東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第43話 終焉

 

 

 

 

 

 

 

 

   --貴様が正しかったか……

 

 

 

 

 

     いや……貴様も間違ってはいなかった……--

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未来を懸けた二羽の不死鳥の衝突は幻想郷を大きく揺らし

 

 

舞い散る羽炎が運命の終着を見せていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……フッ……」

 

全てが収まった不死鳥の結界の中心

 

 

「フハハ……ハハハハハハハハハ!!」

 

 

高く笑う太陽神

 

 

「ハァ……ハァ……うぐぅ!?」

 

「……」

 

 

苦悶の顔で呻く皇帝不死鳥と表情も無く見つめる王

 

 

 

「ハーッハッハッハ……ぐふっ!!?」

 

 

 

黒しか見えない天を眺めながら……太陽神が血を吐いた

 

「……ハァ……ハ……ァ……負けた……か……」

 

倒れているのは太陽神、立っているのは王と皇帝不死鳥

 

「そうだ……ソル……」

 

「勝ったのは……私達だ……」

 

勝敗は決していた

 

妹紅とバーンの絆の不死鳥がソルの神威の不死鳥を突き破り、終の一撃を食らわせていたのだ

 

「カハッ……ハァ……ハァ…………」

 

穴の空いた胸

 

魔力を使い果たした瀕死の上に生命まで使い、更に心臓を貫かれ、絆の炎が残る心臓すら焼いた

 

「余も……所詮は数多在る流星の1つに過ぎなかったか……如何に輝こうが墜ちる運命の星の一片……」

 

もう死ぬのは避けられぬ運命だった

 

「……バーン」

 

死期を悟るソルは顔を向ける

 

「貴様が正しかったか……」

 

負けた

 

その事実が己よりバーンの方が正しかったのだと認め、そんな言葉を出させる

 

「いや……貴様も間違ってはいなかった……」

 

勝った

 

だがバーンにはそれだけの事でありソルの今までを否定などしない

 

ソルの成し遂げた事はかつて己が叶えようとした大望、それを間違っていたなど言える筈がなかった

 

「だとしても……やはり貴様が正しかったのだ……力こそが正義……貴様は変わったのかもしれぬが……やはりそれが余と言う存在の信条なのだから……な……」

 

バーンの言葉に微笑みを向ける

 

「……不死鳥の娘よ」

 

妹紅へ向く

 

「余が……愚かであった……」

 

「……」

 

妹紅は何も言わない

 

「それが正しい事だと……道なのだと決めつけ……何も見れぬ盲目だった……」

 

「……」

 

「望むだけの熱を捧げ……擦れ違い死に逝く星達の生んだ炎が最期の夢を焼き……灰と消えるか……」

 

「……バカヤローだよ、お前は……」

 

「否定はせぬ……」

 

それしか言えないと顔を背ける妹紅に苦笑する

 

「だが……後悔はしておらぬ、道を誤った事も、罪無き幻想郷を攻めた事も……勝ち続けた事も……」

 

「だから敗れたのだ……力はいつかより強き力に敗れる……余がそうであった様に……」

 

満身創痍の体を引き摺るバーンが傍に来る

 

「勝ち続けるなど……有り得ぬ夢想……叶わぬ泡沫の夢だ……」

 

敵意無き優しき目を向ける

 

「フッ……それでも突き進まねばならなかった……それしか無かった……それが勝った余の存在意義だったのだから……」

 

「わかっておる……貴様は、お前は余だ……もし余も勝っていたなら同じ道を進んだに違いないのだから……」

 

理解し合える同一の最後の会話

 

「……貴様が羨ましい」

 

ソルはそれを口にする

 

「負け……魔族を、魔界を捨て一人で不様に生き永らえど余が求めた安息を手に入れた貴様が……羨ましかった……」

 

今だからこそ言える内に封印した想い

 

ソルは真の自由を得たバーンに羨望の念を抱いていた

 

「認めたくは……なかったがな……」

 

それを認めてしまう事は己の否定、太陽を得て勝ち続けた己を否定する事

 

それだけは出来ず振り払う様に戦ったが負けた今、最早関係無く堰を切る

 

「それは余も同じ事だ……」

 

それはバーンも同様

 

「余が叶えれなかった夢幻を成したお前に余も同じ想いを抱いていたのだから……な」

 

