東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 夢想曲(トロイメライ) Ⅳ

   

 

 

-太陽の畑-

 

「起きろ美鈴」

 

夜も白み始めた早朝、ミストが美鈴を揺り起こす

 

「うー……あと50時間寝かせてください……」

 

「ふざけるな、門番をせねばならん早く起きろ、紅魔館に戻るぞ」

 

「今日は休みましょうよ~」

 

「私はお前が休んでも構わんがレミリア様と咲夜殿が許すと思うか?咲夜殿は既に帰り支度を始めている、刺される前に早く起きろ」

 

「うあ~……わかりましたよぉ……」

 

異常に怠い体を起こし美鈴はふらふら立ち上がる

 

「眠い……ついさっきまで飲んでたからなぁ……頭も痛いガンガンしますぅ……」

 

「私は睡眠が必要無いから大丈夫だがな、酒も飲めないから酔う事も無い」

 

「ズルいですよねミストって……アイタタ……」

 

「レミリア様は咲夜殿が、フラン様はウォルターが連れて帰る、パチュリー様は私が連れて帰ろう」

 

「えと、確か……片付けは他の人達がしてくれるんでしたよね?」

 

「そうだ、だから我等は帰って御三方を休ませてから仕事だ」

 

「あう~眠い……頭痛いぃ……」

 

「……仕方ない、パチュリー様を頼めるか?永遠亭で薬を貰って来てやる、少しはマシになるだろう」

 

「助かりますミスト……任せてください、アイタタ……」

 

「落とすなよ美鈴……」

 

酔い潰れたレミリア、フラン、パチュリーを咲夜、ウォルター、美鈴が抱え紅魔館に帰っていきミストは美鈴の為に永遠亭へ向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-人間の里-

 

「な、なんだってぇぇぇ!?」

 

一瞬で目が覚めたポップが声をあげる

 

「いつからだチウ!」

 

「わ、わからないんだ……皆を起こそうと思って部屋を見たらもう居なくて……」

 

「ラーハルトは!?ダイと一緒の部屋だったのはあいつだろ!」

 

「ら、ラーハルトはすぐに里を探しに行ったよ」

 

「……ッ!?わかったぜ」

 

状況を把握したポップが思案しているところへ他の者達も集まってくる

 

「朝の散歩……ではないわよね」

 

「ああ、ラーハルトに伝言も無く気付かれないように抜け出したって事は違う……クソッ!」

 

「落ち着けポップ、まずはラーハルトが戻って来てからだ、すぐに出る用意をしておくぞ」

 

準備を済ませ宿の前に出るとラーハルトが戻ってきた

 

「どうだった!?」

 

ダイが一緒にいない事にやはり何処かへ行ったのだと実感する一行

 

「里内は粗方見た、門番に聞いてきたが陽が昇る頃に装備を受け取って出ていったらしい……行き先はわからん」

 

「……チクショウが!」

 

「すまん……気付かなかった俺の責任だ」

 

「……悪い、熱くなっちまった、おめぇを責めてるわけじゃねぇ、ダイが本気出せば誰にも気付かれないように抜け出すなんて簡単なんだからよ……責任は気が緩んでた俺達全員にある」

 

実際、テランの森に抜け出して行った事もある、その時も総出で探してポップが見つけたのだ

 

「ラーハルト、昨日マァムから聞いたけどダイの様子がおかしかったんだよな?」

 

「ああ……皆が揃ってから仔細を話そうと思ってたが昨日ダイ様と一緒ではなかった時間がある、その後からだダイ様の様子がおかしかったのは」

 

「一緒じゃなかった?何かあったのか?」

 

「俺とダイ様を監視している奴が居て対応に追われていた、逃げられてしまったがな」

 

「監視だぁ?鬼人正邪か?もしかして?」

 

「奴ではない、ヒュンケルとの戦闘を見た限り俺を振り切る実力は無かった、断言は出来んが違う手合いだろう」

 

「じゃあ誰が何の為に?いや……今はそれどころじゃねぇ!」

 

ズレていた話を戻したポップは腕を組み考える

 

「ラーハルトが居ない間に何かあったのはまず間違いねぇだろう、だとして問題はダイが何処に行ったかだ」

 

「アテ無くだとしたらマズイな、楽しそうに冒険だと言ってたくらいだ、有り得ん話ではない」

 

「その可能性は有るな……けど俺は紅魔館だと思う」

 

