東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第36話 神への挑戦

 

-紅魔館・図書館-

 

(余の可能性の欠片……逆転した勝敗が作った因果が生みし騎士の形骸……)

 

バーンは静かに思いを馳せる

 

「今だからこそ、こう思うのだろうな……「残酷」と……」

 

昔ならば、それも敗北する前だったならそうは思わなかった

 

そんな所業はいくらでもして来た

 

ハドラーに黒のコアを埋め込んだりしたの等まさにそう

 

(ただ……ただただ、ひたすらに哀れ……余が思うべきではないのだろうが、な……)

 

目を閉じ、消え行く魔勇者へ想いを飛ばす

 

(友の炎に抱かれて眠れ竜の騎士……さらば、余が求めた夢幻の1つよ……)

 

過去から出た歪んだ可能性と奇蹟を起こしてくれた友へ出来る限りの想いを……

 

 

 

(奇蹟は起きた……ならば後は、その時を待つのみ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-無縁塚-

 

「!?……何者……?」

 

レミリアを中心にウォルター、ミストと融合した萃香が辛うじて持たせている中央地帯

 

そこから遠目に見える幻想郷とも魔王軍とも違う者達が魔王軍と戦っているのをウォルターが気付いた

 

「アレは……月の兎共……」

 

次いで気付いたレミリアに高速で紅壁を突き抜けた文がレミリアの周囲の敵を吹き飛ばし横に並ぶ

 

「パチュリーさんと魔理沙さんからの伝言です!月の軍隊1500名加勢!識別済み!更に綿月豊姫から指揮権を委ねるので指示を!との事です!」

 

「!!」

 

レミリアの顔が若干綻ぶ

 

多様な策を用いて何とかソルを討つまでの時間を持たせていたが最早限界だったのだ

 

正邪とてゐが用意した罠は使いきり、永琳が作った賢者の石もとうに使い果たしている

 

誰一人として無傷な者は居らずなんとか機能している結界呪法だけでギリギリ持ち堪えている

 

そして重要な壁である幻想郷の総数は既に500以下、対して魔王軍は今だ2000を優に越えていた

 

圧倒的な数の差で全滅するのは目前、最後の一押しを決められれば終わっていた

 

(これはもう……運命なんかでは表せない……)

 

今の今までレミリアはこの戦場の運命を感じていたのだ

 

どんなに皆が、自分が奮闘しようが覆せない運命を能力が知らせていた

 

それが変わったのだ

 

運命すら見通せない朧なれど強き幻想の絆によって

 

 

「劣勢な場所に多く割いて全域に散らせて広く対応させなさい、ここは私達だけで大丈夫よ……豊姫はあの扇子を?」

 

「いえ、あの扇子は取り上げられて見つからなかったそうです、おそらく基地の方に保管されているのだろうと」

 

「……さすがにそこまで甘くはないか、あの扇子が有れば勝てていたのに……まぁいいわ、では豊姫とまだやれそうなら依姫に月兎の部隊を指揮させて、数は近くなったけどまだ対等ではないし怪我人ばかりだから無謀は控えさせなさい」

 

「わかりました!」

 

「それと死にたくなければチルノが居る氷のフィールドとカメハの連れてきた魔物が居た場所には近付かないように言っときなさい」

 

「何故ですか?」

 

「闇の王の機嫌を損ねるのと……」

 

レミリアは運命を感じる霊夢とベグロムが戦う方角へ視線を向ける

 

「博麗の誇り、豪の意思、昇格、着かない決着……巻き込まれれば死ぬわ」

 

「りょ、了解です……」

 

「ところで貴方その格好……いくら男に相手にされないからって過ぎた露出はただの下品よ?」

 

「ちょ!?スルーしてくれたと思ったのに!?」

 

「そういうのは薄い本だけにしときなさい」

 

「ちょまっ!?誘ってるのではなくてこれは激戦の証……あーもう!行ってきます!」

 

文が飛んでいく

 

(状況は良くなった……けど4.6、いえ3.7が現実ね……)

 

手に持つ槍を握り締め前を向く

 

「頼んだわ……」

 

ソルに挑む4人を信じ敵へ向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス・神座-

 

 

「では……どこからでもかかってくるがいい」

 

