東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第4話 勝利と敗北と……

 

バーンパレス?謁見の間

 

「……うむ、そうか、わかった……下がれ」

 

間の入り口でガルヴァスは報告を受けていた

 

「ソル様」

 

「……どうしたガルヴァス?」

 

ソルは関心薄く問う

 

ガルヴァスが話していた事は知っていたがまるで興味が無いかの様にガルヴァスが話しかけてきてようやく聞く程

 

「ここに侵入者が現れたようです、賊は1名……現在ここの1階に辿り着いた模様です」

 

「ほぉ……ここにか、実力の証明ではあるが随分と勇気の有る……いや無謀な輩と見える」

 

ソルは驚く事はなくむしろ感心を示した、しかしその声もどこか気が入っておらずやはり興味を持っていないと思わせる

 

「どうするつもりなのだガルヴァス?」

 

「発見した戸愚呂兄弟が向かっております、ホワイトガーデン辺りで捉えるでしょう」

 

「あの二人か……」

 

ヴェールに映るシルエットに変化は無い

 

「災難と言うべきでしょうな……兄はともかくあの弟が立ち塞がるとなると……ここに侵入する時点で実力があるのはわかりますがまぁ……死ぬでしょうな」

 

ガルヴァスはよく知っているのだ、あの妖怪がどれだけ強いのかを

 

「……ただのもてなしというわけにはいかんだろう……大魔宮への久方振りの来客だしな……」

 

そうは言うがやはりソルの言葉からは興味が感じられない、侵入者の末路など気にもならないのだろう、映像を出す気すら見せずグラスの酒を一口飲み虚空を見ている様にガルヴァスには見えた

 

「ですな……」

 

ガルヴァスもそれに付き合い映像を見ようとはせず報告を待ち続ける

 

(紅魔館に居る者がオレの願い通りなら必ず……必ずやソル様も関心を持たれる筈だ……)

 

神の空虚な心を感じながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・図書館

 

「……外で戦闘が起きているな」

 

バーンが呟く

 

「大勢?」

 

「数は……50前後と言ったところだ」

 

「……ここはまだ重要視されていないんじゃなかったっけ?」

 

「それは知らん、敵の思惑を読みたいならさとりを連れてくるのだな」

 

紅魔館に敵が攻めてきていると知りレミリアが不機嫌になっている、それはそうだ、自らの家に攻めてこられて良い気分の者は居ない

 

ドン……

 

小さいが図書館まで響く爆発音が聞こえほんの少しだけ館が揺れる

 

(……確か美鈴が言っていたか、敵が撤退する間際にミストがレミリアと余の名を出して追い払ったと……もしやそれが原因か?)

 

思考を続けるバーン

 

(ただ攻めに来たのだとも考えられる、紅魔館は目立つからな……だが、もしこれが名を聞いたからの攻撃なら……おそらくは余の名に反応した筈……気にはなるが今は考えても栓無き事か、しかしミストめ……余は存在を知られてはならぬと言うのに……)

 

ミストの失態で状況が悪くなるかもしれないとバーンは考える

 

それはバーンと幻想郷の関係が理由だった

 

幻想郷に存在が同化しているバーンは頂点を越えるその実力故に一番知られてはいけない存在なのだ、最も強く弱い存在、それが今のバーンだったから

 

転移など幻想郷からほんの少し、一瞬離すだけで簡単に倒せてしまうのだから……

 

「……」

 

故に情報はおろか存在すら知られてはならない、異界へ強制転移でもさせる機械や魔法を使われればそれで終わりだから

 

それを自身だけでなく幻想郷全てが理解しているからバーンが加勢に来ず紅魔館から出なくとも何も言わないし誰も話さない

 

皆わかっているのだ

 

これは幻想郷を守る戦いでもあり同時にバーンを守る戦いでもあるのだと

 

(ミストの様子を見た限り自然と出たのだろう……あやつもこの事は理解している、信念と覚悟が溢れただけのあやつを責める事は余には出来んな……)

 

そんな事を思っていたバーンの居る図書館をまた爆発音が一瞬揺らした

 

バサバサバサッ……

 

揺れた棚から大量の本が落ちる

 

 

ガタッ……

 

 

するとバーンの向かいに座っていたパチュリーが立ち上がる

 

「……調子に乗り過ぎたようね」

 

かなり怒っている、何故なら青筋が浮かんでいたから

 

「行ってくるわ……こあ、私が戻るまでに直しておきなさい」

 

「は、はひっパチュリー様!」

 

スッと浮かんで図書館を出ていった

 

