東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 合唱(コーラス) Ⅱ

 

 

 

「ほーん次は妖夢かい、相手は……魔族、いやハーフかありゃ」

 

良い肴に止まらない酒を飲みながら萃香は陽気に見ている

 

「んっん~♪楽しいねぇ幽香~!」

 

「ふん……レベルが低過ぎるわ、くだらない……来るんじゃなかったわ」

 

対称的につまらなそうにしている隣の幽香

 

「さっきのは仕方ないさ、気合い入ったみたいだし次からさね!ほら見てみなあのラーハルトっての、不敵な良~いツラしてる!」

 

「……確かにさっきのよりはマシみたいね」

 

「無愛想な奴だねぇ、あんたにそっくりだ」

 

「……」

 

「あっはー!怒っちゃったかい?そこで提案さね、その怒りをあいつ等にぶつけるのはどうだい?」

 

「……フンッ、誰が見せ物になるか」

 

「そうかい、私もこれと言って興味有る奴はいないしねぇ」

 

「……勇者は?」

 

「そいつは興味有るよ?だけどねぇ……ほらわかるだろあんたも?」

 

「まぁ……そうね」

 

それ以降萃香を無視して幽香は試合を見つめる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『二試合目は両者武器持ちと言う事でリング過は容認されます、ですが明らかな殺意を確認した場合その限りではありませんので気をつけてください!動けないのにトドメを刺そうとするとかそんな感じですね』

 

文の説明に二人は頷く

 

「受けていただきありがとうございますラーハルトさん……正直ヒュンケルさんと悩みましたよ、別人と思うくらい強くなってましたし同じ剣士でもありましたから……」

 

「……」

 

「ですがやはり貴方です、私は貴方と手合わせがしたかった、魔族と人間のハーフである貴方と……!」

 

期待する目をする妖夢と返さず妖夢を睨むラーハルト

 

(……いや、幻想郷は魔族だろうと差別しない、例えハーフだろうと……)

 

ハーフの言葉に反応し一瞬敵意を見せたラーハルトだが妖夢の目が蔑む目をしていないのを見て敵意を消す

 

「……その剣、前に持っていた剣に似ているが別物だな」

 

「気付きましたか、流石ですね……はいその通りです、この剣は普段私が使っている楼観剣の模造剣になります、ロン・ベルクさんに作って貰いました」

 

妖夢の剣は普段と違っていた

 

「何故そんな事をする必要が有る?」

 

「それは……」

 

妖夢は言い辛そうに口ごもる

 

「言え、侮辱なら許さん」

 

「いえ!舐めている訳ではないです……わかりました、言います」

 

妖夢は答えた

 

「あの剣を使えば私が勝つからです」

 

「!!?」

 

ラーハルトはそう言い切った妖夢に目を見開く

 

「説明します、私の楼観剣はロン・ベルクさんに鍛えられた「心剣一体」の剣だからです」

 

「……心剣一体?」

 

「心剣一体とは剣が私の心と繋がり強度を不破の物にする事です、これが意味するのは私の心が折れない限り楼観剣もまた折れる事はないのです」

 

「……そういう事か」

 

ラーハルトは説明を受けてそんな技法があるのに驚いた事よりも心剣一体の剣を使わない意味の方を理解し納得した

 

「フェアではないと……そう言いたいのか」

 

「その通りです」

 

確かにフェアではないと言える

 

ラーハルトの持つ鎧の魔槍も素晴らしい武装だが強度には限界が有る

 

対して心の限り不滅を誇る楼観剣では有利が過ぎるのだ

 

壊れる武器と壊れない武器が高いレベルで戦った時、間違いなく勝つのは壊れない武器だからだ

 

「よろしいでしょうか?」

 

あくまで比べたいのは技量、武器の優劣で決めたくないのは妖夢からすれば当然

 

何故なら今は生死も幻想郷の未来も賭けぬただの力比べなのだから

 

「いいだろう」

 

ラーハルトは了承した

 

舐めていないのであればいい、むしろ理由を聞いて武人としての生き方に頬が緩む程だった

 

「どちらにしろ……勝つのは俺だ」

 

そして微塵も負ける気が無かったラーハルトに更なる滾りを与えた

 

 

「そうでなくては……ではそろそろ……」

 

「ああ、始めるとしよう……鎧化!」

 

 

妖夢が剣を抜き、ラーハルトが魔槍を装備する

 

 

『それでは第二回戦……始めぇ!!』

 

 

始まりを告げる銅鑼が鳴り響く

 

 

 

 

ギィン!!