 

それはダイが眠る僅か前に起きていた

 

「……大ちゃん」

 

「うん……わかってるフランちゃん、思いっきりやれるなんて悠長な事言ってる場合じゃないよね」

 

今まさにソルと戦わんとする二人は己を自省していた

 

バーンと同じ存在だが敵であるソルに二人はつい今まで戦いの高揚感が有った、本当の意味で自分の全てを出して戦えると

 

だがこの戦いが自分だけのものではないと思い出したのだ、自分達がここに居るのはソルと戦う為ではなく、討ちに来たのだと

 

「行っくよ!最初からクライマックスで!!」

 

「うん……!わかってる!!」

 

だから二人から高揚感は失せ、息が詰まる程の緊迫感と共に力を全開し紅黒と緑の力柱を打ち上げる

 

「うりゃあー!」

 

フランが飛び出し、合わせて大妖精が弾幕を撃つ

 

「……イオナズン」

 

ソルの放った極大の爆破呪文がフランに命中し起きた大爆発が後続の弾幕を飲み込み消滅させる

 

「ムッ……」

 

ソルは気付き手をかざす

 

「りゃあー!」

 

爆発を突き抜けたフランが殴りかかる

 

「ヌ……ゥ……!」

 

かざした手で受けたが凄まじい力と勢いに押される

 

「……!」

 

手と体を逸らし力の流れを変え後方に受け流す

 

「くっ……!?」

 

止まって振り向いたフランに既に放っていたイオナズンが着弾し爆煙に包まれる

 

「!!?」

 

すぐさま大妖精に目を向けると目前には大量の弾幕

 

「やはり戦い慣れておるな」

 

間を取らない円熟した戦闘展開に感心すると共にベギラゴンを弾幕を焼き払う様に大妖精へ向けて放つ

 

「烈風!」

 

対抗する為に広範囲の風を放つ

 

「ッ!?……うぅ……!?」

 

風が熱線に押される

 

(呪文の強さはあの姿でも変わらないんだ……!)

 

大妖精含め幻想郷全員は若さを取り戻したバーンからしか知らない、老人の状態でも魔力は変わらない事を知らない

 

紙芝居で一応は知ってはいた筈だが所詮は読んだだけの事であり身を持って体験していないからそう言った部分は記憶に残っていないのだ

 

「こんのー!」

 

爆煙からフランが飛び出てレーヴァテインを振り下ろす

 

「……」

 

それを呪文を中断し飛び避けたソルはフランと同じく中断した大妖精に暗黒闘気の塊を同時に放つ

 

「「!?」」

 

離れていた大妖精は避けるが距離が近かったフランは直撃する

 

「フランちゃ……ッ!?」

 

大妖精の頭上に氷の塊が出現していた、ソルがマヒャドを唱えていたのだ

 

「これくらいでー!……ッ!?」

 

怯んだもののすぐさまソルに向かおうとするフランに大量の魔法球が向けられていた、ソルがイオラを連射していたのだ

 

「大風妖玉精!!」

 

「うぎぎぃ……!?」

 

大妖精がマヒャドを粉砕しフランがイオラを耐える

 

「この程度ではあるまい?」

 

余裕の表情でソルが見ている

 

「……大ちゃん」

 

決心したフランがソルを睨む

 

「使うね」

 

「え……効かないんじゃ……?」

 

フランが何をしたいのかを察した大妖精だが力が高過ぎる相手には効かないとも知る故に困惑している

 

「大丈夫、思い出したの……大ちゃんはその時居なかったから知らないけどあたしの能力が効く部分がバーンには有った、あの姿なら通用すると思う」

 

そう言ってフランは目を作る

 

「……?なんだ?それは……」

 

ソルが注視する

 

(アレは……マズイ……!)

 

危機感を感じたソルは阻止する為に呪文を放とうと魔力を高める

 

(……!!?)

