東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-語られざる神話- 逢魔刻

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……これは……どういう事だ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目的を果たそうとしていた魔神は更地となったその場所で驚愕の声をあげた

 

「貴様等!!世界樹をどうした!!!」

 

その場で待ち構えていた勇者達に問う

 

「残念だったな異魔神!お前の目的はこれで果たせなくなった!!」

 

「ルビスめ……自分の身を犠牲にしてまで……こいつ等を守ったというのか……」

 

魔神にとってこれは完全なる想定外、世界樹無くして目的を果たす事は不可能だったからだ

 

「許さん……」

 

魔神の怒りが勇者達に向く

 

 

 

 

 

 

本来ならば……ここから目的を潰された魔神による報復が行われる筈であった

 

 

 

 

 

 

 

「……!!?」

 

 

まさにその時だった

 

(何……?どういう事だ……今、一瞬……聖核を感じた……?)

 

先程の怒りを忘れ視線を彼方へ向け黙りこむ魔神

 

「なんだ……?」

 

それを訝しげに見つめる勇者達

 

(感じた場所はアレフガルドでも地上からでもなかった、何処だここは……何故……いや、場所や理由など些事!余の目的を果たす聖核が存在している!それだけが重要なのだ!)

 

そして魔神は即座に動く

 

「諸君……悪いが貴様等を処刑する意味も暇も無くなった」

 

「何!?どういう事だ異魔神!!」

 

叫ぶ勇者達を気にも止めず魔神はその有り余る超魔力を持って感じた場所へ強引にゲートを作る

 

「待て!!」

 

「案ずるな、余が手を下すまでもなく貴様等は消え失せるであろう……止めたくば追ってくるがいい、貴様等程度に追えるのならば……な」

 

「なっ……!?待て!待て異魔神!!」

 

勇者達の叫びを嘲笑うかの様に魔神はその世界から消えたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-幻想郷-

 

「……ふむ」

 

老人は博麗大結界を見ながら小さく溢す

 

(先程感じた大結界の揺らぎ……見に来たが問題は無い様だな、不定期に起きるいつもの揺らぎか)

 

その身体には一際に目立つ大きく黒い宝石が首から下げられ、ローブには小さな宝石を幾つも身に付けている

 

「……」

 

大結界を見終わった老人は博麗神社の境内へ出た

 

「…………」

 

白い息を吐きながらもう何百何千年も変わらぬ景色を眺めた後、老人は太陽を見上げる

 

(最後まで傍に居てくれた余の最愛の女、レミリア……お前が逝ってからもう数百の月日が流れた……)

 

老人は想いに耽る

 

(寂しき事に我等の子はここから飛び出て行ってしまったが……元気にしている筈だ)

 

この幻想郷で……老人は一人だった

 

老人には二人の子が居たが妻が亡くなった後に息子が幻想郷を飛び出し、少し前に娘は兄を連れ帰ると幻想郷を飛び出して行ったのだ

 

(未だに、ここにお前達が居てくれれば……そう思わずにはいられぬ、それだけ……あの日々は愉快だった)

 

過ぎ去りし時は今や遥か遠き理想郷

 

(今は独り……それでもこの命残る限り生き続けよう、此処はお前達が生きた場所であり、次代を担う者達が帰ってくる所……そして、それがお前との約束だからな……)

 

老人の心にだけ残り続ける永遠の想い

 

 

 

「……!」

 

その時、不意に老人は感じた

 

(今……大結界に干渉し、幻想郷へ何かが侵入して来た……)

 

幻想郷と存在を同化している故に即座に気付けた老人は出現した何者かの方向を睨みつける

 

「……」

 

そして、静かに博麗神社を飛び去るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんだここは?」

 

出現した魔神は幻想郷を見回し怪訝な声を出した

 

(何の生物の力を感じぬ……無人の世界……)

 

目的の前にまず幻想郷を探った魔神は幻想郷の異様な状況に僅かに戸惑いを感じていた

 

(幻の月を持って来なかったのは失策だったか……?いや、何も居ないのであれば必要無い)

 