「私も紅魔館と思うわ、あれだけ行こうとしてたんだからおかしくないんじゃないかしら」

 

「現状で思い付くのは紅魔館だけか……アテもねぇんだ行ってみるしかねぇか」

 

一行はダイを追って紅魔館へ向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結構歩いたけどまだ遠いなぁ」

 

その頃ダイは幻想郷の平野を歩いていた

 

「飛べたら早いんだけど……」

 

行き先は紅魔館である

 

「文に止められたから仕方ないか」

 

昨日の事を思い出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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・昨夜・

 

「ありがとう文!じゃ何話そうか?そうだ!今日鬼人正邪って人から聞いた話なんだけど……」

 

ダイは早速とばかりに文へ尋ねた

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいダイ君!」

 

しかしそれは文に止められる

 

「鬼人正邪に会ったんですか?」

 

「え?うん、そうだよ」

 

「ほうほうなるほど……」

 

ダイから正邪に会ったと確認を取ると文は思案する

 

(という事は何やら吹き込まれた可能性がありますね……ふむふむ)

 

悪戯をする正邪と会っていたという事実を飲み込む

 

「どうしたの?」

 

「いえいえ何も……それでなんでしょう?」

 

少し文の様子が不思議だったがダイは話しだす

 

「紅魔館ってところに居る幻想ノ王バーン・スカーレットって奴が幻想郷を支配しようとしてるって本当?」

 

「ん?ん~~?少し待ってくださいねダイ君、何度もごめんなさいちょ~~っと理解させてくださいね」

 

ダイを再び止めて文は思案する

 

(バーンさんが幻想郷を支配?ナイナイ!絶対あるわけないですね、間違いなく鬼人正邪がついた嘘……目的はよくある頂点達への嫌がらせ1択でしょう)

 

結論付けた文はもう少し待ってとダイに手をかざす

 

(さて……ここで貴方騙されてますよバーカと否定するのは簡単です、ですがそれだと全っ然面白くありません、であるならば……)

 

ここで文はダイを横目で見た

 

「?」

 

見た目は青年とは思えない無邪気な子どものようなとても純粋な瞳に文はゾクリと感じるものがあった

 

(ん~~ンフフフ……!何だかいけない気分になってしまいますねぇ、無垢な子どもを騙すのは……!)

 

汚く悪しき射命丸文の本性が醜悪な笑みを浮かべる

 

「オホン!お待たせしましたダイ君!お話は全て理解しましたよ!」

 

文は新聞の記事になるネタを求めている

 

「さっきのお話ですが……鬼人正邪の言っている事は本当です」

 

ネタの為なら何でもしてしまう性根が正邪の悪戯を後押しした

 

「やっぱりそうだったんだ!オレの仲間は信じてなくて困ってたんだよな~」

 

「鬼人正邪は胡散臭いですからね、ですが数少ない幻想郷の真実を知る1人ですよ」

 

そうと決めた口は回る

 

「他の方が私以外に会えば鬼人正邪が嘘を言っていると言うでしょうね、それだけ幻想ノ王の支配が進んでいるんです、ですから他の方の言う事は信じない方が良いです」

 

より面白そうな方向へ

 

「それでダイ君はそれを聞いてどうするんです?」

 

「助けるよ、みんな苦しんでるんでしょ?」

 

迷う事無くダイは言った

 

それは成長したとはいえまだまだ世間知らずであり更にはその純粋さ故に信じやすい事、そして優しさも重なった結果

 

疑う事が苦手なダイが嘘に便乗した更なる嘘に気付けるわけがなかった

 

「それは願ってもない!しかしお仲間さんに反対されるのでは?」

 

「そうなんだよなぁ……1人で行くしかないか」

 

「それは……大丈夫なんですか?」

 

文が言っているのは強さの事

 

「大丈夫だよ、オレ結構強いんだよ!」

 

笑顔でダイは言う

 

(見えませんけどね~)

 

文はダイの力を測れていない、戦闘を専門にしていないから潜在的な力の感知が不得手なのだ、だから子どもっぽい青年が根拠の無い見栄を張っている風にしか見えていない

 

(どうせ美鈴さん辺りにボコボコにされて泣かされるでしょ、それを記事にしましょう!「激写!外来人を虐める紅魔館!!」みたいな感じで行きますか~!)

