東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

64 / 86
-秘伝- 夢想曲(トロイメライ) Ⅲ

  

 

 

-スキマ空間・八雲紫邸-

 

「次の方どうぞ」

 

紫が声をかけると障子が開き学生服を着た青年が入ってきた

 

「えー貴方の世界は……」

 

調べていると青年が口を開いた

 

「なぁあんた!これ異世界転生ってヤツだろ?」

 

「……はい?」

 

扇子で口元を隠しながら首を傾げる紫

 

「これからチート能力を貰ってさっきの所に送り返してくれるんだな?やったぜ!」

 

「チート……?」

 

紫には青年が何を言っているのかさっぱりわからない

 

「どんな能力かなー?無双出来るのがいいよなー!あ、選択式だったりする?だったらどうしようか悩むなー!」

 

「……煩い、静かになさいな」

 

閉じた扇子を青年の額に当てると青年の目は虚ろになり喋らなくなった

 

「……元の世界にお帰りなさい」

 

記憶操作が終わった青年を新たに広がったスキマが飲み込み元の世界への送還は済んだ

 

「最近こういう輩が増えたわね」

 

辟易しながら紫は現状で集められた幻想郷に迷い混んだ外来人達を帰していく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・図書館-

 

「……ム」

 

本を読んでいたバーンは気付いた

 

「レミリアの使い魔……伝言か」

 

指を差し出すと使い魔の蝙蝠はそこへ降りる

 

「……そうか、わかった」

 

魔力のメッセージを読み取ると蝙蝠は霧散し消える

 

(夜通し宴会となったか、まぁいつもの事だ……本当に祭り事が好きな奴等よ、騒々しい事この上無い、が……それでこそ、か)

 

用意していたグラスに酒を注ぐと小さく笑みを浮かべ一口飲む

 

(読み終えたら行ってみるのもよいかもしれんな)

 

また本を開き読書が再開される

 

(しかし……先程から妙な予感がする、またあの天邪鬼が何か要らぬ事をしたか……?)

 

もしそうなら懲りぬ奴よと笑みを浮かべ続きを読み始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅魔館ってのは幻想郷でも有名な赤い館の事さ」

 

正邪の説明は続いてる

 

「赤い館ぁ……?ダイ、おめぇが見たヤツじゃねぇか?」

 

「そうかも」

 

「たぶんそれだね、幻想郷に赤い館なんて1つしかないから」

 

「そこってそんなヤバイ場所だったのかよ」

 

「ヤバイなんてもんじゃないよ!魔境さ魔境!何しろそこには凶悪な7人の頂点達……お前等がわかりそうな言葉で言ったら7人の魔王が幻想ノ王を守ってるんだ、幻想郷の中で一番戦力が集まってる場所なんだよ」

 

「全部で8人か……結構居るな」

 

「特に有名なのが8人ってだけさ、それだけじゃないよ?門番2人も強い、そんで館の中にはメイドと執事がいる、これも強い、後は魔王の弟子やら教え子やら娘やらが居る時もある」

 

「じゃあ最低12人で多けりゃ15人以上も強いのが居るって事か?多過ぎるだろうよ」

 

「少しはヤバさ伝わったかい?」

 

「ああ、そんな奴等が支配しようとしてんなら確かにヤバイな……本当だったらよ」

 

「ポップ!」

 

「あーへいへい、わかりましたよっと……」

 

明らかに嘘臭いのに付き合わなきゃならない不条理さがポップをげんなりさせる

 

「そいつ等を倒したら良いのか?」

 

「そう!やってくれるのか!」

 

「わかった、前向きに検討しとく」

 

手をヒラヒラさせてポップはやる気の無い返事を返す

 

「……あんた達は外来人だ、幻想郷とは関係無いもんね……無理言って悪かったよ、じゃあね」

 

期待出来ない雰囲気を感じ取って正邪は残念そうに帰って行った

 

(退散退散~っと!あばよとっつぁーん!)

 

無論、演技である

 

行っても行かなくてもどちらでも良いから嘘が露呈する前にさっさと逃げただけである

 

 

 

「ポップ!なんであんな態度するんだよ!」

 

正邪が見えなくなった後にダイが怒る

 

「いやダイ……さっきはお前に免じたけどよ、やっぱいくら何でも怪し過ぎだぜアイツ、俺達を利用しようって気しか感じねぇよ」

 

「そんなのわからないじゃないか!」

 

「そうだよわかんねぇからだよ、嘘か本当かわかんねぇから適当に濁したんだよ」

 

「本当だったらどうするんだよ!」

 

「どうするって……本当だったら行ってやりゃあいいだろ?どうせお前は行く気だしよ、付き合ってやるさ、けど先に真偽は確かめとかねぇとな、嘘だった時がマズイからな」

 

ポップの言う通り嘘だった場合に問題がある

 

正邪の言葉だけを信じて敵と決めつけ攻撃した場合、誤解だったで謝って済めばいいが拗れて最悪幻想郷を敵に回す可能性があるからだ

 

そうなった場合に帰れる方法を潰す事に繋がりかねないしそもそも生きていられる保証も無い、故に真偽の確認はパーティーの安全を考えるポップからすれば当然の事と言えた

 

「……だけど急いだ方が」

 

「どうしたのよダイ?どうしてそんなに焦ってるの?」

 

ダイの様子がおかしいのはポップ以外もわかっている

 

このままだと帰るだけ、だからどんな理由でもいいから幻想郷に出来るだけ長く滞在しようとしているのだ

 

嘘だとわかればもう帰るしかないから

 

「ここは俺達の世界とは違ぇんだ、わかってくれダイ」

 

それでも譲れない事はある、いくらダイの気晴らしの為とは言え一線は越えれない、ダイだけでなく全員の命がかかっているのだから

 

「……わかったよ、ごめん」

 

怒られた子どもの様にダイは謝った、しかしその顔は納得がいかない子どもの顔の様にも見えた

 

「よっし、んじゃあ里に戻って宿探そうぜ、破邪の洞窟から歩きっぱなしでさすがに疲れちまったよ」

 

「うん……」

 

少々暗い雰囲気になりつつも一行はダイの希望通り歩いて里に戻るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-妖怪の山-

 

「終わりました天魔様」

 

