益って……おめーさんに利益なんかあったか?会場作ったり損しかしてねぇだろ」

 

「そうでもないわ」

 

「あん?」

 

ポップの前でレミリアはとても嬉しそうに笑った

 

「楽しそうなバーンが見れたから、ね」

 

「……」

 

その顔はポップが思わず見とれてしまうくらいとても……

 

とても幸せそうな顔だった

 

「……惚気かよ、けっ……わーったよ」

 

他はどうかは知らないが少なくともレミリアはその為だけに動いていたのだと知り釣り合いは取れたのだと強引に納得する

 

「ではこの後すぐに閉会式に入るからよろしくね、すぐ終わるから」

 

「へいへい了解」

 

皆はレミリアに付いていく

 

「……」

 

ダイだけが立ち止まっていた

 

(聞いてみたら……か)

 

レミリアの言葉を反芻し、ダイも後に続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『はーいそれではこれより閉会式が始まりまーす!』

 

舞台の中央に並んだ勇者一行達へ歓声が贈られる

 

『主催者のレミリアさんお願いしまーす!』

 

次の瞬間に歓声はピタリと止んで静寂が訪れた

 

「楽しめたかしら?」

 

観客の歓声が応える

 

「よろしい……はい、これで閉会式はお仕舞いね、次に行きましょうか」

 

ポップがズッこける

 

「雑過ぎんだろよ……あんだけって」

 

結構長い話になると思っていた一行もこれには苦笑い

 

「ん……?待て待て?次っつったかあいつ?……次?」

 

嫌な予感がするポップの前でレミリアは宣言した

 

 

 

「では今から恒例の宴会を始めるわ!!」

 

 

 

その瞬間、会場の熱気は今日の最高値と同値を記録した

 

「場所は紅魔館!参加は自由よ!当然私が全て持ってあげる!好きなだけ騒ぎなさい!」

 

はち切れんばかりのレミリアコール、宴会が幻想郷の心を一つにしていた

 

「では参加したい者は各自紅魔館へ移動!既に準備は出来てるわ!何故か幽々子がスタンバイしてて既に始めてるから早く行かないと食い尽くされるわよ!」

 

促された観客は一斉に移動を開始した

 

「というわけで貴方達も参加しなさい、言っておくけれどこれは強制、絶対参加よ」

 

そして一行へ優しく命令する

 

「んだよ……何かと思やぁ宴会かよ、焦って損したぜ」

 

また妙な事をする気なのかと身構えていたポップは体の力を抜いて苦笑した

 

「見せ物にしたお詫びと思ってくれていいわ……勿論来るわよね?」

 

「疲れたから行かねぇつったら?」

 

「此処が貴方達の墓場になるわ、安心しなさい楽に永眠させてあげるから」

 

「待て待て待て!槍構えんな!冗談だ冗談!行くって!行くから槍下ろせ!」

 

「やーね、その言い方私がまるで脅したみたいじゃない」

 

「脅してんだよ!ったく面倒くせー奴だなおめーは相変わらずよ……普通に行くさ、話したい奴も居るしな……なぁ皆?」

 

七人は頷く、脅されなくとも誰一人行かない者などいなかった

 

「よろしい」

 

色好い返事に満足したレミリアはそわそわしているダイを見る

 

「バーンも居ると思うから探してみなさい」

 

「!?」

 

考えていた事を読まれて驚いたダイにレミリアは微笑んだ

 

「さて、私はアバンに連絡しておくから先に行くわ」

 

時を止めて移動する為に咲夜を呼ぶ

 

「あ、そうそう……貴方達、滞在もう少し延長したい?」

 

「……」

 

「フフッ……延長したいって顔に書いてあるわよ?三日くらい延ばしといてあげるわ」

 

「わりぃ……アバン先生にもよろしく言っといてくれ」

 

「伝えておくわ」

 

咲夜と一緒にレミリアは消える

 

「皆さ~ん!」

 

直後に大妖精が声をかけた、一緒に居るのはチルノとフラン

 

「一緒に行きましょう!」

 

「行こ~!」

 

「あたいが迷わないように連れてってあげるわ!……あ!ルーミア発見!あたいルーミアと行くわ!」

 

子ども組と一緒に行く、ルーラを使えば一瞬だがあえて使わない、一緒に話しながら行く過程が重要だから

 

「魔理沙とかはどうしたんだ?先に行ったのか?」

 

