東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第5話 正体

 

 

紅魔館・図書館

 

 

「美鈴!!?」

 

 

レミリアと咲夜が慌てて駆け寄る

 

「よせ……下手に触れば死んでしまう……」

 

重い足取りで進むミストの道を開ける、よく見ればミストも酷く衰弱していた、暗黒闘気の減少からなのか体が小さくなっている

 

「よいミスト、そこに居ろ余が向かう」

 

バーンが足早に駆け寄るとミストが膝をついた

 

「お願いしますバーン様……どうか美鈴をお救いください……お願いします……バーン様……お願いします……」

 

助けてくれと懇願するミストにバーンは言う

 

「それ以上言うなミスト、その頼みを断る事などありはせん、安心しろ」

 

「感謝します……」

 

ミストから美鈴を受け取ったバーンは直ぐ様回復魔法を掛けて咲夜に預ける、更にウォルターに念のため永琳を連れてくるように指示を出しミストへ手をかざす

 

「無理をするなと言っておいたというのに……愚か者が」

 

暗黒闘気をミストに与えながらバーンは叱責を飛ばす、いや、叱責ではない、ミストを大切に思うからこその心配の言葉

 

「申し訳ありません……」

 

失態に顔を伏せるミストは数瞬考え込んだ後に口を開いた

 

「敵の正体が……判明しました」

 

やられはしたが収穫はあった、多大な被害と引き換えにミストと美鈴は敵の正体を得てきていた

 

「敵は……冥竜王……ヴェルザーか?」

 

バーンが問う

 

キルとガルヴァスを擁する事から敵は馴染みの者であると予想したバーンの答えだった

 

「いえ……ヴェルザーでは……ありません……」

 

だがそれは真実を見たミストに否定された

 

「お話します……存在し得ぬ筈の彼の地、バーンパレスで私が見たものを……」

 

ミストはあの後起こった事を思い出す……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーンパレス?ホワイトガーデン

 

「せあああっ!!」

 

「ぬううぅん!!」

 

ぶつかり合う美鈴と戸愚呂、手数の美鈴の攻撃が戸愚呂を捉えるが効かず、一撃に重きを置く戸愚呂の攻撃も難なく避けられ効かない

 

「むんっ!」

 

ミストが戸愚呂の背を殴るが微動だにしない

 

ドシュ!

 

兄の触手の様に伸びた五指がミストを貫くが霧になったミストには効果が無い

 

ザンッ!

 

兄の背後に姿を現したミストの伸びた手刀が胴体を斜めから半分ほど切り裂いた

 

「やるな……だが俺には効かない」

 

裂け目から触手が生えると瞬時に切断面を繋ぎ合わせ何でもなかったように兄は笑いミストは訝しむ

 

「解せない顔をしているな、なに……俺は体の器官を自由に移動させられ無限の再生能力があるだけだ」

 

わかりやすく教える為にボコボコと体が蠢き目や内臓を飛び出させる

 

「ちっ……厄介な能力を……」

 

「お前こそ厄介じゃないか、鬱陶しい能力だよ」

 

互いに睨み合うミストと兄の横では激しい戦いが繰り広げられている

 

「はっ!」

 

戸愚呂の拳を紙一重で回避した美鈴の掌底が顎を打つ

 

ドッ!

 

続いて顎へ蹴り上げ

 

ドッ!

 

鳩尾へ肘打ち

 

ズドドドドッ!

 

拳の弾幕、打ちのめす

 

……ドオッ!!

 

弾幕をもろともせず戸愚呂の拳が迫る

 

「ぬっ!?」

 

その拳はまたしても空を切った、美鈴の姿が消え戸愚呂は後ろを振り向くと美鈴は背を向け飛び上がっていた

 

戦闘が目的ではない美鈴は戦う気を見せて強行突破を計ったのだ

 

「ミスト!!」

 

「わかっている!!」

 

壊れた階段の上に着地した美鈴の声にミストが呼応し霧になり駆ける美鈴の後を追う

 

「逃がすか!」

 

兄が追おうとする

 

だが相手は生粋の武道家、走力はもちろんのこと体力もある上にミストが構造を把握している、妖怪としての能力にかまけていた兄ではおろか機先を制された戸愚呂にも追い付けないだろう事は明白だった

 

「よし!」

 

このまま一気に最上階まで向かえる

 

「いや……大丈夫だ兄者」

 

そう、それは相手がこの二人だけだったならの話

 

「魔女が来た」

 

そう上手くはいかない

 

 

バチィッ!!

