東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第38話 王女が唄う運命歌

 

 

 

 

 

 

       放つ光が空に墜ちていく

 

      望むだけの熱を捧げながら……

 

 

 

 

 

 

      死に逝く星の生んだ炎が……

 

       最期の夢に灼かれて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

静かに、ただ静かに目を閉じ、祈る様に彼は待つ

 

「レミリア……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     祈りの儚さが、求める切なさが……

 

 

 

 

      二人の出逢ったときを揺らす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハドラー!」

 

剣を振るっていた男が叫ぶ

 

「……スマン」

 

それだけ告げて走って行った

 

『何処かへ行ってしまいましたよ!どうしたんでしょうか急に!?』

 

「……あの男が逃げる訳が無い、奴にとって余程の事が起きたのだろう、おそらくは女絡みか……オレに止める権利は無い」

 

『貴方だけで大丈夫なのですか?』

 

「フンッ……余計な荷物が消えて動きやすくなった、オレだけで持たせてみせる」

 

『では頑張りましょう!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今……なんて言ったの?」

 

レミリアは止まらざるを得なかった

 

「妃……そう聞こえたけれど?」

 

今すぐにでもぶつけたい程の激情であったが無視出来ない言葉を聞いてしまったからだ

 

「パレスから見た時から面白いとは感じてはいたが、直に見るとまた違うものだ、まさか余にこの様な言葉を出させるとは……」

 

ソルはとても穏やかな微笑みを向けている

 

「確か聞いた名はレミリア・スカーレットだったな……そなたは余が倒した使徒共とは似て非なる、いや……より上位に居ると表現すべきか、そなたはバーンにとってどんな存在なのだろうか?」

 

ソルにそれはわからない

 

変わる事無く覇道を進んだ千古不易の神にそれは理解出来ない無価値同然のモノだったから

 

「私は……私こそ友を越えたバーン唯一の妃よ」

 

問いにレミリアは訝しむ様に答えた

 

「やはりそうであったか、成程な……」

 

得心のいったソルはレミリアを見つめる

 

「よかろう、余に付いてくる事を許そう」

 

そしてそんな言葉を出した

 

「……」

 

レミリアに動揺は無い

 

いや、動揺は有ったがそれは驚きからではなくまた別の事

 

「……もう一度聞かせて貰えるかしら?」

 

「そなたを余の王妃にしてやると言っているのだ、余の妃として歌姫となり、魔王軍の癒し手を担って貰う」

 

 

ビシッ……!

 

 

レミリアの足元の大地に亀裂が入る

 

「……もし、それを飲んだら戦いを今すぐ止めてくれる?」

 

「それは出来ぬ、これはこやつ等が望んだ戦いだからだ、余の意思が介入する余地は無い……そなた以外が全滅すれば終わりとなる」

 

 

ビシィッ……!

 

 

亀裂が更に広がる

 

 

「誇るがいい、そなたは余の眼に叶ったのだ、もう二度と無い事やもしれぬ……フッフッフ……」

 

 

ビシィッ!

 

 

ついにソルにまで届く

 

 

「それに……構うまい?同じなのだからな……寧ろ惨めな敗者より余の方が良かろう?」

 

 

「キサマァァァァッ!!」

 

 

紅い力が爆ぜた

 

 

「殺す理由が4つ有る……」

 

 

憤怒の紅の中でレミリアは一指を突き出す

 

「幻想郷に戦争を仕掛けて来た事……」

 

そもそも幻想郷は何もしていない、平和な時を過ごしていた幻想郷に魔王軍が攻撃をして来たのだ

 

無理矢理に戦わされて命を散らしているのだ

 

「私の大切な仲間と、生涯の友を傷付けた事……!」

 

二本目を突き出す

 

絆を深めた者達を傷付けた事は許し難き罪、それもまさしく万死に値する

 

「私を妃にするとほざいた事……!」

 

三本目が出される

 

言葉だけで中身の無いそれはバーンと互いに真の愛情を持つレミリアには侮辱などと言う言葉では済まされない暴言

 

「そして……何よりもだ……!!」

 

四本目は出されず握り締められる、それだけレミリアにとって最も許せない事だったから

 

 

「何よりもバーンを!私のバーンを侮辱した事を許さない!!」

 

 

これだけは本当に我慢ならなかった

 

戦いの疲れ等吹き飛ぶ程にレミリアは激怒していた

 

 

ソルとバーン

 

勝者と敗者で違いはあるがレミリアからすれば別人と言っていい程違う

 

そしてレミリアはそんなバーンを何よりも誰よりもこの上なく愛していた

 

