東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-外伝・天空の花婿- 幻想の花嫁 [いつか星の海で……]

 

-廃城・1階-

 

 

「ンノヤラァアアアアッ!!」

 

 

怒りのままに正邪は攻撃している

 

「よっ!ほいっ!あらよっと!」

 

魔理沙は軽~く回避している

 

「結構強くなったわね、イブールってのより絶対強いでしょこれ」

 

パチュリーも難無く防いでいる

 

既に1階から上の教団員は全て倒している

 

「死にくされぇぇぇぇぇ!!」

 

二人の態度が余計に正邪を怒らせる

 

「「……!?」」

 

そんな油断は出来ないが余裕は有る状況故に二人はすぐに気付いた

 

「正邪!」

 

魔理沙は手をかざし止めるよう促す

 

「ハァ……ハァ……どうしたんだよ?」

 

自分より遥かに強い魔理沙が真剣に言っているのを知り正邪は手を止める、何か異常な事が他で起きていると感づいたからだ

 

「外に強い魔力を持つ者が出現したわね……召喚術か」

 

「だな……まぁでもよぉ……」

 

「そうね……」

 

二人は顔を見合わせ微笑み合う

 

「悪い!待たせたな正邪!続きしようぜ!」

 

「はぁ……?なんか問題があったんじゃないのかよ?」

 

「いいから気にしないでかかってらっしゃい」

 

「あぁ?何なんだよもう……」

 

正邪は頭を掻く

 

「んな事言われたら余計気になるっての……もういいから教えろよ」

 

「そんなに大した事じゃないのだけどね、でもそんなに言うなら見に行きましょうか」

 

「そうするか」

 

三人は急ぐ事無く談笑しながら外へ向かっていく

 

「お?」

 

途中、三人は地下へ続く階段から出てくる者を見つける

 

「レックスとルナじゃねぇか、あの様子だとイブールに逃げられたみたいだな」

 

「逃げられるなんて詰めが甘いわね、おおかた勝ったけれど無力化せずに問い詰めて逃げられたってところでしょ、まだまだねぇ」

 

「だから経験させたんだろ?あんま言ってやんなって……何事も経験しながら成長するんだよ、特に子どもはな」

 

ゆっくりとそこへ向かって行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エスターク……」

 

召喚された者を見たバーンはそう呟いた

 

己が知る者と比べるとかなり小さいが酷似したその姿に

 

「良く知っていたな!そうじゃ!数百年もの太古から存在し!魔界の神すら恐れをなす地獄の帝王!その子じゃ!名はプチターク!!」

 

イブールは得意気に叫ぶ

 

余程に自信があるのだろう

 

「……」

 

バーンはそんなプチタークを凝視する

 

(奴に息子が居たのか?確かに瓜二つだが……しかしそれが尚の事解せぬ)

 

バーンはプチタークの存在を疑問に思っていた

 

(見る限り進化の秘法は使っておらぬ、このプチタークとやらが本当にエスタークの子ならば……人型の筈だ)

 

そう、バーンは昔にエスターク本人と戦っている

 

その時は人型だった、その状態で追い詰め進化の秘法を使いあの姿になったのだ

 

破壊神に成り、マスタードラゴンに進化を戻され封印され眠り続けるエスタークが子を成せる筈がなかったからこそそう考える

 

(それに数百年前だと……?)

 

更に気になるイブールの言葉も有った

 

「これを使わせたからには貴様に勝ち目は無いぞ!」

 

そんなバーンの内情など関係無しにイブールは吠える

 

「さぁやれプチターク!その男を八つ裂きにしろ!」

 

「……わかった」

 

命令されたプチタークはバーンを睨み付ける

 

「……」

 

見下す様にバーンも睨み付ける

 

「……」

 

「……」

 

数秒の睨み合い、いや……探り合い

 

「……!!?」

 

プチタークが突然ガタガタと震えだした

 

「ど、どうしたのじゃプチターク!?」

 

不審に思ったイブールが問うとプチタークは後退しながら振り向く

 

「ダメだ……勝てない……」

 

「……なっ!?」

 

イブールは言葉を失った

 

「アイツ……強い……ボクでは勝てない」

 

プチタークは知ったのだ

 

「フン……」

 

バーンの遥かなる力を

 

なまじ強い故にバーンの力量を本能で察してしまい、戦う前から折られてしまったのだ

 

「何処の馬の骨を拾ったかは知らぬがこれがエスタークの子だと……?片腹痛い、寝言は寝て言うんだな愚かなる下衆」

 

「な……にぃ……」

 

「いや、確かに……その弱さだけは似ているか、これでは今、地上で暴れている巨獣の方が余程マシだ、フフッ……」

 

バーンは余裕気に笑っている

 

「グググ……ッ!?」

 

プチタークは確かに強かった、イブールを数段越える程度には強かった、しかしそれだけであり、更に如何せん相手が悪過ぎた

 

「さて、その砂利は使い物にならなくなったが次はどうする?まだ何か有るのか?それともお前が来るか?来るならば敬意を表すのもやぶさかではないがさぁ如何に?あぁ、一応言っておくが余からは決して逃げられぬ事を先に理解しておくとよい」

 

「ウググググ……!?」

 

「降伏を選ぶのもまた良し……重ねて言うがこれは余が出せる最大の慈悲であり最後通達と心得よ、お前次第で安楽死か絶苦にまみれて死ぬか決まるのだ……賢明な判断を期待する」

 

「グヌヌヌヌゥ……!!?」

 

イブールはとても苦しそうに唸っている、まさか大魔王用に用意した切り札であるプチタークを使って戦いにすらならなかったこの結果は予想外にも程が有ったのだ

 

「さぁ如何に?グズグズしているとお前が逃げたあの二人が来てしまうぞ?余に倒されるか二人に倒されるか、それとも降伏か……余はどれでも構わぬぞ?」

 

そして迫られる望まぬ三択

 

「~~~~ッ!!?」

 

どれも選びたくないイブールは……

 

「舐めるで……ないわァッ!!」

 

それを使う事を決断した

 

「ヌゥゥ……ヌンッ!!」

 

イブールが大地に手を叩きつけるとプチタークの周囲を立体魔方陣が囲う

 

「ッ……そ……それは……!?」

 

その法式を見たバーンは驚愕に染められる

 

まさかこんな小者がそれを会得しているとは夢にも思っていなかったから

 

「これも知っているのか!グフフフフッ!そうじゃ!あの地獄の帝王が使ったとされ、ミルドラースも使ったと言われる……進化の秘法じゃ!!」

 

イブールが使ったのはバーンにとっても幻想郷にとっても忘れられない忌々しき邪法「進化の秘法」

 

「ッ……!?」

 

使用すれば多大な力を得る邪法、だがその実態は破壊神が現世に降臨する為の器を作る破壊神化の法

 

「プチタークとこれを持ってミルドラースへの刃にするつもりじゃった……だが、まだ改良不足じゃったからまだ使う気は無かった、筈じゃったのに……!貴様が悪いのじゃ!儂の命を脅かす貴様が……!」

 

法式を取り込んだプチタークの体が変化を始める

 

「グッ……ゴ……ゴゴ……!?」

 

姿はそのまま徐々に巨大化していく

 

