東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 合唱(コーラス) Ⅳ

 

 

 

 

「気が早い奴だな、リングが直るまで待てんとは……俺が譲らせたせいか」

 

勇儀を永琳へ預けたクロコダインが控えスペースへ戻ってきた

 

「おつかれさん、いや……おめでとうがいいかおっさん?」

 

ポップがニヤニヤしながら言う

 

「茶化すな……それより回復してくれ、死にそうだ」

 

クロコダインの腹には勇儀に空けられた風穴が空いている

 

「けーっ!モテる奴は余裕があってよろしゅうございますねぇ!」

 

からかう軽口を叩きながら回復魔法を掛ける

 

「すまんな……む?」

 

回復の途中、クロコダインは皆の空気が悪いのを察する

 

「……何があったポップ?」

 

小声で問われポップは顔をしかめる

 

「ちょっとよ……あったのさ」

 

先程の事を思い出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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それは勇儀がクロコダインへ盛大な告白をした後の事

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん……?どうしたんだよポップ?何かあった?」

 

ジト目で睨んでくるマァムから避難してきたポップへダイは首を傾げた

 

「へぇあ?今のやり取り聞いてなかったのかよダイ?」

 

すぐ近くに居たのに惚けた反応をするダイにポップは眉をひそめる

 

「ごめん、全然聞いてなかったや……ボーッとしてて」

 

「……体調悪いのかお前?」

 

この様子では今のクロコダインと勇儀の事も聞いていないのだろうとわからせる

 

「いや?オレは元気だよ?」

 

普通に答えるダイだがポップの顔は歪む

 

(そうは見えねぇんだよッ!)

 

明らかに平時の時より気力が落ちているのがわかるのだ

 

「……楽しそうだねクロコダイン、いいなぁ」

 

そのダイがリングに立つクロコダインを見た

 

(ッッ!!?なんて……なんて目をしてやがんだお前……!?)

 

その目にポップは恐怖した

 

それは歴戦の戦友であるクロコダインを見る目ではなかったのだ

 

まるで……許せないモノを見るような……そんな魂から底冷えするかのような恐ろしい目だった

 

「ッ~~~おいダイてめ……ッ!?」

 

それに激昂したポップが掴みかかろうとする前にラーハルトが立ち塞がりヒュンケルに止められ引き離される

 

「落ち着けポップ」

 

「っ……すまねぇ、わかってんだけどよ……ついキレちまった」

 

「わかってる、お前がキレなければ俺がキレていた」

 

思いは同じだと言われポップは大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせる

 

「もう大丈夫だ、ありがとよ……見ようぜおっさんの試合をよ」

 

ポップは試合へ目を向ける

 

(もう形振りなんて構ってらんねぇな……)

 

決意を秘めて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……おっさんは気にしなくていいぜ」

 

ポップは言えなかった

 

ダイがクロコダインをそんな目で見ていたなんて事は……

 

「……わかった」

 

そんなポップの意を汲み取ったクロコダインもこれ以上聞かなかった

 

「あーおっさん、俺ちょっと出てくるからよ?ヒムの応援任せていいかい?」

 

「……何処へ行く気だ?」

 

「レミリアんとこさ、大丈夫……変な事じゃねぇよ、けど大事な事なんだ」

 

「……わかった、そっちはお前に任せる、こっちは任せろ」

 

ダイに関しての事だと察したクロコダインは了承する

 

「すまねぇな……じゃ行ってくらぁ」

 

ポップは控えスペースを観客席へ向けて出ていく

 

「頼むぞポップ……」

 

見送ったクロコダインはリングに立つ二人へ視線を向ける……

 

 

 

 

 

 

 

 

『あーえー……幻想郷の次の出場者は風見幽香選手……なのですが……あのこれホントにいいんですか?』

 

ヤバイ妖怪の出場に実況の文も本気で困惑している、まさか出ると思われなかった危険人物を喧嘩腰で指名するなんて思わなかったのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「呼びつけてわりぃな!あんたの話を聞いた時から興味あったんだよ、会えて光栄だぜ風見幽香さんよ!」

 

ようやく会えた噂の主を目の前にしてヒムは不敵な笑みを浮かべている

 

「……」

 

幽香は凍りついた瞳で睨み付けている

 

「無愛想な奴だなあんた、美人なのに勿体無いぜ?」

 

陽気に軽口を叩くヒム

 

(……ヤベェなコイツ)

 

その内心では幽香を見定めていた

 

(隠す気もねぇ強さがビシビシ伝わって来やがる……噂通りとんでもねぇタマだ)

 

幽香から強烈に漂う強さ、さすがに全容までは測れないが少なくとも先の紅美鈴、魂魄妖夢並みの実力であると予測を立てる

 

「あんたその傘武器に使うのか?」

 

「……」

 

幽香は返事を返さない

 

「だんまりかよ……ちっとくれぇ話してくれてもいいだろうがよ」

 

