東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 終曲(フィナーレ)

 

 

 

 

 

"" 深い闇の中で思うのはあの時

 

  人の心が繋がった……奇蹟の瞬間

 

  あの尊く素敵な時があったからからこそより強く……

 

  夢見た理想に生きるお前を見たからより深く……

 

  闇へ堕ちた……

 

 

 

 

 

 

 

 

もういい……

 

疲れたから……もう、いいんだ……

 

 

人間がオレを嫌うなら……

 

世界がオレを拒むなら……

 

 

 

オレは……そう成るよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ああ……でもそうだ……最後にまだ……

 

 

やり残した事があったや……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

           お前だけは許さない……

 

 

                       ""

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『皆様……六試合もの素晴らしい戦いが繰り広げられ、終わりました』

 

静寂の会場に文の声だけが響く

 

『勝った者、負けた者様々ですがそのどれもが幻想郷と勇者一行の強さを示すモノだったのは確かです……!』

 

今までの激闘を誰もが思い出し、想いを馳せる

 

『そんな強者達の夢の共演、夢幻の闘宴が見られるこの大会、ついに……最終戦となりましたーーーッッ!!』

 

文の絶叫に呼応して会場は最大の盛り上りを見せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……来ちゃいましたね、最終戦」

 

「……そうだねー」

 

大妖精とフラン

 

「それより今日の夜は何食べる?あたいはかき氷が食べたいんだけど大ちゃんは?あ、ルーミアも誘わない?」

 

晩御飯に何食べるか考えているチルノ

 

「結局バーンから何も言われなかったな」

 

「そうだね……」

 

「何の話?」

 

妹紅とロランとルナ

 

「仮に私等に投げられても私はパスだぜ~もやしはもっとパスな~」

 

「そうね」

 

試合で消耗している魔理沙とパチュリー、パチュリーに至っては魔力がほぼ空、フランも回復したとはいえヒュンケルと試合して満足してるのでパスの方針

 

「……」

 

レミリアは頬杖を着いて微笑んでいる

 

(わかっているわよ……バーン)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

勇者一行の控え室では全員が沈黙していた

 

(ダイ……)

 

何の感情も示さないダイに対し見る者と目を逸らす者で分かれていた

 

(ホントにどうにか出来んのかよレミリア……)

 

もう心を閉ざしたように拒絶の雰囲気を垂れ流し、目から光を失っているダイにポップは思う

 

(こんな……心だけ消えちまったようなダイを……)

 

心が揺れる

 

(そもそも今のダイを仮にどうにか出来たって俺達の世界をどうにかしなきゃその場凌ぎにしかならねぇ、いや……でも……)

 

根本的な解決をしない限りまた繰り返すだけなのではと思うがある男の存在を思い出し考える

 

(……信じるしかねぇか、レミリアを……あいつを……)

 

賭ける覚悟を決めたポップはダイへ向かって歩いていく

 

「おめぇの出番だぜダイ」

 

「……わかったよ」

 

感情の籠らない軽い返事を返しダイは力無く立ち上がり、歩いていく

 

「……」

 

仲間の横を通り過ぎるが誰も声を掛けれない

 

(こんなダイを出しても大丈夫なのか……?)

 

不安

 

明らかにおかしいダイが試合に出る事で何か取り返しのつかない事態になりそうな不安、今でも取り返しがつかないのは違いないが更におぞましい事になるような異様な不安を感じるも止められない

 

 

「……ダイ!」

 

ポップの呼び掛けに足は止まった

 

「頑張れよ!」

 

「…………」

 

ポップを一瞥し、何も言う事無く出て行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それは竜の戦闘力、魔族の魔力、人間の心を併せ持つ者……(ドラゴン)の騎士!!』

 

『伝説に語られる竜の騎士!世が乱れた時世に秩序を乱す者を粛清し、世界の平和を維持する究極の抑止力!!』

 

『我々がよく知るあの大魔王を死闘の末に下した生ける伝説の男!!その名は……』

 

 

 

『勇者……ダイだぁぁぁぁぁ!!』

 

 

 

空間拡張は残したままで改めて設置されたリングの上に立ったダイを大歓声が迎える

 

「……」

 

ダイは驚くでも焦りでもない、当然気恥ずかしさや勇敢な顔もしていない

 

無であった

 

感情の無い無表情で佇んでいる

 

 

「……!」

 

観客の一部、力有る者達がその異常さに気付く

 

(これって……もう手遅れじゃ……?)

