東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 幻想曲(ファンタジア) Ⅰ

 

 

何故、再び貴様と会うのだ……

 

もはや絶たれた筈だ、求めもしない過ぎ去りし時であった筈だ……

 

今更……何故……

 

意味など無い、無い筈だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが……もし……

 

 

 

この再会に意味が有ると言うのなら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴様は余に何を求める……

 

余が貴様に何かを求めたと言うのか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

竜の泣く声が聞こえる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勇者……ダイ……」

 

バーンは驚愕を露にしながらもその目を走らせた

 

(いつかの悪夢ではない、幻術、マヌーサの類でもない……正真正銘のダイ、だ……!)

 

有り得ない筈の人物にバーンは偽物の可能性を考えたが事象を見通す慧眼が本物だと自らに思い知らせ動悸が僅かに上がる

 

 

 

「大魔王……バーン……」

 

ダイも紅魔館に入った時から淡い予感はしていた、いたが実際に見てしまうと夢か幻でも見ている気がして実感をいまだに得ていない

 

 

「……ッ!!?」

 

ダイ以外も信じられない思いが凄まじく動く事も声を出す事も出来ない

 

 

「……」

 

「……」

 

 

数瞬の沈黙が場に流れる

 

「……生きてたんだな、てめぇ」

 

最初に言葉を発したのはポップだった

 

「……」

 

バーンは返さない、様子を伺う様に一行を睨んでいる

 

「へっ……だんまりかい」

 

強気な言葉を投げるも滴る汗と臨戦態勢なのが焦燥を表している

 

「どうやって生き延びたんだ?聞かせてくれや大魔王さんよ……?」

 

ポップは挑発する様な言い方をする

 

「……」

 

バーンはポップを強く威圧する

 

(ち、ちびりそうだぜぇ……)

 

戦闘になる可能性は高かったがポップにはある確信があった

 

「呪いはどうやったんだよ……?」

 

「……!」

 

その言葉にバーンは反応した

 

「……何故その事を貴様が知っている?」

 

「当たりみてぇだな……少しは話す気になったかよ?」

 

ポップは武器を下ろしつつも緊張絶えぬ面持ちで会話を求めた

 

「話すだと!?何をポップ……!?」

 

クロコダインを筆頭に異を唱えてくるがポップは手をかざし制止する

 

「頼む、少し俺に任せてくれ」

 

返事も聞かず無理矢理納得させたポップはバーンへ向き直る

 

「先に言わせてくれ、俺達は危害を加えに来たつもりはねぇし決着をつけに来た訳でもねぇ、そこはわかって欲しい」

 

「……美鈴と咲夜とウォルターを倒しておいてか?」

 

「そいつはこのバカが騙されて突っ走った結果だ、俺達はそれを止めに来た」

 

「……騙された、か……」

 

聞いたバーンはポップから目を離しポップ等の後方を一瞬睨み視線を戻す

 

「では余からも聞こう、貴様等はどうやって幻想郷に来た?」

 

「破邪の洞窟の中に旅の扉があってそれを通ったらここに飛ばされたんだよ」

 

「……」

 

いまだバーンは威圧を解かない

 

(嘘は言っていない、意図的に来たわけではなく大結界の揺らぎに巻き込まれ偶発的に幻想郷に来てしまったか……よりによってこやつ等が……)

 

忘れ難き敗北をもたらした元凶を前に良い感情は生まれない

 

敗北した事で幻想郷に来れた事は感謝していると言ってもいいがそれはもう会わない事が前提の話

 

いざ改めて会うと言葉に表せぬ感情に戸惑うくらいだった

 

「では先の質問だ、ポップ……何故貴様が余の呪いの事を知っている?」

 

「そいつは……」

 

ポップが答えようとした直後

 

「どうしたの!?」

 

「バーン様!!」

 

魔力に飛び起きたレミリアと永遠亭から戻り異変に気付いたミストがやってきた

 

「ミストまで居るのか!?」

 

「お前はヒュンケル!?ッ……バーン様ッ!!」

 

霧になってすり抜けたミストがバーンの前に塞がるように立つ

 

「御無事で!?」

 

「大丈夫だミスト、まだ動くな」

 

臨戦態勢で牽制するミスト、今にも攻撃しそうな勢いをしている

 

(どういう状況?知り合いのように見えるけど互いの敵意が強過ぎる……こいつ等バーンの何なの?……あら?)