 

 

ここは敵の本拠地なのだから……

 

 

「ぐっ……!?」

 

「新手か……!?」

 

吹き飛ばされた二人が再びホワイトガーデンの階下へ落とされる

 

 

「あらあら可愛いネズミちゃんだこと」

 

 

通路から姿を現したのは紫の球体に乗った女性

 

長い金髪に赤く大きなとんがり帽子を被り同じく赤く露出の多いボンテージの様な服を着て傘を手に持つ妖艶な美女

 

彼女の名はグレイツェル

 

謎の軍勢の軍団の一つ、妖魔士団を率いる軍団長の一人

 

「なにをこんなのに手こずってるの?遊んでたの?」

 

グレイツェルは不思議そうに戸愚呂へ問う

 

「遊んでたのは否定しないが思ったより出来る奴等でね」

 

「そう……貴方にとっては良かっただろうけど構わないわね?私達の理念はあくまでここより外から……ソル様に近付く者には死を与えないと」

 

「……言われるまでもないねぇ」

 

戸愚呂にそれを止める権限は無い、協力関係にはあるが軍の決めた方針に逆らう気も無い

 

(惜しいがね……)

 

ここで散るだろう好敵手を惜しむ視線を美鈴に向けるだけだった

 

「美鈴!」

 

「わかってますミスト!」

 

突破を阻止され更に3対2、新しく来た敵も戸愚呂とはタイプは違うが明らかに強者、溢れる魔力が魔理沙やパチュリーら魔女の二天に匹敵するだろう物を感じこれ以上は危険過ぎると撤退を決意したのだ

 

「……!」

 

懐にあるスキマの力を込めた球に手を伸ばす

 

 

パキィン……

 

 

触る前にホワイトガーデンを結界が覆った

 

「逃がさないよ?」

 

グレイツェルが笑っていた

 

「なに!?」

 

「うそっ……」

 

スキマは発動しなかった

 

「キャハハハ!空間転移を阻む結界を張っちゃってごめんなさいねぇ……!さぁそして!」

 

愉快にそして高らかに声を上げると二人が来た道から2つの影が飛び出して来た

 

「いやはや……命からがら戻ってきたと思ったらまさか侵入者とは……」

 

「話は終わっていないぞキルギル!何故俺を強制帰還させた!」

 

キルギルとテリー

 

「やれやれ……危ないところだったでしょうに……そんな事よりアレが先ですよ」

 

「ちっ……」

 

一先ず抑えたテリーがキルギルと共に二人に構える

 

「驚かされる事ばかりだなダブルドーラ?」

 

「ああ……メネロとデスカール、そしてブレーガンの死は奴等で贖わねば気が済まん!」

 

続いてダブルドーラとザングレイ

 

「くっ……」

 

逃げ道を塞がれた上に7人の敵に囲まれ焦るミストとそのミストを庇う様に前に立つ美鈴

 

「……絶体絶命ってやつですねこれは……」

 

さすがの美鈴にも打開策が見当たらず冷えた汗を落とすだけだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ってこれなくなった上に7対2……」

 

「それも美鈴さんや私達に匹敵するのが少なくとも3人もだなんて……」

 

魔理沙と大妖精が絶望的な状況を知り呟く

 

こちらで言うならば頂点3人とそれに近いだろう4人に囲まれている状況なのだ、自分でも死を見据える程の戦力差に息を飲む

 

「それでどうしたの?戦ったの?」

 

パチュリーが問う、二人が生きて帰って来たのだから結果は見ての通りだが少しでも正確に把握しときたいが故に過程の続きを促す

 

「……当然戦った、我等は果敢に抗った……」

 

続きを話始めたミストの様子がおかしい

 

「だが……彼我の戦力差を覆す事は出来なかった……美鈴は実力の劣る私を庇い次々と傷が増えていった……」

 

力の無さに震えている

 

「そんな美鈴を……私は……」

 

激しい後悔と共に続きを紡ぐ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ~れ踊りなさい!」

 

グレイツェルが氷の呪文を放つ

 

「ヒョッヒョ!」

 

合わせたキルギルの風の呪文がグレイツェルの呪文と合わさり凍える烈風となり美鈴を襲う

 

「ハッ!」

 

