東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-闇の彼方に- 帰還の章

 

 

「……」

 

何も無い幻夢の空間で一人の女性が佇んでいる

 

「…………」

 

ずっとそうしていた様に動かない

 

「………………ウッ!?」

 

突然、苦しそうに腹を押さえ膝をつく

 

「うぅ……うぅぅぅ……!!?」

 

猛烈に襲う苦痛に歯軋りしながら耐え歪む整った顔

 

「…………ふぅ」

 

治まった数瞬後にまた立ち上がる

 

(……失った肉体も造って、力も取り戻して完全復活……してからどれくらい経ったか……)

 

無を眺め続ける女性

 

(1000年くらい?復活期間も入れたら4000年くらいってところかしらね……これだけは酷くなる一方だけれど……)

 

腹をさすりながらそう思い返し女性はその強き力で空間の出口を作り出した

 

「……」

 

出ようとする女性は不意に足を止め、何千年も居たその空間を振り返り見渡す

 

「……ここも見納めね」

 

此処にはかつて4人の者達が居た

 

「元気かしらねあのカス達は……」

 

女性には此処で長き時を過ごした4人の者達が居た、それも今や遥か昔

 

ここに戻らないということはまだ生きているか完全に消滅させられたかもしくは死んで諦めたか……

 

同じ時を過ごした王達の行く末

 

「ハッ……それこそどうでもいいわ」

 

鼻で笑いながら誰も居ない空間を出ていく

 

「そろそろ限界だし行きますか……結局、不可能だったけどね……でもいいわ、もう諦めた……そうなると気になるのはあの子と片割れの行く末くらいだし……あとアイツとの約束か……まだ生きてるかしらねぇ……」

 

いつか夢見たそこへ……

 

「あ~……お腹減った……」

 

戻るべき場所へ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・図書館-

 

「……」

 

初老の男は手に持つ魔導書のページを捲る

 

「紅茶を淹れてきたわ……それとアップルパイ」

 

差し出された紅茶とアップルパイを見て男は魔導書を下げ顔をあげ

 

「無理をするなレミリア……」

 

見目麗しい老婆へ困った笑みを向ける

 

「だってもう咲夜はいないのだもの、それにこれくらいならまだ大丈夫よバーン」

 

老婆・レミリアはバーンへ微笑んだ

 

「何を読んでいるの?」

 

「パチュリーが魔理沙と共同で書き遺した魔導書だ、魔導書と言うよりは魔法や魔術の図鑑だがな、1つ1つにパチュリーと魔理沙の解説や推察が入っている……もう全ての本を読み尽くしているがこれだけは何度見ても飽きん」

 

「そう……パチェも魔理沙も喜んでる筈よ」

 

「だと良いがな」

 

「フランもウォルターと一緒に居なくなって久しいわねぇ……元気にしているかしらあの子は」

 

「フッ……心配する様な奴ではないだろうが」

 

「わかってるわよ、だけどどうしても心配してしまうの、それが姉ってやつよ」

 

「そうか……そんなものか」

 

「そうなのよ、ふふっ……」

 

二人が紅茶に口をつけると遠くから騒がしい声が近付いてくる

 

「来たか……」

 

二人が顔を向けると図書館の入口を二人の子どもが走ってきた

 

「父上~~~!」

 

「母上~~~!」

 

 

 

「待ちなさーーい!」

 

「走られては転ぶ危険があります!お止めくださいソル様!ルナ様!」

 

それと後ろから剣を差した女性と黒い影

 

「丁度良かったわ、アップルパイを焼いたから食べなさい、今日のは私の師匠のハドラーアレンジよ」

 

「やった!大好物なんだ!」

 

「母上ありがとー!」

 

渡されたアップルパイを夢中で頬張る二人

 

 

ソルとルナ

 

バーンとレミリアの間に生まれた双子の子

 

生まれて既に数千年は経っているがまだまだ幼い無邪気な子ども

 

 