 

事情を知る者達がそう感じる程の負のオーラ

 

「異界の神々は酷な事をする……」

 

神である神奈子は苦々しくダイを睨む

 

(世界を正す目的で造られた竜の騎士、世界の命運を背負わされた果てがあのざまだ……自ら救った人間が育てた闇に染められている、人間の心を持つが故に……)

 

神々はこんな事態を想定していなかったのだろうが現実にそうなっている、更に言えばダイの父バランも人間を悪とし人の道を外れた

 

竜の騎士という強くも不安定な存在を生み出した神々に愚かさを感じている

 

(放っておけばいいものを……幻想郷には何も関係が無い話、それでも関わるのはバーン……お前が許せないのか、勇者が堕とされるのが……堕ちるのではなく堕とされるのが)

 

意思無き流れるままの勇者が気に入らないのだろうと神奈子にもわかった

 

(……私も気に入らんよ、バーン……)

 

 

 

 

 

 

 

 

(更に……ッ!?)

 

さとりは目を覆いたくなる余りの負の感情に顔が引き吊り目を背ける

 

(もはや魔物と変わらない……人の姿をした魔物……こんな……希望などある筈が……)

 

この世の誰よりも心を知れるからこそ、その心に望みは無いのだと悟り、読むのをやめる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(これは誰が相手をしようと見逃せない戦いですね……!)

 

幻想郷の歴史を綴る稗田阿求は興奮気味に鼻を鳴らす

 

(今までも含めて間違いなく幻想郷の歴史に残すに値する一戦になるのは間違いない!)

 

全てを見逃すまいと目力を強く勇者を見る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ダイは変わらず何の反応も示さない

 

『さぁさぁさぁ!幻想郷からは誰が出るのか!この史上最強の勇者に相対するのは一体誰なんだーーーッ!!』

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

「……!」

 

妹紅とロランが腰を浮かせ、気付いて腰を下ろした

 

「……はは、お前もかロラン」

 

「妹紅もだったか……はは」

 

二人で顔を見合せ笑う

 

二人は行こうとしてやめたのだ

 

「思わず行こうとしちゃったけど……私達じゃないんだよな」

 

「だね……」

 

ダイを一際不憫に思っていた妹紅とロランは自分が行きたかった、それで反射的に腰が浮いたがその役目は自分ではないとわかっているので自制した

 

ブゥン……

 

スキマが開かれ紫がレミリアの横へ座る

 

「本当に大丈夫なのね?」

 

協力するとは言ったが心情では反対している紫は危険が無いか最終確認している

 

「心配は要らないわ」

 

レミリアは言い切る

 

「ただ少し荒れるかもしれないから結界維持の協力者が欲しいわね、博麗の靈夢と守矢の早苗じゃなくて神奈子に頼んでちょうだい、貴方も準備はしといて」

 

「了解したわ、霊夢にも伝えておきましょう」

 

スキマが閉じ紫が消える

 

「レミリアさん行かないんですか?」

 

大妖精が問う

 

「貴方こそ行かないの?」

 

「行かないです、私戦い好きじゃないですし私が行くのは違うってわかるんです」

 

「私も一緒よ、バーンは考えるなんて言ってたけれど勇者と戦う者は最初から決まっていたのよ」

 

確信した笑みで見つめている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いまだ登壇者無し!まさか怖じ気づいたのかー!?こうなったら私が行ったりましょうか!』

 

ざわざわと困惑している観客席、実況の文が必死に間を繋ごうと声をあげた

 

 

次の瞬間

 

 

 

カツン……

 

 

 

喧騒の会場に足音が響き渡り、一斉に観客は口を閉じ静寂が訪れた

 

「……!」

 

ダイが反応を示した、これまで何の反応も示さなかったダイが明らかに反応したのだ

 

「……」

 

足音の方角、最初に入場した時の通路を見つめる

 

 

カツン……カツン……

 

 

徐々に近付いてくる足音、それだけなのに会場は一瞬にして雰囲気を激変させていた

 

それはまるで王と謁見する際のような……重く厳かなモノへ

 

 

「来ると……思ってた」

 

ダイが薄暗い通路に見えるシルエットに呟く

 

 

カツン……!

