東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 夢想曲(トロイメライ) Ⅱ

 

 

「幻想郷っていう世界なのかぁ」

 

人間の里の門番から今居る世界の名前を聞いてダイが感心しながら皆と里の中を眺める

 

「……」

 

その中でポップとマァムだけ難しい顔をしていた

 

「あ、そうだ門番さん、偉い人とか幻想郷に詳しい人って居る?」

 

「ん?偉い人か……私達の中で有名なのは八雲紫と言う幻想郷の賢者だな、詳しい人は結構居るぞ、里にも居るな上白沢慧音と言う人だ」

 

「どっちかに会えるかな?」

 

「八雲紫様は難しいな、スキマという異空間に住んでるから幻想郷を探して会えるって人じゃない、慧音先生ならこの里に居るからすぐ会えるぞ」

 

「やった!その人の場所ってわかる?」

 

「なら簡単な地図を書いてやろう、観光がてら行ってみるといい、外来人の君達には珍しいモノもあるだろうから楽しんでくれ」

 

「わかった!ありがとう門番さん!」

 

門番に礼を言って里の中へ歩き始める一行、その中でいまだ難しい顔をしているポップとマァム

 

(うーん……幻想郷……あー思い出せねぇ)

 

(どこかで聞き覚えがあるのよね……)

 

それはレミリアから聞いていた言葉であったのだが月日が経ち過ぎていた故に朧になり思い出せない

 

(か~!気持ち悪ぃけど今はそれどころじゃねぇ、どうにかして帰る方法探さねぇといけねぇんだ、切り換えろ)

 

引っ掛かるが優先すべき事へと意識を切り換え足を早めるポップに置いていかれそうになりマァムも慌てて追いかける

 

 

 

 

 

 

 

「……あ」

 

一行が見えなくなった後で門番は思い出した

 

「しまった、慧音先生は出掛けてるんだった……後で謝っとかないと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~……何て言うか、何だろうなぁ」

 

里の中を進む一行は珍しい光景にあちこちに目を走らせている

 

「なんつーんだ?様式っつーのかな?違うよな俺達の世界とは」

 

一行の世界が洋風だっただけに幻想郷の里に見える古き日本の和がとても新鮮で不思議に見えるのだ

 

「あれなんだろう?」

 

ダイが指差したのは団子屋

 

「食べ物っぽいな、つくねと似てっけど違う……肉じゃないのかコレ?タレみたいな液体やら黒い物体乗せてんな」

 

みたらしとあんこを訝しそうに睨む

 

「食べてみようよ!」

 

「……だな、さすがに俺達にとって毒なんてこたぁないだろ」

 

異世界故に用心に越した事はないがいくらなんでもこんなに人間が溢れる里の中でいきなりピンポイントで毒を盛って殺しにくるなんて事は無いだろうと思い購入を決める

 

(最悪キアリーもあるし大丈夫……の筈だ)

 

少々過敏な警戒かもしれないが異世界に来てしまったのなら当然の事と言える

 

(あ、やべぇ、あんまり金持ってねぇぞ……)

 

当初は破邪の洞窟を潜るだけだったのでお金はほとんど持ってきていない、洞窟を探索中に宝箱から幾らか手に入れたりもしたがそれでも一行の手持ちは約1万ゴールド程

 

(そうだ、もしすぐ帰れないんだったら宿だってどうにかしなきゃなんねぇんだ……つかゴールドって使えんのか?)

 

通貨が異なるなど予想出来て当然の事態、もし使えないならどうしようかと焦るポップを前にダイが団子屋の店主に聞いた

 

「すみませーん!これ食べたいんだけどこのお金で買える?」

 

「いらっしゃい、どれどれ……?」

 

ダイからゴールドを受け取り店主は掲げて見る

 

「あーこれロランさんが持ってたのと一緒のやつだね、お前さん方ロランさんと同郷の人かい?」

 

「いや、違うと思うよ……?」

 

聞いた事の無い名前に首を傾げるダイ

 

「それで……大丈夫?買えるかな?」

 

「ああすまん、大丈夫だよ、この通貨は香霖堂で買い取って貰えるからねぇ」

 

「そうなんだ!良かった~!」

 

「ほら食べな、見たとこあんた方外来人で団子は初めて食べるんだろ?ちょっとおまけしといてやろう」

 

「本当!?ありがとう!」

 

渡された団子はかなり多かった

 

「どれどれ……うめぇ!」

 

「ほんと……!串肉の類かと思ったけどお菓子なのねこれ、凄く美味しい!」

 

