東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第35話 眠れ、陽のもとで

 

どんなに嫌われてもさ

 

危ないなら助けるのなんて当たり前だ

 

 

誓った事だし、何より私は母親だから……

 

 

親は子どもの為なら何だって出来る

 

ルナの為なら相手が誰だろうと倒す!

 

 

…………

 

………………

 

 

 

例えそれが……

 

ダイ(お前)の……ダイ(親友)だったとしても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-魔界-

 

「!!」

 

慧音が空を見上げる

 

「……皆!喜べ!」

 

全員に聞こえるくらい声を張り上げる

 

「頂点の一人、あの皇帝不死鳥が……!妹紅がッ……!帰って来たぞ!!」

 

叫ぶ慧音は誰よりも嬉しそうしている

 

「本当ですか!?」

 

「もこたんINしたお!!」

 

「キタ!皇帝不死鳥キタ!これで勝つる!!」

 

あの慧音が気休めで嘘を叫ぶ筈がない、あの慧音が叫ぶ程に嬉しそうなのが妹紅が本当に帰ってきた事の何よりの証拠だと皆がわかるのだ

 

「先生……」

 

寺子屋の生徒が慧音に話しかける

 

「ん?どうした?」

 

「なんで先生泣いてるの……?嬉しいのになんで?」

 

その言葉にハッとして目に指を当てる、確かに泣いていた様だ

 

「……そ、それはな……」

 

慧音の顔が急に情けなく崩れていく

 

「嬉しいからだ……妖怪も人間もな、泣いてしまうくらい嬉しい時が……あるんだ……うぅ……」

 

教師の威厳も保てずに慧音は破顔しながら嬉しさの涙を流す

 

「馬鹿者……どれだけ心配したと思ってるんだ……馬鹿者め……」

 

そして出るのはほんの少しの罵倒と

 

「勝ってくれ……」

 

大きな勝利の願い……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……うーん、やっぱり違うのでしょうか……』

 

「……さっきからなんだ?どうした聖母竜……?」

 

戦いの最中、ハドラーは己の中に居る聖母竜・マザードラゴンへ問う

 

『それが……さっきから竜の騎士らしき反応を月から感じるのです……』

 

「何!?竜の騎士だと!?バラン……いや、ダイか!?」

 

ハドラーは驚愕せざるをえない、竜の騎士の母たる聖母竜がそう言うのだから

 

「待て……らしき、だと?」

 

『はい、私が産んだ竜の騎士ならばそうだと断言できるのですが……どうにも同じなのに違うみたいで……ですから、らしき、なのです』

 

「ぬぅ……」

 

聖母竜が感じたのは月に居るダイなのだが平行故に聖母竜の感知も正常に働いていなかった

 

「……可能性としてはソルが倒したダイが有力だろう、だが月に行く暇は無い……こいつ等を見捨てるわけにはいかん」

 

『ええ、わかっていますとも……そこで1つ試したい事が有るのですが良いでしょうか?この場で出来る事なのですが……?』

 

「好きにしろ、お前はドラゴラムをしなければこの場では存在意義が皆無な上に成ったところでどうせ役に立たんだろうからな」

 

『……事実ですがハッキリ言ってくれますね、ですがわかりました、少し集中しますので頑張ってください』

 

「頑張っている者に更に頑張れとは流石は役立たずのニート竜か、言う事が違う」

 

『なんで貶されてるんですか私!?今ので私の繊細なドラゴンハートは激しく傷つきました!謝って!私に謝ってください!』

 

「黙れ、さっさと勝手にやれ」

 

若干ふくれながら聖母竜は力の行使の為に瞑想を始める

 

「オイ!いつまで漫才やってやがる!さっさと戦えこの三流魔王が!」

 

「三流魔王……ッゥ!?……すまん、今行く!」

 

ロンに怒鳴られハドラーは戦いの渦中へ駆ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス・神座-

 

「……強い力が突然現れた、フム、何故か……親近感を抱くな」

 

妹紅の出現を感じたソルは皇帝不死鳥たる炎の力に興味を持った

 

「だが彼処は今や弱肉強食がルールの竜の餌場、血の豪傑すら倒す魔の竜騎士に骸に変えられ、食い荒らされる定めよの」

 

されどほんの僅かな興味とダイに討たれる運命とわかっているから一目すら見る気も無い

 

「……そうは思わぬか?」

 

それに……今はそれどころではなかった

 

「負け犬に触れし幻想共よ」

 

待ち望んだ客が遂に現れたのだから

 

「やっと着いた……!」

 

「妹紅さんは負けません!!」

 

ついにフランと大妖精がソルパレスの最奥に辿り着いたのだ

 

「歓迎しよう、もてなしは出来ぬがな」

 

「……!」

 

「ッ……!?」

 