 

その時、同時にソルは知ってしまい

 

動きが止まった

 

 

「きゅっとしてドカーン」

 

 

「ウグオッ!?」

 

 

苦悶の声をあげ、ソルは完全に止まった

 

「どこを壊したのフランちゃん……?」

 

「心臓だよ大ちゃん!バーンには3つの心臓が有るんだって、ソルも同じだからその1つを壊してやったの!」

 

「心臓……」

 

「あたしの能力じゃソル自体は破壊出来ないけど一部分、それもあの歳を取って弱った体の状態なら可能だと思ったの!バーンの時も枷が付いてた時なら出来たからね!」

 

「そうなんだ……」

 

「これで大ダメージ!一気に押しきるよ大ちゃん!」

 

「うん!わかった!」

 

佇んでいるソルへ構える

 

 

 

「まさか、本当にまさかだ、ナイトが倒されるとはな……大したものよ、うぬらには驚かされてばかりだ」

 

ソルが止まった理由、それこそがダイが倒された事を知った驚愕からだった

 

「ごふっ……!?」

 

伏すソル

 

「フッフッフッ……」

 

笑い、上体を起こす

 

「いかんな……軽く見ていたつもりは無かった筈だが所詮は敗者の使途と言う先入観が有ったか……危うく吟味で死ぬところだったわ……」

 

怪しげな雰囲気に二人は警戒する

 

「今は光魔の杖も無い、このまま殺されては堪らんよ……くっくっ……!……一応……この肉体が本体なのでな……!!!」

 

 

ヴンッ!

 

 

空間が歪み中から目を閉じた体が出現する

 

「「!!」」

 

二人がよく知る顔、凍れる時の秘法で時間が止められたソルの若い体

 

「させるかー!」

 

「させません!」

 

何をするか理解した二人が阻止する為に動く

 

ボウッ!

 

だがそれはソルの前に現れた不死鳥によって遮られた

 

「くっそー!やられた!?」

 

「ダメ……間に合いません!?」

 

カイザーフェニックスに邪魔される二人を前にソルはゆるりともう1つの体に近付いていく

 

「知ってはいようが余は……限りなく永遠に近い生命を得る為と……魔王軍の為に自らの肉体を二つに分けた……」

 

「叡智と魔力のみを残した、この肉体をベースに……若さと強さをもう一つの肉体に分離させた……」

 

「こちらのミストが死んだ故に仕方無しに異空間に封印していたが……ついぞ誰も暴く事は無かったな……」

 

2つの肉体が重なる

 

「認めよう、うぬらの強さを……故に成ろう、真なる余に……!」

 

カッ……!

 

カイザーフェニックスを打ち払った二人の前で強烈な光を発した

 

 

「ここからが本番だ」

 

 

真・太陽神ソル  降  臨  !!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うおらあああッ!!」

 

「はあああああッ!!」

 

ベグロムと霊夢が激しい撃ち合いをしている

 

「ぬおおおおッ!!」

 

ワイバーンと共に火炎や呪文を霊夢へ放つ

 

「でやあああッ!!」

 

弾幕を張り一歩も引かない霊夢

 

「……!!」

 

霊夢が弾幕を放ちながら突撃する

 

「舐めんなよコラァ!」

 

更に勢いを増して撃つ

 

「舐めてないわよ!」

 

それを紙一重のグレイズと弾幕での相殺で接近する霊夢

 

「ハアアッ!」

 

「オラアッ!」

 

祓い棒と爪がぶつかる

 

「ぐぬっ!?」

 

ベグロムの爪が押され弾かれる

 

「もらったぁ!」

 

霊力を集めた大玉を撃とうとする霊夢を阻止せんとワイバーンが火炎を吐くがそれも読んでいた霊夢は避けて放つ

 

「ドラアッ!」

 

ワイバーンが作り出した一瞬の間に間に合ったベグロムの蹴りが大玉を放つ腕ごと霊夢を蹴り飛ばし距離を離す

 

「ちっ、鬱陶しいわね……焼いて食べてやろうかしらその竜」

 

「テメェもやるじゃねぇか!オレ達と互角たぁよ……面白ぇ!」

 

好敵手に会えたと狂喜な笑みを見せるベグロム

 

「はぁ……?」

 

だが霊夢は不機嫌に睨んでいた

 

「ふざけてんじゃないわよ、全っ然っ笑えないんだけどその冗談……」

 

「ああ、だろうなぁ……こんな冴えない見てくれのオレと2対1で互角なんて言われちゃ気分悪いだろうよ」

 

茶化す様に笑うベグロム

 

「はぁ……馬鹿ね」

 

そのベグロムに霊夢はハッキリと告げた

 

「私の方が強いっつってんのよ!」

 

 

ズオオッ!