 

 

 

 

鳴ると同時に二人は消え、剣と槍はぶつかり合った

 

「……!!」

 

ラーハルトの目にも止まらぬ連続刺突

 

「……!!」

 

それを紙一重で全て躱す妖夢

 

「シッ!」

 

穂先が引いた瞬間に剣を合わせ槍を真上に弾く、そしてそのまま斬りに向かうと見せかけた妖夢の体がブレて消えた、同時にラーハルトの背後に回り横薙ぎ一閃、ラーハルトを斬る

 

「!?」

 

しかしそれは残像、妖夢は横薙ぎをした勢いのまま腕を背に回し背後から来た穂先を受け流す

 

「……」

 

「……」

 

一瞬、二人の動きが止まる

 

そして更に次の瞬間に二人は消え、最初に立っていた場所へ寸分違わず戻った

 

「やりますね」

 

「やるな」

 

まだ銅鑼は鳴り終わっていない、終わったのは二人が互いを褒めた後

 

あの流星のような攻防が銅鑼が鳴り終わる前に繰り広げられたのだ

 

『速い速い速ーーーい!瞬間速度なら唯一私を上回る妖夢選手に全く引けをとらないラーハルト選手ー!やっぱり私この人嫌いだー!』

 

文の私情混じる実況に連れて息を飲んでいた観客が沸き上がる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だろ……見たのにまだ信じらんねぇぜ、あのラーハルトと互角の速さなんてよ……マジで速いんだぞあいつ」

 

「見ろ相手を……まるで堪えていない、この程度なんの事はないと言わんばかりの顔をしているぞ」

 

「す、スゴーイ……」

 

二人の小手調べと言うべき攻防を見て一行のポップ、クロコダイン、チウが驚愕している

 

「剣と槍じゃ槍の方が間合いで有利な筈だろ?なんであんな接戦になんだよ?」

 

「見切りだ、奴の見切りは群を抜いている……見切りに関してはラーハルトより上だ」

 

ヒムの疑問にヒュンケルが答える

 

「防具に頼らぬ生身故か……一撃が致命になりかねない武器を相手取る事が多いだろう剣士、死に一番近い領域に自ら望んで立ったからこそ磨かれた超感覚、か……!」

 

ヒュンケルは悔しく拳を握る

 

(無理を言ってでも出るべきだったか……!)

 

見向きもされなかった相手に加え同じ剣士、滾らぬ訳がない

 

今にも代われと言いたい気持ちを拳と同じく心に抑え込み友を見つめる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ラーハルトは槍を強く握る

 

(……仕掛けて来る!)

 

その意を察知し妖夢も剣を強く握り締める

 

「行くぞ」

 

宣言したラーハルトが妖夢へ向かい槍を構える

 

「海鳴閃!!」

 

速過ぎて腕が見えなくなる程の速さで振り抜かれた一閃、その速さで炎など不定形のモノすら切れる技

 

「なっ……!?」

 

体を逸らし回避したが間に合わず斬られた髪が目を凝らさずともわかる程に散る

 

(速い!起こりが見えても体が追い付かなかった……!)

 

その技は最速、歴戦の強者であるラーハルトが使えば見切りに長けた妖夢の反応すら越えられる

 

(今のは彼の槍術とは違う型を感じた……他流派の技かッ!)

 

紙一重の回避が精一杯だった妖夢へラーハルトが迫る

 

「ハァアッ……!」

 

隙を与えず続けざまにラーハルトは攻める

 

(ダイ様と同じ流派の技を使う以上、絶対に負けられん!)

 

ラーハルトはアバン流槍殺法をヒュンケルから教わっていた

 

ダイを守る為に修行を続けていたラーハルトは更なる力を付ける為にアバン流を会得する事を決意したのだ

 

何故アバン流なのかはダイにある、主と同じ流派を会得したかった

 

これも忠義故、更には最強のダイが使う流派なのなら尚更会得したくもなる

 

 

「……!」

 

攻撃を弾く妖夢

 

「!!?」

 

次の攻撃に回避が間に合わず服を掠める

 

(さすがに全てあの速さは不可能のようですね、間は今のところ最低三手ですがいつ出すかまでは直前まで読めない……)

 

ただでさえ速い攻撃に加え回避に集中せねばならない最速の攻撃、それは妖夢を迂闊に攻勢に出させない駆け引きとなって迷わせる

 

(それでこそ……!それでこそです!)

