東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第37話 嬉遊曲(ディヴェルティメント)

 

 

 

「……来たかソル……もう一人の余……」

 

バーンは対峙した神奈子達よりも早く異次元の己が地上に来訪した事を感じていた

 

「……」

 

その事実が意味する事

 

ソルを討ちに向かった友の敗北、それを悟り怒りを静かに拳に集め、握り締める

 

(こうなる予感はあった……運命が地上に居る限りはこうなると……ならばやはり間違っていなかったのか、帰結は運命が担う……その数奇な道に……)

 

これから起きる事態を予見しながらも動く事が出来ないバーンはじっと堪え忍ぶしか出来なかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらららら……」

 

無縁塚の戦場の熱の影、密かに生き永らえている赤髪のヘカーティアが顔を向ける

 

「来ちゃったよ御大将……痺れが切れたかな?」

 

困った様に頬を掻きながら行動を再開する

 

(まぁあっちも大問題だけどこっちもねぇ……まだ見つかってないんだよね~バラバラにされたっぽいねこれ、全然感じられないからちっとも見つかんない)

 

ヘカーティアはバレない様に捜索を続ける

 

(あの子も上手く橋渡ししてくれたみたいだし……続けますか)

 

不意に立ち止まりヘカーティアは振り返る

 

(……頑張れ、憂いは断っておくから……どちらにしても……)

 

地獄の戦場にまた紛れて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……!!?……ハハハッ!」

 

「何よ急に笑いだして……気持ち悪いわね」

 

押されていたベグロムが急に笑いだす

 

「お前等の命運が尽きたからだよ!感じてみろ!ソル様が来てくださった!」

 

「!!?」

 

驚いた霊夢は戦場を探りすぐにソルの大魔力を感知し表情を歪める

 

「どうやら終わらせに来られたみたいだな、残念だったなオイ!終わりだぜお前等!」

 

戦争の終結を確信したベグロムは更に笑う

 

「っとこうしちゃいられねぇ!ソル様が降臨なされたなら早くしねぇと終わっちまうからな……ガルヴァス様もまだ戦ってるだろうしオレもお前くらいには勝っとかなきゃな」

 

「……押されっぱなしのハゲガーゴイルが随分と粋がるじゃない、強がりにしたって笑えないわね」

 

霊夢に焦りと動揺が見えている

 

(ソルがこっちに来たって事はまさかやられたの魔理沙あんた……だとすればかなりマズイ、魔理沙達が返り討ちにあった今、こっちの戦力じゃまず……私が行く……?でもコイツを野放しには……くっ……)

 

ソルは幻想郷が定めた最優先の目標

 

霊夢としては今すぐにでもソルの元に向かいたい、しかし目の前のベグロムを放置すれば戦局が覆る可能性が有る、自分に及ばずとも遠からずなベグロムがそれだけ幻想郷にとって脅威なのだ

 

「冗談じゃねぇ、なーんか掴めそうな気がしてんだよ……お前に勝てるような何かがな……悪いが逃がさねぇぜ?」

 

「……わかった」

 

迷いを見透かす様に釘を刺した言葉に霊夢は覚悟を決める

 

(下手な考えは身を滅ぼすだけね、コイツを一刻も早くぶっ飛ばしてソルに向かう、皆を信じて……やるだけよ!)

 

それが自分に出来うる最大限と定め迷いを振り切る

 

「かかってきなさい、博麗の名の元に退治してやるわ!」

 

超竜の将と博麗の巫女の戦いはまだ終わらない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「!?……こいつはバーンと……オイ!ハドラー!!」

 

叫びながらロンが背中を合わせる

 

「わかっている、このバーン様と同じだが敵意に満ちる大魔力……ソルが来たのだ」

 

合わせられたハドラーが答える

 

「気紛れか知らんがこっちに来たって事は月部隊は失敗したって事だ!もうあいつ等の復帰は期待出来んぞ!どうする!行くのか!?」

 

「……」

 

指示を求められたハドラーはヘルズクローを構えながら答える

 

「いや、行かん……オレ達は此処を死守する」

 

「……いいんだな?」

 

「ああ……オレは助っ人に押しかけたに過ぎんからな、ソルを討つよりも与えられた使命を全うする方が今はオレにとって重要だ」

 

「……」

 

「戦いたい気持ちは有るのは否定せんがソルを討つのはオレの役目ではないとも思っている、それにオレは指揮官だからな、そしてガルヴァスの件では勝手をした、これ以上の勝手は出来ん」