「魔理沙さんは幽香さんと萃香さんを呼びに行きました、治療にパチュリーさんと永琳さんが付き添ってます」

 

「妹紅とロランとルナは先に行ったよー!あたし達も早く行こー!」

 

紅魔館へ向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館-

 

「そうですか……ダイ君は立ち直れましたか」

 

紅魔館の一室で事の顛末を聞いたアバンはホッと胸を撫で下ろす

 

「いやはや何と御礼を言えば良いか……ありがとうございますレミリアさん」

 

「いいわ、昔に助けられた礼とでも思いなさい」

 

「感謝します……」

 

アバンは深々と頭を下げる

 

「ダイ君が立ち直ったのは喜ばしい事ですが結局はその場凌ぎにしかなっていないのは事実なんですよね……」

 

「それは確かにそうね……でも、心配無いと思うわ」

 

「……?何故ですか?」

 

「勇者を見たらわかるわ、だから貴方も来る?今から宴会だから」

 

「行きたいのはやまやまなんですがねぇ……私は国王なので軽々しく城を空けれないのですよ」

 

「大変ね」

 

「ええ本当に」

 

不意にアバンの周囲が慌ただしくなった

 

「どうしたの?何か問題?」

 

「ああいえ……他国のレオナ女王がダイ君達がそちらに行ってから毎日来るんですよ、ダイ君は大丈夫なのかとね」

 

「女王が……?」

 

「まぁ……ダイ君にぞっこんの未来の許嫁と言ったところですかね」

 

「ふぅん……えらく御転婆な女王様みたいじゃない、苦労しそうね勇者は」

 

「貴方も大概では?何せあの大魔王とお付き合いしているのでしょう?」

 

レミリアは虚を突かれたように驚く

 

「……貴方には言ってないと思うけど何故わかったの?」

 

「フフフ……あの時の貴方を見ればわかりますとも、ええ……貴方がバーンを愛していた事なんてね」

 

「……食えない男ねお前、忌々しい……」

 

「ハハハ!意地悪が過ぎましたね、すみません」

 

睨むレミリアに笑うアバン

 

「もう少しお話したいところですがレオナ女王に貴方が見つかるわけにはいかないのでそろそろ……」

 

「そうね、見つかったら面倒な事になるのは間違いなさそうね」

 

レオナがレミリアに会えば無理矢理幻想郷に来ようとするのは間違いない、女王が居なくなるなんて事は大問題なのでアバンとしては行かせるわけにはいかないのだ

 

「ではそろそろ……あ、ダイ君達はもう戻って来ますよね?今日ですか?明日?」

 

「……ああ、その事なんだけど」

 

仕返しを思い付いたレミリアは妖しく笑う

 

「最低あと三日は滞在する事になったから、いつまでかは未定よ」

 

「え……」

 

アバンは冷や汗を流す、毎日まだかまだかとせっついてくるレオナにうんざりしているから早く安心させたいのに未定は困るのだ

 

「面倒は見るから安心しなさい」

 

「いや待ってくださいレミリアさん!それは困りますよ」

 

「私は困らないわ、じゃあねアバン……いつかわからないけど帰る前日にまた連絡するわ」

 

「待ってください!せめていつ帰るか決めてから……」

 

スキマ通信は切られた

 

「フン……ザマァみなさい、私をおちょくるからよ」

 

立ち上がり指を鳴らすと咲夜が現れる

 

「準備は?」

 

「滞り無く、空間拡張された大宴会場に参加者もつい今しがた揃いました」

 

「よろしい、では行きましょうか」

 

咲夜が開けたドアを出る

 

「バーンは?」

 

「宴会場にはおられませんでした、ですが用意した酒の数が合わないのでおそらく紅魔館の何処かで飲んでいるのかと……」

 

「そう……わかったわ」

 

宴会場へ向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

持ってきた酒をグラスに注ぐバーン

 

「勝利の美酒とはいかなかったか……思い通りにはいかぬものよ」

 

薄く微笑み、飲む

 

(それでも……美味いものだ)

 

心を満たす充足感に浸りながら一人、沈んでゆく太陽を眺める……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では両陣営の健闘と幻想郷の勝ち越しを祝って……乾杯!!」

 

 

「「「カンパーーーーイ!!」」」

 

 

宴は開始された

 

 

「何だこりゃ!?料理食い荒らされてんじゃねぇか!ざっけんな西行寺幽々子!」

 