「大図書館は動かないと思ったが……さすがに宝を傷つけられれば黙ってはおらんか」

 

「そうね、私が行こうと思ったけど不粋だからやめとくわ」

 

何も心配は無いと二人は微笑み合い

 

「手伝ってくださ~い!私一人じゃ無理ですよぉ~!」

 

すぐに戻ってくる主の命令をこなせないと小悪魔が数百冊散らばる本の上で嘆いていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山

 

キルギルと部下が話している

 

「あと5分……持ちそうですか?」

 

「厳しいかと……不死将、妖魔将の2名がやられ超魔ゾンビも今しがた魔法使いと妖精によって全滅……更に増えた増援もあり際どいと思われます」

 

「約束の時間はもう稼いでいます……引き際ですかね」

 

時間を切り上げ撤退を考え始めたキルギルは髭を擦る

 

 

「おいそこのジジィ」

 

 

声にハッとしたキルギルが振り向く

 

「お前が指揮官だろ?」

 

そこに居たのは鬼人正邪、新たな増援と共に彼女が来ていたのだ

 

「助けてください!こいつらに捕まって無理矢理やらされているんです!」

 

捕まった捕虜の振りをしてキルギルは油断を誘おうとする、咄嗟に演技が出来るあたり慣れているのだろう

 

「あっそ、なら見ててやるから頑張って倒せよ」

 

「鬼か貴様!」

 

だが正邪には効かなかった

 

「囀ずるなよ、いいか?そんな強いジジィが捕虜なわけないだろうがよ……なぁゲス野郎」

 

キルギルが一瞬止まる

 

「……確かに儂は捕虜ではありません、ですが儂がゲス?なにをバカな事を……」

 

「とぼけるなよジジィ、綺麗に見せても無駄だよ、お前は私と同じ臭いがするんだ……そう、ゲスの臭いがね!」

 

正邪は一目見たときからキルギルを見破っていた、自分と同類の者なのだと

 

「正面からまともにやりあう勇気が無いから騙し討ちなんて浅い事をするのさ……そんなもんは策でもなんでもない、自分に自信が無い証明……痩せた考え」

 

「……小娘め」

 

キルギルが杖を正邪に向ける

 

「嬉しいねぇ……私を小娘だなんて呼んでくれるんだ?でも悪いけどお前より歳上だよお爺ちゃん?」

 

少女の外見で数百歳を越える正邪が歳若い老人のキルギルに皮肉を飛ばす

 

「初めてですよ……儂をここまでこけにしたおバカさんは……」

 

ニヤニヤ笑う正邪と睨むキルギル

 

「……バギクロス!」

 

杖から荒れ狂う烈風が放たれ正邪を襲った

 

「よっと!」

 

烈風の隙間を見切り避けながら弾幕を放つが軌道的にキルギルに向かわない

 

「どこを……!?」

 

次の呪文を放とうとした時気付く

 

「ぐあっ!?」

 

背後から部下の悲鳴が聞こえて振り向くと部下は倒されていた

 

「バーカ、わかってるんだよ!私の気を引いてそこの部下を行かそうとしたんだって事くらいね、助けを呼ぶか指示伝えようとしたんだろ?させるかって」

 

「小娘が舐めた真似を……ヒョッヒョッヒョ……!ぶち殺してやります!」

 

本性を表したキルギルが杖を強く構える

 

「覚えときなヒョッヒョジジィ!「ぶち殺す」と心の中で思ったならッ!その時既に行動は終わっているんだよ!100と15年鍛えたゲスロリの力を味わえ!」

 

山の麓で二人のゲスが相対する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠亭

 

「掃除に行ってきます……」

 

自分の本当の家に行こうとするルナ、そこに行く時は相変わらず落ち込んでいる

 

「わかったわ、てゐ!一緒に行って」

 

「了~解だよ~!」

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~……」

 

「元気出しなよって!絶対妹紅は帰ってくるからさ!」

 

家に向かう途中、落ち込んでいるルナをてゐは励ますが効果は無い

 

「ただいま……」

 

そして家に着いて掃除を開始した

 

「……」

 

ふと思い立ったルナの手が止まり自分の机の引き出しの鍵を開ける

 

「……」

 

中にあった箱を開ける、箱の中には1つの指輪が入っていた

 

(あの時……お母さんは答えてくれなかった……だけどこれはきっと私の本当のお母さんの……)

 

ルナは妹紅からまだ本当の事を聞かされていなかった

 

妹紅は育ての親であり、本当の母親が別に居る事も、既に亡くなっている事も……

 

