東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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-外伝・天空の花婿- 導かれし者達の練習曲(エチュード)

 

 

-魔界・廃城前-

 

「みんな揃ってるわね?」

 

「いつでもいけるぜ!」

 

レミリアの確認に集まった者達は声をあげる

 

 

魔界に来たのは11人

 

レックスとルナを筆頭にレミリア、フラン、妹紅、チルノ、魔理沙、パチュリー、ロラン、ロン、そしてバーン

 

大妖精は地上で正邪の情報にあった帰還に博麗の巫女を狙うのを受けて霊夢が居るから全く必要無いが、一応、博麗神社に行ってくれる事になっている、それと暇な妖怪とか

 

里や各施設にも当然の様に最低一人は腕利きが居て襲撃に備えている

 

 

「正邪が言うには博麗神社に100人程度向かうとの事、それと100人が陽動に各所を攻めるみたい」

 

「じゃあこっちは少なくて100多くて300か」

 

「そうよ」

 

「そうか」

 

まるで遠足に来たみたいにレミリア達は気楽にしている、ルナとレックスに聞こえない様に

 

 

「坊主」

 

ロンが預かっていた天空の剣をレックスに投げ渡す

 

「説明するより見た方が早い、見てみろ」

 

レックスが鞘から抜き取る

 

「凄い……」

 

感嘆の声が漏れる

 

とても丁寧丹念に鍛え直された天空の剣は明らかに輝きが違っている

 

「その剣は往年の力を取り戻した、ロトの剣にも劣らぬ伝説の竜剣、その真の力を、な」

 

「ありがとうございます!」

 

レックスは天空の剣を装備した

 

おしゃれが上がった

 

「……ん?」

 

「昔にやった跡があってな、ついでにやってやった」

 

「はぁ……」

 

「それはそうとお前、その剣をちゃんと理解しているか?」

 

「どういう事でしょう?」

 

「その剣には……」

 

 

 

「うー緊張するなぁ……」

 

ロンとレックスと離れた場所でルナが武者震いをしている

 

「そうか?」

 

「だってお母さん!私とレックスがイブールって奴を倒すんだよ!?」

 

「大丈夫だろ?」

 

「わかんないよそんなの……」

 

レックスと違いルナは今日の戦いの目的を聞かされている、幻想郷の強さを知らないレックスと違い充分に理解しているルナには伝えられているのだ

 

「何がそんなに心配なんだ?よくわかんねぇ」

 

「仕方ないよ妹紅、わからないのは僕等が強いからさ」

 

ロランがルナの肩に手を置く

 

「聞いたけどレックス君はルナより歳が下なんだってね」

 

「うん……8歳って言ってたから私より2歳下だよ」

 

「だったらルナはお姉さんだ、ルナがレックス君をお姉さんとして導いてあげなきゃならない、わかるかい?」

 

「わ、わかってるよ!」

 

「本当にそうかい?ならこの戦いの目的はなんだったか言ってみてくれ」

 

「イブールって言うのを倒して光の教団を退治するんでしょ?」

 

「正解だけどその前に1つ有る、レックス君の御両親の事をどうにかしなきゃならない」

 

「それは倒した後でも良いんじゃないの?」

 

「……今のレックス君は心に余裕が無い状態なんだ、吐かせる前に弾みで殺してしまうかもしれない、それどころか焦りから辿り着く前に罠に掛かるかもしれない」

 

「あ……」 

 

「わかるかい?一番の目的はレックス君の御両親、目的を履き違えてはダメだ、ルナはそうならない様にフォローしてあげなきゃならない、それがレックス君と一緒に戦うお姉さんの役割だよ」

 

これはただ光の教団を殲滅すれば良い話ではない、真の目的はレックスの両親の救出の手掛かりを得る事にある

 

故に慎重な行動が要求される

 

「うん……そう、だよね、ごめんなさい……ちゃんと理解してなかった」

 

ルナは考えが浅はかだった事を認め反省する

 

「わかったなら良いんだ、じゃあレックス君の事は頼んだよ」

 

「うん!頑張る!」

 

元気に頷いてルナはレックスの元へ走っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ではそろそろ行きましょうか、レックス」

 

レミリアがレックスを呼ぶ

 

「突入するのは貴方とルナ、妹紅、ロラン、魔理沙、パチュリーよ」

 

「来たついでだ、俺も行ってやろうか?妖夢は里に行ってて暇だしな」

 

「そう?なら追加でロンの7人よ」

 

「……なんか適当ですね」

 

「不満?」

 

「いえ……そういう訳では……」

 

「なら続けるわ、私を含めた残りの4人は廃城の四方を受け持って逃げてくる塵を頂点の名において皆殺しにしてあげるから安心して戦いなさい、もし大物が来たら生かしとくから」

 

「……物騒ですね」

 

「そうかしら?まっそんな訳で外は気にしなくていいわ」

 

「ありがとうございます」

 

「それでイブールなんだけど地下に居るわ」

 

「地下……ですか?最上階じゃなくてですか?」

 

「敵も馬鹿ではないって事ね、見知らぬ土地だし天守なんて狙われやすい場所を嫌ったんでしょ」

 

「はぁ……」

 

「こんな所ね、さぁ行ってきなさい」

 

「はい!」

 

意気込んだレックスは剣を構えて先頭に立つ

 

 

「行きましょう!!」

 

「了解だぜ!!」

 

 

直後、魔理沙の八卦炉が火を吹いた

 

 

ドーン……

 

 

廃城は更地になった

 

 

「え……?」

 

何が起きたのか理解出来ないレックスが固まっている

 