「もうよいわ!この制御不能の破壊獣に全て壊されてしまえ!無限に続く地獄の悪夢の中で後悔し続けるがいいわァ!!」

 

プチタークの進化が終わる

 

「グゴゴゴゴ……!!」

 

何倍にも膨れ上がった茶色い巨体と双剣

 

その姿はまさに破壊神が降りる最終進化のエスターク、その夢現体と同じであった

 

 

「バーン!」

 

そこに駆けつけたのは他を受け持っていたレミリア、フラン、チルノの3人

 

「覚えの有る感じだと思ったらやっぱりエスターク……!」

 

「ちょっと!どういう事なのバーン!?答えなさいよ!」

 

「また破壊神が来たらおしまいになっちゃうよ!?」

 

それに続いて魔理沙とパチュリーと正邪も駆けつけて来る

 

「何かの間違いだと思ったんだが……間違いじゃねぇわな、やっぱよ」

 

「また……進化の秘法……」

 

「なんだコイツ!?」

 

そして新たに3人

 

「ルナとレックスは!?」

 

「まだ、みたいだね……あの二人は感知が良く出来ないからまだ探してるんだろう」

 

「コイツが?いや……それにしては……」

 

妹紅とロランとロン

 

「グハハハハ!無駄じゃ無駄じゃ無駄じゃあ!進化したプチタークの前では全てが等しくゴミ同然!ゴミクズがいくら集まったところで無意味と知れぃ!」

 

半ばヤケになっているイブールはもうどうにでもなれとばかりにプチタークへ命ずる

 

「行けぃプチターク!全てを破壊し!皆殺しにするのじゃ!!」

 

「……!!」

 

プチタークが三眼を光らせバーン達を見据える

 

「ワレハ……アイサレナカッタ、カミニミステラレシコクウノウツワ……」

 

既に自我は消え、イブールの命令に従う存在ではなくなっていたプチタークだったが偶々視界にバーン達が入っていた故に標的と認識していた

 

「来るかよ……!わかってんなパチュリー!!」

 

「ええ、まだ進化しきれていない今の内にメドローアで全て消す!みんな!奴を押さえてチャンスを作って!!」

 

「……そんなに危ない相手なのかい?僕にはあまりそうは……」

 

「そうか、ロランは知らなかったんだったな……けど説明してる暇は無いんだ!頼むからお前も本気でやってくれ!」

 

「ッ……わかった!!」

 

必死の妹紅に幻想郷に現れた破壊神を知らないロランも気を引き締める

 

「楽観は絶対にするな!わかったわね!各員、持てる力の全てで行くわよ!細胞の一片も決して残さず消滅させる!!」

 

レミリアの号令で6人の頂点とロラン、ロン、正邪が全力を解放する

 

 

「下がっていろお前達……余が相手をする」

 

 

「グッ……ゴッ!!?」

 

 

先程からずっと無言だったバーンが不意に手をかざし、プチタークを魔力で縛り付け、皆を制した

 

「ちょっと……何考えてる気?」

 

「なに……借りを返してやろうと思ってな、いや……エスタークではないから憂さ晴らしになるか」

 

「何を言っているのよ貴方!状況がわかってないとは言わせないわよ!また破壊神を出現させたいの!?」

 

レミリアが怒るのは当然

 

あの誰も敵わなかった破壊神、誰も遊具にしか見られていなかった暗き夢

 

幻想郷が全てを懸けて、それでも上を行き、皇帝不死鳥の親友の捨て身の犠牲で起きた奇蹟を持ってしても倒せずに撃退に留まった程の最強最悪の破壊と殺戮の悪夢

 

それが現界する唯一の可能性を前に冷静になど居られる筈が無い

 

「心配せずとも破壊神は現れぬ」

 

「どうしてそんな事がわかるのよ!?」

 

バーンの言葉であってもレミリア含め誰も簡単には信じない、本当にそれだけ危険なのだ、現界すれば今度こそ世界が終わると確信している程だから

 

「破壊神と交わした約定はお前達も覚えていようが?」

 

「覚えてるわよ!だけど契約もしていない口約束なのよ!いつ気が変わって破られるなんてわからないじゃない!」

 

破壊神は約束した「幻想郷に二度と姿を現さない」と言う約束を

 

しかしレミリアの言う通りただの口約束に過ぎない、反故にするなど破壊神の気分次第なのだ

 

それに……仮に絶対の契約をしていたとしても契約自体を破壊出来てしまうだろう……そう正しく世界の理を超越した存在だと理解するからここまで声を荒げるのだ

 

「大丈夫だ、暗き夢は約定を守ってくれている様だ……奴に破壊神の干渉は一切無い、感じてみろ……エスタークには在った神の力を感じぬであろう?」

 

「……確かに感じない、だけど……!」

 

「それに……あの進化の秘法は不完全であり構築も随分と甘い、飛躍こそしているがそれだけだ、更なる進化の予兆すら今だ感じられぬ」

 

「……」

 

「アレでは現界に数万年は掛かろう、そんな者に破壊神も期待はしていないのだろう……それに此処は約束した幻想郷、尚更にだ……好きにしろとさえ言っている様に見える、先に奴が言った言葉「愛されなかった、神に見放されし虚空の器」とは破壊神からのメッセージだろう」

 

「……まだ私にさえ至っていない、重く見て同等なのは認めるけど……」

 

レミリアの気勢が落ちた、バーンにこうも断言されると信じてみたくなる

 

「どうする……?」

 

だから最後の抵抗に皆に聞いてみた

 

「良いぜ」

 

「私も良いよ」

 

「あたいも」

 

「良いよバーン」

 

魔理沙、妹紅、チルノ、フランが了承しロンとロランも頷く

 

「条件があるわ、メドローアをいつでも撃てる様にさせておく事……危険だと判断した瞬間に撃つわ、貴方ごとね……飲めないなら願いは却下、多数決だからなんて言ったら許さないわよ」

 

パチュリーだけは折衷案を出す、根拠も証明も無いほぼ推論、それに流されない冷静な賢者であるが故の条件

 

「よかろう、その時は容赦無く撃て……流石だパチュリー、お前はそうでなくてはならん」

 

「……気をつけてね」

 

この場の全員の許しを貰い、バーンはプチタークの前に立つ

 

「ええい何をしておる!?そんな拘束がなんだ!動けプチターク!……何故動かん!」

 

動けぬプチタークへ必死に呼び掛けるイブールへ聞こえる様にバーンは言った

 

「まだ理解出来ておらぬのか……余が会話をする片手間に止めておけるというこの事実が意味するところを……」

 

「なにぃ……!?」

 

血走る目で睨みつけるイブールの前でプチタークの拘束を解く

 

「グゴオッ!!」

 

自由になったプチタークが大剣をバーンへ振り下ろした

 

「知れ……こういう事だ!」

 

 

ドンッ!

 

 

バーンの解放した全魔力が大剣を弾き返す

 

 

ズドオッッ!!

 

 

出された掌から繰り出した見えぬ掌圧がプチタークを襲い、まるで巨大な鉄球を受けた様にその巨体は宙を舞った

 

 

ドゴオッッ!!