 

否、迷いではなく滾り

 

ラーハルトの強さが妖夢を更に刺激する

 

「……」

 

振り抜いた槍の勢いのままラーハルトは上段に構えた

 

(!?違う技が来る!)

 

気配を察した妖夢へ槍が振り下ろされる

 

「地雷閃!!」

 

力の限り振り下ろされる剛力の一閃、受ければ防御ごと叩き斬られるのは明白

 

(ならば……!)

 

妖夢は剣を斜に構え剛閃を迎える、刃の道を作りそこを通らせて見事地雷閃を受け流す

 

「何ッ!?」

 

地雷閃が受け流され着弾したリングを破壊した事にラーハルトが驚く

 

(最小の動きでいなされた!?反撃が来る!)

 

予想通りに妖夢の逆袈裟一閃

 

「ぬうッ!?」

 

体を逸らして避けたが肩の鎧の先が斬り飛ばされた

 

「……!」

 

ラーハルトは距離を離し斬られた鎧の部分に手を当てる

 

(侮っていた訳では断じて無い、だがここまで俺の速さと技を見切られたのは初めてだ……)

 

妖夢の強さを肌で強く感じ不適な笑みを浮かべる

 

(通常の攻撃に加え速度と力の緩急ある槍技の三択……これは思う以上に厄介です)

 

止めていた息を吐き妖夢もラーハルトの深さに良き手応えを感じ不適な笑みを浮かべる

 

「……では次は私からの一手です」

 

妖夢は携えていたもう一本の剣、白楼剣を抜く

 

「……二刀流か」

 

「この剣も心剣一体ではありませんので御安心を」

 

また空気が一段と張り詰める

 

()ッ!」

 

妖夢が仕掛ける

 

「……!」

 

刺突で迎え撃つラーハルト

 

「!?」

 

ラーハルトは目を見開く

 

妖夢の白楼剣が穂先を逸らし速度を落とさず楼観剣を突き入れて来たのだ

 

「チィ!」

 

顔に来る突きを避けて槍を戻すがそれよりも速く妖夢は迫っていた

 

ギンッ!

 

金属がぶつかる音が響く

 

「……硬いですね、柄も魔界の金属ですか」

 

「……ッ!?」

 

白楼剣の一閃を槍の柄で防いだラーハルトの表情は焦りの色が見える

 

(二刀を使う事で攻防の間を無くしたか!ここまで詰められるとは……!)

 

楼観剣のみなら組み立てや型にもよるが攻撃を弾いた後に攻撃なので間が大きい、しかし二刀なら弾くと攻撃を一手で行える

 

その効果は実際に遺憾無く発揮されラーハルトを追い詰めた、槍の柄で防御するとはそういう事なのだ

 

「間に合わせるとは流石……ですが!」

 

妖夢は空いている楼観剣で攻撃しようとする、これも二刀流の利点、片方で抑え片方で攻撃出来る

 

「図に乗るなッ!」

 

ラーハルトが槍を高速で回転させる

 

「!?」

 

回転の始動に白楼剣は流され攻撃した楼観剣は弾かれた、次は二刀流の欠点が出た形になった、両手で持たないから一本あたりの力は弱いのだ、だから弾かれた

 

「くっ……!」

 

回転させた槍を振り回され妖夢は飛び退く

 

「ハーケンディストール!!」

 

そこへラーハルトの必殺技である衝撃波が放たれた

 

(広範囲!受けは悪手か!ならばッ!)