「この手に限るぜ!」

 

魔理沙はドヤ顔をしている

 

「ちょっと何やってるの魔理沙!?」

 

「んだよパチュリー、イブールは地下なんだろ?なら城は別に良いじゃねぇか、雑魚相手にすんのも面倒だしこの方が楽だろ?」

 

「そうじゃない!それでは経験させる意味が無いでしょ!」

 

「あっやべっ!?忘れてたぜ……どうするパチュリー!?」

 

「もうおバカ!ちょっとレックスの気を引きなさい!」

 

「任せろ!あっ!あんな所にはぐれメタルキングが居るぜレックス!ぶっ殺せ!」

 

「え……はぐれメタルキング……?」

 

無理矢理体の向きを変えられたレックスの視界には何もない

 

「何もいないけど……!!?」

 

レックスが振り返ると廃城は元に戻っていた

 

「あれ……?え……?あれ……?」

 

「悪い、見間違いだったぜ!ん?どうしたレックス?」

 

「いや……城が戻って……」

 

「何言ってんだお前?まだ寝坊助さんか?ザメハしてやろうか?」

 

「???」

 

レックスは不思議に首を傾げている

 

「何やったんだパチュリー?」

 

「私が作った使い捨ての時の砂を使ったのよ、万が一に備えて持ってきたのにいきなり使う事になるなんて……」

 

戦闘開始直後に戻す不可思議な砂、それを使って事なきを得た

 

「行こっレックス!!」

 

「う、うん……わかった!」

 

ルナに引っ張られたレックスを筆頭に突入組が城へ向かっていく

 

「私達も行きましょうか」

 

「うむ」

 

「頑張ろチルノ!」

 

「あたいに任せときなさい!」

 

最強の4人もゆっくりと進みだす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-人間の里-

 

「なんだお前達は!?」

 

里の入口で自警団が現れた魔物に槍を構える

 

「我等は光の教団、魔界の神・ミルドラース様の代理人、神罰の地上代行者……」

 

怪しげなフードを被る魔物は狂信的な瞳を見せながら宣言する

 

「我等の使命は我が神に逆らう愚者をその肉の最後の一片までも絶滅すること」

 

博麗神社が本命だとわからせない為の陽動部隊、数は少ないがそれでも暴れられたら犠牲は出かねない

 

「AMEN……!!」

 

凶刃が降り注ぐ

 

 

 

「待てぃ!!」

 

 

 

勇ましい女声が響き渡る

 

 

「悪しき星が天に満ちる時、大いなる流れ星が現れる……その真実の前に悪しき星は光を失い、やがて落ちる……人、それを……『裁き』という!!」

 

 

物見櫓の屋根に太陽の後光を受けて立つ少女

 

 

「ミルドラース様に逆らう愚か者め……名を名乗れ!?」

 

 

「貴様等に名乗る名前は無い!!」

 

 

飛び降りた少女、妖夢は教団員の前に立ち塞がる

 

「何かと思えば小娘か……貴様ごときが我等を止められるとでも思っているのか?」

 

「……そうですね」

 

妖夢の体が一瞬ぶれる

 

「!!?」

 

次の瞬間、魔物はリーダー格を残して全員倒れた

 

「なっ……!?」

 

驚愕するリーダー格の真横には既に妖夢が居た

 

「勿論思っていますよ」

 

見えぬ楼観剣の一閃

 

「我に断てぬもの無し!」

 

胴が泣き別れ絶命したリーダー格を背に妖夢は華麗に楼観剣を回しながら鞘に納めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-命蓮寺-

 

「終わったわよ白蓮」

 

「ありがとうございます風見幽香」

 

無惨にくびり殺された魔物を背に無傷の幽香は優雅に佇む

 

「お前一人で充分だったんじゃないの?」

 

「そうですがまぁそう仰らず……」

 

「ふん……」

 

出されたお茶を共に飲む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-妖怪の山-

 

「死んでもらいます」

 

ここにも来ている

 

「来ました来ましたー!皆さん出番ですよー!」

 

文の号令で山中の妖怪が一気に集まり教団員を囲む

 

「やんのかコラァ!」

 

「おうおう!粋がるじゃねぇかおぉん?」

 

「オレのツレ誘拐しやがって……生きて帰れると思うなよクソ共がぁ!!」

 

10倍以上の数に囲まれ教団員達は絶望した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-紅魔館-

 

「よっと!」

 

瞬時に美鈴が数人倒す

 

「死ね」

 

ミストも軽く刺殺する

 

「さようなら」

 

ウォルターも細切れにする

 

「朝飯前ですねぇ」

 

「違いない」

 

「紅茶を入れて来ましょう」

 

何も出来ず全滅した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-博麗神社-

 

「賽銭入れたら命だけは生かしたげるけどどうする?」

 

「貴様にやる布施などあるか露出巫女めが!命を金で買うその浅ましさ万死に値する!」

 

「うっさいわ!」

 

霊夢の一撃で魔物は消された

 

「そっちは大丈夫ですか龍神様~!」

 

「大丈夫だよ靈夢~!」

 

「問題無いですね霊夢様」

 

「当然ね……大妖精も居るし」

 

霊夢が気の毒そうに彼方を見る

 

「ゆ、許してください……」

 

ズタズタの教団員が命乞いをしている

 

「ダメです」

 

大妖精は告げる

 

「お願いします……」

 

「無理です」

 

激怒している彼女に慈悲など微塵も存在しない

 

「どうか……何卒……」

 

「絶対に許しません」

 

幻想郷で怒ると一番怖いと言われる今の彼女はどこまでも冷たい、普段の大人しさの反動か完全に怒った彼女には必死の懺悔すら心に響く事は無い

 