「あらあらウフフ!ごめんなさいねぇ」

 

「許せねぇ……!オイ手伝え皆!白蓮さんに預けて断食させるぞ!」

 

「「合点承知之助!」」

 

「まあまあ~!私から食を奪おうとするなんて……そうなったらもう戦争しかないわよぉ~?」

 

「やったらぁ!大人数に勝てるわきゃねぇだろ!戦争は数っての教えてやらぁ食いしん坊!」

 

「バカね!私は勝つわよ!」

 

早速争いが勃発している

 

 

 

「すっごいや……」

 

「とんでもねぇ規模だな……やる事が派手過ぎだぜレミリア」

 

「凄いわね……国のパーティーより大規模なんじゃない?」

 

「武闘会に加えこの規模の費用を全て持つとはな……ポップとマァムはとんでもない奴と知り合ったもんだ」

 

初めて参加する幻想郷の宴会に圧倒される一行

 

「どうする?何か取ってこようか?もうお腹ペコペコだよオレ」

 

「その事なんだがよ、自由行動にしねぇか皆?」

 

ポップの提案に視線が集まる

 

「ちっと話したい奴等がいんだよ俺、だめかい?」

 

「それなら私も話したい人が居るわ、いいんじゃない?」

 

マァムは乗り気

 

「俺も一緒に飲みたい奴がいるからな、そうするか?」

 

「ボクはチルノ達のところに行きたいな!ヒムちゃんも行こうよ!」

 

「いいぜ隊長さん」

 

クロコダイン、チウ、ヒムも乗る

 

「半数切ったな、んじゃそういう事で……また後で集まろうぜ」

 

ポップが手をヒラヒラさせながら一番に散っていき続いてマァムとクロコダイン、チウとヒムが散っていく

 

「みんな早いよ……」

 

瞬く間に3人になってしまった

 

「……ラーハルト、向こうで飲もう付き合え」

 

「何……?ダイ様を置いてかヒュンケル?」

 

主を置いていけと言う言葉に睨むラーハルトへヒュンケルは耳打ちする

 

「……しかしだ」

 

「心配要らんラーハルト、お前は幻想郷の何を見てきた?バーンの何を見た?大丈夫だ」

 

「……わかった」

 

諭されたラーハルトは非常に不服気な顔でヒュンケルを睨み、ダイの前で跪く

 

「ダイ様、この宴会の時だけ暇をいただかせてもらいます」

 

「えぇ!?ラーハルトとヒュンケルも!?」

 

驚くダイにヒュンケルが肩に手を置く

 

「悪いな、少しラーハルトを借りるぞダイ」

 

「……もーわかったよ……」

 

ダイの許可を得たヒュンケルは大層不満気なラーハルトを連れて人混みに紛れて行った

 

「一人になっちゃったや……薄情だよみんな」

 

気付けば一人

 

(でも……都合は良いか)

 

そう思った次の瞬間に腹の虫が鳴った

 

「とりあえず何か食べてからだ」

 

腹を押さえて料理を取りに行こうとするといきなりご馳走が山盛りに乗せられた皿を手渡された

 

「聞こえたぞ今の腹の音!腹減ってんならこれ食べな!ウメェぞ~!」

 

宴会の参加者、幻想郷の人間からだった

 

「あ、ありがとう……」

 

「むむ?お前さん勇者じゃねぇか!試合観たぞ!楽しかったぜありがとよ!」

 

その声に周囲が気付く

 

「勇者だって?ホントだ!」

 

「おーい!勇者が居るぞー!生勇者だー!」

 

「マジかマジか!」

 

「サインくれないかな!?」

 

「近くで見たかったんだー!」

 

「話聞かせてくれよ勇者さん!」

 

ダイはあっという間に囲まれた

 

「わ、わ、わ!」

 

身動き出来ないくらいに周囲を固められてしまう

 

「待て待て皆!勇者さんはお腹減ってんだってよ!」

 

「おう!じゃあこれも食べな!」

 

「これも美味しいわよ」

 

「どっかにレミリアのアップルパイがあったから取ってきてやるよ!」

 

「ハドラー流竜田揚げもあるぜ!」

 

「超魔爆炎ドーナツもな!」

 

 

 

「わわっ!?多い、多いよ……え?今誰かハドラーって言わなかった?」

 

いつの間にかテーブルも椅子も用意されてダイを中心に食事会のようになっていた

 

「食べようや、皆で食った方が美味いぞ」

 