「苦労を掛けるな妖夢、ミスト」

 

嬉しそうに食べる二人の我が子を見たあと後から来た二人へバーンは言った

 

「元気過ぎますよ本当に!」

 

魂魄妖夢

 

あの太陽神の異変から4000年経った今もあの日あの時のままで生きている半人半霊

 

半分が霊だからか寿命に縛られない彼女は今もなお生き続ける幻想郷最高の剣士

 

 

「何を言いますバーン様、寧ろ誉れであります」

 

ミスト

 

バーンの忠臣である暗黒闘気のガス生命体

 

偉大な師に武を教わり独自の流派を作り、鍛え上げた幻想の武道家の二番手であり今や紅魔館を守る唯一の門番

 

 

「あの二人には魂魄流を教えるという夫との約束がありますからね!それが済むまでは殺されたって成仏しませんよ!」

 

白玉楼は今は妖夢一人で住んでいる、妖夢の成長に満足し何処か遠い場所へ行った幽々子と良い人生だったと安らかに天寿を迎えたロン

 

「すまぬな……」

 

残された妖夢は約束だけを生き続ける糧に今もなお元気に生きている

 

「あ、そういえば……今日はチルノと大妖精が来てません、ね?」

 

辺りを見回してから妖夢はいつも居る二人が居ない事に気付く

 

「あの二人はルーミアのところへ行っている、遊ぶ約束をしていたらしい」

 

「ああ、成程……ルーミアのところですか」

 

納得した妖夢は出された紅茶に手をつけながらバーンへ視線を向ける

 

「あの子?……いえ私より歳上かもしれませんが……あの子全然成長しませんね、いつまでもあの姿ですよね?主人格の常闇ノ皇とは切り離されたのに……どうしてですか?」

 

時と共に消えていく幻想郷の中でルーミアは今も存在している、あの幼き姿のまま今日まで

 

「……それはおそらく肉体が常闇ノ皇の物だからだろう」

 

「常闇ノ皇の?……と言いますと?」

 

「お前と似て非なる事にはなるが、奴はゾーマと同じく闇という概念から生まれた存在、闇に寿命は無い……故に何か外的要因や自ら望まぬ限りは変わらぬのだろう、その体を使っているのだ、ルーミアが望み続ける限り永劫に変わらぬし生き続けるのであろう」

 

「ああ、そういう事ですか……確かに私と似てますね、私は成仏、ルーミアは消滅……理由が違うだけでしたか」

 

「あくまで予想に過ぎぬがな」

 

質問に答えたバーンは妖夢と同じく紅茶を啜りながらふと思い出した様に頬杖をついた

 

(常闇ノ皇と言えば……もうとうに復活を果たしていてもおかしくはない時間が過ぎている筈だ……)

 

幻想郷を作った妖怪達の王だった者を思う

 

(壮健だろうか……?いや……心配など奴には大きな世話か……)

 

苦笑しながら我が子を眺める……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-人間の里-

 

「……」

 

その女性……常闇ノ皇・ルーミアは大通りに立っていた

 

(今の幻想郷の様子を先にと思って来たけど……これは……何があったの……?)

 

驚きと戸惑いが混じる顔で行き交う人間や妖怪を見ている

 

(少ない……)

 

あまりにも活気が無さ過ぎる里の現状を見て……

 

(……違う、活気自体は有る、ただ……数が少な過ぎる、だからそう感じた……それほど昔と比べて少ない……)

 

徐々に減っていた里の人間達の現状

 

幻夢空間に長く居た常闇ノ皇は知る由もなかった

 

時が経つにつれ幻想へ変わり行く幻想郷に住む者は今や昔の5分の1にまでなっていた事など……

 

(何かあった?私の知らない内にまた戦いがあった?……でもそんな風には見えない、どうなって……)

 

考えるも答えは出ない

 

(……聞きに行くしかないようね、此処を預けた……大魔王に……)

 

故に先に行く場所を決め、踵を返す

 

 

「……!!?」

 

その直後に里の人間が常闇ノ皇の傍を通り過ぎ……香りを運んだ

 

「ッ……!?」

 

みるみる内に常闇ノ皇の顔が歪み痙攣を始める

 

「ウヴゥ……ッ~~~!!?」

 

無意識に伸ばされる手を押さえるように掴み耐える

 

(抑えろ……決めた筈、そう己で決めた筈……!……もう二度と……ッウ!?)