 

既に皮算用すら始めている文

 

「ダイ君はどれくらい強いんです?飛べたりしますか?」

 

幻想郷での戦いにおいて一般的な事を問う

 

「オレは飛べるよ!トベルーラって呪文があるんだ」

 

「ほほぅ、バーンさ……いえ、バーン・スカーレットと同系統の呪文を使えるんですか、それは素晴らしいですが紅魔館に着くまでは使わない方が良いですね」

 

「どうして?」

 

「外来人の貴方が飛んでいると目立つんですよ、幻想郷は狭いですからね、ヤバイ人達とのエンカウント率がバリ高になっちゃうんです」

 

文のこの提案は他の有名人に見つけられにくくするのは当然だが主は紫への出来る限りの対策である、少しでも紅魔館へ辿り着くまでの障害を減らそうとしているのだ

 

「そうなんだ、じゃあ歩いて行くよ」

 

素直にダイは受け入れてしまう

 

「……!?」

 

直後に文は気付く

 

(さっきの人の気配が少しずつ近付いて来ましたね……時間はあまり無いですか)

 

ダイを探すラーハルトの気配を察知した文は急ぎ行動に移す

 

「お願いしますダイ君……お仲間さん達を騙す事になりますが貴方しか頼れる人が居ないんです……!」

 

ダイの手を握り文は縋るような瞳で願う

 

「私達を……助けてください……!」

 

無論、正邪と同じく演技である

 

正邪が頂点達への叱咤激励を込めた嫌がらせなら文はただの悪意、余計に質が悪い

 

「わかったよ……オレが何とかする」

 

まんまと乗せられ約束してしまうダイ

 

「では私は急ぎの用事が出来てしまったので失礼します!また会いましょうダイ君!サヨナラ!」

 

「あっ!文……」

 

そして早口で告げた文は一瞬で消えてしまった

 

「……」

 

一人になったダイは物悲し気に夜の闇を見つめる

 

「……ごめん」

 

それは誰に対しての謝罪なのか……

 

騙す事になる仲間への謝罪なのか、迷惑をかける幻想郷への謝罪なのか

 

それとも情けない自分への謝罪か……

 

 

「……」

 

 

言葉にならぬ小さな竜の悲鳴

 

誰に聞かれる事無く闇に消えて行く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(もう行くしかないんだ……よし!)

 

覚悟を決めたダイは進む

 

「あれ……?あそこだけ霧がかかってる……」

 

ダイの遠目に霧の湖が見えていた

 

(迂回した方が良いかな?でもポップ達が追ってくるのを考えたら最短が良いか……)

 

決めたダイは真っ直ぐ進んで行った

 

紅魔館までもう少し……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もたもたすんなチウ!」

 

急いで支度を終えたポップ等は紅魔館の場所を聞いて里を出発していた

 

「ま、待ってー!」

 

チウも急いでいるが足が短く他よりどうしても遅い

 

「急ぎ過ぎよポップ!チウが置いていかれてるわ!」

 

「ッ……すまねぇ」

 

マァムに言われて走る速度を落とす

 

「どうしたのポップ?焦るのはわかるけど少し焦り過ぎよ」

 

「悪かった、けどよ……ダイが1人で攻撃を仕掛けに行ったんなら洒落じゃ済まねぇ事になるかもしれねぇんだ」

 

「そこまで?貴方が冷静さを欠くぐらいの事になるの?」

 

「……あんまわかってねぇみたいだな、わかった……皆もよく聞いてくれ」

 

走りながらポップは真剣な顔で話し出す

 

「ダイは俺達の世界で大魔王すら倒した世界最強の勇者だ、それはわかるよな?」

 

「ええ……」

 

「そんな奴が敵だと勘違いしたまま止める奴も居ない状況で暴れたらどうなると思う?……死人が出ちまうんだよ」

 

ポップが一番恐れているのは幻想郷の者の死

 

帰る方法を潰すどころか幻想郷を敵に回す可能性を危惧しているのだ

 

「ッ……!?でも紅魔館には強い人がたくさん居るみたいだしそんな簡単に死んだりは……」

 

「その強い奴等が大魔王バーンぐれぇ強いんならな、そんな奴がそうそう居る筈がねぇ……ましてや頂点だっけ?俺達は見た事すらないんだぜ?希望的な考えは捨てた方がいい」

 

ダイの力はその気が無くとも容易に殺しうる可能性を持ち、まだ全容を知らない幻想郷が相手だからこそ最悪の可能性を想定しているのだ

 