 

威力を見切った妖夢は楼観剣と白楼剣を交差させ、振り下ろす

 

「断霊剣「成仏得脱斬」!!」

 

妖気と闘気を合わせた衝撃波を発生させハーケンディストールと相殺させる

 

「危なかった……」

 

「俺のハーケンディストールを防ぐか……」

 

対処を間違えば大ダメージは必至の技に冷や汗を流す妖夢と必殺の技をダメージ無く防がれた事に戦慄するラーハルト

 

 

 

「やはり貴方は私の期待通りの人ですラーハルトさん」

 

妖夢はラーハルトの目を見つめる

 

「私も……ハーフなんですよ、幽霊と人間の」

 

「……!」

 

その告白にラーハルトは反応する

 

「今でこそ妙な事を言ってくる人はいませんが昔は色々と言われました……貴方もそうだったのでは?」

 

「……」

 

ラーハルトは過去の差別を思い出す

 

「貴方は強い、逆境に負けない反骨心を持って鍛えられた心身……尊敬に値します」

 

妖夢はただラーハルトと戦いたかった訳ではない

 

「そんな貴方だから、私と似た貴方だからこそ……戦いたかった」

 

「……そうか」

 

似た立場故の切望

 

傷を舐め合うような馴れ合いではなく武器を通して確かめたかった

 

虐げられた者の持つ力を

 

 

「俺もますます貴様に負けるわけにはいかなくなった、俺の全力を持って勝ちに行く」

 

「それは私とて同じ事、勝たせて貰いますよ!」

 

ぶつかる両者、まだまだ余力は充分、戦いは刀剣の様に更に鋭く苛烈になっていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妖夢ー!ガンバレー!」

 

妖夢と親しいフランが目一杯応援している

 

「なぁさっきのハーケンディストールとかって技お前と一緒じゃねぇかレミリア?」

 

「そうね……最大威力は私の方が上でしょうけど練度はあっちが上ね」

 

「あいつがパクったのか?それともお前?」

 

「私になるわね、バーンに槍で使える良い技がないか聞いたら教えてくれたのよ、こんな技があるって概要だけね、それから再現したのよ」

 

「うーわダセェぜレミリアよう、技は自分で編み出してこそだろうがよ~あーダッセェダッセェダッセェぜ」

 

「う、うるさいわね!いいじゃない別に!」

 

「カリスマが聞いて呆れるぜ、あーダッセェ!皆もそう思うよなー?」

 

魔理沙が皆を煽る

 

「ダサイわレミィ」

 

「ダッサイわよレミリアあんた!」

 

「ダサ過ぎだろ」

 

「お姉さまダッサーイ」

 

「ダサイと思いまぁす」

 

頂点全員が乗った、他は乗らない乗れば死ぬから

 

「うるさいうるさいうるさーい!何よ皆して!怒るわよ!!」

 

顔を真っ赤にして怒鳴るレミリアに皆笑う

 

「へっへっへ!からかうのはこれくらいにして見ようぜ!見ろよだいぶ白熱してるぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオッ!!」

 

「ハアアッ!!」

 

強さがぶつかる

 

 

ピッ……

 

 

「ハアッ!」

 

 

ピッ……

 

 

「セヤアッ!」

 

 

剣と槍が互いを掠める

 

「……!!」

 

()ィ!!」

 

二人は領域を一段進めていた

 

「チッ!?」

 

「ッ!?」

 

薄皮を一枚斬る領域、そうしなければ己の攻撃は通らない

 

そこまでの拮抗した試合

 

「……フゥゥゥ……!」

 

「……ハァァァ……!」

 

距離を取り息を整える血だらけの両名、酷く見えるが実際は大したダメージではない

 

「……!」

 

「……!」

 

息を合わせた様に同時に動き剣と槍の激しい攻防が始まる

 

(生半可な大技は出すだけ無駄!むしろ突け入る隙になりかねない逆効果!)

 

(崩し切れん!だがそれは奴も同様!千日手か……!)

 

この調子で行けばいずれは決着がつくだろう、どちらかが先に失血で倒れるという不本意な結果で

 

そんな決着は当然望むところではない、互いに

 

己が力量で捩じ伏せてこそ真の決着だと互いに思うからこそ尚更に武器を持つ手に力が入る

 

(ならば俺も更なる一手を出す!)

 

難敵である二刀を相手に回避と防御に意識を置いて互角に立ち回るラーハルトが攻勢に出る

 

「ちっ……!」

 

まともに当たれば致命の攻撃を丁寧に捌きながら攻勢に出る隙を伺う妖夢

 

「……オオオッ!」

 

ラーハルトが槍を深く突き入れる

 

(今までに無い大きな刺突!ここッ!)

