東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-秘伝- 夢想曲(トロイメライ) Ⅰ

   

 

 

 

どこか遠く

 

幻想から遥か遠く離れた異なる彼の地

 

もう決して交わる事の無い約束の地

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

その奇蹟が起きた世界の何処かに在る湖に青年は腰掛けていた

 

「……」

 

その場所でただ一人青年は物憂げな表情で景色を眺め続けている

 

「……ふぅ……」 

 

青年は重い溜め息を吐き、俯き、静寂の中で暫く時が流れて行く

 

(誰も居ない場所が気が楽だなんて……昔は思いもしなかったんだけどな……)

 

聞かれる事の無い心の独白

 

青年は過ぎ去りし時の情景を浮かべる

 

(オレは……勝って良かったのか……?)

 

不意に、そんな事を思い、すぐに首を振った

 

(いや違う、勝って良かったんだ、そうじゃなきゃ地上は消えて……皆、死んでたんだ……)

 

(……そうだ、間違ってなんかない)

 

青年はそう思い込み、不安を押し込める様に蓋をする

 

(……でも)

 

しかし、滲み出る

 

(今の世界は……オレを……)

 

どうあっても消える事の無い暗い感情は塞き止まる事は無い、塞き止める術も無い

 

(わからない……オレは……どうすればいいんだ……)

 

心の在り様なのかもしれない

 

気にしなければ病まずに済んだ、もしくはそれすら飲み込む強さを持てば良かったのかもしれない

 

だが青年はそうなれなかった

 

何故ならそれは、青年が愛した者達の意思だったから

 

愛した者達に敵意は持てない、愛した故にその意思を受け止めざるを得ず深く突き刺さる

 

青年は純粋だった

 

純粋が故に染まりやすい、だから傷付きやすい

 

そうして青年は心を病んで今に至る

 

「お前なら……わかるのかな……?もし……そうなら教えてくれよ……」

 

なればこそ、だからこそ青年は過ぎ去りし時に想いを馳せるのだろう……

 

己の現状を予期していた者へ、今は亡き宿敵に返らぬ返事を……

 

「みんな……オレの事……忘れてくれないかな……」

 

忘却を望む程に今の青年は弱っていた

 

かつて、竜の騎士として、勇者として世界中から期待されていた少年の……今の姿

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おー!やっぱここだったか!だと思ったぜ」

 

突然声が掛けられ青年は振り向く

 

「ポップ……」

 

そこには青年の親友が立っていた

 

「へへ……見つけたぜダイ、あん時以来だなここは」

 

親友は青年の横へ並び腰掛けた

 

「あ……」

 

突然の来訪に戸惑いと気まずさ、そして来てくれた嬉しさを混じらせた顔で青年は何か気の利いた言葉を出そうとするが出てこない

 

「あーいい!いい!何も言う必要なんかねぇよ、あん時と一緒さ!たまにゃあ月夜の散歩も良いもんだ、ってな!」

 

「……ああ」

 

察した親友の言葉をありがたく思いながら湖へ向き直る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-幻想郷-

 

 

「くっそ……しつけぇな!?」

 

 

幻想郷の空を疾走する一人の少女

 

 

「待てコラァーー!!」

 

「止まれーー!!」

 

 

それを追従する二人の少女

 

凄まじいスピードで幻想郷を駆け回っている

 

「止まれって言ってんのー!親分の命令が聞けないのか妹紅ー!」

 

「わりぃな親分!かなり遅い反抗期なんでね!」

 

「はぁ?何それ意味わっかんない!?もとはと言えばあんたが悪いんでしょうが!!」

 

「だからちゃんと謝ったじゃんか!なのにお前等が「お仕置きだー!」なんて言うから逃げてんだよ!氷漬けは寒いから嫌なんだよっ!」

 

同じ所を言ったり来たりしながら3人は飛び続ける

 

「もうわかったってば妹紅!怒んないから止まってよ!ね!」

 

「そう言って捕まえる気だろフランテメー!私は騙されねーからな!」

 

「むー!もう怒った!絶対許してやんないからね!」

 

「そら見ろ!やっぱりだくそったれ!」

 

言い合いをしながらとはとても思えない凄まじい技量で幻想郷を自由自在に飛び回る追う者と追われる者

 

 

 

 

「アハハ!がんばれー!お母さーん!」

 

その光景を幻想郷で一番有名な場所「紅魔館」のバルコニーから眺める者が数名

 

「楽しそうだなぁ、私も行こっかなぁ」

 

ルナと並んで見ていた大妖精が交ざりたそうにしている

 

「まーだやってんのかよ、元気な奴等だぜ、なぁ?」

 

厨房からくすねてきたリンゴを頬張りながら意地悪そうにニヤケる魔理沙が読書中のパチュリーを覗き込む

 

「何で妹紅逃げてんだったっけ?」

 

「ルナと運動してから来た妹紅がチルノのおやつのかき氷とフランに用意されてたジュースを飲んじゃったのよ……っもう、頬っぺツンツンしないで」

 

「うへへ……まっいつものこったな!幻想郷は今日も平和だぜってなもんだ」

 

「貴方も行ってきたら?ここ数年大した異変無いからナマってるんじゃない?」

 

「抜かせ紫もやし!……って言いてぇけど否定しきれねぇのも確かなんだぜ、行ってくっかなー」

 

