東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第7話 陽の記憶

 

 

大魔宮・天魔の塔

 

「……」

 

ソルと別れ謁見の間から出ていたガルヴァスは階段を下っていた

 

「……ふっ」

 

その顔に嬉しさを滲ませて

 

(ソル様が笑われた……最後に幻魔王を討って以来、何にも興味を示さずただ日々を過ごしていたソル様が笑われた)

 

主に尽くせれた事が嬉しくて笑うのだ

 

ガルヴァスもまたミストと同じく絶対の忠誠を誓った者だったから

 

 

「ガルヴァス様!」

 

 

そこへ下から駆け上がってくる二人の者達が居た、ザングレイとダブルドーラだ

 

「傷が酷いな……まぁいい、ちょうどよかった、今回の被害を報告しろ」

 

「……はっ」

 

二人はまず言いたい事があったが押さえて報告を優先する

 

「陽動に使った200の内、70が戦死、110が重軽傷です」

 

「……それだけではあるまい?」

 

「はい、紅魔館へ差し向けた50は全滅です」

 

「……全滅とはな、しかしよくやってくれた」

 

「そして……デスカールとメネロ、更に紅魔館へ向かったブレーガンが戦死しました」

 

「……なに?」

 

最後の報告に顔が引き吊った

 

「報告によるとデスカールは鬼に、メネロは緑髪の妖怪にやられブレーガンは紫の魔法使いにより跡形も無く消滅したと……」

 

暫し目を閉じる

 

(まだ前哨戦だというのに散ったか……馬鹿者が……しかし、戦いの果てに死ねたのなら、お前達は……)

 

3人の顔を思い出す

 

「……そうか、わかった」

 

ガルヴァスは二人の傍を通り過ぎて行こうとする

 

「怒らないのですかガルヴァス様!?数百年も一緒に居た仲間ではなかったのですか!?」

 

ザングレイが怒り壁を殴る

 

「……我等の理念は純粋な戦いだ、倒した敵を褒めこそすれど負けた奴等の仇に燃えるのは違う、そうだろうが?」

 

「しかし……!」

 

納得がいかないザングレイが尚も言おうとするがダブルドーラに止められ耳打ちをする

 

「よせザングレイ、ガルヴァス様は何も感じていない訳ではない……よく見てみろ」

 

「……!」

 

ザングレイがよく見てみるとガルヴァスのマントが小刻みに震えているのを見つけた、おそらく拳を握り締めているのだろう

 

「魔軍司令の立場もあるのだ……そうガルヴァス様を困らせるな」

 

「……わかった……申し訳ありませんガルヴァス様」

 

一番苦しいのはガルヴァスだと知りザングレイは矛を納める

 

「すまんな……軍を預かる身分になると勝手は出来ん、この想いは戦場にて出そう……奴等の分まで……な」

 

先に降りていこうと歩を進めるガルヴァスだったがダブルドーラに呼び止められた

 

「お待ちをガルヴァス様……」

 

「どうした?まだ何かあるのか?」

 

ガルヴァスに問われたダブルドーラは暫し黙り思い出したザングレイがハッとした後に困った顔を見せた

 

「侵入者が現れました……」

 

「何?またか?」

 

「ええ……信じがたいですが……」

 

「幻想郷の者か?」

 

「そう言っております、が……」

 

「始末すれば良いだけの話ではないのか?どうした?」

 

困る事情があるのだと察したガルヴァスが聞く

 

「それが……戦いに来たのではなく話に来たと……それで我等が軍の長に会わせろと言っているのです」

 

「……どういう事だ?」

 

攻める戦地から話合いに来たとの事がガルヴァスを困惑させる

 

つい先程まで幻想郷から刺客が来たばかりで今度は話合いに来たと言うのだから当然だろう

 

(わからん……ミストを潜入させるくらいなのだからバーンの指示なのは確実だろうが……)

 

(だとすればこれは独断か……?幻想郷は一枚岩ではないという事なのか?)