 

逸らす為に白楼剣を穂先に当てる

 

(今なら決められる!)

 

決定的な隙に踏み込みながら楼観剣を振る

 

(取りましたよラーハルトさん!)

 

妖夢は勝利を確信した

 

 

「虚空閃!!」

 

 

直後、穂先から放出された闘気が妖夢を打ち飛ばした

 

「うぐっ!?くっ……溜めが無い闘気砲……!?」

 

打たれた左肩に手を当て具合を見ながらラーハルトを睨む

 

(隠していた一手!さっきの回転させて放つ衝撃波より威力は無いが速射に秀でた技……やられた!?)

 

(チィ……完全には捉えれなかった、戦いの経験値から違和感を気取られたか、直撃は避けた……恐るべき反応!)

 

時間は与えないと攻め込むラーハルトだったが内心は思わしくない結果に舌を打つ

 

「くっうぅ……!」

 

(それでも決して軽いダメージではない、左腕の動きが鈍いぞ……防具が無いのが仇となったな!今が勝機!)

 

畳み掛ける様にラーハルトは詰めていく

 

「くあっ!?」

 

左手に持つ白楼剣を満足に使えない妖夢は左半身を集中されて攻められ脇腹を抉られる

 

「海鳴閃!!」

 

崩れかけた妖夢を完全に崩す為に放つ最速の薙ぎ払い

 

「しまっ……!!?」

 

二刀で受けようとしたが左の動きが間に合わず右で受けたが楼観剣は大きく弾かれた

 

「終わりだ!」

 

振り抜きから最短で上段に構え両の手に力を込める

 

「地雷閃!!」

 

決めの一手を振り下ろす

 

体を崩している為動いて回避は間に合わない、強く弾いた楼観剣も同様、間に合うのは白楼剣だが受ければ叩き折れるし受け流しも崩れた体では不可能

 

剛閃が妖夢を斬り決着

 

「……!!」

 

の筈だった

 

「……終わるものかァ!!」

 

 

妖夢は白楼剣を逆手に持ち、迫る穂先へ押し入れ軸にして体勢を立て直す

 

 

「空観剣「六根清浄斬」!!」

 

 

一瞬、限界を超えた速度で残像を幾多も作り出しラーハルトを囲み全方位から斬り掛かる

 

「ぐううッ!!?」

 

ラーハルトの左肩から血が吹き出す、鎧ごと肩を斬られよろける

 

(か、カウンターだと!?それをあの刹那の間で決める……だと……!?)

 

圧倒的に有利だった状況から返された事が信じ難い、だが痛む肩がそれを証明している

 

(……だが!!)

 

現実を受け入れたラーハルトは妖夢へ振り向く

 

「ハァ……はぁ……」

 

ラーハルトから離れ荒い息を整えながら妖夢は白楼剣を見つめる

 

 

パキンッ

 

 

白楼剣は静かにその刀身を割り、リングに落ちた

 

「……」

 

「痛めた腕で精度が落ちていたな、あの場面では最適解だったろうが俺の地雷閃に差し込むには足りなかった」

 

ラーハルトは言うが妖夢は聞いていない

 

(また折れた……本当に呪われてるのでは?いやいや!今のは私の技量不足!肩を痛めていたのは理由になりません!そうだそうです!悪いのは私です!)

 

ゴーガンダンテス、テリーに続く三度目の破損にショックを受けていた

 

(……でも非常にマズイです、またロン・ベルクさんに怒られる)

 

憂鬱になりながら折れた白楼剣を納刀し切り替えた妖夢は楼観剣を両手で握りラーハルトに向く

 

「やりますねラーハルトさん……白楼剣の仇は取らせて貰います」

 

「フンッ……痛み分けと言いたいがさっきの場面は貴様の方が上手だったのは認めざるを得まい……だが俺は負け……」

 

言い切る前に妖夢の声が被された

 

 

「黙れ!そして聞け!!」

 

 

褒めるラーハルトを問答無用で妖夢は切り捨て言葉は続く

 

「我が名は妖夢!魂魄妖夢……!魔槍を断つ剣なりッ!!」

 

意思を声高に叫ぶ、もはや言葉を交わす必要は無い

 

望むは決着、それも己の勝利で

 