言われずともなんとなくわかっていたのだ

 

血が繋がっていない事を……

 

(もし……もしお母さんが帰ってこなかったら……本当のお母さんに会いたいな……)

 

ルナはもう覚えていない、赤ん坊の頃に指輪から本当の母親の死を感じた事など成長に連れて忘れてしまっていた

 

(でも……)

 

情景を浮かばせる

 

その中には姿のわからない本当の母親、それともう一人居た

 

「……ッ!?」

 

涙が溢れる

 

もう一人を思い浮かべて堪らなく辛かったから

 

もう一人の母親、藤原妹紅の笑顔を浮かべてしまったから……

 

「ッ!」

 

顔をゴシゴシ拭くと顔を上げた

 

(強く生きなきゃ!)

 

お母さんに前に言われたのだ

 

『お前にはずっと笑っていて欲しいんだ』

 

だから挫けない、きっと本当のお母さんもそれを望んでいると思うから

 

「よし!」

 

気を取り直して掃除を再開しようと声を出す

 

「あれ……?」

 

その時、窓の外の違和感に気付いた

 

(誰か居る……)

 

竹で全体は見えないが遠目に見える場所で3人の人影が見えた

 

(二人は女の人……あの服はえーと……そうだ袍服だ、袍服っぽい……もう一人は……Tシャツ?変なの……どっちも知らない人だ、輝夜さんは知ってるかな?それであと一人は……ん~?あれ?もしかして魔族っぽい?)

 

遠過ぎて正確な事はわからないしもちろん会話も聞こえないが気になって注視しているとてゐの声が響いた

 

「終わったー?早く帰るよー!」

 

「あ!ちょっと待って!」

 

慌てながらてゐの方へ返事を返し窓に向き直す

 

「あれ……?居なくなってる」

 

そこには誰も居なかった

 

「見間違い?あれれー?おかしいなー?」

 

あんな一瞬で消えるか?と狐に化かされたみたいに不思議に首を傾げるルナ

 

「まっ……いいか」

 

掃除を終わらせて永遠亭に帰って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「危なかったね、まさか無人の筈の藤原妹紅の家に誰か居たなんて……ふぅ危ない危ない」

 

竹林の中で二人の女性が話していた

 

「おそらく娘のルナね、たまたま掃除か何かで来てたのでしょう」

 

「まっ、子どもくらいどうにでもなってたけどね、それに目的は済んでたから止めようとしても間に合わないか」

 

「運が良かったわ、何の為か知らないけどはぐれた奴を捕まえれたから」

 

女性の一人の手には謎の軍勢が使う帰還装置が持たれていた

 

「そい!証拠隠滅!」

 

もう一人が力を使うと魔族の者は消え去った

 

「さぁ行きましょう、不倶戴天の敵を討つ為に……」

 

「あぁ行こう、我等の復讐を成す為に……」

 

二人の神はその場から消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バーンパレス?主城・ホワイトガーデン

 

「ほっ!」

 

物陰から手刀を放ち見回りの魔族を気絶させる

 

「なんか綺麗な所ですね……」

 

傷だらけだった他の場所と違い妙に綺麗な場所だなと感じながら美鈴は足早に上階を目指す

 

「あ……あれ?」

 

ふと足が止まり周囲を見渡す

 

(何故かここ見覚えが……何処だっけ?確か……あ!そうだエスタークパレス!あそことそっくりなんですよ!)

 

この場所に来て美鈴も気付いた、夢現異変の時に破壊神が降臨して皆で助けに向かった時に通った場所だったのだと

 

(でもエスタークパレスはバーンさんが消し炭にしちゃった……じゃあここは?という事になりますよね……)

 

思案していると周囲に突如夥しい気配が充満する

 

「ここまで来ていたか、流石だ美鈴」

 

「ミスト!」

 

霧が発生し濃くなっていくと1ヶ所に集まり形を成した

 

「もう!いきなり居なくなるなんて酷いですよ!」

 

「悪かった、お陰で疑問のいくつかは晴れた」

 

再会を喜ぶ二人

 

「ここってエスタークパレスですよね?」

 

「違う、正しくはバーンパレスだ、エスタークパレスとはエスタークがバーン様の記憶から造った偽物だからだ、そして今居るここはホワイトガーデン、バーン様の間に繋がる中央の塔「天魔の塔」へ繋がる宮庭でありバーンパレスにおいて最も美しい場所の一つ……」

 

「……尚更わけがわかりません、バーンさんが造ったのが使われてるんですか?」

 

「それは無いだろう、私が直接見たわけではないがロン・ベルクの話によればバーンパレスは崩壊し燃え尽きたらしい……」

 