 

 

押さえていた鬼の巫女の力が解放される

 

「な、ナニィィィ!?」

 

「驚き過ぎ」

 

驚愕するベグロムへ一気に距離を詰める霊夢

 

「フンッ!」

 

「ぐあっ!?」

 

ボディブローを打ち込み更に追撃

 

「ぎゅああっ!!」

 

「五月蝿い」

 

「ぎゅう!?」

 

ワイバーンが妨害するより早く祓い棒でしばく

 

「そらそらどうしたぁ!」

 

「がっ!ぐっ!げはっ!?」

 

打たれるままのベグロムだが決してワイバーンの手綱は放さない

 

「神技「天覇風神脚」!!」

 

弧を描く鬼巫女の強烈な蹴技がベグロムをワイバーンごと打ち飛ばした

 

「ぐっ……うぅ……」

 

「これでわかった?あんたまぁまぁ強いのはわかるけど私には勝てないわ」

 

優劣が決した事を表す様に二人の表情は違っていた

 

「ぐぅ……あっぐっ……いいぜぇ……」

 

ベグロムの頬が吊り上がる

 

「いいぜお前!ハハハッ!これだ!オレは……!こんな強い奴を望んでたんだ!」

 

戦いを求める本能がどうしようもなく嬉々なる顔を見せる

 

「ウハハハハ!やろうぜ女ァ!どっちかが死ぬまでよぉ!」

 

「……付き合いきれないわねこの戦闘狂」

 

再びぶつかり合うもやはり霊夢が上手でベグロムは打ち飛ばされる

 

「ッハァァ……!まだまだァ!!」

 

それでも怯まず攻撃を仕掛けるベグロム

 

「ッチ……このッ!」

 

優位だが完封とはいかない霊夢は時折ダメージを受けながらベグロムとワイバーンにダメージを積み重ねていく

 

「グオラアアアッ!」

 

「セヤアアアアッ!」

 

戦いはまだ続く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス・神座-

 

「「~~~ッ!?」」

 

二人は狼狽えていた

 

「では改めて……かかってくるがいい」

 

見知る姿になったソルにではない

 

「……ッ!?」

 

額に鬼眼こそ有るが見知る姿になったそのソルから出る明確な敵意に

 

「……!?」

 

長年バーンと共に居て手合わせなど幾度もしたがあくまで試合、死を見据えるまでの緊張感をバーンから感じる事は無かった、故に同じ姿のソルに冷や汗を流す程に狼狽えていた

 

「来ぬのか?まさかとは思うが怖じ気づいている訳ではなかろうに」

 

対してソルは余裕の表情で手招いている、負けるとは微塵も思っていない様に

 

「……大ちゃん」

 

「うん……」

 

この姿になる前に倒したかったフランと大妖精は否応もなく覚悟する

 

「行くよッ!!」

 

「うんッ!!」

 

真正体になったソルとの戦いを

 

「うりああああッ!!」

 

フランが突撃をかます

 

「フン……」

 

それを手刀で受けるソル、真なる体は老人の時と違い押される事無く不動で受けきる

 

ドギャ!

 

返す刃で放ったもう片手の手刀がフランを打ち飛ばす

 

「……」

 

大妖精に振り向きざまに既に目前に迫っていた弾幕の1発を弾き飛ばす

 

「イオナズン」

 

撃たれた魔法球が弾幕の中心で爆ぜ、見えていた弾幕を全て打ち消す

 

「ムッ……」

 

爆煙の中から新たな弾幕が飛び出してくる

 

「これぐらいは当然だろうな」

 

「あっ!?」

 

手を緩めない姿勢に感心しながらソルは背後から殴りかかってきたフランの腕を掴み弾幕に向けて放り込んだ

 

「カラミティウォール!!」

 

振り抜いた手刀から発生した闘気流の壁が弾幕と挟み込む様にフランに迫る

 

「舐めんなー!!」

 

体勢を立て直したフランが弾幕を避けながら爆煙に突っ込み大妖精に並ぶ

 

「カラミティウォールが来てるよ!」

 

「わかった!行ってフランちゃん!」

 

それだけの言葉で理解した大妖精が風の力を集めた大玉を爆煙に向かって放ちフランが追従する

 

ガガガガガ!!

