東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 鎮魂曲(レクイエム)

 

 

 

 

 

晴れの日ばかりじゃない

 

冷たい雨だって降る時もある

 

そんな時はお前がくれた傘を広げるよ

 

 

 

生き方に地図なんて無い

 

だから自由に何処へだって行けるんだ

 

オレの意思で……

 

 

 

新しい自分に逢えた気がする

 

オレも知らなかった勇気が眠っていた心を……お前が気付かせてくれたから

 

胸の中のどしゃ降りも止んだよ

 

 

だから……見せてやる!

 

オレの……本当の勇気の力を!!

 

 

 

 

 

 

それが……オレなりの……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウッソだろ……」

 

信じられない顔をポップはしている、他も同様

 

「ダイが戻った嬉しさなんてふっとんじまった……あの強さは何なんだよ!?」

 

「ダイは加減などしていなかった……俺の知るバーンなら両断出来るだろう威力にも関わらず切り払うだと……!?」

 

「バカな!?バーンはどれ程の力を持つと言うのだ!?」

 

立ち直ったダイの反撃を容易く跳ね返す予想と想像を越えた強さに歓喜は戦慄に一瞬で変わっていた

 

「どうすんだ……?言っちゃ悪いが勝ち目なんざ……」

 

気まずそうにヒムが言う

 

「……俺は信じるぜ」

 

ポップは言う、ダイを信じてると

 

「俺達があいつの勝ちを信じなくてどうすんだよ!違うかよみんな!」

 

言ったものの表情は険しい、無理して言っているのは間違いないが決して勝ち目が無い訳ではないとも思っている、低いのは確かではあるが

 

「応援するっきゃねぇ!ダイが勝てるようによ!やんぞ!」

 

ポップは声を張り上げてダイを応援する

 

「……そうだな、その通りか……!」

 

呼応し一行はダイを応援する

 

ざわめきが収まらない会場を抜けてその声はダイに容易に届く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!?」

 

ダイは冷や汗を流していた、声援は聞こえていたがバーンから目を離せなかったのだ

 

「ふん……予想は少し越えた程度、まずまずと言ったところか」

 

一方でバーンは手刀に受けた衝撃を感じながら余裕気に笑みを浮かべている

 

(強いのはわかりきってた事だ……けど!こ……ここまで強いなんて……)

 

立ち直った初手は申し分無かった

 

無欠に戻った竜の騎士の力を十二分に発揮した会心の一撃だったにも関わらず容易く切り払われた事実はダイの高揚感を切り裂き思い知らせるには充分過ぎた出来事だった

 

(勝てるのか……オレは……?)

 

思い返せば勝利したあの時もバーンに剣が刺さっていたから起こせた奇蹟とも言える結果だった

 

正面からの攻防では圧倒されていた強さの絶望が思い出される

 

(いや……!それでもオレは……!)

 

意思を強く持ち戦う姿勢は崩さないのは流石であった

 

試合だから棄権が出来る、生死を賭けている訳ではないのだから緩みが出てもおかしくはないのにダイはまるであの最終決戦時のような緊張感を持っていた

 

戦おうと言った手前もあるがダイは諦める気は微塵も無かった

 

 

「ふむ……続きをする前に、だ」

 

バーンはダイに手をかざし魔力を集中させる

 

「……?」

 

ダイは何をしているのかわからない

 

「……まだ足りぬか、竜闘気……流石の抵抗力よ」

 

バーンの魔力がダイの周囲を歪めるまでに上昇する

 

「……!?」

 

ダイの体を光が包んだ

 

「回復魔法……ベホマの光!?」

 

光がダイの体を癒し、裂かれた胸も折れた手首も完全に回復した

 

「今から試合が始まるのだ、ならば双方無傷で始めねば公平とは言えまい」

 

バーンは恩を着せるつもりもなく当然と言った顔、万全のダイを倒さねば意味が無いからである

 

(そんな事が……!?)

 

ダイは驚愕していた

 

(竜闘気の上から無理矢理効かせるなんて……そんな事が可能なのか!?)

 

竜闘気は呪文を受け付けない

 

厳密には呪文に対する抵抗力が並外れており攻撃呪文は余程の威力でない限り無効化する

 

ただし回復呪文は例外で効果は100%通すが効くのに時間が掛かる

 

それをバーンは絶大な魔力を駆使して強引にラグ無く効かせたのだ、今までの蓄積した経験が反映され常識となっているダイが驚くのは無理ない

 

「……くっ」

 

力の差を見せつけるかのような行動が回復の利よりも脅威を感じさせる

 

「ただの回復でそう構える事もあるまい、あくまで試合だ気負う事は無い」

 

バーンの気遣いの言葉がかけられるが感じる余裕がダイの気を余計に張らせる

 

「ふん……まぁよい、来い」

 

宣言したバーンはダイから仕掛けて来いと言うように手招きする

 

「失望させてくれるなよ?」

 

「ッ……ウオオオオッ!!」

 

戦慄を振り払うようにダイは飛び込んだ

 

 

ガウンッ!

 

 

剣と手刀が衝突する

 

「……!?ダアッ!!」

 

容易く受け止めて来た手刀を見てダイは即座にバーンの顔面に横蹴りを放つ、闘いの遺伝子が機能した事で攻撃に迷いが無くなり即座に次に繋げている

 

「……」

 

その蹴りも空いている片手で受け、握り潰そうと力を入れる

 

「ムッ……」

 

それより早くダイが空いた片足でバーンの胸を蹴り脱出し離れ際にアバンストラッシュのAタイプを放ち着地し即座に駆ける

 

「……ムンッ!」

 

ストラッシュを体で受けながらバーンは手刀を構えて同じく飛び込み手刀を振るう

 

「なっ!?」

 

ストラッシュを受けながら来るとは予期出来なかったダイが面食らい手刀を剣で防ぐが弾き飛ばされる

 

「……」

 

その隙にバーンは弾幕を生成し放った、視界を覆う大量の弾幕がダイを視覚から圧倒する

 

「……セアアアッ!!」

 

逆手に持った剣で回転斬りを行い竜闘気の衝撃波を前方へ放ち弾幕を消し去る

 

「!?」

 

消し去れなかった魔法球が一発あった、バーンが弾幕に紛れ込ませたイオナズンの光球がダイの目の前で大爆発を起こす

 

「……」

 

更にバーンは手をかざし暗黒闘気のレーザー、闘魔滅砕砲を爆煙に撃ち入れる

 

「!?」

 

直後にバーンの目が見開かれた、レーザーを紙一重で躱しながらダイが爆煙から飛び出て来たのだ

 

「オオオオオーーーッ!!」

 

突き入れて来た剣がバーンの顔を狙う

 

「見事と言いたいが……まだ甘い」

 

その剣は顔に刺さる寸前でバーンに掴まれ止められていた

 

「躊躇無く急所を狙ったのは勝率の低さを鑑みた故か……それでよい」

 

「ッ!?」

 

剣ごと放り投げられ離れた場所でダイは着地する

 

「大分マシになった、あの時以上……だがダイ」

 

バーンは言う

 

「それが本気ではなかろう?」

 

「え……?」

 

ダイは困惑した

 

「こ、これがオレの……全力だ」

 

今が自分の出せる全てだったから

 

「違うな、お前はまだ緊張と余への畏怖で固い、そんなモノではない筈だ……余を倒したお前の今はそんなモノではない筈だ」

 

「……」

 

そうは言われてもダイは困る、本当に全力なのだから

 

「竜魔人になったのも久方振りか?ならばそれも関係していよう……何度でも言うがこれは試合だ、世界の命運も生死も賭けぬ余興、力試しだ、死にはせぬ……お前がどれ程暴れようが観客もお前の仲間にも絶対に危害は及ばぬ」

 

「……!」

 

期待か確信か

 

気遣う言葉から感じるそれがダイの張りつめる緊張を僅かに緩める

 

「不要な雑念を捨てろ、そして竜の本能がままに見せてみろ、お前の眠る力を」

 

「……」

 

敵意が全く感じられない目、何の打算無く気負う事なくただ純粋に戦いたいと思っている目

 

否、挑戦者の目

 

「……うん」

 

ダイの緊張は消えた

 

「わかった」

 

消えきらないでいたかつての最大の敵だったというわだかまりが綺麗に無くなり、ダイはバーンへ純粋な闘争心のみを持つに至る

 

「ちょっと待って……今、やってみるから」

 

「よかろうとも、それでお前の全てが出せるのなら是非もない」

 

バーンが見守る前でダイは体の力を抜き目を閉じる

 

(そうだ……オレはあの時より強くなった、バーンを倒して……成長したんだ、身体だって大きく強くなった……バーンの言った通り……こんなもんじゃない!)