 

 

「例え幾世の時が過ぎようが、例え幻想の彼方と隔たれようが……勇者と大魔王、その因果とは断てぬモノらしい」

 

 

透き通るその声には得も言えぬ魅力を含んでおり何よりも正しいと思わせる魔力を孕む魔性の声

 

 

カツン……!

 

 

「なればこそ……決まっていたのだ、考える意味は無く、相見(あいまみ)えたあの……再会の時から……」

 

そして、影から出でたその姿に陽の光が当たり、鮮明に映す

 

 

「余と貴様は再び戦う運命(さだめ)にあったのだ、ダイよ」

 

 

かつての宿敵、かつての大魔王、バーンが姿を現した!

 

 

『な、な、な、なんとー!出場したのはまさかまさかのバーンさんです!因縁の戦い再び!最終戦は勇者と大魔王の試合になりましたぁぁぁぁ!!』

 

今日一番の大歓声が鳴り響く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱなぁ……そうなるよなぁ」

 

頂点達は予想通りの顔で頷く

 

「私達の事信用してない訳じゃないんだよな、ただ勇者は自分が行くしかないって使命感っつーか……まぁ勇者が目的だし言い出しっぺだしな」

 

「だな、私もこれが一番だと思うよ……勇者の反応見たら一目瞭然だ、私達じゃああはならなかったよ」

 

「やはり適任なのは誰よりも勇者に憤りを持っていたバーン以外には存在しなかったのよ、勇者の反応がその証明ね」

 

魔理沙と妹紅とパチュリーが苦笑する

 

「此処が運命の変わり目、見せて貰うわよ……バーン」

 

レミリアの鋭い視線がバーンを射ぬく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッッ!!?」

 

勇者一行の控え室は衝撃を受けていた

 

「バーン……だと!?」

 

「まさか……奴が!?」

 

考えもしなかった相手に混乱している

 

「バーンとなんて危険よ!?」

 

「ダイ様ッ!!」

 

マァムが悲鳴をあげラーハルトが飛び出そうとしている

 

「待ってくれ!」

 

ポップが制止する

 

「何をポップ……!何故止める!?」

 

意味がわからず制止されたラーハルトが問う

 

「このまま……やらせてやってくれ」

 

「正気か!?」

 

ラーハルトからすれば変わったと聞いているだけの相手である因縁あるバーン、これを機に抹殺を謀り復讐を遂げようとしていると思っても不思議ではない

 

それに蘇生道具である世界樹の葉についても所持しているのは幻想郷側、存在を確認していないし本当に生き返れるかも試していないのでわからない、仮に生き返れたとしても根回しされ使用されない可能性も考えたからこそ危険だと言うのだ

 

「わかってる!わかってんだ危ねぇ賭けだって事はよ!」

 

唯一事情を知るポップは声を荒げる

 

「けどよ!あのダイの反応見ただろ!俺達じゃ駄目だったダイがあんなに反応したのをよ!」

 

「バーンが俺達にとって危険な相手だってのはわかってる!だけどあんなの見せられたら……信じたくもなんだよ!」

 

情けない事を言っているのは自覚している、それでもポップはバーンに賭けたのだ

 

「あいつなら……ダイをどうにかしてくれるんじゃないかって……!」

 

震える握り拳、それは期待と不安の表れ

 

バーンという最大級の毒がダイにどう作用するか想像もつかない故の震え

 