相手の情報を探ったりするつもりはヒムには無く、ただ戦闘前の軽い会話をしたかっただけなのだが無視される

 

「なぁ何か言ってくれよ風見幽香さんよ~」

 

「……ガタガタ煩いのよ、口喧嘩しに来たのか木偶人形」

 

ようやく口を開いた幽香はヒムへ向かって歩いて行く

 

「……まぁそうだわな、試合しに来たんだもんな俺は、確かに話をしに来たんじゃあねぇ」

 

幽香の言い分は最もだとヒムも肩を回し対戦準備を始める

 

「……ん?」

 

幽香は止まらず歩いて来る、そしてヒムの目前でようやく止まった

 

「近過ぎねぇか?こういうのはもっと離れて開始するもんだろ?」

 

手を伸ばせば触れる至近距離まで来た幽香へ暗に離れろと伝える

 

「……バカが」

 

幽香は一言呟いた

 

 

ドギャ!

 

 

ヒムは傘で殴り飛ばされた

 

「もう始まってるのよマヌケ」

 

『あーーー!?まだですよ幽香さんー!?』

 

開始を宣言していない文の声が木霊する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、やっぱやりやがったアイツ」

 

魔理沙が予想通りの顔で言う

 

他の頂点達も大妖精を除いてやはりという顔をしている、慌てているのは大妖精とルナくらい

 

そうなる事はわかっていたのだ

 

「どーすんだレミリア?没収試合か?」

 

「そうねぇ……」

 

主催者のレミリアが対応を考えていると萃香が千鳥足で現れた

 

「やるなら早い方がいいよ~じゃないとあのガキ殺されちまうよ~?生き返れるんだけどさ~」

 

「わかっているわ萃香」

 

レミリアは文へ指示を飛ばしマイクを届けさせる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てめぇ……いきなり何しやがる!」

 

壁まで飛ばされ叩きつけられたヒムが怒りの抗議をするも幽香は何の負い目も無い涼しい顔をしている

 

「ガタガタ抜かしてないでさっさとかかって来い木偶人形、私とやりたかったんだろうが?すぐにガラクタにしてやる」

 

むしろ煽っている

 

「上等だてめぇ……後悔させてやるぜ!」

 

キレたヒムがリングに戻る

 

 

『少し動くな二人共』

 

 

二人が見上げるとレミリアが二人を威圧していた

 

『まず今の開始を待たずに攻撃した行為について言っておくわね、問題無しとするわ』

 

「はぁ?おかしいだろうがよ」

 

ヒムが納得いかない顔をする

 

『黙れ小僧』

 

一蹴するレミリアの雰囲気に圧倒されヒムは黙らされる

 

『ヒムだったわねお前……幽香を喧嘩腰で指名するという事はこうなって当然、それが幻想郷の共通認識なのよ、つまり悪いのはお前だ、知っていてやったんだからな……そこまでとは思わなかったも通らない』

 

「……ぐっ」

 

ヒムは言い返せなかった、何故なら幽香が恐ろしいなんて事はわかっていたのだ、それを利用して引き摺り出したヒムに文句が言える筈も無い

 

『そして幽香を舐めるという行為は命を捨てる覚悟が有ると見なされる、わかるか?お前は自ら望んでルールに縛られない戦場に立ったんだよ』

 

幽香が選手として自らの意思で出るならばルールは守るだろう、それくらいの分別は幽香は当然出来る

 

だが喧嘩を売るとなると話しは変わるのだ、おそらく幻想郷の誰よりもプライドの高い幽香へ喧嘩を売るという行為はそういう事なのだ

 

『お前が理解してそれでもやりたいなら止めはしない、だが殺されても文句は言わさない……どうする?』

 

「……」

 

問われたヒムは考えている、ビビっているのではなく自分の浅い言葉、考えを戒めていた

 

「構わねぇ、やらせてくれ」

 

『良いだろう、死ぬなよ』

 

覚悟の決まった顔にレミリアも微笑む

 

この瞬間、四戦目に限りルールの無用が決定した

 

『幽香』

 

「……何よ」

 

不機嫌に睨む幽香へレミリアは言った

 

『殺すなよ、なるべくで良い』

 

「ちっ……善処するわ」

 

余計な事をと睨むも幽香は小さく頷いた

 

 

 

 

 

 

 

「落としどころはこんなところでしょう」

 

文にマイクを返し席に戻ってきたレミリアを皆が迎える

 

「まぁな、皆の知らないとこで殺した殺されたされるよか良いだろ、拗れねぇかんな」

 

席に座ろうとするレミリアに咲夜が傍に来て耳打ちする

 

「失礼しますお嬢様、ポップ様が来ています、八雲紫を呼んで欲しいと言っていますがどうしましょうか?」

 

「ポップが……?わかったわ、空いてる部屋へ向かわせときなさい、すぐに行くわ」

 

頷いた咲夜が時を操り消えた後、レミリアは魔力を纏った指を鳴らすとスキマが開き紫が顔を出す

 