 

 

瞬間移動のごとき速さで舞った先で待ち構えていたバーンの拳の鉄槌がプチタークを流星のごとく打ち落とし魔界の大地に巨大なクレーターを作る

 

「グゴッ!?ゴッ……ゴゴァッ!!?」

 

ヨロヨロと立ち上がるプチターク、たった2発でかなりのダメージを負っていた

 

 

「バーンの奴、全力で殺しに行ってるな」

 

「そうでなくては困るわ、我儘を聞いたのに遊んだりなんてしたら一生許さない!」

 

「マジギレしてるぜパチュリー、おーこわ……でも、まぁそうだよな、私でも怒る」

 

もしもの時に備えいつでも動ける様に気を張り詰め戦いを見守る

 

 

 

「プチターク……だったな」

 

三眼の内の右目に位置する目を刺し潰し、返す刃で左腕を切り飛ばしたバーンが呟く

 

「貴様に罪は無い、だが殺さねばならん、可哀想だがな……恨むならあの下衆を恨め、そして……あんな下衆にしか出会えなかった己の不幸を呪うがいい……」

 

一切の情け容赦無く攻めるバーン

 

利用されたプチタークに同情はするがするだけ、幻想郷に手を出すならば慈悲は無い、それが破壊神に関係するのなら尚更

 

「グゴオオオオッ!!」

 

プチタークが残る右手の大剣を振るう

 

バギャアッ!

 

バーンに直撃したが大剣は魔力の圧とドルオーラすら無傷で耐える堅牢な肉体に逆に破砕してしまう

 

「六芒「ギガグランドイオナズン」!!」

 

魔法球をプチタークの周囲に六芒に設置、同時に威力を逃がさぬよう魔力結界で包み、起爆される

 

「ゴ……」

 

声すら掻き消す超爆発

 

「……」

 

結界が解かれ、圧縮された爆煙が一気に吹き昇るその場所へ間髪入れずバーンは突入する

 

ドドッ……ズドオッッ!

 

数度衝撃音が鳴り爆煙からプチタークが凄まじい勢いで吹っ飛ばされ大地に打ち付けられた

 

「ゴッ……ゴゴ……ァ……」

 

僅か1分程で変わり果てた帝王の息子

 

穴や抉られた体、天を衝く双角は右は折れ、左は無い、三眼は顔の左半分が消し飛ばされた為に残るは額のみ

 

全身は隈無く重傷、四肢の残りは足首から先が消し飛んだ右足のみ

 

もはや一人で立つ事も出来ない悲惨な姿

 

まさしく瀕死だった

 

「……」

 

持っていた左足を焼き消し、バーンはゆっくりと、されど確かな覚悟を持って……歩を進める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

\ワーワー!/\ワーワー!/\ワーワー!/

 

大きな観客の声援が届いている

 

 

「食らいなぁッ!!」

 

 

萃香がブオーンを空へ放り投げる

 

「あぁ!?萃香は何をする気なんだーーーッ!!?」

 

声援は人間の里から、里は隠される事無くいつの間にか巨人達の迫力有る熱戦を遠くから観賞していた

 

「48の殺人技の1つ!霧鬼(ブルイヤール・オーガ)バスター!!」

 

「ブオオッ!?」

 

自身も飛び上がり、秘伝?の必殺技(フェイバリッド)を放とうとセットアップに入る

 

「しまったぁ!手が足に届かないだってぇ!?」

 

だが不可能だった、同じ大きさになったと言っても幼女体型の萃香の短手ではブオーンの足をホールドするにはかーなーり短過ぎた

 

「なんてこったいちくしょーめ!」

 

「ブオオーーーッ!!」

 

そこからブオーンの反撃、素早く萃香の首を引き下ろし、頭を下、足が上の逆さ状態にして足首を持ち、腋に足をかけてセットアップ完了!

 

 

「ブオアアアアアアーーーーー!!!」

 

 

そのまま落下、炸裂した

 

ブオーンドライバーとも言うべき重厚な必殺技(フェイバリッド)

 

「ゲボアッ!?」

 

これには萃香も堪らず血を吐き大地のマットに倒れる

 

「ブフフフフ!ブオッブオッブオッ!!」

 

ニタニタと笑いながら萃香を見下すブオーン

 

「イヤァー!萃香ァーーーッ!?」

 

「立て!立つんだ萃香ァァァァ!!?」

 

「お願いだからーーーッ!!?」

 

悲痛な叫びが木霊する

 

「中々強かったが……オデには勝てん!ブゥハハハハー!!」

 

萃香を背に人間の里へと侵攻を再開するブオーン

 

「ま……待ちなぁ……」

 

その声が足を止める

 

「どこ行こうってんだい……まだ……私ゃ……!」

 

深く傷付いた体に力を入れ

 

「参ったしちゃいないよッ!!」

 

満身創痍の霧の鬼は立ち上がる

 

「……しつこい奴め」

 

鬱陶しいのか、それともまだやろうという姿勢が腹立たしいのか、それとも生きている事が信じられないのか

 

青筋を浮かばせながらブオーンは確実なトドメを刺す為に拳を握り締める

 

「殺す……ブッ殺す!!」

 

殺意を籠めて猛進を始めた

 

「来なぁデカブツ!霧の鬼の本意気……見せてやる!!」

 

窮地に居て、それでもふてぶてしいまでに萃香は笑い

 

衝突した

 

「……!!?」

 

ブオーンが驚愕に目を見開く

 

「死に損ないのくせに……どうして……そんな力……!?」

 

拳を受け止めた萃香が信じられず思わず問う

 

「ハッハッハー……」

 

笑いながら下げていた顔を上げ、萃香は叫ぶ

 

 

「火事場のぉぉぉミッシングパワァァァァァァッ!!」

 

 

掴んだ手を引き寄せ、一気に背負い投げた

 

「そぉぉらああああッ!!」

 

手を放さずもう一回大地に投げ、叩きつける

 

「ふんッ!!」

 

首を締め上げ持ち上げる

 

「どぉりゃあ!」

 

そのまま垂直式ブレーンバスター!

 

「ブオォ!?」

 

「まだまだァ!」

 

苦しむブオーンへ追撃の手は緩めない

 

「せいッ!」

 

ジャンピングエルボードロップ!

 

「ヌオラァ!」

 

ジャイアントスイングで空へ放り投げる

 

「おっしゃー!!」

 

落下間際にドロップキック!

 

「次で最後ッ!」

 

起き上がろうと上体を起こしたブオーンの背に回り込み腰に手を回しクラッチ

 

「こいつで終わらせてやる!どりゃあ!」

 

バックドロップ!

 

「ヌリャアッ!」

 

更にもう一回!

 

「ヌガァァァァァァッ!!」

 

腕を交差し逆さに持ち上げながら大きく跳躍!

 

 

「鬼符「大江山悉皆殺し」!!」

 

 

最高格の妖怪、鬼、その鬼達の誰もが認める最も強き鬼神

 

 

[小さな百鬼夜行][不羈奔放の古豪]

 

 

そう謳われる、頂点に次ぐ幻想郷一自由なる強者

 

 

「ウオラアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

そして大魔王に認められた霧の鬼の放つこれこそ究極至高、天地鳴動の……

 

 

「くたばりなァァァァァァァァッッ!!」

 

 

一撃必殺技(パワーボム)!!