「敵だぞ……地上を消滅させようとした、ダイ様を殺そうとした……敵なんだぞ!」

 

「……!」

 

ポップはラーハルトも震えているのに気付く、忠義が揺れているのだ

 

主の今の安全を取るのか未来へ賭けるかで

 

「すまねぇ……!皆の不安はもっともだ!こんな事言ってる俺だって不安でおかしくなりそうだよ!」

 

ポップとて心から賛成している訳ではない、他の道があるなら迷わず選ぶくらいにこの道は不安しかないのだ

 

「だけど信じたいんだよ!俺が初めてレミリアと出会ったあの時に聞いた……俺が助けたいと思ったバーンを!!」

 

ポップが任せた決め手はあの時バーンに抱いた感情、敵であったハドラーの最期に持った尊敬にも似た……仲間意識だった

 

「ダメだった時は責任取って俺がダイを殺して一緒に死んでやる……だから、頼むよ……!」

 

覚悟を決めた男の懇願

 

「……いいだろうポップ、俺も信じてやる」

 

それがラーハルトの覚悟も決めた

 

「だがその時に最初に死ぬのは俺だ、それが竜騎衆の務め、それは譲らん」

 

その二人の覚悟に残りの五人も覚悟を決めて頷いた

 

「死ぬ時は一緒だ、ダイ一人に寂しい思いはさせん」

 

「その通りだ!まずはバーンの手並みを拝見するとしようか!ガハハ!」

 

「そうね……私もバーンを信じてダイを任せるわ」

 

「俺はおめぇ等を好きになっちまったから一緒に居んだ、一蓮托生ってヤツよ!そん時ゃ一緒に死んでやらぁ!」

 

「ヒムちゃんだけに格好いい事させたら隊長の名が廃る!勿論ボクも一緒だよ!」

 

 

「皆すまねぇ……ありがとよ……!」

 

一行の意思は決まり、運命(さだめ)の二人を見守る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

リングに上り見つめ合うダイとバーン

 

「こうして対峙するとあの時を思い出すなダイ」

 

「……バーン」

 

「せっかくの機会だ、少し話でもしようではないか」

 

「……お前と話すことなんて無い」

 

会話を拒否しダイはバーンを睨み付ける

 

「話す舌など持たぬか……それでよい、今は……な」

 

尚も睨むダイにバーンは言う

 

「さっきから何をそんなに睨み付ける?たかが試合だぞ?まさか一度勝った相手に怯えている訳ではあるまいに」

 

「……ッ!?」

 

ダイの感情が揺れる

 

「お前は……!」

 

言葉にならない感情が竜闘気となってざわざわと溢れ出す

 

明らかにダイはバーンに対し感情を剥き出しにしていた

 

「ふん……濁った目だ、気に入らんな」

 

バーンは踵を返しある程度の距離を取ってダイに振り返り文を見る

 

「始めろ」

 

『は、はいっ!それでは泣いても笑っても最後の試合!いいですか?試合ですよ?殺し合いじゃありませんからね!お願いしますよ御両人!!』

 

文が念を押し宣言された

 

 

 

『最終試合……始めぇぇぇ!!』

 

 

 

 

最終戦 ダイVSバーン

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

ダイは背の剣に手を掛け、身構える

 

「抜かぬのか?舐められたものだ……」

 

バーンは掌底を繰り出す

 

 

ドウッ!

 

 

「ッ!?」

 

掌圧がダイを襲い打ち飛ばされそうになるが踏み留まる

 

バーンはフランが全力で出せる衝撃波を軽く出す事が出来る

 

「どうした?知らぬ訳ではあるまい?」

 

「ッ……剣よ!!」

 

ダイが鞘から剣を抜いた、竜の騎士の全力にも耐えられる専用剣、ダイの剣を

 

「……それだけか?」

 

バーンが問う

 

「ッ……アアアアアアッ!!」

 

ダイは剣を構えバーンに飛び込み、振り下ろした

 

 

ズンッ!