 

大玉が障壁にぶつかり削り合う音を響かせる

 

「コレを止めるか」

 

カラミティウォールを破壊は出来ないが完全に止めてのける威力に感嘆の声を漏らす

 

「ウーリャアアアアッ!」

 

直後にフランが大玉を押し込み障壁を破壊し突き抜ける

 

「やるではないか……」

 

ソルは褒めると迫るフランに対してゆっくりと構えを取る

 

「……!!?」

 

それを見たフランは急停止し歯噛む様にソルを睨む

 

「フフッ、当然知ってはいるか……「天地魔闘の構え」をな」

 

「はぁ……はぁ……くっそー……」

 

バーンから知っている天地魔闘の構え、受けの秘技であると知るが故にフランは手が出せなかった、自分では破る事が出来ないから

 

「なればこそ残念と言わざるをえまい、うぬらが万全だったならばまだ健闘出来ていたであろう……勝てはせぬが、な……惜しい事よ」

 

「うぅ……」

 

二人の息は既にあがっていた

 

「仕方のない事ではあるがな、これが敵地へ攻め入るという事だ……無論理解しているだろうが」

 

ソルに辿り着くまでの道に何も無かった訳ではない

 

大妖精とフランは災厄の王と呼ばれし王の体を容器とした異界滅神ジャゴヌバの一部と戦っていたのだ

 

「ぐぬぅ……」

 

フランは常闇ノ皇と忍の4人で挑んだ為に軽傷で済んでいるが災厄の王を弱らせる為に使った力は決して軽い物ではない

 

「っ……」

 

大妖精は無傷であったが弾幕のみが攻撃手段故に力と精神の消耗具合はフランよりも高かった

 

最初から二人は万全とは遠い状態でソルに挑んでいたのだ

 

「それを踏まえて聞こう……」

 

絶対的な余裕と嫌らしさを含めてソルは問う

 

「まだやる気か?」

 

別にやめても構わない……と……

 

「ふざけんなァ!」

 

それでやめるならこの場には居ないし来ない

 

「私達は諦めません!」

 

幻想郷の明日を背負う二人にその問いは覚悟の火に油を注ぐも同じ事

 

「絶対倒す!!」

 

より倒す意思を高めるだけ

 

「フッフッフッ……そうでなくては興醒めよ」

 

そうなるのがわかっていた様にソルは笑い、魔力を高める

 

「だが言葉では虫も殺せぬ事は語るに及ばぬ自明の理、己が正義を証明したくば言葉ではなく、力で語れ……!」

 

「当ったり前じゃん……!」

 

「です……!」

 

 

ゴゴゴ……

 

 

決着を予感させる力が高く鳴る

 

(あたしと大ちゃんはもうかなり疲れてる、このままやっても勝てない可能性を高めちゃうだけ……だったら!)

 

フランは残るありったけを集めて握った拳を前で合わせる

 

「全力全開でぇ……勝負だぁー!!」

 

渾身のレーヴァテインを引き抜き構えた

 

「……ふはははっ!正しい!この上無く正しい……追い詰めた様で苦しいのはうぬらの方、長引かせて得る利は無いのだからな」

 

地上の状勢を二人は知らない

 

逸早くソルを討つ事を使命としているが故に悠長な事が出来ない、だから今、全てを出し切る

 

それが最適であり、それしか出来る限りを考えられなかった

 

「さすれば……尋常に勝負、だな」

 

その顔には何の不安も焦りも無い

 

満ちているのはただひたすらに余裕と愉悦

 

バーン(敗者)に触れた者達の頑張りがまるで喜劇に感じられる程に愉快なのだ

 

「「ッウウウウー!!」」

 

二人の頂点の二度目にして最後の機が神座にて熟す

 

「私の力……フランちゃんに託す!」

 

大妖精は祈りを込めて十字を切った!