「じゃあここはなんなんですか……」

 

「それを確かめる為に上に向かうのだ、謁見の間かバーン様の私室に辿り着ければ敵の正体も判明する」

 

「ではさくっと行きましょう!」

 

二人は上に続く階段を見上げる

 

(一気に謁見の間に行く方法は有る、行った先に何があるかわからないため試してはいないがおそらく使える筈……もしもの時はやってみるか、無理なら撤退だな)

 

ミストが自分だけが知っている事を考えながら美鈴と階段を数段登る

 

 

「さくっとは行かせれないねぇ」

 

 

通路の先から声が聞こえた

 

「「!!?」」

 

二人は身構える

 

(やられた……気配を絶って待ち伏せ!数が多過ぎてわからなかったのもありますが見事な絶ち様……武芸者か!)

 

こと気配に関しては自信のある自分が感知出来ない、それすなわち武芸において秀でた証明だと警戒のレベルを引き上げる美鈴の階上の通路から一人の男が姿を現した

 

「……!」

 

一目でわかる

 

あのサングラスを付けた丈の長いジャケットを着た長身の男から感じる気

 

(強い……!)

 

良くて辛勝、悪くて死、何にしてもやり合えば死闘は避けれない

 

歴戦の美鈴がそう判断するまでにあの男から感じる物は凄まじかった

 

「……」

 

男も美鈴を見つめる

 

この男の名は戸愚呂

 

謎の軍勢に属する部下を持たない拳客である、軍団長と同等の権限を与えられ己の自由に動く者、ソルに忠誠は誓っていない協力関係にある孤高の格闘家

 

「……いいね」

 

戸愚呂がサングラス越しでもハッキリとわかるほど楽しそうなのがわかる

 

「お前はどうでもいい……失せろ」

 

「なんだと貴様……!」

 

興味無く消えるように告げられ睨むミストだが戸愚呂は気にせず美鈴を見据える

 

「ミスト、抑えてください……今は悠長に戦いをしにきたのではない筈です」

 

「……そうだったな、すまん美鈴」

 

昂った気を静めたミストは冷静になり美鈴へ問いかける

 

「潜入が露呈していた以上長居は出来ん、進行か撤退か増援が来る前にお前が決めてくれ」

 

「……そうですね」

 

戸愚呂を見つめながら美鈴は答えた

 

「私達二人なら短時間で突破出来るかもしれません、やってみる価値はあります」

 

「わかった、ここまで来たのだからな……!」

 

決めたと同時に美鈴は闘気を高めミストは暗黒闘気を高めて四肢を作る

 

「そう来るか……状況に流されない良い判断だ」

 

二人の気を知ると戸愚呂は体に力を込めた

 

 

バウッ!

 

 

爆発した様に服を破裂させ異常に肥大した筋肉が形を見せる

 

「まずは30%でいくかね」

 

戸愚呂が手で招くと二人が階段を駆けた

 

 

ズドォ!!

 

 

階段が爆発した

 

「なんだと!?」

 

「くっ!?」

 

足場を失い瓦礫と共に落下する二人

 

戸愚呂は何をしたのか?

 

答えはただ殴っただけである、3割の力でただ階段を殴っただけだったのだ、それだけで階段を爆発させるように粉々に砕き機先を制したのだ

 

ドッ!

 

「ッウ!?」

 

瓦礫の死角から飛び込んできた戸愚呂が美鈴を殴る、防御は間に合ったが威力を殺せず飛ばされる

 

「ぬっ!?」

 

殴った反動を利用してミストに殴りかかった

 

サァァ……

 

「む……」

 

拳は空を切った、ミストは霧になり攻撃を避けたのだ

 

「今のは反応出来てなければ能力だろうと避けれない間合いだった……お前も思ったよりやるねぇ」

 

着地しながら戸愚呂は笑う

 

「大丈夫か美鈴!」

 

避けたミストは攻撃せず飛ばされた美鈴の元へ来ていた、あの殴打を受けた美鈴が心配だったのだ

 

「問題ありません」

 

美鈴は軽く立ち上がった、服は少々破けているが傷は全く無い

 

「予想以上のパワーに驚きましたがあの程度では私にはダメージになりません」

 

そして戸愚呂を見る

 

「本気で打つべきでしたね」

 

それを聞いて戸愚呂はまた小さく笑う

 

「なに、挨拶みたいなものだ、これが俺のスタイルだという……名刺みたいなものだ」

 

「なるほど、挨拶ですか……」

 

答えを聞いた美鈴は足を少し浮かせる

 

「ではこれも挨拶ですか?」

 

ドンッ!