だが無人である事が逆に目的までの障害が皆無なのだと結論付けられ乗っ取っている勇者の口角を吊り上げらせる

 

「で、あれば……」

 

その目は目的である幻想郷に高く生え立つ世界樹へ向けられる

 

「ようやくだ……ようやく余の大願が叶う時が来た……!!」

 

そして魔神は向かう、その瞳で世界樹を見据えながら

 

「……!?」

 

その途中

 

何か言い様の無い悪寒のようなモノを不意に魔神は感じた

 

「……フンッ」

 

杞憂だと一笑に伏し、魔神は世界樹へと迫る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-太陽の畑-

 

「フ……ハハ……!」

 

魔神は遂に念願のモノに辿り着く

 

「フハハハハハハハハ!!」

 

疑い様の無い状況、何の邪魔も無い完全なる目的の成就を目前にして魔神は堪えきれぬ魔笑を我慢出来ずに浮かばせる

 

「クク……さぁ、仕上げだ」

 

魔神は超魔力を手先に集中させ

 

「この世界樹から聖核を抉り出し、余の聖核と融合させれば……世界は還る……!原初の混沌へ!!」

 

世界樹へかざす

 

「終焉の時……ここに来たれり!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その樹に何の用だ……異なる世界の魔神よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

 

背後から掛けられた予期せぬ声に魔神の動きは止まった

 

「……妙な感覚はこれの事だったのか、まさか余に悟らせぬ程の者が居たとはな」

 

かざしていた手を下ろし、ゆっくりと魔神は振り返る

 

「何者だ?」

 

そこに立っていた老人を鋭い眼光で睨みつける

 

「名乗る程の者ではないが……」

 

その眼光をモノともせず、老人は毅然とした態度で返した

 

 

「余はバーン、かつて幻想ノ王と……大魔王とも呼ばれた事の有る者だ」

 

 

魔神と王、幻想の特異点にて……邂逅する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バーン……大魔王だと……?」

 

魔神はそう名乗る皺がれた老人を訝しげに見つめる

 

(大魔王……ゾーマ……ではない、ないが……大魔王と言うのも嘘とは思えん、軽視出来ぬモノを感じる)

 

見ただけで魔神は老人が只者ではないと見抜き表情を強張らせる

 

「……そういう貴様は?」

 

そんな魔神へ毅然とした態度を崩さずバーンは問う

 

「……我が名は大魔王・異魔神だ」

 

「そうか、貴様も大魔王……名は異魔神か……では異魔神よ、先程の問いに戻ろう、その樹に何の用だ?」

 

バーンの再度の問いに異魔神の表情は醜く歪む

 

「この世界樹から聖核を抉り出しに来た」

 

「……その聖核とやらを抉り出してどうする気だ?」

 

「我が聖核と融合させる」

 

「……するとどうなる?」

 

「世界は原初の混沌へと還る」

 

「原初の混沌……?つまり世界は無に帰するという事か」

 

「そうだ」

 

「ほう、それは凄まじいな……ではこの幻想郷は?」

 

「当然滅する、全ての次元において世界は終わり、始まりを迎えるのだ、例外など無い」

 

異魔神の目的、それは世界のリセットであった

 

世界を根源から破壊しゼロへと戻す、己も含めて全て

 

「例外は無く全て、か……」

 

それを行う為には世界樹に在る聖核が必要不可欠だった

 

だが異魔神の居た世界では世界樹はルビスの意思の元に消し去られた為、目的の成就は不可能となっていた

 

しかし、そこで大結界の揺らぎが異魔神に幻想郷に存在する世界樹の存在を知らせてしまったのだ

 

 

 

 

「そうか……」

 

異魔神の目的を知りバーンは深く息を吐くと空気が一瞬にして重苦しく変化する

 

「異魔神とやらよ、此処はな……余の友と仲間が守り、今まで繋いだ楽園……想いが永遠に残り続ける場所だ、無に還らせる訳にはいかぬ」

 

ざわざわとバーンの魔力が上昇し言葉に怒りが籠る

 

「そしてその世界樹はな、余の仲間である花の大妖怪が大切に育てた誇るべきモノ、貴様ごときが触れて良いモノではない……もはや是非など有るまい」

 