「もう消えてください」

 

風の膜が教団員達を包み、一瞬で圧縮された赤い血の風泡を空に打ち上げた

 

「あんたって何気にエグイわよね」

 

「そうですかね?」

 

若干引いている霊夢へ首を傾げた大妖精はもう残り少ない教団員達に顔を向けた

 

「こっちは全っ然っ!大丈夫、あっちも……大丈夫じゃない光景がこっちより思い浮かばないわね」

 

本命である博麗神社でさえこの有り様、軽く戦っても既に残り僅か

 

「ガンバレガンバレーっと……あー応援もしんどいねぇ」

 

そんな中、気だるそうに寝転んでやる気無い声援をする鬼が居た

 

「……萃香、あんた何しに来たの?手伝いに来てくれたんじゃないの?」

 

「んあ~……そのつもりだったんだけどねぇ……あんまりに雑魚だからやる気なくなっちゃったのさ……あーしんど」

 

「まぁ良いけど……ね!」

 

向かってくる魔物を一撃で倒し霊夢は次へ向かう

 

幻想郷全て問題無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-魔界・廃城1階-

 

「うりゃあ!」

 

入口の見張りを斬り倒すレックス

 

「ていっ!」

 

同じくルナ

 

「……凄く強くなってる」

 

天空の剣の切れ味にレックスは思わず呟く

 

「凄い……」

 

今の敵は今までなら最低2回は切らないと倒せなかった筈の敵を一撃だったのだ

 

「それが本来の威力だ、オレに預けて正解だっただろう?」

 

「ありがとうございますロン・ベルクさん……これならやれます!」

 

「気をつけろ、武器を過信して死んだ奴をオレはごまんと見ている、大事なのは使い手だ、お前がヘボでないと願っている」

 

「わかりました……」

 

進んでいくと地下へ向かう階段を見つける

 

「こっからは二手に別れるぜ!私とパチュリーは上に向かう!」

 

「一階から最上階まで制圧して挟撃を防ぐわ」

 

「お願いします!行きましょう!」

 

地下へレックスにルナと妹紅とロランとロンが続いていく

 

 

 

「うっし、ほんじゃやったりますかね」

 

「ええ、でも正直面倒だからまた更地にしても良いわよ?」

 

「おっ!わかってんなパチュリー!よしよし任せとけ!」

 

魔理沙は八卦炉を頭上に掲げる

 

「弾幕はパワーだぜ!!」

 

マスタースパークが撃たれ……

 

 

「待てやゴルァ!!」

 

 

なかった

 

奥から出てきた少女が怒鳴り込んだからだ

 

「お?正邪じゃねぇか!スパイお疲れさん!」

 

「お疲れさん!じゃねぇよ!このクソボケ!!」

 

正邪はブチギレていた

 

「そんなに怒ってどうしたの?あの日?」

 

「コイツラァ……!お前等が考え無しに城吹き飛ばしたから危うく私は死にかけたんだぞ!」

 

「あーそれは……時の砂で戻ったし良いじゃない」

 

「そういう問題じゃ……!ふざけやがってーーー!!」

 

正邪が凄むと奥から教団員がわらわら出てきた

 

「うおっ!裏切りか正邪お前!」

 

「戻って来なさーい!」

 

「断る!私は常に弱い者の味方だ!つか裏切ったのはテメェ等だろうがぁぁぁぁ!!」

 

正邪を先頭に襲いかかってくる教団員達

 

「おいおい、裏切りだぜパチュリー……こりゃもうしょうがないよなぁ?」

 

「そうね、裏切られたならしょうがないわよ……ねぇ?」

 

二天の魔女は嫌らしい笑みを浮かべ合う

 

「裏切り者には……」

 

「お灸を据えてやるぜ!」

 

「テメェ等が言うんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

裏切り?の戦闘が開始された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-廃城地下・最奥-

 

「侵入者が現れましたイブール様」

 

「……何?」

 

呑気に酒を飲んでいたイブールは報告に眉を細めた

 

「幻想郷の者が数名侵入しこちらに向かっております、中にはあの小僧の姿もありました」

 

「協力を頼んだか……小賢しい、お前達で対処せい」

 

「畏まりました」

 

酒に浸る一時を邪魔されたイブールは不機嫌そうにまた酒を飲もうとする

 

「それと……」

 

「まだ何かあるのか?」

 

更に不機嫌になったイブールは睨みつける様に教団員に問う

 

「それが……地上へ行かせた者達は失敗、全滅でございます」

 

「……何じゃと?」

 

それにはイブールも信じられない顔をしている

 

「如何しましょうか?」

 

「……暫し待て」

 

イブールは考えた後、念じて大きな壺を出現させた

 

「試運転がてらコイツを暴れさせてやろう、コイツが蹂躙した後に博麗の巫女、そして居れば八雲紫とやらを捕まえるのじゃ」

 

「承知しました、では私達は先に侵入者を始末してきます」

 

教団員が出ていき一人残されたイブールは壺を転送する

 

「ちっ、使えん奴等め……まぁいい、大魔王に知られぬ機会を得たと考えれば……では見せてもらうとしようか、伝説の大魔獣の力を……」

 

愉快気な笑みを浮かべ呪文を地上に送った壺に向かって数分に渡り唱える

 

「大魔王に届く刃となるかを……な」

 

詠唱が終わり酒を飲む

 

 

その直後だった

 

 

「イブールッ!!」

 

 

レックスとルナが現れたのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前

 

-廃城地下-

 

「地下は一本道みたいだね」

 

回廊を走る5人、疎らに襲ってくる教団員を蹴散らしながら開けた部屋に出る

 

「そこまでです!」

 

そこにはイブールに命じられた教団員が大量に待ち受けていた

 

「ここで死ね愚者共めが!」

 

有無を言わさず呪文を放ってくる

 

「くそっ!?」

 

避けれないと見たレックスはルナを庇う様に天空の盾を構える

 

 

ズオッ!