「~~~~はい!」

 

幻想郷の人間、妖怪達に囲まれての宴会

 

「美味いかい?」

 

「うん……すごく美味しいよ!」

 

知らぬ者達だらけだったが嫌ではない

 

(良いな、久しぶりだ……この感じ)

 

むしろ懐かしい

 

人間と仲良く出来ていた頃を思い出したから

 

理想の頃を……

 

(羨ましいよ……本当に……)

 

此処でしか生きられぬ男へ想いを馳せる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「む……」

 

宴の最中、ミストは気付いた

 

「美鈴」

 

横で料理を食べる美鈴を呼ぶ

 

「どうしましたミスト?」

 

「使途だ……この気はマァム」

 

「知ってますよ?それがどうしたんです?」

 

「気付いていたのか」

 

「一行の皆さんの気は最初からずっと把握してますよ」

 

「……なら何故警戒しない」

 

「ミストもしつこいですねぇ、もう警戒する相手じゃないでしょうに……偶々この人混みをこっちに来てるだけかもしれないじゃないですか」

 

「……いや美鈴、進みに淀みが無い、明確な意思を持ってここに向かっている……もう姿が見える」

 

「え~……?」

 

料理を咀嚼しながら美鈴が顔を向けるとマァムを視認出来た、明らかにこっちを見ながら直進してくる

 

(ふむ……良い目をしてますね、アレは武道家の目)

 

微笑む美鈴だが食事は止めない

 

「あの……」

 

二人に辿り着いたマァムが声をかけた

 

「何の用だ?アバンの使途マァム」

 

ミストが制止し問うと美鈴が答えた

 

「ミストに用で来てませんよ、ちょっと黙っててください」

 

「む……しかしだな」

 

「では言い方を変えます、私の客なのでミストは引っ込んでてください」

 

「……わかった、すまん」

 

美鈴に邪魔をするなと言われ大人しくミストは口を閉ざした

 

「あの……?」

 

「ああ!ミストが失礼をして申し訳ありませんマァムさん、もう大丈夫ですよ」

 

「よかった……」

 

話が出来そうでホッとするマァム

 

「それで何の御用でしょうか?」

 

「……!!」

 

マァムは意を決して言った

 

「お願いします!私に……稽古をつけてくれませんか!」

 

用とは美鈴への修行の願い、武道家の修行をつけて欲しいという頼みだった

 

「いいですよ」

 

美鈴は口をモグモグしながら即答した

 

「何日居られるんです?」

 

「え!?あの……とりあえず3日は……えっと……」

 

「……?どうしました?」

 

「いえその……土下座するくらいの気持ちで来たのに即答で受けてくれると思ってなくて……」

 

「アハハ!何ですかそれ!強くなりたい人に意地悪なんてしませんよ!ミストと一緒にしてもらっては困りますね~」

 

「……」

 

笑われてミストは不機嫌そうに黙っている

 

「私は昼間仕事ですので明日の夜に来てください、ミストと一緒に稽古をしましょう」

 

「わかりました!よろしくお願いします!」

 

礼をしたマァムだったがその場から動かない

 

「……どうしました?まだ何か?」

 

「あ、その……出来れば御一緒したいなと……お話もしたかったので……」

 

「ああそういう事ですか、勿論構いませんよ!ミストもいいですよね?」

 

美鈴が不機嫌なミストへ向く

 

「……好きにしろ」

 

「あれ?ミスト……拗ねてます?」

 

「拗ねてなどいない」

 

「じゃあ嫉妬?一人占めしていた私との時間を割かれたから?」

 

「……調子に乗るなよ美鈴」

 

「そんなに怒らないでくださいよミスト~」

 

「チッ……」

 

そんな様子を見てマァムは唖然とした

 

「仲が良いんですね……ミストバー……いえ、ミストってそんな風に喋れるのね」

 

軽口を言い合うミストが意外過ぎたのだ

 

「ふふ~ん!ミストがこんなに気楽に話すのは私と萃香さんだけなんですよ~私は特にですけどね~なんたって私とミストはお互いに大事な人ですから~」

 

「……酔っているな美鈴、チッ……要らぬ事をベラベラと……」

 

「……!」

 

酔いが回って饒舌になっている美鈴を睨むミストと感付いたマァム

 

「大事って……そういう事ですか?」

 

乙女の勘が働きもっと詳しく聞きたいと美鈴の隣にスルリと座る

 