 

「……わかった、お前がそう言うんなら付き合ってやる」

 

「すまんな……行くぞ!」

 

それが正しい選択だと信じ、幻想郷の強さを信じ、かつての魔王は戦士として戦場で拳を振るう

 

(妖夢……無茶はするなよ)

 

生涯の伴侶の身を案じ武器職人は剣を振るう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ……!!?」

 

レミリア達が守る無縁塚の中心にも当然襲来は感じられていた

 

「おいおい……負けちまったのかい、こりゃ参ったね」

 

ミストと融合している萃香は事の深刻さに苦笑いしている

 

「フランドール様ッ!!」

 

ウォルターが弾ける様に妖怪の山へ向かい走っていく

 

「オイ執事!……行っちまったよ、良いのかいミスト?」

 

『良い訳ではないが……仕方あるまい、己が主人を想う故だ……私とて同じ立場なら迷わず同じ行動を取るだろう』

 

「じゃあしょうがない、それよりも気張らないとね……私等の分身も半分切った、総司令殿も危うい感じだし……」

 

『レミリア様……』

 

ミストが見るとレミリアは戦う事など忘れた様に静かに体を震わせていた

 

(フラン……皆……)

 

揺れている

 

今すぐにも大事な妹と友の安否を確認したい、仇を討ちにソルの元へ向かいたい

 

だが幻想郷の全てを預かる立場がそれを許さない

 

膨れて溢れる怒りと焦りの紅き力は周囲の魔物を躊躇させる程に危うい

 

 

「~~~ッッ!!」

 

 

「そん時ゃ私等が死ぬ気でやるだけさね……だろうミスト?」

 

『わかっている萃香』

 

運命の王女は決断を迫られる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

闇の大魔王は穏やかに眠る氷精を見つめている

 

「友とは助け合うもの……だったか」

 

その昔に氷精が言っていた言葉を思いだし、踵を返す

 

「愚かな戯れ言よ……弱き者が好む方便、なんの保証も無い下等種のそうあって欲しいという縋るようなくだらぬ願い……」

 

氷精を残し外へ歩きだす

 

「……それを信じ、叶え、我にはわからぬ何かに変えたからこそ……奇蹟を幾度も起こすのか……我を倒し、闇を晴らした……ロトの様に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-月の都-

 

「っててて……はぁ……くっそ、転移装置までまだまだあるな……重いしよ……普段ならへっちゃらなんだけどな……はぁ……」

 

ルナとロランを背負う妹紅はようやくパレスから出たところだった

 

「……後で絶対に来てやるからな」

 

自分達を守る為に犠牲になった者達の屍の中を進んでいく

 

「再誕を感じた時はまさかとは思うたがマジでお主とはのう」

 

都を進み始めた時、妹紅の前に一人の吸血鬼が影から姿を現した

 

「お前は……」

 

「久し振りじゃの不死の小娘……今はただの小娘じゃったか」

 

それはルーミアと共に先に出ていた忍だった

 

「地上に戻るんじゃろ?儂もじゃったがちょっと忘れ物したから取りに行ってから戻る、ほれそっちの男を寄越せ、担いでやる」

 

「忘れ物……?あそこにか?何だよ?」

 

「カカッ!なぁに、大したもんじゃない、それよりほれ寄越せ」

 

「あ、あぁ……悪い、頼む」

 

「よいって事じゃよ、では行ってくるかの……怪我しとるんじゃしゆっくり戻れよ小娘」

 

妹紅を置いてパレスに向かい忍は歩いていく

 

(気付いておらぬみたいじゃしとりあえず黙っておくのが正解じゃな、知ればこやつの性からして死に急ぎそうじゃし……)

 

(フラン達が倒され、ソルが地上に行ってしまった事は……の)

 

それが正しい事なのかは誰にもわからない

 

ただ、運命に導くという意味では間違いではなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フッフッフ……」

 

何の構えも無く、ただ妖しく、冷ややかにソルは笑っている

 

「ソル……様……?」

 

気付いた近くの魔物が声をあげる

 

 

「ソル様が来てくださったぞーーーー!!」

 

 

「「「オオオオオオーーーーーーー!!」」」

 

 

それは一気に戦場に波及し、高揚した魔王軍が時の声を響かせ大地と空気を揺らす

 