 

意識を深く、より深く身体中に行き渡らせる

 

(……心が軽い、晴れやかだ……久し振りだこの感じ……)

 

遮るモノ無い澄んだ心、魂から来る意思を真っ直ぐ通す迷い無き真の竜騎士の力

 

(もっと……もっと……)

 

細胞の一つ一つを感じ意思を同調させていく

 

消え入りそうなくらい竜闘気が小さくなっていき何も感じなくなった

 

(もっと……強くッ!!)

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

莫大な竜闘気がダイから激流のように放出された

 

「「「……!!」」」

 

会場の全てが目を見張る、それ程先程までと違ったのだ

 

「フゥゥゥ……」

 

息を整えたダイは自分の力に若干戸惑いながらもバーンを見る

 

「……」

 

先程より強くなったのは明らか、なのにバーンは見透かしたような顔で見ていた

 

「……ッ」

 

その顔を見て納得のいかない顔をしたダイへバーンは言う

 

「……それで限界か?」

 

期待外れ

 

「……ッ!?」

 

そう言われた気がした

 

「……まだだぁ!!」

 

 

ドウッッ!

 

 

竜闘気は更なる上昇を見せた

 

引き金は闘争心、ライバルに落胆されたくない、負けたくない、搔き毟るような対抗心だった

 

「ほお……」

 

バーンは感嘆の声を出す

 

 

 

「ロラン……あれ……」

 

「うん……僕達が戦ったあのダイ君より間違いなく強いよ」

 

魔勇者と戦った妹紅とロランの確信の呟き

 

それ程までにダイの竜闘気は深く、重圧で濃く、強烈だった

 

今までの比ではない力を見せた

 

「おっほー!こいつぁスゲェじゃねぇか!」

 

「ええ……面白くなってきたわ」

 

他の頂点達も興奮する強さ

 

「スッゴーイ……あたしじゃ勝てないよ」

 

「私もだよフランちゃん……チルノちゃんはどう?」

 

「…………!」

 

「チルノちゃん?」

 

「……あたいが勝つし!」

 

「え……?」

 

「あんなのあたいが本気出せばギッタンギタンのちょちょいのちょいのプップクプーだし!」

 

「……そうだねチルノちゃん」

 

(チルノちゃんでも厳しいんだ……でもバーンさんなら……)

 

「バーンなら尚更だし!」

 

「!……そうだね」

 

他の強者達や観客も同様に舞台の二人を固唾を飲んで見守る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(こ、こんなに強かったのか……オレ……)

 

ダイ自身も困惑している

 

成長した身体が見せた真価は竜の騎士の予測すら越えて高まっていた

 

「ッ……!」

 

大魔王を倒した経験とはそういう事

 

(あいつに言われてなのが……気に入らないけど)

 

それもバーンの助言があったからこそだがダイは言葉を飲み込む

 

「そうだ……そうでなくてはな」

 

そのダイを見てバーンは言う

 

「そうでなくてはつまらん、このお前に勝ってこそだ……!」

 

高鳴る鼓動、膨れ上がる高揚

 

「ここまで手間をかけさせたのだ、余を楽しませろ!全霊を持って!それがお前の義務と知れ!」

 

同じく高揚したバーンの言葉

 

「楽しませろって……何だよそれ」

 

かつてと同じく無茶苦茶な事を言っているがその顔はかつてと違い敵意が無い、だからダイにはバーンが楽しんでいるようにしか見えなくその言葉に気を抜かれ下を向いて笑ってしまう

 

「……ああ、わかったよ」

 

今一度気を入れ直したダイは顔を上げバーンを見据える

 

「とことんやろう、決着がつくまで……!」

 

剣を逆手に後ろへ構え、腰を落とす

 

「当然だ、この戦いに引き分けなど存在しない、在るのは勝者と敗者のみ……そしてその勝者とは余、敗者はダイ……お前だ」

 

高揚を抑え自然体で佇むように構えるバーン

 

「……」

 

「……」

 

目の前の相手に集中する勇者と王

 

「……!」

 

バーンの魔力が上昇していく、可視化する黒色の魔力は吹き出る様な荒々しい竜闘気と違い重厚で強烈な魔力を蜃気楼のように揺らぎ膨れ上がらせる

 

「文」

 

ダイから視線を外す事無くバーンが言う

 

「仕切り直す、開始の合図はお前に任せる、いつでも好きな時に始めろ」

 

『は、ハイッ!わかりました!!』

 

重大な事を任されてしまった文が冷や汗を流しながら機を見計らう

 

 

「ハァァァァ……」

 

「…………」

 

 

竜闘気と魔力が攻めぎ合いリングの破片を吹き飛ばしリングに悲鳴をあげさせている

 

 

ビシッ……ビシィッ!

 

 

ヒビが入りただ睨み合うそれだけでリングが耐えられず崩壊するのは誰の目にも明らかだった

 

 

ズンッ!

 

 

予想通りに粉々になったリングが竜闘気と魔力に吹き飛ばされ二人は一瞬、宙に浮く

 

その足が大地に着く……瞬間

 

 

『始めぇぇぇ!!』

 

 

試合は開始された

 

 

 

「……!」

 

「……!」

 

同時に二人は動いた、ダイは神速で駆け、バーンは手刀を神速で振り下ろす

 

 

ガウンッ!

 

 

凄まじい衝撃音と衝撃波が広がる

 

「……」

 

「……」

 

剣と手刀が相打っている

 

「……!」

 

「……フッ」

 

ダイがどうだと笑み、バーンが口元を綻ばせる

 

「……オオオオッ!!」

 

その間は一瞬、ダイが怒涛の攻撃を始めバーンが受けて立つ

 

「ストラァァァッシュ!」

 

真なる竜魔人の力で放たれる一閃、アバンストラッシュ

 

「……!」

 

手刀が迎える直前、刀身ごとダイが消えた

 

(フン……)

 

バーンはすぐさま背に肘打ちを放ちダイの膝と相打った

 

(このレベルの技を囮に使うか、戦い方に多彩と思い切りの良さが出ている……そうでなくては)

 

膝を押し返す力に逆らわず飛び退いたダイに振り返りながら腕に残る威力に手応えを感じ笑む

 

(崩せない……!オレの技を平気で見切ってくる、くそっ……強い!なんて強さだホントに……!)

 

わかっていた強さを改めて体感したダイは不思議な高揚感を感じ焦燥の中で何故か笑ってしまう

 

「……次は余から行くか?」

 

「いや……まだもう少し!」

 

ダイはバギクロスを唱えた

 

「ハァァ……アァッ!」

 

直後にアバンストラッシュのAタイプを聖風に紛れるように数発放ちダイ自身も紋章に力を集中させながら追従する

 

(三重の手か、成程よく考えられておる……闘いの遺伝子とはよく言ったものよ)

 

バギクロスは撹乱、その中に気を抜けばダメージはあるだろうAタイプのストラッシュを多様な角度で仕込み反応を見ながら追従しストラッシュXを匂わせ決めれるなら決め、決めれぬなら対処の隙を突く

 

予想外の事態が起きれば即離脱出来るよう追従している

 

戦法としては攻守優れた素晴らしい攻め方なのは間違いない

 

(だがまだ……温い!)