「……私も行こうかしら、最近運動不足なのよね」

 

「おっ?いいな行くか?あーなんか楽しくなってきた!オラさっさと立て!行くぜもやし賢者!」

 

「わかったから、行くから急かさないの脳筋大魔導士」

 

二天の魔女は飛んで行き、それを見た大妖精も慌てて後を追って行く

 

「貴方は行かないの?」

 

その光景を眺めながら優雅に紅茶に口をつけたレミリアがルナに問う

 

「無理ですよ~お母さん達についてけるわけないですもん、それに見てるだけでも楽しいし勉強になります!」

 

「そう……バーンは?」

 

微笑みを浮かべ隣を横目で流す

 

「返答がわかっていてわざわざ聞くな」

 

バーンは読んでいる本から目を逸らす事なく答えた、行く気は全く無い

 

「こんな他愛の無い会話が良いのよ、以心伝心は素晴らしい事だけど私としては少し寂しいと思うのよね……他愛の無い、些細な事でも言葉を交わし合うという行為が円満な関係を永く維持する秘訣になるんじゃないかと最近思うわ」

 

「ふむ……そうか、そんなものか」

 

「ふふっ……貴方とはいつまでもそうでありたいって願いでもあるかしら」

 

「お前がそう望むなら余も努めるとしよう」

 

「ありがと、やっぱり私が選んだ男に狂いは無かったわね」

 

 

 

「まぁたあの二人イチャイチャしてる……むぅ~良いなぁ……あーレックス早く来ないかなぁ」

 

遠き想いが幻想の空に馳せる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-カール王国-

 

夜が明けた翌日

 

そこにはポップ、マァム、ヒュンケル、クロコダインが集まっていた

 

「よく集まってくれました皆さん」

 

国王アバンが礼を述べ皆が頷く

 

「さて、今回の……と言いますか今回も、になりますが……何か良い案は生まれましたか?私は不甲斐無くこれと言った案は特には……」

 

「いんや……俺も一緒さ先生、皆はどうだい?」

 

ポップが問うと皆は気まずそうに顔を横に振る

 

「だとさ……実際難し過ぎるぜこいつぁよぉ……国王になった先生の力でもどうにもなんねぇんじゃ厳しいんだよな、世界中の認識を変えるなんてよ……」

 

「それは皆わかっていますよポップ、だからと言って貴方は現状を放っておけますか?」

 

「わかってるさ先生……だからこんなに悩んでるんじゃねぇか」

 

「…………」

 

沈黙が流れる

 

「こうなったら洗脳でもするしかないんじゃねぇか?」

 

「ポップ!?何を……!?」

 

クロコダインが立ち上がる、他の皆も驚いた表情でポップを見る

 

「いや……俺もヤバイ事言ってる自覚はあるさ、だがよ一応そういう方法もあるんだ程度で聞くだけ聞いてくれ、何も世界征服やら支配なんてしようってんじゃない、ただ認識を良い方に変えるだけだからアリなんじゃねぇかって思ったんだ」

 

「むぅ……それは、そうかもしれんが……いや、しかし……」

 

「でも洗脳なんて……」

 

ポップの考えを聞いて揺れるクロコダインとマァム

 

「俺は反対だ」

 

そう言ったのはヒュンケル

 

「効果の有効性は認めるが不安定過ぎる、何かの拍子で洗脳が解ければ反動はより強い畏怖となってダイへ向かう事になるぞ、そうなっては今まで以上にどうしようも出来ん、俺達も庇い切れん事態になるのは必定だろう」

 

「私もヒュンケルに賛成です、世界中の人間だけでなく知性ある魔物にも洗脳は行わなければならない、世界を巻き込む凄まじい労力になります……そこまでして効果が不安定だとすればする価値は無いと言えますね」

 

アバンも加わりその案の不備が浮き彫りになる

 

「だよな……悪ぃ、俺だってわかってんだよそんな事はさ……だけどもうこんな事しか思い付かねぇんだ……情けねぇ」

 

ポップも親友の現状をどうにかしたくて思い詰めていた

 

「……ダイはどうしてるの?」

 

答えの出ない議題から逃げるようにマァムが問う

 

「パプニカだ、今は姫さんとラーハルトが付いてる」

 

「様子は?」

 

「大分参ってるな……昨日も抜け出してテランの森に行ってたくらいだしな」

 

「そうか……」

 

「純粋だからでしょうね……純粋だからここまで心を痛めてしまうのね……」

 

「一番恐ろしいのは純粋故にこのまま世界の畏怖を受けて……そう、バーンに……第二の大魔王になってしまわないかという事です」

 

「皮肉なものだ……世界を救ったが故に、か……」

 

「どうにかしてやりたいが……俺達では力不足なのか……」

 

また沈黙が訪れる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-幻想郷・太陽の畑-

 

「チッ……」

 

風見幽香は来客にイラついていた

 

「うぇーい!幽香ー!ピクニックに来たぜー!」

 

招かれざる客が大勢来ていたからだ

 

「誰が来ていいと言ったの魔理沙……?死にたくないならさっさと帰れ」

 

「おーい皆いいってよー!サンキューな幽香!お前んとこ花綺麗だからよー使いたかったんだぜ!」

 

「……死にたいらしいわね」

 

殺気を向ける幽香にニヤニヤ笑う魔理沙

 

「ありがとうございます幽香さん!あ!幽香さんの分もちゃんとありますからね!」

 