 

状況を把握しようとしたレミリアは気付いた

 

「貴方と貴方、見た覚えがあるわね……確か三下のホッフと……誰だったかしら?」

 

「ポップとマァムだ嬢ちゃん……やっぱお前さんだったかよ……レミリア・スカーレット」

 

3人はその昔にあった事がある、ポップとマァムは数年前、レミリアは100年以上も前に

 

(という事はこの中にバーンを倒した奴が?)

 

レミリアの目はすぐにダイで止まった

 

(あいつか……一目でわかる……竜、魔、人、三重に束ねられた恐ろしく強い運命に縛られた人間……)

 

見て率直に感じたのは不憫、だった

 

「あぁそんな名前だったわね、それはそうと随分と久し振りね……それで?何しに来たの貴方達……貧困に喘いで盗人?恵んであげようかしら?」

 

「ちげぇよ、あーもう……とにかく俺達は戦いに来たわけじゃねぇ!」

 

「ふぅん……」

 

値踏みする様な妖しげな瞳が一行を撫でる

 

「って言ってるわよバーン?」

 

「レミリア……お前はこやつ等に会った事があるのか?」

 

「貴方の呪いを解きに破邪の洞窟に行った時にそこの二人だけね」

 

「……それでか」

 

ポップが呪いの事を知っていた理由がわかり疑問が解けたバーンだったが未だ警戒は続いている

 

「……そろそろ出てきて釈明でもしたらどうだ?死にたいのか」

 

バーンは階段を睨む

 

「いやぁ……あの、えへへ……」

 

すると階段から申し訳なさそうに文が降りてきた

 

バーンが感知を行ったさい、1人はよく知る者だった、それが写真を撮ろうとやって来た文だったのだ

 

「お前の差し金だろうが?やってくれたな射命丸」

 

この状況を画策したであろう犯人を睨みつける

 

「あやや!?ちち、違うんです!私も困ってたんですよ!鬼人正邪の嘘に乗っかって美鈴さんにダイ君がボコボコにされてそれをネタにするつもりでやって来たら美鈴さんは倒されてるしお仲間さんは来るしバーンさんは怒るしでもう困って困って……」

 

必死の釈明もとい自白にバーンの怒気だけが強まっていく

 

「言いたい事はそれだけか?」

 

「すみませんでしたー!ごめんなさいごめんなさい!ホントごめんなさい!許してくださいお願いしますぅぅぅ!!」

 

この場に酷く似合わない土下座が炸裂した

 

それは出来る限りの本気の謝罪であり文なりにこの一触即発の状況をどうにかしようとした苦心した結果でもある

 

「少し……補足しておこうかしら」

 

レミリアが口を開く

 

「バーン……あの時は結局無意味で言ったところで些細な事だったから貴方には言う必要は無かった、けどこの二人は貴方を助けるのに協力してくれたのは事実ね」

 

「……」

 

レミリアの言葉をバーンは聞いていたが反応を返さなかった、だがポップとマァム以外が反応する

 

「どういう事だポップ!聞いていないぞ!」

 

「……嬢ちゃんの言った通りだよ、あの時の俺達は何も出来なかったんだ、だから余計な混乱を避ける為に俺とマァムとメルル、そんで先生の4人だけの秘密だったんだ」

 

「……後で詳しく聞かせて貰うぞ、生きていればな……」

 

文の土下座でさえ一向に変わらぬ一触即発の空気に場は張りつめている

 

前後に挟まれている状況に加え相手はあのバーン、戦闘になってしまった時を想定した生還率の低さを考えているのだ

 

「……ッ!?」

 

「……」

 

空気は変わらない

 

このままでは精神だけが磨り減りいつ何がきっかけで戦闘が始まるかわからない状態

 

 

「そこまで」

 

 

それを断ち切ったのは紅魔館の主であるレミリアだった

 

「このまま私の家を壊されては困るわ、抑えてバーン」

 

「……」

 

バーンの圧が少しだけ弱まった

 

「こいつ等は私が預かる」

 

「……」

 

数秒、レミリアとバーンは見つめ合う

 

「……よかろう」

 

圧を消し、魔力を抑えた

 

「貴様等の身柄はレミリアが保証した、ならば言う事は無い」

 

身を翻しミストと共に図書館に戻って行く

 

「それにこれ以上貴様等と話す舌を持たんのでな」

 

「は……はぁ?」

 