「フゥゥゥ……!!」

 

それしか見ていない尋常なる集中力でラーハルトを僅かな挙動すら見逃さぬ視線で射ぬく

 

「……貴様に倣って言ってやる」

 

意思を受けたラーハルトもこれが最後だと己が意思を告げる

 

「ダイ様に、仲間に勝利を誓った……故に、俺に敗北は無い」

 

己が望むのは勝利、皆が望むのも勝利、そして何よりも優先すべき者から拝命した命も勝利

 

ならば勝利しか有り得ないのだ、何があろうとどんな難敵が相手だろうと敗北は許されない

 

己がそう魂に決めたのだから

 

「……!!」

 

魔槍をこれ以上無い程握り締める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……凄まじいな」

 

クロコダインが呟く

 

「最早試合と言うよりは死合が近い、下手をすれば殺してしまうまでの覚悟を持って行かねば勝てん相手だと言う事だ……互いに」

 

ヒュンケルも勝敗が読めず睨んでいる

 

「あのラーハルトを……ダイを守るべく研鑽を怠らなかったアイツをあそこまで追い詰めるとはにわかには信じられん、あの魂魄妖夢とは頂点の一人か?」

 

「いやクロコダイン、奴は頂点ではない……頂点の次点らしい、先の紅美鈴と同格だそうだ、永琳から聞いた」

 

「何だと!?あの実力で頂点の次点!?そんな事が……」

 

「俺達の認識が甘かったという事だ、引き締め直すぞ!」

 

「うむ……しかしラーハルトは勝てるだろうかヒュンケル?」

 

「勝つさ、あいつがそう言った」

 

ヒュンケルは勝敗は読めないがラーハルトの勝利を信じている

 

「あいつにはまだ……アレが有る」

 

必ず勝てると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハアアアァーーーッ!!」

 

「オオオオォーーーッ!!」

 

剣と槍が斬り結ぶ

 

「ッ!?……ハアッ!」

 

「ぐっ!?……オオッ!」

 

互いの体を斬り合う死の領域

 

「フゥゥゥ……!」

 

楼観剣一本になったが極限の集中力によりラーハルトの槍を捌き切り刻む妖夢

 

「ヌウゥゥ……!」

 

肩の深い負傷が影響し攻めきれぬも妖夢を確実に削っていくラーハルト

 

「!?」

 

突き入れた槍は命中した、しかしそれは残像、ラーハルトはすぐさま槍を手首の返しで引き寄せ柄を背に向け突き出す

 

「チッ!?」

 

背後からの攻撃を最短最速で制された妖夢は忌々しく柄を横薙ぎで弾く

 

「……オオオッ!」

 

弾かれた勢いを回転に変え槍を背後へ振り回す

 

「ぐっ!?」

 

楼観剣で受けたが打ち飛ばされる

 

「虚空閃!!」

 

「断迷剣「迷津慈航斬」!!」

 

着地に合わせた闘気砲を撃つも妖力で刀身を形成し伸ばした技により切り払われ更にその伸びた刀身はラーハルトを襲う

 

「海鳴閃!!」

 

それを紙一重で駆け抜け妖夢へ接近し最速の技を放つ

 

「ウッ!?」

 

見切り切れずに槍が腹を撫でる、致命ではないが手痛いダメージ、だが動きは止まらない

 

「剣伎「桜花閃々」!!」

 

高速で踏み込みながら出される桜色に輝く剣閃

 

「ぐくっ!?」

 

ラーハルトの額当てが弾け飛び血が流れる

 

「ッ……ハアアーッ!!」

 

「セアアーーッ!!」

 

二人は止まらない

 

終わるまで止まらない

 

勝敗が決まるまで……

 

 

「……!」

 

「……!」

 

絶えぬ剣閃、尽きぬ闘志

 

(埒が開かない……!このままでは体格で劣る私が果てるのが先か!?)

 

同じ量の血が流れたならば体格がラーハルトより小さく総量の少ない自分が不利

 

故に勝ちに急ぐ

 

(右腕の限界が近い!左腕を庇って酷使し過ぎた……!早々に決めなければ詰む!?)