魔界に太陽を与えると言う己が目指した偉業を成し遂げたソルはバーンにとって称えるべき存在

 

もし出会いの形が違えば戦う事無くわかり合えたかもしれない可能性の分かれ身だったから

 

 

 

「……バーン」

 

ソルは言う

 

「後の事を……任せてもよいか?」

 

死んだ後の事を

 

「……お前の望む様にしよう」

 

バーンは応えた

 

「頼んだ……」

 

微笑むと一人天を仰ぐ

 

「……余は……」

 

静かに声が響く

 

「魔界に陽を与えた……太陽神……」

 

それは小さかったがとても大きく、強く、厳かに響き渡る

 

 

「願わくば……魔族に……永久(とわ)の安寧……有れ……」

 

 

その言葉を最後に目を閉じ、眠る様に息を引き取った

 

 

「さらばソル……野望を叶えた……最も強き太陽神()よ……」

 

魔界の為に戦い、魔族の為に勝利し、勝ち続けた天地魔統、常勝不敗の神

 

 

太陽神ソル……幻想に死す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……石にはならないんだな」

 

「ヴェルザーが呪いを解いていたのだろう、生ける屍と化すよりは余程良い……」

 

「……なんでこうなっちまったんだろうな、私にはわからない」

 

「ソルは……神で在りながら王で在り過ぎたのだ」

 

「王で……在り過ぎた……」

 

「そう……軍を統べ、野望を叶えた王は民を想う王へと変わり、神になれど不器用な優しさを持つ王で在り過ぎた……魔族の為に魔界を背負い戦い、勝ち続け、果てに最初にして最後の敗北を知り、死んだ……」

 

「なんだよ……それ……そんなの……」

 

「ソルを殺したのは余等ではなく、ソルの言った魔族の意思……なのかもしれぬな」

 

「バカじゃねぇか、ただの……大バカヤローだよ……」

 

「……お前の言葉でソルは間違いに気付いた、だが……それでも今更生き方は変えられなかった……大人とは、王とはそういうものだ」

 

「……私にはやっぱりわからないよ」

 

亡骸を前にした会話はとても静かに、鎮魂歌の様に寂しく響く

 

 

 

 

 

「うっ……」

 

「大丈夫か?」

 

「何とか……な、まだやる事が残ってるんだ、へばってられるか」

 

「……無理をするな」

 

「わかってる……だけど皆私達を待ってる、早くしてやらないと」

 

「ああ……行かねばな」

 

 

 

 

 

 

 

 

結界が解かれる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……カフッ……オオオオオオッ!!」

 

外は死が蔓延している

 

「信……じて……止まぬ雨など無いと……明けぬ夜は無いと……私達の太陽を信じて……!」

 

最後の防衛線を張る幻想郷覚悟の壁、それは太陽神を救う為に決死隊となった魔王軍の猛攻により壊滅しかけていた

 

「霧の萃香は!私等はまだ……生きてるよ!彼処に行きたきゃ私等を殺して行きなァ!死なばもろともさね……!さぁ……この糞餓鬼共がかかってきなァ!」

 

月の軍隊の加勢により対等近くまで持ち直した数だったがソルに主力を多く倒された事も重なり戦況は押されに押され最早結界をギリギリで囲える300人程度

 

対する魔王軍はまだ1000は優に居る

 

諦めない希望ごと飲み込まれるのは秒読みまで来ていた

 

 

 

 

 

 

フッ……

 

 

 

 

 

結界が消え、戦っていた双方の動きが止まる

 

 

「聞け!魔王軍の兵士達よ!!」

 

 

どちらも聞き慣れた声が戦場を駆け巡り

 

 

「お前達の神は……太陽神ソルは死んだ!!」

 

 

同一故の声が戦いを止め、視線を集中させる

 

「……そんな……まさか……」

 

そして一目で解らせた

 

立って今の言葉を出したのは違うと

 

「ソル様が……」

 

足元で倒れているのが崇めた真の神なのだと

 

「間に合わなかった……申し訳ありません……ソル様……!」

 

精神の柱であったソルの死を知り、全ての魔王軍の戦気が消え、崩れ落ちた

 

「やって……くれたのね……」

 

バーンと妹紅と何ら変わらぬ瀕死のレミリアが笑みを向ける

 

「どうにかな……妹紅が来なければ結果は逆だった」

 

「良かった……本当に……良かった……!」

 