 

 

リングが陥没し威力を物語る

 

「……何だこれは?まさか攻撃のつもりか?」

 

バーンは無傷だった、無防備に肩に受けたにも関わらず服すら切れておらず痛痒すら感じていない

 

「ッ……!!?」

 

ダイが歯を食い縛りながら睨みつける

 

「笑わせるなよダイ」

 

バーンは剣の刃を握りダイごと軽々持ち上げる

 

「もう忘れたのか?余の力を?ならば思い出せ」

 

離すと同時に宙に一瞬静止したダイを殴る

 

「ッッ!?」

 

殴られたダイはリングを抉りながら打ち飛ばされ端間際でリングに剣を刺し止まる

 

「チッ……」

 

打たれた頬に僅かな打撃痕が見えるが竜闘気で防ぎダメージはほぼ0に等しい

 

(今のを食らうか……)

 

無論バーンも本気で打っていないが違和感を感じダイを見る

 

「……」

 

バーンは魔力を弾幕にして撃つ

 

「……!?」

 

恐ろしき大魔力からなるバーンの弾幕は魔力覚醒をせずとも魔理沙と並ぶ威力を優に出せ更にその操作技術もパチュリー並みに高い

 

二人の上位互換の弾幕を出せる弾幕戦なら一番の大妖精を更に越える弾幕を素で出せるのだ

 

「くっ……!?」

 

ダイはそんな弾幕を前にして退いた、トベルーラを使い空中に逃げた

 

「こんなモノ……!」

 

追い立てて来る弾幕を剣で切り払いながら高速で空を飛ぶも剣を振るだけで逃げ切れる程バーンの弾幕は甘く無い

 

「……当たるぞ?」

 

バーンの言葉通りに弾幕はすぐにダイに命中した

 

「……くそぉ!」

 

強き竜闘気に遮られダメージは無いが悔しき声をダイは出す

 

(……やはりそうか)

 

バーンは違和感の答えを知る

 

(闘いの遺伝子が機能しておらぬ)

 

それは竜の騎士の強さの根源の一つである歴代の竜の騎士が蓄積した経験が反映されていない事

 

(先の殴打も今の弾幕もそうだ、ダイがあの程度食らう筈が無い、更に言えば初手の掌圧もそう、そして双竜紋で向かって来たのがそもそもおかしいのだ)

 

闘いの遺伝子が機能していれば見た事の有る掌圧を察知し避けるだろうし軽い殴打をいなせぬ筈がない、弾幕も咲夜から経験しているし先の試合で飽きる程見れた筈だから対処も容易の筈、なのに食らう

 

そして自分の力は一番知っている筈なのに今や大した脅威に感じない双竜紋で来るのが何よりおかしい

 

これらからバーンはダイの闘いの遺伝子が機能していないと判断したのだ

 

(そこまで濁りきったか……竜の騎士の権能が機能不全を起こすまでに)

 

バーンの憤りが刺激される、弱き竜の騎士の姿にその怒りは静かに燃える

 

 

「……ギガ……デインッ!!」

 

ダイは呪文を唱え聖なる雷をバーンに直撃させる

 

(成長している部分も有る……)

 

最終決戦の時にはまだライデインだったのが今はギガデインになっている

 

(だが……それでも弱過ぎる)

 

バーンには効いていなかった

 

「話にならんな……どちらも」

 

実力も対話も出来ない余りの弱さにバーンは苛立ちが募っていく

 

「クソッ……クソォ!!」

 

ダイは紋章閃を放つ、しかしバーンに軽く弾かれてしまう

 

「クッソォォォ!!」

 

今のままでもダイは充分に強いと言える

 

頂点の次点、幽香達と善戦出来る程度には力はあるのだ

 

ただそれだけでは全く足らないのだ、相手はバーンなのだから

 

 

 

「海波斬ッ!!」

 

最速の剣技、容易く見切られ空を斬る

 

「大地斬ッ!!」

 

剛の一閃、避けるまでもなくまた無防備に受けてダメージは無い

 

「空裂斬ッ!!」

 

心眼すら無き竜闘気砲、虫を払うように弾かれる

 