「シート敷くわよ!後に続けもこたん!フラン!ルナ!」

 

「はいよ~」

 

「オッケー!」

 

「はーい!」

 

「僕も手伝うよ」

 

その横を軽やかに通り過ぎていく大妖精、チルノ、妹紅、フラン、ルナとロラン

 

「諦めなさい幽香」

 

「むしろ私が訪れた事を光栄に思いなさい」

 

少し遅れてパチュリーとレミリア

 

「遅いよお前等ぁ!幽香ぁ!あんたも早く来なぁ!」

 

そしていつの間にか居てもう酒盛りを始めている萃香

 

「……チッ……これで全員?」

 

諦めた幽香は大変、大変に不本意ながら畑でのピクニックを許可した

 

「へっへーありがとだぜ幽香!もっと来るぜ?大体声かけたからな!咲夜にウォルター、美鈴にミストも戸締まり確認したら来るしよ」

 

「……バーンは?」

 

「あいつは気が向いたら来るってよ、なんだ?会いたかったか?レミリア怒るからやめとけ」

 

「……」

 

「ハハハ!冗談だぜ冗談!怒んなよ幽香~行こうぜ!」

 

「チッ……いつか纏めて必ず泣かしてやるわ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-カール王国-

 

「なぁ……力試しやってみねぇか?」

 

良い案が出ぬまま沈黙が長くなる中、突然ポップが言った

 

「藪から棒にどうしたのよ?」

 

また妙な事を思い付いたのかとマァム

 

「いやよ?今の俺達ってどれくらい強ぇのかなって思ってさ」

 

「どれくらいって……最強じゃない?パーティーで言えば世界最強でしょ」

 

「んな事はわかってるよ」

 

「じゃあ何が言いたいのよ?」

 

そこへクロコダインが口を開く

 

「ポップが言いたいのは今のパーティーの限界を知りたい、という事だろう」

 

「そう!それだよおっさん!」

 

ポップは立ち上がり言葉を続ける

 

「まぁ気晴らしでもしないか?って話さ、現実逃避なのはわかってるさ、けど良い案が出ねぇんだ、だったらアイツの気晴らしでもしてやらねぇかな?」

 

「ふむ、確かにこのままでは時間を浪費するのみですか……であれば慰安を勧めるのもアリでしょうね」

 

「ではもう今回はそれで進める事にするか、当然その間も対策を考えるのを継続するとして、だな」

 

「ふぅ~……そうね、わかったわ……それで?力試しって何をやるのよ?」

 

皆が納得してくれたのを見たポップは自信有り気に指を立てる

 

「破邪の洞窟さ!」

 

「破邪の洞窟って……先生や私達がミナカトールを取りに行ったあの場所よね?」

 

「ああ、その破邪の洞窟だ」

 

破邪の洞窟とはアバンが破邪の秘法を手に入れた場所でありレオナ達がミナカトールを会得しに行った全貌が明かされていない謎のダンジョンである

 

そして場所を聞いたアバン、ヒュンケル、クロコダインが意図を察した

 

「なるほど、記録に挑戦と言う事ですね?」

 

「どこまで続いているかわからん破邪の洞窟を現在の最高戦力でどこまで行けるか、という事か」

 

「一説では魔界に繋がっていると言われている未だ前人未到の難所をか……謎を解くと言う意味でも有益ではあるか」

 

「そういう事だけどよ……どうだい?」

 

「私は良いけど……皆は?」

 

「俺も付き合おう」

 

マァムとクロコダインが賛成しアバンとヒュンケルを見る

 

「私としてはそれどころではありません、と言わねばならない立場でしょうが手詰まりなのも事実ですしねぇ……わかりました、破邪の洞窟への立ち入り許可は私が出しましょう、行くメンバーや食料等は貴方達で決めるように」

 

「皆がそう言うなら今は慰安に動くとしよう、これが慰安になるかは疑問ではあるが気晴らしにはなりそうだしな……俺としてもリハビリがてらに動きたかったところだったしな」

 

「よおっしゃ!なら早速動こうぜ!あ、行く人数は絞らねぇとな、多過ぎると動きづれぇし食料も大量に要るからな……多くても10人くらいが理想か?パプニカで煮詰めようぜ!」

 

ポップを先頭に部屋から出ていく4人

 

(ふふっ、張り切ってましたねポップ、心なしか他の皆も楽しそうでした……それもそうか、ダイ君の事で皆心労が絶えなかった……これは皆の慰労でもありますね)

 

未だ先生と慕ってくれる子達に情けないとは思うが今はそれが少しでも安らぎになる事を残るアバンは願う

 

「ダイ君の事、頼みますよ皆さん……」

 

アバンは静かに溜め息を吐き、動きを止める

 

(そういえば……)

 

ふと思い出したアバンは天井を見上げる

 

(破邪の洞窟……その昔、異界の吸血鬼が奔走していましたね……)

 

それは懐かしくも苦い、とある少女との記憶

 

(いえ、少女は失礼ですね、少女と言うにはあまりにも言葉に思慮と意思があった……おそらくは私よりも遥かに時を重ねているに違いないでしょう)

 

苦笑を浮かべ耽る元・勇者、その表情は正負入り混じる何とも言えぬ顔をしていた

 

(そう……大魔王を救おうとした吸血鬼……)

 