 

バーンは手刀を構え、振り抜いた

 

「カラミティウォール!!」

 

闘気に近い衝撃波の波が広がる

 

否、波ではなく壁、凶悪な災厄の壁

 

「!?」

 

ダイの放ったバギクロスの先端が擂り潰され紛れさせたAタイプの初弾と次弾が同じく擂り潰される

 

「小賢しい戦法など一手で瓦解させる……それが余の力だ」

 

狙い通りにはさせないバーンの前で

 

「……オオオオッ!!」

 

ダイは壁へ突撃した

 

 

「アバンストラッシュX!!」

 

 

災厄の壁を交差秘剣が切り裂いた

 

(何だと……!?)

 

退くと思っていたバーンは驚きで目を見開いた、退くか受け流すと思っていたからだ、破られる事は想定外

 

虚を突いた一瞬の隙、だがダイの間合いではない、僅かに遠い

 

「ダアッ!!」

 

ダイは剣を投げつけた、間を繋ぐ為に剣を手放したのだ

 

「ヌ……ッ!?」

 

またしても来る予想外の行動がバーンの動きを鈍らせる、相手の意図を計ろうとする頭脳の良さが邪魔になっている

 

「……無駄な事を」

 

反射のままに弾くか避ければ良かったが思考の隙を突かれ出遅れたバーンは剣を受け止め掴んでしまった

 

「ダアアアアアアッ!!」

 

受け止める為に一瞬剣に目をやった隙にダイが肉薄していた、振りかざした腕には竜闘気を強く纏っている

 

(闘気拳!先の比ではない……!フェニックスウイングで迎撃を……ッ!?)

 

強烈なのは想像に容易い、しかし一手遅れている事でフェニックスウイングを出す間が無い、出すには一瞬の間が必要だがその一瞬が無い

 

「チィ……!?」

 

 

ズガンッ!

 

 

ダイの拳はバーンを捉えた

 

「ヌゥゥ……!」

 

忌々しく唸るはバーン、ギリギリで受けが間に合うも押された手を挟んで胸を打っていた

 

「してやられた、か……ッ!!?」

 

出し抜かれた事を認めたバーンはダイの光る紋章を視認し、驚愕した

 

「まだだァァー!紋章閃!!」

 

ダイの額に輝く紋章からレーザーが放たれバーンに直撃、大爆発を起こした

 

「ハアッ……フゥ……」

 

爆発に押し飛ばされたダイは着地し軽く乱れた息を整える

 

「どうだ……」

 

バギクロスから始まる全ては紋章閃を回避防御不可能な状態で当てる為だった

 

本来ならアバンストラッシュXと回避か防御の二択からの接近し手を使わせて撃つつもりだったがカラミティウォールによって台無しにされた

 

だが闘いの遺伝子が虚を突けるだろう事を閃き咄嗟の機転と遺伝子による補助があったとは言えバーンを出し抜くというか細い糸を通すような事を成し遂げたのだ

 

 

「見事にしてやられた……流石と言うべきだな」

 

爆煙からバーンのシルエットが浮かぶ、声に乱れは無い

 

「!!」

 

爆煙から剣が投げられダイは掴む

 

(効いてないのか……!?)

 

乾いた苦笑をするダイの前へバーンは姿を現した

 

「……!!」

 

ダイの視線がバーンの右肩に注視される

 

服を破り大きな衝撃痕が見えていた

 

「フン……」

 

(よし……!)

 

貫通はさせれなかったがダメージは間違いなくある

 

ようやく与えられたダメージにダイは内心でガッツポーズを取った

 

「次は余から行こう」

 

喜びも束の間にバーンが動く

 

「くっ!?」

 

飛び込んで来た手刀を剣で受けるも直ぐ様来る反対の手刀

 

「……!」

 

受けた手刀を剣を滑らせて流し反対の手刀を避ける、そこに来るのは膝蹴り

 

「うっ!?」

 

腕の交差受けで防ぐも体が浮く

 

ドギャ!

 

手刀が受けた剣ごとダイを吹き飛ばす

 

「まだ終わらぬぞ」

 

掌圧を放つその周囲には既に大量の弾幕が展開させており掌圧が巻き起こした粉塵の中へ怒涛のように撃ち込まれ小爆発が何十何百と起こる

 

「……」

 

魔力を高め、その手に魔炎が灯った瞬間、バーンは止まった

 

(……これはまだやり過ぎか、もう少し熟れてから、か……ならば)

 

追撃を行わずバーンは構えた

 

 

ガウンッ!

 

 

直後に粉塵へ雷が落ちダイが飛び出して来た

 

「クソッ……!」

 

良いようにやられた悔しさを吐きながら父と師の合技を構える

 

「ギガァ!ストラァァ……ッッ!!?」

 

だがそれはバーンの構えを見て急停止した

 

「どうしたダイ?来ぬのか?フフフ……」

 

「ッ……ッ~~~~!!?」

 

ダイには苦き記憶が残るその構え

 

「天地魔闘の構え……!?」

 

自分では攻略不可能だった難攻不落の絶対技

 

三種一手の究極のカウンター

 

それがダイの足を完全に止めた

 

「やはりこの技は闘いの遺伝子を持ってしても攻略は出来ぬか……フフフ、良い顔をする、からかった甲斐がある」

 

「ッ……!?」

 

ダイに冷や汗が流れる

 

圧倒的に不利だと自覚しているのだ、それをされるだけで負けを確信してしまうまでにバーンの天地魔闘の構えは恐ろしい技であった

 

「くっ……クソォ!?」

 

考えるも手が浮かばない

 

天地魔闘だけで言うならば美鈴の構えず動ける無構の武神技の方が格で言えば上だが問題はその使い手にある

 

今のダイなら美鈴の天地魔闘なら無理矢理破れるのだ、美鈴の許容を越える一撃で返させず潰す、もしくはムンドゥスがやったように耐えきり生じる絶対の隙を突く、今のダイならそれが可能

 

だがバーンが相手では無理なのだ、自分と同等以上の力を持つバーンを上から捩じ伏せる力は無いし耐える事は不可能、必ず返り討ちにあう

 

この技をさせない事がダイの勝機と言えたのだ

 

「……よし、これは使わぬ事にする」

 

「なっ!?」

 

突然の決定にダイは驚く

 

「何で……」

 

「つまらぬからよ、これを使えば勝つのは容易いがそれでは面白くない、余も観客も」

 

「お、面白くない……」

 

ダイは違和感でしかなかった

 

あの弱者を叩き潰すのが楽しい、優越感を感じると言っていたバーンが楽しむ為に勝てる技を封印すると言ったのだ

 

「何だよそれ……」

 

変わったとは聞いたがここまでかと笑うしかない

 

「後で後悔しても知らないからな!」

 

「そういう言葉は余と対等に渡り合ってから言え」

 

「ッ……わかってるさ!」

 

痛いところを突かれてダイは自分を奮い立たせる

 

今の攻防も身体能力で劣っていたから良いようにやられたのだ、戦いにはなるがまだ足りない、限界を超えて更に強くなったダイをバーンは尚も上回っているのだ

 

これこそが大魔王の名を冠した事のある者の力

 

(まだだ……)

 

集中

 

(もっと強く!もっと速く!)

 

更なる強さへのイメージ

 

(もっと……!!)

 

飛び込み斬りかかる

 

「ヌゥ!?」

 

迎えたバーンの手刀を弾き飛ばした

 

(ダメだ!今のはギガデインが乗ってたからだ……まだ足りない!)

 

使わず残っていた魔法剣故の結果、それを抜きにしても届いていないと感覚がわかっている

 

「デヤア!!」

 

続けて放つ一閃、切り払われる

 

(威力と鋭さが上がって来ている……)

 

そこから始まる斬り合い

 

バーンは一手毎に僅かに上がってくる剣閃に内心頬を緩ませる

 

(余を足掛かりに自らを引き上げ精錬している……ダイの成長の速度を考えればおかしい事ではないか)

 

ダイはデルムリン島を出て僅か数ヶ月でバーンを倒した

 

それは竜の騎士であり闘いの遺伝子が作用していた事もあるのだろうが信じられない速さで強くなったダイを知るからバーンに驚きは無い

 

(どこまで昇れる?竜の騎士に限界はあるのか?見せてみろダイ……それを打倒してこそ勝利と言える!)