 

思案するガルヴァスはダブルドーラを見る

 

「人数は?」

 

「二人です、気が立った者が襲いかかりましたが強力な神の力で返り討ちに会いました、しかし殺してはいませんし戦う意思は本当に無い様で大人しくしています、現在はキルギルとゼッペルが見ています」

 

「神の力だと……?侵入者は神なのか!?」

 

「左様です、どうしましょうか?殺すのならば如何に神といようが滅する事は可能ですが?」

 

「……」

 

また少し考えるとガルヴァスは進みだした

 

「案内しろ、オレが会う」

 

ダブルドーラとザングレイを連れその場所に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大魔宮・謁見の間

 

「……」

 

今は一人しか居ないその場所で、平行世界のバーンであるソルは片手に持つ酒を眺めていた

 

「……」

 

その目はいつもの空虚ではなくどこか楽し気

 

「……ふふっ」

 

楽し気なのは此度の相手に平行のバーンが居たから

 

(まさか敗れた余が居るとはな……いつから分かれた?くくっ、まさか死の大地での初戦ではあるまい……だとすればやはり勇者共との最終決戦か……)

 

酒を一口飲むと同じ酒なのにいつも以上に美味く感じる

 

(最終決戦……懐かしい……100年以上経った今でも昨日の事の様に思い出せる……)

 

ソルは遠い記憶を思い出していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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  「神の涙が……如何に奇蹟を起こそうとも……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      「今さら……無意味!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    「今が爆発の時だあア───ッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          カッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    その瞬間……!!世界が輝いた!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その直後に天すら揺らす爆発音と衝撃がバーンパレスを大きく揺らした

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッ……」

 

揺れが収まり訪れたその瞬間

 

「フハハ……」

 

押さえきれない喜びが静寂になっていたその空間に溢れる

 

「あ……あぁ……そん……な……」

 

それが勇者達に否応なく知らさせる

 

「フハハハハハ!!」

 

「間に合わなかった……のかよ……!?」

 

力なくその場に座り込んでしまう程に痛感してしまったのだ

 

 

「ハーッハッハッハッ!!!」

 

 

地上が消滅してしまった事を……

 

「ククク……見よ!」

 

バーンが今や地上と成り代わった魔界を指す

 

「あれが魔界だ!その魔界を今……太陽が照らしている!」

 

陽の光という光明を得た魔界を眺め笑みを浮かべる

 

「余は成した……!魔界に太陽を与える偉業を!!」

 

残る右手を天高く掲げ握り締め

 

 

「太陽をこの手にしたのだ……!!!」

 

 

絶望にうちひしがれる勇者達に告げる

 

 

「余の……完全勝利だ!!!」

 

 

ほんの僅かの差

 

六芒に撃ち込まれた黒のコアの最後の1つを凍らせる時に1秒、いや……それにも満たない刹那の時間

 

 

間に合わなかった

 

 

起爆した黒のコアは誘爆しコア自身で描かれた六芒魔方陣により更に増幅され地上を黄金色の閃光で照らし一瞬にして跡形も無く消してしまったのだ

 

「……ちくしょう……!」

 

大魔道士の青年は悔しさの余り涙を流し床を叩く

 

「ダイ君……」

 

姫もその顔に絶望を浮かべ勇者を見ていた

 

「……」

 

勇者は力無くまた倒れ、流れた涙が床を濡らしていた

 

 

 

今まで幾度となく奇蹟を起こして来た勇者達であった

 

 

 

今度も奇蹟は起きた、世界中の心が1つになるという大奇蹟

 

 

 

しかし、起ききらなかった

 

 

 

最後の最後、一番大事な所で奇蹟は途切れたのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そう……余は地上消滅を成し、魔界に太陽を与えた)

 

当時の事を思い出し想いを馳せる

 