強力な範囲呪文を大きく飛び退き避ける美鈴にダブルドーラとザングレイが飛び掛かっていた

 

「くっ……!」

 

空中で回し蹴りを放ち二人を打ち払った直後に戸愚呂の豪腕が目前に来ていた

 

「あぐっ!?」

 

床に叩きつけられ苦痛の表情を一瞬見せるも視界に映った呪文を見て瞬時に体を跳ね上げ周囲に視線を回す

 

「こいつ……暗黒闘気の集合体か?」

 

「みたいだな、攻撃が通じなくて困ってる」

 

視界の端にはミストが兄とテリーの攻撃を受けていた

 

「お前達では私に傷をつける事は出来ん!倒させてもらうぞ!」

 

物理攻撃が効かないミストにとってこの二人は相性が良かった、倒せると確信し手刀に力を込める

 

「だそうだがどうする?」

 

兄がテリーに問うとテリーは怒りを見せてミストに言った

 

「図に乗るなよ……!」

 

折れた剣にオーラを込める

 

「刀殺法!真空切り!!」

 

空気を切り裂く闘気の刃がミストを襲った

 

「っぐぅ!?……く、空の技だと!?」

 

回避が間に合わず肩を切り裂かれたミストは驚愕してテリーを見る

 

「お前は所詮、暗黒闘気の塊に過ぎない……ならば闘気をぶつければ良いだけの事だ!」

 

テリーが仕掛けた技は闘気を放つ剣技、闘気によって暗黒闘気のガス生命体のミストにダメージを与えたのだ

 

「まさかアバン流刀殺法を会得しているとは……」

 

「アバン流……?なんだそれは?そんなものは知らん、これは俺が作り磨いた剣技!言うならばテリー流刀殺法だ!」

 

告げられた事実に狼狽えミストは一歩下がる

 

(確かに優れた剣士ならば出来ても不思議ではない……事実、魂魄妖夢も闘気や妖力を斬撃に変えて放っていたのだからな……)

 

ダメージを確認する、そう大きなものではなかった

 

(暗黒に近い闘気だからダメージは少ない……どうやら光の闘気は扱えないらしいな……光の闘気を扱えるなら私に勝ち目は無いところだった……幸いか……)

 

自分にダメージを与える空の技を持っているが使えるのはテリーだけに加えそこまで強力ではない事に勝機は有ると考えるミスト

 

「そうか、その手があったか」

 

しかしそれは軽い考えだったと思い知らされる

 

「闘気の扱いは不得手だが十分か」

 

兄の手が闘気を纏い、指が飛び出した

 

「ぐあっ!?」

 

伸びた指がガスの体を貫く

 

「悪いな、威力がないんで嬲り殺しになってしまうな……くくっ……ひゃはははは!!」

 

願ってもないと大声で笑いながら何度もミストは貫かれる

 

(幸いではなかったか……)

 

甘かったと拳を握り締めた

 

 

ズドッ!

 

 

兄が蹴り飛ばされる

 

「なにっ!?」

 

驚くテリーは反応し盾を構えた瞬間蹴り飛ばされる

 

「大丈夫ですかミスト!」

 

「美鈴……」

 

美鈴が助けに入ったのだ、自らも傷だらけなのに自分の為に

 

「そんな余裕があるのかね?」

 

その背後には戸愚呂が居た

 

「少し強くいくぞ」

 

筋肉を更に膨張させ威力の上がった一撃を美鈴に放った

 

 

ズドォッ!!

 

 

ミストごと巻き込み二人がホワイトガーデンの壁に叩きつけられた瞬間

 

「そ~れ!」

 

「ヒョ~ヒョッヒョッ!」

 

追い撃ちに呪文が炸裂し爆発を起こす

 

「来たれ!地獄の雷!」

 

最後にテリーの放ったジゴスパークが更なる爆発を起こす

 

「これは……」

 

「なんと凄まじい……」

 

「くくくっ……あの女は惜しかったがさすがにくたばったか」

 

ダブルドーラとザングレイが威力に戦慄し兄が愉快に笑う前で爆発は収まっていく

 

「……」

 

美鈴の姿が見えた

 

「ほお……まだ形があるか」

 

腕を顔の前でクロスさせて耐えきっていた姿に素直に感心を見せた

 

「……ぐふっ」

 

構えが解けると美鈴は前のめりに崩れた

 

「くっ……うぅ……」

 