あの日の事を思い起こしながら想いだけが馳せる

 

(救えましたか……?彼を……)

 

返らぬ答えと知りつつ小さな笑みを浮かべ、アバンは部屋を出て行った

 

(レミリア・スカーレット……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-幻想郷・紅魔館-

 

「……」

 

1人残るバーンは読んでいた本に栞を挟み机に置いた、そしてもう冷えているが出て行く前に咲夜が淹れてくれていた紅茶を火の魔法で温め、一口飲む

 

(レミリアが勧めるだけある、余には皮肉が効いた内容……故に面白い)

 

それはその昔にレミリアが読んでいた本、力が全てと考える者がより強大な力に倒されてしまう、そんな話の本

 

(まさに余だ……だからこそ内容が身に染みる、幾度も砕かれたからこそ……余計にな……)

 

真っ先に思い浮かべたのはあの暗き夢

 

夢の破壊神・ダークドレアム

 

天辺、深奥、極致

 

どれも誇張気味に語られる言葉だがそれらをしてまだ足らぬとさえ言える全てにおいて文字通りの最強

 

力の化身、力の終極値

 

この先、全てをかなぐり捨てて死ぬまで鍛えたとしても絶対に勝てないと断言出来る己が信条の究極形

 

そんな次元違いの化物と遭遇し、戦い、生き延びる事が出来たからこそ生涯忘れ得ぬ最大最高の恐怖として、己が愚考の証明として身に刻まれている

 

 

 

(……そう、そうだ……それを最初に否定したのは……わからせたのはお前だ……)

 

そして、全ての始まり

 

その者と出会わなければ、否……大魔王で在った以上それは断てぬ因果、不変の必然、不可避の宿命だったのだろう

 

光と影、太陽と月の様な表裏一体の存在

 

大魔王と対を為す希望の象徴

 

「勇者……ダイ……」

 

最初の敗北を刻み、野望の終わりと幻想の始まりをもたらした竜の騎士の名を呟く

 

 

 

「……フッ」

 

自嘲気に苦笑したバーンは紅茶を飲み干し、背を椅子に深く預ける

 

(ナイトメアの見せた悪夢を破ったさいにお前と言う悪夢を忘れる、そう言った筈であったのだがな……)

 

誰も居ない静かな図書館の一点を見つめながらどこか懐かしさを感じていた

 

(ふとした際に思い出すのはやはり今の余が在る始原にお前という存在があるからか……大願成就を阻み、余に最初の敗北を与えた、お前が……)

 

そう思いながらバーンは自分がいつの間にか拳を握っていたのを知る

 

(ふっ滑稽な……悔しいとでも言うのか……結果を受け入れ、新たな太陽を得て、あれから100年以上の時が流れた今尚も魂底で燻り消えずにいるとでも……?)

 

こんな子どもの様な事は皆には言えぬなと微笑んだバーンはまた本を手に取る

 

(余が消えてからのあの世界……一体どうなったか……人が望む世となったか?魔族は……根絶されたのか?)

 

過ぎ去りし時を考える意味は無い、時間は戻らないしバーンは既に幻想の住人、絶えた故郷を考えたところで何も出来ないし変わらないとは当然理解しつつも思うのはやはり故郷だからか……

 

(……そうだ)

 

故郷の記憶を辿っていたからこそ、それは思い出された

 

(……あの時、余はダイに予言したのだ、賭けてもいいと、余に勝って帰ってもお前は必ず……)

 

そこまで考えて不意に思考は止まった

 

(いつまで済んだ事を考えている、未練を引き摺るつもりか余は……)

 

(今が大事ならば浅ましいと知れ……あの世界で余は終わり、幻想郷で始まったのだ、ならばもしもも続きさえも思う事は恥、虚しい絵空事を描いてどうなると言うのだ……)

 

二度目の生を歩むこの場所への背徳だと自らを制し、バーンはまた本を開き続きを読み始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-破邪の洞窟-

 

「らっくしょーだなおい!」

 

現在地下20階、襲ってきた魔物をブラックロッドで殴り飛ばしたポップが言った

 

「まだ浅層なのもあるけどこのメンバーだもの、当然よね」

 

蝙蝠タイプの魔物を速拳で打ち落としたマァムがパーティーメンバーを見る

 

「そりゃそうか、まずダイだろ?そんで俺、マァム、ヒュンケルだろ、んでクロコダインのおっさんにラーハルトにヒムだもんな、そら敵無しだよな」

 

メンバーを確認しながら抜け目無く状態も確認するポップの膝をツンツンと何かがつついた

 

「コラコラ、ボクを忘れるんじゃない」

 

ネズミの魔物……チウである

 

「あ、お前も居たんだったなワリーワリー」

 

「全く……獣王遊撃隊の隊長であるボクが参加してやったのに」

 

「いやいやちげーだろ、お前が連れてってくれって泣き付いてきたんじゃねぇか、だから荷物持ちとして来たのもう忘れちまったのかよ?」

 

「ぐっ……!?ぐぐっ……!!?」

 

ポップの言葉が正しい証明としてチウの背にはチウの10倍はゆうにあるリュックを背負っていた

 

「ガハハ!まぁあまり虐めてやるなポップ!こいつもこいつなりにこの数年オレと鍛えて強くなった、足はそれほど引っ張らんだろう」

 

「先代……!」

 