それを信じられない目で見つめる一行

 

「……!」

 

扉が閉まる途中、ダイは振り返ったバーンと目があった

 

「ッ……!?」

 

思わずダイは目を逸らしてしまう

 

そしてそのまま扉は閉まり、静寂が訪れた

 

 

「はぁ……はぁ……!?」

 

「はぁぁぁ……」

 

一行は緊張から解放され息を大きく

 

「おい……ウッソだろ……?」

 

そして驚いたのも勇者一行全員

 

「あのバーンが……誰かの言う事を聞いて退いたぁ?」

 

そう、あのバーンが

 

魔族の王として頂点に座し誰に迎合する事なく己が望むままに生きていたあの男が退いたのだ

 

(嬢ちゃんだからか?だとすりゃ何モンになっちまったんだ……)

 

たった一人の女性の言葉で

 

「おい嬢ちゃん……安心して良いんだよ、な?油断させて後ろからドスッ!とかじゃねぇよな?」

 

「安心なさい、この私、レミリア・スカーレットの名において貴方達の幻想郷での安全は保証されたから、もっとも……それは貴方達次第なのもわかるわよね?」

 

この場はレミリアが取りなし最悪は回避された、更には幻想郷での立場も保証してくれた

 

しかしそれはあくまでも一行が敵対行動を取らない限りの話であると言っているのだ

 

「わかってるよ」

 

「別に暴れてくれても全然構わないわよ?ただ……その時はバーンだけではなく、私達も本気で殺すだけだから」

 

「うっ……」

 

一行は気圧された

 

軽く流すように言ったレミリアの目が嘘ではなく、そして立ち登る紅い強烈なオーラが否応なく幻想郷が敵になるというポップが一番恐れている事が現実になると本気で思わせたのだ

 

「ああ……わかった、止めてくれて助かったぜ……レミリア・スカーレット」

 

念を押されたポップは窮地を救ってくれたレミリアに本当に感謝し頭を下げた

 

 

「ふあ~……じゃあ少しお話でもする?着いてきなさいな……おいブン屋!」

 

オーラを消して眠そうに欠伸をしたレミリアはまだ土下座している文を呼ぶ

 

「は、ハイッ!」

 

「お前は暫く紅魔館の奴隷だ、わかったら今すぐ寝てる3人を起こして来い」

 

「はい!かしこまりました!」

 

奴隷になった文は直ぐ様3人を起こしに飛んで行った

 

「さっ、行くとしましょうか」

 

流石にバーンの居る図書館では話せないと地下の階段を登っていった

 

 

 

 

 

「ね~お姉様ぁ……どうしたの~?」

 

適当な部屋に向かう途中、廊下の角から寝ぼけ眼を擦るフランが現れた

 

「あら、貴方も起きたのフラン、寝てて良かったのに」

 

「そうなのぉ……?じゃあそうするね~」

 

部屋に戻って行くフランを見届けたレミリアは廊下の奥へ向かって親指と人差し指で丸を作る

 

すると奥から顔を出していたパチュリーが頷き引っ込んだ

 

「今の二人は……?」

 

「妹と親友よ、時間があれば紹介するわ……ちなみに貴方達が暴れてたらあの二人も来てたわよ」

 

「そ、そうなのか……妹がいたんだなお前さん」

 

「最初に来たのが私で良かったわね、親友はともかく妹は問答無用だったかもしれないから」

 

「妹さんそんなにヤバイのか?見た感じそんな風にゃあ見えなかったが……」

 

「今は完全に寝惚けてるからね、可愛いでしょう?でも普段ならそうね……貴方達の誰よりも強いでしょう腕力でブチのめすかしら」

 

「はぁ?あんな小さい子がかぁ?さすがに冗談キツイ……いや、すまねぇ気にしないでくれ」

 

フランと見た目が差程変わらないレミリアは破邪の洞窟を3日で150階まで到達している事を知るポップは有り得る話で失言だったと反省する

 

「ん~と、この部屋で良いかしらね」

 

適当な部屋へ入り皆を座らせる

 

「お嬢様、申し訳ありませんでした」

 

突然レミリアの横に起こされた咲夜が現れ頭を下げた

 

「構わないわ不問にしてあげる、貴方達を連れ回したのは私だから責任は私が持つ、美鈴にも伝えといて……それで紅茶は?」

 

「用意してあります、どうぞ……では業務に戻ります」

 