 

 

「…………ブゴハッ!!?」

 

 

必殺の名に恥じず、ブオーンの巨体が血と共に沈み、動かなくなる

 

 

「ダッシャアアアアーー!!ウオラアアァァアアアッ!!」

 

 

雄叫びをあげて萃香は拳を天に突き上げる

 

「うおおおー!勝ったぞぉーーー!!」

 

「キャー!萃香ちゃーーーん!!」 

 

「スゴいぞー!カッコイイぞー!!」

 

観客も大いに沸いた

 

「楽しかったよ……またやろう!」

 

萃香の勝利が確定した

 

 

 

 

 

 

「随分と派手にやったわねぇ……」

 

荒れ狂った大地を見ながら紫は嫌味の様に呟く

 

「文句はこのデカブツに言いな、私は退治してやったんだ!礼は言われても文句言われる筋合いは無いさね」

 

「やるにしてもやり方があるでしょうと言いたいのよ私は……」

 

「知るかバカ!そんな事より宴会だ!!」

 

大魔王を飲みながら萃香は準備に人間の里へ向かう

 

「ん~?何だこりゃ?」

 

途中、萃香は何かを見つける

 

「鍵……?デカブツが飲み込んでたのかい」

 

奇妙な形をした鍵だった

 

「あら?萃香、貴方盗賊にでも成る気なの?」

 

「あー……やっぱそんな感じのヤツだったかい、ふぅむ……」

 

少し考えた萃香は鍵を懐にしまい鼻唄混じりに歩いていく

 

「ちょっと!コレどうするの!」

 

「知らーんよ!一応まだ生きてるけど好きにしなー!剥製にでもすれば~?」

 

萃香は去って行った

 

「もう!面倒なのはいつも私じゃない……」

 

プンプン怒りながら紫は虫の息のブオーンを見上げる

 

(でも本当にどうしようかしら……封印されてた壺に戻してレックスと一緒に戻しとく?しかしそれではレックスの世界でまた暴れる危険が……それにせっかく倒したのだしそれだと勿体無い気もするし……コイツは利用されただけだし殺すのもねぇ……)

 

悩んでいた紫だったが名案を思い付く

 

「ウッフッフ!では少し失敬して……」

 

ニヤニヤしながら境界の賢者はブオーンに何かをし始める……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この先だ!」

 

イブールを探し外に出ていたレックスとルナ、捜索の途中で2つの邪悪な魔力を感じた二人は急いでそこへ向かっていた

 

「!!?」

 

魔力の元へ着いたレックスが感じたのは片方の魔力が異様に小さくなる感覚

 

そして目にしたものは自身が知っていた様からは想像もつかない超魔力を出すシルエットが……

 

(あの人は確か……バーン……)

 

 

 

ゴシャアッ!!

 

 

 

既に屑切れの様に横たわるプチタークの頭部を砕く瞬間であった

 

 

「……」

 

二人に気付いたバーンは一瞥だけくれると右手に魔力を集中させ炎上させる

 

「……トドメだ」

 

撃たれたカイザーフェニックスがプチタークの亡骸を火柱に閉じ込め焼いていく

 

「許せとは言わん、いずれ余も後を追う……さらばだ」

 

王の誇る不死鳥の炎に抱かれ

 

「ゴ……ァ…………ァ…………」

 

プチタークは完全に焼滅した

 

 

「アガ……ガ……」

 

最初から見ていたイブールは言葉にならず口をパクパクとしながら圧倒的に一方的だった戦いの決着を知る

 

「そんな……そんな……バカなぁ……」

 

カタカタ震えながら膝から崩れ落ちた

 

「……フゥ」

 

完全に消滅した事を念入りに確認したパチュリーは構えていたメドローアを消し、ようやく険相が取れる

 

「後はアイツだけね……」

 

項垂れるイブールに目を向ける……

 

 

 

「さて……」

 

「ヒッ……!?」

 

バーンの言葉にイブールは更に震え上がる

 

「次は?」

 

それは最後のチャンス

 

「次はどうするのだと聞いている」

 

戦うか降伏か、最後の選択の機会

 

「ウゥググッ……!?」

 

その選択を前にイブールは密かに手に陣を作る

 

「言っておくが地上に居る巨獣を喚ぼうとしても無駄だぞ?巨獣を喚んで進化の秘法を使うつもりだったのだろうが今、先程倒された」

 

「!!?」

 

慌てて召喚を試すが誰かに妨害され不可能

 

「あ、有り得ぬ……ヒイッ!?」

 

考えを見抜かれた上に潰されていた事を知り、顔面蒼白でイブールは情けなく後ずさる

 

「……クズが」

 

そんなイブールをバーンはゴミを見る目で見下し、吐き捨てる様に告げた

 

「自らに進化の秘法を掛ける覚悟が無ければ度胸も無い恥を知らぬ小者が……この期に及んでまだ観念出来ぬのか」

 

「グギャッ!?」

 

魔力で拘束したイブールに背を向けレミリア達へ進みだしながらレックスへ顔を向ける

 

「さっさと情報を引き出すがいい、だが引き出した後の奴の身柄はこちらが貰う、よいな?」

 

「……ど、どうするつもりなんですか……?」

 

「当然殺す、だが幻想郷に害を与えた報いは首魁として当然受けて貰わねばならん、余等を脅かした罪を存分に購わせ、地獄を越える絶苦を与えた末に与えられる死に感謝しながら死んでもらう」

 

「ッ……」

 

そう躊躇無く言い放つバーンにレックスの背筋が凍る

 

「選択はくれてやっていた、これは奴が望んだ事……お前が口を挟む事ではない」

 

もしイブールが素直に降伏していればバーンが言った事にはならなかった

 

降伏を選ぶか逃げずに己で立ち向かって来たならば敬意を持ってせめて楽に死なせる気だった

 

「それにこやつはお前の親を拐った怨敵、それこそ簡単に死ぬのは許せぬのではないか?」

 

この結果はイブール自身が招き、選んだ末路なのだ

 

「……ッ!?」

 

レックスは何も言い返せない

 

まだ子どもだから言い返す口を持たないのもあったがそうではない

 

レックス自身も少なからずそうしてやりたいと思った事があるからだ

 

だがそれが勇者として人間として間違いだと本能的にわかっていたからいくら憎くても残酷な事をするつもりは無かった

 

だから望む心と望まない心が葛藤し何も言えなかった

 

「……お前は勇者、人間を照らす光、迫る闇を祓う者だ……ならば闇に触れてはならぬ、こういった事は……余の様な悪邪の領分よ」

 

邪悪な魔力を蠢く様に立ち上らせ、光との違いをわかる様に見せつける

 

「ッゥ……わかり……ました……」

 

バーンの魔力に気圧され言わされた様ではあったが納得したレックスはイブールの処遇を幻想郷に一任した

 

 

「……イブール!!」

 

レックスが向かう

 

「母さんは何処だ!!」

 

「絶対話してもらうからね!!」

 

ルナと共に向かう

 

 

 

バチッ……

 

 

 

その瞬間だった

 

(余の拘束が……外された!?)