床に手をつき起き上がろうとするがダメージが酷く起き上がれない

 

「美鈴……!?」

 

その背後にはミストが居た、ミストも攻撃を食らったが美鈴程のダメージではなかった

 

「なぜ私を庇った!?」

 

ミストがそこまでダメージを受けていないのは美鈴が攻撃の大部分を引き受けたからだった、ミストの受けるダメージも引き受けた美鈴の体は痣が出来、全身が切り傷で血を流し焦げた痕から焼けた肉の臭いを放っていた

 

「……なんででしょう……ね……私にも……よく……わかりません……」

 

倒れたままミストに向けた顔は笑っていた

 

「貴方が私の大事な弟子だったから……では……いけませんか?」

 

「馬鹿が……」

 

美鈴の体をミストは抱き寄せる

 

「仲良くあの世に送ってあげる」

 

トドメを刺す為に迫る7人

 

「ミスト……貴方だけでも逃げれませんか……?」

 

「見損なうな……お前を置いて逃げられるか」

 

美鈴はせめてミストだけでもどうにかと言うがミストにそのつもりは無かった

 

「……美鈴」

 

何かを決心したミストが問う

 

「上手くいけば二人で帰れる方法が有る……やってみるか?」

 

「……嘘じゃないですよね?」

 

「ああ……嘘ではない」

 

ミストの瞳に覚悟を見た美鈴はそっと目を閉じた

 

「やりましょう……お任せします……」

 

「わかった……」

 

ズズズッ……

 

美鈴の体にミストが入っていく

 

「何を……!?」

 

異様な光景に7人の足が止まる

 

「これは……寄生!?させるか!!」

 

兄が気づくがもう遅かった

 

ズギャア!

 

放たれた裏拳で兄はバラバラに肉を散らす

 

「すまん美鈴……少しの間体を借りる……」

 

立ち上がる美鈴、いや、美鈴ではない

 

「ッ……!?ゆくぞ……!!」

 

一人になった霧の武道家がそこに立っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美鈴の体に寄生!?」

 

魔理沙が驚きの声を上げる

 

「……それってどうなるんだ?」

 

ミストが他人の体に寄生出来るなんて事は魔理沙は知らなかった、魔理沙どころか皆知らない、幻想郷に来て武の道を行く事を決めたミストは話さなかったししなかった、だからこの事を知っているのはバーンと昔に話した事のある美鈴だけだったのだ

 

「……」

 

ミストは答えなかった

 

「……ミストは寄生した者の肉体的な力を限界を超えて最大限に発揮し操る事が出来るのだ」

 

代わりにバーンが答えた

 

「じゃあ美鈴の力を更に上げてミストが動かすって事か!」

 

「サイキョーじゃん!」

 

喜ぶ魔理沙とチルノだがそれを行ったミストは拳を更に強く握りバーンは険しい顔をしていた

 

「……人間にしろ妖怪にしろ誰しも無意識のうちに力をセーブするものだ、自分の肉体を破壊してしまわないようにな……」

 

「……ということはミストのした事はつまり……」

 

パチュリーが意味を察した

 

「そうだ、限界を超えた美鈴の力を使う……それは美鈴の体のダメージを著しく加速させ死を早める事に他ならん」

 

 

「貴様!!」

 

 

それを聞いた瞬間レミリアがミストに詰め寄った

 

「美鈴を使い殺す気だったのか!!」

 

凄まじい形相で睨むレミリアを止める者はいない

 

「……申し訳ありません」

 

ミストはただ頭を垂れるのみ

 

「答えになっていないぞ……どうなんだミスト!答えなさい!!」

 

「……申し訳……ありません……」

 

それでもミストは答えなかった

 

「貴様……!!」

 

家族とも言える美鈴の命の危機がミストに有ったと考えたレミリアは激情のままミストに魔力を向ける

 

 

「レミリア!!」

 

 

バーンの一喝がレミリアを止めた

 

「いかにお前だろうとミストに手を出す事は許さん……抑えろレミリア」

 

「……」

 

止まったが魔力はまだ残っている

 

「手を引けレミリア……美鈴が何故ミストに体を預けたかよく考えてみろ」

 

緊迫した空気が流れる

 

「……少し熱くなってたわ、そうね……冷静に考えたら信頼し合う貴方が美鈴にそんな事をする筈がないわよね」

 

魔力を消してミストから目を逸らした

 