「もう充分お前達の望みは叶ったであろう、無駄に苦しませる必要も無い……一気呵成に押しきり終わらせよ……足掻く幻想に現実を思い知らせてやれ」

 

降臨した魔王軍が崇める神の声

 

それは高い士気を保っていた魔王軍に更なる力を与え怒濤の勢いで月の軍隊が加わり盛り返された形勢を押し込んでいく

 

「ッ……!?」

 

神奈子は顔を歪めながらソルを睨む

 

たった一声だけでここまでの事が出来る強さ

 

魅力、カリスマ、力、全てを備え、尚且つ魔王軍自体がソルを敬っていなければこうはならない

 

何もかもの格が違うのだと痛感させられていた

 

「キングは動かぬが定石、ではあるが……キング自ら戦場で力を振るう指し方も意表を突いて面白かろう、負け犬の使徒を降し少々興も乗ってきた……しな」

 

「貴様ァ……!」

 

口振りにやはり月の部隊は倒されたのだと知った神奈子は怒りを向ける

 

(どうする……ここでコイツを無視し戦局を安定させるか?それとも残る強者である萃香か妖夢、可能ならばレミリアを呼んでぶつけるか……?)

 

裏腹に内心は指揮官としてどう対処するかで一杯であった

 

「神奈子様!ソルってバカですよ!わざわざ私達に倒されに来てます!」

 

早苗が声をあげた

 

「バカな事を言うな……状況を……理解……」

 

それに神奈子は思案する

 

(確かに……早苗の言う事はあながち間違ってはいない、ここで奴を倒せば魔王軍を総崩れに出来る……)

 

先の出来事でソルはやはり魔王軍の精神的に絶対なる主柱であると知った、ソルの存在だけでここまで士気を上がるのだから

 

だからもしここで倒せれば戦争を終らせる可能性が有るのだ

 

「さてどうする?ここで余を討つか?それとも他を救いに余を捨て置いて退くか?余はどちらでも構わぬぞ?」

 

見透かしている様にソルは神奈子へ言う

 

「くっ……」

 

僅かな脅威とさえ思われていない事がわかる余裕に更に顔は歪む

 

「調子に乗ってますねぇ、ネタ切れを吐露するみたいなバーンさんのコンパチキャラ風情が!」

 

その時、凄まじく自信に溢れた声が響く

 

「お前はこの守矢の現人神である私が瞬く間に退治してやりましょう!」

 

早苗である

 

神奈子より前に立った彼女はキリッっと祓い棒をソルに突き立てていた

 

「……」

 

早苗を一目見たソルは視線を神奈子へ戻す

 

「どうする?」

 

早苗は無視された

 

「無視するなー!」

 

飛び込んだ早苗がソルを打つ

 

「余り時間は無いぞ?早く決めよ」

 

気にせず神奈子へ問う

 

「うらららららー!!」

 

早苗は攻撃を止めない

 

「てぇりゃあーーーー!!」

 

「……うざったい」

 

ズドッ!

 

掌底が早苗を打ち飛ばし遠くの岩場へ叩きつけた

 

「早苗!!?」

 

「落ち着け諏訪子、気絶しただけだ……哀れ過ぎてまともに相手もしたくなかったようだ」

 

「ハァ……まったくあの子はなんであんなにバカなの……このままじゃチルノを越えてバカの世界チャンピオンになっちゃうよ……」

 

「……決まったか?」

 

若干気の毒な視線をくれるソルに神奈子は告げる

 

「貴様は……ここで果てて逝け!!」

 

戦うと覚悟した宣言と同時に藍が飛び出しソルへ爪を突き入れた

 

「よかろう、やってみろ」

 

ボキッ……

 

振り上げられた掌底が正確に藍の顎を打ち抜き、嫌な音を響かせる

 

「……ぁ……ぁ……」

 

ピクピクと痙攣し倒れる藍、圧倒的な速さと力で成す術無く首の骨を折られていた

 

「これで1人……いや2人目か、フフフ……」

 

「藍しゃまッ!!?」

 

「この……!?魔族めぇ!!」

 

橙が絶叫し諏訪子が弾幕を撃つ

 

「……!!」

 

全霊を込めた弾幕はソルに全て当たり粉塵を巻き上げる

 

 

ドウッ!