鴉天狗の妖怪、射命丸文は見回りを終えて上司に報告していた

 

「ご苦労、次は山の妖怪の訓練指揮をしてくれ、その後は炊事洗濯、そして夜警だ」

 

「……」

 

文は露骨に嫌そうな顔をした

 

「どうした?嫌か?」

 

「いえいえ!仕事が嫌とかじゃないんですよー、あのですねー最近ずーっと働きっぱなしで少ーし休憩が欲しいかなー?なーんて思ったりしてます、新聞も書けてませんしーピクニックとか行きたいなー」

 

文は大変ストレスが溜まっていた

 

「私とて休ませてやりたいがしかしな……」

 

どうやら天魔の本意ではないらしい

 

「バーンとレミリアに「新聞も書く暇が無いほど働かせろ、死んでも構わん」と脅され、いや頼まれたからな……そもそも悪いのはこんなふざけた記事を書いたお前だろう?」

 

取り出した新聞を文の前に放る

 

その新聞には大きく「愛の記録・紅魔館編」と書かれたバーンとレミリアの隠し撮り写真が多数掲載されていた、御丁寧にシーン毎の解説までしっかりと書いてある

 

「こんなもの怒って当然だ、わからんお前ではあるまい?自殺願望があるのかお前は?」

 

「……しょうがないじゃないですか最近平和過ぎて新聞のネタが無かったんですから」

 

「反省という言葉はお前の辞書には無いのか?前は妹紅とロランの記事を書いて焼き鳥寸前までいったというのに……本当によく今まで生きていたものだ」

 

「反省?知らない子ですね……そんな事より休みください!もう4カ月休み無しですよ!?ブラックだって労基に訴えますよ!」

 

「訳のわからん事を……わかった、休みをやるから落ち着け」

 

「本当ですね!?言質取りましたよ!」

 

「ただしバーンとレミリアに見つからないのが条件だ、つまりピクニックには行くな」

 

「むむむ……わかりました、非常に行きたくて仕方ありませんがわかりました」

 

「……絶対に行くでないぞ?振りではないぞ?いいな?絶対に見つかるでないぞ?」

 

「……ワカッテマース」

 

「見つかったらお前を幻想郷から追放する」

 

「酷い!?もぅ……わかりましたっ!」

 

文は天魔の前から飛び立った

 

「あー!ようやく休みが取れたー!」

 

念願の休みを得て大きく伸びをする

 

(ピクニックに行けないのは残念でした、ネタになりそうだったのに……)

 

どうしようか悩んだあげくに文は思い付いた

 

(最近外来人が結構来てるみたいだから探してみましょうか)

 

もうすぐ夜になるが構わず文は高速で妖怪の山から飛び去って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-旧都-

 

「あ?何だって?」

 

星熊勇儀は飲んでいた酒を机に置いた

 

「だから今地上でピクニックをしてるみたいですよ、ああ妬ましい」

 

旧都の仲間の水橋パルスィが答える

 

「聞いてないよあたしは?」

 

「さとり様が伝えに来てましたけど寝てましたもん、聞こえてたら逆に凄いですよ」

 

「そんな面白そうな事やってたのか……バカ騒ぎのチャンスとくればこうしちゃいられないね!行かいでか!」

 

「地上はもうすぐ夜ですよ?もう終わってるんじゃ?」

 

「その時は萃香でも捕まえて飲むさ」

 

急いで用意をする勇儀

 

「ん~酒だけじゃ寂しいか……里で何か見繕って行くとするかな」

 

鬼の四天王、力の勇儀が動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-太陽の畑-

 

「妖夢ー!次これ切ってー!」

 

「ですからフラン……私の楼観剣は悪を断つ剣であって野菜を切る剣じゃあないんですよ」

 

「次は銀杏切りだってー投げるよー!それっ!」

 

「いや、あの、だから……」

 

「どうしたの妖夢!?野菜落ちちゃう落ちちゃうよ!?」

 

「~~~~ッ!?ハアッ!」

 

「おおー!スッゴーイ!にくい演出だー!」

 

「また、つまらぬモノを切ってしまった……うぅ、ごめんなさい楼観剣……」

 

「おおー!カッコイイ決め台詞だー!」

 

「いえ、今のは決め台詞のつもりじゃ……もうやだぁロン・ベルクさん助けてぇー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「楽しいですね幽香さん!」

 

「……本気で言ってるの大妖精?これを地獄と言うのよ」

 

「こんな楽しい地獄ならずっと居たいです!」

 

「はぁぁ……そう」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ咲夜?調味料が無いのだけど買い忘れたの?幽香の家にあるのだけでは足りないわ」

 

「……の様です、申し訳ありませんお嬢様、私のチェックミスです、直ぐに行って参ります」

 

「料理が出来る貴方が行く必要は無いわ、誰かに行かせなさい」

 

「どうしたのレミィ?」

 

「パチェ……いえね、調味料を買い忘れたみたいだから誰かに行かせようとしていたのよ」

 

「それなら今レティが里に居るみたいだから買ってこさせる?今から来るって言ってるから丁度良いけれど?」

 

「そう、ならお願いするわ」

 

「白蓮に宴会になったのは伝える?伝えるならついでにレティに頼むけれど?」

 

「伝えなくていいんじゃない?華扇と一緒にあの邪仙の妹紅大好き煩悩を消すのに手一杯って今日断られたし構わないでしょ」

 

「成果はさっぱり良くならないって聞いてるけれど……?」

 

「なるわけないわよパチェ、好きな気持ちが簡単に消えるわけないもの」

 

「レミィが言うと説得力あるわね」

 

「そうかしら?さぁ忙しいからパチェも手伝ってね、ハドラーを呼びたいくらいなんだから」

 

「ふふっ、怒られるわよ?「この程度で弱音を吐くとは情けない!それでもこのオレの弟子か!」って」

 

「言いそうねぇ、ではパチェに頑張ってもらうとしましょうか」

 

「はいはいりょーかい」

 

 

 

 

 

 

 

 

「私も手伝うのだー!」

 

「ルーミア!あんた今来たの?」

 

「そーなのだー!」

 

「ならあたい達はデザート作るわよ!かき氷はまっかせときなさい!」

 

「じゃあ私もかき氷を作るのだー!」

 