「……私が甘かったわ」

 

それを聞いてマァムも含め全員が意識を引き締める

 

「ポップだけ先に行くのはどうだ?飛べるから速いだろ?」

 

「それも考えたけど道中何があるかわからねぇ、はぐれたら合流出来ないかもしれねぇ事を考えたら固まってた方が良い」

 

「そうか……よっしゃ!ならこうだ!」

 

ヒムがチウを肩に乗せ肩車の形を取る

 

「これで問題解決だろ?急ごうぜ!」

 

「ヒムちゃんナイス!行けー!」

 

「よし!急ぐぜ!」

 

勇者を追って一行も紅魔館へ急ぐ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館-

 

「眠い……頭痛い……怠過ぎるぅ……」

 

帰ってきた美鈴達は眠るレミリア達を私室に送り届けると業務を始めようとしていた

 

「愚痴ってないで早く門番に行きなさい」

 

「咲夜さんとウォルターは平気なんですかぁ?」

 

「ちゃんと眠いし頭も痛いし怠いわよ、顔に出さないだけ」

 

「それが私達の在り方ですからね」

 

普段通りの顔をしているが美鈴にはわかった、眠気と頭痛と倦怠感で真っ直ぐ立とうとする体がすぐにブレているのが

 

「咲夜さんは良いですよね~最悪限界になっても時を止めて休めるんですから……卑怯ですよねウォルター?」

 

「否定はしませんがその分咲夜さんは働かれてますから」

 

「さっさと行かないと眠気覚ましに頭に刺すわよ?」

 

「覚めずに永眠しますよねそれ……じゃあ行って来まーす」

 

「居眠りしたら本当に刺すから気を付けなさい」

 

「わかりました!……あー眠い……」

 

咲夜とウォルターの二人と別れ門へ向かう

 

(ミスト早く帰って来ませんかねぇ……眠過ぎて死にそう……)

 

薬を貰って来てくれるミストを思いながら大きな欠伸をした

 

「……!」

 

同時に気付いた

 

(誰か来てますね……知らない気……こんな朝早くから……?)

 

そう遠くない所から紅魔館へ向けてやってくる気配を感じ取った

 

(1人……外来人?観光……だと良いんですが……)

 

気怠い体に少し力を入れる

 

(鬼が出るか蛇が出るか、はたまた竜か……今は勘弁して欲しいなぁ……)

 

何でこんな時に来るんだとまだ見ぬ来訪者に独り愚痴た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・図書館-

 

(……結局行きそびれたか、この本に惹かれてしまったからな)

 

帰って来たのを察したバーンは新たに読んでいた「星空の守り人」と書かれた本を机に置き酒を注ぐ

 

(ここにまだパチュリーはおろか誰も来ないという事は酔い潰れて寝ているのだろうな、咲夜かウォルターがもうすぐ挨拶に来る、と言ったところか)

 

酒を飲むと誰かが図書館に入ってくる音が聞こえ予想通りだとバーンは小さな笑みを浮かべた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(さて……)

 

もう視界に入るところまで来た来訪者を前に美鈴は変わらず佇む

 

(……子ども?大人と中間くらい、ですかね)

 

視界に入った者が徐々に近付いてくる

 

「……」

 

距離にして30メートル程まで近付いた時

 

「……!!?」

 

美鈴がそれを感じ取り、全身から冷汗を吹き出させた

 

(巨大な竜……!?双竜の……気……!!?)

 

幻想郷でも指折りの実力者であり、気を操る武道家であるが故に歩いてくる青年の深奥を探り、知ったのだ

 

今来ているのは大魔王に匹敵する者だという事を

 

「ッ……止まれッ!!」

 

僅か10メートル程の距離で美鈴は構えた

 

「この紅魔館に何の用だ!!」

 

凛とした表情で睨むもそれが精一杯であり止めどなく流れる汗が胸中を表している

 

「……バーン・スカーレットに用があるんだけど、通してくれないかな?」

 

青年・ダイはまだ剣に手をかけてすらいない

 

それでも美鈴は内包する力に圧倒されていた

 

「……通せません」

 

普段なら丁寧に応対するところだが今は状況が違う

 

大魔王並みの力を持った外来人が不穏な顔で武器を持って来ているのだ

 

自分の応対の領分など通り越している

 

「どうしても……ダメかな?」

 