「んふ~♪そういう事ですよ~もっと聞きたいですか~?」

 

「お願いします!」

 

「マァム貴様……ッ!美鈴ッ!喋ると殺すぞ!」

 

「ミストでは無理ですよ~酔っててもミストには負けませんよ私は~」

 

「~~~~ッッ!?タチの悪い酔いどれめが!」

 

「聞かせてください美鈴師匠!」

 

「まずはですね~……」

 

「美鈴ッ!!」

 

武道家達の夜は始まったばかり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美味しそうな尻尾なのだー!ガブッ!」

 

「うぎゃあああああああああッ!!?」

 

会場にチウの悲鳴が響く

 

「なんだこのガキ?」

 

チウの尻尾に噛みついたルーミアを見ながらルーミアを知らないヒムは首を傾げる

 

「ってまたお前かルーミア!?ボクの尻尾は食べ物じゃないぞー!」

 

「なんだ隊長の知り合いかよ」

 

ルーミアに怒鳴るチウと知り合いなら止めなくていいかと笑うヒム

 

「あんたまたやったわねルーミア!!」

 

「ルーミアさんダメですって!?」

 

急いでやって来たチルノとルナがチウを確認する

 

「なんだチウじゃん、じゃいっか」

 

「心配して損しちゃった」

 

「ふざけんなお前等!」

 

噛まれたまま怒鳴るチウと笑うチルノ

 

「どうしたのチルノちゃん……あ」

 

「何かあったの大ちゃん?」

 

大妖精とフランが様子を見に来た

 

「良いところに来た大妖精!ルーミアが噛むの止めさせてくれ!」

 

「あ、うーん……そうしたいけど、うーん……」

 

「どうしたんだよ大妖精!?このままじゃボクの尻尾が噛み千切られちゃうだろ!?」

 

前は止めてくれたのに今回は何故か止めてくれない

 

「えっとチウだったよね?もしかして噛まれるの2回目?」

 

「君は頂点のフランドール……そうだよ!2回目だ!誰でもいいから早く引き剥がしてくれよ!」

 

「ルーミアの2回目以降ってね、甘噛みなんだー、それも気に入った人しかしないの!かなり気に入られたみたいだね~!チウかチウの尻尾がなのかわかんないけど」

 

「そんなの知るか!痛いんだぞ!」

 

「ルーミア流の親愛の表現方法だからあたしと大ちゃんも止めにくいんだ~、ゴメンね」

 

「チウさんちょっと我慢してあげてください……」

 

「ッッ……ダメだこいつら、早く何とかしないと……ヒムちゃん助けて!」

 

チウはヒムに助けを求めた

 

「って居ないぃぃぃぃぃ!?」

 

しかしヒムは居なかった、いつの間にか消えていた

 

「ガブガブなのだー!」

 

「イタタ!?誰か!誰か助けてーーー!!」

 

「アハハ!面白いじゃんチウ!あたしも気に入っちゃった!」

 

「でしょフラン!あたいの3人目の子分候補よ!」

 

「そうなったら私が先輩だよね親分!」

 

「可哀想なチウさん……」

 

幼き者達の宴も始まったばかり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ!見つけたよクロコダイン!」

 

勇儀が手をあげる

 

「おぉ探したぞ勇儀」

 

クロコダインも勇儀を探していた

 

「まぁまぁ駆けつけ一杯やりねぇ」

 

「ガハハ!酒が挨拶とは俺達らしい!」

 

まずは一杯、何はともあれ一杯

 

「終わったねぇ」

 

「ああ、終わった」

 

飲み干した後に交わす言葉

 

「勇者のガキも直ってよかったじゃないか」

 

「本当にな……俺達の手でないのが悔しいが、いや……それは野暮か」

 

「そんな時もあるさ、上手くいったんならそれでいいじゃないか」

 

「そうだな、今は喜ぶ時か」

 

「てなわけで飲みねぃ飲みねぃ」

 

「ふっ……俺を酔わせてどうするつもりだ?」

 

「どうもするかい助平ぇめ!楽しかったから飲む!嬉しかったから飲む!あんたと飲みたいから飲む!そんだけさ」

 

「お前らしい、実にお前らしいな」

 

酒を飲み交わす

 

「……勇儀、あの賭けの事だが……」

 

「ん~?決まったのかい?」

 

「まぁ……な」

 

「じゃ何でも言いな、何だろうと聞いてやるさ!鬼に嘘も二言も無いよ!」

 