「付き合いなさい」

 

頷く紫

 

「試合が終わるまでに私が帰って来なかった場合の判断は貴方達に任せるわ、よろしくね」

 

「あいよ、任せとけ」

 

他の頂点達が了承したのを見た二人はスキマの中へ消えて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とんでもない事態になったなヒュンケル」

 

「ああ……アイツが悪いとは言え危ういところだった、助けられた形になった」

 

クロコダインとヒュンケルが不穏な場を見ながら言葉を交わす

 

「マズイと思えば俺は行くぞ、いいな?」

 

「その時は俺も行く」

 

最悪に備えいつでもヒム、または幽香を助ける準備をしながら見守る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「悪かったな風見幽香、俺ぁお前がどんな奴か気になってただけでよ、一応謝っとく」

 

見通しが甘過ぎて大事になってしまった事をヒムは謝罪するも幽香は鬱陶しそうに溜め息を吐く

 

「ベラベラといつまで喋る気だ木偶」

 

理由など最早どうでもいい幽香がヒムへ飛び込み傘を叩きつけた

 

「……そうだったな、とっくに始まってたんだったよな」

 

傘を腕で受けたヒムが不敵な笑みを浮かべている

 

(……固い、最初の一発も効いてない)

 

全身オリハルコンの肉体の堅牢さを幽香は肌で感じ、笑みを浮かべるヒムに苛立ちを覚える

 

「もう油断はしねぇ……」

 

ヒムの言葉は言い切る前に途切れた、幽香に殴り飛ばされたのだ

 

「効かねぇな」

 

だがダメージは無い、神の金属オリハルコンの肉体が成す異常な防御力が攻撃を通さない

 

(それに重い……金属なだけあるみたいね)

 

全身オリハルコン故に見た目以上の重さがある、クロコダインよりも重いだろう

 

「フン……どこまで持つか見物ね」

 

好戦的な笑みを浮かべる幽香は傘を構え弾幕を放つ

 

「んなちゃちなモンが……効くかよぉ!」

 

弾幕に突進するヒム、弾幕が被弾するもダメージは無く突き進む

 

ドギャ!

 

弾幕と同時に飛び込んでいた幽香に傘で殴られる

 

「そいつも効かねぇ……ぐあっ!?」

 

頭を傘で殴られリングに這いつくばらせられる

 

「……」

 

無言でそのまま傘で何度も叩き続ける幽香

 

「フン……」

 

最後に蹴り飛ばしレーザーを放つ、着弾したレーザーは爆発を起こす

 

「チッ、メチャクチャやりやがる……」

 

粉塵からヒムが出てくる、ダメージは無い

 

「大したのは固さと口だけか」

 

ヒムが見えた瞬間には飛び込んでいた幽香の傘が顔を突き、怯んだヒムを滅多打ちにする

 

「……調子乗り過ぎだぜてめぇ!」

 

傘を掴み反撃の左拳を繰り出すヒム

 

「そう思うのはお前が弱過ぎるからだとわからないのか……哀れなガラクタねお前」

 

左拳より早く幽香の拳が炸裂する

 

「うがっ!?」

 

足を払い倒したヒムの背を傘で押さえ幽香はヒムの後頭部をこれでもかと何度も踏みつける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁ……えげつなぁ……」

 

「死んだなアイツ……南無南無」

 

命蓮寺の一行が幽香が見せる無慈悲な光景にドン引きしている

 

「……」

 

そんな中で白蓮だけは真っ直ぐ二人を見つめていた

 

(一見すれば風見幽香が圧倒している様に見えますがその実、ヒムさんにダメージは無い……私にはよくわかります)

 

大魔王の影として対峙した事のある白蓮は幽香の攻撃は意味をなしていないと見抜いている

 

(風見幽香もそれはわかっている筈……おそらく屈辱を与えているのでしょう、自らを舐めた事へ対する報いとして……)

 

幽香を知るからこそわかる、幽香はまだ本気を出していない、まだこれで優しい方なのだと

 

(ここからですよヒムさん……幻想郷に咲く恐怖の花、誇り高き花の大妖怪へ本気で挑むのなら……ここからです)

 

打ちのめされるヒムへ期待の眼差しを贈る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うがぁ!」

 

背へ拳を振り回し幽香を払い退ける

 

「がっ!?」

 

立ち上がろうとする瞬間に首を傘で殴られまたリングに叩きつけられる

 

「……」

 

次は片手と背を踏みつけ傘を頭へ何度も叩き込む

 

(な、何て容赦の無さだこいつ……俺じゃなきゃとっくに死んでるぞ)

 

普通の人間なら既に10人以上は撲殺しているだろう無慈悲な攻撃に恐怖を感じる

 

「ふん……」

 

固さを面倒がった幽香が傘をリングに刺しヒムを押さえたまま手でもう片方を掴み逆間接へ曲げ始めた

 

「達磨への一歩よ木偶人形」

 