「心配を掛けたな……」

 

涙を浮かべ顔を埋めるレミリアを撫でる

 

 

「……魔王軍よ!」

 

バーンは言う

 

「まだ戦うか!退くか!決めるがいい!」

 

最後の仕事をする為に

 

「敗北を認め退くなら良し!ソルと言う神体を救えなかったお前達を殺めはせぬ!だが!許せぬと言うならそれもまた良し!かかって来るがいい!仇たる余が相手を仕まつろう!」

 

2つの選択を与える

 

頂点を失い敗軍同然と化した魔王軍へ問うた

 

「もう誰も導いてはくれぬ……己の魂で決めよ」

 

危険な事であった

 

もし魔王軍が戦うと言えばもう戦う力の無い幻想郷は全滅するだろう、バーンが入ったとは言え魔力も体力も尽きている、相手にならないのは誰の目にも明らか

 

それでも言ってのけた

 

望む限り戦わせてやりたい……それが魔族を想ったソルの望みだと思ったからだ

 

「すまぬな……勝手をさせてもらう」

 

魔王軍の消沈振りを見るにそのまま終戦へと行けただろうにも関わらず煽る様な真似をしたバーンが皆に謝る

 

度の越えた我儘だとわかっていたが叶えてやりたかった

 

 

「…………」

 

しかし、バーンの意思を聞いても魔王軍に動きは無かった

 

ソルだけの為に戦っていた魔王軍は完全に戦意を失っていた

 

 

 

バシュッ!

 

 

 

バーンの前に一人の魔族が降り立つ

 

「ハァ……ハァ……!ッ……ソル様……!!?」

 

霊夢と戦っていたベグロムだった、少し遅れて霊夢がベグロムの背後に降り立つ

 

「ハァ……この……いきなり逃げ出して……!逃がさないわよ……!……ハァ……!」

 

「黙ってやがれ!!」

 

霊夢など既に眼中に無くなっているベグロムは一喝し遺体のソルを見つめる

 

「こんなバカな事が……有り得ねぇ……!ソル様が負けるなんて……ふざけろクッソオオッ!ガルヴァス様は……こんな時にガルヴァス様は何をしてやがるんだ!?」

 

信じられない光景に語気荒く叫ぶ

 

「ガルヴァスはオレが殺した」

 

「……テメェはハドラー!!?」

 

バーンの前に出たハドラーがベグロムと相対する

 

「ッッ……本当……なのか?」

 

「お前のその赤き髪が証拠だろう……ガルヴァスの遺志が宿ったその髪が何よりの……」

 

「~~~~~ッッ!!?」

 

ベグロムの衝撃は凄まじい

 

魔王軍の総大将がやられ、主である魔軍司令は既に死んでいると言われたのだから

 

「……ッ!!」

 

溢れ出す怒りを握り締め、主の武器である槍をハドラーへ突き立てる

 

「勝負しろハドラァァァ!オレは……お前が許せねぇぇぇ!!」

 

他が戦意を失う中

 

ベグロムは猛々しい咆哮をあげ戦う意思を見せた

 

皆と同じく崇めたソルの為に、何より忠誠を誓った主・ガルヴァスの仇を取る為に魔王軍で唯一残った最強の将は意地を見せる

 

「ハドラー……」

 

「お待ちをバーン様、ここはオレがやるのが筋と言うモノ……お任せください」

 

戦争に関係が無かったからと代わりに受けようとしたバーンを押さえてハドラーはヘルズクローを構える

 

「来いベグロム……お前の無念、受け止めてやる」

 

「ハドラァァァァァァァァ!!」

 

槍を構えベグロムは突撃した

 

 

 

ドスッ……

 

 

 

「グハ……アァッ……!!?」

 

その槍が仇を穿つ事は無かった

 

「……紙一重だった、霊夢と死闘を繰り広げもはや死に体同然のその体でよくぞ、よくぞこれ程までの意地を見せた……見事だ、ガルヴァス最強の臣下よ……奴も冥府で誇っていよう」

 

胸を貫いたヘルズクローを引き抜き背を向ける

 

「……ゴフゥ……」

 

トドメを刺されたベグロムはヨロヨロとソルの元へ向かう

 

「ハァ……ガルヴァス様……ハ……ァ……ソル……様……」

 

死んでしまった主の代わりに主が忠誠を誓った神の元に辿り着く

 