「通さないと言った!!」

 

だから通せない

 

「仕方ない……か」

 

ダイが構えを取ろうと体を動かす

 

「!?」

 

だが構えを取りきる前に美鈴が一足で距離を詰めていた

 

「ハァ!!」

 

機先を制した崩拳、速度と威力を兼ね備えた鍛え上げし鉄拳がダイを打つ

 

ふわりと浮いたダイは美鈴から数メートルを離して着地する

 

「あ、危なかった……」

 

ダイの左手から衝撃煙が出ている、機先を制され体勢が整っていないにも関わらず受けを間に合わせたのだ

 

「くっ……!?」

 

美鈴が歯噛む

 

(アレを防ぐか!?自ら飛んで威力も殺された……完全に気が入る前に一撃入れときたかったですが……不調で技が鈍ったか)

 

もう奇襲は通用しないだろう事を思いながら喉から込み上げてくるモノを無理矢理飲み込む

 

「鬼人正邪の言ってた通りだ……強い」

 

ダイも美鈴の強さに油断は出来ないと感じ剣に手をかけようと手を動かす

 

「セアアッ!!」

 

かける前に美鈴が素早く詰め攻撃を仕掛ける

 

(剣を抜かせない気か!?)

 

腕を狙う攻撃を手で受け、払いながら美鈴の意図に気付く

 

「ハアアアッ!」

 

手数で攻める美鈴

 

美鈴からすれば主武装であろう剣を抜かせてしまうわけにはいかない、抜かれてしまうその前にダメージを与えるかあわよくば仕留めたいのだ

 

「なら……オレもだ!」

 

ダイが動きを変えた、剣を抜こうとせず拳を握り反撃に出る

 

「……ッ!?」

 

互いに打ち合う形になるが体を打つ事なく拳を相殺し合う

 

(徒手で私と打ち合えるとは……この若さで戦い慣れし過ぎでしょう!?)

 

剣士だろうダイが武道家の美鈴と素手で渡り合うという異常、普通なら余程の差がない限りは専門家に敵う筈がない

 

だがそれを成している、つまりは経験なのだと美鈴は思うしかない

 

そしてそれはある意味で合っている

 

(……ですが私は武道家、東方不敗を掲げる者として徒手で遅れを取るわけにはいかないのです!)

 

美鈴の動きが直線的な動きから流麗な舞の様な動きに変わりダイから打たれる激流の様な拳を流し、躱していく

 

「くっ……あっ!?」

 

ダイが対応しようとした時には既に遅かった、圧倒的な技量から繰り出される流れる様な美鈴の右拳が腹に置かれていた

 

「フンッ!!」

 

寸勁から成る一拍子突き

 

「うっ!?」

 

それは見事に炸裂しダイの顔を歪めさせた

 

「クソッ……!」

 

打ち飛ばされたダイは追撃が来るとすぐに体勢を立て直したが何故か追撃は来なかった

 

「……ウプッ」

 

美鈴は青冷めた顔で打った構えのまま止まっていた

 

(ヤバイ……ヤバイヤバイヤバイ……!!?)

 

美鈴は吐きそうになっていた

 

(今それどころじゃないのに……治まれ~!)

 

二日酔いになる程の飲酒に寝不足による凄まじい睡魔、過度な緊張、トドメが戦闘

 

もはやダムは決壊寸前となっていた

 

「体調……悪いの?」

 

「……そんな事はない、舐めるな」

 

ダイは困った、明らかに悪そうにしか見えないのだ

 

(どうしようかな……このまま戦うのも気が引けるし、でも通してはくれないだろうし……)

 

状況的に勝ちは揺るがないと悟ったダイはこの場をどう切り抜けようか考える

 

(あ!今なら効きそうだ!)