負けてしまったから幻想郷に導かれ

 

負けてしまったから情を知り、絆を知り、愛を知ったバーンだからこそ惹かれ、好きになり、愛した

 

それはレミリアの全てより重い最上の事であった、バーンを救うのに自らの命を差し出す事に何ら躊躇いが無かったのがそれを証明している

 

そのバーンを否定されたから許せない、同じ存在だから殊更に

 

 

 

 

「懺悔を聞くつもりも慈悲をくれてやる気も無い……死んで詫びろ」

 

死ねとレミリアはソルに言う

 

心の奥底にバーンと同じ存在だからとほんの少しだけ有ったわかりあえるかもしれないという儚い願いは完全に消えた

 

 

ゴゴゴゴ……

 

 

故にもう迷わない

 

紅く荒ぶる頂点の力が辛辣に告げている

 

殺してやると

 

 

「……レミリアよ」

 

同じ頂点でさえ近付かないまでの怒気と力を向けられてソルに変化は無かった

 

恐れも何も無くまるで幼子の駄々を聞いている様な穏やかな笑みを向けていた

 

「そなたは勘違いをしている」

 

それはつまり……

 

「そのような決定権はそなたに無い、そなたの意思は余が決める」

 

見下しているのだ

 

妃にすると言っておいてまでその扱いはまさに物

 

道具となんら変わりはなかった

 

 

ドウッ!

 

 

衝撃波が広がる

 

「どれだけ人を馬鹿にすれば気が済むんだ……?お前……?」

 

憤怒の形相で爪を突き入れているレミリア

 

「馬鹿にしてなどいない、余の偉大さを理解していないからそう思うのだ」

 

涼しい笑みで手を掴み防ぐソル

 

「さっきから……何様のつもりだ!!」

 

「太陽神……天魔を統べる魔界の神だ」

 

生成したレミリアの魔槍の一撃が掌底で弾かれ二人の距離が離れる

 

「フン……そうだったな、お前は太陽神なんてくだらない冠を付けていたんだった……神様か……それがなんだ?私は誇り高き紅月の王女!照らす陽光は私が決める!例え神だろうと私は従わない!!」

 

意思を示し、手を天にかざす

 

 

「冥符「紅色の冥界」!!」

 

 

放たれた紅い力が霧に変わり一帯を紅霧で包む

 

「力を底上げする限定空間……しかし紅い霧とは趣向を凝らすではないか」

 

紅一色に染まった景色、己にのみ影響する領域で更に力を上げる

 

「天罰「スターオブダビデ」!」

 

「紅符「スカーレットマイスタ」!」

 

「夜符「クイーン・オブ・ミッドナイト」!」

 

領域全てを埋め尽くす魔弾、弾幕と言うに生温い、包囲幕とでも言うべき密度

 

「魔力弾と言えどさすがにこれはマホカンタとフェニックスウィングでも捌き切れぬ」

 

逃げ場無く全方位を囲む弾幕、しかしソルは余裕だった

 

「撃たぬのか?」

 

目を閉じ笑ってさえいる

 

「……言われなくてもそうするさ」

 

レミリアは全ての弾幕をソルへ放つ

 

 

カッ……!

 

 

ソルの額にある鬼眼から波動が全方位に放たれ、弾幕が止まった

 

「数が多ければ良いと言うものではない、これだけ作ればその攻撃法式故にいくら力があろうが1つ1つは大した物ではなくなる」

 

「……ッ!?」

 

レミリアから魔力操作を強引に奪い、全ての弾幕を掌に集める

 

「これが通用するのは同レベル程度まで……悪手であったな」

 

魔力で握り潰し、レミリアへ顔を向ける

 

「そうでもない」

 

「ムッ!?」

 

魔槍がソルの頬を掠めた

 

ソルの顔が驚きに変わる

 

「そぉらッ!」

 

離れた後方で着地したレミリアがすかさず振り向き様に魔槍を投げ放つ

 

「……」

 

しかしそれは掌底で弾き飛ばされた

 

「チッ、惜しい……憎たらしい顔を吹っ飛ばし損ねた」

 

忌々しくレミリアは呟き姿勢を正しながら浮かび上がる

 

「破られる前提で既に次の二手、三手を打っていたか」

 

先の弾幕は布石

 

ソルなら破れるとわかった上で弾幕を放った時に飛び出していた、物量で目眩ましを兼ねて本命の魔槍の一撃を狙っていたのだ、更には避けられた時を考え追い撃ちと反撃を防ぐ意味で魔槍を投げた

 