 

槍は剣よりも力を使う、当然片腕でも扱えるように鍛えているが消耗した状態で使い続ければ限界は早い

 

故に勝ちに急ぐ

 

「楼観剣!牙壊!」

 

妖夢の一手

 

「人符「現世斬」!!」

 

渾身の踏み込み斬り

 

「ヌクッ!?」

 

穂先で受けたラーハルト、顔が歪む

 

「……グッ!?」

 

限界間際の右腕の握りが甘くなり槍が沈む

 

(今度こそ……好機……!)

 

道が開けた妖夢は最短を突く

 

「ウグッ……ガアアアアアーーッ!?」

 

突き入れられた楼観剣をラーハルトは左腕で受けた、刀身が貫通し胸の手前で止まっている

 

(普通なら最早勝負あり……ですがこの人ならッ!)

 

直ぐ様剣を引き後退する妖夢の鼻先を槍が掠めた

 

(止まりませんよね)

 

凄まじい形相のラーハルトを見る

 

「俺はまだ負けておらん……!!」

 

鬼気迫るラーハルトが攻撃を仕掛けてくる

 

(恐ろしい執念……!これが試合だと言う事を忘れてしまいそうです)

 

完全な片腕に加えダメージが深いラーハルトの攻撃を冷静に捌き機を見計らう

 

(勝負は着いたも同然……峰打ちで終わら……せ……!?)

 

気絶させようとした妖夢の体の力が突如、一瞬抜けた

 

(血を……流し過ぎ……た……!?)

 

先に自分で予想した事が起きたのだ

 

「ヌアアッ!!」

 

そして直後に振り下ろされた槍を避け切れず体を斜めに切り裂かれた

 

「ハァ……ハアッ……!」

 

「ゼェ……ゼェ……!」

 

多大な血を流し大きく息をする二人

 

「負けません……!」

 

「勝つのは俺だ……!」

 

目は死んでいない

 

「……ツアアアアッ!」

 

「……オアアアアッ!」

 

限界状態で尚も止まらぬ二人、まるで勝利に飢えた獣

 

「~~ッッ!?」

 

「グゥゥゥ!?」

 

剣と槍は斬り結ぶ

 

(見せてやるぞ……!)

 

(見せましょう……!)

 

高速の攻防の中重なる意思

 

 

((奥義を……!!))

 

 

同時に二人は心に構え、その刹那の攻防の最中に己が秘奥を宿らせ

 

二人は同時に距離を取る

 

「この切先に……一擲を成して乾坤を賭せん……!」

 

八相に構えた妖夢は神速を持って飛び込む

 

「これがダイ様の、アバン流の奥義だ……!」

 

ラーハルトもそれを使える、地、海、空の技を極めた者が扱えるアバン流槍殺法の奥義

 

「受けるがいい!!」

 

逆手に構えた槍を持ってラーハルトも神速にて突貫する

 

 

「奥秘「西行春風斬・魔倒」!!」

 

「アバンストラッシュ!!」

 

 

二人の奥義がぶつかり合う

 

 

 

「……」

 

「……!」

 

 

交差した二人の獣

 

「……」

 

妖夢は楼観剣を見る

 

パキンッ

 

楼観剣は刀身を別ち、砕けた

 

(神断ならば折れる事は無かった……この結果はあの場面で使用足りえない私の未熟に他ならない)

 

先に使ったのは妖夢の最高技ではない、その一つ前

 

多大な集中力と溜めの時間を要する技である為に速さのあるラーハルトには使えなかったのだ

 

(ですが彼の武器も切った……)

 

感触でわかる、ラーハルトの魔槍も穂先を斬り槍としては終わらせた事を

 

(残念ですがこうなった以上……引き分けですね)

 

互いの武器が壊れた事で続行不可能、故に勝負無効

 

無念ながらも晴れやかに振り向く妖夢は……

 

「ッッッ!!?」

 

固まった

 

 

 

「オオオオオオオオオッッ!!」

 

 

 

迫り来る陸戦騎

 

ラーハルトは引き分けなど考えていなかった

 

ただ勝利の為に今や長い棒に成り果てた砕けた槍を回転させ、妖夢へ飛び込んでいた

 

 

「ハーケンディストール!!」

 

 

無防備に受け、打ち飛ばされる妖夢

 

 

「かはっ……!!?」

 

二人の違いは意識の差

 

技量の勝利を望んでいた妖夢と試合の勝利を望んでいたラーハルトの意識の差

 