 

攻防は熾烈を極める

 

互いに有効打は無いが続くに連れてその勢いは徐々に激しさを増していく

 

「ハアアッ!」

 

大気を引き裂くような上段蹴りを殴り相殺、衝撃で互いの足と腕が弾ける

 

「ムッ……!」

 

直後に来る左拳を受け止め手刀を突き入れる

 

「ダアアアッッ!」

 

それより早くダイは拳を繰り出した、剣を持つ手で

 

「グッ……ッ!?」

 

胸を打ち飛ばされ大地を擦り押され止まったバーンは鈍い痛みを感じる胸を押さえる

 

(剣を持つ手で殴るとは……それでも先程までなら対処出来た、かなり余に近付きつつあるという事か)

 

げに恐ろしき成長率だと今この場でなければ恐怖するところ、それ程にダイの力は著しい伸びを見せる

 

「ハァ……ハァッ……どうだぁ……バーン……!」

 

荒い息を吐きながらダイは顔をあげる

 

「そんなザマで言われてもな……もう限界か?」

 

「ハァ……まださ、まだまだだッ!!」

 

因果に導かれた戦いは続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スゴイな……あのバーンとやり合ってる、倒しただけはあるって事か、竜の騎士ってやっぱりとんでもないな……よく私達勝てたよなロラン」

 

妹紅が見るとロランは難しい顔で睨むようにダイを見ていた

 

「どうした?怖い顔して?」

 

「ん……ああ、ごめん……少し……いや、かなり悔しくてさ、同じ勇者なのにこんなにも差があるのがね」

 

「あー……一人じゃ勝てなかったもんな」

 

妹紅にはロランの悔しさがよくわかる、同じ勇者として劣っているのが堪らなく悔しいのだと

 

男としてのプライドを刺激されているのだ

 

「頑張ろうぜ、私も手伝うからさ」

 

「僕の代では越えられないかもしれない、だけど……世代を重ねて受け継がれていく血がいつか竜の騎士に届くさ、絶対にね」

 

「関係無い子孫に投げてどうすんだよ、お前がやれよ」

 

「わ、わかってるさ、もしも無理だったその時はの話さ」

 

この時に抱く悔しさは遥か未来にて竜の騎士と共闘という形で叶う事になるが今はまだ想像もつかぬ先の話

 

 

 

「わ~いいなぁバーン」

 

「や、やるじゃない……まぁまぁね!」

 

「楽しそうですバーンさん……」

 

フラン、チルノ、大妖精の三人が羨ましそうに見ている

 

「なぁパチュリー?お前ならどう戦うよ?私はマスパ主体で戦うっきゃねぇけどお前は?」

 

「厳しいわね、魔理沙の攻撃が通る最低ラインがマスタースパークなら私は合体魔法が最低ラインよ、もちろんメドローアなら一撃だけどそれ以外で考えれば……残念ながら今の私じゃメドローア以外で勝ち目は無いわ」

 

「そうかよ、私も削り切る前にガス欠になるだろうぜ、じゃチルノはどうだぜ?」

 

「チルノなら……それでも分が悪いわね、私達より勝機はあるけど厳しいわ、勝率は2割有る無しってところじゃないかしら」

 

「チルノでもそんなもんか……まっチルノもバカげた成長しやがるからな、今も意味わかんねぇけどよ……あくまで今はって事か」

 

「そういう事ね、何せあの闇の大魔王に認められた氷の申し子だもの」

 

魔理沙とパチュリーが強さ議論に花を咲かせている

 

「フフッ……」

 

レミリアは嬉しそうに紅茶を飲む

 

(楽しそうねバーン……子どもみたい)

 

自分の愛した男が楽しそうなのが嬉しいのだ

 

(私達には見せない違う顔、特別な相手である勇者にしか見せない顔……妬いてしまいそうになるけど貴方が楽しいならそれで構わない、それで私も幸せだから)

 

勇者と再会してからずっと気難しい顔をしていたバーンがようやく楽しそうに笑っている

 

それが見れたのならわざわざ骨を折った甲斐があるとレミリアは微笑む

 

(もう二度とは無いかもしれない機会……堪能しなさい、心行くまで)

 

 

 

 

 

 

 

 

「……何かよ、なぁ隊長さんよ」

 

「うん……わかるよヒムちゃん」

 

一行の場は静かになっている

 

「吹っ切れたっていうのかしら?何かこう……」

 

「ああ……」

 

「楽しそうだよな、ダイあいつ……」

 

楽しんでいるように見えるのが不思議に見えるのだ

 

勝とうとしているのは間違いないのにそれ以上に楽しそうに見える

 

「俺達にゃ見せねぇ、俺達じゃ出す事が出来ねぇ顔してやがらぁ……バーンだけさ、あいつをあんな顔に出来んのは」

 

負けたくないライバル、そんな関係とも言える二人にしかないモノがある

 

今や誰もその位置に居ない、ダイはそういう意味では孤高であり孤独だった、その突出した力が疎まれる一因でもあった

 

「ホントはよ、俺達があの役になんなきゃならなかったんだ……あいつが道を外しそうならぶん殴ってでも止めれるくれぇ、あいつの盾になれるくれぇ強かったらあいつ一人に悪意が向くこたぁなかったんだ」

 

ポップの言葉は皆に染み入る

 

「幻想郷に来て俺は思い知ったよ、同じ人間なのにこんなに強い奴がいんのか!……って、そんで痛感した、竜の騎士には、ダイには敵わないって無意識に諦めてたから俺は弱かったのかって……おめー等はどうだ?」

 

皆に返事は無い、思うところがあるのか押し黙っている

 

「頂点って呼ばれてる奴等はバーンを越える為に頑張ってんだそうだ、だからあんなに強ぇんだ、そんな奴等が居る幻想郷なんだ負け越して当然だわな」

 

負けた者は当然として勝った者も実力が近い相手か相性が良かったからに過ぎず幻想郷が本気で勝ちに来ていればレミリアの言った通りダイ以外全敗も濃厚であった

 

「だから決めたぜ俺は、本気で強くなってやる!ダイを泣かせるくれぇ強くなってあいつの横に居てやる!」

 

決意を新たにポップは拳を握る

 

「俺も同じだ、付き合わせろ」

 

「ダイ様の傍は俺だ、お前は後ろを歩け」

 

ヒュンケルとラーハルトが答える

 

「その道、俺も行こう」

 

クロコダイン

 

「俺も行くぜ先代さんよ、隊長は……安全地帯で寝ててくれや」

 

「ボクだけ除け者にすんなー!」

 

ヒムとチウ

 

「私もやるわ」

 

そしてマァム

 

「おめーは無理しなくていいんだぜ?」

 

「何でよ?私は戦力外って言いたいの?」

 

「ちげーよそういう意味じゃねぇ、おめーは戦いが好きってわけじゃねぇだろ?女の幸せを求めたって文句は言わねぇって話さ」

 

「何だそんな事……どっちも頑張ればいいじゃない、それだけの事よ問題無いわ」

 

「そうかよ、ならいいさ、おめーがそう言うなら……それでいいさ」

 

意思は纏まる

 

ダイを支えるのではなく、本当の意味で一緒に歩く為に

 

「それはそうと……どう思う?ダイは勝てるかしら……?」

 

「……正直に言やぁわかんねぇ、レベルが違い過ぎて俺も何やってるかかろうじてレベルだ、今んとこバーンが優勢っぽいがよ……もう会場の殆どがわかってねぇだろ、雰囲気を感じるだけしか出来ねぇレベルさ」

 

その攻防の速さは達人の目にも止まらずその威力は一手交わる毎に衝撃波が巻き起こる尋常ならざる戦い

 

歴戦の戦士数人の命を難なく絶てる攻撃が通常の超常たる戦い

 

結界が無ければ会場はとっくに二人の圧で吹き飛んでいる、その結界の維持にも結界術に長ける者達が協力しなければ維持出来ない程

 

常人なら入るだけで竜闘気と魔力の攻めぎ合いに押し潰されて死ぬ、そこまで異常なレベルの戦い

 

「勝てよぉぉ!ダイーーー!!」

 

勝利を祈る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドシュ!