「確かに美味いな、オレには量がちともの足りんが」

 

「ウーマーイーゾー!」

 

「そんなに美味いのかよ隊長さんよ?」

 

未知の食べ物に舌鼓を打つ食べれないヒムを除いた一行、あのクールなヒュンケルやラーハルトさえ驚きで若干目を見開いている

 

「美味いかい?そりゃ良かったよ」

 

「ええ、いくらでも食べられそうです」

 

「お?言うねぇお嬢ちゃん!ちなみに最高記録は西行寺幽々子様の444本だよ」

 

「444ッ!?う"っ!?喉に……詰まっ、ゲホッ!?」

 

「ハッハッハ!大丈夫かい?ほらお茶飲みな……更に言うとその記録も材料が切れて444本、なんだよねぇ」

 

「ゲホッゲホッ……ウソでしょ……」

 

「ウソみたいなホントの事だよ」

 

一行の美味しそうに食べる様子を満足そうに眺め、店主は嬉しそうに微笑んだ

 

「あ、そうだじいさん、さっきじいさんが言ってたロランって奴なんだけどよ、そいつも外来人ってやつなのか?」

 

「そうだよ」

 

「そいつがどこから来たかってわかるか?」

 

「えーとなー……確かアレル……違うな、アルス……も違う、アリス……はマーガトロイドか……そうだアレフガルドだ!」

 

「アレフガルドね……サンキューじいさん」

 

聞いたポップは串をピコピコしながら考える

 

(聞いた事ねぇな、俺達の世界とは違う異世界って事か……?通貨が一緒ってなんでだ?そんな事あんのか?)

 

その疑問は世界の開闢に関わる非常に重要でとても深い事柄

 

とてもではないがポップが答えを出せる事柄ではなかった

 

「……まぁ考えても仕方ねぇか、皆食い終わったかー?そろそろ慧音先生ってのに会いに行くぞー」 

 

「わかった!」

 

皆が移動の準備を始める

 

「慧音先生?あんた方慧音先生に会いに行く気かい?」 

 

「そうだよじいさん」

 

「慧音先生は出掛けてて里に居ないぞ?」

 

「……あんだって?」

 

「友達に誘われて昼前に出ていった、今日帰って来るかはわからんな」

 

「いやだってよ門番は……騙したのかあのヤロー!」

 

「落ち着け若いの……忘れとったんだろ、そんくらい許してやれお前さんだって忘れる事くらいあるだろ」

 

「ちぇ……わかったよ、じいさんの団子に免じて許してやらぁ」

 

移動しようとした矢先に不在を知り上げた腰を再び降ろしてどうするか悩む一行

 

「あんた方慧音先生になんの用だったんだい?」

 

「この幻想郷ってとこに詳しいらしいから話を聞こうと思ってさ……じいさん他に知らないか?あーっと八雲紫ってやつは無しで」

 

「なら聖白蓮住職か八意永琳先生に会うといい、聖白蓮様は里の外れの命蓮寺と言う場所に居る……あの大きい建物だ、八意永琳様はちょうど今里に診察に来られとるよ」

 

「ホントか!なら今近くに居る八意永琳ってのからあたってみようぜ」

 

「今はあの区域にいると思う、特徴は儂等と服装が全然違うから見ればわかる、赤と青が半分ずつの服を着た女性だよ」

 

「助かるぜじいさん!ありがとよ!」

 

店主に礼を言って早速八意永琳を探しに里を歩く

 

「結構……見られるわね……」

 

「そら珍しいんじゃねぇか?人間の俺達はともかくおっさんは魔族だしラーハルトも魔族の血が入ってるからな」

 

「いや……そうでもないぞポップ、なぁラーハルト?」

 

「ああ……俺達魔族を見る目に敵意や恐れが無い、お前達を見る目と同じだ」

 

「おっ?よそ者か……ぐらいの感じで見てるって事か?魔族なんか見慣れてるって?……いや待てよ?さっきの団子屋のじいさんも平然としてたな」

 

「人と魔族が共存する差別の無い世界……と言う事なのか?」

 

「……信じられねぇがそうなのかもな」

 

にわかには信じられないが現実に魔族に対する目は畏怖ではない

 

「そうだとしたら凄いじゃないか!凄く素敵な世界だよ!」

 

それに一番反応したのはダイだった

 

「……そうだな!」

 

ポップは無理矢理作った笑顔で答えた

 

(これがお前の理想なんだもんな……)

 

もと居た世界との違いに内心歯噛むしかなかった

 

 