ギギギと金属特有の音が響く

 

「舐めん……なぁ!」

 

「!?」

 

ヒムの腕が徐々に戻っていく

 

「……オラァ!!」

 

一気に戻した勢いで幽香を振り飛ばし立ち上がる

 

「好き勝手やりやがって!」

 

「……はぁ」

 

突っ込んで来るヒムに幽香は呆れたような溜め息を吐き手をかざしヒムを飲み込むレーザーを放つ

 

「うおらあああああッ!」

 

突き進んで来るヒム

 

「チッ……イライラするわねこいつ」

 

固さに苛立ちを感じる幽香

 

「今度こそ捕まえ……!」

 

レーザーを射つ腕を掴もうとするヒムはまたしても殴られる

 

「死ね」

 

今までより更に強い力で殴り金属を強い力で殴った音が響く

 

「……痛くねぇのか?」

 

「……」

 

効いていないヒムが問うと幽香の裂けた拳から血が流れる

 

「黙って死ね」

 

そんな事は気にもせず幽香は殴り続ける、衝撃音が鳴り続ける

 

「……オラァ!」

 

幽香は打ち飛ばされた

 

「ようやく一発か……割に合わねぇな」

 

ついにヒムの拳が幽香を捉えたのだ

 

「……殺す」

 

そのやっとだがやってやった顔が癇に障った幽香の額に青筋が浮かび妖力が上昇、髪がざわつく

 

「ぐがっ!?」

 

凄まじい勢いで飛び込んで来た幽香に殴られ腹部を滅多打ちにされる

 

(ヤベェ……なんて威力してやがんだこのイカれ女!意識を集中してなきゃ砕かれてんぞ……!?)

 

意識を集中して意図的に防御力を更に上げないと危ない攻撃力、そして身が傷付くのを厭わぬ狂気に驚きと焦りを感じるヒム

 

「……オラアアアアッ!」

 

殴り返すヒムの拳が幽香を打つ

 

「ッ……人形風情がぁ!!」

 

構わずヒムを粉砕する為殴り続ける幽香

 

「がっ!?」

 

ついにヒムのオリハルコンの体が根をあげる、意識を集中させるのが間に合わず打たれた脇腹にヒビが入り拳程が砕けた

 

「クソッ!?うおらぁ!」

 

堪らず幽香の腕を掴み投げ飛ばす

 

「……!!」

 

幽香は止まらない、すぐさま動き刺した傘を回収しヒムへ殴り掛かる

 

「マジで行くぜ風見幽香ぁ!」

 

宣言したヒムの体から闘気が溢れ出す

 

 

ドガンッ!

 

 

鈍く大きな衝撃音が響き、幽香は目を見開く

 

「無駄だ、さっきまでと比じゃねぇ」

 

無防備に受けたのにヒムは微動だにしていなかったのだ

 

「簡単な話だ、闘気を……ッ!?」

 

言い切る前に蹴り飛ばされた

 

(闘気を纏わせて防御力を上げただけだろうが……)

 

幽香の勢いは増していく、ならば更に強い力で粉砕すればいい至極簡単な話だからだ

 

「くっ……何なんだこいつ!?」

 

闘気を全身に纏う闘法、これはヒムが修行をしている内に思い付いた闘気体(オーラボディ)と名付けた攻防一体の技

 

これ以上鍛える事が出来ないオリハルコンの肉体を強くするのに着目したのは拳に闘気を纏わせ威力を上げて放つ闘気拳、それを全身で行う事で飛躍的な防御力の上昇が可能になったのだ

 

その防御力はクロコダインの怪力、ラーハルトの技すら耐えきれる、貫けるのはメドローアとダイのみ

 

(と、止まらねぇ……!?)

 

そんな自慢の技なのに幽香を怯ませるどころか勢いが増しているのだ、拳は血で濡れているのに構わず殴ってくる今まで相対した事のないタイプの幽香に気圧されているのだ

 

「チッ……」

 

余りの固さに傘がひしゃげたのを見て幽香は傘を捨て拳で殴る

 

「ッ……」

 

数度殴った幽香は痛みで僅かに顔が歪む

 

「もうやめとけ、拳が砕けるぞ」

 

ヒムは痛ましい姿に思わず言った

 

「……あ?」

 

それが……

 

無駄な事をする自分を哀れむ様なヒムの言葉と顔が……

 

 

「舐めるなガラクタァ!!」

 

 

幽香を完全にキレさせた

 

「大人しく達磨にされていればいいものを……!!」

 

妖力が爆発的に上昇し髪がざわめき伸びる

 

「後悔させてやる!私を見下した事を……!」

 

幽香の本気、タガの外れた獣の如き狂気の姿

 

「てめぇまだ上が……」

 

先程までとまるで違う幽香の様子にヒムは驚愕する

 

「うっ!?」

 

そして気圧される、幽香から香る強烈過ぎる殺意に死の気配を感じされられたから

 

「ガアアアッ!!」

 

その戸惑いを突いた幽香が全力で殴りつける

 

「くっ!?何て威力だバケモンが……な、なにぃ!?」

 

右腕で受けたヒムが驚きの声をあげた、右腕に小さいが亀裂が入っていたのだ

 

(意識を集中してなかったとは言え今の俺にヒビ入れるかよ!?)