 

 

二人の前に立った者から出た剣圧が呪文の全てを薙ぎ払った

 

「大丈夫かい?」

 

「ロランさん!」

 

破壊神を破壊した伝説の勇者、ロランが二人へ振り向く

 

「レックス君……」

 

微笑んだロランはレックスの頭にポンと手を置く

 

「見ているんだ」

 

敵へ向いたロランは王者のみが持てる神代の剣、ロトの剣を構える

 

 

「オオオオオッ!!」

 

 

破壊剣一閃!

 

力を込めた一振りは衝撃波となって教団員達の群に風穴を空ける

 

「……ッ!?」

 

凄まじさにレックスは言葉すら出ない、それほど強烈な一撃だった

 

……最もロランにとっては軽く振ったに過ぎない、本気なら地下が崩壊して生き埋めに成りかねない威力を素で出せるのだから

 

「どうだい?」

 

ロランの目は言っていた

 

此処まで来いと、勇者として自分の居る域まで来いと、期待していると

 

「……いつか、必ず追い付きます!」

 

偉大な先達からの洗礼に天空の末裔たるレックスは力強く答えた

 

「その意気だ、よし!じゃあ行って来い!」

 

ロトの剣を自身が風穴を空けて作った先へ進む通路へ向ける

 

「はいッ!」

 

「行くよレックス!」

 

ルナと共に走っていく

 

「レックス君を頼んだよルナ……」

 

見送ったロランはゆっくりと戻り来た方の通路の前に立つ

 

「俺も交ぜろ」

 

ロンも並び星皇剣を抜く

 

「こっちは任せろ!」

 

先に進む通路に突然炎が吹き上がり炎壁となって塞ぎ、妹紅が立っている

 

「イブール様が!?」

 

教祖が危険だと邪魔者を排除せんと両方に雪崩れこんでいく

 

「悪いな、娘の晴れ舞台でね……邪魔する奴は……」

 

3人の声が重なる

 

 

「焼き殺す!」「破壊する!」「斬り殺してやる!」

 

 

「「「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」」」

 

 

直後に響く教団員の雄叫び

 

 

カッ!

 

 

閃光が瞬いた次の光景

 

「警告はした」

 

灰も残さず優雅に翼を広げている不死鳥

 

「終わったね」

 

触れた者を区別無く粉々に破壊した血の勇者

 

「つまらん」

 

斬った全てを等しく細切れに変えたかつて魔界最強剣士だった幻想の名工

 

 

まさに瞬殺であった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、じゃあ様子見に行くか」

 

「そうだね」

 

「ついでだ、付き合ってやる」

 

二人の後を追おうとした時、ロンが何かに気づいた

 

「待て!……ククッ!こいつは驚きだ」

 

「どうしたんだ?……なんだそれ?石……?金属?」

 

「金属だ妹紅、どうやらあの雑魚の中にメタルキングが混じっていたらしい、それでもこいつは滅多に無いがな」

 

落ちている金属を手に持ち見せる

 

「……ロンさん、これってもしかして……」

 

「気づいたかロラン、その通りだ……御丁寧に2つも有りやがる、こんな事を目の当たりにするとこう思わずにはいられんな……やはりあいつは「運命」に愛されている、と……」

 

王が望む2つの金属を見つめながらロンは我が事の様に微笑む

 

「あのレミリアが奥さんだからな、当然っちゃ当然か」

 

「だね、じゃあ次は愛娘とボーイフレンドの冒険を見に行こう」

 

「幻想郷が育てるごった煮のキメラ娘……さてどんなものか」

 

「皆が可愛がってくれてる娘を変な風に言うな!」

 

先へ進む……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-博麗神社-

 

「お団子美味しいですね~」

 

「だねぇ~酒が進んでしょうがないねぇ~私ゃな~んもしてないのにねぇ~」

 

片付いたそこでは早くも酒盛りが行われていた

 

「……!?」

 

靈夢が気付く

 

「気付きましたか霊夢様!龍神様!」

 

「ええ、気付いたわ……どこかで邪気が溢れたわね」

 

「なんかの封印が解かれたっぽいねこの感じ……ちょっとヤバめかな」

 

「どうしました皆さん?」

 

「んあ~ん?」

 

萃香が間抜けな声を出した直後

 

 

ドッゴーン!!

 

 

大地震が起きて全員その場で跳ねた

 

「なにっ!?なんなの!?」

 

「あ、あ……霊夢様……アレ……」

 

靈夢が指差す方を見て、全員目を疑った

 

「怪獣……?」

 

「いえ、魔物ですよアレ……」

 

「はわわわわ……!?」

 

それは妖怪の山と同じくらい巨大な魔物であった

 

 

「ここどこだ……?……そうだルドルフ!ルドルフはどこだ……!!」

 

この魔物の名はブオーン

 

レックスの居る世界で150年前に封印された凶悪な魔獣

 

山程の巨躯を持つ古の魔物、ある人物に封魔の壺に封印されていたのだがそれを聞き付けたイブールが入手し幻想郷で復活したのだ

 

「バーンさんの鬼眼王並みの大きさですぅ……」

 

「歩くだけで地震が起きてるぞ!誰かウルトラマン呼んでこい!」

 