「良いじゃないルーミア!最高よあんた!……ルナ!あんたも作りなさい!」

 

「うん!私はケーキ作ろうかなぁ……イタッ!?なんで叩いたの親分!?」

 

「何バカ言ってんの!あんたもかき氷に決まってんでしょ!」

 

「えぇ……なんでぇ?かき氷しかないよぉ?バカなんじゃないのぉ……?バカだったぁ……」

 

 

 

 

 

 

 

「おい魔理沙」

 

「なんだぜ妹紅?」

 

「無法地帯になってるぞ、そろそろ止めてこいよ」

 

「なんで?楽しくて良いじゃんか」

 

「幽香見てみろよ、殺人鬼の目しながら肉切ってるぞ」

 

「ダハハハ!ホントだぜ!傑作だな妹紅!」

 

「笑ってる場合かよ……」

 

「じゃお前が行ってこいよ」

 

「無理だよ、もう蓬莱人じゃないしさ」

 

「は?何?死ぬ前提の案件を私に行かせようとしたってのお前?サイテーだな」

 

「うるせーバカ魔理沙、鍋吹き出してるぞ」

 

「おうサンキューだぜアホ妹紅」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-人間の里-

 

「ようっし!腹ごしらえは済んで宿も確保出来た!」

 

里に戻って来た一行は宿屋の受付に居た

 

「聞いたら里の中はそれなりに安全なんだってよ、どうする皆?自由行動にでもすっか?」

 

「私は部屋で休むわ、疲れちゃった」

 

「俺も部屋で休む事にする、少し考え事も出来たからな」

 

「マァムとヒュンケルは部屋っと、おっさんは?」

 

「少し里の中を見てみようと思ってる、ついでに言うと飯の量がいまいちだったんでな……チウ付き合うか?」

 

「お供します先代!」

 

「じゃあ俺は適当にブラついてみるかー」

 

「おっさんはチウと、ヒムは1人か……暇なら俺に付き合ってくれよ」

 

「ん?ああ良いぜ」

 

「ダイはどうすんだ?」

 

「オレもラーハルトとブラついてみるよ」

 

「お供しますダイ様」

 

「オッケーだ!んじゃあ後でな」

 

各自に行動が決まり散っていく

 

 

「どこか開いている店か屋台があれば良いが……」

 

「無かったら持ってきた食料でボクが何か作りますよ」

 

「フッ……その時は頼むとするか」

 

「とりあえずあっち行ってみましょう!」

 

クロコダインとチウはアテ無く里を進んでいく

 

 

 

 

 

 

 

「どちらへ行かれますかダイ様?」

 

「そうだなぁ……オレ達はこっちに行ってみようか」

 

「かしこまりました」

 

ダイとラーハルトはクロコダイン達とは反対の方へ進んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆行ったな、よし」

 

「んで?」

 

「悪ぃなヒム、付き合わせちまってよ」

 

「そんなの構わねぇからよ、で?何すんだよ?」

 

「ああ、今のうちに情報集めとこうと思ってよ」

 

「アテあんのか?」

 

「さっき門番に聞いたら慧音先生ってのはまだ帰ってきてないらしい、そこで聖白蓮ってのに会ってみようと思ってんだ」

 

「団子屋のじいさんが言ってたヤツか、確か命蓮寺だったっけ?里の外れの?」

 

「それだそれ、行ってみようぜ」

 

「おう」

 

ポップとヒムは命蓮寺に向かって行く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-永遠亭-

 

「ただいま~!おーい永琳ー?やっといたよー」

 

「お帰りなさい、ご苦労様」

 

出されたお茶を飲みながら正邪はくつくつ笑う

 

「えらく上機嫌ね、何かあったの?」

 

「あーいやね?頂点共に一杯食わせてやろうと思って外来人を焚き付けてやったのさ!上手くいったら紅魔館は攻撃されるね」

 

「また悪質な悪戯を……そんなだから泣かされるのよ貴方は」

 

「ケッ知るか!あんな奴等に負けたら爆笑してやらぁ!」

 

「あら……けしかけた割には信用してるのね、幻想郷の頂点達の力を」

 

「ん?ん~~……まぁ……」

 

バツが悪そうに正邪は鼻を掻く

 

「強さだけなら、誰よりも……ね」

 

悪戯をするその実、正邪は頂点達を誰よりも認めているのだ

 

「フフッ、好きなのねぇ頂点達が」

 

「は、はぁ!?何でそんな話になんだよ!」

 

「何故って……貴方がしてるのは好きな子に素直になれなくてちょっかいをかけてる子どもと同じなんだもの」

 

「ハァ?ハァー?ハァァァァ!?」

 

正邪は顔を真っ赤にして怒った

 

「ざっけんな!んな筈ねぇよ!死ねっ!!」

 

「あるわよ、何故なら貴方は天邪鬼だもの」

 

「うっ……」

 

痛いところを突かれて正邪は言い返せず黙るしかなかった

 

「それにしても……苦労するかもしれないわね彼等」

 

「なんだよ?あいつ等がどうかするのかよ?」

 

「あれだけの力を持っていたら嫌でも目立つものよ、見るものが見たらわかってしまう、外来人なら尚更……惹かれ合うと言い換えてもいいわ、力は力の元へ集まってゆく……まるでそうなる運命だったのかの如く」

 

これまで何も起きなかった試しが無かった幻想郷だったと思い返したからこそ、永琳は苦笑混じりに運命などと大仰な言葉を使うのだ

 

 

「今回だって、多分恐らくきっと……」

 

 

そんな永琳の予言が現実だったかのように

 

もう……既に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-人間の里-

 

「そう簡単に見つかりませんよね~」

 

幻想郷中を太陽の畑を除いて大体見て回った文は里の上空をゆっくり降下しながら漂っていた

 

(それもそうですよね、紫様が探してたら中々見つかるわけもないか)

 

ミスティアの屋台に行って帰ろうかと思っていた矢先だった

 

「あやや?あれはもしや……」

 

文が気になる者を見つけた

 

「里に合わない服装……外来人では!」

 

標的を見定めた文の動きは早かった、高速で建物の陰に隠れ写真を構えて様子を伺う

 

(……あっれー?なんかあの人見覚えがあるような……?)