 

飛び退いて改めて腕を見ると血が拳の形でベッタリと付いている、次に幽香の拳を見ると血だらけであり指が折れていた

 

(何なんだ……何なんだよこいつは……)

 

ヒムは息を飲んだ、自らの痛みを顧みず攻撃してくる幽香に

 

(終わったら回復してくれるからか?いや違う!こいつはそんな事考えちゃいねぇ!)

 

ただひたすらに自分を殺す事しか考えていない幽香という今まで会った事の無いタイプ、倒せば終わりではなく殺せば終わると考える狂った様な相手

 

(心臓を握られてるみてぇだ……これが恐いって感覚かよ)

 

目の前で拳を振りかぶる幽香へ苦笑いを浮かべる

 

闘気拳(オーラナックル)!!」

 

ヒムの左拳と幽香の右拳がぶつかり合う

 

「オオォォォラアッ!」

 

オリハルコンに闘気を集中させた拳、神の金属を闘気で更に硬めて放つ闘士(ファイター)の一撃

 

「……ッ!?」

 

その威力は幽香の右拳を完全に砕いて打ち勝つ

 

「ガアアッ!」

 

止まらぬ幽香が左拳で顔を打つ

 

「ぐぅ!?」

 

砕けた拳でボディを打たれまたヒビが入る、痛みはないが反射で声が出る

 

(……殺されて堪るか!やってやる上等だぜ……てめぇを倒して俺が勝つ!)

 

向かってくる幽香を受け止め首に手を回し首相撲の体勢から右の膝蹴りを食らわせる

 

「がっ……アアッ!!」

 

一撃を食らい血を吐いた幽香は二撃目を止め太股を左手で握り潰す勢いで掴み、オリハルコンを指が穿ちそのまま持ち上げ思いきりリングに叩きつける

 

「ッラア!」

 

引き剥がそうと幽香の顎に蹴りを入れるが打ち飛ばす事は叶わず堪えた幽香が顔面を踏みつける

 

「ぐおおおっ!」

 

数度踏みつけられたヒムが右足を掴み幽香を引き倒し足の間接を極め……折った

 

「ガアアアアアッ!!」

 

ヒムの右腕を掴み両手で逆間接に捻り上げ力任せに肩から捻り折る

 

「ヤロウ……ぐわっ!?」

 

立ち上がろうとしたヒムはオリハルコンで殴られ打ち飛ばされた、捻り折った右手で殴られたのだ

 

(止まらねぇ……どうやったら止まるんだこいつ!?)

 

足を折ったのに勢いは止まらない、むしろ気迫は増すばかり

 

「!!?」

 

取られた右腕を投げつけられ怯んだヒムへ飛び詰めた幽香が先程指で穿った太股を上から踏みつけヒビを入れる

 

「くそがぁぁぁ!!」

 

ヒムは利き腕である左拳で打ち返し互いに譲らぬ打ち合いが始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こうなるよなぁ……幽香がマジでやるってなるとどうしたってこうなるよなぁ」

 

「子どもには刺激が強いかしらね」

 

頂点達は特に慌てる事無く見ている、幾度も戦って来た彼女等や幻想郷の者達はこの程度では動じない、大妖精や心優しい者がハラハラしているくらいである、ルナはロランに目を手で塞がれている

 

「あのガキ実力は良いモンあんだけどちょっと覚悟が足らんねぇ、倒す倒されるばっかりで命のやり取りは慣れてないみたいだねぇ」

 

鼻唄を鳴らしながら見ている萃香はヒムが殺し合いに慣れていないのを見抜いていた

 

(正々堂々と戦って倒す勝ち負けだけだったんだろうね、死んだとしても結果……最初から殺すか殺されるかの経験が乏しいんだねぇ)

 

それがヒムが幽香に勢いも精神的にも押される原因

 

ヒムは勇者達と戦い仲間となったから性質が光に寄った、だから殺す事がなくなった、故に殺意で動き残虐な攻撃も厭わない幽香に押されるのだ

 

(まっ幽香が相手じゃ仕方無いか、イカれてるからねぇあいつは……)

 

それでもヒムが昔の性質ならこうはならなかった、ハドラー親衛騎団として生まれたばかりの人間を容赦無く葬っていたあの闇寄りの時だったならば遅れを取る事はなかった

 

(……仮にいけたとしても無理か、何せあいつは曲がりなりにも冥竜王を殺したドラゴンスレイヤー……下手すりゃ頂点の次点なんて言われてる私等の中で一番強いからねぇ)

 

ヒムには残念だが勝てないだろうと荒ぶる幽香を見ながら酒を飲む

 

 

 