あまりにあんまりな怪物の出現に大妖精すら焦っている

 

 

 

「ブオォォォォォォォォォォォォン!!!」

 

 

 

ブオーンが咆哮をあげ一気に進みだした

 

「ちょっと待って……あの方向、里の方よ!?」

 

「あんなの行ったら一瞬で壊滅ですよ!?」

 

危機的事態に気づいた4人はどうするか混乱している

 

「……おぉ~」

 

その博麗神社の中でただ一人だけ、笑みを浮かべる者が居た

 

「よっしゃあ!!」

 

勢い良く立ち上がった鬼、萃香である

 

「アレは私がやる!!」

 

笑みのまま飛びだして行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こ、これはなんとも……」

 

里に居た妖夢もブオーンの体躯に焦りを見せていた

 

(ここまで巨大な敵に楼観剣ではいくら斬れても致命傷にはならない……天薙ぎの太刀しか……)

 

対抗策を考えていると横に幽香が降り立った

 

「ボサッとしてないで行くわよ、早くなさい」

 

「……!助かります!」

 

幽香と二人がかりなら押し切れると判断した妖夢は剣を構える

 

 

「待ちなァ!こいつは私の獲物と決めたんだ!手出し無用さね!」

 

 

そこに威風堂々と萃香が現れ二人を制し、宣言する

 

 

「鬼神「ミッシングパープルフルパワー」!!」

 

 

ブオーンと同体躯まで巨大化した萃香が幻想郷を揺らした

 

「おうおう!いっちょ!力比べと洒落混もうじゃないか!」

 

挑発的な笑顔でかかってこいと指をチョイチョイする萃香

 

「お前誰だ……邪魔するなら殺す!」

 

 

ドゴオッ!

 

 

ブオーンの拳が萃香を打つ

 

 

ズドオッ!

 

 

萃香が殴り返す

 

「効いたよ……少しね」

 

口から血を流しながらも楽し気に萃香は笑っている

 

「さぁとことんやろうじゃないか!なぁ!」

 

「……生意気な奴め!」

 

巨獣と巨鬼の祭りが始まった

 

 

 

 

 

 

 

「怪獣大決戦ね……」

 

フッ、と幽香は笑うと浮かび上がる

 

「加勢ですか?」

 

「違う、帰るのよ……萃香は好きにやらしときなさい、ソルの時は消化不良でストレス溜まってたから丁度良いでしょう」

 

「はぁ……わかりました、ですが危ないので慧音さんに里を隠す様に言ってきますね」

 

「そうしなさい、じゃあね」

 

小さく手を振って幽香は帰って行った

 

「……私も帰ろうかなぁ」

 

妖夢も里に入って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-廃城地下・最奥-

 

「追い詰めたぞイブール!父さんと母さんの居場所を喋ってもらう!」

 

遂に対峙したレックスとイブール

 

「良い所じゃったのに……ちっ、使えん奴等じゃ……」

 

鬱陶しそうにイブールは二人を睨む

 

「それに来たのはガキ二人とは……まぁよい……儂に群がる禍根は纏めて叩いて砕いてやるとしよう」

 

杖を持ち、司祭服を身に纏う光の教団の大教祖・イブールが立ち上がった

 

「来るよレックス!気をつけてね!」

 

「わかってるよ!行くぞルナ!」

 

構える二人にイブールは杖を突き出す

 

「イオナズン!」

 

魔法球が範囲を抑えた爆発を起こす

 

「ムッ!」

 

爆煙の左右からレックスとルナが飛び出てくる

 

「うおおおッ!」

 

レックスが斬りかかる

 

「ふん……」

 

それを魔力を込めた杖で防ぎ、次いで来るルナに向かって口から輝く息を吐く

 

「うあッ!?」

 

勢いあるブレスを叩きこまれルナは吹き飛ばされる

 

「ルナッ!……ウグッ!?」

 

直後にレックスは蹴り飛ばされる

 

「ガキの割にはやるではないか、ガキの割には……のう」

 

軽く一蹴したイブールは得意気に見下している

 

「クソッ!強い……ルナ!大丈夫か!」

 

「まだまだ……平気だよ!」

 

互いを確認しまたイブールに挑む

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「思ったより強いなイブールって奴」

 

離れた物陰からこっそり見ている妹紅は呟いた

 

「だね……強過ぎず弱過ぎず……二人には丁度良い強さだと思うよ」

 

更にロラン

 

「……馬鹿な!?アイツ何やってやがる!?」

 

そしてロン……だったが様子がおかしい

 

「クロコダイン……あんな妙な服を着て何してやがる……」

 

イブールはロンの知人だった

 

「は?知り合いなのか?」

 

「ああ……ワニの魔族でな……いや待て、人違いだった、クロコダインはピンクのワニだった、それにあいつが光の教団なんて真似する筈が無い」

 

「何だそりゃ」

 

知人ではなかった、似た種族だったから見間違えただけであった

 

「騒がせて悪いな……それで、どう見る?」

 

「厳しいでしょうね、イブールはあの二人が二人がかりより強いですから」

 

「そこまでデカイ差じゃないからチャンスを活かせれば……ってところかな、このぐらいだとまだ道具だとか戦法で簡単に覆るレベルだろうし」

 

「ふむ……俺も同意見だ」

 

静かに戦いを見守る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ベギラマ!」

 

「ヒャダルコ!」

 

二人の呪文がイブールに向かう

 

「ぬぅ……!?」

 

閃熱と氷牙の同時攻撃がイブールを飲み込む

 

「大丈夫かルナ……ベホイミ!」

 