「……オッ!マゾクダ、バーンノシリアイカナ?」

 

「……んん?」

 

不意に聞こえた言葉にチウは足を止めた

 

「今……」

 

聞き間違えかもしれないが気になる事を言っていた方向へ顔を向ける

 

「隊長~置いてくぞー!」

 

「あっ!?ヒムちゃん待って~!?」

 

だがすぐに忘れられてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで良くなりますよ、体調が戻ったら念のため一度診察に来てください、それでは……」

 

診察を終えて永琳は鈴仙と共に外に出た

 

「予定していた診察はこれで全て済んだわね鈴仙?」

 

「はいお師匠様、今の方で最後です」

 

「では帰って明日の分の薬を調合しときましょう」

 

「わかりました、それはそうとピクニック参加したかったですね、残念です」

 

「忙しい時は仕方ないわ、医者とはそういうものよ」

 

「わかってます、でも姫様だけズルイ……次は参加出来ると良いですね」

 

「そうね……帰る前に何かてゐと正邪にお土産買って帰りましょうか」

 

「お団子にしましょうお師匠様!」

 

上機嫌で団子屋に向かい永琳の前を歩く鈴仙

 

「……!」

 

その足が急に止まった

 

「どうしたの鈴仙?」

 

「私とした事が気付くのが遅れました……お師匠様、一応警戒を」

 

永琳が鈴仙が睨む視線の先を追うと少し遠目に外来人と思われる集団が見えた

 

「アレじゃねぇか?じいさんが言ってた服装とピッタリだ」

 

どうやら目標は自分達らしい、目的は不明だが

 

「止まれ!」

 

鈴仙が構えて威圧する

 

「何者だ!私達に何の用だ!」

 

「お、おおっ!?頭に耳が生えてる……魔族か!?」

 

近くまで来て鈴仙に止められた外来人は鈴仙を見て魔族だと誤解した様だ、武器は門番に預けたのを忘れていたのか抜こうとして空を切り、慌てて素手で構えていた

 

「だれが魔族だ!私は月兎だ!」

 

「ちょっと鈴仙……」

 

何やら一触即発の空気になっているが明らかに鈴仙が過剰に反応しているだけで外来人達に争う意思は感じられない、魔族と勘違いした鈴仙が襲って来そうだから身構えているだけに見える

 

だから止めようと永琳は声を掛けたが鈴仙には聞こえてなかった

 

「まてまて俺達はそこの八意永琳って人に用があんだ……」

 

「狙いはお師匠様か!させるか!」

 

「鈴仙!?」

 

外来人の青年の言葉を最後まで聞かず、鈴仙は飛び出した

 

「うおっ!?」

 

鈴仙の速さに青年は驚き反応出来ていなかった、繰り出した拳が青年の顔に目掛け放たれる

 

 

パァン

 

 

乾いた音が鳴り拳が炸裂したのだとわからせる

 

「ふぅ……速くてビックリしたわ、間に合わないかと思った」

 

「さ、サンキューマァム、助かったぜ」

 

ただし、炸裂したのは青年の顔ではなく、傍に居た武道家の掌だった

 

「やりますね……貴方、武を嗜む者と見受けました!」

 

武道家の女性を睨み後退する鈴仙は珍妙なポーズを取る

 

「ですが今のを辛うじて防げる程度の腕前では私はおろか美鈴大師匠には足元すら……」

 

「やめなさい鈴仙」

 

鈴仙は後ろから頭をしばかれうずくまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の連れが失礼しました」

 

「俺達も誤解を招く動きをして悪かった」

 

誤解が解け互いに頭を下げ合う

 

「俺の名前はポップ、あんたは八意永琳って人で合ってるかい?」

 

「ええ、私が永遠亭の八意永琳、この子は鈴仙・優曇華院・イナバ……私に何か用かしら?」

 

ポップは自分達の置かれている状況を話した

 

「成程、話は理解したわ、結論から言うと貴方達は帰れるわ、ほぼ問題無く」

 

「ほ、ホントか!?」

 

「ええ、八雲紫か博麗の巫女に会えば元の世界に帰してくれるでしょう」

 

「よっし……!あ、でも八雲紫ってのはすぐには会えないって聞いたぜ?」

 

「そうね、今彼女は忙しいから……私が連絡しても後回しにされると思うわ、大結界の揺らぎが収まるまでだからいつ終わるかは未定ね」

 

「なら博麗の巫女って奴は?」

 

「里から結構離れた場所にある博麗神社と呼ばれる場所で住んでいるわ、方角で言えば向こうの方ね」

 