(今思えば紙一重だったのかもしれんな……人間の絆の力、確かに脅威だった……だが奇蹟は起きず、余の完全勝利……それが結果であり全てだ)

 

グラスに入る酒を回しフフッと小さく笑い続けられる

 

(もしや向こうの余はここで爆発を阻止され敗北したのか?いや……そうだとしてもその後に勇者達含め全員を皆殺しにした後に再び続行すれば良い話だ……まさか阻止されその後に敗北か?あちらでもダイがあの姿になったならば負けたのも納得がいくが……)

 

酒を飲もうとグラスに口をつけた時、ピタリとグラスは止まった

 

(そう……そうだった、まだあの時点ではまだ完全勝利とは言えなかったのだった)

 

記憶に一番残るあの小さな魔人を思い浮かべ表情を強張らせる

 

(本当に紙一重だったと言えるのはあの後からだ……)

 

記憶の続きが甦る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「実際お前達はよくやった……閃光の様に美しかった」

 

項垂れる勇者達へバーンは言う

 

「だが!ただそれも文字通り一時の輝きに過ぎなかったのだ……大いなる魔の前には奇蹟すら敵わぬ!」

 

感情の高揚を押さえられないと言う様に顔に笑みを浮かべながら

 

「所詮うぬらは流れ星、如何に輝こうと堕ちる運命にあったのだ……!!」

 

全ては終わったのだ

 

地上の消滅、守るべき人間の大虐殺によって……

 

 

「……まだ……だ……!」

 

思ってもいない言葉を聞きバーンは言葉を出した者、勇者へと顔を向ける

 

「何がまだ……なのかな?」

 

終わらせた余裕からかまるで全くの他人に対するような口調でバーンは問う

 

「た……確かに……!地上は……消えてしまった……たくさん人も死んだ……!だけど!」

 

もう満身創痍な体と心を奮い立たせる

 

「まだ……おれ達が生きてる!!」

 

死にかけた魂を僅かな希望で持ち直しまた勇者は立ち上がった

 

「……フッ」

 

それにバーンは鼻で笑った、勇者の言いたい事がわかったのだ

 

「確かにまだ生きているな、うぬら三人と瞳にされた者達など合わせて十数人……その中で女は姫と武道家の二人……フッフッフッ……」

 

バーンから笑いが溢れる、明らかな嘲笑の声だった

 

「愚かな……うぬらでまた再び人間の世を再興しようと言うのか……?ククク……これはなんとも滑稽な……ハハハ……!」

 

勇者は僅かに残った人間でまた人間の世を創ろうとしていたのだ

 

地上は消えてしまったがまだ男女の人間は居るのだから可能と言えば可能だった

 

「いったいどれ程の月日が掛かると思っている?出来たとしてかつての世を創ろうとするなど10や100の年月では到底きかぬぞ?それこそお前が生きている内に叶う事など絶対にあり得ぬ!」

 

だからこそバーンは笑うのだ

 

それがどんなに無謀で愚かなのか理解しているから

 

「うぬらだけなのだぞ?」

 

今やハーフも含め人間は僅か8人、たったそれだけなのだ

 

最初は良いがその後は血が繋がる者達のみの近親相姦、それをしなければ繁栄しない

 

「おぞましいにも程があるわ……!!」

 

失敗するかもしれないのはもちろんの事、仮に成功すれば数百年経った後に居るのは血の繋がる親族のみの世界

 

バーンからすれば狂っている考えだった

 

「……それでもッ!!」

 

それを覚悟している勇者が叫ぶ

 

「もう……それしかないんだァ!!」

 

勇者にはもはやそれしかなかった

 

壊れかけた心と魂を保たせるのは狂気とも言える最後の希望

 

「だから……!その為に……お前を倒す!!」

 

その為ならば自分は死んでも構わない、引き換えにバーンを倒せたのなら希望を繋げられるのだから

 

「ハハハ……ハーッハッハッハッ!!」

 

それがバーンには堪らなく面白い

 