 

二人の内の一人に注目するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

ダイと歩くラーハルトの表情が変わる

 

(見られている……明らかに俺とダイ様だけを狙っている、慣れた動き……何者だ?)

 

尾行者の存在を感知したラーハルトは拳を握る

 

「ダイ様、虫が鬱陶しいので払って参ります」

 

「え?虫?うん……わかった」

 

いきなり言われたダイはよくわからず了承してしまった

 

「ありがとうございます……では」

 

ラーハルトの目がギロリと尾行者が潜んでいる方向を睨んだ瞬間、ラーハルトは消えた

 

 

 

 

「……何?」

 

建物の陰に飛び込んだラーハルトが予想外の声を出す

 

(確かにここに居た筈だ……)

 

そこには誰も居なかった

 

(転移……?いや、そんな痕跡は無い、気付いた俺に気付いて俺が行くより速く動いた……?)

 

もしそうなら速さには自信のあるラーハルトが中々に信じられない事態

 

「……!」

 

再び気配を感じ取ったラーハルトが消える

 

「ッ……!?」

 

さっきより速く動いたにも関わらず尾行者の姿が捉えられない

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……!や、やっぱりそうだ……!」

 

違う建物の陰で文は焦った様に息を切る

 

(ソルの異変の時に戦ったあの変な黒い影みたいなの!アレだー!)

 

太陽神異変で戦ったソルが記憶から創造した魔物、「大魔王の影」

 

大苦戦した自分の実力では勝てなかった強敵

 

(今回は黒くない、普通に魔族の肌色……あの時のはこの人を元にしたシャドータイプの人造魔物?っていうかこの人ハーフっぽいですね)

 

「あ、ヤバッ!?」

 

気付かれたと気付きその場を離れる

 

「……チィ」

 

直後にラーハルトが現れ文が居ない事に舌を打つ

 

(私の事だと全く予想もしてないご様子……敵、ではない?)

 

見た限りではあるが影とは別モノのようで意志疎通は出来そうであり里の者達に対して敵意は感じられない、武器を持っていないのが証なのだと文は考える

 

(だとすればパパラッチを追い払いに来た、ってところですかね?)

 

そう答えを出したものの偶然にしては出来過ぎてると感じているのも確か

 

「また気付かれ……!?」

 

文はまたその場から急いで離れる

 

(鋭過ぎですよ……!影と一緒で速いし……!もうこの……!なんか腹立って来ました……!)

 

かつてに煮え湯を飲まされた幻想郷最速を自負するプライドが刺激される

 

「勝負といきましょう……絶対逃げ切ってやります!」

 

勝手に宣言するとその場から消える

 

「!!」

 

その動いた意を察知したラーハルトが追いかける

 

(絶対に振り切る!)

 

(絶対に捕まえてやるぞ!)

 

夜の鬼ごっこが始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いところが見つかって良かったですね!」

 

「ああ、料理も酒も美味い良いところだ」

 

同じ頃、クロコダインとチウはミスティアの屋台に居た

 

「ありがとうございます~これオマケしちゃいまぁす」 

 

誉められて嬉しいミスティアは大根を差し出す

 

「かたじけない、美人で気前の良い大将だなチウ」

 

「よっ!幻想(いち)!」

 

「美人大将だなんてやだもー!これもオマケしちゃおっと!」

 

「ありがたいが赤字になってしまうぞ大将?」

 

「私がいいからから良いんですっ!」

 

「ガハハ!ならありがたくいただくとしよう」

 

「いただきまーす!」

 

和やかに食事を楽しんでいる

 

その最中だった

 

「はいごめんよ~!急ぎでなんか適当に見繕ってよミスティア~」

 

鬼の四天王にして力の名を冠する鬼、星熊勇儀が現れたのだ

 

「あら勇儀様、よくいらっしゃってくれました……少々お時間をいただいてもよろしいですか?こちらのお客様の注文を優先しなければならないので……」

 

「よろしくないねぇ、あたしは早く行かなきゃなんないから今すぐ欲しいのさ」

 

「それはそれは、困りましたねぇ……」

 

ミスティアはとても困った

 

本来なら先に来ていたこの二人を優先するべきなのだが相手は妖怪の中で最上位である鬼の勇儀、つまりは逆らえないのである、下手に逆らえば木っ端の自分など屋台ごと吹き飛ばされかねないのだ

 

客が幻想郷の者なら理解してくれているので勇儀を優先させても大丈夫なのだが見るからに外来人のこの二人が幻想郷の事情を知っているとは思えずトラブルになりかねないから困っているのだ

 

「……大変申し訳ありませんお客様、あちらを優先させてもらってもよろしいでしょうか?」

 

ミスティアは二人に頭を深く下げた

 

事情があるから察してくれと願いを込めて

 

「俺は構わんぞ、先にやるといい」

 

勇儀の態度に不快感を覚えたクロコダインだったがミスティアの様子から事情があるのだと察し、余所者である自分が口を出すべきではないと気持ちよく譲った

 

「ありがとうございます!後でお礼をしますので!」

 

ミスティアはホッと胸を撫で下ろした

 

「いーや!ダメだ!」

 

だが直後にその胸はキュッと締め付けられた

 

「ボク達が先に来たんだからボク達を優先するのは当然だろ!」

 

チウである、若干頬が赤いので酔っているようだ

 

「あ?何か言ったかそこのチビネズミ?」

 

勇儀がチウを睨み付けるがチウは酔って気が大きくなっているのか怯まず突っかかっていく

 

「よせチウ」

 

「常識が無いのか君は!」

 

マズイと思ったクロコダインが止めるがチウは止まらない

 

「……」

 

冷めた表情の勇儀が動いた

 

「うわわっ!?は、離せー!!」

 

チウの首根っこを掴み持ち上げる

 

「おい、ネズミ肉になってみるか?」

 

暴れるチウを意に介さず勇儀は首を絞めながら冷酷に告げる

 

「あの!勇儀様……その辺で……」

 

虚仮にされた鬼がやる時は嘘偽りなく躊躇すら無くやる者達だと知るミスティアは懇願するように頼むが勇儀は一切聞いていない

 

「小僧が……舐めてると潰すぞ?」

 

首を掴む手に更に力が入る

 

「待て」

 

その手をクロコダインが掴んだ

 

「俺の連れがすまなかった、勘弁してくれ」

 

チウを、延いてはミスティアを助ける為にクロコダインは頭を下げた

 

「おい……なんだこの手?お前も潰すぞ鰐野郎……!」

 

しかしそれでも怒る鬼は止まらない

 

「……お前が矛を納めないつもりなら……」

 

仕方ないとクロコダインは掴む手に力を入れる

 

「……!?」

 

強い力で握られた勇儀の手は開かれチウを落としてブルブルと震えながら下げられていく

 

(こいつ……!もしかするとあの牛頭よりも……!)