 

 

粉塵から飛び出た暗黒闘気の塊が右腕を肩から消し飛ばし、諏訪子は倒れる

 

「埃を舞い上げるだけか、なんと無能な神よ」

 

粉塵から出て来たソルが残る3人に笑みを向ける

 

「ッ……!?八雲藍……諏訪子……!」

 

神奈子は後悔に唇を噛む

 

見通しが甘過ぎたのだ、平行だと言うだけで相手はバーンと同じ存在

 

老人の時から既に神を越え、更に若さを戻した真のソルに自分達が僅かにでも敵うと思った事が痛恨の過ちだったのだと

 

「……!」

 

最早破れかぶれでも行くしか無いと覚悟を決める

 

「お待ちください」

 

それを押さえてさとりがソルに対峙する

 

「……」

 

「……なんだ?命乞いか?」

 

戦う意思を見せず見つめるだけの妙な様子のさとりをソルは訝しむ様に問う

 

「貴方……誰かを羨んでいますね?」

 

「!!?」

 

ソルの表情が驚愕に変わる

 

「貴様……」

 

「おや……流石ですね、もう心を閉じられてしまいました」

 

「やはり貴様……心を……!」

 

戦争が始まって初めて、誰が倒されようと歪む事の無かったソルの顔が初めて歪んだ

 

「……不愉快な奴め、余の心を不躾に見おって……覚悟は出来ているのだろうな?」

 

そして初めて見せる殺意を持ってさとりを睨んでいた

 

「よせさとり!意味の無い事はやめろ!」

 

ソルの怒りを買うだけの行為を止めようとするがさとりは止まらない

 

「貴方の心で見えたのは、強い羨み、消えない義務、そして諦め」

 

「黙れッ……!」

 

ソルの魔力が怒気を孕み昂っていく

 

「自由を得たから不自由になった、故に貴方は空虚、何故なら己の心を殺してしまったから」

 

「黙れと言っている!!」

 

怒りに任せて振るった手から不死鳥が放たれ、さとりへ向かう

 

「さとりッ!!」

 

神奈子が引き寄せ抱き込む様に庇い神気のバリアを張り、カイザーフェニックスを受けた

 

「あぐっ……ああぁ……ぁ……!?」

 

業火が収まり姿が見える

 

「ぐううぅ……ああぁ……!!?」

 

焼かれた神奈子

 

激しく焼かれ全身に大火傷を負っている、そして庇った時に向けていた背の半分が灰になって消えていた

 

「申し訳……ありません……八坂神奈子……」

 

息も絶え絶えにさとりが謝る

 

神すら焼滅させる依姫の神殺の炎すら越える太陽神の不死鳥、それは庇われたさとりすら戦闘不能に追い込んでいた

 

「何故……あんな真似を……した……?」

 

「何か……勝機になる事を見つけたかったのです……勝てないならせめて……と……迷惑になった……だけでしたが……ごめん……なさい……」

 

「……謝るな、どの道お前の言う通り負けていた」

 

「です、が……お陰で確信しました……やはりあの人なら……あの……私達の最高の……仲間なら……勝てるって……」

 

「……」

 

「だから……お願い……します……」

 

さとりは目を閉じ動かなくなった

 

「愚かな真似をするから無駄に苦しむ目に合うのだ、余に狼藉を働かなければせめて楽に終われたものを」

 

さとりが倒れ少し溜飲が下がったソルは残る神奈子と橙を見る

 

「……退け、八雲橙」

 

橙へ神奈子は言った

 

「ここは私が……引き受ける」

 

「ですが……!その体じゃ……」

 

「構わん……お前は退いて……連れてきてくれ……」

 

神奈子は名を言う、確かな絆を育んだその名を

 

「バーン……を……」

 

それが望んだ事であり、ソルはバーンの秘密を知らないとさとりは知ったのだと理解して……

 

「……わかりました!」

 

了承した橙はすぐさま紅魔館の方角へ飛んで行き、合わせて神奈子が死に体の身を震わせながら立ち上がる

 

 

バチッ……

 

 

直後、弾かれた橙が落ちた

 

「知らなかったのか……?太陽神()からは逃げられない……!!」

 

太陽神(ソル)が……笑っていた

 

「言った筈だ、愚かな真似をするから苦しむ事になる、と……余計な事をしなければ撤退程度許してやったと言うのに……悪いがバリアで囲ませて貰った」

 

「……ッ!!?」

 

慈悲を感じられぬ行為に二人の顔は青ざめる

 

「踊れ幻想の神よ……せめて愉快に」

 

陽の光が焼き払う……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ッ!!」

 

無縁塚の中心で王女は怒りに震えた

 

「もう……我慢ならないわ」

 

 

ドンッ!