クロコダインに庇われて目を潤ますチウ

 

「調子に乗るから甘やかすなよおっさん……無理はしねぇとはいえ最悪死ぬ確率だってあるんだぜ?油断は出来ねぇんだからよ」

 

呆れながらポップは「あ」と思い出す

 

「そうだ油断と言やぁよ、マァム!お前鈍ったんじゃねぇか?」

 

「え?そう?……確かに最近は軽い鍛練しかしてないけど……」

 

「そんなんで……まぁいいか」

 

ポップはチウに勝手はするなと釘を刺し、先に進みながらダイの横へ並ぶ

 

「大丈夫かダイ?」

 

「ああ、まだまだ元気いっぱいだよサンキューポップ!」

 

親友の顔を確認する

 

(顔色も少し良くなってんな、空元気もあるがちったぁ気晴らしになってるみたいだ)

 

安堵し更に進むと広い部屋が見えてきた

 

「うげっ!?魔物だらけだぜ……モンスターハウスってヤツだ……出番だヒム!やってしまいなさい!」

 

「はぁ!?なんでオレなんだよ!今日お前まだ1回も魔法使ってないだろうが!てめぇが行きやがれ!」

 

「バッカお前、俺の魔法力は無限じゃねぇんだぞ?姫さんもいねぇからいざって時の回復魔法使えるのは俺だけなんだ、節約だ節約、防御力高くて燃費最高のお前が先頭きって行かなくてどうすんだよ」

 

「……ぐぬぬ、クソォ……腹立つが正論過ぎて何も言い返せねぇ」

 

「ふっ、怒るなヒム、俺も手伝ってやる」

 

ヒュンケルも並び突撃しようと構える

 

「オレがやるよ」

 

二人を抑えてダイが前に立った

 

「いけませんダイ様」

 

すかさずラーハルトが止めに入るがラーハルトすらやんわり下がらせるとダイは魔物の群を前に剣を抜き、逆手に構えた

 

「せぇー……のっ!!」

 

横一文字へ正確に振られた直後、剣から衝撃波が起こり魔物を飲み込み、全滅させた

 

「ヒュー♪流石!」

 

洞窟を傷つけずに容易く鮮やかに突破してのけたダイへ皆感心する

 

(やっぱスゲェな、頭一つ……いや、二、三個飛び出てんな、歴代竜の騎士の戦闘技術に大魔王を倒した経験が足されてるもんな、それに身体も出来上がったし尚更か)

 

立派な偉丈夫になったダイを見てポップは思う

 

(前はちんちくりんだったのによ、今じゃ俺より少し大きいんだもんなぁ)

 

それだけに今のダイの心境を思うと心が痛い

 

(絶対どうにかしてやるからな……)

 

秘めた想いを胸に勇者達の快進撃は続く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-幻想郷・太陽の畑-

 

「アーハッハッハッハッ!!」

 

「ヒャーハッハッハッ!!」

 

「ウヒャヒャヒャヒャッ!!」

 

酒呑み達がひたすら笑っている、酔いが回り過ぎてもう笑っているだけ

 

「うぎぃー!また負けたー!なんでサイキョーのあたいがババ抜きで30連敗もすんのよ!おかしいでしょ!?あんた達ズルしてんでしょ!?」

 

「だからチルノちゃん顔に出過ぎてるって何回も言ってるのに……」

 

「チルノ弱過ぎー!」

 

「心配になるくらいチョロいですよね」

 

子ども達が遊びに興じ

 

「聞いてくれ妹紅、また胸が大きくなってしまったのだ」

 

「またかよ……お前って本当は牛の妖怪なんだろ?白沢って絶対嘘だろ」

 

 

 

 

「おかわり持ってきてくださいな~♪」

 

「は?幽々子?あんたまだ食べるの……?ねぇ妖夢、こいつの食費って白玉楼でどう捻出してんの?破産するでしょ毎日こんなに食べられたら」

 

「お答えしましょう霊夢さん、私が紫様に頼んで用意して貰った超広大な畑からの自給自足とロン・ベルクさんが作った汎用武器を異世界で売ったお金から捻出されてます」

 

「……私が成仏させよっか?もう半分が過労で死ぬわよ?」

 

「アハハ……お願いします、なーんて……アハハ……」

 

「大変ねあんた達も……紫で思い出したけど来てないわね、呼ばなかったの?」

 

「紫様は最近大結界がえらく不安定なので幻想郷の見回りに行ってます、結構な数の外来人が迷い混んでるみたいで対応に追われてるようですね」

 

「へぇ……そうなの」

 

「霊夢さんは行かないんですか?」

 

「紫から応援が来たらね、来ないって事は現状間に合ってるんでしょ」

 

 

 

 

 

「あら?今日は麻雀じゃないのね咲夜?」

 

「あ、ハイお嬢様、さとりさんに心を読まれたら勝ち目が無いのでチンチロリンで勝負をしております、もちろん私の給金の範疇で、です」

 

「殊勝な心掛けね、それで?今はどんな感じなの?」

 

「にとりと輝夜が少し勝ってるくらいでその分を私とさとりさんが同じくらい負けてる感じですね」

 

「ふーん……チンチロリンって確かゾロ目が強いのだったわよね?ちょっと振らしてみなさいな」

 

「あっ……!?」

 

「どうしたのさとり?青ざめて……」

 

「レミリアもやる?ルールはやりながら教えるよ?」

 