 

勇儀の脳裏に太陽神異変の時に戦った百獣将ザングレイが一瞬過る、それ程の剛力

 

「相手してやるぞ……!!」

 

腹の位置まで持ってきたクロコダインが告げた

 

「へぇ……」

 

予想外のクロコダインの力に驚いた勇儀だったがその表情は楽しげなものに変わった

 

「そいつは……!面白そうじゃないか……!」

 

更に力を込めた勇儀の腕が上がっていく

 

「ぬっ……!?」

 

それを堪えるクロコダイン

 

両者の力はぶつかり合い、伝わる力が屋台をガタガタ揺らす

 

「あの……やめてくださいお願いします!屋台が壊れちゃう、壊れちゃいますからぁ!」

 

ミスティアの悲痛な叫びが木霊する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-命蓮寺-

 

ラーハルトとクロコダインがそんな事になっている頃、ポップとヒムは命蓮寺に辿り着いていた

 

「ほー、ここは他とはまた違う感じだな、なんか厳か?な感じだ、つーか寺って何なんだ?」

 

「たぶん俺達のとこで言う神殿に近いんじゃねぇか?昼間に行った博麗神社にちょっと似てる感じもするしよ」

 

夜で人が居ない命蓮寺の敷地を入口目指して歩く二人

 

「ん……?なんか聞こえねぇか?」

 

縁側の方から声が聞こえてくる

 

「ああ……騒いでる?喧嘩か?」

 

よく聞くと穏やかではなさそうだった

 

「行ってみるか」

 

「だな」

 

二人は縁側へ足を向ける

 

 

 

 

 

 

「離して!離せって言ってんのがわかんないの!?」

 

「しっかり押さえてください華扇!」

 

「コラ暴れるんじゃありません青娥!」

 

聖白蓮と茨木華扇は暴れる霍青娥を取り押さえようとしている

 

「うおー!頑張れせーがー!」

 

部屋の隅にはぐるぐる巻きに縛られた宮古芳香

 

「妹紅に会いに行くんだから邪魔しないでー!」

 

「ダメです!このっ……煩悩退散煩悩退散!」

 

「諦めて立派な仙人になれるよう頑張りましょう!ね!」

 

ドタドタ揉み合う三人

 

「妹紅さんも困ってるのがわからないんですか!」

 

「黙りなさい淫乱ピンク!私の妹紅がそんな事言う筈ないでしょ!!」

 

「淫ら……ッ!?怒りますよ青娥!!」

 

「イヤァー!淫乱ピンクに襲われるー!?」

 

「人聞きの悪い事を言うなっ!」

 

一向に収まる気配が無い

 

「……なんだありゃ?」

 

遠目からそれを見たヒムが状況がわからず困惑している

 

「いや、俺もわかんねぇけどよ……べっぴんさんが揉み合うのは眼福だよな、ぐへへ」

 

美女三人のキャットファイトを見て鼻の下を伸ばしながらポップはまじまじと見ている

 

「……帰る」

 

「待て待て悪かったって」

 

「ったく、マァムに言い付けちまうぞ……」

 

「そ、それは勘弁してくれよ、殺されちまう……ん"ん"っ!よし行くぞ」

 

気を取り直して二人は歩を進める

 

「あのー、取り込み中申し訳ねぇんだけどいいかい?」

 

「はっ!?ら、来客……?華扇!!」

 

「承知しました!」

 

ポップに気付いた白蓮が叫ぶと阿吽の呼吸で華扇が青娥と芳香を抱えて奥へと消えた

 

「コホン……お見苦しいところをお見せしました」

 

さっきまでの喧騒が夢だったかのように、聖母のような笑顔で正座した白蓮は二人に礼をした

 

「俺達こそ夜なのにすまねぇ、聖白蓮っていうのはあんたかい?」

 

「ええ、私が命蓮寺の聖……白蓮……」

 

ポップも不躾な訪問に謝ると白蓮は驚いたような不思議な顔をしてヒムを見ていた

 

(この風貌……緋緋色金(オリハルコン)の身体……まさかあの時の……)

 

白蓮もまた文と同じく大魔王の影と戦っていた、その時の影はヒムを元にしていたのだ

 

(あの時は魔力で造られた想像の魔造体……まさか本物に会う時がくるなんて夢にも思わなかった……)

 

一方的で異なる存在ではあるが既知の存在にまた出会った事が白蓮の胸に何かこみ上げるものを感じさせる

 

「……?俺の顔になんか付いてるか?」

 

「いえ……失礼しました、私が聖白蓮です」

 

菩薩のような笑顔で改めて二人を見る

 

(緋緋色金に禁呪を使った生命体のようですが邪気は感じられない……この青年も同様、良き魂の持ち主と見受けました)

 

外来人である二人を影とは無関係かつ害は無いと判断し部屋に上がらせ茶を差し出す

 

「それで、私に何の御用でしょう?えーと……」

 

「あ、俺はポップだ、こっちはヒム……いくつか聞きたい事があるんだけどよ、まずは俺達の事から話しとくか」

 

 

 

 

 

大魔道士説明中・・・・・

 

 

 

 

 

「成程、そちらの事情は理解出来ました、災難でしたね……では本題はなんでしょう?」

 

「本題ってのは紅魔館ってところについてなんだよ、一番有名らしいんだがわかるか白蓮さん?」

 

「当然です、今の幻想郷で知らない者はいませんよ」

 

「そりゃ良かった!その紅魔館にバーン・スカーレットって奴が居るらしいんだが合ってるかい?」

 

「はい、確かに存在します」

 