「オレも……そちらに……向かいます……」

 

潰えた事であったがベグロムはその言葉を口にする

 

「魔王軍に……栄光……あ……れ…………」

 

ソルの傍に倒れ

 

息を引き取った

 

 

 

 

「……!」

 

ザワッ……

 

そのベグロムが最期まで見せた戦士の生き様が波紋を呼んだ

 

「オレも……魔王軍の戦士だ……!」

 

「死ぬならば……戦いの中で……!」

 

戦意を失っていた兵士の一部が立ち上がり始めたのだ

 

「フッ……流石は戦いに生きたソルの兵士、まだこれだけ戦う気迫を見せるか」

 

数は100にも満たない程度だったがその気迫は凄まじいものが有る

 

「このハドラー、最後までお付き合いしましょう」

 

「……すまぬな、お前には苦労ばかり掛ける」

 

「なに……紙芝居の知恵を頂いた礼とでも思ってくれれば構いませぬ」

 

「感謝する……余の最も古き親しき漢よ」

 

二人の横に妹紅とレミリア、霊夢が並ぶ

 

「よし……やるか!」

 

「最後の仕上げといきましょう」

 

「相手取られたのはちょっと癪だけど……まぁいいわ、賽銭で許してあげる」

 

加えて幽々子や映姫など残っていた者達とまだ辛うじて戦える者が加わる

 

 

「待てよ!」

 

 

掛けられた声に見ずに微笑むバーン以外の者達が振り向いた

 

「私達もやるぜ!」

 

そこには目を覚ました魔理沙、パチュリー、フランと瞳から解放された大妖精が居た

 

「あたいをのけものにすんなー!」

 

同じく目を覚ましたがフラフラのチルノも列に加わる

 

「儂も手伝ってやるぞバーン」

 

「オイオイ待ちなァ!私等もやるよ!当然さね!」

 

『黒き霧はいつまでもバーン様と共に!』

 

忍とウォルター、萃香とミストも入り魔王軍と同じ数が揃う

 

「来い……」

 

その戦いを以て、戦争は幻想郷の勝利で終わった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝ったんだな!お疲れ!」

 

妖怪の山からにとりが戻り辺りを見回す

 

「残ってるこいつら……これからどうすんの?」

 

戦わなかった残る魔族を指差す

 

「ソルの世界の魔界に帰らせる、その後は自分で決めればよい」

 

「ふーん……その前に仲間の死体どうにかさせないとね」

 

話しているとガチャガチャと機械音が近付いてきた

 

「終わった様だな」

 

バーン達の前に魔王軍の中で唯一軍団長と副団長以外が無傷の機甲師団がバベルボブルを先頭に現れた

 

「あ?何しに来たんだよお前等?」

 

「お前達を皆殺しにだ」

 

「「「!!?」」」

 

バベルボブルの言葉に幻想郷全てが戦慄する

 

「今のお前等は力を使い果たしたゴミクズ同然……容易く捻り、オレ達が魔王軍の新たな支配者として世を統治する、勇者王……とでも名乗ろうか」

 

「バベルボブル……テメェ……!!」

 

予想だにしていない盤外からの奇襲!

 

「さぁ……死ぬがよい!!」

 

秘めた暗黒の野心を出したバベルボブルの漆黒の殺意が突き立てられる

 

「と言うのは冗談だ」

 

「クッソーこんな事ならもっときゅうり食べとけば良かっ……はぁん?」

 

素っ頓狂な声をあげるにとりに珍妙な決めポーズを取るバベルボブル

 

「……どういう事だよ?」

 

「言ったではないか、冗談だと」

 

「……」

 

「驚いたか?なぁ?驚いたか?」

 

「……ロビン」

 

少しだけ修理されたロビンのモノアイが赤く光る

 

「ヒャド!ヒャド!ヒャド!ヒャダルコ!ヒャド!ヒャダルコ!マヒャドー!!」

 

「UGYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!?」

 

にとり怒りの制裁!