 

レーヴァテインに注がれた風の力が緑の鍔を形成しフランの粗い魔力剣は鋭く成形され完全な剣と成る

 

「これで……お願い……!」

 

風飾の紅十字

 

 

「大妖剣・デュランダル!!」

 

 

力を合わせた唯一無二の絆の剣

 

「……!」

 

 

ゴウッ!

 

 

構えた時に動いた僅かな動き、たったそれだけで凄まじい暴風が荒れ狂う

 

「ほう……これはまた大したものだ」

 

それだけで推し測れる魔剣の威力にも関わらずソルの表情に変化は無かった

 

 

「うおりゃあああああーーーーッ!!」

 

 

託された想いを振りかぶり、立つのすら既に苦しい友を背に、フランはソルへ駆けた

 

「フフフ……」

 

ソルは笑う

 

(あの魔剣の尋常ならざる力は勿論の事、何より相討ちすら全く厭わぬ決死の覚悟……うかつな技では迎撃出来ぬな)

 

まともに受ければ命に届きうる死剣を前に見えているのは確信された勝利のみであった

 

「光栄に思うがいい……」

 

ソルは構える

 

天地魔闘では無い

 

この世で最も強いとされる己が手刀に力を込めていた

 

「これを使ったのはマデサゴーラ以来……今に限ればうぬらは大魔王に匹敵しているのだ……!」

 

 

ゴウッ……!

 

 

手刀が魔炎を纏う

 

「受けるがいい……これが災厄の終わり(カラミティエンド)を越える、不死鳥の終刃(ついじん)だ!!」

 

燃え盛る手刀を振り上げた

 

 

 

 

  「魔鏖剣(まおうけん)「デストラクション・ブレイク」!!」

 

 

      「フェニックスエンド!!」

 

 

 

 

覚悟を乗せた絆の合技と王を越えた神の炎刀が衝突する

 

 

 

 

 

         ズドオオッ!!

 

 

 

 

その衝撃はパレス全てを大きく揺らし神座の間全てに亀裂を入れてしまう程の衝撃の余波

 

 

「ぐぎっ……!?こん……のぉ……!!」

 

命を投げ出す覚悟の一太刀を受けられて悔しく顔を歪めるフランだが尚も諦めず押しきろうと渾身を込め続ける

 

「ヌゥゥ……!!」

 

だが流石にソルとて余裕という訳ではなかった、押しきられまいと炎刀に更なる力を込める

 

「ぐぎぎぎぎぃ……!!」

 

「ヌオオッ……!!」

 

裂傷した傷口から血を吹き出し、更には血管が裂けて全身から血を流すまでに自分のありったけを捧げるフラン

 

 

ズッ……!

 

 

フランと大妖精の魔剣が炎刀に食い込んだ

 

 

「オオオオッーーーー!!」

 

 

炎刀の炎が更に燃え盛り、魔剣は無惨にも破壊された

 

「そんな……嘘……」

 

信じられないと大妖精が膝から崩れ落ちる

 

「……!!?」

 

「素晴らしい一撃であった」

 

半分まで両断された手刀を瞬時に再生させたソルが微笑む

 

「しかし残念だったな、やはり惜しかった……うぬらが万全だったなら違う結果も充分に有り得た」

 

振り抜いた炎刀の炎を消しながら戻したソルはフランを見下ろす

 

「……クッソー!!」

 

渾身を潰され満身創痍のフラン、残った折れない意思と覚悟だけが諦めを許さず殴り掛かる

 

「その心意気……見事」

 

戦う意思を下げない誇り高きフランに、ソルは動いた

 

ズガッ!

 

手刀で弾き飛ばしたフランに暗黒闘気の魔弾を撃つ

 

「あぅ……うぅ……」

 

避けれず被弾したフランは呻きながら震える体で歩いてくるソルへ立ち上がろうとする

 

「このー!」

 

「ふん……」

 

爪を突き出し飛び込んだフランにまた手刀を食らわせる

 

「いぎぃぃぃぃ!!?」

 

脇腹に命中した手刀が骨を砕き突き込もうとした腕の力が抜ける

 

「……うあああああッ!!」

 

それでも我慢し、再び爪を突き入れる

 

「……」

 

ソルはそんなフランの顔を掴み、床に叩きつけた

 

「あ……ぐ…………」

 

まだフランの体が動いている、今にも落ちそうに震える手をソルへ伸ばそうとしている

 