「7人くらい魔王みたいな奴等も居るのも本当かい?」

 

「魔王?ああ頂点達の事ですね、有名ですよ」

 

「そうかい、じゃあ最後の質問だ……そいつ等って幻想郷を支配しようとしてんのか?」

 

「……はい?」

 

白蓮はメダパニを食らった様に混乱した

 

「支配?どういう意味です?確かにバーンはその昔に大ま……」

 

「あー!いい!もういいよ白蓮さん、その反応でわかった」

 

確信を得たポップは白蓮の言いかけた大事な言葉を中断させる

 

「やっぱ嘘だったなあんにゃろー!次に会ったらただじゃおかねぇ!」

 

「あの……誰がそんな事を?」

 

仕返しを誓うポップへ白蓮は問う

 

「ああ、鬼人正邪って奴だよ」

 

「間違いなく嘘です、信じてはなりません」

 

真顔で即答され正邪の企みは砕け散った

 

「そういう質の悪い悪戯をよくするんです、頂点達へのみですが……ご迷惑を掛けたようで申し訳ありませんでした」

 

「いやいやなんで白蓮さんが謝るんだよ!悪いのは鬼人正邪だろ?」

 

「恥ずかしい話ですがあれでも私達幻想郷の同胞なのです、身内の不祥は我が不祥と同じ……謝るのは当然の事です」

 

「人が良過ぎだぜ白蓮さんよ……」

 

「あの子も普段はああですが異変の際には目覚ましい活躍をするのですよ、それにあの子の悪戯は頂点達への愛情の裏返しですから」

 

「俺達をけしかけようとした奴がかぁ?ちょっと信じられないぜ」

 

「天邪鬼ですからあの子は」

 

可愛いところもあるのだと白蓮は微笑む

 

「……」

 

「……?」

 

ふと白蓮はポップを見つめる

 

(さっきはヒムさんに気を取られていましたがよく見るとこのポップという青年……)

 

魔法使いである白蓮はポップを同類だと見抜き見定め始める

 

(見た目にそぐわない魔力を秘めていますね……それを上手く隠して弱く見せている、軽薄そうに見えるその実、とても精錬されたモノを感じます)

 

能ある鷹は爪を隠すという諺が白蓮に浮かぶ

 

「なぁ白蓮さん、あんたも魔法使いだよな?それもスゲェレベル高い……俺とはだいぶ系統が異なるみてぇだけどよ」

 

「……ッ!よくお気付きですね」

 

心を読まれた気がして白蓮は驚きを見せた

 

「やっぱな、なーんかわかっちまうんだよ、俺も隠してるからさ」

 

(隠形の魔法で隠匿している私の魔法系統の違いまで感じとるとは……なんという天稟)

 

(そしてそれをこの若さで開花させている……どれ程の努力を重ね、どれ程の修羅場を抜けてきたのか……)

 

ポップの力を垣間見た白蓮はふと既視感のようなものを感じ思い出す

 

(似てる、そう……この人は似ているのです、魔理沙に……)

 

人間という閃光のような短い人生、だからこそ懸命に生きるが故に至れる力

 

人間でありながら幻想郷の頂点と呼ばれるまでに成った女性とポップが重なったのだ

 

「魔女の二天」

 

「うん?」

 

突然聞かされた知らない言葉にポップは首を傾げる

 

「幻想郷の頂点達の中にそう呼ばれる二人が居ます、天とはすなわち天辺、つまりこの幻想郷において最高位の魔法使いである二人を表す称号です」

 

「白蓮さん、そいつはよ?あんたより強い……って事だよな?」

 

「当然、私などより遥かな高みにいますよ」

 

「……!」

 

とても熟練された魔法使いだとわかる白蓮をして遥かな高みに座すと言い切る魔女の二天という存在

 

どんな奴なのか想像もつかずポップは一瞬身震いする

 

「霧雨魔理沙、パチュリー・ノーレッジ……それが二天の名です、もし時間がおありなら会ってみるのをお勧めします、必ず貴方の益となるでしょう」

 

「……考えとくよ」

 

夜は更に闇色を増していく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ミスティアの屋台-

 

「いぃ~~~飲みっぷりだねクロコダイン!ん~益々気に入った!さぁもっと飲むよ!まさか飲めないとは言うまいねぇ!」

 

「ふん!このくらいで参る俺ではないぞ勇儀!お前こそ俺についてこられるのか?」

 

クロコダインと勇儀は酒を飲んでいた

 

「抜かせ鰐男!鰐が鬼に勝てるもんかい!」

 

「なら俺が最初の男になってやろう!」

 

二人は和解していた

 

自分に勝るとも劣らないクロコダインの力を認めた勇儀が矛を納め飲むのを提案し断る理由が無いクロコダインが受けたのだ

 

「初めてなんてやらしい言い方するんじゃないよこの助平!……おいチウ注ぎな!」

 

「ヘイ勇儀姉さん!」

 

チウは舎弟となっていた

 

 

「いやぁ良い時に地上に来たもんだ!まさかこんな侠気溢れる気持ちの良い奴が見つかるたぁねぇ!」

 

「俺もだ、異世界に来てお前みたいな強く豪快な奴に会えるとは思ってもみなかった」

 

「ハハハ!そりゃあたしは力の勇儀だからね!豪快で強いのは当たり前の話さ!」

 

「ガハハ!そうか当たり前か!」

 

ウマがあったようで楽しそうに酒を飲み交わしている、屋台が無事だった事が嬉し過ぎたミスティアは笑い泣きしながら大赤字も気にせずつまみと酒を提供している

 

「ああそうだ勇儀、鬼人正邪とやらに聞いたんだがこの幻想郷には確か、頂点……だったか、魔王並みに強い者達が居るらしいではないか、お前がそうなんだろ?あの強さなら納得だ」

 

「あ、ボクもそれ思ってました!」

 

クロコダインとチウが期待する目で勇儀を見る

 

「あーん?頂点……?あたしがぁ?アーハッハッハ!冗談も休み休み言っておくれよ、笑い死んじまう!」

 

大笑いする勇儀を見て顔を見合わせるクロコダインとチウ

 

「全然違う、あたしは幻想郷で見たら中堅どころさ」

 

「姉さんが!?ウッソー!!?」

 