 

思い付いたダイは美鈴に向かって指を突き出す

 

「ラリホーマ!」

 

睡眠呪文を唱えた

 

「なっ……こんなモノ!」

 

すぐに察した美鈴が抵抗をする

 

「こんな……モノ……!?」

 

するが抵抗力の弱まった今の美鈴では抗い切れず瞼は閉じていく

 

「お嬢……様……バー……ン……さ…………」

 

完全に目が閉じた美鈴はその場に倒れ、眠りについた

 

「まさか父さんと同じ手が通じるなんて思ってもみなかったや」

 

かつて父親にされた事を思いだしながらダイは歩き始める

 

「……ごめん」

 

眠る美鈴に謝り紅魔館の門を開け、進み始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・エントランス-

 

「うわっ……中も真っ赤だ」

 

門を通り、豪華な入口の扉を開け紅魔館の内部に侵入したダイ

 

「よくわかんないセンスだなぁ、窓も全然無いし……」

 

持ち主のセンスに首を傾げながら歩を進める

 

(何処に居るかな?やっぱり上かな?いや違う……)

 

足を止めたダイが足元を見る

 

(こっちだ……たぶん地下がある、そこに……居る)

 

ダイにしか感じ取れない奇妙な感覚が場所をわからせる

 

(でも、なんだろう……なんか、懐かしい感じがするような……)

 

そして不思議と感じる既知感の正体を思い出そうとする最中だった

 

ナイフが飛んできたのは

 

「……わっ!?」

 

飛んできたナイフを躱したダイの目が空中で僅かに光るモノを視認し大きく跳び下がり、鋼線による攻撃を避けた

 

「そこまでよ侵入者」

 

「ここから先は通しません」

 

ダイの前にメイドと執事が現れる

 

「信じられません、まさか美鈴さんがこんな子どもに突破されたと?」

 

「信じ難いけれどそうみたいね、体調不良を考慮してもまず有り得ない……子どもと侮ってはダメよ」

 

咲夜とウォルターが立ちはだかる

 

「ごめん……もう退けないから……行くよ」

 

勇者は不退転の意思で構える……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐだ!」

 

ポップ達は紅魔館の間近まで来ていた

 

急いでいたが安全を考え霧の湖を迂回した為、最短なら門でダイを捉えられていたが時間が掛かってしまっていた

 

「あそこに誰か倒れてるぞ!」

 

ヒュンケルが気付き指を差す

 

「まさか……」

 

ポップは手遅れだったかと一瞬絶望し倒れている者の場所へ走る

 

「ッ……」

 

倒れている者、美鈴を見てポップは深く安堵した、パッと見た感じだけでも生きているのがわかったからだ

 

「マァム……どうだ?」

 

ポップに頼まれてマァムが状態を確認する為に美鈴の胸に耳を当てる

 

「……内部に異常は無いわ、寝てるだけみたい……外傷も、特には無いわね」

 

「そうか……はぁぁ……よかったぜ」

 

寝ているだけだとわかったポップの力が抜ける

 

「寝てる、じゃねぇなそれ……寝かされてんな、呪文の痕跡がある……ラリホーかラリホーマだ」

 

美鈴からダイがやったと読み取ると立ち上がる

 

「よし急ぐぞ、一線は越えてないみたいだけどこいつがたまたま寝やすかったからそうしただけかもしれねぇ、早く止めねぇと」

 

野晒しは申し訳ないと思うが今はダイを止めるべく一行は空いた門へ向かって走っていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ……!?」

 

ダイは苦戦していた

 

「奇術「エターナルミーク」!!」

 

凄まじいナイフの弾幕が襲い掛かってくる

 

「こんなの……初めてだ!」

 

殺意の籠る本気の弾幕は経験の無いダイは対処に苦労していた

 

「ウォルター!」

 

「了解です!」

 

更に連携してくるのだから余計に

 

「くぅ……!?」

 

鋼線を紙一重で避けたダイは下がりながら剣に手をかけ、抜いた

 

「来いっ!」

 

構えたダイに咲夜はスペルを唱える

 

「銀符「シルバーバウンド」!!」

 

壁に当たると反射するナイフを大量に発射する

 

「せやあッ!」

 

ダイが剣を横に薙ぐ

 

発生した衝撃波が拡散しナイフを全て弾き飛ばす

 

「チッ……でも!」

 

攻撃を潰された咲夜だがその隙にウォルターが攻撃するとわかっているのだ

 

「……そこだ!」

 

薙いだ剣の勢いのままに一回転し時間差で来た鋼線を切った

 

「チィ……強い!」

 

2対1を軽く捌いてくる相手にウォルターが舌を打つ

 

「はぁ……はぁ……こんな事になるなら……無理せずに先に休んでたら良かったわ」

 

「はぁ……ですね……はぁ……私は無理ですが……ふぅ……」

 

二人は早くも息が上がっている

 

「……もしかして君達も体調悪い?」

 

様子がおかしい事に気付いたダイ

 

「……ラリホーマ?」

 

一応唱えてみる

 