 

踏みつけた床が爆発を起こした

 

「ちぃ……!」

 

その中から小さな影が抜け出した

 

「俺に気付くか、流石にやる」

 

影は戸愚呂の肩に乗った

 

「兄者……」

 

この小男は戸愚呂の兄、体を床に潜ませて隙を狙っていたが美鈴には気付かれていたのだ

 

「何を遊んでいる弟よ、早く片付けてあの女で遊ばせろ」

 

「……」

 

下卑た目で美鈴を見る兄の言葉に戸愚呂は答えない、心なしか侮蔑すら感じる

 

「さてミスト、少々強引に行きましょう、時間がありません」

 

「わかった、援護する」

 

そんな事は関係無い二人が動こうと構えた

 

「行くぞ弟よ!」

 

「……!」

 

しかしその時、戸愚呂は気付いた

 

(行った奴等が戻って来たねぇ……久し振りに敵に会えたと思ったが……残念だがゲームオーバーだ)

 

惜しむように二人を迎え打つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時は前後しミストと美鈴が戸愚呂兄弟と相対する数分前

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・外周

 

「ゼアアアッ!」

 

ブレーガンの拳が咲夜を狙う

 

ドンッ!

 

避けられた拳が大地に当たりクレーターを作る威力の余波が紅魔館を揺らす

 

「ハアッ!」

 

咲夜は時を止めナイフを投合し停止を解除する

 

「ぬうぅぅ!?」

 

ナイフはブレーガンに刺さるが切っ先僅か数ミリ、目など重要な気管に迫るナイフだけを払い強靭な肉体で耐えながら咲夜に駆ける

 

「捉えたぞ!」

 

「それはどうでしょう?」

 

ブレーガンの蹴りはまたしても時を止めた咲夜に避けられた

 

(敵の攻撃は避けれるけどこちらの攻撃も致命にならない……相性ね)

 

手数による攻撃が主な咲夜にはブレーガンの様な強い肉体を持つ相手は苦手だった

 

(持久戦ならいずれは勝てるでしょうけど何日掛かるか……バーン様のナイフを当てれば勝ちですが油断も隙も無い敵に使うのは愚策か)

 

二人の戦いは膠着状態になっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥ……フゥー……」

 

外周にて鋼線の付いたフィンガーグローブを握り締めるウォルターは激しく消耗していた

 

(さすがに私一人で紅魔館を守りきるのは厳しい……)

 

ウォルターが守る紅魔館は全体に荒く鋼線が張り巡らされている、触れれば切れる鋭利な鋼線を張り侵入を遅らせた上で外周を駆け回り魔物を倒していたのだが広過ぎるのが災いしもはや突破寸前

 

「ぐくっ!?」

 

一体を切り刻むと鋼線から伝わる感触に振り向く

 

「しまっ……!?」

 

鋼線を抜けた数体の魔物の侵入を許してしまう

 

 

「炎符「十指爆炎弾」」

 

 

否、許されなかった

 

撃たれた火球が魔物を消し炭に変えたからだ

 

「パチュリー様!」

 

加勢に来てくれた事にウォルターが嬉しく名を呼ぶとパチュリーは一瞥する

 

「まずは雑魚から片付けましょうか、動かないようにねウォルター、絶対に動いてはダメよ?」

 

念を押すと+と-の魔力を融合させ巨大な消滅球を形成し細分化させる

 

 

「消符「ディスアピアランスアロー」!!」

 

 

消滅の弾幕を全方位に放った

 

「ぐあ……」

 

数百ある弾の1つ1つを完璧に操作し紅魔館を囲む魔物達の中を嵐の様に駆け巡る

 

「あ……ぁ……」

 

次々に穴が空き肉体を僅かずつ急速に消滅させていく

 

「消滅の幕に飲まれるといいわ」

 

僅か10秒程の嵐が過ぎ去るとウォルターを残して紅魔館の周囲に居た魔物達の姿は綺麗に消滅していた

 

「次……」

 

礼を言おうとしたウォルターより早くパチュリーは門の方へ向かっていく

 

 

 

「バカな……全滅だと!?」

 

ブレーガンが驚愕し狼狽えていた

 

「まさか……バーンか!?」

 

一瞬で全滅、こんな真似が出来る人物に心当たりがあったブレーガンだったが実は違う

 

「違います、今のはあの方のお力です」

 

ナイフを仕舞い迎える様に立ち直すとブレーガンの前に紫の賢者が降り立った

 