「おい妹紅、パチュリー、用意しとけよ」

 

「わかってる」

 

「いつでも行けるわ」

 

レミリアから任された魔理沙と妹紅とパチュリーは結末を見届ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、武闘会場の別室では……

 

「頼む……!」

 

ポップが土下座をしていた

 

「それは何の真似かしら?」

 

冷ややかに見つめる紫

 

「さっき言った通りだ、ダイを幻想郷に住ませてぇ……だけどあんたを信用させる術がねぇ、だから……もう俺にはこれしか出来ねぇんだ」

 

額を地面に擦り付け懇願するポップ

 

ポップは紫にダイの幻想郷への移住を頼んでいた

 

「先程も言ったけれどバーンと勇者が争わない保証が無い以上認める事は出来ません」

 

そして断られていた

 

紫としては幻想郷の安全が第一、幻想郷が滅びかねない大魔王と勇者の争いの危険が払拭出来ない以上容認出来ないのは至極当然と言えた

 

「わかってる!だけど俺にはもうこれしか出来ねぇんだ!」

 

ポップも幻想郷に滞在する間に保証の材料を探したが見つける事は出来なかった

 

自分の命を担保とする事なども考えたがそれでも頼みの範疇を越えず材料にはならない

 

大魔王と勇者の因縁を解消する材料など有りはしないのだ

 

「無理よ、貴方の想いは理解出来るけれど……認められない」

 

紫は言う、幻想郷の未来を想うが故に言う

 

「頼む……頼むよ……!」

 

それでもポップはやめない、これしかする事が出来ないから

 

「……無理なものは無理、諦めなさい」

 

頑なに動かないポップに紫は困ってレミリアを見る

 

「もう少しだけ待ってみなさいポップ」

 

「……え?」

 

レミリアの意味深な言葉にポップは顔を上げる

 

「この武闘会が終わるまで待ってみなさいなポップ、きっと変わるから」

 

「変わる?おめぇ何企んでやがる!この武闘大会で何するつもりだ!」

 

何か良からぬ事を画策していると思ったポップが怒声をあげる

 

「あぁそうかそうね、貴方からすれば企みは企みか……」

 

謀をしているつもりの無いレミリアはポップを納得させる言葉を探す

 

「では貴方に選択させてあげる、私を信じられないなら武闘大会は即刻中止、貴方達も今すぐ帰らせる」

 

「……ッ」

 

今帰る訳にはいかないポップが苦しい声を出す

 

「でも信じてくれるならば貴方達の誰にも損は与えないと約束するわ、特にあの勇者にはね」

 

「……わかったぜレミリア」

 

そう言ったレミリアに邪な意思を感じなかったポップは息を落ち着かせる

 

「……ひとつだけ聞かせてくれよ、お前さん……お前さん達か?お前さん達もダイを……?」

 

理由がダイにあるのかをハッキリさせたかったポップが問うとレミリアは意味深気に微笑む

 

「皆、多かれ少なかれ勇者を哀れに思っているわ……私も同情している」

 

「……先生から聞いたか?あぁいやこの際どうやって知ったかはどうでもいい……そんで?」

 

「一人ね……勇者に強い憤りを持ってる奴が居るのよ、勿論悪い意味では無いわ」

 

「……!おいもしかしてそいつって……」

 

感づいたポップの唇にレミリアは指を置き黙らせる

 

「だから今は大会を楽しんで、わかった?」

 

「……わーったよ、信じてやるよ!おめぇ等の描いた絵にまんまと乗せられてやらぁ!」

 

ポップは容認し立ち上がる

 

もう手の打ちようが無くそれに縋るしか無かったとは言えポップが信じられたのはレミリアが言ったある一人の存在があったからだった

 

(何だろうな……おめぇならダイをどうにか出来る、そんな気がすんのは……何でだろうな……)

 

よくわからない信頼を感じている自分に戸惑いながら部屋を出て行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会場は静まりかえっていた

 

「グオオオオッ!?」

 

「ガアアアアッ!!」

 

獣の蹂躙を見せられて肝を冷やしていたのだ

 

「フゥヴゥゥ……!」

 

殴る、既に砕け散った拳で

 

「ガアッ!」

 

蹴る、折れた足で躊躇いもなく

 

「クッソ……がっ!!」

 

ヒムも負けじと殴り返すが幽香を倒す事叶わずオリハルコンの体が削られていく

 

「いい加減に……しやがれぇ!!」

 

渾身の闘気拳(オーラナックル)が幽香の顔面を捉えた

 

「ハァ……ハァ……くたばったかコノヤロウが」

 

止まった幽香に安堵するヒムは次の瞬間驚愕する

 

 

ギロッ

 

 

幽香の目が動き自分を睨み付けたのだ

 

「不死身かコイツ!?うおおっ!?」

 

左腕を掴まれ幽香の膝に叩きつけられ手首から先を叩き折られる

 

「……がっ!?」

 

蹴り飛ばされ折られた左拳を投げつけられて更に吹き飛ぶ

 

「アアアアアッ!!」

 

落ちているヒムの右腕を拾い幽香はヒムへ思いきり叩きつける

 

「ガアッ!アアッ!」

 

数度叩きつけると闘気の通ってない右腕がヒムの強度に負けて砕け折れるとまた裸拳で殴る

 

(り、理解してきたぜ……こいつがどうしてこんなに強いのか、どうしてこんなに恐ろしいのか……)

 

打ちのめされるヒムはようやく幽香という女性の本質を知る

 

(負けたくねぇんだ、勝ち負けなんかじゃねぇ、ただ負けたくねぇんだこいつは……誰にも、絶対に……!)