「わかったぜ、助かった!ありがとう!」

 

「紹介状を書いてあげるわ、渡せばスムーズに話が出来るでしょう」

 

勇者一行は「永琳の紹介状」を手に入れた

 

「……あ、お師匠様、霊夢さん達ピクニックに行ってるんじゃないですか?」

 

「……へ?ピクニック?」

 

思わぬ言葉に気の抜けた声がポップから漏れた

 

「……確かに行ってる可能性は高いわね、どうしましょう……」

 

「な、何かヤバイのか?ここのピクニックって?」

 

「いえ、ピクニックは至って普通よ、問題は場所なのよ……太陽の畑って所なのだけど……」

 

「畑がそんなにマズイってのか?ピクニックするような場所なのにか?」

 

「そうね……運が良くて半殺し、悪くて瀕死かしら」

 

「何でだよ!?何でピクニック出来る畑で死にかけるんだよ!おかしいじゃねぇか!」

 

「太陽の畑の持主が大変な危険人物でね……知らない人なら近付いただけで半殺しになってしまうのよ」

 

「……イカれ過ぎてんだろそいつ、なんで野放しなんだ」

 

「それでも丸くなった方なのよ?昔は瀕死か抹殺だったもの、外来人の貴方達が行くのはお勧め出来ないわねぇ」

 

「……もうツッコまねぇぞオレぁ」

 

うんざりしたようにポップは肩を落とした

 

「博麗神社に行ってみる?ピクニックに行っていない可能性も勿論あるし誰か居るかもしれないから行ってみるのもアリと思うわ、居なくても待ってればいいし……今日帰ってくるかは保証出来ないけれど」

 

「どうすっかな……行ってみるか皆?」

 

皆の意見を聞こうと振り向くとダイが手を挙げた

 

「行きたい!色んなモノ見れて楽しそうだ!」

 

「私もいいわよ」

 

「俺も構わんぞ」

 

「ダイとマァムとおっさんと、ヒュンケルも……良いのか、チウも行くって事はヒムもだな、ラーハルトは聞くまでもねぇな」

 

「俺はダイ様に従うのみだ」

 

「みなまで言わなくてもわかるっての、じゃあ行ってみっか……すまねぇ永琳さん、助かったよ」

 

「このくらい気にしなくていいわ、今の幻想郷は危険は少ないけれど気をつけて行きなさい」

 

出発しようとする一行

 

「それと……」

 

永琳が最後に呼び止めた

 

「もし時間があるなら永遠亭に来なさい、案内人に話は通しておくから」

 

「?……あんた医者なんだろ?俺達特に怪我なんかしてねぇけど……」

 

「そうね、心当たりがある者は気に留めておくといいわ」

 

永琳がヒュンケルに目を向け微笑む

 

「……!」

 

「それではさようなら」

 

「……」

 

去っていく永琳の背をヒュンケルはしばらく見つめていた

 

「行こうぜヒュンケル」

 

「……ああ、わかった」

 

一行も出発するのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーすまんすまん!慧音先生が出掛けていたの忘れていたよ」

 

「ったく頼むぜぇ?団子屋のじいさんが教えてくれなきゃ騙されたと思っちまうだろ」

 

「悪かったって、お詫びにこれをやろう「エッチな本」だ、むっつりスケベかセクシーギャルになれるぞ」

 

「要らねぇよざっけんな!……アトデトリニクル」

 

「ポップ……?」

 

「な、なな何でもねぇよマァム!そんな目で見んな!い……行くぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-太陽の畑-

 

「何作るの~?」

 

「あたいオムライスがいい!レミリア作ってよ!」

 

「もぅしょうがないわねぇ、特別よチルノ?他もリクエストがあるなら今のうちに言いなさい……準備して咲夜、大妖精も手伝いなさい」

 

 

 

「つまみ!つまみがありゃ酒飲み連中は充分さね~!」

 

「スルメイカあげるから勝手に炙って食べてなさい」

 

「雑ぅ!すこぶる雑だねぇ!こりゃ笑うしかないアッハッハ!」

 

 

 

 

「えぇとぉ、何でもいいからとにかく量が欲しいわぁ」

 

「米食べさせときなさい、炊かなくていいわ」

 

 

 

 

「私も手伝うよ」

 

「やめて妹紅、貧乏臭い料理出されたら困るから」

 

「んだとテメェ!」

 

 

 

 

 

「という訳だから厨房借りるわね幽香」

 

「……汚したら許さないわよ」

 

「なら汚れないように貴方も手伝いなさいな」

 