「うあ……こんな……呪文で……!?」

 

「まさ……か……そんな……」

 

驚くくらい抵抗出来ずに効いている

 

「レミリア……お嬢……様……」

 

「フラン……ドール……様……」

 

主の名を言いながら眠りについた

 

「なんか……調子狂っちゃうな……」

 

正邪に強いと聞いていたのにラリホーマだけで突破出来ている事がダイを逆に困惑させる

 

「でも変に傷付けなくていいからいいか、下手したら殺しちゃうし……」

 

気にはなるが気にし過ぎる事でもないので気持ちを切り替えダイは地下への道を探す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・図書館-

 

「……何?」

 

バーンは気付いた

 

(咲夜とウォルターの気配が消えている……美鈴の気配も……)

 

動いていた気配が絶えていた事に気付いたバーンは3人の様子を探る

 

(……無事ではある、寝ているだけだ、しかし何故……)

 

生きている事を確認したが理由がわからないバーンの感知にまた何かが引っ掛かる

 

(侵入者……今入ってきた、7人……それと遅れてもう1人……これは知っている、1人は奴か……咲夜とウォルターを眠らせた奴はどこだ?)

 

侵入してきた者達の存在を捉えたが先に入っていたであろう者は気配を完全に絶っているのか見つけられない

 

(平和で緩んでいるのはあやつ等だけではなく余も同様だったか……)

 

情けないと反省しつつ立ち上がる

 

(何が目的かは知らんがレミリア達に手を出すならば……)

 

覚悟を描き、歩き始める

 

(死をくれてやる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あった」

 

少し探索すると地下への階段はすぐに見つかった

 

「よし……行くぞ!」

 

進もうと決意した直後だった

 

「見つけたぞダイ!!」

 

追い付いてきたポップ達に見つかった

 

「ヤバッ!?もう来たの!?」

 

急いで地下へ向かって走り出す

 

「なんで逃げやがるんだてめぇ!」

 

悪い事をした子どもが逃げるみたいに見えてポップは余計に怒る

 

「ラーハルト頼む!!」

 

「了解だ」

 

7人の中からラーハルトが跳び出し先に走っていく

 

「待てってんだダイ!!」

 

追ってゆく6人

 

 

 

 

「大きい扉……あの先だ」

 

地下への階段を降り通路を走ると豪華な彩飾がなされた扉が見えた

 

「もう少し……!」

 

扉に手が掛かろうという瞬間

 

「そこまでですダイ様」

 

ラーハルトが遮った

 

「ッ……どいてよラーハルト!」

 

「主を危険に晒す(しもべ)はいません、いくらダイ様の命令でもそれは聞けません」

 

「くっ……あと少しだったのに」

 

悔しがるダイの背後から怒声が聞こえる

 

「ダイてんめぇぇぇぇ!!」

 

「うわっ!?」

 

ポップから腰へタックルを受けてダイはよろける

 

「押さえろチウ!」

 

「確保ーーー!!」

 

続けてチウにもしがみつかれダイはようやく観念した

 

 

「このバッカヤローが!ふざけてんじゃねぇぞ!!」

 

「ごめんって、悪かったよポップ……」

 

烈火の如く怒るポップだったが完全に怒ってるわけではないのをダイは見て3人を殺してない事を確認したからなんだろうなと思う

 

「謝って済むか!お前どれだけの事しでかしたかわかってんのか!?」

 

紅魔館の門番を倒して不法侵入し使用人も倒して更に進もうとしている

 

少なくとも幻想郷で一番有名な紅魔館を敵に回しても全くおかしくない状況なのだ

 

「今からお前が倒した3人起こしてここの持ち主に平謝りだ!行くぞ!」

 

「待ってよ、最後にここだけ……この先だけ行かせてよ」

 

「まだそんな事言ってんのかおめぇは……いい加減にしろ!俺達全員殺してぇのかお前はよ!?」

 

「ッ!!?」

 

自分の我儘を通そうとするダイに皆の命を考えるポップの言葉が刺さる

 

「みんな心配してたのよダイ……お願いだからもうやめて」

 

「……わかった、みんな……ごめん」

 

皆に説得されて騙されていたとはいえダイの凶行は終わりを告げた

 

 

「何だっていきなりこんな事になったんだよ?」

 

「昨日、射命丸文って妖怪に会ったんだ、そしたら文は鬼人正邪の言ってる事は本当だって言って……みんな鬼人正邪を信じてなかったから、それで……」

 

「チッ……お前は信じやすい上に人が良過ぎんだよ……まぁそれは今はいい、今はここの人達に許して貰えるかなんだからよ……行くぞ」

 

謝る為に図書館への扉から踵を返す一行

 

問題は山積みだが一先ずは終わったと安堵をする

 

 

 

 

 

ズンッ……!!