「そこだダイよ……お前の計画は最初にして最大の壁が待ち受けている」

 

声を冷笑に変え鋭く勇者を見下した

 

「余がそんな狂行を見過ごす筈がなかろう」

 

せっかく魔界に太陽を与えたのにその魔界を人間で埋め尽くそうとするなどバーンが許す筈が無い

 

バーンの言う通り勇者の計画は最初に最大の壁が高く立ち塞がっていたのだ

 

「いかに余が傷つき弱っていようがうぬらをこの場で殺す事に何も問題は無い、さぁ……どうするつもりなのだダイ?どのようにして余を倒すつもりなのだ?」

 

問われた勇者はゆっくりと両の拳を上げる

 

「この……双竜紋の力を全開にする……!!」

 

その手の甲には竜の紋章が光を放っていた

 

「フハハハハハッ……!何を言い出すかと思えば……!!」

 

答えを聞きバーンは笑う

 

「では何か?今までは全力では無かったとでも言うのか?力を温存していたとでも?地上破滅を前にしてか?」

 

「ハハハッ!!ガキの絵空事かっ!!!」

 

くだらないと一笑するバーンに勇者は言う

 

受け継がれた紋章の力をセーブしていた事、それを全開すれば爆発的に強くなれるだろう事を

 

「たぶん……竜魔人みたいに……」

 

しかし、そこで勇者に声を掛ける仲間は居なかった

 

「ダイ……」

 

「ダイ……君……」

 

地上が消滅してしまったショックと絶望から動けなかった、親友である大魔道士も好意を抱く姫すらも自らを捨てようとする勇者を虚ろな瞳で見る事しか出来なかった

 

「もはや戦意どころか生気すら稀薄……残念だったなぁ、もし勝てたとしてもあれでは生きれまい、死体と変わらぬ」

 

大魔道士と姫は落とされる事は無かった

 

「さぁどうした?言ったような力が本当にあるなら出してみよ、そんなバカげた力があるなら見てみたいわ……!」

 

「カーッハッハッハッ!!!」

 

勝利の余裕からくる笑い声が高く響く

 

「だったら……だったら見ろよッ……!!」

 

その時、勇者の中で何かが切れた

 

 

「お前だけは……お前だけは絶対に倒す……!!」

 

 

血の色が赤から青に変わる

 

竜の力と魔族の力、そして人間の力、全てが発揮された時

 

二つの紋章は一つになり再び勇者の額で輝き始めた!

 

 

 

「ば……化物……め!!?」

 

 

「その通りだバーン……お前以上のなっ……!!」

 

 

 

勝利した大魔王と敗北した勇者が成った竜魔人の戦いが始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(それからの戦いはまさに死闘だった……)

 

酒を置き頬杖を着いてソルはあの戦いを振り返る

 

(竜魔人となったダイに余は打ちのめされた、あの力はまさに全てを捨てたからこそ至れた刹那の魔獣……あのままでは五体満足と言えど勝てはしなかった)

 

若かりし全盛期の頃の肉体を戻した真の力でも魔獣となった勇者にはソルも敵わなかった

 

(負ければせっかくの勝利が無意味になる、後の事を考えれば余は死ぬわけにはいかなかった……)

 

ソルの表情が曇る

 

(だから余は解放した、鬼眼の力を……)

 

今となっては解決し気にならない事であるが当時からすればそれをするのは禁断の行為、当時の心境を思い出し眉をひそめた

 

(割れたパレスの破片が上空に舞い上がり、鬼眼の力が途絶え瞳から解放された勇者の仲間達が見上げる宇宙の中……最終決戦は行われた)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         ギィン……

 

 

 

 

 

 

 

 

地上が消滅した此処でもどこからともなく飛来し、勇者に力を貸した父からの真魔剛竜剣が無慈悲にもその刀身を割った

 

 

 

 

 

 

 

        ドギャアッ!!