 

剣が腕を貫く

 

ドギャ!

 

拳が打つ

 

「ッハ!?」

 

「……ヌゥゥ!?」

 

高速の長くも早い攻防に変化が起き始めていた

 

「うぐっ!?」

 

「グッ……!?」

 

突き詰められてきた攻撃が互いに当たり始めたのだ

 

「ッッ!!?」

 

バーンの手刀を剣を持った腕が受け止める

 

「ッダアッ!!」

 

返す拳がバーンを打つ

 

「……ッ!?」

 

打たれながらも掌をダイの顎に入れ浮いたダイを手刀で薙ぐも剣で受けられ打ち飛ばすに留まる

 

「!!?」

 

直後にバーンは頭上の雷雲に気付くも既に遅く、威力の上がったギガデインの強烈な雷が直撃する

 

「くあっ……ッ~~!!」

 

打ち飛ばされたダイは大地を蹴って即反転し足を狙って斬りかかる

 

「あっ!?」

 

剣を踏み止められ予測が外れた事を知る、ギガデインで一瞬止まる隙を突くつもりがバーンにはダメージは与えれど止めるまでは至らなかったのだ

 

「あぐっ!?」

 

出された蹴りを腕で受ける、ミシミシと骨が軋む

 

「カラミティエンド!!」

 

振り下ろされる最強の手刀

 

「……ダアアアッッ!!」

 

剣を踏む足を蹴りバランスを崩し手刀の軌道を変え剣の封印を解く、軌道が変わった手刀が耳の先を斬り飛ばす

 

「ハアアアアアッ!!」

 

間髪入れずに一閃、それをバーンは紙一重で避け、ダイの足を払い一瞬浮いたダイを拳で叩きつける

 

「グハッ!?……くっ!!?」

 

「!!」

 

叩きつけたダイの額が輝きバーンは紋章閃だと瞬時に察する

 

 

ドウッ!

 

 

突き抜ける紋章閃の一筋

 

「……ッ!?」

 

その光はバーンに命中していない証左であった

 

「何度も食らうと思うなよ」

 

完璧なタイミングで体を引き紋章閃を避けていた、同時に足を上げて次にも繋げている

 

 

ドンッ!

 

 

バーンの踏みつけが衝撃を走らせる

 

「くお……おッ!!?」

 

防御が間に合ったダイだが受けた腕の骨が軋み痺れるまでの威力に顔が歪んでいる

 

 

ズギャ!

 

 

押さえられたまま振り抜かれた手刀がダイを打ち飛ばす

 

「ハァ……クッソ……!オオオオオオッ!!」

 

死を押し付けあうような攻防は続く

 

(何て強いんだ……!嫌になるくらい強い……強過ぎる……!)

 

自分は竜の騎士の全てを出して戦っているのにバーンに有効打を与えるのが精一杯、決定的な隙が無く均衡を崩せない

 

(何という手段の多彩さと間隙の無さよ、差を遺伝子の経験が補っている)

 

身体能力ではまだバーンがかなりの優位を誇っている、鬼眼王の力は伊達ではなく数千年の戦いの経験値もある

 

(戦いの血が流れる戦神の末裔……技巧は余以上か)

 

その差を埋める権能、戦いに生きた戦神の歴史は戦いのみではなかったバーンを超える先人達の積み重ねた結晶

 

(ならば尚……勝たねばな)

 

再戦

 

もう二度と叶う筈がなかったまたと無い機会

 

敗北を勝利に変える為に王は挑む

 

 

「くっ……バギ、クロース!!」

 

一転して遠距離戦、今までの比ではない会場を埋め尽くす未曾有の大弾幕に抗うダイ

 

「魔幻「五大五重奏(エレメントクインテット)」!!

 

五種の属性入り乱れるバーンのスペルを冠した弾幕

 

「多過ぎる……クッソ!」

 

全方位に衝撃波を放ちながら飛び回るも絶え間無く無尽蔵を思わせる弾幕が次々被弾する

 

「ッ……これくらいなら!」

 

当たれど竜闘気によって軽い痛み程度、気を入れていれば耐えられる

 

そう判断し弾幕の嵐の中をバーンに向かって突撃する

 

「それは少々迂闊だぞ、そう仕向けたとは思わなかったのか?」

 

ニヤリと微笑んだバーンは弾幕を操作し一斉に向かわせる

 

「効くもんかぁー!……ッ!?」

 

ダイの止まらない勢いは鈍った

 

(ッ!?弾幕が……一点を狙い続けて……!?)

 

全身にバラけさせて当てるのではなく一点に絞り当て続けている、この速度でこの量を寸分違わず当て続けている

 

それがダイに痛みを蓄積させていきどんどん速度は鈍くなっていく

 

「何事もやり方次第、雨垂れも石を穿つという事よ」

 

弾幕が全て命中した時、ダイの動きは完全に停止した

 

 

ドギャ!

 

 

その瞬間を逃さずバーンが殴り飛ばす

 

「魔符「闘魔滅砕砲」!!」

 

追撃のレーザー

 

「うがっくッ……ストラァァァッシュ!!」

 

大地に受け身を取って叩きつけられたダイはレーザーに向かいアバンストラッシュのAタイプを速度を変えて二発放つ

 

「その程度で……何ッ!?」

 

掻き消せると思っていたバーンのレーザーは十字に両断されていく

 

(剣圧でアバンストラッシュXをしただと!?あの土壇場で何たる度胸と精度……!)

 

それは魔勇者が使ったAタイプを重ねるアバンストラッシュAX(アロークロス)と言うべき技と同じだった、魔勇者より強い分威力も相応に増大している

 

「ヌゥ……!フェニックスウイング!!」

 

斬り進んできた交差斬撃を弾き飛ばした瞬間、弾いた腕が鮮血を噴いた

 

「ハァ……ハァ……!」

 

ダイが斬りつけていた、剣が腕に斬り入り青い魔族の血を滴らせている

 

「ダイ……!ヌアアッ!!」

 

そのダイの胸に手刀を突き刺す

 

「ぐああ……ウオオオッ!!」

 

刺されたダイも負けじと反撃し互いの青き血が飛散する

 

「イオナズン……!」

 

魔法球を三発撃つもダイは紙一重で躱し背後で爆発、同時に斬りかかった剣と手刀がぶつかる

 

「ハァ……ハアッ……!」

 

闘いの遺伝子が導く本能のままに一心不乱に剣と四肢を駆使するダイ

 

「ハァ……オオオオッ!!」

 

一歩も退かず敢然と立ち向かってくるバーン

 

(まだ足りない……まだバーンの方が上だ……)

 

互角の勝負を繰り広げているようでその実ダイは劣勢だった

 

身体能力、ステータスが負けているからだ、息遣いと疲労にもそれが表れている

 

(このままじゃ……)

 

崩して大きなダメージを与えねばならないがバーンを崩せず削り合いになっている、そうなれば全てのステータスで劣る自分が先に尽きるのは明白なのはわかっているが崩せない

 

見え始めた敗北がダイの心を揺さぶる

 

(……!)

 

その時ダイに二人の男から言われた言葉が思い出される

 

【勇者とは諦めない者の事だ】

 

同じ勇者とバーンから言われた言葉、勇者として在るべき心の在り方

 

(……まだだ!諦めるもんか!)

 

それが魂を燃え上がらせる

 

(まだ目は死んでいない……そうでなくてはな)

 

意思を感じバーンの握る拳にも熱が入る

 

 

ギャウッ!

 

 

剣と手刀を構えて二人は駆ける

 

「グオオオオッ!?」

 

「グアアアアッ!?」

 

ダイの剣がバーンの角を斬り落としバーンの手刀がダイの太股を削ぎ落とす

 

「……切り刻んでくれるわ!!」

 

「……やってみろ!!」

 

勢いは収まらず更に増し、それはもはや死の領域にまで到達していた

 

 

ズドォッ!