「そうか、なら……」

 

クロコダインは一呼吸置いて、試合での賭けである何でもするという願いを言った

 

「時間をくれ」

 

その願いを聞いて勇儀はきょとんとした、意味がわからなかったから

 

「時間……ってのはどういう事だい?」

 

「考える時間をくれという事だ、今すぐお前の想いに答えるのは性急過ぎるのだ」

 

「ああ……そういう事」

 

理解した勇儀は酒を飲み干す

 

「時間掛けりゃ良いってもんでもないと思うがねぇあたしゃ、思い立ったが吉日って言うだろ?」

 

「早ければ良いというものでもあるまい、物には時節という言葉もある」

 

「けっ……!ああ言やこう言うねぇ、まぁしょうがない!賭けに負けたあたしに拒否権は無いし飲んであげるよクロコダイン!」

 

「すまんな勇儀、一生に関わる事だから充分に考えたいのだ」

 

「いいさ、それならそれであたしにも考えがあるしねぇ」

 

「……また要らん事を企んでいるな?」

 

「ん~ふっふっ!そいつは乙女の秘密ってやつさ!さぁさぁそれより飲むよクロコダイン!今夜は寝かさないから覚悟しなぁ!」

 

「いいだろう、付き合ってやる」

 

二人の豪快な酒宴が始まる

 

「私も交ぜて貰おうか」

 

「私を仲間外れにしてもらっちゃ困るさね!」

 

釣られて神奈子や萃香、幻想郷の酒豪達が加わっていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほ~スゲェ、どこ見ても人と妖怪で溢れてらぁ」

 

チウからわざとはぐれたヒムは適当に宴会場を歩いていた

 

「~♪……ん?何か誰も寄り付かないとこあんな」

 

散歩していると妙な場所を見つけよく見るとある女性を見つけた

 

(ありゃあ……風見幽香……)

 

癒えぬ怪我を無理矢理手当てされただけのボロボロの幽香が1人食事をしていた、機嫌が悪いのか元々恐れられてるのもあって誰も近寄らず周囲は誰も居ない

 

(……損な性格してるよなあいつ)

 

正確には萃香が居たのだが酒の匂いに誘われてつい先程離れたのだ

 

「……」

 

1人食事をする幽香にヒムは寂しそうだと感じた

 

(……しゃあねぇ、もっかい謝っとくついでに話し相手でもしてやるか)

 

頭を掻きながら幽香の傍に歩いていく

 

「……!?あ……止めといた方が……貴方は特に……」

 

途中、近付いていくヒムに気付いた人間の声はヒムには聞こえていなかった

 

「よう風見幽香、怪我は大丈夫か?」

 

ヒムは幽香の背から話しかける

 

「……」

 

顔だけ向けた幽香がヒムを視認し

 

「チッ……」

 

顔を戻した

 

「おいおい無視すんなよ風見幽香、まだ怒ってんのかよ?悪かったって謝るよ」

 

「……」

 

幽香は応えない、無視

 

「なぁ無視しないでくれよ、あんたとちっと話したいんだ俺ぁ」

 

「……」

 

幽香は変わらず無視

 

「なぁ?いいだろ?」

 

「……」

 

無視

 

「……寂しくねぇのかよ?」

 

次の瞬間

 

 

 

ドギャ!

 

 

 

ヒムは傘で殴り飛ばされた

 

「ッッ!?てめこの……ッ!?」

 

ダメージは無いが驚くヒムを前に幽香は椅子から立ち上がり、ヒムへ振り向き、睨み付けた

 

「哀れみ……?人形風情が……?私に……?」

 

射殺す程の殺意の目

 

「……!!?」

 

ヒムはしまったと思った

 

(こいつに言っちゃいけねぇ事言っちまった……!?)