 

バーンすら驚愕しイブールへ振り向く

 

 

ズズズッ……

 

 

イブールは空間の歪みに捕らわれていた

 

「な……なんじゃ!?」

 

イブールも何が起きたか理解していない様だった

 

「ま……待てッ!?」

 

レックスの叫びは虚しく響き

 

 

……ズゥゥゥ

 

 

イブールは幻想郷から消え去った

 

 

「そんな……クッソオッ!!」

 

我慢出来ずレックスは剣を叩きつける

 

「落ち着いてレックス……気持ちはわかるけど……落ち着いて……」

 

ルナに抑えられてゆっくりと息を落ち着ける

 

「……」

 

それを横目にバーンはイブールの居た場所を睨んでいた

 

(全力ではなかったとは言え余の拘束を容易く外す力……)

 

誰がやったかは当たりがついていた

 

(もし……貴様がこの幻想郷に攻め入るつもりなら……この屈辱は必ず返してやろう、来るのならば必ずや……な……)

 

確定していた勝敗を螺曲げた異界の同格者に向け聞こえぬ布告を行うのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-???-

 

「こ、ここは……」

 

転移されたイブールは辺りを見回す

 

(エビルマウンテン……)

 

そこが自らが良く知る己が居た世界だと気付く

 

(という事は……)

 

ならばわかる

 

(儂を呼び戻したのは……!?)

 

それが誰なのかなど……

 

 

 

「イブール……」

 

 

 

どこまでも深く、どこまでも重い声が響く……

 

「ヒッ!?ヒィィ!!?」

 

情けない声を出すのはイブールが誰よりも恐ろしさを知っているから……

 

「だ、大魔王……ミルドラース……様……」

 

神を越えた王の中の王、魔族を統べる恐怖の君の事は……

 

 

 

「ゲマからお前が消えたと報告を受け呼び戻した、異界に居た様だな……」

 

「ははっ!私も訳もわからず飛ばされてしまい困っていたのです、感謝致しますミルドラース様!」

 

「そうか……ところでお前は疑問に思わぬのか?」

 

「な、何をでしょうか?」

 

「異界に居たお前を何故呼び戻せたか、だ……」

 

「そ、それは……偉大なるミルドラース様の人智を越えた力によるものでは……」

 

「……如何に私と言えど異界にまで力は及ばぬ、答えはイブール……お前を監視していたからに他ならん」

 

「ッ!?か、監視!?何故でしょう!?」

 

「とぼけるなイブール……お前が私に隠れてつまらぬ暗躍していたのはゲマからの報告で知っている、確か地獄の帝王の息子を自称する小童と進化の秘法……だったな?」

 

「~~~ッ!?」

 

「私の首を取る気だったか」

 

「もっ!申し訳ありません!!」

 

「構わぬ、その野心……嫌いではない」

 

「はっ……」

 

「だが次は無いぞイブール、お前やゲマが何をしようと構わぬが反逆は許さぬ……それを魂に刻み、二度と妙な気を起こさぬのであれば今回は不問としてやろう」

 

「ははぁーーー!!」

 

大いなる闇の気配が消える

 

「か、勝てぬわ……あの御方には……」

 

何とか命を繋いだイブールは力無く座り込む

 

(そして……あの魔族にも……)

 

愚かな小者は分を弁え、教祖へと戻る

 

 

こうして、幻想郷と光の教団の小さくも大きな意味を持った事件は終わりを告げた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館-

 

「飲め飲め飲めー!!」

 

そこでは例によって例のごとく大宴会が始まっていた

 

「聞いたよルナ!イブールだかヤプールだか言うクソ雑魚に二人がかりで辛くも勝ったんだってね!相変わらず弱っちぃねぇあんたは!アハハハハ!ほらこっち来な!よーしよしよし!よくやった!」

 

「あばばばば……」

 

始まる前から出来上がっていた萃香に何度も頭を撫でられる

 

「アッハッハー!その調子で強くなりな!」

 

「あうー……はぁい……もー髪がぐちゃぐちゃだよ……」

 

幻想郷にとっての目的であるルナの経験、それを無事に達成出来たルナは色んな人にたらい回しにされ揉みくちゃにされていた

 

「慧音?ルナはどこに居るの?」

 

「ああ風見幽香……さっき萃香と話してたぞ」

 

 

「うげっ!?幽香さんは絶対ヤバイって!捕まったらイジメられちゃうに決まってる!逃げろ逃げろー!」

 

コソコソとサディスティックな大妖怪から逃げたルナは料理を頬張りながら会場を散歩気分で練り歩く

 

 

「靈夢ちゃん!次の新作なんですが閃きました!ショタ!そう次の新作はショタ本で攻めてみます!」

 

「うおお!全てが謎の幻想郷愛の伝道師!KOCHIYA先生の次作はショタ!……先生!ショタと言う事はまさかぁ!?」

 

「うふふ……貴方の様な勘の良い読者は嫌いです……!えぇ!想像通りレックス君本です!」

 

「みなぎってキター!相手は!?相手は誰ですか!!?」

 

「クックック……バーンさんです!」

 

「ああー!?と……言う事はァァァッ!?」

 

「大魔王に敗れ囚われたショタ勇者……性欲を持て余す大魔王……二人きりの部屋……後はわかりますね?」

 

「ジュルリ……おっとよだれが……先生!早く書いてください!それさえ有ればあと10年は独身でいれます!」

 

「素晴らしい腐力!わかりました……守矢の名の元に一刻も早い完成を約束する事を誓います」

 

「「腐腐腐腐腐……」」

 

腐った巫女達が怪しく笑う

 

 

「謎の愛の伝道師KOCHIYA先生……いったい何早苗さんなのかな……」

 

あの二人はきっといつまでもあのままなんだろうな、と思いながらルナは歩く

 

 

 

「妖夢」

 

「あ!ロン・ベルクさん!バーンさんとのお話は終わったんですね!」

 

「ああ、ところでいきなりだがお前に頼みがある……かなり先の話になるだろうが……」

 

「何でしょうか?何でも言ってください!」

 

「お前の剣術を教えて欲しい奴等が居る……まだ居ないか……まぁ弟子にする約束をして欲しい」

 

「弟子……ですか?……まだ居ないとは?誰なんですか?」

 

「それはまた話してやる、どうだ?頼まれてくれるか?」

 

「よくわかりませんけど構いませんよ!だって未来の旦那様からのお願いですから!」

 

「……そういう事は白玉楼だけで言え」

 

「あ!照れてます?照れてますね?」

 

「……照れてない」

 

「そういう事にしておきます!」

 

「~~~ッ!クソッ!酒を持ってこい!」

 

「はーい!喜んでー!」

 

 

 

 

「うーん……なんか甘酸っぱい感じがするや」

 

ニコニコしながらまた歩く

 

 

 

 

(あ……お母さんとバーンさんだ、何か話してる……)

 

二人を見かけこっそりと聞き耳を立ててみる

 

 

 

「そういえば頼みがあるって言ってたよな?なんだ?」

 

「ああ……名を使う事を許して欲しいのだ」

 

「名?皇帝不死鳥か?」

 

「違う、お前が願いを込めて付けた想い名……それが欲しい」

 

「それって……」

 

 

その先を逃さない様に集中していたルナだったがふと目に入った光景に気を奪われてしまった

 

 

(あ、レックスだ……パチュリーさんと……話してる?)