「優秀な者なら当然の事でしょう?戦いとは常に先を見て行うもの、そしてままならぬもの……あの破り方は流石に想定外だったわ」

 

得意気ではあるが苦さも含んだ表情で新たな魔槍を生成する

 

「アレだけの力を囮とするとは……それにそなたと同格の者を倒した余に臆さずに向かってくる度胸も有る、先の弾の幕も余程熟達してなければ不可能な技、大胆にして繊細、加えて高い戦闘技量……ますます気に入った」

 

「……喋るな、その顔で言われると腹が立つ」

 

頬の傷を既に治したソルに魔槍を構え直しレミリアは翔る

 

「ハアッ!」

 

薙ぎ払いは手刀に受けられる

 

「ハアアアッ!」

 

連撃を繰り出すが全て防がれる

 

「チィ……」

 

吸血鬼のスピードで距離を離しながら背後を取る様に動き弾幕を放つ

 

「……」

 

当たる弾だけ見切り掌底で弾きながらソルは手をかざす 

 

「カイザーフェニックス」

 

放たれた炎鳥が弾幕を焼き払いながらレミリアへ飛んでいく

 

「クッ……!?」

 

炎鳥へ弾幕を集中させるが全て焼き払われる

 

「紛い物がぁ……鬱陶しいぞ!」

 

槍を構え突き入れる

 

 

「魔槍「ブラッディースクライド」!!」

 

 

回転する槍が炎鳥を貫き消滅させる

 

「ほう……ヒュンケルの技ではないか、余のカイザーフェニックスを貫くとは、奴より威力は遥か上か」

 

「ハアアアアアアッ!」

 

ソルへ肉薄し槍を突き入れる

 

「フッフッフ……」

 

やはり防がれる

 

「くっ……ハアアアアアアッ!!」

 

何度も槍を振るうが当たらない

 

「そなたに妹程の力かガルヴァス程の槍技が有れば当たるのだがな……そなたは良く言って万能、悪く言えば半端だ……」

 

「黙れ……ッ!」

 

弾き飛ばされたレミリアは弾幕を放つ

 

「通常のそれ(弾幕)も風精の技には及ばず力の魔法使いの威力にも遠い……」

 

それも全て効かない

 

「そなたはそんな特化する者達の穴を埋めるのが役割か、故に一人ではこうなる」

 

難なく防ぎきったソルが笑っている

 

「まぁ……余が相手では誰もが同じ事だがな」

 

「調子に……乗るなァ!」

 

飛び出すレミリアがブラッディースクライドをソルに放つ

 

「……わかっていても止めれぬ、それがここの者達の性か」

 

ソルの構えがとられた

 

 

 

天  地  魔  闘  !!

 

 

 

「カハッ……!?」

 

炎爆から吹き飛んだレミリアが地に倒れる

 

「余には勝てぬよ……そなたでは」

 

構えを解いたソルが見下す

 

「クッ……ウゥ……!」

 

「立つな、加減をしたのくらいわかる筈だ」

 

「……チッ」

 

レミリアは聞かず、立ち上がる

 

「舐めるなよ……この程度で折れる程スカーレットの誇りは……私達の絆は脆くないぞ……!」

 

「……死なれては困るのだがな」

 

諦めぬレミリアに致し方ないと攻撃の意思を取るソル

 

 

 

「そうですとも!」

 

 

 

鎌鼬が飛来しソルが払う

 

「来ましたよレミリアさん!絆の為に!」

 

「貴方……」

 

風のマントを羽織る文

 

 

 

ズドオッ!

 

 

 

側方から飛び出る角が生えた影と双剣を構えた影がソルに肉薄する

 

 

「そうさ!やってやろうじゃないか!」

 

「よくも妖夢をやってくれたな、許さんぞソル……!」

 

 

勇儀とロン

 

ザングレイと死闘を繰り広げ更に戦い続けていたにも関わらず気にもせず来た勇儀と妖夢がやられたのを知り激情に駆られて来たロン

 

「貴方達……」

 

幻想郷を守る為に1つになった絆が此処に3人を集めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グハッ!?」

 

打ち飛ばされるベグロム

 

「ゴフッ……グアアァ……」

 

ワイバーンと共に苦しみ喘いでいる

 

「……もう良いでしょ?あんたは私には勝てないわ」

 

ダメージは有るもののまだ余裕が見える霊夢は告げる

 

「ざけんなぁ……まだ負けてねぇぞオレぁ……!」

 

ベグロムは霊夢に向かう

 

「諦めなさいっての……」

 

「オグッ!?」

 

弱り、随分差がついたベグロムはまた打ち飛ばされ血を吐く

 