 

舐められる事を嫌い形振り構わない非情な戦い方をするのは幽香の性格を表すモノであり本質ではない、その生き方を最期までやり通す本質は誰にも負けたくないと言う度を越えた想い、その一点に尽きる

 

要は極度の負けず嫌いなのだが幽香の場合はそれが存在理由(レゾンデートル)にすらなっているレベルにある

 

「ガアアアアアアーーーッ!!」

 

負けたくない、負ける事が死ぬ程嫌だから幽香は止まらない

 

負けは死と同義とまで思っている幽香を止めるにはもはや殺すしかないのだ

 

「ヴゥ……」

 

幽香は殴り倒したヒムへ左手をかざし力を溜める

 

「正気かてめぇ!?」

 

既に幽香に理性は無い、ヒムは闘気を最大に高めて防御体勢を取る

 

「アアアアアッ!!」

 

幽香の死ねと言うような咆哮と同時に撃たれる閃光

 

ヴェリターブルマスタースパーク

 

正真正銘、真祖の名を冠したマスタースパーク、幽香の最大火力技がヒムを襲う

 

 

数秒の照射の後、大爆発を起こし結界で囲われた武闘場を爆煙が充満する

 

 

爆煙が晴れた光景は酷くさっぱりとしたものになっていた、リングは土台の土ごと消滅し地下にも巡らされていた結界まで全てを消滅させていた

 

「ぐっ……クソッ……タレが……!?」

 

結界の底でヒムが呻きをあげている、無事ではあったがヒビを入れられていた右足が耐えきれず折れ、消滅していた

 

(ちっ、ダメか……闘気は使いきっちまったしこれじゃ動けねぇ、まぁけどよ)

 

全力を使いきっての後が無い大防御だったがヒムは安堵していた

 

(あんな至近距離で撃って自分も無事なわけがねぇ!自爆しやがってイカレヤローが……)

 

爆発に巻き込まれた幽香は終わりだと思っていたのだ

 

「はぁ……情けねぇけど助け呼ぶかぁ」

 

そんなヒムが声を出そうと上を見上げた時

 

「……ウソだろオイ」

 

その顔は戦慄に染まった

 

「……」

 

幽香は生きていた、自らが起こした爆発で全身は焼け爛れ肉も所々に千切れ消滅していたが五体は繋がっていると言う意味で満足に浮いていた

 

「……」

 

ヒムを視認した幽香は降りてきてヒムへ歩を進める、途中で転がっていたひしゃげた傘を手に取りヒムへ向かう

 

「マジかよ……お前……」

 

まるで幽鬼の様な人外の化物を見る目でヒムは目の前まで来た幽香の執念とも言うべき行動に恐怖する

 

「……」

 

ゴシャ!

 

無言の幽香がヒムの左太股を踏み潰し両足を無くす

 

「……」

 

バキィ!

 

傘の先端を左肩の付け根へ突き入れ切り離し両腕も無くす

 

「へっ……参ったぜこりゃあよ」

 

完全な達磨にされたヒムは髪を掴まれ持ち上げられる

 

「……」

 

傘を突き付け力を溜める、そのまま突くのか撃つのかわからないがどちらにしてもヒムは死ぬだろう

 

 

「降参だぜ風見幽香……俺の負けだ」

 

「……死ね」

 

 

ヒムの敗北宣言と幽香の狂気が交差する

 

 

 

 

 

「それぐらいにしとけ幽香」

 

気付けば二人は取り押さえられていた

 

「こいつの敗北宣言聞こえなかったか?お前の勝ちだ幽香、これ以上は弱い者イジメだぜ」

 

魔理沙、妹紅、パチュリーが幽香を止めている

 

「お願いします幽香さん」

 

大妖精がヒムを庇うチウを筆頭にヒュンケルとクロコダインとマァムを更に庇う様に立っている

 

「……退け」

 

幽香は止まろうとしない

 

「おいおい勘弁しろよ……寝かすか?」

 

気絶させる事を考え始めた時、幽香に声が掛けられた

 

「やめな幽香」

 

その声に幽香は反応する

 

「誰がどう見たってあんたの勝ちさね、疑う奴なんかいやしない、私が保証する」

 

萃香である、遅れて止めに来た萃香の言葉に反応した幽香は手を止め萃香を見る

 