「……美鈴と共に武の道を行くミストが自ら封じた禁忌を行った……それはそれだけの窮地であり、他に方法がなかった事の何よりの証明……己の信念すら曲げてまで美鈴を救う事を選んだのだ」

 

「ええ……そうでなければね……」

 

落ち着いたレミリアが隣に座るとバーンはミストへ向き問う

 

「そうなのだろう……?ミスト……」

 

問われたミストは体を震わせ叫んだ

 

「申し訳ありませんレミリア様……!私が……私が足を引っ張ってしまったばかりに……美鈴を……!!」

 

深く頭を下げミストは謝罪する

 

いくら気心知れる同僚だろうとミストと美鈴は立ち位置が違う

 

仕える主の違い

 

ミストはバーン、美鈴はレミリア

 

つまり言うならば所有者の違い

 

主の許可なく勝手に美鈴を使い命を危険に晒した事への謝罪だったのだ

 

「……いいわ、許してあげる、そもそも生きて帰って来てるしね……続きを話して」

 

許されたミストはまた話を再開する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐあっ!?」

 

「うごっ!?」

 

ダブルドーラとザングレイが打ち飛ばされる

 

ズドドドドッ!

 

飛び込み追い付いたザングレイを滅多打ちにし返す拳でダブルドーラを壁内へ埋め込む

 

「……ぁ……が……」

 

「……」

 

僅か数秒で二人を戦闘不能に至らせる膂力

 

リミッターを解放した美鈴の力は難なく二将を追い詰めた

 

「……ぐっ!?」

 

トドメを刺そうとした美鈴が苦悶を見せた、いや、この場合は寄生したミストが痛みを感じていた

 

(やはりこうなるか……美鈴の闘気の性質は光、それも暗黒の生まれる余地の無い完全な光だ……寄生しているだけで暗黒の私はダメージを受ける……)

 

それはミストにとっても諸刃の剣

 

魂を破壊せず入った事により美鈴が持つ光の闘気と対消滅を起こしているのだ

 

「刀殺法!真空火炎切り!!」

 

「!?」

 

痛みに止まった隙を逃さずテリーが闘気を纏った炎剣で切りつけて来る

 

「……ォオオオッ!!」

 

折れた剣を暗黒闘気を集めた掌底で弾き四肢による連撃を放つ

 

(わかっていた……こうなる事など……)

 

テリーですら防御に専念せざるを得ない怒濤の攻撃を繰り出しながらミストは吼える

 

「だがもはや……退けんのだ!!」

 

防御する盾を自らの力に耐えられず血を流す拳で粉砕し押し勝つ

 

「面白い芸だがつまらんね」

 

直後に来たのは戸愚呂、避けられないタイミングで繰り出された豪腕が迫る

 

バシィッ!

 

その豪腕は三指で止められた

 

「ほざいていろ……筋肉操作(それ)だけの能無しが……!」

 

「やるねェ……しかし、生憎と筋肉操作(これ)だけじゃない」

 

戸愚呂の体から黄金の気が僅かに溢れ触れる拳から美鈴に流された

 

「ぬぐあっ!?こ……これは!?」

 

美鈴の中に居るミストが激痛を感じる

 

(光の闘気だと!?)

 

戸愚呂はミストの弱点である光の闘気を優しく送り込んできたのだ

 

「ッ……ツアアッ!」

 

触れた指を離すとすぐに距離を取る

 

(この男……まだ本気を出していない上に光の闘気まで……!?)

 

そこに来るのはグレイツェルとキルギルの放つ回避困難な範囲呪文

 

「ッ……ぐうっ!?」

 

それを引き上げた肉体で飛び退き回避したが美鈴の光の闘気によるダメージに膝を着く

 

「ハァ……ハァ……」

 

息を切らすミストは美鈴の体を確認する

 

(いかん……限界を超えた動きをし過ぎた……)

 

左手の拳は骨が皮膚を突き破り露出し戸愚呂の拳を受けた右手も指が1本ひしゃげ腕の骨も折れていた

 

足もよく見れば呪文を避けきれなかったらしく右足の脛の肉の一部が無くなり足首から先が凍結していた

 

傷ついた体も限界を超えた動きを強制した為に傷口が更に開き血を止めどなく流していた

 

(限界か……)

 

そして何よりミストに限界が来ていた

 

居るだけでダメージを受ける美鈴の体に加え先の戸愚呂による光の闘気のダメージ

 