 

久しく忘れていたそれが異常な衝動となって襲う

 

「~~~~~ッッ!!?」

 

理性すら飛ばしかねない欲を抑え込む

 

「……ハァッ……ハァッ……」

 

衝動を収めた皇はふらつきながら里を出ていく

 

「……お腹減ったわねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

皇が出ていった直後、偶然里に来ていた妖精が声をあげる

 

「どしたの大ちゃん?」

 

「どーしたのだー?」

 

傍には幻想郷最強の氷精と宵闇の妖怪

 

「ううん……何でもないよチルノちゃん、ルーミアちゃん!次は何して遊ぼっか!」

 

麗しく成長した大妖精は気にしないでと手を振りながらも気になっていた

 

(今出ていった人……ルーミアさんに似てた気が……)

 

それが頭から離れる事は無かった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・図書館-

 

「お腹減ったよ母上~!」

 

「私も~!」

 

「もうそんな時間か……わかったわ、そろそろ夕食にしましょう、妖夢、貴方も食べていきなさい」

 

「ありがとうございます!お言葉に甘えます!」

 

陽も沈んで夜が訪れた紅魔館

 

「ところでバーンさん?バーンさんは食べなくても平気なのにソルとルナはお腹が空くんですね」

 

「吸血鬼の血が交ざった事でそうなったのだ、生まれた頃は血を求めてよく泣き苦労した……通常の食事で事足りる様にするには骨が折れたものだ」

 

「へぇ……父親してますねバーンさん!」

 

「お前も母だろうに」

 

「あー……今は何をしてるんでしょうかあの子は……」

 

「見識を広めてくると旅立ったのだったなお前の息子は」

 

「ええ、まぁ魂魄流とロン・ベルク流剣術を会得したあの子に心配はしてませんが……久し振りに会いたいなぁ」

 

「ふっ……」

 

他愛のない会話をする夕食前の時間

 

 

 

ブゥン……

 

 

 

突然スキマが開く

 

「お邪魔いたしますわ」

 

中から今も若々しい幻想郷の賢者が姿を見せる

 

「どうした紫、食事をたかりに来たのか?」

 

「でしたらどれほど平和でしょうか……耳に入れて欲しい事があって参りました」

 

「……何かあったのか」

 

問題が起きたのだと察したバーンは表情を締めて紫へ向き直す

 

「……常闇ノ皇が戻ってきた可能性があります」

 

「……そうか、奴が帰ってきたか」

 

予想はしていた事であった為に驚きこそ無いが表情に緩みは見られない

 

「先程、一瞬でしたが里で妖力の高まりを感じ調べたところ僅かな痕跡が残っておりました、確証は得ていませんが常闇ノ皇の妖力と見ています」

 

「復活は果たしているだろうし不思議な事ではないな……それで?被害はあったのか?それが重要だ」

 

「今のところは……人間も妖怪も被害を受けておりません」

 

「……で、あれば目的は……」

 

「何か心当たりが?」

 

「うむ……昔、奴から幻想郷を預かった、返して貰いに来たのやもしれん」

 

その答えに紫の顔が歪む

 

「幻想郷は奴の物ではない、此処が誕生する前に封印された害妖が何様のつもり……」

 

「妖怪の王であるからな奴は……奴なりに思うところがあるのだろう」

 

「冗談ではないわ、今更王様気取りで此処を荒らされては堪ったものではない!」

 

「わかっておる……もし本当に奴が戻ってきたのなら余が話をつけて……」

 

対応を話し合っていたまさにその時だった

 

 

 

ドギャア!