手慣れた手つきで既に持っていた人数分のカップに紅茶を注ぎ差し出し、また消えた

 

「お、おい……今のどうやったんだよ?魔力が無かったからルーラじゃねぇ……瞬間移動か?」

 

「え?あぁ……貴方達が知らないのも当然か、突然居たり消えたりするのは私のメイドの能力「時を操る程度の能力」によるものよ、彼女は時間を止めれてその中を彼女だけが動けるの……瞬間移動よりも高尚な能力ね」

 

「と……時を止めるだぁ!?」

 

一行は大いに驚いた

 

それはそうだ、時を操るなどふざけてるにも程があるのだ

 

「無敵じゃねぇかよ」

 

「それが色々と制約もあってそこまで強いわけじゃないのよ、戦闘以外では最高クラスに有能な能力だけれどね、実際あの子の実力は幻想郷の中では下の上か中の下辺りよ」

 

「そんなもんなのかよ……しかしたまげたな……」

 

そんな世界を支配出来そうな大層な力を持っても幻想郷ではその程度、レミリアのメイドで納まっている様子から改めて異様な場所なんだと認識する

 

「咲夜の事はもういいわ、それより……」

 

レミリアは仕切り直して一行に問う

 

「今までの経緯を教えて貰いましょうか、幻想郷に来た目的、それと紅魔館に来た理由も……まぁ有って無いようなもんでしょうが一応ね」

 

「わかった」

 

 

 

 

 

・・・・・勇者一行説明中・・・・・

 

 

 

 

 

「ふーん……私が行った破邪の洞窟からねぇ」

 

大方の説明を受けたレミリアは紅茶を一口飲み、少し考えた素振りを見せてカップを置いた

 

「何だってそんな所に?」

 

「そいつはまぁ……俺達の実力を確かめたかったっつーか、なんつーか……」

 

「……?」

 

何とも歯切れの悪いポップの言葉にレミリアは首を傾げて見るが一行の意識がダイに向いている事に気付く

 

(この子が居るから話づらいって事かしら?なら原因はこの子か、この……バーンを倒した……)

 

ダイを見つめるレミリア、ダイは悪い事をした自覚もあって申し訳なさそうに頭を下げる

 

「なぁ嬢ちゃん……いや、レミリア・スカーレット、聞いていいかい?」

 

「レミリアで良いわ、なに?」

 

質問を許されたポップは息を飲み問うた

 

「大魔王……バーンの事さ」

 

一行全員が気になっている事を

 

「まっ気になるでしょうねそこは、ポップとマァムは事情を知ってる訳だし尚更でしょう」

 

「聞いても良いんだよ、な?」

 

「ええ、隠す事でもないし……バーンは貴方達に知られるのに良い顔しないでしょうけど大丈夫よ」

 

「んじゃあ……あの後から教えてくれよ、お前さんが帰った後だ……呪いからどうやって生き延びたんだよ?」

 

「……生き延びたわけじゃないわ、死んだのよバーンは……呪いでね」

 

そうしてレミリアは語りだした

 

良い記憶とは言えないあの時からの事を思い出しながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・図書館-

 

「……」

 

バーンは立ったまま虚空を見つめていた

 

「…………」

 

思いもしなかった再会にただ立ち尽くしている

 

「バーン様……大丈夫ですか?」

 

傍に居るミストが問う

 

「……心配無いミストよ、お前も門番に戻るがよい」

 

「しかし……」

 

ミストはバーンの身を案じている、それは近くに勇者達が居る危険からなのは勿論だが何よりバーンの体調を慮っての事

 

「先も言ったが奴等の身はレミリアが保証した、問題は無い」

 

「……」

 

ミストが本当に気にしているのはそこではない、勇者達の事よりもバーンの事を気にしているのだ

 

「わかりました、何かあればすぐお呼びください」

 

今は一人になりたいのだと察したミストは図書館から出ていく

 

「……何故だ」

 

一人になったバーンは椅子に腰掛け、虚空を睨む

 

「何故……今更……」

 

言い様の無い感情だけが渦巻いている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんなところかしらね」

 

話終えたレミリアが一息つく

 

「……そんな事があったかよ」

 

一行は全てを聞いた

 

バーンが死に、再誕し、幻想郷でしか生きられなくなった事も含め何もかもを……

 

「ふぅ……」

 

大きく息を吐き沸く感情と考えを整理するように一行は暫し押し黙り、それを感じながらレミリアはもう温くなった紅茶を飲む

 