 

 

「……ッ!?」

 

ダイの拳がバーンの腹にめり込む

 

「ッッ……!デアアアッ!!」

 

剣を握る手がバーンの顎を打ち抜く

 

「グッ……ヌゥゥゥゥ!!」

 

即座のバーンの反撃、ダイの顔を掴み引き込みながら腹に膝を入れる

 

「がっ!?……ッ!!?」

 

追撃に来ると読んで構えていた剣の防御ごとダイは手刀に容赦無く殴り飛ばされるも直ぐ様大地を蹴り返し攻勢に転じる

 

「オオオオオッ!!」

 

「ッ……ハアアアアッ!!」

 

苛烈な応酬は続く、意思の炎が燃え尽きるまで

 

 

ギンッ!

 

 

剣と手刀がぶつかる

 

「デヤアアアアアッ!!」

 

空いている手から繰り出す拳のラッシュがバーンを打つ、衝撃が突き抜け威力の程を知らしめる

 

「ッ!?ヌグゥ……!?」

 

一撃一撃が並みの戦士なら肉塊に、熟練の戦士だろうが容易に致命へ至らせる真竜の猛攻はバーンとて平気ではいられない、口から滴る青い血がそれを物語る

 

 

ズギャッ!

 

 

手刀の一閃がダイの側頭部を薙ぐ

 

「ッッ!?ぐ……あっ……!?」

 

余りの威力にふらつき一瞬止まり、側頭部から青い血が滴る

 

急所を本能的に強く纏っていた竜闘気により完全に切り裂かれはしなかったがその分が強烈な打撃となって脳を揺らされていた

 

「ッ……くっ!?」

 

目前に迫る繰り出されていた掌に剣を盾に受けるも踏ん張りごと容易く浮かされ同時に発生した掌圧に成す術なく打ち飛ばされる

 

「かはっ……ッ……!!?」

 

真の竜魔人すら越える膂力、魔獣と化した王の力は戦神の血の経験すら優位を取れない

 

「フン……」

 

打ち飛ばされたダイが見たのは傷にまみれ、青く血化粧させながらも不遜に笑み、指で来いと手招くバーンの姿

 

(……クッソ)

 

煽られその闘志は更に強く燃え上がる

 

(負けるか……負けるもんか……!!)

 

ダイは立ち上がる

 

「負けてぇたまるかぁぁぁー!!」

 

剣を構え駆ける

 

「ダアアアアッ!!」

 

「ヌアアアアッ!!」

 

何度でも挑む

 

 

王は敗北を勝利に変える為に

 

竜は奇蹟の介在しない真の勝利の為に

 

 

二人が演じる戦戯曲

 

互いに燃え盛る魂の休らむ時を求めた幻想の二重奏

 

魂の鎮魂曲(レクイエム)……

 

 

 

 

 

 

 

「ハアッ……ハアッ……ツアアッ!」

 

ダイが剣を突き入れる

 

(甘い突き……限界が来たか、勝機……!)

 

躱したバーンが手刀を振り上げる

 

「……」

 

その瞬間、ダイは一瞬剣を浮かすように……手を放した

 

「!?」

 

バーンは驚き目を見張る

 

(剣を手放すだと……!?勝負を投げ……いや……違う!)

 

謎の行動の真意を測る、測ってしまう聡明の代償が気付くも遅かった

 

 

ビシッ

 

 

ダイの速さだけのねこだましのような速拳がバーンの顔を打ち、怯ませる

 

(ッ……ぬかった……!?)

 

即座に僅かに落ち始めた剣を持ち直し、ダイは切り上げる

 

 

ザンッ!

 

 

逆袈裟がバーンの腹から胸を深く切り裂いた

 

「ヌグッ!?……ダイッ!」

 

押し退けるようにダイを切り払い後退する

 

「ごふっ……ッ……!」

 

バーンは膝をつき血を吐いた

 

「ハッ……ハアッ……ハアッ……よし……!」

 

ダイも荒れた息を整えながら崩しの決定打を与えれた事に興奮している

 

「……まったく、予測不能な事をしてくれる……即時粉砕と判断したあの時の余は間違っていなかったというわけだ」

 

バーンは立ち上がった、血はもう止めている

 

「ハァ……ハァ……」

 

「してやった顔だな、まぁ実際その通りだ、今ので余の優位は殆ど無くなったと言ってもいいだろう」

 

優勢を覆されたバーンの余裕とどこか嬉しさを感じさせる言葉と雰囲気にダイは訝しく睨む

 

「……」

 

「何だ?ああ……余が再生するのでは、と……そう思っているのか?」

 

竜闘気と暗黒闘気によるダメージは回復魔法では回復出来ない

 

ダイは暗黒闘気によるダメージは少なく回復出来るが回復魔法を持っていない

 

バーンのダメージは殆どが竜闘気によるもので回復魔法は効かないが高位魔族が持つ再生ならば回復出来るのだ

 

あの最終決戦の時もダイの剣がバーンの心臓を貫き再生を阻止していたからバーンは回復出来なかったのだ

 

「すればいい、それでもオレが勝つ!」

 

その上でも勝つというダイの決意の言葉

 

「強がるな、そうなればお前に万が一の勝ち目も無い」

 

それは駆け引きにもならない虚勢だとバーンには見抜かれている

 

実際そうなればダイの勝ち目など本当に無いのだから、実力で劣り回復もあるとなれば奇蹟が起きようが勝てないのは必然であると言えるからだ

 

「心配せずともそんな狡い真似はせん……これはあくまで試合でありこの条件で勝つ事を余自身が決めたのだ、偽る事は断じて無い」

 

だがバーンはそれをしないと言い放ち、受けたダイの表情が不満を露に睨んだ

 

「……そんなの」

 

「不服か?ならばその後の言葉はお前が勝った時に改めて言うがいい」

 

「……」

 

ダイは納得いかない顔をするもバーンを見つめ退かぬ事を悟りこれ以上の問答は埒が明かないと知る

 

「わかったよ……」

 

納得せざるをえず不満気に剣を構える

 

「それでよい」

 

満足にバーンも構える

 

 

ギャウッ!

 

 

そしてまた二人はぶつかる、勝利を目指して

 

 

「ウオオオオオオッーーー!!」

 

「ヌアアアアアアッーーー!!」

 

 

それは二人だけの世界

 

「があッ!?」

 

「がふッ!?」

 

善悪の無い力比べ、勇者と大魔王だった者達が己の威信を懸けて演じる武闘

 

「……ガアアアアアッ!!」

 

「……オオオオオオッ!!」

 

この相手にだけは負けたくない、その想いが膝を屈する事を己に許さず、その想いだけが魂を燃やし体を突き動かす

 

「……!」

 

攻防の最中にバーンは気付く

 

(頭上に魔力反応が二つ……ギガデイン)

 

熾烈な攻防の最中に密かに仕込まれていた呪文、バーンでなければ気付かれなかっただろう

 

(わかっていれば効果は半減、虚を突けねば余には通用せぬ)

 

意識を向けていればダメージはあれど怯む事は無い、フェニックスウイングで跳ね返す事も可能

 

「デヤアアアアッ!!」

 

ダイの怒涛の攻撃が続くも撃つ気配が無い、気を伺っているのか

 

(何を狙っている……?)

 

バーンの手刀がダイを弾き飛ばす

 

「ッア!?……ギガ、デイィィン!!」

 

(隙潰しか!ならば……!)

 

フェニックスウイングを放つ為に右腕に力を込めるバーンの目の前で……雷はダイに落ちた

 

(剣に……!ギガストラッシュ……!)

 

意図を理解するが虚を突いた事にはならない、遠くはないが距離は離れている、今この瞬間に飛び込まれてもフェニックスウイングは充分間に合う

 

「ダアアアアアアッ!!」

 

ダイはその場で剣を振り抜き雷光帯びる剣圧を放った

 

(ギガストラッシュでだと!?)

 

ダイがしたのはギガストラッシュのAタイプ、出来る事を今まで隠していたのだ

 

今この瞬間の為に

 

(ッ……意表は突かれたが問題は無い、フェニックスウイングで返せる……いや、待て!魔力反応は二つ……!)