 

先に聞いていた二人の事を忘れ弟分の方へ聞き耳を立てる

 

 

「これをあげる」

 

「杖……?」

 

「それはストロスの杖と言って私がさっき作った物よ、石化を解く効果を施してあるわ」

 

「石化を!?」

 

「ルナから聞いたのよ、貴方の御両親が石にされてるってね、それを使えば助けられる筈だから使いなさい」

 

「ありがとう……ありがとうございます!」

 

「気にしなくていいわ、私にとってはそれくらいの杖はペン回しの感覚で作れる物だからね、武器としてもそれなりに使える様にしたから妹さんにでも使わせなさい」

 

「これで……父さんと母さんを救える……!」

 

「頑張りなさい」

 

 

そこにもう一人現れた

 

 

「おう居た居た!おい坊主!コレやるよ!」

 

萃香がレックスに鍵を投げ渡す

 

「……宝箱の鍵ですか?」

 

「あら?それマネマネ銀で作られた「最後の鍵」じゃない、よかったわね貴方、これで何処でも侵入し放題、盗人し放題ね」

 

「デカブツが飲み込んでたんだよ!霧になれる私にゃ無用だから使わんし元は坊主のとこに有ったやつだろうしちょうどいいだろ!」

 

「ありがとうございます!」

 

「頑張んな坊主!酒飲むかい?」

 

「いやまだ飲んじゃダメってサンチョが……」

 

「堅い事言うんじゃないよ!ほらこっち来なー!」

 

「イタタッ!?なんて力だ……!?」

 

 

レックスが困っていると新たな者が怒鳴りこんだ

 

 

「見つけたぞお前!」

 

萃香と同じくらいの小さな魔物がぶん殴った

 

「あん?見ない妖怪だね……なんだお前?」

 

全然効いていない萃香はその魔物を掴み上げる

 

「ん~?あれ?もしかしてお前……デカブツかい?」

 

よく見るとそれはブオーンだった、何故か小さいし鼻水が垂れているが

 

「プオオーーッ!?放せぇぇぇぇ!!」

 

暴れるも抜け出せないブオーン

 

「私の式を虐めないで欲しいわ萃香」

 

ニヤニヤしながら胡散臭い紫が現れた

 

「あー……小さくされて式神にされちまったのかいお前」

 

「そういう事ね、名前も付けたわ、プオーン……八雲プオーンよ」

 

「プオーンって紫あんた……」

 

「可愛いでしょう?やったわね藍、橙!家族が増えるわよ!」

 

「オイやめな」

 

「プオオオオオオンッ!!」

 

幻想郷に新たな仲間が加わった

 

 

 

「……よし」

 

レックスは覚悟を決めた顔で4人から離れ、ある場所へ向かう

 

(あ……バーンさんの所に……)

 

行き先はバーン、既に妹紅との話は終わっていて今は一人

 

(なんだろ……?)

 

レックスの表情が気になったルナはまた聞き耳を立てる

 

 

 

 

「あの……!……バーンさん!」

 

「……何だ?」

 

誰が来たかわかっている様に見もせず酒を片手にバーンは返す

 

「今日は……ありがとうございました!」

 

「……余は幻想郷に降り掛かる火の粉を払ったに過ぎん、お前の為では無い、気にするな」

 

「でも……助かりました、バーンさん達が協力してくれなかったら……きっとオレは死んでた」

 

「……そうだな」

 

「ここの……幻想郷の人達は強いですね、本当に強い……オレなんかより……ずっと……」

 

さすがにレックスも幻想郷の強さに気付いていた、今日一緒に行ったメンバーの誰もが自分より遥かに強いという事を

 

「バーンさんは特にだ……」

 

「……そうだな」

 

変わらずバーンはレックスを見ない

 

「それで……その……」

 

言い淀むレックス、覚悟は決めてきた筈なのに中々言い出せない

 

「もし……良かったら……その……」

 

それは申し訳ないとわかっているからだろう

 

「父さんと母さんを……た、助けるのを……」

 

でもそれが一番確実だとわかるからその言葉を出そうとする

 

 

「……そこから先は言うな」

 

 

それを……バーンは止めた

 

「え……」

 

レックスは呆けた顔でバーンを見る

 

「お前の事情は知っている、形振り構わず助けたいのも大いにわかっている……だが、言うな」

 

レックスへ向き、バーンは言う

 

「決して口に出してはならん言葉が有る筈だ、お前が勇者ならば……いや、その先は死んでも口に出せん言葉が有る筈だ」

 

レックスが言いたい事を理解して諭す様に答える

 

「お前が男ならば……」

 

持つべき誇りの在り方、矜持有る生き方を……

 

「……」

 

レックスは幻想郷に父母を救う為の助力を願おうとしていた

 

自分より遥かに強い幻想郷の一人でも良い、手伝ってくれないかと……

 

「わかるか?わからぬのなら今知れ」

 

確かに頂点の一人でも手伝えば父母は簡単に救えるだろう、それにレックスもまだ知らぬ背後の存在に対しても大きな力になる

 

「……」

 

しかし、それは勇者の、男のする事ではない、関係の無い異世界の者になら尚更

 

「お前がそれでも構わぬと言うなら余から皆に話してやるが……」

 

バーンは教えていた

 

他力に頼るばかりの男ではなく、己の力で道を切り開くまさに勇者と言うべき生き方を

 

「どうする?」

 

そうは言うがバーンもソルとの戦いの際に異世界に助力を求めている

 

だがそれは本当にどうしようもなかったから、バーンとて出来るなら幻想郷だけでどうにかしたかった、しかし考えるだけ考えて、それでもやはり幻想郷だけではどう足掻いても敗北すると知ったからこその苦渋であり苦肉の頼みだったのだ

 

「よく考えろ、勇者よ」

 

まだレックスは幼い、ルナよりも更に幼い

 

そんな頃から他力に頼る生き方をさせたくなかった、それに慣れてしまうと困った時にすぐに誰かに頼り、自分では何も出来ない腑抜けになってしまうから

 

だからバーンはレックスに、本当に己の力でやれないのか?プライドを捨ててまで頼まねばならない事態なのか?それは熟考して出す答えはそれで本当に良いのか?

 

そう諭す様に聞いているのだ

 

「……」

 

ぎゅっと拳を握り締め、唇を噛み締め、レックスは答えた

 

「すいません……何でも……ないです」

 

レックスは言わなかった、その口から助力を乞う言葉は出なかった

 

「貴方の……言う通りです、貴方にそう言われて……心っていうか、魂っていうのか……とにかく……わかりました」

 

バーンと言う位置では己とは正反対に属す真逆の者、しかし今まで出会った誰よりも思慮深く、強く、そして見合う誇り高さを持つ偉大な人、いつかこう成りたいと幼心にもそう思わせた天空よりも高い罪深き大いなる魔の王

 

「なりたくてなったわけじゃないけど……オレは勇者で……男なんだって……」

 

迷いは晴れた

 

皮肉にもレックスは本来なら敵である魔族から己が宿命を恨まず、逃げず、立ち向かう勇気を得たのだ

 

「困難に泣くのは簡単だ、真に難しきは挑む事、諦めぬ事だ……強く生きよ天の子よ」

 

「はい……!」

 

褒める様なバーンの微笑みの激励にレックスも笑顔で力強く応えた

 

 

 

 

「あ……バーンさん」

 

「なんだ?」

 

「いや、あの……お願いがあって……あ!でもさっき言おうとした事じゃなくて違う事で……」

 

「わかっておる……言ってみるがいい」

 

キョロキョロ周囲を見回したレックスは小声で頼みを話した

 

 

 

 

 

 

(む~!聞こえない……)

 

聞き耳を立てていたルナはどうにか聞こうとジリジリ近寄っていく

 

「……あ!?」

 

その時、気付いた

 

(ゲェー!?幽香さんッ!?こっち来てる!?)