進行形で進むダメージの加算は美鈴とミスト両方に限界を来していた

 

「粘ったけど結果は変わらなかったみたいねぇ」

 

グレイツェルが傘を突きだし合わせてキルギルも杖を突きだす

 

「バイバイ、おバカな侵入者ちゃん……」

 

「死ねぃ!」

 

二人からマヒャドとバギクロスが放たれた

 

 

「……ウオオオオオオッッ!!」

 

 

咆哮を上げたミストが右手に力を込める

 

「美鈴の体を借り……限界を超えた今ならば出来る……!目に焼きつけろ!我が主……大魔王の神技を!!」

 

振り抜かれた掌底が余りの速さに摩擦で炎上する

 

 

「フェニックスウィング!!」

 

 

神速の掌底が2つの呪文を弾き返した

 

「ちぃ!?まだこんな力を持っていたの……!?」

 

「ぬぅ!?視界が!?」

 

氷と烈風が4人の視界を塞ぐ

 

 

ドギャア!

 

 

破壊音が後方で鳴った

 

「何が!?」

 

「結界を壊されたぞ!?」

 

呪文が止みテリー等が目を向けると階上でグレイツェルが張った結界がミストにより破壊されていた

 

「ぐっ……ハァ……ハァ……」

 

今のが最後の力だった、もうミストに美鈴を満足に動かす力は残っていなかった、震える手で懐にあるスキマの球へ手を伸ばすが鈍い

 

「逃がすか!!」

 

一番速さのあるテリーが阻止せんと剣を振り抜く

 

「……!!」

 

剣が美鈴の体に触れる刹那

 

フッ……

 

美鈴の体は消えた

 

「何っ!?消えただと!?」

 

テリーが周囲を見回しミストを探しているところへグレイツェルとキルギルがやってくる

 

「今のは空間転移だけどそこまで凄いのじゃないわね、マーキングされた場所に向かう限定的なものね」

 

「みたいですね、しかし今のは儂等がこの魔宮が有る世界でのみ使える転移……魔宮の何処かへ逃げたのかもしれませんね」

 

するとテリーが剣を鞘に納め壊れた階段を飛び降りる

 

「ならしらみ潰しに探して討ち取るまでだ」

 

主城以外に逃げたと考え出ていった

 

「儂等もそうしましょうか、あの傷ですし一人でも充分に仕留められるでしょう」

 

「そうね……まぁあいつ等も帰る用意はしてたみたいだしもう居ないと思うけどね」

 

キルギルとグレイツェルもホワイトガーデンを出ていく

 

「……」

 

その中で戸愚呂だけは階上へ上がり上階を目指して行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーンパレス?謁見の間

 

 

……フッ

 

 

そこへミストと美鈴は現れていた

 

「ハァ……ハァ……!?」

 

身動きすら出来ず苦しく息を切る

 

(やはり出来た……魔王軍の幹部に与えられたバーンパレスに自由に帰還し移動出来る特殊な術……権限を持っていた私ならここに来れると思っていた)

 

ミストが行ったのは魔王軍の頃に行っていた空間転移、バーンパレスを基点にその世界なら何処からでも戻れ自由にパレス内を移動出来る術

 

だがそれでも謁見の間に直接来る事は幹部にも出来ない、ミストが来れたのは幹部より上の最高幹部だったから出来た、バーンを直接護衛する立場故にキルと共にこの場所に来れる権限を持っていたのだ

 

 

 

「何者だ!!」

 

間に居た者が素早く立ち塞がる

 

「貴様は……ガルヴァス……」

 

表情険しく見知った豪魔軍師に目を向ける

 

「オレを知っているだと……?貴様の様な妖怪に知り合いはおらんぞ」

 

ガルヴァスはミストを知らない

 

いや、知っているのだがミストが他人に寄生するガス生命体だと知らないから今目の前に居るのは美鈴一人だけの侵入者にしか見えていなかった

 

「ぐっ……がぁ!?」

 

ミストが苦しみだし美鈴の体から黒い霧が噴き出し小さくなったミストの体を形成する

 

「むっ……」

 

ミストの正体を見てもガルヴァスは動揺を見せない、魔影参謀の頃のバーンの体を借りていた頃のミストしか知らないからただ敵が二人だったくらいにしか思っていない

 

ブシュウ!