「ありがとレックス……お返しにさっきもやったけどもう一回スクルト!」

 

回復と補助で二人は助け合いながら戦っている

 

「ええい鬱陶しい!」

 

閃熱と氷牙を払い退けたイブールが輝く息を吐く

 

「フバーハ!」

 

ブレス攻撃を和らげる光の膜が包み込む

 

「でぇりゃあああッ!」

 

輝く息を突き抜け距離を詰めたルナがメラゾーマを放つ

 

「ぐおっ!?」

 

直撃したイブールはダメージを受けよろめく

 

「……この」

 

青筋を浮かべ手をかざす

 

「小賢しいガキ共めが!!」

 

手から凍てつく冷気が迸り二人を突き抜けた

 

「スクルトもフバーハも消えた!?きゃあ!?」

 

驚いて隙だらけのルナを杖で殴り飛ばしたイブールはそのままレックスに突進する

 

「くっ……ライ!」

 

自分の補助魔法も消えているレックスは呪文で迎撃しようと構える

 

「……フンッ!」

 

「デイーン!!」

 

聖なる雷がイブールに落ちた

 

「ぐああっ!?」

 

その直後に落ちた雷がレックスに軌道を変え、直撃した

 

「ぐぅ……まさ……か……」

 

「そう、マホカンタじゃ小僧」

 

膝をつくレックスへ光の壁を張ったイブールが杖を振り下ろす

 

「ぐああ……うぅっ!?」

 

頭を殴られ呻くレックスをイブールは更に蹴り、掴み上げる

 

「どこまでもまとわり付く鬱陶しい蝿が」

 

「ぎっ……アアアアアアッ!!?」

 

魔術で激痛を与えられたレックスの悲鳴が地下に反響する

 

「レックス!!」

 

「……ムッ!?」

 

ルナが迫って来たと思い迎撃しようとしたイブールだったが先程までとは異なっていたルナの姿を見て咄嗟にレックスを放し飛び退いた

 

「一人にしてゴメン!大丈夫!?」

 

火を纏うルナがレックスに寄り添う

 

「うぅ……くっ!?」

 

「……大丈夫じゃないよね、ホントにゴメン……ちょっと休んで回復してて!」

 

苦しむレックスを背にルナはイブールに対峙する

 

「イブール!」

 

揺らめいていた火が収束していき形を定める

 

「私が相手だ!」

 

母である皇帝不死鳥の子であると証明する火の鳥

 

ルナは出せる全力でレックスを守る為に立つ

 

「お前のような小娘がこのイブールを一人で相手にするじゃと?」

 

子どもの戯言にイブールは嘲笑う様に魔力で威圧する

 

「私は……本気で言ってんだ!!」

 

ルナでは敵わないイブールからの圧

 

それにも関わらずルナは一歩も退かない

 

(怖くない……全然、怖くない!)

 

前なら足がすくんでいたかもしれない、だが今は全くと言って良い程、恐怖は無かった

 

(もっと……強くて怖い人達を……知ってるから!)

 

 

こんな奴、お母さんや幻想郷の強い人達に比べたら全然強くない!

 

こんな奴!あの二人に比べたらちっとも怖くない!!

 

 

萃香さんやバーンさんは……もっと……もっと怖かった!!

 

 

少ないながらも精一杯に培い、体験した希少な経験がルナの勇気を後押しする

 

(それに……逃げるわけいかないじゃん……!私はレックスの……お姉さんだもん!)

 

守るべき者の存在がその不退の覚悟をより強くさせる

 

「てぇやあああああッ!!」

 

火の鳥が翔る

 

「ぐぬっ!?」

 

拳を受け止めたイブールの顔が僅かに歪む

 

(この力……呪文に頼らぬ火の拳闘技!これが真の戦法(スタイル)か!)

 

その力はイブールをして予想以上であり若干の驚きが見えた

 

「うらあああああッ!」

 

(しかしじゃ……戦闘技法も火の熱も!この程度ならば……問題無い!)

 

猛攻を捌き、隙を突いて打つ

 

「くっ……うぅぅぅー!」

 

痛い、それを歯を食い縛り、堪えながら攻撃は緩めない

 

「ルナ……」

 

そんな彼女を眺める事しか出来ないレックス

 

 

 

「グッフッフ……」

 

攻防の最中、イブールが嗤った

 

「健気よなぁ……」

 

ルナだけでなくレックスにも届く声量、聞かせたいのであろう事は容易に読み取れる程の大きさ

 

「父が王族でなければ……母もそんな男に惚れなければその様な辛き思いはしなかったのにのぅ」

 

邪悪で姑息な笑みで語られるそれは明らかにレックスに向けて

 

「……」

 

「ッ……レックス!聞いちゃダメ!」

 

喋らせまいと奮闘するも実力が足らず黙らせれない

 

「可哀想にのぅ……じゃがお前は悪くない、悪いのはお前を生んだ両親!お前にそんな宿命を背負わせた……なぁ?」

 

「このっ……!クッソー!喋るなぁ!!」

 

慣れてしまわれたのかもう余裕で捌かれている

 

「なん……だって……?」

 

レックスが震えている

 

「父さんと、母さんが……悪いって……言うのか……」

 

「そうじゃあ~!村人の子にでも生まれておればそんな目に会わなかったのじゃからなぁ!同情するぞ!グハハハハ!」

 

「……ッ!!」

 

その時、レックスの中で何かが切れた

 

「悪いだと……オレを生んでくれた父さんと母さんが……悪いだとォォォォォ!!」

 

「え!?なに?どうしたのレックス!?」

 

怒声にレックスを見たルナは様子に驚愕する

 

「許さない……!絶対に!許さない……!イブゥルゥゥゥゥ!!」

 

(怒りで我を忘れてる!?この力……暴走!?)