 

 

凄まじい勢いで飛び出し魔物を蹴散らしながら飛んでいく

 

「行っちまったねぇ……まっ、無理ないか、私もブチキレる寸前だったしね、アイツが行ったから逆に冷めちまった」

 

残された霧の分身達は一層に力を入れる

 

「へばるんじゃないよミスト!是が非でも持たせるよ!」

 

『無論だ!』

 

中央は霧に委ねられる事となった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-妖怪の山-

 

 

ヴンッ……

 

 

「バベルボブルよ」

 

空間を裂いてソルが機甲師団の元に現れる

 

「これはソル様……我等の戦闘放棄の咎を直々に裁きに来られましたか?」

 

何の悪びれも無い態度を見せながら長男バルは言う

 

「ふっ……そうではない、これはお前達が望んだ戦なのだ、お前達の決定を余が咎める理由があろう筈も無い……来たついでに様子を見に来ただけの事だ」

 

「でしょうなぁ」

 

バル達は笑い、既に溜飲下がっていたソルは微笑んでいる

 

「大した者達だな」

 

「ええまったく、司令殿が言っていた通り今までで最も強い!オレ達など聞いていた頂点より下の奴に御覧の有り様ですからな」

 

「キルギルに戸愚呂が散り、五大軍団もお前達を残して頭を失い、帝王、そしてまさかの騎士すら失った……まだ残っているベグロムを超竜軍団の長にして残りはここの者を勧誘してみるか?」

 

「ハハッ!それは良い案……と言いたいですが無理でしょうなぁ、負けたから掌を返す……そんな奴等ではありませんよ」

 

「わかっておる、冗談だ……クククッ……」

 

二人は笑い合う

 

「では行くとする……残る駒を掃除してチェックをかけに、な」

 

「承知しました、ああソル様……今のうちに言っておきますがオレ達は貴方を倒す目標は諦めておりませぬ、故に負けぬよう願います」

 

「フッ……それはすぐに叶う」

 

ソルが空間を開き、消える

 

「……そろそろ用意しとくか」

 

見送った後、バルの命令で機甲師団はゴソゴソと何かを始めるのであった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「覚えのある気配と思ったが……やはりそなた達だったか」

 

次にソルが姿を現したのは豊姫と依姫が戦う場所だった

 

「貴様はッ……!?」

 

「ッ!?ソル……なの……?」

 

驚愕する二人の前に脱出した事を気にもしていないソルは優雅に降り立ち笑っている

 

「まぁよい、ついでだ」

 

 

ドッ!

 

 

軽く出された掌圧が依姫に直撃し吹き飛ぶ

 

「依姫ッ!?」

 

「…………」

 

依姫は既に多大な傷を負っていた事もあり一撃で気絶させられ倒れる

 

「そなたはどうする?前の時のように見逃してやってもよいぞ?」

 

「……舐めないでもらいたいわ」

 

豊姫は持てる力を振り絞り弾幕を形成する

 

「我!綿月豊姫!忘れえぬ屈辱を今ここで……返させてもらう!!」

 

退かぬ意思を見せソルに対峙する

 

「ならば相手をして……ム?」

 

ソルも構えたその時、何かに気付いたソルが顔を豊姫から逸らした

 

(……遠いが強い殺気と力が向けられている、なんだ……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴゴゴゴゴ……

 

 

異常な気迫が景色を歪める

 

「我が名は妖夢……魂魄妖夢!」

 

遠く離れた場所で極限まで集中していた妖夢は精神を研ぎ澄ましソルの居場所を正確に捉えていた

 

「幻想郷を守る……剣なりッ!!」

 

楼観剣に全てを懸ける

 

「伸びよ!楼観剣!!」

 

刀身に込めた妖気と闘気が天を衝くまでに伸びた不安定な闘気剣を作り出す

 

「飛んで!!」

 

傍らの幽々子が叫び、大地に降りていた味方が一斉に空へ逃げる

 

 

「ハアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

前代未聞の長大剣を構える

 

 

 

「楼観剣究極奥義!「天薙(あまな)ぎの太刀」!!」

 

 

 

幻想郷の1割にもなる僅有絶無の秘剣が大地を進む

 

 

「薙ぎ払え!敵ごと奴を!!」

 

 

魔物を飲み込みながら太陽神へと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほお……」

 

確認したソルは面白そうに笑った

 

「なんて技……馬鹿げてる!?」

 

凄まじい勢いで向かってくる闘気剣に豊姫は慌てて依姫を抱え空へ逃げる

 

(でもこれならもしかしたら……しかし距離が離れ過ぎている……無理、避けられる……)

 

豊姫がソルを見る

 

(動かない……まさか受ける気!?)