 

バベルボブルをやっつけた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す"み"ま"せ"ん"て"し"た"……」

 

「額から血ィ噴き出すくらい地面に擦りつけんかいオルァ!」

 

「そろそろ勘弁してやれにとり、泣いてるぞ……」

 

頭を打ち付ける様に土下座させられバベルボブルはようやく許された

 

「それで?用はなんだよ?質の悪い冗談言いに来ただけじゃないんだろ?……もし本当に言いに来ただけだったら朝日はもう拝めないと思えよ」

 

「あ、ああ……オイ!」

 

バベルボブルが命じると沢山の宝箱を持った団員が蓋を開ける

 

「何コレ?全部葉っぱじゃん、薬草?」

 

中に入っていたのは溢れんばかりに詰められた葉っぱ

 

「やる、使うと良い」

 

「だからコレ何だよ?」

 

「世界樹の葉だ」

 

「「「!!?」」」

 

また幻想郷は驚愕する

 

「いや世界樹ってコレお前……全部?」

 

「そうだ、一万枚用意してある、足りる筈だ」

 

「一万……!?何でそんなに持ってるんだよ!?」

 

「昔に機械を弄ってた時に偶然なんでもコピーするマシンを作りあげてな、備えに拾った世界樹の葉を増やしてたら調子に乗って100万枚くらい作ってしまっていたのだ」

 

「アホの癖にとんでもない物を……いやアホだから出来たのか……?っていうかなんで使わなかったんだ?使ってたら余裕で勝ってただろ?」

 

「馬鹿を言うな、戦いを求めた魔王軍の奴等に使う気も無いし使われて欲しくも無かった筈だ、これは魔王軍が攻めた世界に配る為の物だ」

 

バベルボブルは今まで戦いを仕掛けた世界全てに世界樹の葉を渡していた

 

戦いを挑まれた被害者に詫びる為に

 

「オレ達がどれだけ勝手な事をしてきたかはわかっているつもりだ、ならばせめてと渡してはいたが救えなかった者も大勢居る」

 

生き返らせるべき肉体を失った者は世界樹だろうが生き返らせれない、テリーの居た世界で幻魔王の死と共に狭間に消えた勇者達等もそれに当たる

 

「まぁそういう訳だ、遠慮せず受け取れ……何故睨んでいる河城にとり」

 

にとりがジト目で睨んでいる

 

「そんな事されたら今までの私達の戦いはなんだったんだー!って言うか……」

 

「あぁ……言いたい事はわかる、では要らないか?」

 

「要るよ!ちょっと納得出来なかっただけさ」

 

「そうか……では……!」

 

その時バベルボブルは名案を思い付く

 

「跪いて命乞いをすればやろう」

 

さっきのお返しとばかりにニヤニヤと笑った

 

「ブッ殺してから奪い取っても良いんだぞ?」

 

「どうぞお納めください」

 

殺意の波動に目覚めたにとりの凄味でまた泣かされた

 

 

 

 

 

異端の勇者の計らいによって幻想郷は在りし時に戻れる事になり、また皆で生きられる喜びを分かち合う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

太陽が……幻想を照らしている……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

同じ太陽が照らすその場所にそれは居た

 

 

「…………」

 

 

戸愚呂の兄である

 

 

 

――兄は、2度と自由へは戻れなかった……

 

  破壊と再生を繰り返し永遠に無限獄をさまようのだ

 

  そして死にたいと思っても死ねないので

 

  そのうち兄は考えるのを……          --

 

 

 

 

(止めるわけねぇだろうがぁ……!!?)

 

兄の肉片が内心叫ぶ

 

(ククッ……ヒャハッ!弱まってきたぞ……!そうだ、闘気に無限など有るものか!もうすぐで再生が破壊を上回る……!その時は後悔させてやるぞ!ヒャハハハハハ!!)

 

不死身の再生能力を持つ兄はまだ心が折れず生きていた

 

本物の漆黒の殺意を持って

 

 

「やっと見つけた」

 

 

その兄の前に一人の神が姿を現した

 

(お前は……確かへカーティア!)

 

「そうよ、にしても面白い状態ねぇ……成程、そんな肉片で停滞されてちゃ小さ過ぎて見つからない訳ね」

 

(オレを探してたのか……?なら好都合だ、へカーティア!この忌々しい闘気からオレを解放しろ!)

 

「怒鳴らなくたって念で聞こえてるよ、解放するのは良いけどそれからどうすんの?魔王軍は負けちゃったよ?」

 

(決まっている!奴等を皆殺しにしてやるんだよ!)

 

「へぇー……どうやって?」

 

(黒のコアで吹き飛ばす!狭い場所だ!二、三個爆発させたら誰も生きちゃいないだろう)

 

「それは無理、今幻想郷には黒のコアを転移させる術式が組まれてるからね」

 

(ならピラァだ!パレスに戻って直接吹っ飛ばしてやる!)