魔力を乗せられた言葉が異魔神の身体を押す

 

 

「消えろ破滅の魔神、この幻想郷から……!!」

 

 

そんな事を許せる筈がない、幻想郷で生きたバーンならば尚更の事

 

そうなるのは当然

 

必然に魔神は幻想郷で唯一にして最高の王を敵にしてしまったのだ

 

 

 

 

「ふん……余に楯突くか」

 

バーンからの威圧を受けても異魔神に退く気は全く無い

 

予てより望んだ悲願なのだ、それも一度は潰えた大願

 

それはかつてバーンが望んだ地上消滅に負けぬ意志が有るのだから

 

「良いだろう、最後の余興だ……遊んでやるとしよう」

 

異魔神は不敵な笑みで答えて見せる

 

「随分と余裕だが……良いのか?そのままで?」

 

「何……?」

 

直後、バーンが出した問いかけに異魔神は僅かに動揺する、言葉から察した事は初めて会ったバーンが知る筈が無い事だったからだ

 

「まぁ余にとっては都合は良いが……では異魔神よ、ここで戦うのは不味かろう、お互いにな……場所を変えさせてもらう」

 

告げた瞬間にバーンの服に付けられた宝石が一瞬光った

 

 

 

ドオッ!!

 

 

 

「!?……クオオオッ!!?」

 

異魔神の体が魔力の圧を受け彼方へ飛んでいく

 

「……」

 

遅れてバーンも飛び立つ

 

(さて……ここからか……)

 

確固たる意思を燃やしながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐうっ!?」

 

世界樹から遠く離れた場所にて異魔神は落ちた

 

(予想に反した圧……!?何をした……!?)

 

解せないと言った顔で起き上がりながら異魔神は思考する

 

「ほお、意外に頑丈だなその体、借り物にしては中々……いや、その体からは懐かしいものを感じる……ロト……ロランに縁ある者か」

 

続いて降り立ったバーン

 

「……知っていたか、これが余の本来の体ではない事を」

 

「そんなものは見ればわかる、精神と肉体が完全に一致しておらぬ、乗っ取っているのは明白……そして、その大事に持つ球に真の肉体が封じられているだろう事も、な」

 

「……流石、と言うべきか、その慧眼、自ら大魔王と言うだけはある」

 

やはり侮れない存在だと改めて認知し異魔神はバーンへ意識を集中させる

 

「ここはな異魔神、無縁塚と呼ばれる場所だ……縁者のいない者が弔われる所、つまり墓場だ……貴様のな」

 

魔力を立ち昇らせながらバーンは死を告げ、手をかざす

 

「ふん……それは貴様も同じ事!死は与えてやろう、だが余の邪魔立てをした事は後悔させねばならん……」

 

バーンが撃った魔弾を後方に飛び避けた異魔神は持っていた闇色の球を掲げる

 

「この代償は恐怖で購ってもらおうか……バーン」

 

闇のオーブと呼ばれる封印が解放された

 

 

「……!」

 

解放された闇のオーブから不定形のアメーバの様なモノが飛び出し広がっていく

 

(これは……世界樹の……!ならば……不死身……!)

 

バーンの持つ慧眼と知識がそれを正確に理解する、アレは世界樹から作り出した肉体なのだと、そしてそうならば予想されるのは不死身の肉体なのではないのかという事を

 

「……」

 

どんどん増えていく最中、バーンは異魔神に乗っ取られていた勇者の体を魔力で捉え遠くへ避難させると変態していく異魔神を見つめる

 

 

 

「グオオオオオオオオーーーーーーーッ!!!」

 

 

 

そして異魔神は真の体と融合し、大魔神の姿で顕現した

 

 

「巨大な……鬼眼王と変わらぬ図体……魔獣の形……」

 

バーンの鬼眼王の本来の姿である巨大魔獣の形態、それと何ら劣らぬ鬼胎を感じさせる風貌、寧ろ禍々しさで言えば異魔神の方が勝っているとも言える

 

「強さは認めよう、だが……舐めているのか?」

 

その異魔神にも全く臆していないバーンの全身が輝く

 

 

ドンッ!