「……もはや万に一つも勝ち目は無い、負けを認めて矛を納めよ、余はうぬらを評価している、出来れば殺したくは無い」

 

続けるのならトドメを刺すしか無いと告げるが聞こえていてかおらずかフランの手は止まる事は無かった

 

「……それが望みか」

 

手刀を突き入れようと構えた

 

「待てっ!」

 

ソルが顔を向けると立ち上がった大妖精が手をかざしていた

 

「フランちゃんは……やらせません……!」

 

ソルに弾幕を撃つ

 

「……」

 

ソルは微動だにせず弾幕を受けた、が効かない

 

力を使い果たした虫の様な弾幕が効く筈がない

 

「うぬはグレイツェルを倒した者と同じ種族だな……あの妖精と同じく甦られては少々鬱陶しい……」

 

大妖精に向かい鬼眼から光線を飛ばす

 

「ッ!?……皆さん……チルノちゃん……バーンさん……ごめんなさい……」

 

光線を受けた大妖精は瞳に変わり床に落ちる

 

「終わるまでそこで大人しくしているがいい」

 

大妖精に告げるソルの足下でそれを見ていたフランが叫んだ

 

「オマエーーー!!」

 

その手には目が握られていた

 

「……それはもう懲りておる」

 

グシャ……

 

「いぎぃ!?ッ~~~!!?」

 

見られる事も無く、握り潰す間も無く腕を踏み潰され破壊の能力は阻止される

 

「ッ…………」

 

それがトドメになりフランは気を失った

 

「まぁ……もっとも今の余に通用するとは思えぬがな、さて……」

 

二人に勝利したソルは間の扉へ体を向けた

 

 

ズオッ!

 

 

次の瞬間、扉からレーザーが飛び込んできた

 

「次はそなた達か」

 

難無く掌底で弾いたソルの神座の間に新たに二人が入ってくる

 

「フラン……大妖精……」

 

「間に合わなかったなんて……」

 

魔女の二天、大魔導士魔理沙と賢者パチュリー

 

広がる惨状に唇を噛んでいる

 

「遅かったな、残念ながらたった今そなた達の勝ちの目を摘んでしまったところだ、ククク……」

 

とても愉快そうにソルは笑っている、二人称が優しくなるまでに

 

「テメェッ!!」

 

「許さない……!!」

 

すぐさま戦闘体勢に入る二人だがソルが止めた

 

「その意気や良し、と言いたいが先程も言った通りそなた達に勝ち目は無い……メドローアや専用破邪呪文を作り出せる知識を持つそなた達にはよくわかっていよう?」

 

「「……」」

 

二人は黙る

 

「そなた達は二人共に純粋な魔法使い、ならばこれだけで無力となる」

 

パキィン

 

「チッ……」

 

ソルの前に光の壁が出現し魔理沙は舌を打つ

 

「そう、マホカンタだ……これだけでそなた達は雑魚以下に変わり果ててしまう、もしマホカンタをどうにか出来ても余にはそなた達も知っているであろうフェニックスウイングも有る」

 

己が負けない理由、二人が勝てない理由

 

「今のそなた達では万に一つ、いや……億に一つの勝ち目も無い、この二人がまだ動ける内でなければそなた達は意味が無かった」

 

もはや決まった勝敗に戦う価値が無かったのだ

 

「それでも……やると言うのか?」

 

試す様に問いかける

 

「寝言ほざいてんじゃねぇぜ太陽神さんよぉ!!」

 

魔理沙が怒鳴る

 

「私等の大事な妹分やられたからってトンズラするほどマトモに出来ちゃいねぇんだよ!」

 

魂の友であり家族の様な二人を痛めつけられて黙っていられる筈が無い

 

「私達はやらなければならない理由が有る、許さない理由も有る……勝ち目が無い?そんな些細な事はやめる理由にならないわ」

 

退く気は全く無いパチュリーも怒る心で冷静に告げる

 

「それは勇気ではなく蛮勇、希望無き無謀と言うのだがな……フフフ……」

 

わかっていたと言う様にソルは笑う

 

「ふん……これ以上否定はすまい、そなた達の様な者達は総じて皆そうなのだからな」

 