「本当か勇儀?お前で中堅どころなど信じられん……」

 

「鬼は嘘をつかんよ、そもそもあたしよりもっと強い鬼がいるんだけどそいつでさえ頂点の次点ってな認識さ」

 

「……」

 

知らされた事実に言葉を失うクロコダイン

 

「では勇儀……」

 

「ん~?」

 

勇儀から聞いた話を元に少し考えたクロコダインはならばと気になった事を尋ねた

 

「幻想ノ王はどうなんだ?」

 

正邪の話によれば頂点達を統べる王の強さを

 

「幻想ノ王?あ~バーンの事か、えらい古臭い異名持ってきたねクロコダインあんた……」

 

問われた勇儀はバーンをどう表現すべきか少し悩んでこう言った

 

「アイツはね、幻想郷で最強さ」

 

色々と考えたがやはりこれがシンプルにわかりやすいと思ったのだ

 

「最強……そんなに強いのか?」

 

「ああ!どう言ったらわかりやすいかな……頂点7人全員で挑んでも勝てない強さかねぇ、まぁ結構昔の話だし今は知らんけど」

 

「そうか……凄いなそれは」

 

頂点の実力を見たわけではないから強さの想像はつかないが凄まじく強いのだけは理解したクロコダインは空になっていた勇儀の杯に酒を注ぐ

 

「そんな奴等が征服してこようとして大丈夫なのか?」

 

「……はぁん?征服ぅ?何言ってんだいクロコダイン……あぁそうか鬼人正邪から聞いたって言ってたね」

 

訳のわからん言葉に勇儀はすぐ得心がいった

 

「あの天邪鬼のクソガキの仕業か……騙されてるよそれ」

 

ここでも正邪の企みは砕け散った

 

「……そうだろうとは思っていたがやはりそうか……すまんな勇儀、反応を試す真似をして」

 

「いいさ、それより飲むよ!今日は帰さないよクロコダイン!」

 

「仲間が待ってるから帰らせてくれ……もう少しだけなら付き合ってやる」

 

「お供します勇儀姉さん!先代!」

 

夜は更けていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ!はぁ!ぜぇぇ……!?はぁ……!?」

 

物陰で文は死にそうになっていた

 

(ギリギリッ……!?本当に……ギリギリ……でっ!振り切れ……たっ……!)

 

体力を使い果たし地面に倒れた文は息を落ち着かせようとするも中々落ち着かない

 

(あと少し……遅かったら……捕まって……ました……体力ありすぎ、ですよ……あの人……!?)

 

文は本当に紙一重でラーハルトから逃げ切る事に成功していた

 

(あの人まだまだ楽勝で動けそうでした……あ、危なかった……)

 

 

 

 

 

 

「チッ……逃がしたか」

 

文を取り逃がしたラーハルトが周囲を警戒しながら舌を打つ、少し息を切らした程度で余力は充分に残っている

 

(地の利を活かされた……俺としたことが不覚)

 

速度は互角だったが里の形状を知る文と知らないラーハルトで差がつき、体力の面で圧倒的に有利だったにも関わらず僅差で逃げ切られてしまっていた

 

(これではダイ様に会わす顔が……ッ!?ダイ様!?)

 

ようやくダイを放っていたままだと気付き、ラーハルトはダイの居た場所に戻ろうとしたが文との鬼ごっこでいつの間にか全く知らない場所に居た

 

「くっ……!?」

 

とにもかくにもラーハルトはダイを探して走り出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇ……ぜぇ……お水……飲みたい……」

 

ようやく息が落ち着いてきた文だったが次は喉がカラカラに乾燥していたのに気付く、しかし疲れ過ぎて動けない

 

(誰か助けてくださーい!)

 

もう夜も更け里に人通りはほとんど無い、文はこのまま干からびるのを若干覚悟した

 

 

「キミ……大丈夫?」

 

 

そんな文に声をかけるものが居た

 

(この人は……さっきの……外来人……)

 

文には見覚えがあった

 

それはラーハルトに追われる前に見たもう一人の外来人であるダイだった

 

「歩いてたら凄い息遣いが聞こえて来たから……」

 

(ああ……ここさっきの場所から近いところだ……)

 

逃げ続けた終点は開始の場所からそう遠くない場所でラーハルトが中々戻ってこないから暇をしたダイが散歩をしていたのだ

 

「君も妖怪ってやつなのかい?あ、喉が渇いてるの?ちょっと待ってて」

 

文を座らせたダイは早足で近くの家から桶を拝借して水を汲んで文に飲ませた

 

「ふぅぅ……生き返りました!ありがとうございます!」

 

「良かった、オレはダイって言うんだ、君は?」

 

「私は清く正しい射命丸文と申します、この度は助けていただき本当にありがとうございます!」

 

「別に気にしなくていいよ文さん」

 

「文で結構ですよダイ君!」

 

「そう?じゃあ文はここで何してたの?」

 

「それは海より深い事情がありまして……海見たことないんですがね」

 

「そうなの?じゃあ聞かないよ、オレは一緒に居た人がどっかに行っちゃって待ってるんだ……だからさ、文がよかったらお話しようよ、暇なんだ」

 

「ええ勿論!是非ともお話しましょうダイ君!私も貴方とお話したいと思ってましたので!」

 

文の当初の目的は外来人の取材

 

断る理由がある筈がない

 

(話が面白くなかっても面白く脚色すればいいんです!もしくは面白い事をして貰うかですね~)

 

そして汚く悪しき射命丸文の本性が笑う

 

「ありがとう文!じゃ何話そうか?そうだ!今日鬼人正邪って人から聞いた話なんだけど……」

 

月明かりが二人を照らす……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-太陽の畑-

 

「飲め飲めーい!まだ夜は始まったばかりだよー!」

 

宴会に変わった太陽の畑

 

集まった幻想達が愉快に語り合い、皆で作った料理を楽しみ、酒に浸る

 

いつもの光景、されど二度とは無いその瞬間だけの時間

 

「綺麗だ……スゲェ綺麗だ」

 

「ああ、本当に綺麗だぜ」

 

空には満面の星空と満月、その月光に照らされ心地好い風に揺られる絆の花ヒルガオがとても幻想的な雰囲気を出している

 