「あの……」

 

ダイが口を開いた

 

「良かったん……だよね?」

 

「……どういう意味?」

 

「あ、ごめん……上手く言えなくて……その、何て言うか……幸せ?なのかなって……」

 

ダイが言いたいのは今のバーンはそれで良いのか知りたいのだ

 

「それは本人しかわからない事よ、本人に聞きなさい、私から言えるのはバーンは後悔していない……それだけよ」

 

「そう……なんだ」

 

レミリアからの答えを聞いてダイは悔しそうな顔を一瞬見せた

 

(この子……)

 

他の7人に比べ明らかに様子が違うダイを見てレミリアは思案する

 

「貴方達、これからどうするつもりなの?」

 

「もちろん帰るさ、そりゃバーンの事や他に気にならねぇわけじゃねぇけどよ……向こうで帰りを待ってる奴等がいるからな、早く帰らなきゃ心配させちまう」

 

「そうよね当然……当たり前の話よね」

 

答えながらレミリアはダイを見る

 

「~~~~ッ!?」

 

何か言いたそうだが必死に我慢して唇を噛む姿が見える

 

「……」

 

頬杖を付き、思案中だとわからせる様に指を肘掛けにトントンと打ちながらダイを見つめる

 

(このまま帰らせるのは違うと私の能力が囁いている、この再会はまだ意味を持っていない……その答えは私には出せないけれどそこに至る道は今私しかおそらく作れない)

 

運命に関する能力がレミリアを後押しする

 

「決めたわ、貴方達……しばらく幻想郷に滞在しなさい」

 

「あん?……はぁ!?」

 

一瞬何を言われたかわからなくて理解したポップが声をあげダイが予想外の言葉にきょとんとしている

 

「待て待て待て!言ったよな!?俺達早く帰らないといけねぇって!」

 

「言ってたわね、許可しないわ」

 

「ざけんな!何でだよ!?」

 

帰る事を認めてくれない事にポップは声を荒げる

 

「貴方達は私に迷惑を掛けた、私の紅魔館に無断の不法侵入……それは酷い罪よ、罪は償って貰わないといけないわ」

 

「ぐっ……そいつは悪かったさ、土下座しろってんならする、だからそれは勘弁してくんねぇかレミリア」

 

悪い事をしたと自覚しているポップは強く言えずどうにか許して貰おうと嘆願するもレミリアは首を振る

 

「貴方の土下座なんて何の価値も無い、でもそうね……勘弁して欲しいなら代わりに慰謝料で手を打つ?貴方達の通貨で1000万で良いわ、今すぐよ」

 

「……!?」

 

「払える?払えないわよね」

 

今の一行にそんな金は無い、幻想郷でゴールドが稼げる筈も無い、要は帰らせる気が無いのだ

 

「なら残念だけど滞在して貰うしかないわね、まぁ安心しなさい何も何ヵ月何年も居ろなんて言わないから、そうね……10日くらいかしら」

 

「ぐぐっ……!?」

 

ポップは唸るしか出来ない、それはレミリアが本気の意地悪をしているのではないとわかっているからだ

 

「条件は一定期間の「滞在」それのみよ、労働を強制するつもりは無いし自由を約束しましょう、滞在中の宿泊費等の面倒は全て私が持つ、紫に頼んで貴方達の世界への連絡も取りもつ」

 

「……」

 

最後の条件を聞いてポップはやっぱりなと肩を落とした

 

「レミリアよう、素直に幻想郷で遊んでいけって言えねぇのかよ?」

 

「バカね、素直に言ったら貴方達普通に帰るでしょうに、こうでもしないとね」

 

「違ぇねぇけどよ……はぁ……」

 

観念した様にポップは皆に振り向いた

 

「つーわけだ、俺達に拒否権はねぇ……しばらく此処で過ごす事になんぞー」

 

あのバーンすら退かせたレミリアは幻想郷でかなりの地位に居るのは間違いない、そのレミリアがその気になれば帰らせないのは簡単だろうとポップは考える

 

だから気の抜けた声でそう言うしかなかった

 

「俺はダイ様に従う」

 

「んじゃ俺も隊長に従うぜ」

 

ラーハルトとヒムが答える、ダイとチウだけが例外なわけがないので実質了承したのと同義

 

「ありがとうラーハルト!」

 