「カハァ……ハァ……ハァ……」

 

勝負は着いている、今のベグロムには間違いなく勝ちは無かった

 

「オレは……ガルヴァス様が認めてくれた、六将最強の……ドラゴンライダーなんだ……」

 

「まだやる気なの……その気概は今の当代に見習わせたいくらい認めるけど……今は時間が無いのよ」

 

出来るなら殺害を良しとしない霊夢は霊力を高めベグロムが乗るワイバーンの足元に陣を描く

 

「そこで大人しくしときなさい、終わったら出してあげるから」

 

閉じ込めて身動き出来なくしようと強力な結界を作り始める

 

「グオ……オオッ……!」

 

「抵抗しても無駄、黙って大人しくしてなさいって」

 

抵抗虚しく結界は完成に進む

 

「ざけん……なぁ……!オレは……六将最強なんだぞ……!」

 

ベグロムの意思が燃える

 

「最強はぁ……誰にも……負けないから……!」

 

その誇りが、最強であるという自負が、そして六将で誰よりも高かったガルヴァスへの忠義が!

 

 

「最強なんだよッ!!」

 

 

ズオッ!

 

 

ベグロムから発せられた力が封印結界を吹き飛ばした

 

「嘘でしょ!?」

 

もうそんな力も残っていなかった筈だと驚く霊夢の前にベグロムは姿を見せる

 

「髪……髪が……」

 

ベグロムの角だけであった頭皮から燃える様な赤い髪が生えていた

 

「……!オレにこんな……ガルヴァス様と同じ髪が生えるだと……?」

 

当の本人であるベグロムも意味がわからないでいた

 

ベグロムはガルヴァスが死んだ事を知らない、まだガルヴァスはこの戦場の何処かで戦っていると思っている

 

だから余計にわからない

 

「へっ……まぁいい……」

 

それはベグロムが忠義を尽くすガルヴァスの為に最強であろうとしたから生まれた現象であり、最強であろうとするが故に更なる高みに昇格した証でもあった

 

「まだ終わってねぇぞオラァ!」

 

ワイバーンを操り霊夢に突撃する

 

「ッウ!?」

 

受け止めた霊夢の顔が歪む

 

(こいつ……!この土壇場で潜在能力を引き出した!)

 

上昇した力に押される

 

「調子に乗ってんじゃない!」

 

落ち着きを取り戻した霊夢が押し返す、まだ霊夢の方が地力は上

 

「ギュアアッ!」

 

「なっ!?」

 

ワイバーンの防げた攻撃を防げず尾に打ち飛ばされた

 

(あの竜の力も上がってる、ドラゴンライダーのあいつの力に比例しているのね……)

 

頬を伝う血を拭いながら霊夢は冷静に戦力を分析する

 

(あのガーゴイルだけならまだ私が上、だけど竜を加味すれば私より上……か……)

 

封印などせずさっさと退治すれば良かったと後悔するがもう遅い

 

「ハァ……イヤになるわね」

 

それでも退きはしない

 

「泣き言は言ってらんないわね……私が倒す!」

 

ここ(幻想郷)を守る博麗の巫女なのだから

 

 

「グオラアアアッ!!」

 

「ハアアアアアッ!!」

 

 

逃げはしない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン……」

 

鼻を鳴らしたソルが受け止めていた拳と剣を掴みレミリアに向け投げ飛ばす

 

「悪かったね、ポンポン居場所が変わるから遅くなっちまった」

 

「命令違反だが来させて貰った、妖夢をやった奴を黙って見てられなくてな、悪いな総指揮官」

 

「そんな事無いわ……私だって同じだから……助かるわ、ありがとう」

 

危険を省みず来てくれた事が嬉しいレミリアの表情が綻ぶ

 

「しかし……アレがソルですか……本当にバーンさんとそっくりですねぇ」

 

来たのは良いものの冷や汗を掻きながら佇むソルに呟く文

 

「妖怪……天狗か、そして黒鬼とは違う鬼と名工ロン・ベルクの加勢……」

 

ソルは冷ややかに見つめている

 

「無意味だな、その程度では彼我の差に些かの影響も無い」

 

3人の加勢など気にもしていない

 

「らしいです、どうですか皆さん?」

 

「まっ、間違っちゃいないねぇ……あたしも来たのは良いが限界近くてね、奴さんの力考えたら1発が限度だろう」

 

「だな、俺もまともに動けるのは1回だけだろう」

 

「らしいですよレミリアさん?ちなみに私も同じ考えです!」

 

3人がレミリアを見る

 