 

ソルは微動だにせずもう近くまで迫っている闘気剣を見つめていた

 

「……」

 

手をかざす

 

 

ドウッ!!

 

 

同時に闘気剣がぶつかった

 

「……見た目は派手だが、それだけだ」

 

闘気剣は止められていた

 

 

 

 

 

「くっ……ううううッ!!」

 

妖夢は押しきろうと力を込めるが闘気剣はこれ以上進まない

 

 

 

 

 

「これを全て集約していれば余の命にも届いたのだろうがな……いや、これは余を狙ったのではなく本命は魔王軍か、余はあくまであわよくばか……狙いとしては悪くない」

 

余裕満ちる顔で闘気剣を押さえながら手刀を構える

 

 

「カラミティエンド!!」

 

 

バギャアッ!!

 

 

最も強き手刀が天すら薙がんとする最も高き闘気剣をへし折り、破壊した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カハッ!?ッウ……!!?ぐふっ……」

 

力の全てを砕かれた妖夢は反動で血を吐き、崩れていく

 

「妖夢!?しっかりなさい!?」

 

「わ……私は……幻想郷を守る……つる……ぎ……」

 

幽々子に支えられながら、幻想郷唯一にして最高の剣士は地に伏した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……力尽きたか、高望みが過ぎたのが敗因だ」

 

妖夢の居る方角に向け呪文を放とうとしていた手を下げる

 

「こ……ここまで……ッ!!?」

 

余りにも高過ぎる強さに豊姫は激しい動揺で動けないでいる

 

 

ズドッ……

 

 

掌圧が撃ち抜き依姫と共に地に倒れた

 

 

 

 

「他愛無い」

 

気にも値しない弱き者へ一瞥をくれ目線を戻す

 

「今ので300程が倒されたか……あの規模から考えれば想定の半分以下だろうがしてやられた感は否めんな、まぁさりとて勝敗に影響はせぬが」

 

妖夢の決死すら歯牙にもかけないソルはおもむろに魔力を手に集中させた

 

「……ところで」

 

全力のカイザーフェニックスを豊姫が居る場所でも妖夢が居る場所でもない彼方へ放つ

 

 

 

ゴオオオオオオオッ!!

 

 

 

不死鳥が大炎の壁に変わり黒い()()と衝突し相殺した熱が水蒸気となり濃霧の様に一帯を覆う

 

 

「今更何用かな……?枷有りの王魔よ……」

 

 

「フッフッフ……」

 

 

ソルが視線をくれた先、そこから姿を現したのは仮の肉体にて現界した3人の王の最後の1人、ゾーマであった

 

「迷った訳ではあるまい?まさかそんな脆弱な体で僅かでも勝算があると勘違いでもしたかな?」

 

「なに……一目見ておきたくてな、ほんの気紛れよ」

 

戦う意思を見せないゾーマはソルを見つめる

 

「フッ……ハハハ……フハハハハハ!!」

 

そして急に高笑いをあげた

 

 

ビシィッ!

 

 

直後にゾーマの体に亀裂が入りボロボロと崩れ始める

 

「フッフッフ……」

 

先程放った冷気はマヒャド、肉体の限界を越える呪文を放った事で仮初めの体が崩壊していっているのだ

 

「ソルよ……」

 

崩れていく身など気にもせずゾーマは笑いかける

 

「見に来た甲斐があった……これ程面白い者はそうは拝めぬ……フフフ……貴様……は……」

 

「……」

 

何か言おうとしたが崩壊が口まで迫り言葉が途切れる

 

「とて……も……」

 

言い切る事無くゾーマは消えていった

 

 

 

 

 

「……」

 

ゾーマが消えた跡をソルは見つめている

 

(勝てぬ事はわかっていた筈だ、ならば何故来た闇の王……何の為に貴様は来たと言うのだ……)

 

映像で見た時から感じていたただならぬ者、仮初めの肉体でなければ己すら上回るかもとさえ感じていた起源の大魔王

 