 

我慢出来ない怒りからレックスは今出せる以上の力を無理矢理引き出していた

 

「ギガァ……!」

 

それはまだ使えない呪文すら使える異常状態

 

(グフフフフ……さぁ撃ってこいその憤怒の雷を……その瞬間、お前は自らの怒りに焦げ死ぬだろう、死なずとも無理矢理リミッターを外したのだ、反動で動けるかもわからん状態になるのは明白じゃ)

 

しかしイブールは笑みを崩さない、マホカンタが有るからだ

 

寧ろ撃って欲しいから挑発的に笑っているのだ

 

「殺しちゃう気なのレックス!?ダメ!ダメだよ!」

 

ルナは呼び掛けるが意味が無い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとマズイね」

 

「ああ……行くか」

 

ロランとロンが介入しようと剣に手をかける

 

「待ってくれ、ルナを……私の娘を……信じさせてくれ」

 

妹紅はルナの覚悟の邪魔をせず見守る

 

「頑張れ……ルナ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウオオオオオオオオッ!!」

 

凄まじい雷が帯電する手を構えレックスは叫ぶ

 

「デイィィィィィィィン!!」

 

勇者の極雷を放つ右手をかざす

 

 

「だからダメって言ってるでしょ!!」

 

 

その手をルナが押さえ込んだ

 

「落ち着けぇぇぇぇぇ!!」

 

火鳥の力を全開に右手の魔力を押さえ込む

 

「ううぅ……だあああああああッ!!」

 

火翼がレックスを包み込むと、静かになった

 

「……ゴメン、ルナ……」

 

「ハァ……もう……世話焼かせないでよね……ハァ……」

 

怒りを焼かれて落ち着いたレックスは頭を下げる

 

「ゴメン……」

 

「もういいよ」

 

限界を越えて撃たれようとしていたギガデインは不発に終わった

 

 

「ちっ……」

 

その結果が面白くなくイブールは舌打ちする

 

(あと少しだったものを……まぁいい、どの道こいつ等では儂に勝てん、早く殺して脱出しなければな)

 

イブールは戦闘態勢を取る

 

「戦える?」

 

「勿論だ!」

 

ルナに問われてレックスは剣を構える

 

「マホカンタが厄介だよね……アレが無かったらもっと戦い易いのに」

 

「それなんだけど……任せてくれ!」

 

「良い方法があるの?」

 

「うん、ロン・ベルクさんが教えてくれてたんだけど忘れてたんだ……」

 

「怒ってたからね……でもわかった、じゃあ……行こう!」

 

頷き合った二人は同時に駆けた

 

「ずあっ!」

 

イブールの呪文とブレスの攻撃を掻い潜りながら二人は進む

 

「でぇい!」

 

レックスが斬りかかる

 

「甘いわ小僧!」

 

だが杖で防がれた

 

「今だ!呪文を撃ってルナ!」

 

「わかった!ダブルメラゾーマ!」

 

合図に呼応しルナが火炎球を放った

 

「馬鹿め!マホカンタが有るのを忘れたか!」

 

「忘れてる筈ないだろ……天空の剣よ!」

 

レックスが念じると天空の剣から凍てつく冷気が迸りイブールのマホカンタを掻き消した

 

「お前もいてつくはどうが使えたのか!?」

 

「そういう事だ……よ!」

 

レックスが飛び退き、2つのメラゾーマはイブールに直撃した

 

「グウッ!?おのれぇいッ!」

 

大きなダメージを受けながら火炎を払いレックスを睨みつける

 

「まだだ!」

 

「なにッ!?」

 

レックスは既に手を天にかかげ、イブールの頭上には雷雲

 

「ライデイーン!!」

 

「ウギアッ!?」

 

聖雷が直撃しよろける

 

「鳥符「火の鳥-緋翼天翔-」!!」

 

好機を逃さずルナが体当たりを食らわせる

 

「ごっあっ……ッ!!?」

 

続けざまに攻撃を食らい膝を着いたイブールが次に見た光景は

 

「ウオオオオオオッ!!」

 

天空の剣を構え斬りかかるレックスの姿だった

 

 

ザンッ……!

 

 

「ウギャアアアアアッ!!?」

 

 

深く斬られた教祖の絶叫が木霊し

 

イブールは倒れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「父さんと母さんの居場所を言え!」

 

倒れるイブールに剣を突き立てるレックス

 

「グッ……ギィ……」

 

激痛に呻く振りをしながらイブールは考えていた

 

(おのれ、こんなガキ共に……こうなったら王の子を使って皆殺しに……!いや……!相手はガキじゃ、隙を突いて一撃で……)

 

邪な謀略を巡らせていた

 

「早く言え!」

 

「わ、わかった……お前の父親は……デモンズタワーの最上部で……石像にされている……」

 

「石像に!?このッ!悪魔め!」

 

「レックス!落ち着いて!」

 

「ッ……ゴメン……じゃあ母さんは?光の教団に囚われたって聞いてるぞ?」

 

「あの勇者の末裔の女は……光の教団の……ごふっ!?」

 

突然イブールが血を吐いた

 

「どうした!早く言えよ!」

 

「ごふっ!かふっ!?き、傷が……」

 

痛がるフリをして杖を持つ手に力を入れる

 

「痛むんじゃよぉぉぉぉ!!」

 

杖を振る

 

「なっ!?」

 

不意討ちは成功

 

 

「詰めが甘いなぁ」

 

 

だが杖は踏み潰された

 

「な、なんだ貴様等は……!?」

 

「保護者だよ」

 

二人には成功したが見守っていた三人には見抜かれていたのだ

 

「お母さん!ロランさん!ロンさん!」

 

「頑張ったなルナ!よくやった!」

 

「レックス君も頑張ったね」

 

「はい……!」

 

「おいお前、まさか親戚にピンクのワニの魔族が居やしないだろうな?」

 

 

「……ッ!!?」

 

イブールは内心仰天していた

 

(なんじゃ……なんじゃなんじゃなんじゃ!何じゃこの……化物共は!?)