 

 

 

 

 

 

 

鬼眼王と化したバーンの右腕が勇者を打つ

 

 

剣が折れ、万策尽きた勇者はそれでも諦めず効かなかったドルオーラを放とうと構えようとするが察知され右腕に捕まえられる

 

 

「ファッハッハッハッ!!」

 

 

その身を握り潰さんと同じく魔獣の腕に力を込める、勇者が激痛に血を吐く

 

「砕け散れぇぇぇ!ダイィィィィィ!!」

 

身を圧迫する異常な力、竜魔人となった肉体がミシミシと音を立てて悲鳴をあげる

 

「ウア……ア……ァ……」

 

最後のチャンスでもあった真魔剛竜剣が折れた今もう打つ手が無い

 

勇者の心に諦めが侵食し力が抜けていく

 

「……!!」

 

その時思い出した

 

親友の大魔道士が地上が消滅する前に言っていた言葉

 

結果が見えてたって一生懸命に生き抜くと言う……

 

 

閃光のような生き様を!!

 

 

「ッッッ!!!」

 

 

声にならない咆哮をあげ満身創痍の体に力を込める

 

そう、まだ諦めるわけにはいかない

 

バーンを倒せばまだ可能性は有る

 

その為なら自分は太陽になってみんなを天空から照らす……

 

 

「……ウオオオオオオッ!!」

 

 

その時、同時に見てしまった

 

「……!!?」

 

宇宙から見える地上、いや、今や地上となっている魔界を……

 

「あ……」

 

一瞬の動揺が出来た

 

照らすべきみんなも、地上も無くなっていた事を思い出し

 

 

一瞬……ほんの一瞬だけ……

 

 

閃光のような力が止まった

 

 

 

 

 

 

 

 

         グシャ……

 

 

 

 

 

 

 

それは果たされた

 

「……どうだッ!!」

 

力無くだらりと腕の中で倒れる勇者をバーンは睨む

 

「ムッ?」

 

左の心臓に刺さる勇者の剣に付いている宝玉が光を急速に失っていき、僅かに灯る光だけになるとバーンの魔力に引き抜かれ魔界へ落ちていく

 

「……勝った……!!」

 

動かない勇者を手に叫ぶ

 

「フハハハハハ!!アーッハッハッハッ!!ハァーッハッハッハッ!!」

 

今度こそ勝利したのだと

 

「ククク……」

 

後はこの腕にほんの少し力を入れて瀕死の勇者を握り潰し肉塊に変え消し去るのみ

 

「……」

 

だがそれをせず勇者を見つめる

 

「……フフッ」

 

愉快気に笑うと半壊したパレスへと降りていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったぞ」

 

パレスに降り立ったバーンは勇者を仲間達の前に捨てる

 

「ダ……ダイ……」

 

敗北した勇者を見て涙を流す仲間達

 

「悲劇の上塗りだな……ククク……」

 

ズンとその巨体を仲間達へ進ませる

 

「殺せよ……」

 

大魔道士は言う

 

勇気の象徴である彼も諦めていた

 

「もとよりそのつもりだ」

 

鬼眼に力を込めバーンは応えた

 

「うぬらで最後だ……これをもって余の完全なる勝利だ、さらばだ余を苦しめた者達よ」

 

解き放たれた鬼眼の波動は残る全てを粉々に吹き飛ばした……

 

 

「今ここに……魔の時代来る!!」

 

 

生涯で一番強かった者を背に

 

 

大魔王は勝利を手にしたのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふっ……」

 

勝利の美酒だと言わんばかりにまた酒を飲み想いを走らせる

 

(勝利を納めた余だったがその後にも問題は有った……神々が手を打つ前に天界に攻め入り制圧する必要があったからだ……勝利の余韻に浸る間も無く余は戦いの準備を始めた)

 

(しかし……そこに現れたのはキルバーン、ピロロと共に余を黒のコアで抹殺しようと現れたのだ)

 

そこでまた小さくソルは笑う

 