それがわざわざ無駄な事をしに来た事が解せない

 

「そして貴様は……余がどう見えたのだ……」

 

何より最後が一番解せなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-幻夢空間-

 

「お帰りなさいませゾーマ様」

 

戻ってきたゾーマにバラモスが平伏した

 

「……お前も此処に来ていたか」

 

「ハッ……デスタムーア様の温情でございます、それより醜態を晒し申し訳ありません」

 

「構わぬ、ロトの子孫すら倒したアレが相手では今の我ですら荷が重過ぎる……それに此度は自由な暇潰しに過ぎぬ、気にするな」

 

「ハッ!ありがたく!」

 

バラモスを許すとゾーマは常闇ノ皇に目を向ける

 

「久方振りだな、我が妹よ」

 

「お前を兄妹なんて思った事は無いわ……仮に兄妹だとすればむしろお前が弟に決まってる」

 

同じ闇から生まれた者同士の会話

 

「フン……らしくない事したものね?負けに行くなんて不様な真似……あの妖精と何かあったのかしら?」

 

「……答える必要は無い」

 

「そう……直に見たソルはどうだった?」

 

「流石は千古不易にして常勝不敗を体現したバーンと言ったところだ、誰も勝てぬだろう……それ程までのモノを奴は持っている」

 

「ふーん……幻想郷は終わりかしらね」

 

事実を告げる言葉に物悲しくも悟った様に常闇ノ皇は呟く

 

「そして……」

 

そんな常闇ノ皇へゾーマは言った

 

 

「何よりも奴は……とても()()()()()……」

 

 

全てを見据えた大いなる闇の瞳で……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここまでやってもまだ来ぬか」

 

闇の王を退けたその場所でソルはバーンが居るであろう紅魔館の方角を見つめる

 

「知らぬぞ?貴様が奇蹟で得れたモノ一切合切が全て零れ落ちようとも……」

 

戦場を見渡し感じとる

 

「まだ幾つか力を持つ者が残っておるな、中央の黒鬼の群れ、戦士と名工、奔走している者もおる……」

 

幻想と戯れる太陽神の行く末

 

「さて、どれと遊ぶとするか……」

 

決まればそこに勝利は無い

 

 

 

カッ……!

 

 

 

頭上から魔槍が落ちてくる

 

 

 

ズドオッ!!

 

 

 

「オイ」

 

飛び避けたソルの前に吸血鬼が降り立つ

 

「そんなに遊んで欲しいなら私が遊んでやるよ」

 

戦い続けた事など気にもせず、ただ許せないから愛しい者と同じ顔でも一切動じず、静かな怒りを彼女はぶつける

 

 

「こんなに陽が強いから……本気で殺すわよ!!」

 

 

紅魔の女王にして頂点最後の一人、王女レミリアがソルに相対した

 

 

「……」

 

ソルは何も答えずレミリアを見つめていた

 

「…………」

 

誰を見ようが大した興味を示さなかったソルが何故か興味深くレミリアを見つめていた

 

「……気に入った」

 

小さく呟かれたその言葉はレミリアには聞こえない

 

 

「来るがいい……(バーン)の妃よ」

 

 

戯れる神の嬉遊曲を止めんとするわ運命の幻想曲(ファンタジア)

 

その紅く誇り高い音を強く響かせながら敢然と立ち向かう

 

運命を越えると信じて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ソル無双!強さを表したかっただけですから在庫整理と言わないで……でも14人抜きはやり過ぎたかもしれません。

仕事が落ち着いたので通常ペースで投稿出来るようになりました、あー疲れた……ちなみにエイプリルフールですが何かあるわけではないです。

・現在の主な犠牲者(リタイア含む)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ、にとり、霖之助、アリス、美鈴、幽香、竜王、紫、青娥、芳香、輝夜、常闇ノ皇、忍、バラモス、靈夢、正邪、カメハ、ロラン、ルナ、妹紅?、フラン、大妖精、魔理沙、パチュリー、早苗、藍、諏訪子、さとり、神奈子、橙、依姫、妖夢、豊姫、ゾーマ 計37名 

魔王軍 六将(5/6)、キルギル、親衛騎団(6/6全滅)、純狐、へカーティア?、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)?、テリー、ゴリウス、キル、ガルヴァス、グレイツェル、ヴェルザー、ゼッペル、災厄の王(ジャゴヌバ)、ナイト(ダイ) 計26名

次回も頑張ります!

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