「では……その1回、私に預けてくれないかしら?」

 

「策が有るのかい?」

 

「策と言うよりは賭けだけどね」

 

「良いだろう、どうせ破れかぶれで来たんだ、付き合ってやる」

 

「やりましょう!」

 

3人は快諾してくれた

 

「同時攻撃して欲しいの、3人で一斉に……後は私が決めるわ」

 

「よっしゃ!任せな!」

 

レミリアの願いを受けて3人は並び立つ

 

「……現実を見せてやろう」

 

ソルも受けて立つ

 

「行くよ!」「行くぞ!」「行きます!」

 

一斉に3人が飛び出した

 

 

「四天王奥義「三歩必殺」!!」

 

北十字星剣(ノーザンクロスブレード)!!」

 

「神風「志那都比古(シナツヒコ)の舞」!!」

 

 

レミリアの言葉を信じ、持てる最大の一撃を放つ

 

 

 

 

 

       天       地

 

 

 

       魔       闘

 

 

 

 

 

ソルの奥義が幻想に現実を突きつける

 

「ッ……ッッ……!?」

 

真っ先に来た文の神速を見切りフェニックスウィングの掌底で弾き返す、自らの速度が仇となり壁に衝突した様に身体中の骨が砕けていた

 

「ゴ……ハッ……!?」

 

ロンの構えるその双剣は例え己の手刀だろうが折れないと見抜かれ、秘剣を振るうより速くカイザーフェニックスを直撃させられ魔炎で焼き飛ばされている

 

「グアアァ……!?」

 

最後の勇儀もロンと同様、技を放つ前にカラミティエンドで袈裟に切られ血の雨を降らせていた

 

「フン……」

 

難なく払ったソルが倒れる3人に笑みを見せる

 

「楽しそうじゃないか……!」

 

見せた瞬間……そこにレミリアがそこに居た

 

「!?」

 

天地魔闘を行った後に生じる一瞬の隙、バーンを知るが故に弱点とも言えぬ隙が有ると知っていたからレミリアはそこを突いたのだ

 

 

「ハアアアアアアーーーッ!!」

 

 

魔槍がソルに向かう

 

 

ドシュッ!

 

 

「グッ……!!?」

 

レミリアの渾身の魔槍はソルの胸を貫いた

 

「その分の対価は……頂いたわよ……!」

 

心臓を貫く槍を握り締めながらレミリアは睨む

 

3人を犠牲にして届かせた一撃

 

たった一撃だが確かに届いた一撃

 

「紅符「不夜城レッド」!!」

 

追撃の手は緩めない

 

「ハアアアアアアッ!」

 

紅き力が十字を形取り、レミリアとソルを覆い波状攻撃の檻に閉じ込める

 

 

ズガガガガガガ……!

 

 

止まぬ紅撃

 

「……レミリアよ」

 

ソルが口を開く

 

「黙れ、そのまま死ね」

 

「まぁ聞け……」

 

強張っていた姿勢はいつの間にか緩んでいた

 

「余はな、敢えて受けたのだ」

 

ダメージが感じられなくなった

 

「そなたの気が変わる様に……決して敵わぬ存在だと思い知らしめる為に……な」

 

 

バチッ!

 

 

紅い力がレミリアと共に弾け飛ぶ

 

「天地魔闘の欠点など知っている……各個撃破など容易く出来たが敢えて隙を見せて希望を見せた」

 

喘ぎながら上体だけを起こすレミリアへ向かいソルは告げる

 

「踏み潰す為に……」

 

絶望を見せ、継続させるのは心を折るには有効な手段である

 

ならそれに抗う者にはどうすれば?もしくはより深く絶望させたい時にはどうすればいいのか?

 

希望を見せ、潰してやれば良いのだ

 

僅かな希望が蜃気楼の様な淡く儚いモノだったのだと……

 

「徒労に終わった事だが余に一撃を見舞わした事は褒めてやろう、追撃の際も勇者を想起させる見事なものだった、しかし余を殺すには力が足りぬ……無駄な足掻きであったな」

 

「……」

 

項垂れ、無言のレミリア

 

「気は済んだであろう?」

 

ソルが1歩踏み出す

 

「……独り言は済んだのか?」

 

その言葉がソルの足を止める

 

「ぐだぐだと……喧しいのよ」

 

立ち上がったレミリアが服に付いた埃を払う

 

「何があろうと折れる事は有り得ない、貴様も頂点を降して来たのならいい加減にわかれ」

 

レミリアはまだ諦めていない

 

「……知ってたさ、わざと天地魔闘を使った事くらい」

 

「知っていて挑むのは感心せんな」

 