 

ギガストラッシュだろうが今の自分ならフェニックスウイングで返せると確信するも同時に気付く

 

「まだだぁ!!」

 

残る魔力が雷となってダイに降り注ぎ、剣に受けたダイは駆け、Aタイプに追従する

 

(ギガストラッシュの交差……!うかつな技で迎撃は出来ぬ!)

 

その絶技にはフェニックスウイングすら競り勝つか不安が残る、かと言って天地魔闘の構えは使わない

 

(…………!)

 

避ける事は出来た、先にしたようにAタイプの狙いから僅かにでも外れ交差点を避ける事は容易に出来たしそうするべきだと頭ではわかっている

 

「……面白い!」

 

構えていた右腕が下がり、左腕を手刀に頭上に構える

 

「受けて立ってやろうぞ!」

 

それでもバーンが選んだのは防御でも回避でもなく攻撃だった

 

捩じ伏せてみたくなったのだ、ダイが渾身を籠めた会心の一撃を己が培ったこの力で

 

「オオオオオオッ!!」

 

故に力には力で真っ向から対抗する事を決め、その地上最強の剣を威風堂々と振り下ろした

 

 

「カラミティエンドォッ!!」

 

「ギガストラッシュX(クロス)!!」

 

 

衝突する必殺の技

 

 

 

ドシュ……!

 

 

 

舞った

 

「……ッ!!?」

 

バーンの左腕が

 

(今再び断つか……余の最強の剣を……!またしても……!)

 

鮮血の中を舞う自らの腕をバーンは見つめている

 

以前の様に呆けた訳ではない

 

宙に浮く己が誇る最強の剣が断たれたという事実のみを見つめる

 

「デヤアアアアアッ!!」

 

そんな刹那の瞬間にさえダイは止まっていなかった、あの時と同じく追撃に上から剣を刺しに来ていた

 

(……負けるのか?余は……またも……?)

 

脳裏に過る敗北の予感

 

 

 

ガッ

 

 

 

剣は掴み、止められる

 

(否……断じて否ッ!)

 

予感を断ち切る勝利への執念

 

「このバーンを……」

 

掴む剣を持ち上げ、叩きつける

 

 

「舐めるでないわーッ!!」

 

 

王の矜持が咆哮する

 

「がっ!?ぐぅ……う"っ!!?」

 

鬼気迫るバーンにダイは打ちのめされる、片腕にも関わらず勢いに抗えず一方的に殴られる

 

「オオアアァーーーーッ!!」

 

 

ズドオッ!!

 

 

鬼神の右拳がダイの腹にめり込み打ち飛ばす

 

「グアア……がっ……ああぁ……!!?」

 

青血を吐き散らしながら呻き大地を転がりながらダイは撃った

 

 

「……ドル……オーラァァァァァ!!」

 

 

魔人となった竜のブレス、絶壊の咆哮

 

竜の騎士究極の呪文が王に撃たれる

 

 

 

ボウッ……!!

 

 

 

炎が燃える

 

その瞬間、会場の誰もがその優雅な炎声を聞いた

 

 

「な……!?」

 

咆哮は届いていなかった、バーンを目前に何かに止められていた

 

「あれ……は……!?」

 

バーンの前に立ち塞がる炎にダイは見覚えがあった

 

「か、カイザー……」

 

不死鳥

 

バーンのメラゾーマであり最強の呪文

 

「……行け」

 

命じられた不死鳥は羽を優雅に広げ、絶死の空へ羽ばたいた

 

「ウオオ……ッ!!」

 

ドルオーラを突き進んで来る不死鳥に負けじとダイは力を込める

 

「無駄だ……その程度では余の誇りたる不死鳥の天翔を遮る事は叶わぬ」

 

(止まらない……!?)

 

バーンの誇りたる不死鳥、妹紅との絆の証でもある最高の呪文は竜の咆哮ですら少々強い風でしかない

 

「ッ……ッッ!!?」

 

ブレスを焼き貫かれ、砲口に辿り着かれたダイは撃つのを止め、左足を差し出した

 

 

「ッ!?う……ウアアアアアアッ!!?」

 

 

瞬間の炎爆、燃え上がる極炎

 

「がっ……アアアアアーーッ!!?」

 

必焼の炎が左足を焼き、炭と化す

 

「ぐう……うぅ……!?」

 

「腕を庇ったか、フンまぁよい……余だけ腕を失いお前だけ五体満足は許せぬ」

 

片足のダイ、片腕のバーン

 

「……限界だな、お互いに」

 

「……みたいだ」

 

激闘の果てに痛め尽くされた体、身を染める青き血、加えて欠損

 

満身創痍、それは間違いない

 

「決着をつけようではないか」

 

「ああ……望むところだ!!」

 

止まらないのは、それでも尚も熱く動くのは負けたくないという意思故

 

子どものようなただの意地、故に何よりも強い純粋な想いが燃える魂の鎮火を許さない

 

「……」

 

「……」

 

だとしても互いに余力は無い、次の攻防が最後になると互いにわかっている

 

どちらかが負けるのだ

 

「……」

 

ダイは剣を見つめる

 

(やってみよう……次が最後なんだ)

 

戦いの最中に考えていた事があった、ポップと頂点の魔法使いの試合を見てはいたダイは闘いの遺伝子が機能した後にある可能性に至っていた

 

(失敗したらその時だ……)

 

剣を掲げ、ギガデインを宿す

 

(だから……ありったけを!!)

 

そしてその剣を……鞘に納めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?何してやがるダイ!」

 

それに驚愕したのはロン

 

「ど、どうしたんですロン・ベルクさん?意図は掴めませんが鞘に納めただけでは?」

 

膝枕をされている妖夢も驚きロンに問う

 

「……あの鞘は俺が作ったんだ」

 

「それがどうしたんです?」

 

「鞘には仕掛けをしてある、魔法剣に使った呪文のランクを最大にする効果がある、多少の時間は掛かるがな」

 

「成程それは強力な効果ですね……ん?あれ……?今ダイさんが使ったのはギガデインと呼ばれる呪文では?」

 

「だから何をと言ったんだ、ギガデインは極大に分類される勇者の呪文、意味が無い筈だ、一体何を考えてやがる……」

 

「……その上があるという事では?」

 

「!?」

 

ロンに電流走る

 

「……確かにとりが言っていたな、太陽神異変の時に戦った魔界の勇者がギガデインを越える呪文を使ったと……ジゴデイン、だったか……まさかダイはそれに至ったというのか?知らない筈だ」

 

「それはおそらく魔理沙とパチュリーさんとポップさんの試合が原因ではないかと」

 

「……あいつ等の試合で呪文にはまだ上の領域がある事を知ったのか、認識すればそれはダイの為の生きた剣にも共有される……しかしだ」

 

「何か懸念が……?」

 

「ああ……見ていろ、俺の予想通りなら多分……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バチッ

 

「くっ……!?」

 

鞘から雷が漏れ出る

 

(鞘が……!?)

 

剣を納める鞘が赤熱を始め振動しだす

 

(上がり続ける剣の力に鞘が耐えられなくなっている……竜闘気とギガデインの併用を基に設計しているからか、ましてや今は竜魔人、込める竜闘気も莫大なモノになっている)

 

鞘の限界はギガデインまで

 

既にギガデインを会得しているダイに鞘の効果は無用になっているから使う必要は無かった

 

それをギガデインを超えて高めようとしているのだから完全な過負荷として鞘が悲鳴をあげているのだ

 

「ぐっ……くっ……!?」

 

振動はより強くなりダイの背で暴れる、漏れ出る雷もより激しさを増し異常な熱で炉にくべられた鉄のように赤熱している

 

(耐えてくれ……!頼む……!!)

 

それでも鞘を信じ、持てる竜闘気を籠める

 

文字通り……ありったけを

 

 

ガガッ……ガガガガガガガッ!!

 

 

凄まじい異常振動と赤熱を越え光すら放ち始めるまでになった鞘

 

(だ……ダメなのか……!?)

 

鞘の限界を知らず考慮していなかったダイは暴れる剣を抑え失敗を強く予感し始めた

 

 

ドウッ!!