(余がヴェルザー程度の考えが読めぬと思うか……地上が消滅した今、征服の場所を失い魔界のみとなったのなら邪魔になるのは余……そうくるだろうとはわかっていたのだ)

 

(キルバーンを鬼眼王の魔力で押さえ込み本物のキルバーンであるピロロを処刑し余の邪魔をする者は全て排除した)

 

立ち上がり外へ続く出口からベランダへ出て魔界を見下ろす

 

(その直後だったな……こちらのハドラーによって魔界にて戦力増強の任務を与えられ厄介払いをされていたガルヴァスが戻ってきたのは……)

 

(それすらも余に味方した……幸運な事にガルヴァスがヴェルザー軍以外の魔物をかなり引き入れていたお陰ですぐさま天界に攻め入る事が出来た)

 

(それでもかなりの抵抗をされたが今となっては取るに足らぬ、神を超えし余の力に敵わず神々は次々と死んでいき……全ての神の抹殺が完了した)

 

太陽が照らす魔界

 

不毛だった大地は緑に溢れ、消した地上と何ら変わらない景色を作っている

 

(余の願いは完全に果たされた……神々の愚行を余が償ったのだ!)

 

思わず拳を作る程にそれはソルにとって大事な事だったのだ

 

(それからだったか……ガルヴァスが魔界に太陽を与えた余を称え太陽神(ソル)と呼ぶようになり浸透したのは……)

 

地上と人を消し、神を討ち、真の意味で魔界の神となったのがソルの過去であり敗北したバーンとは決定的な違いだった

 

(世界を平定し終えた余はこれからをどうするか考えていた……静かな余生を過ごすのも有りだとも思っていた……そんな折りに……)

 

忘れもしないあの時を思い出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ソル様」

 

「何か用かガルヴァス?」

 

補修され、鬼眼王の巨大な体に合わせて改修されたパレスの謁見の間でガルヴァスはソルと会っていた

 

「御体は如何でしょう?」

 

「うむ、傷も癒えたところだ、長かった戦いも終わり……魔界は真の自由を得た、これを機に軍を解体し太陽が射すここで余生を過ごすのも悪くないのではと思っておる」

 

「ふふっ……ご冗談を……」

 

「……」

 

ガルヴァスの言葉と笑みにソルに何か嫌なものを感じさせた

 

「……何の用だ?」

 

「はっ……魔王軍の総意を伝えに参りました」

 

「……言ってみよ」

 

「「準備は出来ております!」です」

 

それを聞いたソルはガルヴァスから目を逸らした

 

「……それが総意か」

 

「はっ、今や非戦闘員を除いた魔界全てを配下にした魔王軍の1名を除いた総意になります」

 

「そうか……」

 

ソルは今、痛烈にそれを実感していた

 

(……所詮は余だけが望んだ事だ、何も知らぬ者達にはどうでもよい事か……)

 

軍を作ったのはソルが目的を達成する道具に過ぎなかった、だからそれはソルだけが望み話さなかったから軍の活動目的はハドラーの頃より世界征服のままだった

 

「戦いを望むかお前達は……」

 

ソルは魔界に太陽を与え、それを永劫続かせる為に人と神を消した

 

しかし何も知らない軍の者は世界征服と思っていたのだ

 

征服を成した今、軍の意思は更なる場所を求め増長していったのだ

 

終わったと思っていたのは自分だけで他はまだ終わっておらず更に先を欲していたのだ

 

「それがお前達の意思ならば……よかろう」

 

ソルは決心した

 

「全軍に通達せよ、これより異界へと攻め入る!」

 

己の野望を果たす為に使ったのなら次は余が返す番……

 

 

誰にも理解されずに太陽神はその力を使う事を決めたのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(その後に戦地を異世界に広げ魔王軍は戦った……)

 

虚しい瞳が魔界を見下ろす

 