 

 

衝撃が異魔神を襲い、一瞬だけその巨体が浮く

 

「……!」

 

振られる巨腕

 

「……鈍い」

 

軽く飛び避けたバーンは全身をまた一瞬光らせてイオナズンを唱える

 

「……オオオオッ!!」

 

爆煙から異魔神が飛び出し巨腕を伸ばすも容易く避け、容赦無い呪文の攻撃が異魔神に浴びせられる

 

(効いてはいる、だがダメージは微々たる程度……無駄に鈍いお陰で一方的ではあるが……世界樹の肉体、想像以上に厄介だ……力が足らぬ)

 

攻めているのはバーン、優勢なのもバーン

 

だが実際は異魔神が有利

 

(このまま続けては余が力尽きるのが先か……)

 

そう考えていると異魔神の口に魔力が収束され撃たれた

 

(当たれば今の余では即死……あの程度ならば当たりはせぬが)

 

わかりやすい予備動作と長い充填時間のお陰で難無く避けたバーンの背後で着弾した山が消し飛ぶ

 

(今出せる最大呪文でも決め手にならんだろう、ならばやはり……)

 

どうするか攻撃をしながら思案していると異魔神から魔力の高まりをバーンは感じとる

 

(何だ……この呪文法式は……?余の世界の呪文法式とも幻想郷の魔法式とも異なる、高密度に練られた魔力、これを如何に……いや、これはまさか……)

 

警戒し手を止めたバーンの前で異魔神はそれを唱えた

 

 

《た つ ま き》

 

 

バーンでも聞いた事の無い言語で唱えられたそれは異魔神の周囲に巨大な風嵐を無数に出現させる

 

「ぬぅ……!?」

 

それは人間が扱える呪文のレベルを遥か超越した大竜巻

 

無縁塚の墓石や外から落ちてきた物何もかもを巻き上げ粉微塵に変える極大呪文など歯牙にもかけない破壊風

 

それが四方から一斉にバーンへと向かう

 

「……」

 

逃げ場を塞がれたバーン

 

「フン……」

 

不動の構えのままに、全身を強く輝かせた

 

 

ゴウッ!!

 

 

竜巻が1つに合わさり全てを薙ぎ殺す超嵐となって荒れ狂った

 

『……死んだか』

 

それを眺めて異魔神はバーンの死を確信する

 

確かに軽視出来ぬ存在だとは思っていたが脅威には成り得ないとも思っていた

 

それが証拠に竜巻から何の動きが無いのだ、何かした様子は見受けたが結局成す術無く微塵に変えられたのだと異魔神は考えていた

 

 

ドウッ!!

 

 

竜巻は内から爆ぜる様に消え失せる

 

『何だと……』

 

異魔神が思わず溢してしまう程にそれは有り得ない事だった

 

「流石に老いた身では堪えるな……」

 

バーンはそこに健在していたのだから

 

『何をした』

 

「なに……内側からバギクロスを唱えた、それだけの事だ」

 

『バカな……少々魔力が高いのは認めるがそれだけでは余の呪文を破れる筈が無い』

 

「種が気になるか?続きはあの世で考えるがいい、余からの難題として」

 

反目する魔神と大魔王

 

 

 

『よかろう……真の恐怖と言うものを貴様に見せてやろう』

 

 

「出来るものならやってみろ、底が知れた時……それが貴様の最期になるがな」

 

 

 

過ぎ去りし幻想に生きる大魔王の独りにして生涯最後

 

 

誰も知らない戦いが始まる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




短いですが導入とまずは軽ーいジャブからです。

意図してた訳じゃないんですが世界樹が幻想郷に生えてしまった事で異魔神と幻想郷を繋ぐ事が出来ました。
探せばネタは有るものです。

ある意味で夢の対決となりましたが原作時点での戦いではないのでそこは生暖かく見守ってくだされば幸いです。

時系列的には常闇ノ皇から数千年後、エピローグとの間に起きた知られざるたった一人の最終決戦、これも3話を予定しております。

次回も頑張ります!

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