「馬鹿かお前?可能性の見えない各個撃破より僅かでも勝機が見える天地魔闘の方に挑むのは当然だろうが……あの3人もそれはわかっていた」

 

「……結果はこれだが?」

 

「確かに結果だけ見れば勝てなかった……だけど、無駄とは言わせない」

 

レミリアがソルの胸に刺さる魔槍を指差す、3人の犠牲で得た確かな傷

 

「それは簡単には消せない楔、パワーダウンね」

 

「……余の心臓を1つ潰したくらいでは有利とは言えんぞ?」

 

「そうかもね……だけど!3人の覚悟に応える為に……私がやらなければならないのよ!」

 

新たな魔槍を作りレミリアは切りかかる

 

「ハアアアーッ!」

 

無駄に終わらせない為に……

 

 

「では不本意だが……」

 

槍は一指で止められる

 

「もう暫し続けるとしよう」

 

掌底が打ち飛ばす

 

「それが妃の願いならば……」

 

「カハッ!?」

 

負けるとわかる戦に王女は挑む

 

「私が……変えて見せるから……!」

 

どうしても負けれない戦いだから

 

そしてそれを……

 

(だから見ていて……バーン……)

 

誰よりも愛しき人に捧げたくて……

 

 

 

""真紅の炎目覚める空

 

 

 

     私が此処に居る印

 

         貴方に今刻むように

 

 

 

             無垢な花になって歌う

                       ""

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-月の都-

 

「ウォルター!」

 

もう都を出ようとしたところで妹紅はウォルターと会っていた

 

「ハァ……ハァ……妹紅様……ルナも御一緒ですか……」

 

「どうしたんだよ?加勢に来てくれたのか?」

 

「いえ……私は倒されたフランドール様が心配で来たのです」

 

「……フランが倒された?」

 

妹紅の顔が険しく歪む

 

「その様子では御存知ないみたいですね……フランドール様含め大妖精様、魔理沙様、パチュリー様がソルに倒されました、そしてソルが地上に出現、既にかなりの被害が出ています」

 

「んだとぉ!?」

 

激昂する妹紅は転移装置の有る場所へおぼつかない足を懸命に操り急いで走っていく

 

「その体では無茶です!?」

 

「関係あるか!私が行くからお前はフラン達を頼む!」

 

強い言葉で即答され逆にウォルターが怯まされる

 

同じ立場ならお前は戦わないのかと怒鳴られた様で……

 

「……承知しました!」

 

妹紅を見送りウォルターもパレスへ走る

 

「待てい執事」

 

誰かに呼び止められ声の方へ向くとそこには忍が居た

 

「ほれ、連れてきてやったぞ」

 

「フランドール様!?」

 

渡された傷だらけのフランを優しく抱き締める

 

「全員生きとるよ、白黒の魔女は一番粘ったようで一番危うかったが……簡単な処置はしとるから皆問題は無い」

 

魔理沙、パチュリーと瞳に閉じ込められた大妖精をロランと共に纏めて抱えていた

 

「……ありがとうございます忍様、感謝に尽きます……!」

 

「よい、忘れ者を取りに行ったついでじゃ」

 

「忘れ者?」

 

「こいつ等じゃよ、スキマとやらが来る前に危なそうじゃったからな、それにもし拐われでもしたら薄い本な展開が起きてしまう危険もあったしのぅ」

 

「薄い本……とは?」

 

「春画とも……まぁよい、それより知ってしもうたか小娘は……」

 

忍が遠い目をしている

 

「妹紅様の事でしょうか?」

 

「そうじゃ、あのままではあやつ、せっかく起きた奇蹟を自分で詰んでしまうぞ?」

 

「……それは、どういう……」

 

「わからんか?あやつの体はもはや死に体同然、歩いているのすら驚くべき事じゃ……それでもまだ戦おうとしとる、典型的な破滅型じゃよ」

 

「……」

 

「誰かの為に、その志は立派かもしれぬ……じゃがそんな奴はすべからく短命、命を分け与えているに等しい行為じゃからな」

 

「……私は話すべきではなかった」

 

「さぁのう、どうせ地上へ戻ったら知る事じゃし遅かれ早かれじゃったしのう、お主が気に病む必要はなかろうよ」

 

「そう言って頂けると……少し楽です」

 

「カカカッ!なってしまったもんは仕方ない!賽は投げられたのじゃ……こんな荷物持ってはどうしようも無いし儂等はゆっくりと戻るとしよう」

 

「……わかりました」

 

不死鳥の通った道を歩いていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした?動いておらぬぞ?」

 

「グウゥ……!?」

 

王女が持つ槍が手刀に押される

 

「余も力が落ちたがそなたはそれ以上に落ちている、これでどうやれば勝てると言うのだ?」

 

心臓を貫かれていながらソルは余裕綽々に応戦していた

 

「黙れ……ッ!?」

 

 

バシッ!