「おいたが過ぎたわね愚か者……後悔の時間よ」

 

既にその両手には同じ配分の魔力が籠っている

 

「面白い!氷炎将ブレー……」

 

カッ……

 

光矢がブレーガンを貫いた

 

「私の宝に傷をつけたのよ……黙って消えなさい」

 

消滅の矢が過ぎ去った後には何も残ってはいなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山

 

「どうしたどうしたぁ!話になんないよジジィ!」

 

「ぬっ……くっ……!?」

 

キルギルは正邪に押されていた

 

「この……!」

 

呪文を撃つ

 

「ほいっ!」

 

しかし、正邪が指を振ると呪文が勝手に返ってくる

 

「くそっ……!何をしているのです小娘!」

 

「ひ、み、つ♡」

 

艶のある声色で小悪魔の様に微笑む正邪にキルギルは更に呪文を連射するがどれも返されて逆に追い詰められる

 

「そろそろ終わらせようかな」

 

正邪は手をかざして能力を使った

 

「!?なっ……なに!!?」

 

キルギルの様子がおかしい、思うように体を動かせない

 

「初見殺しってやつですよお客さん」

 

正邪はひっくり返す能力を使ってキルギルの体の操作を反対にひっくり返したのだ

 

「さいなら~」

 

弾幕を放とうと力を溜める

 

「……撤退です!!」

 

即座にキルギルが叫ぶとキルギルの周囲が歪み始める

 

「次は必ずぶち殺してやりますからね……」

 

「フラグ立てお疲れ様です」

 

ニヤニヤ笑う正邪の前でキルギルは消えた

 

「……くそっ、逃げられた」

 

誰も居ない場所で正邪は一人愚痴る

 

(倒しときたかった……初見殺しを使ったのに倒せなかったのは痛い……次は効かないかもしれないのに……)

 

これが正邪の能力の強さと弱さ

 

初見には有効だが次もそうとは限らない、だからこそここで倒しておきたかったのだ

 

時間稼ぎの攻撃と知らなかったのと来るタイミングが遅れたのがこの結果を作っていた

 

(嘆いてもしょうがない……他も次々消え始めた、強制的に戻してるのか……癪だけど追い返しただけでも良かったとしよう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンッ……!

 

「ぐっ!」

 

妖夢の剣がテリーを掠める

 

「つぅ……!?」

 

テリーの剣が妖夢を掠める

 

「いいぞ……やるな!」

 

「まだまだ……!」

 

互いに傷だらけだった

 

全て薄皮一枚の軽い傷だが様々な箇所に傷が付いている

 

「……!」

 

テリーが剣に力を込めると袈裟切りを仕掛ける

 

「甘い!」

 

捻りの無い攻撃に片手持ちで防ごうとした妖夢は次の瞬間驚愕する

 

「火炎大地斬り!!」

 

ボウッ!

 

なんとテリーの剣の切っ先から炎が発生し刀身を包む炎剣となったのだ

 

「うぐっ……つぅっ!?」

 

咄嗟に空いていた片手で剣の背を押さえて防ぐも威力に顔が歪む

 

その同時に妖夢はテリーの緩んだ顔を見た、優位に立ったと思っている表情を……

 

「ッアアアアッ!!」

 

それが妖夢に火を付けた

 

「……ハッ!」

 

背を持つ方の手を弾く様に押し上げ炎剣を離す

 

「ハアアッ!!」

 

剣を構え切りつけた

 

「転生剣「円心流転斬」!!」

 

弧を描く一閃、しかしそれは防がれた

 

「!?」

 

続けて二閃、それも防がれるが反撃の機を与えず連撃が続く

 

「くっ!?」

 

三閃、四閃、息つく暇も与えない

 

「セヤッ!」

 

五閃で打ち飛ばし体勢を崩す

 

「楼観剣!牙懐!」

 

八相の構えで一足にて飛び込む

 

「チェェェストォォォ!!」

 

渾身の太刀を放った

 

「ぐあっ!?」

 

そのまま受けるのは危険と判断したテリーは装備していた盾を支えに剣を重ねた防御の構えで受けたが堪えきれず打ち飛ばされる

 

「ッ!!?」

 

体勢を立て直したテリーが己の剣を見て目を見開いた、剣は刃こぼれを起こし亀裂が入っていたのだ

 

パキン……

 

刀身は折れ地に落ちる

 

「我が楼観剣に断てぬ物無し!!」

 

妖怪と恋した魔族が鍛えた心剣を突き立て妖夢は告げた

 

(雷鳴の剣が……)