それが武器が壊れた事で止まった妖夢と武器が壊されようが止まらなかったラーハルトとの決定的な差になりこの結果を生んだ

 

 

「勝負は引き分けか……だが勝ったのは……俺だ」

 

 

『そこまでッ!!妖夢選手気絶ー!勝ったのはラーハルト選手だー!ちくしょー!』

 

 

二回戦、勝者ラーハルト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっしゃあラーハルトー!やってくれたなテメー!!」

 

勝利したラーハルトを一行が迎える

 

「よくぞあの難敵に勝ったなラーハルト」

 

「ダイ様に誓ったのだ、当然の結果だ」

 

友たるヒュンケルが肩に手を乗せて言う労いに頬が緩む

 

「……うっ!?」

 

「大丈夫か!?回復してやれポップ!」

 

「お、おう!」

 

立っているのもやっとなラーハルトに駆け寄るポップだったがラーハルト自身に制止される

 

「……」

 

今はそれどころではない、この傷付いた身でも優先される、先に言わねばならない事がある

 

「ダイ様……」

 

ラーハルトはダイの前で跪く

 

「この勝利を貴方様へ捧げます」

 

主への報告

 

これを持ってようやく誓いは果たされる事になるのだ

 

「……うん、お疲れ様……ラーハルト」

 

その苛烈な忠誠心とは裏腹に、ダイの言葉は酷く冷たく感じられた

 

冷たいと言うよりは感情が感じられなかった

 

まるで機械の返答のような……

 

「……ッ!?」

 

変わり行く主を肌で感じ無力な自分に憤慨するラーハルト

 

「……ありがとうございます」

 

今はただ……耐える事しか出来ない

 

(もしかしてダイお前……人間を辞めるつもりなんじゃねぇだろうな……?)

 

不穏を感じるばかり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウッ……はっ!?」

 

目覚めた妖夢は飛び起き激痛に身を捩らせる

 

「ちっ、痛みでもう起きやがったか……大人しく寝てろ大怪我人が」

 

「あうっ!?」

 

ロンに頭を掴まれ無理矢理膝の上に寝かされる

 

「永琳が手当したが苦しいならポップに回復を頼んでやる、バーンは何処に居やがるかわからねぇからな」

 

「……いえ、結構です」

 

妖夢は負けた事を思い出しロンの膝に顔を埋める

 

「ふん……敗因はわかってるな?」

 

「はい……私が甘い未熟者だったからです」

 

「わかってるならいい……泣くな、鬱陶しい」

 

「ごめんなさい……」

 

自分の甘さで負けた事が悔しくて妖夢は啜り泣く

 

「謝るな阿呆が……泣くくらいならもっと強くなれ、俺が何の憂い無く見てられるくらいにだ」

 

「はい……」

 

「……負ける気が無かったのはわかっている、勝ちたかったな……妖夢」

 

気持ちがわかるロンはそっと妖夢の頭に手を乗せ撫でる

 

「……高い授業料になったな、その痛みを戒めとして精進しろ」

 

「はい……」

 

「お前なら大丈夫だ、負けた事が悔しいと思えるお前なら、剣ではなく己の弱さを恥じる事が出来るお前なら……誰よりも強い剣士に成れる」

 

「はい……はい……!」

 

ロンに預けていた本物の楼観剣を掲げる

 

「成ります必ず……誰にも負けない、最高の剣士に……!」

 

己が信念の剣と共に魂に誓う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝負は尋常であり伯仲であった、勝敗を分けたのはほんの些細な意識の差……見事、実に見事な闘争であった、この経験を糧に更なる高みへ昇れ……妖夢よ」

 

 

何処からか王の言の葉が流れていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




どうもお待たせしました。
妖夢vsラーハルトになります。

ラーハルトの強化案としてドラクエ特技を使おうとも思いましたがダイとヒュンケルとの関係からアバン流を会得するのもアリか?という安易な考えのもと習得となりました。
それでも最後は絶対にハーケンディストールにすると決めてました、ラーハルトの代名詞ですから。

そして誤字脱字の修正をしてくれる方々にこの場を借りて感謝を!大変助かっております!ありがとうございます!
一応、確認はするんですがやはり見逃しが無くならないのです……

次回も頑張ります!

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