 

 

 

 

 

突如、紅魔館全体が非常に重く、苦しい空気に変貌した

 

「な、なんだ!?」

 

「これは……威圧感……か……!?」

 

それは今まで普通に見えていた通路がまるで魔王の居城に乗り込んだかの様に激変していた

 

「こんな……こんなのまるで……」

 

回りに敵はいないのに酷く緊張し、息苦しく、自然に冷汗が流れ身震いしてしまう程

 

「持ち主か……?すげぇ怒ってる……な……」

 

「ただの威圧でここまでの事が出来るレベルの者がいるのか!?」

 

「出処は……この扉の先だ」

 

全員が扉へ向き息を飲む

 

 

 

 

 

 

 

      ""何処へ行くつもりだ……?""

 

 

 

 

 

 

 

 

声が響く

 

それは魂にのし掛かる様に重厚で

 

身体の芯から冷えるかの様に冷たく

 

心に突き刺さるかの様に鋭く

 

この世の終わりを予見させる様な……

 

 

不気味な声であった

 

 

 

「ッ……!!?」

 

逃がさないと言われた一行の足は金縛りを受けたように動かなくなった

 

「ヒィィ!?」

 

チウは恐怖で頭を抱え踞る、他の者は膝を屈しはしなかったが酷く喉が渇き固唾を飲み込むまでに冷汗をかいている

 

「い……今の声……」

 

「…………」

 

声を聞いたポップが違和感を覚え、ダイだけは心ここに在らずといった顔で扉を見つめていた

 

「おいダイ……お前、ここの持ち主の名前って聞いたりしたか……?」

 

「え……うん……さっきの二人がレミリアって名前とフラン、ドール?って名前を言ってたよ」

 

「……!?レミリア……だって……?」

 

ポップに衝撃が走る

 

そして同時に扉の向こうから足音が聞こえてくる

 

「うおおおっ!?」

 

扉の向こうから巨大な魔力が感じれるようになり、暴風の様な魔力に押されるようにダイとポップ以外の足が勝手に一歩下がってしまう

 

 

 

 

""此処を余の太陽達が住まう場所と知っての狼藉か?""

 

 

 

 

 

カツン、カツンと響く足音が近付く度に魔力はより濃く、息苦しさは増していく

 

まるで死の時までをゆっくりと刻まれているよう……

 

 

 

「そんな……俺は……この魔力を……知ってる……」

 

ポップの中で一気に繋がっていく

 

(思い出した……吸血鬼の嬢ちゃんが言ってたんだ、幻想郷って……そんで嬢ちゃんの名前がレミリア・スカーレット……幻想ノ王の名前にもスカーレット……そんで……覚えがある声に魔力……まさか……まさかッ……!?)

 

得ていた情報が全て一本の線で通った瞬間、その扉は開いた

 

 

「ならば慈悲は無い……余が相手をしてやろう」

 

 

現れた者に全員が衝撃を受けた

 

何故ならそれは二度と会う筈がない者だったから

 

最強にして最悪、地上を人間もろとも消し去ろうとした魔族の王

 

魔界に太陽を与えようとした最大の敵

 

 

「ッ!?貴様等は……いや、貴様は……!?」

 

そして姿を見せた者も侵入者を見て驚愕に染められる

 

「やっぱり……お前だったんだ……」

 

ダイは納得した様な、それでいて信じられない表情でその名を呟いた

 

 

 

「大魔王……バーン……」

 

 

「勇者……ダイ……」

 

 

 

幾多の擦れ違い、想いの交差の末

 

もう交わる事は無かった勇者と大魔王は幻想の特異点にて遂に再び邂逅する

 

 

有り得る筈がなかった運命の調べ

 

敗者と勝者が唄う奇蹟の譜面

 

夢か幻の中でしか奏でられぬ夢想の旋律

 

 

故に……再会の夢想曲(トロイメライ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




4話かけてようやくでした、ご都合展開?知らない子ですねぇ


次も頑張ります!

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