「文句あるヤツぁ私がぶっ殺してやる、ほら戻るよ!あんたの勝利祝いに飲もうじゃないか!」

 

「……」

 

しばし見つめ合った後、幽香は大きく息を吐き、力を抜いた

 

「これに懲りたら二度と舐めた真似はしない事ね……次は無いわよ木偶人形」

 

幽香は戻って行ったが観客席に戻らずそのまま会場を出て行った

 

友からの確たる勝利の保証が幽香の殺意を静めたのだ

 

「あいつ手当てもせずに帰りやがった」

 

「そういう奴だぜ幽香は、気にしてたら殺されるぜ?」

 

どんな重傷だろうがその責任は自分に有ると言う様に幽香は永琳には目もくれず帰ったのだ

 

「ああ……わかったよ、染みる程な……」

 

後悔した様な苦い顔でヒムはもう居ない幽香へ詫びる様な返事を返した

 

 

 

 

 

 

『えー……っと?幽香さんの勝ち……で良いんですよねこれ?よくわかりませんがとにかく二人の健闘に拍手ーッ!!』

 

 

 

 

 

 

四回戦 勝者 風見幽香

 

 

 

 

 

 

 

 

「助かったよ萃香、お前が居なきゃ面倒な事になってたよ」

 

「だな、サンキューだぜ!」

 

「私はあいつの盟友だよ?こんなの楽勝さ、まっ偉そうなこと抜かしたけど実際五分五分だったけどね」

 

止めた本人の萃香さえ止めるのは賭けだった、たまたま幽香の機嫌が良い方だったのだろうと思っているくらい

 

「だけど止まったんならもう大丈夫さ、てな訳で私はあいつの機嫌でも取りに行ってくるよ~」

 

「悪い、任せていいか?」

 

「良いってもんさ、大会が見れないのは残念だけどね~」

 

「そこはにとりが映像を記録してるみたいだから後でも見れるらしいぞ?」

 

「そりゃ朗報だ!じゃ気兼ね無く行ってくるよ!じゃあね!」

 

霧になった萃香は最初の盟友であるミストと少し言葉を交わした後、幽香を追いかけて会場から姿を消した

 

 

 

 

 

 

 

「無茶をしたなヒム」

 

「ああ……無茶に無謀だったぜ」

 

控え室へヒュンケルに抱えられて戻って来たヒム、永琳には回復魔法を受けた方が早いと一目見て帰られている

 

「無事で良かったよヒムちゃん、でももうあんな無茶しちゃダメだよ」

 

「全然無事じゃねぇけどな隊長さんよ、見ろよこれ達磨だぜ?最初に言った事しっかり果たして帰りやがったあのヤロウ」

 

ヒムは渇いた笑いをあげて遠い目をする

 

「まっ完敗だよ、俺はあいつにビビっちまった……命よりも重いプライドってヤツに、風見幽香って女に……あんな奴が居るんだなぁ」

 

死を恐れない他を隔絶した誇り高き精神に気後れし最後まで気圧されていた事実を噛みしめ心の底から負けを認める

 

「ヒムちゃんはあんな風にならないでよ?ボクは許さないからね!」

 

「ならねぇよ隊長、だけどよ?見習う部分も有ると思うんだよなぁ」

 

「えぇ……?有る?無いと思うけど……」

 

「有るさ……」

 

ヒムは幽香が飛んで行った空を見上げる

 

「ハドラー様に負けず劣らずな……あの誇り高さはよ」

 

得るモノは有ったのだと微笑むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!ヒムおめぇ宣言通り達磨にされてんじゃねぇかよ!ダハハハハ!それに負けたんだってな!ダッセェ大丈夫かよおめー!ダハハハハ!」

 

「うるせー!笑うんじゃねぇポップテメー!さっさと回復しやがれコノヤロウ!」

 

「あーん?俺しか回復出来ねぇのにそんな態度取って良いのかよおめーよぉ?もうしばらく達磨でいるかぁ?」

 

「ぐっ!?卑怯だぞテメェ……くっそ……!か、回復してくだ……さい……!」

 

「ダハハハハ!わーったわーった!」

 

「チキショウ……」

 

「締まらないねぇヒムちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その変わらぬ気高きプライド、見事と言う他あるまい……流石はかの竜の王に見初められた花の大妖怪、その名に違わぬ狂い咲きであった」

 

王の静かな賛美が彼の者に伝わるかどうかは……

 

聞いていた花の気分次第……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




明けましておめでとうございます。
新年初めの更新は……酷いモノになりました、幽香が関わると相手が弱過ぎない限りどうしてもこうなっちゃうんですよね。

ヒムはオーラナックルが硬か凝だなと思ったのでハンターハンターの念をベースに強化しました、オーラボディが纏か練、最大出力が堅、みたいな感じです、ダイ大の世界の闘気って消耗して使えなくなるのかは知りませんがねw

次回も頑張ります!

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