 

ミストが抜けた瞬間、美鈴の傷口から血が噴き出し血溜まりを作る

 

美鈴も絶命間近だったのだ、あと少しでもミストが無理をさせれば体が崩壊してしまう程に……

 

「くっ……美鈴……」

 

崩れる美鈴を背負う形で支えるミストにガルヴァスは告げる

 

「ふん……何だか知らんがソル様の城に侵入した罪は重い……」

 

翻されたマントから禍々しい槍が姿を見せる

 

「死ぬがいい!!」

 

美鈴に向かって突き入れられる瞬間

 

 

「よい……ガルヴァス……」

 

 

ヴェールからの声に槍が止まった

 

「その者はミスト……かつてお前が魔影参謀として出会った事のある者だ」

 

諭す声には気が籠っていた、感慨深いと言っている様なそんな想いが

 

(こ……この声は……!?)

 

ミストがその声に異常な反応示す

 

(敵の首魁……ソルと呼ばれる者とは……まさか……!!?)

 

 

スゥゥ……

 

 

ヴェールが開いていく

 

 

「まさか侵入者がお前とはな……懐かしい……久しいな……ミストよ」

 

 

「ああっ!?貴方は……!!?」

 

 

謎の軍勢の長、ソルの正体をミストは見た……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで敵のボスの正体は誰なんだぜ!」

 

「早く言いなさいよね!」

 

魔理沙とチルノがせっつくがミストは押し黙り中々話さない

 

「どうしたんだぜミスト!話せない理由があるのか!?」

 

「そういう訳ではない……ただ……直に見た私でさえも今だ信じられない……私が幻を見ているのではないかと何度も思う程なのだ……」

 

それでも間違いは無い

 

疑いの余地無く決定的に魂がそう感じてしまったのだから

 

「話せミスト、どのような事実だろうと余は受け入れる……それが幻想郷に生きる余の運命(さだめ)なのだからな」

 

「……わかりました」

 

バーンに促されたミストはようやくその言葉を吐き出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーンパレス?謁見の間

 

「ただいまガルヴァス君、ソル様」

 

同じ頃、ゆっくりと帰還したキルが二人に会っていた

 

「あれ?何かあったの?」

 

違和感に気付いたキルはガルヴァスに問う、ここに誰か来たようで暗黒闘気の残滓が有ったのだ

 

「侵入者が来て先程お帰りになったところだ」

 

「わお!ここに来るなんてどれだけ強かったんだい?」  

 

「いや、強いには強いがたった二人でここに来るのは不可能だ……来れたのは違う方法だ」

 

「へぇ……気になるね」

 

「そんな事よりどうだったキル?報告を聞かせろ」

 

「うん……ガルヴァス君の願い通りだったよ」

 

「やはりか……!」

 

ガルヴァスがとても嬉しそうに笑う

 

「どういう事だガルヴァス……その幻想郷とやらには何が居るというのだ?」

 

ソルが問うとガルヴァスは答えた

 

「お喜びくださいソル様……件の戦地にとびきりの者が存在していたのです」

 

「何者なのだ……?」

 

問われたガルヴァスが口角を吊り上げる

 

 

 

 

 

 

 

 

その時、奇しくもミストとガルヴァスの言葉は重なり合いバーンとソルは同じタイミングで互いを知る事になった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵の首魁の名はソル……太陽神を気取るその者は……天地魔界に恐るる者無し魔界最強の実力者……その正体とは……」

 

 

 

 

 

「彼の地、幻想郷に伏せられし隠者……それはかつて貴方と同じく大魔王の名を掲げし魔の頂点……魔界最強の男、つまり……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もが想像もし得なかった運命の名

 

 

 

 

遠い過去より出でる可能性の魔神

 

 

 

 

それはそれは残酷なまでに幻想の郷に染み渡る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       「「貴方です……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         バーン様……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




正体……これでした。
詳しくは次回になりますがとにかくソルの正体はヴェルザーではなくバーン?様です。

ミスト頑張った……美鈴も超頑張った……


今回出た名有りキャラの説明

○グレイツェル

名前だけプロローグから出てたXから登場のセクシー魔女、ザボエラの妖魔士団を引き継いだソル軍最強の魔女、Xで一番好きなキャラです。
変わらず何故ソルに等かはまたになりますが彼女はかなり美味しい役回りを予定しています。

もこたん成分が無くてムラムラしてますが次回も頑張ります!

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