「……チッ、わかったわよ」

 

 

 

 

 

「そういえばお嬢様、里に外来人が来ていました」

 

「あらそう、それで?」

 

「それだけでございます」

 

「危険には見えなかったって事でしょう?ならどうでもいいわ、そのうち紫が帰すでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-永遠亭-

 

「ただいま」

 

「お帰り~」

 

帰ってきた二人をてゐが迎えた

 

「調合の準備は出来てる?」

 

「出来てるよ~」

 

「助かるわ」

 

てゐへ鞄を預け調合室へ向かう

 

「もしかしたらここに外来人が訪ねてくるかもしれないから来たら案内お願いね」

 

「えー……面倒臭いなぁ」

 

途中、永琳は思い出したように止まった

 

「正邪は?」

 

「頑張ってるよ、まぁ気合い入ってるけど元が想像を絶する弱っちさだから成果は御察しだけどね~」

 

「……そう」

 

永琳は調合室に行かず縁側へ向かって行く

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……キッツ……!?」

 

鬼人正邪は流れる汗を拭う

 

正邪は永遠亭に修行に来ていた

 

いずれは頂点を越えると目標を立てて一人で修行をしていたが限界を感じ最近は多方面へ協力を願って修行をつけてもらっている

 

頂点回りは避けているのは頂点を越えたいプライドから

 

「やってるわね正邪」

 

「永琳……お、お帰り……!言われたメニューはこなした……よっ!」

 

「上出来ね、お土産買って来たから少し休憩なさい」

 

「ホントか……!ありがと……!」

 

渡された団子を食べながら一息つく

 

「少し成果を確かめてみましょうか」

 

「あん?どした急に?」

 

「修行ばっかりじゃ飽きるでしょう?たまには目に見える形で成果を実感した方がいいわ、今後のモチベーションに繋がるし」

 

「ん~言いたい事はわかったけどさ、何したらいいんだよ?」

 

「今、外来人の集団が幻想郷に来ているの、その中の指定した一人と手合わせして来なさい」

 

「そりゃいいけどさ……外来人にいきなり突っかかって行って大丈夫なのかよ?ヤバイ奴等じゃねぇのか?」

 

「そうね、ペットを除いたら総じてかなりの者達なのは確かよ、そして一人おそらく化物が居るわ」

 

「化物って……あいつ等くらいか?」

 

「それ以上……かもしれないわね、他の者も何人か結構なモノを持っていたのは間違いないわ」

 

「ホントに大丈夫なのかよ?」

 

「得意の口八丁でどうにかなさい、それに大丈夫よ、余程貴方が下手を打たない限り殺されるような者達ではなかったから……本当に危なくなったら貴方の能力があれば逃げれるわよ……きっと」

 

「最後きっとって言ったよな!?……まぁわかったよ、そいつら今どこにいんの?狙う奴の特徴は?」

 

人知れず勇者一行は巻き込まれて行く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-博麗神社-

 

「居ないね」

 

「居ねぇな」

 

無人の博麗神社に勇者一行は辿り着いていた

 

「どうする?待ってみる?」

 

否、実は一人居た

 

(あーアレは見つかったら絶対面倒臭そうだから隠れてよっと)

 

留守番を任された龍神である

 

神の力を使って見つからないように居留守を使っているのである

 

(はぁー?良く見たら一人ヤベェ奴いるじゃん、聖竜の加護を二重に持ってるよアイツ……どうなってんだ意味わからん、無視無視)

 

関わると大変そうだと察して完全に気配を消している

 

「もう少しで陽が落ちそうだしな……帰って来るかわからねぇし一旦人間の里に戻って休んで明日また来ようぜ」

 

皆が賛成し博麗神社を出ていく

 

(よしよしやり過ごせた、それにしてもあの人間……奇妙な因果を感じたな)

 

姿を表した龍神は一人思う

 

(来るべくして来た、そんな感じだ……あの人間が秘める闇が幻想郷に向かわせたのか、幻想郷の何かが呼んだのか、もしくは両方か……何にせよ何か起きそうだな、ボク知ーらね!)