 

 

頬を叩かれレミリアは数歩下がる

 

「もうよかろう?これぐらいにせぬか、余はまだする事が有るのだ、今はそなたにばかり構ってられぬ」

 

「貴様ッ……!」

 

 

バシッ!

 

 

向かって行ったレミリアはまた叩かれる

 

「ハァ……ハァ……」

 

紅霧も薄れ始め限界が近い事を示している

 

「貴様なんぞに……屈して堪るか!」

 

されどその誇りは折れない

 

「貴様なんぞにッ!!」

 

そしてレミリアは最後の技を放つ

 

 

「神槍「スピア・ザ・グングニル」!!」

 

 

今までの魔槍より更に鋭く、更に禍々しく、より強く、より紅い王女が携える真の魔槍

 

バーンの本気の手刀がカラミティエンドと呼ぶ様にレミリアが全てで作った魔槍は名を冠するのだ

 

「この一撃が終わりの幕を降ろす……!」

 

紅きグングニルの柄を回す、槍が紅霧を吸い、目視出来ない速さが紅円を描く

 

「ハァ……ハァ……アアアアアアアアッ!」

 

尋常ではない力がグングニルに込められる

 

その力はフランと大妖精が力を合わせた大妖剣に匹敵する

 

それだけの力をたった一人で出しているのだ

 

「ウゥ……アァ……ハ……アアアアーーーッ!!」

 

その姿はまるで命を注いでいるかの様……

 

 

 

 

 

 

「美しいものだな」

 

レミリアの決死を見るソルは呟いた

 

「やはり閃光のごとく輝く命とは……レミリア、そなたがより綺麗に見える」

 

その目は穏やかそのものだった

 

 

 

 

 

 

「ハアアアアアアアアアッ!!」

 

 

レミリアが飛び込む

 

 

真の槍には技があった

 

余りに過剰な力の為に数度も振れない槍の力を最大限にぶつける王女最高の魔槍技

 

 

「紅魔「ハーケンディストール」!!」

 

 

誇りと想いを乗せた決死の一撃がソルを切る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……天地」

 

 

 

 

 

凝縮された神の力が溢れ、心臓に刺さる槍を消し、再生させる

 

 

 

 

 

 

「魔闘……!!」

 

 

 

 

 

究極の秘技が……構えられた

 

 

 

 

 

 

 

(バーン……)

 

 

 

 

 

 

抱いた誇りと想いと共に……

 

 

 

レミリアは地に伏した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まことに素晴らしい一撃であった、天地魔闘にフェニックスエンドを組み入れさせるとは……初めての事だ、誇るがいい」

 

倒れるレミリアにソルは歩み寄る

 

「……茶番……だったのね」

 

「ん?刺さっていた槍の事か?それならば茶番と言えような……あの程度消すのはいつでも出来たのだ」

 

「……ッ!!?」

 

レミリアの頬に涙が伝う、言い表せないくらい悔しいのだ

 

「ゲホッ!?」

 

吐血し血に濡れる、全てを出しきったレミリアにもはや這う力すら残っていなかった

 

「フッフッフ……」

 

ソルが優しく抱き上げる

 

「放せッ……!」

 

言葉だけで身動き出来ないレミリアに抵抗の術は無い

 

「暫し眺めていたい気分だがそうも言ってられん、先に負け犬の始末をつけておかねばならん……終わるまで大人しくしていて貰おうか」

 

ソルの額にある鬼眼が光る、瞳にして大魔宮に送って幽閉しておこうとしていた

 

「……!?」

 

レミリアの顔が焦りに歪む

 

「そう怯えなくともよい、そなたは選ばれたのだ……余の妃に足る女としてな、そのうち気も変わろう」

 

「……」

 

手篭めにされる事への焦りとソルは思っていた

 

(私が負けてしまったばかりに……)

 

本当は違う

 

(バーン……貴方に……迷惑を……)

 

最愛の人に負担が掛かる事を恐れていたのだ

 

もし対峙してしまった時、その時はバーンが必ず勝つと確信している

 

だがその時にソルが自分を人質にしてしまった場合の可能性を考えてしまった事でレミリアはバーンの敗北を想像していた

 

勝てるのに負けてしまうと……

 

(私は……貴方と永遠に一緒だから……)

 

だから……自決しようとしていた

 

(生きて……誰よりも愛した人……)

 

最愛の人を想い、静かに命を止める

 

 

 

「そうはさせんよ」

 

 

 

ソルの魔力が体の自由を止めた

 

「そなたは余のモノだ、勝手は許さぬ」

 

それすらも見透かしたソルが笑っていた

 

(そんな……)

 

同じ顔をした絶望が視界を覆う

 

「ではまた後で会うとしよう、レミリア……」

 

鬼眼の光が射ぬく

 

 

 

「……ム?」

 

まさにその時、ソルはレミリアの胸元が光っている事に気付く

 

(何だ……?)