 

 

 

図書館のドアが弾け誰かが吹き飛んできた

 

「ミスト!どうした?」

 

吹き飛んできたのは外で門番をしていたミスト、ダメージを負わされていて息を荒く吐いている

 

「ぐああっ……くっ……バ、バーン様……申し訳ありません……!止められませんでした……」

 

その答えに侵入者が来たのだと察したバーンは吹き飛んだドアへ視線を向ける

 

 

「そいつが悪いのよ、私がわざわざしなくてもいい受付をしてやったというのに通さないなんてぬかすから……だから無理矢理押し通らせて貰った……別に良いでしょう?知らない仲じゃあないんだから……」

 

 

「……噂をすれば、と言うやつか」

 

 

夜の闇から生まれ出る様に彼女は……

 

 

「久し振り……随分と老けたわね……元気してた?」

 

 

常闇ノ皇は姿を見せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-人間の里-

 

「咲夜やハドラー程じゃないけど美味しいわねルーミア!」

 

「すっごく美味しいのだー!」

 

チルノとルーミアは夕食を食べていた

 

「……」

 

同じく大妖精も食べていたが心ここに有らずと言った感じで考え事をしている

 

(やっぱり……気になる)

 

どうしても気になっていた大妖精は立ち上がった

 

「……チルノちゃん、ルーミアちゃん、私用事が有るから先に帰るね」

 

二人の返事も待たずに行ってしまう

 

「……どーしたのだー?」

 

「あれは……きっと男ね!ルーミア!早く食べて!後をつけるわよ!」

 

「わわ、わかったのだー!ムグムグ……ムグウッ!?ゴホッゴホッ!?」

 

「あーもうなにやってんのよ!落ち着いて早く食べるの!さぁ早く!40秒で支度しなッ!」

 

「むむ、難しいのだー……」

 

急いで料理を食べてこっそり二人は追って行くのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館・図書館-

 

「何を黙りこんでるのよ?久し振りに会ったのに挨拶も出来ないの?ねぇ?」

 

「……会い方に礼を欠いてはい過ぎるがな、まぁ……久方振りだな」

 

テーブルを挟んで視線を交わす二人の王

 

ソルとルナは自室に戻らせ回復させたミストと妖夢に見て貰っている

 

「他の奴等は居ないの?ほら……頂点って言われてたっけ?そいつらは?」

 

「……今日は偶然来ていないだけだ、そして……頂点と言われていた者達もそこのレミリアを含め今やチルノと大妖精の3人だけになっている」

 

「ああ……人間も居たし寿命か……だけど、そう……妖精はまだ居るのね」

 

機嫌良く微笑みを見せる常闇ノ皇

 

(痩せたな……)

 

そんな常闇ノ皇を見てバーンは思う

 

「貴様……いつから食事をしていない?」

 

あの食欲の権化でもある常闇ノ皇が痩せているのはそれしか理由が無い、それが何よりも気になったからバーンは問うた

 

「……そんな事はどうでもいい事だろうが、それよりも……」

 

その問いにイラつきを見せながら問いを一蹴し常闇ノ皇はここに来た理由を話す

 

「このザマはなに?」

 

まるで非難するような鋭き視線で言い放った

 

「……このザマ、とは……?」

 

何の事か見当がつかないバーンへ常闇ノ皇はテーブルを叩く

 

「とぼけるな、この幻想郷のザマはなんだと聞いているのよ」

 

「……今日も変わらず平和だが……何が言いたいのだお前は?」

 

とぼけた様にバーンは言うが本当に見当がついていない

 

ついていないからの態度が常闇ノ皇には挑発にも見えた

 

 

 

 

ビキィ!!