 

「……やっぱりお前が一番危ないよね」

 

へカーティアの表情が変わる

 

(それがどうした!さっさと解放しろ!)

 

兄は気付いていない

 

「私はね……幻想郷が好きなのよ」

 

(なんだ?お前はここを売った裏切り者だろうが!今更何を言っている!)

 

「でも純狐の方が大事だったから付いていった、だけど幻想郷も傷は少なくてあって欲しい、どっちが勝つにしてもね」

 

(何を……さっきから何を言っている!?)

 

「いやだからね……魔王軍の理念に殉じない唯一の危険、不安の種……幻想郷を滅ぼそうとするお前を……始末しようと思ってるのよ」

 

(なっ!!?)

 

兄の驚愕と戦慄は凄まじい、助けに来たと思っていた者が処刑人だったのだから

 

(う、裏切る気かへカーティア!?)

 

「裏切る?純狐は仲間になったけど私は仲間になってたつもりはないよ?こんな時だけ都合良いね快楽殺人者君」

 

(クッ……だがオレを殺す事は……)

 

「だねぇ、仮に私が全力でも無理だろうねぇ、その不死身さはまだまだ未熟だけど神の領域に在るし、完全に滅しても時間さえ掛ければ存在を再生しちゃうわねぇ」

 

(わかっているなら諦めるんだな!お前にオレは殺せない!)

 

「そんなお前に相応しい処刑方法を用意してあるわ♪」

 

笑顔でへカーティアが指を鳴らすと空間が開き中からクラウンピースが顔を出した

 

「連れてきましたよご主人様!」

 

出てきたクラウンピースに続いて一人の女性が出てくる

 

「まさか貴方に頼み事をされるとは……」

 

ドレミー・スイート

 

夢を喰い、夢を創る程度の能力を持つ夢の世界に住む妖怪

 

「お使いご苦労様」

 

「褒めて!もっと褒めて!」

 

幻想郷に一番危険な者の排除、それがへカーティアの目的だった

 

魔王軍を見定めた時、実力からゼッペルやヴェルザーを警戒していたへカーティアだったが二人が倒された事により力は小さいが思想が一番危険な兄を目標として探していたのだ

 

だが兄の始末にドレミーが必要だったへカーティアは密かにクラウンピースに命を与え暗躍させていた

 

夢の世界に居るドレミーを連れて来る為に昔にドレミーと交信した事のある稀神サグメと接触する必要があったからだ

 

しかし月の住民でもあるサグメも住民と同じく収容所に入れられており幻想郷の裏切り者である自分が直接接触するのは不可能、そこで存在を見せていなかったクラウンピースを使って月を攻めていた部隊を誘導させ収容所を解放、月の部隊にもバレないよう秘密裏にサグメと接触しドレミーの協力を取り付けさせていたのだ

 

 

 

「それで私は何をすれば……?」

 

「こいつにある夢を見せてやって欲しいの」

 

「ある夢を……?誰かの夢ですか?誰です?」

 

「ちょっと耳貸して……」

 

「ッ!?正気ですか!?そんな事をすれば間違いなく精神が……」

 

「いいからいいから!こいつ野放しにしたら幻想郷が危ないから是非やっちゃって!」

 

「……わかりました」

 

ドレミーは能力を使い兄に夢を見せる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だ……ど、何処だ此処は……」

 

兄は暗い場所に居た

 

「残骸……血の臭い……」

 

辺りには暴れ尽くされた様に何かの残骸が散らばり誰かの血が地獄の様に飛び散っている

 

 

 

 

 

 

 

          誰だ……

 

 

 

 

 

 

 

暗い声が響く

 

「ッ……!!?」

 

兄の体が震えだす

 

声だけで身動き出来ない程の恐怖に襲われる

 

 

 

 

 

 

 

 

     此処を地獄の帝王が夢見る世界……

 

 

  破壊と殺戮の神である我が世と知っての狼藉か……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッ……ヒィッ!!?」

 

兄の前に暗黒の巨影が現れる

 

 

 

 

 

 

 

 

      我に破壊出来ぬモノ無し……

 

 

 

       死ね……不死身の魂よ!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ウ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ァ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(クギッ……ィ……ァ……ァ……)

 