「ちくしょう……!なら……これはどうだぁ!」

 

剣を逆手に持ち奥義の構え

 

「……」

 

「アバン……ストラァァァッシュ!!」

 

アバン流の奥義一閃

 

「……まだわからんのか」

 

それは一指にて止められていた

 

「クソッ……!チクショウ!!」

 

「……」

 

血走る眼で飛び退いたダイをバーンは見つめる

 

「濁っただけではないな、その憎悪にも原因があるか……それは余にだろうが余の何に対してだ?」

 

問うもダイは答えない

 

「があああああっ!!」

 

剣をリングに突き刺し両手を重ねる、その指が折れ開きその形は竜の口を模す

 

 

「ドルオーラァァァァ!!」

 

 

それは竜の騎士最強の呪文、絶対防御不能の呪文とされる破壊呪文

 

「……」

 

それをバーンは受けた、大爆発が巻き起こる

 

「フゥー……フゥー……!!」

 

更にダイは剣を抜き掲げる、雷が剣に落ち雷光を帯びた剣を逆手に構え爆煙に突っ込む

 

 

「ギガァ……ストラァァァッシュ!!」

 

 

破壊力では一位二位を誇る父の必殺剣と師の奥義を合わせた魔法剣を放った

 

 

ガウンッ!

 

 

衝撃が爆煙を吹き飛ばす

 

 

「……無駄だ」

 

姿が見えたバーンに傷は無かった、ドルオーラもギガストラッシュも佇むバーンに何の痛痒すら与えていなかった

 

「……ッッ!!?」

 

ダイはギリギリと歯噛みバーンを睨み付ける

 

「不様なものだ……半端に堕ちるからその体たらくなのだ」

 

バーンはダイの胸に手をかざし、宣言した

 

「魔符「闘魔滅砕砲」!!」

 

暗黒闘気のレーザーがダイを飲み込み吹き飛ばした

 

 

 

 

『怒涛の攻撃を繰り出すダイ選手ーッ!!しかしバーン選手苦も無く全てを受け止め強烈な一撃を返したーッ!どうした勇者!?大魔王に勝ったのは嘘だったのかー!?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおい……文の言ってる通りホントにバーンを倒した事あんのかよアレ?酷過ぎんだろ」

 

「そうね……」

 

魔理沙が呟きパチュリーが肯定する

 

「ロラン……」

 

「ああ……本気を出してないにしても弱過ぎる」

 

平行の存在である魔勇者ダイと戦った事のある妹紅とロランの二人の意見は一致する

 

「どの技もキレが無い、本来の威力の半分程しか出てないんじゃないかな……そうじゃなければバーンだってあんな楽に受けれる筈がない」

 

「だよな……やっぱり迷い、か?」

 

「堕ちきれていない、が正しいかもしれない、最後を踏み留まっている……それが迷いか」

 

神妙に見守る二人

 

(少し違うわ)

 

その横でレミリアが否定する

 

(バーンの存在が踏み留めているのよ、最後の一歩を……迷いとはバーンに対する歪な想い、だから勇者はあんな顔を見せる)

 

内心で呟く

 

(あんな……裏切られた子どものような……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……うぅ……」

 

結界に叩き付けられ落ちたダイがよろよろと立ち上がる

 

「手加減はしてある、まさか終わりとは言うまい?さっさと戻って来い」

 

「……ッ!?」

 

バーンの言葉に反応しダイはリングに飛び戻り睨み付ける

 

「いくら闘いの遺伝子が機能せずとも敵わぬのは理解しただろう?そろそろ竜の騎士の真の力を見せてみよ」

 

「……ッッ!?」

 

ダイの髪がざわつく

 

「後悔……するなよ……!!」

 

ダイが竜闘気を全開にして集中すると額に竜の騎士の紋章が強く浮かび上がり髪が逆立つ

 

 

ドンッ!