 

我関せずと境内に戻って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無駄足ばっかりだったな」

 

里に戻る途中ポップは愚痴っていた

 

「確かにそうだが帰れる事はわかったんだ、そう焦る必要はなかろう」

 

「まぁそうなんだけどよ、けどなおっさん、俺としちゃあさっさと帰りたいわけなのよ、何かに巻き込まれる前にさ」

 

「えー!もう少し冒険しようよ!帰れるのはわかったんだしさ!」

 

「だからダイ、おめぇはもう少し危機感ってもんを……」

 

言いかけてポップの言葉は止まった

 

(そうか……こいつがこんなに冒険冒険楽しそうに言うのはホントは冒険がしたいんじゃあねぇ、帰りたくねぇんだ……向こうに)

 

(思えばここに来てからやたら元気だった、誰も自分の事を知らねぇからだ……そんで人間も魔物も差別しないから余計に……)

 

デルムリン島で魔物を友とし純粋に生きていたダイが救った世界

 

それが今やダイにとっては苦痛な世界となっているのが幻想郷に来て余計にわかるのだ

 

「……まっ少しくらい遊んだってバチは当たんねぇだろ、なぁ皆?」

 

「ホント!?ありがとうみんな!」

 

長く居るのは毒だとわかりつつもこれも気晴らしと思いダイを優先する

 

そうしてしばらく歩き

 

「……あ、ルーラで里に戻れるんじゃねぇか?俺とした事が使えないと思い込んで忘れてたぜ」

 

「いいよ、歩こうよ!」

 

移動呪文の存在を思い出した時だった

 

 

「そこの外来人!ちょ~っといいかい?」

 

妖怪の少女が現れたのは

 

 

「何だお前……魔物か?」

 

「違うよ、似たようなもんだけど訂正はしとく私は妖怪さ、名前は鬼人正邪」

 

「……その妖怪?様が俺達に何の用だよ?」

 

一行は正邪を明らかに警戒している

 

人の姿にかなり近いが見てわかる異形と滲み出る胡散臭さから

 

「あんた等強そうだから手合わせして貰いたくてね、ダメかい?」

 

「……受ける理由がねぇ」

 

「まっだろうねぇ……」

 

怪しい笑みを浮かべながら正邪は一行を品定める

 

(見たらわかるマジでヤバイ奴等じゃん……ペットってのはあのネズミか、んで一番ヤバイのはアイツ……永琳が言ってたのはコイツか)

 

(さてさてさーて……どうすっかね、こいつ等人が良さそうだからアレで行くかね、嫌がらせも兼ねて……ね)

 

作戦が決まった正邪はすぐさま動いた

 

「反転!」

 

「ッ!?皆!気をつけ……ろッ!?」

 

一行の動きが急におかしくなった

 

「皆ッ!?どうした!?」

 

ヒュンケル以外

 

「結構鍛えた初見殺しだよっと」

 

正邪は能力を使い一行の動きをひっくり返したのだ

 

昔は力の強い者に複数能力を掛けるのは不可能だったが鍛えた事により短時間なら可能となっていたのだ

 

「くっ……そ……ヒュンケル……!気をつけろ……!?」

 

「チィ……!」

 

まともに動けない者達の前に出てヒュンケルは構える

 

(さぁ私がこの凄腕にどこまでやれるかな?)

 

焦る一行と反対に正邪は少し楽し気にヒュンケルへと駆けた

 

「……!」

 

迎え打つように手刀の横薙ぎ一閃

 

「おお危ない」

 

しかし正邪には避けられ空中に飛ばれてしまう

 

「チッ……」

 

(ん~?コイツ等?コイツ?飛べないのか……だとすりゃいくら強くても私が有利過ぎるな……よし)

 

正邪は距離を置いて着地する

 

「……何故降りた?貴様に有利な筈だ」

 

「言ったろ?手合わせって……空から一方的で手合わせもくそもないだろ」

 

「……お前、本当に……?」

 

ここでヒュンケルが正邪が言っていた事が本当なのだとわかると同時に気付いた

 

「こんの……!!」

 

ダイが能力を無理矢理解除しようとするのを

 

「大丈夫だ……見ていてくれ」

 

手をかざしダイを止めると再び構える

 

「んじゃあ仕切り直して……ハッ!」

 

正邪が弾幕を形成しヒュンケルへ放つ

 

「何ッ!?」

 

ヒュンケルは一瞬面を食らう、魔物の大群から魔法や飛び道具の乱れ撃ちの経験はあれど単体からここまでの多量の攻撃は経験が無かったのだ

 

しかしそこは歴戦の戦士ヒュンケル、大量の弾幕の中から自分に向かう弾のみを拳で払う

 

「ぐっ……」

 

だが数が多過ぎるのか被弾し顔を歪める

 

(あれ?当たった?嘘だろ?)