「や、やめといた方が……」

 

「えらく怯えてるわね、こんなのただの運よ?……運?……あっ!?」

 

「ろ、六のピンゾロ……」

 

「やはり……」

 

「に、二連続ピンゾロ……?」

 

「三連続ピンゾロォ!?運良過ぎってレベルじゃ……あぁそっか運か……あ、四連続……」

 

「簡単過ぎてつまんないわね、私はやめとくわ……やめておいてあげる、かしら?ふふっ……じゃあね」

 

 

「……ざっけんな!勝てるか!?」

 

「フフフ……どう?これがお嬢様の「運命を操る程度の能力」の権能よ!サイコロが3つ揃う「運」程度息をするのと変わらず出来るのよ!」

 

「なんであんたがイキってんだよ……はぁ、やる気失せた……もう飲もうよ」

 

「そうしましょう……」

 

 

 

 

 

「どうしましょう靈夢ちゃん……」

 

「どうしたんですかKOCHIYA先生?あ、ここでは早苗さんでしたね」

 

「ネタが無いんです」

 

「それは由々しき事態!?我々貴腐人達には早苗さんの薄い本から栄養を摂取しなければ死んでしまいます!」

 

「それで何かネタになりそうな事ないかなぁって、靈夢ちゃん面白い話とか知りません?」

 

「うーん……特には無いですね、でも……」

 

「でも?何かあるんですか?」

 

「すぐにネタになりそうな事が起こる気がするんですよねー何故か」

 

「巫女の勘ですか?実は私も思ってました」

 

「絶対嘘ですよね、なんでしょう……見栄張るのやめてもらっていいですか?」

 

 

 

 

 

「バーン様は……まだ来られぬか」

 

「そんなに心配ならミストは残れば良かったじゃないですか」

 

「私は心配をしているわけではないのだ美鈴……バーン様も居れば更に良い時間になるだろうと思ったのだ」

 

「では呼んで来たらどうです?」

 

「そんな催促の様な真似が出来るか!あくまで私はバーン様の忠実なる配下、故にバーン様の御言葉は全てに優先されるのだ、バーン様が気が向いたら行くと言ったのなら従うまでの事!」

 

「面倒くさいですよね貴方達って」

 

少女達も楽しく過ごす

 

 

 

 

 

「あー楽しいねぇ……なぁレミリアー!このまま宴にしようじゃないか!夜通し宴会じゃー!」

 

「勝手に決めるな、良いわけないだろうが、ぶち殺すわよ腐れ酒乱……!」

 

「ケチくさいねぇ良いじゃないか幽香!たまにゃ花に囲まれて宴会もさぁ!」

 

「さっさと帰れ……レミリア、お前までふざけた事言わないわよね?」

 

「そうねぇ……私も気分ノッてきたしやりましょうかぁ」

 

「!!?」

 

「ヒュー!さっすがレミリア!どこぞのイジメっ子とは器が違うねぃ!」

 

「……そこで大人しく頭を垂れろ、介錯してやるわ糞餓鬼共」

 

「まぁ落ち着きなさい、何もタダとは言わないわ、そうね……花の肥料1年分でどうかしら?」

 

「……」

 

「あっはー揺れてんねぇ、そらこんだけ花あったら維持も楽じゃないだろうしねぇ、金だって掛かるだろうさねぇ」

 

「どうかしら?1日の使用料としては破格だと思うのだけど?嫌なら諦めて紅魔館でやるとするわ」

 

「……もういいわ、許可してあげる、肥料も要らないわ」

 

「あら、良いの?」

 

「別に……断っても帰らないと思っただけよ」

 

「つまんない嘘言うねぇ幽香、誠意を感じたからだろう?自分だけじゃなく花の事も考えてくれたのが嬉しかったから、だろう?」

 

「黙れ、次にふざけた事を言ったらその角をへし折るわよ」

 

「ふふっ、感謝するわ幽香、肥料はお礼で後日届けてあげるわ……咲夜!何人か連れて里で買い出しに行ってきなさい!」

 

命じた後、レミリアは魔力で小さな蝙蝠を作る

 

「一応バーンに連絡しときましょうか「夜通し宴会するから今日は帰らない」これでいいわ、暇なら来るでしょう」

 

幻想郷は今日も平和である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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-破邪の洞窟-

 

「着いたな……150階」

 

パーティーは破邪の秘法を得る祭壇の前に居た

 

「思ったより簡単に来れたな、慎重に進んで10日か」

 

「それだけ俺達が強くなった証だろう」

 

「ってもここからだ、とりあえずの目標は200階なんだしよ気張ってこーや!」

 

「ねぇポップここって先生が破邪の秘法を手に入れた場所よね?習得するの?」

 

「だな、せっかく来たんだし持ってて損するもんじゃねぇ、むしろ備えとしちゃ有用なもんだしな……その前にこの階の安全確保と休憩しようぜ」

 

祭壇を中心に辺りを危険がないか調べていく

 

「そういえばよマァム、ここに着いて思い出したんだけどよ覚えてるか?あの吸血鬼の嬢ちゃんの事」

 

「私も今思ってたわ、3日でここまで辿り着いた吸血鬼……確かレミリア・スカーレットだったわよね?」

 

「ああ、目的は破邪の秘法を手に入れて……」

 

ポップの言葉が一瞬止まる

 