 

 

竜闘気が爆発的に増大し双竜紋の全ての力が解放される

 

「……獣……化物……か」

 

バーンは呟く

 

「そうだ……お前以上の……な!!」

 

竜魔人、竜の騎士の最大戦闘形態

 

二つの竜の紋章の力が最大限に発揮された歴代の竜の騎士の誰もが持ち得ないダイだけの力、異端の超騎士の全力

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレが……!?」

 

一行が目を見張る

 

「ダイが言ってた、竜魔人……ってやつか……!!」

 

「何て荒々しい竜闘気……まるで暴風……」

 

「これが……ダイの本気か……!」

 

本人から話は聞いていたが直接見るのは初めてだった、故にその爆発的な戦闘力の増大に驚愕している

 

「スゴイよ!バーンだって楽勝で倒せるに決まってる!」

 

「ああ……確かにスゲェな、いやでもよ……」

 

喜ぶチウと何かに気付き見つめるヒム

 

「「「……」」」

 

「どうしたお前達?そんな顔をして?」

 

ヒュンケル、ラーハルト、ポップの三人が苦い顔で見つめているのにクロコダインが気付く

 

「お前はどう思うラーハルト?」

 

「……俺からは言えん」

 

「オメェ等もわかってんだな……ヒムもか」

 

「何だ!?何だと言うんだヒュンケル!ラーハルト!ポップ!」

 

意味深な会話をする三人にクロコダインが不安を表すように怒鳴る

 

「……見てればわかるさ、おっさん」

 

不安に変わった一行は二人を見つめる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

その因縁深き姿を見てもバーンは動じる事は無かった

 

(見てられんな……)

 

寧ろ抱くのは哀れみ

 

哀れが過ぎて目線すら逸らされる

 

「オレは……お前を許さない!!」

 

凄まじい竜闘気を剣に込め斬りかかる、それだけでギガストラッシュを越える威力を竜魔人のダイは出せる

 

 

ドンッ!!

 

 

ギガストラッシュの時より激しい衝撃が広がる

 

「……一つ聞きたい」

 

バーンが口を開いた

 

「なっ……!?」

 

置かれていた手刀に止められている剣を驚愕する顔で見るダイにバーンは言う

 

「この程度で余が後悔すると……本気で思っていたのか?」

 

竜の爪は王には届いていなかった、バーンが正気を疑う眼差しで見下している

 

「ッ!?」

 

空いた片手で殴打を繰り出す

 

「……答えろダイ、何が貴様をそこまで駆り立てる?その根源は何だ?」

 

バーンの顔面に当たるが打撃痕すら付けられない

 

「~~~ッ!?」

 

「答えられんのなら……」

 

剣を握る腕を掴み持ち上げる

 

「があ……あっ!?」

 

凄まじい力で握られ痛みに喘ぐダイをバーンは殴った

 

「このまま死ぬか……?」

 

殴られたダイがリングに衝突し破壊し突き抜ける

 

「がはっ!?」

 

結界に叩き付けられ衝撃に身悶えた

 

「……クソッ!クソッチクショウ!!」

 

それでも尚ダイはバーンを睨み付け、斬りかかる

 

「懲りぬ奴よ」

 

その竜の一閃はまた手刀で防がれる

 

「何でお前だけ……!!」

 

「ふん……どうやらその辺りに答えがありそうだな、よかろう……何度でも捻ってやろう」

 

バーンの口角は吊り上がり眼前のダイへ告げる

 

「自ら囀りたくなるまで……な」

 

(よこしま)な笑みで王は勇者を見下す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遂に火蓋を切った最終戦

 

勇者と大魔王

 

この戦いは因縁にして必然

 

闇に堕ちる勇者に憤る王が何を語るのかは王のみぞ知る

 

 

結果に是非は問わず

 

そう王が言った通り勇者の行く末は人魔どちらでも構わない

 

 

 

それでも……魂底で王が望む姿とは……やはり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく辿り着きました最終戦。
ダイの相手はそれはもう当然!バーン様でしょう!

この因縁の対決再びをメインにそこに至らせる為逆算して描いた外伝、多量の肉付けもありながらもようやく実現しました。

もう少しお付き合い頂けたら幸いです。

次回も頑張ります!

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