 

テリーは震えていた

 

長く使っていた剣、伝説の剣とまではいかないが充分に強い剣、愛刀とも言えるかもしれない剣が折られたのだ、ショックを受けながら柄を強く握り締める

 

「……まだだ!!」

 

だが退くつもりは無かった、折れている剣だろうと関係無い、そのまま続けるつもりだ

 

ヴゥン……

 

空間に異常が起きテリーの体を歪める

 

「ッ!!?キルギルか!?」

 

帰還させられると悟ったテリーは消える前に叫ぶ

 

「魂魄妖夢!今のは剣の差だ!実力の差ではない!」

 

僅かに冷静になっていたテリーはあくまで剣の差であり実力で負けたわけではないと怒鳴る

 

「わかっています」

 

妖夢もそれは理解している、逃げられるのを止められないのも理解しているから静かに返し青い閃光の剣士を見つめていた

 

「覚えていろ……この屈辱は必ず返す……!真の俺の剣でな!!」

 

テリーは幻想郷から消えた

 

 

「……」

 

テリーに続いて次々と消えていく魔獣達に戦いの終わりを悟った妖夢は佇んでいた

 

(次に会う時が……本当の戦い……)

 

テリーの退き際のあの言葉を妖夢は負け惜しみとは思わなかった、思えなかったのだ

 

それだけ実力は伯仲していたから、剣の差で勝敗が決まる程に

 

(負けない!!)

 

決意を新たに妖夢は白玉楼へ帰っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

互いに本気ではない小競り合い

 

ただの前哨戦に過ぎないものだったが幻想郷の地力が勝り大きな被害も出ず謎の軍勢の撤退にて幕を下ろそうとしていた

 

 

 

 

 

 

 

だがその最後にガルヴァスが放った作戦が実を結ぼうとしていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・図書館

 

 

今はレミリアとバーンと小悪魔の3人のみが居る図書館

 

ブゥン……

 

「敵が退き始めたわ」

 

「ご苦労……紅茶でも飲むがよい」

 

紫が合流し帰りを待つ

 

 

ピィィィン……

 

 

「何の音?……綺麗な音色ね」

 

「これは……」

 

その4人に死神の音が向けられていた

 

「……」

 

バチッ!

 

バーンが背後に向かって火球を飛ばすと何かにぶつかり音は止んだ

 

「わお!流石だね!」

 

本棚の陰から調子良く1体の物が姿を現した

 

「貴様は……」

 

その物を見たバーンは僅かに驚きを見せた

 

「キルバーン……」

 

何故ならそこに居たのはかつて重宝した死神・キルバーンその物だったのだから

 

「違う違う、ボクはキル、バーンは付かない……って君は……」

 

キルと名乗る死神はバーンを見て目を細めた

 

「おやおやこれはこれは……ガルヴァス君の願い通りだったみたいだねぇ」

 

そして楽しそうに笑った

 

「誰?知ってるの?」

 

知らないレミリアが頬杖を付きながらキルを見る

 

「まぁ……知っている物だな」

 

「あらそうなの……それで?良いの?」

 

「よいぞ、だが頭と素手ではやるな、胴体を好きなだけやるがいい」

 

「わかったわ」

 

主語の無い会話をしたあとレミリアが立ち上がる

 

「あれ?もしかしてボクとやる気なのかい?強いよ~ボクは?やめといたほうがいいんじゃない?」

 

キルはバカにするようにヒビの入った鎌をクルクル回して構える

 

「君みたいな子ど……」

 

ズッ……

 

キルの胴体を何かが貫いた

 

「カァ……ァ……」

 

呻くその体には大穴が空き、穴から見える柱には魔力で作った槍が突き刺さっていた

 

「誰の城で吠えてるんだガラクタ」

 

槍を消し、新たな神槍を造り手に持つレミリアの冷たい眼差しがキルを刺す

 

「し……死神の笛が効いてなかったのか……」

 

死神の笛とは鎌から発する音色により聴覚から感覚を狂わせ全身の自由を奪う特殊な武器の事

 

確かに聞かせたのにレミリアに不自由は何も感じられない

 

「ああ、さっきの音か……スカーレットの吸血鬼にそんなオモチャが効く筈がないだろう」

 

そんなものはレミリアには効かない

 

更に言えば紫にもバーンにも効かない

 

「不法侵入の罪を償ってもらう……磔刑だ」

 

小さい鏃のような鋭利な弾幕を発生させキルへ放つ

 

「ぐあっ!?」

 

柱へ貼りつけられたキルへ迫りながらレミリアは告げた

 