(鬼眼王の魔力で強引に異世界への扉を開けて向かった最初の戦地……そこは後に創造の神となる大魔王が暗躍する王の庭だった)

 

(そこで侵略を広げていく内にある村で英雄を討ち、英雄を恨んでいたグレイツェルが軍に入った)

 

(更に途中、変わり果てた帝王を捩じ伏せ、その際に大いなる闇の根源に触れた事により余は鬼眼王から形態を戻す事が可能となり更なる侵略を進めた……)

 

(創造の軍を殲滅し王と対峙、勝利を納めた余は魔勇者を改造していたキルギルを傘下に加えキルギルが異世界へと渡る魔法機械を作製した事により労する事無く次へ)

 

(……そしてまた次の戦地……更に次の戦地へ……魔界の意思が望むままに戦いを続けた……)

 

ソルは目を閉じる

 

(戦いの度に消耗、接収を繰り返す内に魔王軍はいつしか妙な理念を掲げるようになり変質した……己の力で正々堂々と戦う戦闘集団へと変わったのだ、そう……戦いだけを求め始めたのだ……)

 

多くの戦いがあった

 

創造の大魔王から始まり天を覇した大魔王、現夢を束ねし幻の王

 

中には取るに足らず途中で退いた世界もいくつもある

 

(果て無き戦いの輪廻……いつ終わるのだ……)

 

そして今に至る……

 

(……敗北したあちらの余……負けてなお生き永らえ無様を晒す貴様は唾棄すべき負け犬ではある……)

 

存在だけ感じ想いを馳せる

 

「先程は笑ったが……余は少々、貴様が……」

 

それから先の言葉は出なかった、それを口にしてはいけないとわかっているから止めた

 

(……余は逃げる訳にはいかぬ……それが付き合わせた余の背負うべき責任であり……)

 

だからその言葉を踏まえてソルは己に言い聞かせる

 

(それが……魔界の……)

 

空虚を胸にソルは身を翻し謁見の間へ戻って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・図書館

 

「あぅぅ……美鈴さん寝てたから食べてくれませんでしたぁ……」

 

しょんぼりしながらルナが入ってくる

 

「残念だったわね、でもちゃんと声はかけたんでしょ?」

 

「はい!早く元気になぁれ!っておまじないもかけてきました!涙のどんぐりは起きた時に食べれるように置いてきました!」

 

「そう、ならすぐ良くなるわ、お疲れ様ルナ」

 

「はいっ!!」

 

パチュリーにそう言われて嬉しそうに笑顔を見せるルナ

 

「妹紅さんどこに行ったんでしょうね……」

 

それを見ていた大妖精が呟いた

 

「わかんねぇけどよ……絶対あいつは生きてるよ」

 

魔理沙は言う

 

「そうね……実はとても近くに居る……そんな気がするわ」

 

ルナを見ながらレミリアが言う

 

(妹紅……今お前は何処に居るのだ……)

 

バーンも想いを飛ばす

 

 

そんな時だった

 

 

「邪魔をする」

 

壊れた図書館のドアから神奈子、諏訪子、早苗の守矢の3人が入ってきた

 

「あら神奈子……ここに来るなんて珍しいじゃない、という事は何かあったのかしら?」

 

「お前も来ていたのね紫、ちょうどいいわ……良い知らせと悪い知らせが有るけどどちらから聞きたい?」

 

「良い方から聞かせてちょうだい」

 

「地獄が閉鎖されて魂が利用される事は無くなったわ」

 

「なるほど、確かにそれは良い事ね……それで悪い方は?」

 

難しそうな顔でしかめた神奈子は話し出す

 

「地獄と無名の神が姿を消しているのよ」

 

それを聞いた皆はミストとウォルター、そしてバーンを除いて神奈子達と同じく顔をしかめた

 

「このタイミングで、ねぇ……」

 

レミリアが不安気に頬杖をつく

 

「地獄と無名の神か……余は知らぬ……が、その様子では相当良からぬ事態なのだろうな」

 