 

それはルナを褒めよう(イジメ)ようと探していた幽香、こちらに向かって来ているが幸いにもまだ気付いてはいない

 

(見つかったら死んじゃう……私、死んじゃう……こうなったら……!)

 

意を決したルナは飛び出した

 

(逃げるんだよーーーッ!!)

 

バーンとレックスのもとへ駆けていく

 

 

「こんな所に居たんだレックス!ちょっと付き合ってよ!ね!早く早く!」

 

「ルナ!ちょっ待て!引っ張るなって……」

 

「ハヤァァァァァァクッ!間に合わなくなっても知らんぞーーー!!」

 

「あ、はい」

 

引き吊られる様にレックスはルナと一緒にバーンの前から消えた

 

 

 

「フッ……」

 

見送ったバーンは微笑みながら酒を飲む

 

「ルナを見なかったかしら?」

 

若干不機嫌な幽香が問う

 

「知らんな、今頃どこかで冒険でもしているのだろう」

 

「冒険?」

 

「ああ、「青き春」と言うダンジョンのな」

 

「……よくわからないけどまぁいいわ、見つけたら可愛がってあげる……」

 

「……妹紅が怒る、程々にしておいてやれ」

 

祭りの夜は過ぎていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ""手を繋いだら行ってみよう

 

             燃える様な月の輝く丘に""

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どこまで行く気なんだよ……!」

 

レックスは外に連れ出されていた

 

「もうちょっとで着くから!」

 

手を繋いで二人は紅魔館から離れた丘の頂へ辿り着く

 

「着いたよ!」

 

「うわぁ……」

 

広がる景色に思わず感嘆の声が漏れる

 

「綺麗な星だ……凄い数……どれも届きそうなくらい近くて……月も、あんなに輝いて……」

 

いっぱいに広がる満天の星空

 

「スゴイでしょ!私のとっておきの場所なんだ!」

 

「うん……スゴイ……本当に綺麗だ……」

 

見とれたレックスはその場に座り込み、ルナも横に座る

 

「……あのさレックス、手伝ってあげようか?」

 

そしてルナは不意に言う

 

「お父さんとお母さんを助けるの」

 

「え……」

 

レックスはルナを見る

 

「どう?」

 

「……だ、ダメに決まってるだろ!そんなの……ダメだ!君にそこまでして貰うなんて……ダメだ!」

 

「それは……私が他の人より強くないから?まぁそうだよね……やっぱりお母さんやバーンさんみたいな人が良いよね、当然か」

 

「ち、違う!!」

 

感情的にレックスは叫ぶ

 

「そうじゃない!そうじゃない……んだ」

 

「じゃあどうしてダメなの?」

 

「それは……」

 

レックスは言い辛いのか言い淀む

 

「ちゃんと言ってよ」

 

「……言えない」

 

「ふ~~ん……」

 

ルナはレックスを見つめながら宣言する

 

「じゃあ勝手に協力しちゃおっと!」

 

「えぇ!?」

 

それにはレックスも驚き、困った

 

「だからダメだって……それに君のお母さんが許してくれる筈が……」

 

「大丈夫!お母さんは絶対説得してみせるから!もしダメだったらこっそり家出するよ!」

 

「そんなのもっとダメだ!そんなの君のお母さんが悲しむだけじゃないか!」

 

「わかってるよ……でも、君を助けたいんだよ私……お父さんとお母さんが居ない辛さ、わかるから……」

 

「ッ……!?」

 

涙が出そうなくらいレックスは嬉しかった

 

ルナがくれる優しさがどうしようもなく心に染みる

 

「ね?だから……お願い」

 

「……」

 

レックスは拳を握り締める

 

「わかった……」

 

嬉しさと辛さが混じった様な歪な顔で

 

「一緒に行こう」

 

レックスは笑った

 

「やったー!じゃあ明日、お母さんを説得してみるね!」

 

「……うん」

 

「楽しみだな~!あーレックスの世界に行ったらさ!私は幻想郷で言う外来人になるんだよね?拐われちゃうかも!その時は守ってよねレックス!」

 

「……うん、君は僕が守るよ……」

 

「ふふっ!じゃあ戻ろ!今日は朝まで宴会って言ってたよ!」

 

「……うん」

 

 

天空に並ぶ燃える様な月と何処までも続く星の海の下を二人の幼子が走る……

 

 

 

 

 

 

幻の夜は過ぎて行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん……おはよ~……」

 

「おはようルナ、顔洗って来な」

 

翌日、紅魔館でルナは寝ぼけ眼を擦りながら目覚めた

 

「後で話があるんだけど時間有る?」

 

「片付け終わったらな、ほら……お前も準備して早く手伝え」

 

「うん……レックスは?」

 

「まだ寝惚けてんのか?レックスは帰っただろ?何言ってんだ」

 

「……え?」

 

ルナは信じられない顔で妹紅を見る

 

「帰った……って?」

 

「ああ、今朝に紫が元の世界に帰したんだ……お別れしたんだろ?」

 

「ウソ……ウソだッ!」

 

「おい!ルナ!?」

 

ルナは紅魔館を飛び出して行く

 

(ウソだそんなの!お母さんがからかってるだけだよ!だって……約束したもん!)

 

レックスを探しルナは幻想郷を探し回る

 

しかし、何処を探しても誰に聞いても見つからない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……どうして……」

 

ルナは居た

 

昨日の夜にレックスと話した丘の頂に

 

「酷いよ……レックス……」

 

膝を抱えて落ち込むルナの背に誰かが降り立った

 

「こんな場所に居たのかルナ……探したぞ」

 

「バーンさん……」

 

何故バーンが自分を探していたのか等気になる事はあったが裏切られた事の方が悲しいルナは気にせずまた塞ぎ込む

 

「その様子ではお前には言わなかったようだな」

 

バーンは横に並ぶ

 

「レックスに今朝立てる様に頼まれていた、紫に話を通したのは余だ」

 

懐から取り出した物をルナに向ける

 

「お前にだ、預かっていた」

 

「手紙……レックス……から……?」

 

手紙を受け取りルナは読む

 

 

 

 

 

""

 嘘ついてゴメン

 

 君の優しさはとても嬉しかったよ

 

 だけど君は連れていけない

 だからこうするしかなかった、こうしなきゃ君は絶対に

 ついて来ただろうから……

 

 ルナが他の人より強くないからじゃないんだ

 オレの世界のオレの事にルナを巻き込みたくなかったんだ

 

 それにオレは弱いから、君を守りきる自信もなかったんだ

 本当にゴメン……

 

 でも……代わりに約束させてくれ!

 

 父さんと母さんを助けて……

 君を守りきれるくらい強くなったら……

 

 会いに行くから! 

 

 いつの日か絶対に……待っててくれ!