「バーンを……助ける為……」

 

あの日味わった、助けたくて助けれなかった後味の悪さを思い出す

 

「……助かったのかしら」

 

「……先生が渡そうとした破邪の秘法を持って帰れなかったんだ、普通に考えりゃあ……なぁ」

 

「そう、よね……」

 

二人の足が止まったその頃

 

「ん……?なんだこれ?」

 

祭壇の近くでチウが不思議なモノを見つけていた

 

「おーいみんなー!何か変なモノがあるぞー!」

 

呼び掛けに皆がチウの元に集まる

 

「なんだろうこれ?」

 

それは岩肌の洞窟内には酷く合わない渦巻く紅い穴だった

 

「これは……オレもわからんな、皆はどうだ?」

 

クロコダインの問いかけに皆が顔を横に振る

 

「ポップ、お前はどう見る?」

 

「ん~確証はねぇけどこいつぁ旅の扉ってやつなんじゃねぇかな?前に異界の伝承みたいな本で見たんだ、繋がる旅の扉へのワープ装置さ、簡単に言ったら限定ルーラってとこか……俺が見た挿絵はこんな色じゃなかったけどよ」

 

「つまりこれが旅の扉とやらなら入れば何処かに飛ばされるという事か」

 

「あくまで多分だからなおっさん、どの道、得体が知れねぇし触らねぇ方が良い、後で封印しとくぜ」

 

「そうだな、わかった」

 

結論が出て皆が散り始める

 

「なーんだ、つまんないの」

 

大した発見ではなかった事に残念がったチウは立ち上がる

 

「おっと……バランスが……」

 

提げていたリュックの重さを堪えきれず前のめりに倒れた

 

「あ……」

 

手が、紅い渦巻きに触れた

 

「触っちゃったー!!?」

 

チウの絶叫に皆が振り返った瞬間、チウは紅い渦巻きに吸い込まれて、消えた

 

「チウ!!?」

 

「消えた!?本当に旅の扉だったって事なのか!?」

 

慌てて紅い渦巻きの前に来るももう手遅れ

 

「くっそ……あのバカ!」

 

「ポップ!チウが危ない!俺達も行こう!」

 

ダイに促されヒムも加わり飛び込もうとする三人をラーハルトが止める

 

「落ち着いてくださいダイ様、無闇に行くのは危険です」

 

そう言うラーハルトの意見に賛同する様にヒュンケル、クロコダインが頷く

 

「無闇じゃねぇ、行くしかねぇんだ」

 

ポップは言う

 

「俺達の食料を全部持ってるのはあいつだ、体勢を整えるにしたって戻るのに急いだって5日は掛かる、また来るのに5日だ持つ筈がねぇ」

 

「ミナカトールを使ってリレミトを使えばすぐ出られる」

 

「それでもここに戻ってくるのに5日だ、それに次に戻って来た時にこの穴がまだある保証がねぇ、飛ばされる場所が不明なんじゃあいつが1人で5日生きている保証だってねぇ……今、行くしかねぇんだ」

 

ポップの冷静な意見に皆は何も返せない

 

「それに何よりあいつは俺達の仲間だ!行く理由はそれだけで充分じゃねぇのか!」

 

「皆が嫌なら俺達だけで行くよ」

 

「オイ!さっさと行くぞ!」

 

力が弱かろうとも、ミスをしたとしても仲間、見捨てる理由にはならない

 

そう言い放つ三人の迷い無き言葉にラーハルトを始めに引き留めた者達が頭を下げた

 

「……わかった、行くぞ」

 

全員が紅い穴へ向けて飛び込んでいく

 

そしてその後、穴は次第に閉じていき、何も無くなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何故、その扉は紅かったのか……

 

 

 

かつてここで、一人の少女が慟哭をあげた

 

最愛の王を助ける事が出来ぬと知り溢れた絶望の悲鳴……

 

それは願い、希望、愛、全てが砕かれた無情の現実を嘆いた少女の悲想

 

その強く、果てない想いがこの場所にはまるで呪いの様に残り続けていた

 

この場所から遥かな幻想に居る王へ救いを繋げたかったが為に……

 

それ故か……運命が導くかの如く扉が紅かったのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッテェ!?」

 

ポップは着地に失敗し頭を打ち付けた

 

「ポップ~~!!?」

 

「げふっ!?」

 

同時に腹にチウが飛び込んできた

 

「わざとじゃないんだ!バランス崩してそれで……」

 

「わかってんよ、もうお前はそんな事する奴じゃねぇってよ、お前1人に荷物持たせちまった俺も悪かった……無事で良かったぜ」

 

半泣きのチウを慰めると立ち上がり周囲を見る、他の皆も無事でありチウに声をかけている

 

「ッ!?そうだ!旅の扉ッ……クッソ!」

 

すぐに戻ろうとしたが旅の扉らしきものは霞と消えていた

 

「片道かよくそったれ!……どこの森だぁここ?」

 

無いものはしょうがないとすぐさま冷静に切り換えたポップは周囲を見渡す、パーティーの周囲には木が生い茂っていた

 

「テランの森……じゃねぇな、見た事無い木だ……太陽はあるから魔界じゃあなさそうだけど……皆はどうだ?」

 

皆は首を振る、誰もわからないようだ

 

「嫌な予感がすんぜ……ルーラ!」

 