 

幽香は馴れ合いを好まぬ孤高の妖怪、本人の気高さ故に周囲に寄せ付けず本人もまたそれを良しとしている

 

別に周囲に誰も居らず1人でもかまわなかったのだ、それを勝手に寂しいと思い哀れんだ事を聞いたヒムが地雷を踏んだのだ

 

幻想郷の皆はそれがわかっていたからヒムを止めようとしていたのである

 

 

「言った筈よ……次は無いと」

 

殺意を満開にヒムへ歩を進める幽香、周囲はヤバイと誰か呼べと騒いでいる

 

「まぁまぁまぁまぁ落ち着け幽香」

 

「まぁまぁまぁまぁ落ち着こう幽香さん」

 

そんな宴会を台無しにする瀬戸際に妹紅とロランが間に入った

 

「……退け」

 

「まぁまぁまぁまぁ一緒に飲もう幽香」

 

「まぁまぁまぁまぁ一緒に食べよう幽香さん」

 

二人に抑えられ幽香は席に戻されていく

 

「……!」

 

その光景を見ていたヒムは気付いた、妹紅とロランが幽香に見えないように後ろ手で逃げろと合図しているのを

 

(またやっちまったぜ……俺とあいつは合わねぇんだろうなきっとよ……)

 

ヒムはその場から離れた

 

「はぁ……隊長とダチの時間邪魔したくねぇし大人しくヒュンケルのとこでも行くかぁ」

 

上手くいかない者も居る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう魔理沙、大先生」

 

ポップが見つけた二人に声をかける

 

「来ると思ってたわ」

 

「あ"あ"ッ!?パチュリーは大先生で私は普通かよ?そこは大師匠だろポップてめー!」

 

魔女の二天が迎える

 

「ああわりぃ大師匠」

 

「へっ……冗談だぜ、どうでもいいぜ呼び方なんてな……それより何か用か?」

 

魔理沙がわかっていながら問う

 

「ちっと講義して欲しいっつーか……今は宴会中だから魔法談議かな?要は飲みながら話聞かせてくれないかって事さ」

 

「おーいいぜ?御安い御用ってやつだぜ、お前はパチュリー?」

 

「いいわよ、明日から本格的な指導に入る前の予習のようなものね」

 

「……!」

 

ポップは胸が高鳴った

 

自分から指導を願い出る前にしてもらう事が決まっていたからだ

 

「へへ……嬉しいねぇ」

 

強く在ると決めた意思が高揚する

 

「あとどれくらい幻想郷に居んだぜ?」

 

「最低で3日だな、延ばせるかはお願いしてレミリア次第だ」

 

「そりゃ短いな……3日じゃ大した事教えられねぇぜ、あ……!なぁアレやってみねぇかパチュリー?前にルナの育成計画の時に考えたヤツ!」

 

「ああ……スペシャルハードコースね、こなせればルナが7日で一流の魔法使いになれるっていう洒落で作った拷問プラン」

 

「え?拷問つったかよ今……?」

 

ポップの顔が引き吊る

 

「素養があるから根詰めたら3日でも何とかなるんじゃねぇか?過労で死ぬ可能性も高いだろうけどよ」

 

「ん……?死ぬ……?」

 

「ポップ用に練り直さないといけないわね、死ぬ確率は……5割くらいかしら」

 

「は……?5割?ニブイチで死ぬって事か?」

 

ポップの冷や汗は止まらない

 

「貴重な実験サンプルになれる事を光栄に思えよポップ!お前の尊い死が魔法をより深く発展させるんだからよ!」

 

「まだ死ぬって決まってないわよ魔理沙、5割で死ぬかもしれないだけ」

 

「おっとそうだったぜハハハハ!」

 

「……わりぃけど俺急ぎの用事が出来ちまったんで……」

 

ポップは逃げ出した

 

「知らなかったのかよ?二天からは逃げられねぇぜ?」

 

しかし、回り込まれてしまった!

 

「では予習をしましょうか」

 

「……その前に遺書書いていいかい?」

 

魔法使い達の長い夜が始まった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……ようやく解放された」

 

捕まっていたダイが会場を歩く

 

(美味しかったしお腹もいっぱいだ)

 

味も感じれるようになり久し振りに満腹になれた

 

(みんなはどうしてるかな?)

 

少し歩き回ってみたが見つからない

 

(それに……あいつは……)

 

それよりも気になる存在も見つからない

 

「……?」

 

そんな時だった

 

(何だ……アレ……?)

 

視界に不思議なモノが見えた

 

(赤い……蝙蝠……?)

 

全身が血のごとき紅い小さな蝙蝠が飛んでいたのだ

 

(……オレにしか見えてないみたいだ)

 

他の人間や妖怪の目前に居ても誰も気にもしていない、ダイにしか見えていなかった

 

「……」

 

蝙蝠がゆっくりと飛んでいく

 

(何だろう……ついていかなきゃならない気がする……ついていけば願いが叶うような……そんな気がする)

 

ダイはその紅い蝙蝠の後を追う

 

「……」

 

その蝙蝠はまるで導くかのように紅魔館のある場所へと向かっているように感じられる

 

(居るのか……?この先に……?)