「月を見る度思い出せ……永遠(とわ)に紅く……幼き月の女王の姿を……」

 

槍を構えた

 

「アハハハハハ!!」

 

キルが突然笑い出した

 

「いやぁスゴイね君!ボクビックリしちゃったよ!」

 

今まさにトドメを刺されんと言うのにキルは笑う

 

スゥゥ……

 

柱をすり抜け束縛から脱出する

 

「あら?もしかして私とやる気?強いわよ~私は?やめといたほうがいいんじゃない?お前みたいなガラクタじゃあねぇ……」

 

レミリアが挑発を繰り出すと柱の陰から顔だけをヒョイとキルは出す

 

「悪いけど帰らせてもらうよ、さすがに3体1じゃ自殺行為だからね」

 

「どんな分析をしたらそうなるのよポンコツ、1対1でも自殺行為でしょうに」

 

「ピリピリしちゃってシャレの通じない子だね~もしかしてあの日なのかな?あ!まだそんな歳じゃないか!アハハゴメンね!」

 

ブゥン……

 

キルの背後の空間が裂けた

 

(……!空間使い……)

 

それに目を細めたのは紫、キルが使ったのは帰還装置ではなかったのだ

 

「またね可哀想な生け贄の諸君!」

 

裂けた空間の中にキルが入ると空間は閉じ、キルは紅魔館から消えた

 

 

 

 

 

 

「皆が戻ったら食事にしましょう」

 

「怒っておらんのだなレミリア」

 

「怒るだけ無駄よ、あのガラクタもするだけ無駄だとわかって挑発してたんだから、平気そうに見せてたけど内心逃げたくてしょうがなかったでしょうし、まぁ滑稽だったわね……ピエロみたい」

 

何の事は無かったと微笑むレミリアはバーンの隣に座り紅茶を飲む

 

「体が動かないです~助けて~!」

 

「あら小悪魔……マヌケねぇ貴方」

 

「早く助けて~パチュリー様に怒られちゃいます~!」

 

中々に微笑ましい場面

 

「……」

 

だがバーンは気にもせず剣幕な顔で考えていた

 

(敵にキルが居たとは……ピロロは居ないようだがそれより奴の言動だ……ガルヴァス……願い通り……なるほど、敵にあのガルヴァスが存在しミストの言葉から余の名を知りキルを使い確かめに来たのか……)

 

これで存在は露呈した

 

まだ幻想郷との関係はバレていないが油断は出来ない

 

(キルにガルヴァス……まさか……まさか敵とは……)

 

予感に予想が加わり神妙な顔で虚空を睨む

 

「あの二人の帰還待ちね」

 

考えの先を察した紫が言葉をかける

 

「そうだな……答えはそこに有る」

 

敵と同じく諜報に向かった二人を待つ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブゥン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時はすぐに訪れた

 

前哨戦が完全に幕を下ろす前に流れる終曲は空間を裂く音から始まった

 

 

 

 

「帰ってきたぜ」

 

 

 

 

キルの侵入から数分後、妖怪の山に向かった魔理沙や他を見に行った大妖精達が戻って来た図書館に帰還用のスキマが開く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……た……頼む……」

 

スキマの中からミストの声が聞こえる、だがとても弱々しい

 

「美鈴を……」

 

よろよろとふらつきながらミストが何かを背負いながら出てきた

 

「…………」

 

赤い道を作りながら滴る血の音が静寂に満たされていた図書館に響く

 

 

「……助けて……くれ……」

 

 

血化粧を施された不敗の武道家の無惨な姿と共に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




計画性の無さが現れております、予想外に長くなったので今回判明しませんでした、次こそは……次こそは必ず……


今回出た名有りキャラの説明

・キル(キルバーン)

ご存知ダイの大冒険から登場の死神。

何故彼が居るかやバーンに対しての反応の薄さなどはそのうち明けていきます。
空間使いの能力を与えられていて単独行動が取れるので今回の作戦では要になっていました、神出鬼没に現れる空間使い……ゆかりん活躍の予感!!

・戸愚呂兄弟

幽遊白書からの登場、今作の東方・ドラクエ以外の作品のゲスト枠&妖怪枠。

こちらも設定はまたのお話になるので詳細は話せませんが間違いなく言える事はB級ではないという事です。
兄はそのまま兄で弟が戸愚呂表記なのはしょうがない事……だって弟より劣る兄なんだもん……


それとキルギルの口調を修正しました、何かのキャラと間違えてました、少しオリジナル感を出す為に一人称は儂のままです。

次回も頑張ります!

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