 

 

 だからサヨナラ……

 

 

 また会おう……いつか……星の海で……

 

                         ""

 

 

 

 

 

「……いつか星の海で……」

 

読み終えたルナはポツリと呟く

 

「歳下のくせに……ホント……生意気……」

 

見せない様に俯いていたがバーンは気付いていた

 

「出会いと別れ、これも経験だ、生きていればこの先幾度も繰り返す避けれぬ運命……それを繰り返しながら人は心を強くしていき、成長していく」

 

慰めではない

 

当然の理だと教えているのだ

 

「月の番いは見つかったか?」

 

「まだよくわからないけど……たぶん、見つかりました」

 

「そうか……ならば強くなれルナ、いつかの日に……守られるだけではないと胸を張れる様に」

 

「……はいッ!」

 

ルナは立ち上がり、辛さを振り切る様に走っていく

 

 

「……」

 

残されたバーンは幻想郷を見回しながら思う

 

(数百年……レックスの居る世界はエスタークが生きた時代から数百年も経っている)

 

イブールは言っていた、地獄の帝王の存在が数百年前だと

 

(おそらく幻想郷との関係が絶たれた故に時間の流れが変わったのだ、こちらは15年だが向こうは数百年……)

 

それを考えるとルナがレックスと再会するのは限りなく不可能に近いと思った、幻想郷の1年が向こうでは何十年になるかわからないのだから

 

(だが……大丈夫だろう)

 

バーンはそう確信していた

 

(今は繋がっている……幼き雛鳥と天空の勇者が繋げた……絆が……)

 

身を翻し紅魔館へ戻っていく

 

「いつか星の海で……か……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

""時は流れていく""

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「また会ったなイブール……今度は逃がさない!」

 

異界のセントベレスと呼ばれる渓谷に囲まれた山の頂上に光の教団の本拠地は有る

 

「またお前か……厄介な奴じゃよ、お前は!!」

 

そこで因縁深き教祖と勇者は再び相対していた

 

「今度こそ……母さんを返してもらう!」

 

勇者は助けた父と共に……因縁のケリを着けに来たのだ

 

「グハハ!あの時とは違うぞ!ここにあの幻想達は居やせん……お前等程度捻り潰してくれるわぁ!!」

 

「勝つのはオレ達だ!行くぞ!イブゥゥゥゥルッ!!」

 

勇者は歩む、そこへ辿り着く為の最初の1歩を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でぇやあああああッ!!」

 

若き少女が意思を吼える

 

 

 

「ふぅ……ちょっと休憩にしましょうルナ」

 

「はぁ……ふぅ……ハイ!輝夜さん!」

 

沢山の幻想から可愛がられる不死鳥の雛鳥

 

「この2年でだいぶ強くなったわね、魔法と戦闘術……知恵も付いてきたし」

 

「ありがとうございます!」

 

「そういえば……貴方って能力あるの?」

 

「今までずっと使ってましたよ……「魔力を火に変え、操る程度の能力」です!」

 

「ああ……だから妹紅みたいに出来るのね、それで魔法も火だけ異常に上手いのね、納得」

 

「まぁそれもパチュリーさんが「私と魔理沙が教えてるのに火以外が上達しないのはいくら何でもおかしい」って調べてくれたからわかったんですけどね……」

 

「そうだったの」

 

「私は無意識で使ってたから制御するのに苦労しましたよ……でもお陰で他の魔法もしっかり使える様になって火の扱いはもっと良くなったから結果オーライです!」

 

「ホント、光の教団の時に比べたら見違えたものね……私もそのうち追い抜かれちゃうかも」

 

「今日越えます!さぁ輝夜さん!もう1回お願いします!」

 

「生意気な……まだあんたに負けるほど耄碌してないわ、戦闘も囲碁もね!そういう事は私に1回でも能力を使わせてから言いなさい!」

 

「ハイッ!強くなるって……私は決めたんです!だから……お願いします!」

 

月の名を冠した雛鳥は成長していく

 

今も頑張っているだろう太陽を想いながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遂にここまで来たか、伝説の勇者とその一族の者達よ……私が誰であるかそなた達にはすでに分かっておろう……」

 

障気と邪悪な魔力が充満する魔界の最奥に響く重く、冷たい王魔の声

 

「魔界の王にして王の中の王、ミルドラースとは私の事だ」

 

全ての元凶がその姿を現す

 

「ッ……なんて威圧感だ……!?」

 

「これが……大魔王……!?」

 

父と母は王の強大さに狼狽え後退る

 

「大丈夫……」

 

そんな二人の前に逆に一歩踏み出す少年が居た

 

「あんなヤツ……全然怖くないよ!」

 

幻想が鍛え直したその伝説の竜剣を構え、微笑む

 

「……まったく、どうしてお前はそんなに強いんだ……」

 

「ねぇあなた……レックスだけよ、大魔王が相手なのにちっとも恐れないなんて……」

 

自分達の子に呆れてしまう、何故そこまで強いのか不思議だから

 

「だって……」

 

勇者は笑いながら前を向く

 

(オレが知ってる人達は……もっと強くて……もっと怖かったから!)

 

そして一番に駆けていった

 

 

「さあ来るがよい……私が魔界の王たる所以を見せてやろう」

 

「これが最後だ……絶対勝つ!!」

 

 

天空の勇者の最終決戦

 

 

(だから待ってて……ルナ……!!)

 

 

いつかへ至る最後の戦い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「僕の星に舞い降りる……君をいつも夢で見る……」

 

光る星達と燃える様な月の輝く夜空が広がる丘の頂で一人の女性が歌う

 

「今も一人空を見上げて……僕を探しているの……?」

 

その女性は既に少女と言うには大人過ぎた、雛鳥と呼ばれたあの頃の面影はもう無く、王家の血を引くに相応しい麗しい美女となっていた

 

「会いたい気持ちなら……きっとそうさ負けてない……」

 

あれから10年

 

少女だった女性は毎日ここで待っていた

 

「銀河に飛び立つ……翼、僕らに届け……て……」

 

不意に歌が止まり、女性は顔を下げる

 

「もう……会えないのかな……」

 

悲しそうに俯きながら女性は帰ろうと踵を返す

 

 

「ルナ……」

 

 

その時、声が掛けられた

 

「……えっ」

 

女性は顔を上げる

 

「ゴメン……遅くなった」

 

そこには青年が立っていた

 

「約束……果たしに来たよ!」

 

気恥ずかしそうに鼻を掻きながら……笑顔を女性に向ける

 

 

「レックス!!」

 

 

その瞬間、弾ける様に女性は飛び出し……青年に抱きついた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ""大人になる頃……いつか星の海で……""

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これにてルナ外伝は終わりです。
サブタイトルとルナが歌っていた歌はあるアニメのEDから取ってあります、わかる人いるかな?

外伝なのに最後はバーン様が活躍する事になりプチタークが悲惨な目に会いましたがまぁ仕方ない、この作品の進化の秘法の設定的にしょうがない事でした、悪いのはイブール、ひいてはミルドラースです。

予想以上に文量が増えて約2万かよと焦りましたが何とか一段落、次はいよいよエピローグです。
更新時期は11月16日を予定しております、何故この日なのかはずっと読んでくれていた方にはわかると思います。

次でいよいよ最後ですが次回も頑張ります!

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