 

溢れ出る冷や汗と脂汗

 

(儂を優に凌ぐ……特にこの若い二人……魔王すら越える怪物ではないか!?)

 

知ってしまったのだ

 

今のイブールが命を懸けても埋まる事の無い力の差を……

 

(どうする……こやつ等までは出し抜けん!どうする!?使うか!?……王の子ならば!大魔王を殺す秘中の鬼札ならば切り抜けられようが本懐を遂げるに支障を来す可能性も……くっ!?)

 

どうするのが最善か必死に考える

 

「で?レックスの母親は?」

 

妹紅に改めて問われたイブールはうぐぐと唸っている

 

「誰が……」

 

「ん?」

 

イブールを光が包む

 

「言うものかぁ!!」

 

そして消えた

 

「リレミト!?クソッ!逃がさないぞイブール!!」

 

城の外に脱出されたと知ったレックスはリレミトを使えない為、外へ走って行く

 

「あっ!レックス待ってよ!」

 

ルナも後を追いかけて行く

 

 

 

 

 

「行っちまったな」

 

「そうだね」

 

最奥に残る三人は全く焦る事無く談笑していた

 

「なぁ……あの4人だったら誰が当たりだと思う?」

 

「当たりなんてあるのかい?僕は外れと大外れしか無いと思うんだけど?」

 

「違いないな、奴等は間違いなく逃がしはせん……王女は生き地獄を見せるだろうし妹は遊び壊す、元大魔王に至っては奇蹟の九分九厘殺しを実現するかもしれん……敢えて当たりと言うなら最強か、一瞬で氷漬けにしてくれる優しさに期待と言う意味でな」

 

「……まだ大人しく話してた方がマシだったのになぁ」

 

急ぐ事無くゆっくりと来た道を戻って行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-魔界・廃城外周-

 

「ハァ……ハァ……!?」

 

安堵からイブールは苦しそうながら笑っていた

 

「よし……よし……!」

 

あの化物共から逃げれた事が今はただひたすら嬉しい

 

「……早く身を隠さねば……!」

 

だがそれも一瞬、化物達がまだ近くに居るのは変わらない

 

(元の世界に戻るのは後回しじゃ……今は一刻も早く……!)

 

一時凌ぎでも早くこの場から離れなければならなかったし、離れたかった

 

「くっ……」

 

傷深い体を必死に動かし懸命にイブールは逃げる

 

 

「不憫と言わざるを得んな……わざわざ余が担当する領域に逃げて来るとは……」

 

 

聞こえた声にイブールは恐る恐る顔を上げる

 

「残念だが……チェックメイトだ」

 

そこには……バーンが居た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うらあああああ!!」

 

萃香のドロップキックが炸裂!

 

「ブオオオオオッ!!」

 

足を掴み上げてからのブオーンのボディスラム!

 

「どらあああッ!」

 

素早く背後に回り腰に手を回す

 

「萃符「戸隠山投げ」!!」

 

と言う名のバックドロップ!

 

「ブオッ!ブオッ!ブオッ!」

 

ブオーンの連続チョップ!

 

「イッ!?イテッ!?アイテッ!?」

 

「ブォォォォォン!!」

 

からの渾身のラリアット!

 

「グッハァ!?」

 

仰向けに倒される萃香……

 

「……まだまだァ!!」

 

勢い良く立ち上がり再びブオーンと組み合う

 

「アハハハハハ!やるねぇ!楽しいねぇ!」

 

鬼の娯楽はまだ終わらない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだろうとは思っていたが……やはり小者か」

 

バーンは興味無い無の表情でイブールを見ている

 

「なんじゃ……何者……じゃお前……」

 

そんなバーンへイブールは問う

 

「今日死ぬ小者が知る必要は無い」

 

答えたと同時に魔力を立ち昇らせる

 

「!!?」

 

それにイブールは今日一番の仰天を見せた

 

(この力……み、ミルドラースに……匹敵……!!?)

 

バーンの力の深淵を感じ取り、先の妹紅達がかわいいと思う程の真の化物、それと出会ってしまったのだと知ったのだ

 

「さて……まだ情報を引き出したかもわからん、死なぬ程度に無力化するとしよう」

 

バーンが近付いてくる

 

「う……オオオオオオオオオオオオッ!!」

 

手を出されれば間違いなく終わり

 

それを直感したイブールは躊躇無く切り札を使用した

 

「来るのじゃ!地獄の帝王の子よ!」

 

大地に広がった仰々しい召喚陣から1体の魔物が姿を現す

 

「……何?」

 

それを見てバーンは僅かに、だが確かに動揺した

 

 

「エスターク……」

 

 

夢現の残滓が再び幻想に触れる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




エスターク?再び……

今の幻想郷に中途半端な勢力が来たらこうなりますよ、みたいな感じでした、まともなのはルナ、レックスと萃香?だけでしたね……

次でルナ外伝は終わりです、エピローグまであと1話!

次回も頑張ります!

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