 

 

 

 

怒気と共に放たれた闇の妖力がテーブルを跡形無く粉砕し、本棚を揺らし、立つ床を陥没させる

 

 

 

「私を舐めるのも大概にしろ……えぇ……?殺されたいのか!バーンッ!!」

 

 

 

殺気を多分に孕んだ赤く光る瞳がバーンを刺す

 

 

「何故幻想郷が滅びへの道を進んでいる!?」

 

 

それが常闇ノ皇が我慢ならない事であった

 

「……ッ!?」

 

周囲の者も緊迫した面で身構えている、紫に至ってはいつでも攻撃出来るようにスキマを広げてさえいた

 

「……滅び?何の事だ?」

 

そんな凄まじい怒気をぶつけられてもバーンは動じず質問を返す

 

「とぼけるなと言った……何故!幻想郷が栄えず衰退していっているのかと聞いているのよ!!」

 

「……そういう事か」

 

ようやく意を理解したバーンはそれでいて尚も動じず、常闇ノ皇を見ずに虚空を見ながら答えた

 

「幻想郷が望む道がそれだからだ……常闇ノ皇・ルーミアよ」

 

「幻想郷が……望んだ……?」

 

予想と違う、聞き捨てならない答えに常闇ノ皇は意味を話せと促す様に静かに睨む

 

「幻想郷の民……いや、幻想郷と言う存在そのものが徐々に終わりに、無に帰ろうとしている、それだけの話だ」

 

「……何かの干渉?」

 

「それならば余が対処する、時の流れに任せていたらこうなったのだ」

 

「……!」

 

また常闇ノ皇の怒気が溢れる

 

「何もしなかったのか!?」

 

「その通りだ、外的要因が有った時以外に余は何もしていない」

 

「ッ!?……何故ッ!?」

 

「余は幻想郷の支配者ではない、する権利は無いしする気も無かった……そしてする必要性も無かった」

 

「……お前に預けた筈よ!守れとッ!!」

 

「確かに預かった、だから守った……外敵からはな、だが……先も言ったが自ら滅び行くと決めたモノを止める権利も止める気も無かったのだ」

 

「ッ~~~!!」

 

常闇ノ皇は抑えきれない怒りに震えた

 

バーンに望んだ事、その肝心要の部分を叶えなかったからだ

 

「……どうしてッ!」

 

もう何もかもが手遅れであるが故にその顔に悲痛を滲ませる

 

「お前も王なら国の繁栄の為に努めるのが……!!」

 

「……!!」

 

常闇ノ皇が意図せず溢した言葉にバーンは驚きを見せた

 

(お前がそんな事を言うとはな……)

 

秘めた想いを感じたバーンは内心で嬉しく思うも考えは曲げない

 

「これもまた言うが余は幻想郷の支配者でなければ王でもない、元は異世界から来た外来人、そして幻想郷と運命を共にする事になったただのバーン、その程度に過ぎぬのだ……ならば幻想郷が望むままにするのが余の務めであり在り方だ」

 

ならば己のしてきた事に後悔は無いと胸を張るだけ

 

今更謝罪は無意味であり無駄なのだ、それほどの時が経ち、とうに取り返しがつかないのだから

 

 

「………ッ!?」

 

バーンの意思を聞いた常闇ノ皇は今にも爆発しそうな闇の力を溢れさせながらも苦しく、悔しく、辛そうな表情を見せ

 

「そう……」

 

項垂れた

 

 

 

「貴方には残念だったみたいだけど、まぁ……そういう事なのよ」

 

静寂だった空気を破ったのはレミリア、穏やかな微笑みを常闇ノ皇に向けている

 

「お腹減っているんでしょう?食べるといいわ、少しは落ち着くでしょう、そうしたらこれからの身の振り方を考えてみるといいわ」

 

パイの残りを差し出した

 

「……要らないわ」

 

常闇ノ皇は出されたパイを一瞥し、顔を背ける

 

「どうして?自慢ではないけれど上手く出来たと思うわ、だから食べてみなさいよ」

 

「……要らない」

 

一瞬バツが悪そうにした常闇ノ皇は背を向け

 

「せっかくだけど……お腹は減っていないのよ」

 