ポップは目的地をパプニカに定め移動呪文を唱える

 

しかし、何も起きなかった

 

「やっぱりか……ヤベェぞ皆、俺達はどうやら異世界に来ちまったみてぇだ」

 

「ウソッ!?」

 

「なんと……そんな事が……!?」

 

「ボクのせいで……みんなゴメン」

 

事の重大さをわかった皆が青冷める

 

「もういいから謝んなチウ……って、おいダイ、お前何笑ってんだよ?」

 

その中でただ一人ダイは楽しそうにしていた

 

「いや、へへ……大冒険だなぁって思ってさ」

 

「はぁ~……呑気な事言ってんじゃねぇよお前はよ!帰れなくなってんだぞ?姫さんやブラスさん心配させて良いってのかよ!」

 

「もちろん良くないよ!だけどさ皆が居るしポップが居るから何とかなりそうな気がするんだよ」

 

「またこいつは……その根拠の無い能天気はどうなってんだ」

 

悪態つくも親友にそう言われて満更でもないポップ

 

「わーったよ!とにもかくにもまずは情報が要る、状況もわかんねぇんじゃ話にならねぇ!ちょっと上から村とかねぇか見てみるから皆待ってろ、行くぞダイ!」

 

トベルーラを唱え二人は上空で周囲を探る

 

「どうだ?」

 

「えーと……遠くにだけど建物っぽいのは見えるよ、あ、アレも建物なのかな?めちゃくちゃ赤い場所がある」

 

「赤だぁ?なんだそりゃ……こっちもぽいのはあんな、なんかデカイ鳥?みたいなのが飛んでる山もあんな、ありゃ魔物か?」

 

「人間……居るかな?」

 

「まだわかんねぇ……仮に居たとして言葉が通じるかもわかんねぇしよ……かなりピンチだぜ実際よ」

 

知らない世界を改めて見て不安が汲み上げてくるポップは顔に出ないようぎこちない笑みを作る

 

「あ!ポップ!あれ村じゃないか!?」

 

ダイが指差した場所は大勢の人間が生活をする様なところに見えた

 

「でかしたダイ!結構近いな……よし、とりあえず行ってみるぞ」

 

森へ戻った二人の先導の元、勇者一行はその場所へ向かう

 

 

 

 

 

 

 

「おや?初めて見る顔だな、迷い混んだ外来人かい?」

 

「が、がいらいじん……?」

 

入口に居た門番に恐る恐る話し掛けると返事が返ってきた、言葉が通じるのは良かったがよくわからない単語に勇者一行は不安を感じてしまう

 

「ああすまない、外来人というのは外の世界や異世界から来た者達の事だ、そういった者達を私達は外来人と呼ぶんだ」

 

「な、成程ね」

 

どうやら即座に危険者扱いではないらしい事を知りホッと一行は胸を撫で下ろす

 

「入るかい?入るならすまないが武器類はここで預かる事になる、ここは昔から色々と危なっかしくてね、盗賊に襲われて大勢亡くなった時もある……だから外来人は武器を持ち込めない決まりなんだ」

 

「スゲーしっかりしてるな、皆いいな?」

 

皆も頷き武装を外していく

 

その時だった

 

「……あら」

 

メイド服を着た少女の遠目に一行が見えた

 

「外来人……?凄い装備ね、全然里に合わないわ」

 

「それは私達も大概では咲夜さん?メイド服に執事服、古き良き日本の里には全く合いません」

 

「んん"っ!……黙りなさいウォルター、私語が過ぎるわ、早く買い出しを済ませて太陽の畑に戻るわよ」

 

「失礼、かしこまりました十六夜咲夜メイド長」

 

二人の従者は他の買い出し組と合流し里を出ていくのだった

 

 

 

 

「よし!いいぞ!」

 

一行の武器を預かった門番は笑顔を向ける

 

 

 

「ようこそ幻想郷へ!ここは人間の里だよ!」

 

 

 

そこは……忘れられた者達の楽園

 

 

宿命の果てに忘却を望む病みし竜騎士

 

古き紅魔の運命に誘われ、訪れるは(えにし)途絶えし筈の幻想の隠世

 

再び繋がれた因果が満つる時、いったい何を見せるのか……

 

 

 

これは幻想が綴り、幻想だけが知る

 

御伽にも語られぬ……

 

 

 

永遠の中の夢幻の1場面

 

 

 

 

 

 

 

  

 




更新は終了と言ったな……あれは嘘だ

いや、その……ダイ大のアニメしてるじゃないですか、嬉しくなって書きたくなっちゃって……許してくだちぃ


やたら長い導入編になってしまいましたがややこしい部分もあるので少し説明を。
勇者一行についてですが東方大魔王伝ではダイ達が居る世界が平行世界によって4つに分かれています。
①バーンが居た世界
②神の涙が勇者と再会した世界(バーンの子どもが行った世界)
③ソルが居た世界(魔勇者)
④ハドラーが居た世界(コラボ元、作品未登場)
これだけあります。

その中で今回出たダイ達勇者一行は無印でレミリアが行った世界、つまり①、東方大魔王伝のバーンがもと居た世界からの来訪となります。
ちなみにこの世界のダイはゴメちゃんとまだ再会してません。
繋がりが絶えてるので互いの時間はズレてます。


今回の外伝は少し長くなりそうです、お祭りみたいなもんだと思ってくれれば幸いです。

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