 

淡い期待を胸に人混みを進んでいく勇者

 

 

 

 

 

 

「……行くがいいわ、答えを見つける為に」

 

離れた場所から紅き王女は笑みを浮かべる

 

(運命の標のままに……)

 

勇者の歩みを運命が導いていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おっ!見つけたぜお前等!」

 

ヒムがヒュンケルとラーハルトに合流した

 

「チウはどうしたヒム?」

 

「ちびっこ共と遊んでるよ」

 

「そうか……暇なら俺達に付き合うか?」

 

「そうするぜ」

 

ヒムも加え男達のささやかな酒宴が続いている

 

「ダイ様を見たか?」

 

聞いたのはラーハルト

 

「いや見てねぇな、他の奴等もだけどよ」

 

「……そうか」

 

不機嫌そうにラーハルトは酒を飲む

 

「いつまでも拗ねるなラーハルト、お前も納得した筈だろう?」

 

「わかっている、職業病みたいなモノだ……ダイ様の傍にいなければ安心出来ん」

 

「病気は間違ってねぇな、病的な忠誠心だからなお前」

 

ヒムとヒュンケルが笑いラーハルトが面白くなさそうに鼻を鳴らす

 

「それにな、ダイは今1人がいい」

 

グラスを回しながらヒュンケルは呟く

 

「俺達の顔色も意見も伺わず、自分の意思のみで……したい事があるんだろう」

 

「あーわかるぜそれ、邪魔されたくないんだよな、肯定されるだろうとわかってても言いたくないっつーか……上手く言えねぇがわかるぜ」

 

ヒュンケルは微笑む

 

「ダイは心配要らん、そして目的もわかっている……」

 

天井を見上げ、想う

 

(お前も……それを望んでいるのではないか……?)

 

その大いなる者の事を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・バルコニー-

 

「……」

 

夜天の空で、月明かりが照らすその場所でバーンは居た

 

「……」

 

心地好い酒の余韻に浸りながら月を眺める

 

「ここが潮時だろう」

 

バーンは独り呟く

 

(余りに干渉が過ぎた……余の我を通し過ぎた……)

 

勇者の運命を変えるという余りに大それた事に自分の身勝手な我儘を通して幻想郷を動かした

 

(これでは大魔王となんら変わらぬ……)

 

今のバーンは大魔王ではなくただのバーン、力の差はあれど幻想郷の立場は何ら特別なモノではない

 

それを異変でもないのに自分の想いだけで動かしてしまったのだ、全てが終わり落ち着いた今だからこそ反省し戒める

 

(レミリアと紫にも苦労を掛けた……そう、天秤が魔に傾けば幻想郷を滅ぼしかねない戦いになっていたのかもしれぬのだから……)

 

幻想郷の皆からすれば何度も幻想郷を救ってくれたバーンからの無理の一つくらい何ともないのだがバーン自身の意識の問題と言える

 

そこまで幻想郷が魂の拠り所になっているのだから

 

 

「これ以上の干渉は無用……もう会う事もあるまい、会う意味も……無い」

 

己を律し、勇者と再会という奇妙な因縁を飲み込み、終焉を悟り……心をいつもに戻す

 

「己が道を進め、己の意思で……いつか果てるその時に、誇り高く逝けるように」

 

空になったグラスをテーブルに置く

 

 

 

 

フッ……

 

 

 

 

その時

 

 

 

バーンの背に紅い蝙蝠が優しく止まり、霧散した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ……ッ……オイッ!!」

 

 

 

 

声がかけられた

 

 

 

「…………」

 

声だけで誰が来たか理解出来た、見ずともわかるのだ

 

例え幻想の彼方と隔たれようが断てぬ因果が二人にはあったのだから……

 

(まさか……)

 

バーンは顔を向ける

 

ほんの僅かに淡く期待していながらも心の奥底に仕舞いこんだ瞬間が来た事に微かに口角を上げながら……

 

 

 

(お前の方から来るとはな……ダイ)

 

 

 

終わらない

 

まだ夜想曲(ノクターン)は終わらない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




遅くなりました、すみません。
仕事が忙しくて忙しくて……

いつもの宴会ですが視点は勇者一行ばかりになってます、それでも長くなったので区切ることにしました。

次回も頑張ります!

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