兄は虚ろで力無き呻き声をあげている

 

「こりゃ再起不能だねぇ……アハハッ!完全にイカレちゃってる!」

 

「当然です……かつて幻想郷を侵略した地獄の帝王が今も見続ける破壊と殺戮の夢……誰も敵わない夢幻の悪夢、暗き夢(破壊神)に触れたのですから……」

 

兄は魂を破壊されていた

 

(ィ……ァギィ…………)

 

肉体は不死身でもそれを操る精神と邪悪な魂がなければ意味が無い

 

「後は宇宙に捨てたら終わり!じゃあね~♪」

 

兄の肉片を開いた空間に投げ込み始末は完了された

 

「では私はこれで……」

 

ドレミーが夢の世界に帰るのを見届けたへカーティアはフゥと溜め息を吐いた

 

「……もう出て来て良いよ、ヤマザナドゥ」

 

告げると姿を消していた映姫が現れる

 

「へカーティア様……」

 

「残ってたのバレちゃったね、それでどうしたのヤマザナドゥ?」

 

「……貴方様は……幻想郷の敵なのですか?」

 

映姫は確かめる様にまた最初に聞いた問いを問い直す

 

「わかってるんでしょ?私にどんな理由があろうが幻想郷を裏切った時点で貴方の能力では既に黒だって」

 

「……はい」

 

「嘘でも敵じゃない、と言って欲しかった……って顔しないの、私は幻想郷より純狐を取った大罪神……やりなさい」

 

「……失礼します」

 

映姫は苦悶に満ちながら最後のへカーティアを拘束する

 

「あーこのあと純狐と一緒に裁判かぁ……まっ死刑だろうなぁ~」

 

ヘラヘラと笑いながら幻想郷の危機を救ったへカーティアは地獄に消えて行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これで本当に全ては終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

王の可能性が呼んだ因果の戦いは終わりを迎える

 

 

 

勝ち続け、己にすら勝った太陽神

 

 

負け続け、最後に真の勝利を得た大魔王

 

 

 

一人の男の運命に翻弄された幻想郷は求めた未来を掴み取り安息の日々を取り戻す

 

 

 

 

 

 

 

 

ファンファーレが鳴り響いている……

 

 

終曲(フィナーレ)が綺麗に決まる様に強く、高らかに……

 

 

そして……華やかに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バベルボブルよ、頼みが有る」

 

「……出来る事なら」

 

「ソルの墓を……作ってやってくれぬか?奴が叶えた……陽の射す魔界に……余ではそちらに行けぬ故……頼む」

 

「……妙な感じだ、ソル様と同じ存在に頼まれるなんて……承知した、元から皆の墓を作るつもりだったのでな、任せてもらおう」

 

「ありがたい」

 

「だが……何故お前が敵だったソル様の墓を願う?」

 

「大願を叶えた称えるべき余であった事、そして……まがりなりにも……」

 

バーンはレミリアを見た後、抱き抱えたソルを見ながら呟く

 

「同じ女を……愛したからだ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異なる太陽達が織り成した太陽(マイソロジー・)(オブ・)神話(ザ・サン)

 

 

 

 

 

 

神話の終わりは王が贈った鎮魂曲(レクイエム)で幕を降ろした……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




決着です。
冒頭のやり取りに心当たりがある人は中々のガンダムファンと思います。

しかしここまで長かった……劇場版なんて言っといて無印より分量が多い!戦いばっかりでしたけどよく書いたものだと自分でも驚いてます。

・現在の主な犠牲者(最終結果)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、にとり、霖之助、アリス、美鈴、幽香、竜王、紫、青娥、芳香、輝夜、常闇ノ皇、忍、バラモス、靈夢、正邪、カメハ、ロラン、ルナ、早苗、藍、諏訪子、さとり、神奈子、橙、依姫、妖夢、豊姫、ゾーマ、文、勇儀、ロン 計34名 最終兵数300

魔王軍 六将(6/6)、キルギル、親衛騎団(6/6全滅)、純狐、へカーティア、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)、テリー、ゴリウス、キル、ガルヴァス、グレイツェル、ヴェルザー、ゼッペル、災厄の王(ジャゴヌバ)、ナイト(ダイ)、ソル(平行世界のバーン) 計28名  最終兵数900(降伏)
                   決着!!

次は毎度恒例お馴染みのアレ回になります。

次回も頑張ります!

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