表情は見えなかったが3人にはそれが自嘲している様に聞こえる

 

「……バーン、いつから食事をしていないと、そう聞いたわね?」

 

出口へ向かいながら常闇ノ皇は言う

 

「もうずっとよ……復活してから、気の遠くなるような……昔から……」

 

それだけ言い残して紅魔館から姿を消した

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

皇が去ったあと、バーン達は暫く無言の時に居た

 

「チッ……ダメね、闇の力に阻害されて居所が追えない」

 

最初に口を開いたのは紫、何か話すきっかけを出す為の言葉だった

 

「……どう思う?」

 

それを呼び水にバーンが口を開いた

 

「……とても悲しそうだったわ、まるで……信じた仲間から裏切られたみたいに」

 

レミリアがポツリと溢す

 

「……余は間違っていたのか?」

 

バーンは今の常闇ノ皇を知ったからこそ、そう思ってしまっていた

 

「間違ってなんていないわよ、だけど……正しかったとも言えないわ」

 

「レミリアの言う通りよ、幻想郷の行く末の正解……そんな事は誰にもわからない……今の現状が幻想郷が望んだ姿、偽りではない……個の想いにだけ囚われてはいけないわ」

 

「わかっておる……わかってはいるのだ……」

 

諭されるも罪悪感だけは残り続けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もー!どこ行ったのよ大ちゃんは!」

 

「見つからないのだー……」

 

その頃、暗い幻想郷を飛び回るチルノとルーミアは見事に大妖精を見失っていた

 

「ルーミア!あんたが食べるの遅いから!」

 

「ごめんなのだー……」

 

プンスカ怒るチルノに申し訳なさげなルーミア

 

「まっ別にいいわ!あたいは心が霧の湖くらい広いからね!許したげる!」

 

「やったのだー!やっぱりチルノは強くて優しくてカッコいいのだー!」

 

「そんなのあったり前田さんのクラッカーよ!」

 

機嫌良く笑い合う二人、成長したチルノと変わらないルーミアでは見た目に差があるが精神年齢が近いからとても楽し気

 

「今日はもう暗いから続きは明日ね!だからルーミア!明日大ちゃんに会っても知らん顔すんのよ!」

 

「りょーかいなのだー!」

 

二人は明日を楽しみにしながら帰路に着いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……うっ……」

 

時を同じく

 

目的もアテも無く夜の幻想郷をさまよう常闇ノ皇

 

「ハァ……ハァ……」

 

何もしていないのに酷く弱々しくふらつきながらゆっくりと歩く

 

「……」

 

そしてどこかの丘の上に辿り着く

 

(少し……腰を下ろそうかしら)

 

生える木に背を預け座り込む

 

「はぁ……お腹……減ったわねぇ……」

 

もう何億と呟き、思いながらも結局は不変だった闇の性

 

(……変われないものねぇ、存外……いえ、当然か……どれだけの時を費やしても……魂に定められた決まりだけは……私が私で在る為の要だから……無くせば存在を失う……)

 

遠きあの日、太陽神との戦いが有った今や遥かな昔

 

その時に生まれた不思議な感覚

 

(わかっていた……筈なのにね……)

 

故に決めた事であり、だから変えたかった

 

(身の振り方……そんなもの……)

 

孤独な闇の皇はゆっくりと目を閉じる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ルーミアさん……ですか?」

 

聞き覚えのある声が皇の目を開けさせた

 

「……久し振りね、妖精……相変わらず美味しそうね」

 

懐かしい少女に微笑みを見せた

 

「ホントにルーミアさんだ!見間違いじゃなくて良かったぁ!」

 

月明かりに緑の妖精の笑顔が映し出される

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遥かな時を経て……妖怪の王は幻想達と最期の合唱(クワイア)を奏で始める……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お久し振りです。
リクエストに応えて常闇ノ皇の外伝やります。

3話を予定していますがあまり期待はしないでください、お願いします。

次回も頑張ります!

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