 

それに不思議な顔をしたのは正邪

 

(油断?いやいやそんな筈無い、だってコイツは私より……)

 

疑問が浮かび確かめるように弾幕を止めヒュンケルに突撃する

 

「ぬぅぅ……!」

 

右腕同士がぶつかり押し合う形

 

「だりゃあ!」

 

「はぁぁっ!」

 

すかさず始まる乱打戦

 

拳で打ち合い、掴む手を払い、蹴りを避け、互いの攻撃を相殺していく

 

(あぁ、わかった……永琳が狙わせた理由ってこれか~成程ね納得)

 

その最中に正邪は全て理解する

 

(私はコイツを格上と思った、なのに実際は私がこうして考えれるくらい余裕がある戦いが出来てる……意識に身体が追い付いてないんだ)

 

そして結論を出した

 

(コイツ身体が壊れてんだ、今これだけ戦えてるのが奇蹟なくらい……そこまで壊れてる)

 

そう、ヒュンケルはバーンとの最終決戦時に身体が限界を越えた

 

そして命は助かったがもはやその身体は回復不能、武器も振るえぬ身体になり果てた

 

それを尽きぬ闘志で再起を目指したが未だこれだけしか戦えない

 

(地獄のような時間だったろうに、凄い奴だな……)

 

弱者になっても這い上がろうとする姿勢に尊敬の念を抱いた正邪はすべき事がわかった

 

「……うらぁ!」

 

正邪の攻めの強さが上がった

 

「くっ……うぐっ!?」

 

ヒュンケルの被弾が増えていく

 

「どりゃあ!」

 

隙を目掛けた強烈な一撃

 

「やめろぉぉ!!」

 

それが当たる前にダイが叫び正邪の能力を打ち破る

 

「なっ!?」

 

拳を止めた正邪は慌ててヒュンケルから離れダイへ顔を向ける

 

(能力を強引に解除しやがった!いつでも出来たって事かよ……マジに化物だな、戦ったら絶対死ぬな)

 

乾いた笑みを浮かべながら見るダイの横へポップが並んだ

 

「てめぇ……いい加減にしろよ!」

 

(はぁ?アイツ私の能力に対応しやがったのか!?この短時間で!?ウッソだろ?全部逆だぞ?理屈でわかって出来るもんじゃない……まだ完全に対応してないとはいえ破るより難しいだろそれは)

 

ポップの凄味を間近で見て想像以上だと震える

 

「……降参だよ」

 

正邪は能力を解除し両手を上げた

 

 

「悪かった!この通り!」

 

正邪は手を合わせペコペコ謝っている

 

「コイツ!謝ったらいいってもんじゃねぇだろ!」

 

怒っているのはポップ、いきなり襲われたら当然である、更には知らぬ異世界なのだから尚更である、命の心配をしていたのだから

 

「落ち着けポップ、俺は大丈夫だ」

 

「そうだよ、落ち着きなよポップ」

 

戦ったヒュンケルとダイに抑えられようやくポップは息を落ち着かせる

 

「はぁ……んでぇ?お前さんの目的は俺達が強そうだったから手合わせしたかったって?」

 

「そうだよ」

 

「けっ!信じれるか!」

 

正邪が永琳に言われて手合わせに来たのは本当である、ただ狙う人物が居た事は言ってないし最初の接触に問題もあった

 

極めつけは正邪にはどうしようもない胡散臭さから信じてくれない

 

「ホント悪かったって……でもさ、お陰でわかった事もあるだろう?思い知った……が正しいかな?」

 

「……」

 

正邪に視線を向けられヒュンケルは拳を握る

 

これで永琳の頼み事は無事に終わった

 

 

 

 

 

「そんでここからが本題さ」

 

ここからは正邪の勝手なアドリブである

 

「やっぱ裏があったか」

 

そうだろうと思っていたポップは続きを促す

 

「あんた達に倒して欲しい奴がいるんだ」

 

「そういう系だと思ったぜ」

 

ポップは手合わせという力を試すような真似をする奴の言いそうな事情を予想していた

 

「あんたこのパーティーのブレイン?流石に切れるね!」

 

それは正邪の思い通りであった

 

「そいつは幻想郷を支配しようとしてるんだ」

 

「待てよ、まだ少ししか知らねぇけど平和でしっかりしてそうなここを支配しようなんて奴がホントに居んのかよ?」

 

それでもポップは簡単に話を鵜呑みにしない、疑ってかかる

 

「疑うのはわかるよ、だけど本当なんだ……気付いて戦ったけど私は弱くて勝てなかったんだ……」

 

「おめぇの他に強い奴は居なかったのかよ?」

 