「ありがとな幽香、貸してくれてさ……お陰で良い思い出が出来たよ」

 

「私もだぜ、無理言って悪かった、ありがとうだぜ幽香」

 

妹紅と魔理沙が礼を言う

 

「……」

 

幽香は答えない、だが怒っているのではない

 

(人間だから……か)

 

妹紅と魔理沙は人間である、それは妖怪や魔族など長寿の種族に比べると一瞬と言える短い時間、魔理沙にいたっては一度寿命を迎え死んでいる

 

そして、今この時も二人は他とは比べ物にならない速さで死に向かっている

 

そんな短命な種族だからこそ一瞬一瞬を悔い無く懸命に生き、その時々の情景は長命種よりも強く焼き付けられる、思い出と言う名で……

 

そして心に刻んで果てるのだ

 

それが人間の生き方

 

「……」

 

それがわかるから幽香は何も言わない、自分より遥かに早く居なくなる事を考えたら寂しいと思ってしまった自分が居たから

 

(こいつらと絆を持ったから……か)

 

それはもう捨てられないから別れはより悲しくなるが、故に今が掛け替えのない時に彩られるのだ

 

「たまになら……また使ってもいいわ」

 

一言、聞こえるか聞こえないかの小声で幽香は呟く

 

「いいのか幽香!じゃあ毎日やろうぜ!」

 

耳敏く聞いていた魔理沙が言う

 

「耳が腐ってるみたいね、私はたまにと言ったのよ、誰が毎日なんて許すか……くたばれ」

 

「ハハッ!相変わらずだなおめぇはよ!なぁ妹紅!」

 

「むしろそうじゃなきゃ調子狂うよ、優しくてデレデレな幽香なんて見たくない……いや、ちょっと見たいな」

 

「はぁ……お前等って本当……本当に……」

 

幽香は見られないように顔を背けた

 

「どうしようもない奴等よ」

 

笑顔を見られないように……

 

 

 

 

「バーンはこの様子じゃ来ないみたいだな」

 

「来りゃ良かったのにな~」

 

 

 

 

またとない時間は過ぎていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お?おっさん達も今戻ったのか」

 

命蓮寺から帰ってきたポップとヒムが宿の前でクロコダインと担がれたチウを見つけた

 

「だいぶ飲んだみてぇだな、チウなんてブッつぶれてんじゃねぇかよ……あんま羽目外し過ぎねぇでくれよおっさん、何があるかわかんねぇんだからよ」

 

「ああ悪かった、良い出会いがあってな……ヒム、頼んで良いか?」

 

「あいよ、ったくしょうがねぇ隊長だな」

 

チウを預かったヒムはそのまま部屋に戻っていく

 

「ダイとラーハルトは……もう戻ってるみてぇだな」

 

宿屋の受付で確認しポップとクロコダインは二人で話をする

 

「そうか……ところでポップよ、さっき会った奴に聞いたんだがやはり鬼人正邪の言っていた事は嘘だったぞ」

 

「おっさんの方もか、俺もじいさんが言ってた聖白蓮に話を聞きに行ってたんだよ、嘘だから信用するなって釘刺された」

 

「ならばもう嘘で確定だろうな」

 

「だな、って言いてぇけどそんな簡単な話じゃねぇんだ俺達からするとよ」

 

「どういう事だポップ?」

 

「どっちが正しい事を言ってるか正確な判断をするのが俺達には難しいんだよ、外来人ってヤツだからな俺達は、ここのちゃんとした事情を把握してねぇ」

 

「……成程、鬼人正邪が本当の事を言っていてそれ以外が嘘を言っている可能性があるという事だな?」

 

「そういうこった、その場合は鬼人正邪以外が洗脳を受けてるとかになるかな」

 

「むぅ……気にし過ぎではないかポップ?そんな事を言っていればキリがなかろう」

 

「俺もそう思う、まっこの場合は嘘で良いんだよ、紅魔館なんてヤバそうな場所に行かなくてよくなるからよ」

 

「では明日は博麗神社か?」

 

「そうなるな、ダイに明日嘘だったって伝えて帰ろうや、鬼人正邪の嘘に乗っかるような奴に会うなんて奇蹟でもなきゃダイも文句言わねぇだろ……俺もちょっと気になる事もあるけど皆の安全が優先だ」

 

「だな、わかった」

 

二人は宿に入り部屋へ向かう

 

「あ……戻ったのねポップ」

 

部屋に入る寸前に隣のドアが空いてマァムが顔を出した

 

「どうしたよマァム?まさかお誘いか?」

 

「もうバカな事言わないで……ダイの事なんだけど」

 

「どうかしたのか?」

 

「ええ、戻ってきた時にラーハルトに言われたの……様子がおかしいって」

 

「どうおかしかったんだ?」

 

「とても思い詰めた顔をしていて聞いても答えてくれなかったって、だから気をつけてくれって言われたわ」

 

「そうか……わかったぜマァム」

 

マァムと別れ部屋に戻ったポップはベッドに寝転がりながら考える

 

(……まさか、な) 

 

自分が言った言葉を思い出し、少々の不安を感じながら眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその不安は現実となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・翌日・

 

 

「た、た、た、大変だぁぁぁぁ!!」

 

 

宿屋に大声が響き渡った

 

「んー……なんだよチウ、どうしたんだ?」

 

皆が顔を覗かせるとチウは真っ青な顔をしていた

 

「ダイが……ダイが……!」

 

パニックになりながらチウは叫ぶ

 

 

 

「ダイが居なくなっちゃったーーー!!?」

 

 

 

勇者消える

 

幻想達が夜想を奏でるその裏側で、迷い悩む竜が消え入りそうなほど切ない独唱を奏で始めた

 

そしてそれこそが……

 

 

 

始まりを告げる運命の前奏曲(プレリュード)

 

 

 

 

 

 

 

 




約17000字……相変わらず詰め込む癖は変わってません、書いてると自然とあれもこれもと増えていくのです。

でもここまで書いたら分けた方が良かった気もしますね、文、勇儀の顔出しを書いて次で絡ませるみたいな方がいきなり感は無いけど中々進まず話数だけ増えてくのは私的に嫌なので申し訳ありませんがお付き合いいただけたらと……

次回も頑張ります!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。