 

ネックレスの様に首から提げられていた小さな石を引き千切る

 

(アレは……バーンがくれた……!)

 

奪われたのは戦争が始まる前夜にバーンが御守りと言ってくれた石、何の施しも無いと言われた想いの欠片

 

「これは……」

 

ソルが表情を変えた

 

(何の変哲も無い石に見えるがそうでは無い!これは巧妙に偽装された黒魔晶!中に多大な魔力が内包されている……そして!この魔力は……!)

 

(余と同じ……!)

 

 

 

 

 

フッ……

 

 

 

 

 

景色が変わった

 

 

「「!!?」」

 

黒一色になったその場所を見回す

 

(隔離結界……閉じ込められた、してやられたか……まさか最後に小細工とは……)

 

(何……?何なの……?)

 

冷静に状況を把握するソルと混乱しているレミリア

 

 

 

 

「チェスでもそうだが……」

 

 

 

 

その時、声が響く

 

「!!?」

 

(あああっ……うぅ……うー……!)

 

ソルは驚き、レミリアは誰よりも聞き慣れた声に涙を流す

 

 

「真の勝者は最後の一手を決して悟られないように駒を動かすものだ」

 

 

闇から一人の男が姿を現す

 

 

「チェックだ……もう一人の余、ソルよ」

 

 

それは幻想郷が最も信用する最後の一人

 

堪え忍び、決して悟らせなかった盤外からの一手

 

王女が唄う運命歌に導かれた同じく可能性の魔神

 

 

(バーン……!!)

 

 

仲間と友、そして愛した女を救う為に王は現れたのだ

 

 

「ようやく現れたか、負け犬……」

 

 

「フン……積もる話もあろうが、その前に……」

 

 

バーンは魔力を飛ばしソルからレミリアを奪い返す

 

 

 

「返して貰うぞ……貴様には過ぎた女だ」

 

 

 

 

 

《誰よりも何よりも君だけを守りたい

 

 

 

      いつまでもどこまでも君だけを守りたい》

 

 

 

 

その覚悟を示すかの様に……

 

王は最愛の女を強く、優しく……抱き寄せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ただ貴方の為に……】

 

 

誇り高き王女は太陽神に挑み、敗北した

 

 

しかし、最期まで折れなかった想いが、夢幻を願い……唄い続けた運命の歌が

 

 

無限に至った幻想の王を呼ぶ

 

 

 

 

敗者(バーン)勝者(ソル)

 

 

同じなれど異なる道を進んだ二人の大いなる魔

 

 

全てを受け入れる儚くも美しきこの幻想の地で……

 

 

 

 

 

 

 

可能性の王と神は遂に出会う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




忘れられてるかもしれませんがバーン=主役、レミリア=ヒロイン、妹紅=もこたん!となっております。
しっかしレミリア勝てないな……

いやしかし……遂にここまで来れた感がありますね。
バーンの最後の台詞なんて今作投稿前から考えてましたから……格好良く見えればもうここで完結しても良いぐらいの心境です。

冒頭の文と途中にある文はある歌詞から引用しています、わかる人は……凄い!

・現在の主な犠牲者(リタイア含む)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ、にとり、霖之助、アリス、美鈴、幽香、竜王、紫、青娥、芳香、輝夜、常闇ノ皇、忍、バラモス、靈夢、正邪、カメハ、ロラン、ルナ、妹紅?、フラン、大妖精、魔理沙、パチュリー、早苗、藍、諏訪子、さとり、神奈子、橙、依姫、妖夢、豊姫、ゾーマ、文、勇儀、ロン、レミリア 計41名 

魔王軍 六将(5/6)、キルギル、親衛騎団(6/6全滅)、純狐、へカーティア?、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)?、テリー、ゴリウス、キル、ガルヴァス、グレイツェル、ヴェルザー、ゼッペル、災厄の王(ジャゴヌバ)、ナイト(ダイ) 計26名


次回も頑張ります!

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