「居るよ、私なんかよりもっと強い奴等は……でも私の言葉は聞いてくれなかった、昔に悪さした事があってそれが尾を引いて私の言葉なんか誰も信じちゃくれないんだ」

 

「狼少年ならぬ狼少女ってか?よくある話だなオイ」

 

ポップは中々信じない

 

(コイツやるねぇ、経験か?仲間で苦労した感じ?あー面倒臭くなってきたなー逃げよっかなー)

 

正邪も諦め始めた時

 

「ポップ!ちゃんと聞いてあげようよ!」

 

見かねたダイが助け船を出した

 

「おいダイ!おめぇこんな奴の話信じるのか……あ"ーもうわかったよ!」

 

(え?良いの?明らかに正しいのはこのポップって奴なのに?……なんかこのダイって奴が喋ったあと一瞬考えてたな、訳あり?)

 

それはダイの気晴らしの為に出来るだけダイの好きにやらせてやりたいという一行全員の思いだったからなのだが正邪が知るよしは無い

 

(よくわからんけど何か上手くいきそう……よしよし、慌てふためけクソ頂点共~ケーッケッケ!)

 

正邪のこのアドリブの目的は幻想郷の頂点への嫌がらせである

 

(最近怠けてるらしいから私からの激励だ~)

 

頂点達に結構泣かされている正邪はたまにこういった意地の悪い悪戯をする事があった

 

それがバレて制裁で泣かされてそれの報復でまた悪戯をして泣かされるの繰り返し

 

(どうせ紫か霊夢辺りが帰すだろうし焚き付けて後は隠れてよっと!行ったらざまぁ!行かなかっても帰って証拠隠滅!イェー!)

 

今回も頂点達が怠けてると風の噂で聞いたから渇を入れてやるくらいの軽い感じでの行動

 

頂点達がピクニックをしているのは知ってるが太陽の畑に行かせると花の大妖怪が怖いので行かせない、夜通し宴会する事になったのも知らない

 

「んでぇ?そいつは何処の何方様なんだよ?」

 

「あ、あぁ……そいつはこの幻想郷で一番危険な場所「紅魔館」って所に大魔王の如く君臨している……」

 

「……大魔王?今……大魔王つったか?」

 

ざわっと反応し緊張が走る一行

 

「その名は……」

 

そして……その名はあまりに偶然に、あまりにも簡単に出た

 

 

 

「幻想ノ王バーン・スカーレット」

 

 

 

そうして、勇者一行はかつての宿敵の存命を……

 

「なんだ別人かよ、緊張して損したぜ」

 

「だね、焦ったよオレ」

 

知る事にはならなかった

 

「……知ってる奴に名前が似てた?」

 

「そんなとこだ、アイツに姓はねぇし幻想ノ王なんて肩書きもねぇ、別人だな」

 

今の幻想郷においてバーンはレミリアの旦那である事は公然の事実でありスカーレットの姓を足す事は普通でありいちいち言うか言わないか程度の事でしかない、正邪もただ長い方が威圧感が出るかな?くらいでしか言ってないのである

 

更には大魔王ではなくなったバーンを形容する言葉では大魔王と言う時はあるが今はただのバーンである事もわかっている正邪はこれもただ単に肩書きがある方が強そうだと思って夢現異変の時に戯れで言ったであろう幻想ノ王を付けただけに過ぎない

 

 

「生きてるわけねぇしな」

 

それだけである、だがそれだけの事が勇者一行に別人だと誤認させたのだ

 

(スカーレット……レミリア……スカーレット……?そんで……バーン……いやいやまさか……ないないあるわけねぇよ)

 

だが気に留まる事でもあったのは確かだった

 

 

 

「……もう少し詳しい話聞かせてくれよ、その紅魔館って所をよ?」

 

 

 

運命は近付いて行く、まるで繋がった紅い糸が手繰られていくかの様に……

 

 

 

 

 

紅糸を手繰っているのはどちらなのか?

 

 

 

幻想で太陽を得た敗者か?

 

世界に居場所を失った勝者か?

 

 

 

 

幕はまだ上がったばかり……

 

 

 

 

 

 




ポップって喋らせやすいからついつい増えてしまう……魔理沙も同じ。

ノってる時は書けるもんですねぇ、2週間で1話ぐらいのペースかなぁなんて思ってたら思いの外書けました、作中時間は全然進んでませんがねww

あ、前回の後書きの補足がありました。
この作品に出るロン・ベルクの来た平行世界がありました、全然重要ではないですが思い出したので一応……

次回も頑張ります!

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