「うんうん!ヒムちゃんわかってるねー!」

 

ダイはとても嬉しそうに笑いチウも楽しそうに腕を組んで頷いている

 

「実はもう少し居たいと思っていたのだ、丁度良い」

 

「連絡が取れるなら心配はさせないし良いんじゃないかしら」

 

クロコダインとマァムも了承する

 

「俺も時間があれば行ってみたい所があった、好都合だ」

 

ヒュンケルは目的があるらしく期待を秘めた顔をしていた

 

「よろしい、では何処に泊まる?此処なら部屋も空いてるし食事も何もかも世話を出来るけれど?」

 

レミリアは一応聞いた、相手は勇者一行だから滞在中は紅魔館に泊まるかを聞いた

 

「あー……それなんだが里の宿屋でいいかい?」

 

「わかったわ、咲夜に言って話しは通しておくから安心なさい」

 

バーンの居る紅魔館で泊まる気にはなれなかったのだ、レミリアもそれを気遣って聞いたに過ぎない

 

「すまねぇ、敵意があるからとかそんなんじゃねぇんだ気を悪くしねぇで欲しい」

 

その気遣いをポップもわかっているから謝る、気まずくて近くに居たくないのだ

 

「わかってるからもういいわ」

 

レミリアは指を鳴らす、すると背後に咲夜が当然のように出現した

 

「何でしょう?」

 

「こいつ等に纏まった金銭と里の宿屋にとりあえず1月分払っといて、余ったらやると言っときなさい、それと文に紅魔館の半径10キロの雑草を全て抜くように言っといて」

 

「かしこまりました、ではすぐに……」

 

咲夜が礼をした瞬間に消え、ポップの目の前に大金が入った袋が置かれていた

 

「……多過ぎねぇか?こっちの通貨の価値はわかんねぇけどよ」

 

「いいのよ、私が歓待すると言った以上最高のもてなしをするのはスカーレットとして当然の事、持つのが面倒なら全てツケにしても構わないわ、あ、案内人は要る?文にやらせるわよ?」

 

「もういいもういいって!ただでさえ申し訳ねぇのに罪悪感で潰れちまう!」

 

過剰なまでの待遇に焦りながら打ち切ったポップは立ち上がる

 

「んじゃあお言葉に甘えさせて貰うとすんぜ」

 

「ええ、連絡の件は少し待ってちょうだい、紫と連絡が取れ次第咲夜を寄越すわ」

 

「わかった、またなレミリア」

 

「良き幻想の旅を……咲夜!門まで送って」

 

既に宿の手配を済ませた咲夜を呼んで一行を見送る

 

「……眠いわね」

 

小さく欠伸をしながらレミリアも部屋を出ていった、だが行き先は自室の方ではなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・図書館-

 

「……」

 

ずっと虚空を見つめているバーン

 

「……なんだアレは」

 

手に力が入り拳が握られる

 

(あれが……余を倒した勇者だと言うのか?あんな……覇気の無い弱々しい顔をした男が……?)

 

あの顔が頭から離れない

 

宿敵とさえ言える男の今の姿が感情を揺さぶる

 

「貴様に何があった……」

 

呟かれる独白、それは虚空に消えていく

 

「とりあえずは里に帰ったわよ」

 

不意に背から腕が首に絡めてくる

 

「そうか……起こしてすまなかったレミリア」

 

「いいのよ、それとアイツ等少し幻想郷に滞在してもらう事にしたから」

 

「……そうか」

 

「嫌だった?」

 

「……正直言うとわからん、もう会う事は無いと思っていたのだ……嫌悪は少なからずある、だが憎くは無い、滞在すると聞いて安堵に似た感情を持ったのも事実……だな」

 

「そう」

 

腕をほどいたレミリアはそのままバーンの膝に座る

 

「眠いからここで寝るわ……おやすみ」

 

バーンの返事も聞かず体を預けたレミリアはよほど眠いのかすぐに静かな寝息をたて始める

 

「……しようのない奴よ」

 

愛い寝顔に渦巻く感情を抑えられたバーンは微笑み、髪を撫でる

 

「……」

 

気遣ってくれている事を理解したバーンはまた虚空へ視線を向ける

 

 

「余は……どうしたいのだ……」

 

 

答えはまだ出ない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




急に書けなくなった……

バトルにはなりませんでした、期待していた方すみません。

夢想曲は再会まで、再会後は幻想曲として続きます。

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