愚かとさえ言える無意味な行為

 

凄絶な生き方によって奇蹟を起こされかけた古の経験が有るからそこまで声を荒くしない

 

「やれるものならやってみよ」

 

寧ろ出来るなら見たいとすら思っている

 

 

「やるぞパチュリー……!無理を通して道理を蹴飛ばすぜ!!」

 

「ええ……!私達に不可能など有りはしない!!」

 

 

幻想郷で最高位に立つ頂点の二人、王の妹と大いなる妖精は平行世界で太陽神と成った大魔王の同位体・ソルによって倒される

 

 

「やああああってやるぜ!!」

 

 

次に神へ挑むは破壊魔獣を退けた同じく頂点の魔法使い、魔女の二天

 

 

 

余りに強い輝きを放つ勝利の太陽

 

希望無き絶望に挑む幻想の少女達

 

 

 

少女達の想いは1つ

 

 

 

ただ……平和な幻想郷が欲しくて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「戦況はどうですか?神奈子様!」

 

戦い続ける戦場の一角

 

「月兎がほぼ無傷だったのが効いているわね、これなら予想より持たせられるわ早苗」

 

僅かに見えて来た光明に笑みが出る

 

「では月に助っ人を送りませんか?ラスボスは言ってみればバーンさんなんですから強い人が多いほど良いと思うんです……」

 

「そうね……送れても一人、が限界……こちらもまだ綱渡りをしているのは変わらない事実……誰を向かわせるべきか……」

 

「ハイッ!私が行きます!」

 

「却下よ、私の御柱を使わなければ雑魚しか相手に出来ない早苗は身の程を知りなさい」

 

「……盗んだのバレてる」

 

「行かせるなら萃香か妖夢、霊夢は……無理か、軍団長クラスと戦っている最中ね……どちらかね、レミリアと紫と話して決める、さとり、貴方の意見も聞かせなさい」

 

神奈子が紫と連絡を取ろうとした瞬間だった

 

 

 

「その必要は無い」

 

 

 

ヴンッ……!

 

 

空間が歪み一人の魔族が降り立った

 

 

「バーン……?……ッッ!!?」

 

最も頼れる仲間が来たのだと思い顔を向けたが発する気配がまるで違う事にすぐに気付き神奈子等6人は戦慄におののく

 

「喜ぶがいい……直々に余が出向いてやったぞ」

 

そこに立つのはソルだったのだ

 

「……貴様ッ!何故貴様が此処に居る!!」

 

その問いは当然

 

何故なら幻想郷が誇る頂点達がソルを討ちに向かったのだから

 

逃げるならわかるが此処に来たのが信じられないのだ

 

「フッフッフ……」

 

妖しくソルは笑う

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス・神座-

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

力尽きて倒れた大魔導士と賢者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それなりに楽しめたぞ」

 

「貴様ァッ!!」

 

ソルの言葉に神奈子は理解する、月に向かった者達は頂点を含め倒されたのだと

 

 

「炙り出してくれよう……それまで精々余を楽しませるのだな、幻想共……!」

 

 

天の魔法使いすら退け遂に幻想郷に降臨した太陽神

 

望むは認め難き己の可能性

 

 

 

 

 

 

 

 

 

終わりへの前奏曲(プレリュード)が鳴り響く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




大変お待たせしました……

太陽神決戦の章、始まりました。
フェニックスエンドを覚えている人は……居るかな?本編では使わないと言いましたが区切ってるし嘘はついてないよね?うんダイジョーブデース!

・現在の主な犠牲者(リタイア含む)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ、にとり、霖之助、アリス、美鈴、幽香、竜王、紫、青娥、芳香、輝夜、常闇ノ皇、忍、バラモス、靈夢、正邪、カメハ、ロラン、ルナ、妹紅?、フラン、大妖精、魔理沙、パチュリー 計27名 

魔王軍 六将(5/6)、キルギル、親衛騎団(6/6全滅)、純狐、へカーティア?、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)?、テリー、ゴリウス、キル、ガルヴァス、グレイツェル、ヴェルザー、ゼッペル、災厄の王(ジャゴヌバ)、ナイト(ダイ) 計26名


次も遅くなるかもしれません……

次回も頑張ります!

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