バーンの言葉に相槌を打った魔理沙が話し出す

 

「お前が最初に消えた後の事だぜ、月の都が襲撃されるなんていう異変が起きたんだ」

 

「その主犯がその神か」

 

「そっ、私と霊夢と早苗に鈴仙がその神様を倒して解決したんだぜ、まだ今みたいに強くなかったからかなり苦戦したなぁ……スペルカードルールなんてその頃には宣言するだけで有って無いようなもんでただの殺し合いだったし神奈子の時みたいに本気出してなかったし」

 

「……だが解決したのなら何故そんなに不安にかられる?」

 

「あー……それはなぁ……」

 

歯切れ悪く目を逸らす魔理沙に変わり神奈子が答えた

 

「あの二人が月の都を襲撃した理由が恨みだったからよ」

 

「恨みか、なるほど……」

 

「月の女神であり月の民でもあったある者に異常な恨みを持って攻撃をしていたのよ、4人の活躍で戦意は消失してその場は退いて解決となったけど……」

 

「おおよそ理解出来た、そこまでの恨みがそう簡単に消える事など有り得ぬ……数千年に渡り神々を憎んでいた余にはよくわかる」

 

「そう……退き際に言っていたらしいわ、「暫くは襲撃しない」と……」

 

「そういう事か、襲撃しないとは言っていないし暫くなど己の匙加減で決まる、逃げ道を作っていたのか……それでお前達は不安なのか」

 

「理解が早くて助かる、そうよ……いつ襲撃するかわからない爆弾の二人が今このタイミングで消えたのが不安の種なのよ」

 

図書館に不安だけが充満していく

 

「……その神の名と詳細を教えろ、知っておくに越した事はない」

 

幻想郷から僅かに感じる不穏

 

「名は……」

 

備える事しか出来なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大魔宮・謁見の間

 

「……」

 

ソルは来訪者を睨んでいた

 

「余がソルだ、話があるとの事だが何用だ?幻想の神よ……?」

 

その目は油断無く冷徹に二人を射ぬいている

 

「ええ、折り入って提案に参りました、互いに悪い話ではないと思いますよ」

 

不適な笑みを浮かべる無名の神

 

「無礼な……先に名くらい名乗るのが礼儀ではないのか?」

 

「これは失礼を……私は純狐、そしてこちらは私の神友のヘカーティア・ラピスラズリ」

 

「初めまして~!」

 

丁寧に礼をする純狐と軽く会釈するヘカーティア

 

「話をしてもよろしいでしょうか?」

 

「最初に言っておくが聞くだけだ……ガルヴァスの頼みだから聞いてやっている事を努々忘れぬようにせよ、貴様等の首などいつでも刎ねれる事を肝に命じて話せ」

 

「ありがとうございます……」

 

純狐は怨恨で歪みきった邪顔で言う

 

「聞けば貴方は太陽神だとか……」

 

果てる事無き恨みの怨渦

 

「さすれば是非とも貴方様に照らし、輝かせて欲しい場所があります」

 

もはや止まれない、止まる術も知らない、止める気も無い

 

 

「月を献上いたしましょう……」

 

 

王の神話を彩るのは舞台である幻想の郷が抱える無名の闇……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




こ……こんな感じでどうですか?
発想に自信が無い……

・ソルの詳細

○ソル(平行世界のバーン)

勇者に勝利したバーン。
地上を消滅させ魔界に太陽を与える、その後天界に攻め入り神々を討ち世界を平定したソルは余生を魔界で過ごそうとするが魔王軍の総意、つまり魔界の意思を受けて終わりの無い戦いへ身を投じる事になる、その身に空虚を秘めながら……
明言はしてませんが平行のマデサゴーラ、オルゴデミーラ、デスタムーアの三王を破っています。

まだ1日の出来事ですが最後にやっと接触したのでようやく話は進んでいく予定です。

次回も頑張ります!

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