 

 

鞘がバラバラに爆発し……その役目を終えた

 

「ごめん……」

 

無茶をさせて壊してしまった事にダイは謝り

 

「お陰で……最高の剣になったよ」

 

完成された剣を掲げた

 

「これが……オレの最強の剣だ!!」

 

紫電を帯びる魔法剣、過剰が過ぎる雷電が剣に収まらず迸る雷が大地を削る影響力を持つまでに至る異常な魔力が籠っている

 

絶大な竜闘気と極限の聖雷を合わせた竜の騎士の歴史上で誰も辿り着かなかったダイだけの究極の魔法剣

 

「……!」

 

それはバーンに一目で最大の警戒をさせるに至る

 

「勝負だ……!これでオレが勝つ!!」

 

「受けて立つ、勝利をこの掌に……!!」

 

最後の攻防が始まる

 

「ハアアアァァ……!」

 

剣を逆手に持ち背に構える、その時ダイは気付く

 

(……!?剣が暴れる……持ってられない)

 

想像を絶する力を秘めた剣は片手では制御出来なかった、これではアバンストラッシュは放てない

 

(だったら……!)

 

逆手を止め、両の手でしっかりと握り八相の構えを取る

 

(父さんの力を借りる!)

 

父バランの必殺剣ギガブレイクの構え

 

闘いの遺伝子が導いたのは、否……ダイが選んだのは父の技だった

 

「これで……勝つ!!」

 

意気を固めたダイは魔力の高鳴りに気付き、バーンを見た

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!

 

 

天地がざわめいている

 

「ならば余も最大を持って相手せねば不作法というもの……」

 

まるで際限が無いかのように上昇し続ける魔力

 

「刮目するがいい、これが……」

 

その魔力が右手に集束していき、その手に常人ならば見るだけで寿命を減らしかねない王の魔炎を灯らせる

 

「余のメラゾーマだ……!」

 

選んだのは天地魔闘の構えではなかった、バーンが選ぶのは火の呪文

 

「その想像を絶する威力と……優雅なる姿から予てより幻想郷ではこう呼ぶ……」

 

使わぬと約束したからではない、確かに天地魔闘の構えはバーンの最高技であるが最大ではない

 

 

カイザーフェニックス(皇帝不死鳥)!!」

 

 

顕現する巨大な炎鳥

 

思わず見惚れてしまうまでに優雅に美しく、同時に本能へ否応なく響かせる恐ろしさを孕む不死の鳥

 

これこそが、ドルオーラすら容易く破る妹紅との絆の証こそがバーンの誇りにして最大威力の技なのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!」

 

妹紅の拳は強く握られその身を震わせる

 

(それだよ……!その不死鳥こそが……勇者にも負けないお前の最高の技だよな!なぁバーン!!)

 

破っていても尚、その想像を絶する威力と優雅なる姿に尊敬の念を持ち続けさせ、皇帝不死鳥に息を飲ませ身震いさせる程に強く優雅で気高い誇りの炎形、妹紅の存在が至らせたバーン最高の技

 

「勝てるさお前なら……!行け……!勝てよ……絶対……!!」

 

勝利を信じ運命の二人を見守る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……へへっ」

 

「……フッ」

 

準備を終えた二人に笑みが浮かぶ

 

「よいな?」

 

「ああ……いつでも!」

 

そして最後は……動き出した

 

 

「焼け散るがいい!ダイィィィ!!」

 

 

不死鳥が放たれる、それは先よりも大きくそして強き……死と再生を繰り返す伝説の火の鳥

 

 

「ウオオオオオオオッ!!」

 

 

足りぬ足を飛翔呪文で補い自身の持つ最大戦速にてダイは不死鳥に向かい突っ込み、その究極剣を振り下ろす

 

 

 

「ジゴ……ブレイクゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 

 

 

ビシィッ!!

 

 

 

その凄まじさは衝突の余波で実力者が多数支える結界にヒビを入れてしまう程

 

 

「オオオ……オアアアアアアッ!!」

 

「ヌアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

猛り溢れる意思が咆哮となり、意地と誇りは攻めぎ合う

 

(強い……なんて強いんだ……ここまでやったのに……お前はオレより……)

 

次は出来ない一回切りの切り札なのにそれに負けない力を持つバーンに悔しさが込み上げる

 

(お前に負けたから……余はここまで力を持つに至ったのだ、お前が持つ……守るという情を知ったからこそ……ここまで来れたのだ)

 

逆にバーンは感謝に近い事を思っていた

 

負けたからこそ、負けて幻想郷に来たからこそ……今のバーンは在る

 

至る根源はダイにこそある

 

(だからっ……て……!)

 

(だからこそ……!)

 

異なる想いだろうと行き着くのは一つ

 

(負けるか!!)

 

(負けられぬ!!)

 

勝利

 

その二文字しか二人は見えていない

 

 

「デヤアアアアアアアアアッ!!」

 

「ハアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

力は光を放つ

 

一瞬……だけど……

 

 

「バァァァァァァァァァン!!」

 

「ダイィィィィィィィィィ!!」

 

 

閃光のように

 

 

カッ……!

 

 

想いも何もかもを消し去るような……

 

大爆発が起こった

 

 

 

「ハアッ……ハアッ……ヌックッ……!?」

 

息荒く爆発に押されるバーン

 

(相打ち……ッ……!?)

 

妹紅以外に許していないカイザーフェニックスは破られはしなかった、ダイの魔法剣に競り負ける事無く行き場を失った力が爆発したのだ

 

「……!?」

 

爆煙の中に揺らめきを見た

 

「ダイッ!!」

 

直後に爆煙から飛び出して来たダイに向かい手刀を振り下ろす

 

(!!?……これは何と言う事よ……)

 

その時、一瞬……

 

(まさか……お前がそう見えるとは、な……)

 

一瞬だけバーンは……太陽を見た

 

 

 

 

 

 

 

「ハアッ……ァ……ハアッ……ハアッ……!?」

 

「……」

 

息も絶え絶えのダイと無言のバーン

 

その手刀は途中で止まっている

 

「……そうか」

 

そしてダイの剣は首の手前で止まっていた

 

「やはり大魔王は勇者には勝てぬ運命(さだめ)なのかもしれぬ……な」

 

手刀を戻し、震えてもはや剣すらまともに保てないダイへバーンは言う

 

「お前の勝ちだ……ダイ」

 

負けたのだと

 

「ハアッ……ふざ……けんな……ハアッ……」

 

力無くその場に崩れながらダイはバーンを睨む

 

「お前の……方が……強いだろ……」

 

ダイは納得していない

 

実力の大半で上を行かれ再生も無く天地魔闘の構えも封印された状態で勝ったなどと言われて認めれるわけがない

 

現にやろうと思えばバーンはまだ戦える

 

負けているのは自分なのだ

 

「それでもお前が勝っている、余が決めた事だ」

 

自らが定めた条件で戦い、その上で敗北を心が認めたからそうした

 

それを偽るなど矜持が許さない、誰が何と言おうとこの試合はバーンの負けなのだ

 

「そういう事だ……愉快な試合であった、体……そして心を(いと)うがいい」

 

「待て……ッ……待てッ……!」

 

身を翻し叫ぶダイを気にせずバーンは文に合図を出し舞台から出ていく

 

 

『決着ーー!!凄絶な激闘を制し!大魔王に勝利したのは勇者……ダイ選手だーー!!二人の素晴らしき健闘に皆様拍手ーーー!!』

 

 

その瞬間、会場を揺らす大歓声が巻き起こる

 

「待て……よ……ちくしょう……待てって……言ってるだろ……」

 

ダイの言葉は掻き消される

 

 

「認めないぞ……バーーーン!!」

 

 

勇者の叫びは誰も聞いていない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終戦 勝者 ダイ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大変遅くなりました。
お詫びと言ってはなんですが戦闘描写大量加筆にてお許しを……

この決着が良いかはわかりません、ですが内容はどうあれバーンの負けは最初から決まってました、異魔神戦で幻想郷に来てから初めて勝利したので試合を含むのかは難しいところですが負けは決まっていたのです。

次は幻想郷お約束のアレですね、あと2、3話くらいで終わりの予定です。

次回も頑張ります!

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