ソルを見た時、少なからず二人に動揺が走った

 

(お爺ちゃんの姿だけど……)

 

(雰囲気はバーンさんそっくり……)

 

ソルにバーンを感じ一瞬言葉が出なかった

 

「ふむ……その様子ではやはりバーンとは余の平行の存在と見て相違無いみたいだな」

 

その僅かな機微から読み取るソルは余裕が溢れている

 

「……私達は話をしに来たつもりなんか……」

 

「わかっておるとも、お前達が一番欲するもの、それは余の生命……であろう?」

 

ソルは妖しく微笑む

 

「……わかっているならもはや問答無用です!」

 

大妖精が叫ぶと共に二人は臨戦態勢を取った

 

「……澄んだ目だ、気に入らんな」

 

二人の目に不快感を出しながらソルは悠然と神座から立ち上がる

 

「敢えて……敢えてだ、お前達をバーンの使徒と敢えて呼んでやろう」

 

およそ老人の姿からは想像出来ない超魔力が体から溢れ出す

 

「敗者が持った可能性とやら、見せて貰おうか」

 

凄まじき圧威が二人にぶつけられる

 

「大ちゃん……行っくよ!」

 

「うん!行こっ!フランちゃん!」

 

二人に恐れは無い

 

何でも有りでバーンと本気で戦えるある意味で二度と無い機会とも言えたからだ

 

「来るがいい……」

 

太陽神との戦いが……始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス・騎士の間-

 

 

ゴゴゴゴ……

 

 

間の中央に立つ少女の体が鳴動し、立ち籠る熱気が室温を上げる

 

「お母さん!輝夜さんが……」

 

ルナが叫んでいる

 

「く、首を斬られてっ、消えちゃって……せ、青娥さんも……!」

 

嬉しさが感極まるも凄惨な状況に混乱気味に説明しようとしている

 

「それで……ロランさんも……」

 

抱いている動かないロランが悲痛な顔に変える

 

「それでね……!あいつとっても強いの……!強くて怖くて……誰も勝てなくて……」

 

また涙を溢しながら顔は沈む

 

「だから……だからお母さんっ……!」

 

もう妹紅しか頼れる者はいない

 

だから頼るしかなかった、母親だから殊更余計に……

 

「……わかってるさ」

 

妹紅がルナの頭を撫でる

 

「全部知ってる、輝夜がお前を逃がす為に斬られたのも、青娥がやられたのも……ロランがルナを庇ったのも……この2年間の事、全部……」

 

ロランの傷口に手を触れると小さな炎が灯り傷口を優しく焼き塞ぎ血を止める

 

「後は母さんに任せとけ」

 

ルナの頭を撫でた妹紅はダイに振り向いた

 

「……」

 

ダイは妹紅を凝視している、新たな敵へ闘いの遺伝子が警戒を促し観察していたのだ

 

『妹紅……』

 

睨み返す妹紅に彼女だけしか聞こえない声が掛けられる

 

『気をつけて、恐ろしい相手だから……』

 

その奇蹟の声はとても悲しそうで泣いているみたいだった

 

「わかってる」

 

『……アレはボクのダイじゃない、だけど同じ……だから……救ってあげて』

 

「ああ……任せとけ」

 

『本当はボクがどうにかしたいけど、君の知るボクは過去の存在になってる……今話せてるのが既に奇蹟なんだ、だから……』

 

「わかってる、起きる筈がなかった奇蹟だろうがお前と久しぶりに話せた、それだけで私には充分だ……元気でな」

 

『……ボクの親友をお願い、もう一人のボクの親友……妹紅……』

 

声は消え、奇蹟の残り香が妹紅から消える

 

 

「……ふぅ」

 

大きく息を吸って吐いた妹紅がダイに向かって顔を上げる

 

 

ゴウッ!

 

 

同時に炎が妹紅から吹き上がった 

 

「……コロシテヨ」

 

収まっていた竜闘気が溢れ出しダイは剣を構える

 

「……言いたい事はあるんだ、色々な……だけど……お前はもう……」

 

とても辛く悲しそうな顔で妹紅は見つめる

 

「私が助けてやるよ」

 

増した炎勢が遥かなる大炎となり皇帝不死鳥も構えた

 

 

「「!!」」

 

 

同時に二人は飛び出す

 

互いに接近し合うまさに瞬間の時

 

「……」

 

そんな瞬き程の時間でダイは既に刀殺法奥義の構えを取っていた

 

竜の騎士の本能が、闘いの遺伝子がひたすらその瞬間毎に効果的な選択と反応を与える

 

「……!」

 

アバンストラッシュBタイプの刃が妹紅に迫る

 

 

スッ……

 

 

触れれば致死は免れない竜刃は肉を斬る事なく、揺れ動く数髪だけを斬る

 

「……!!」

 

まさに髪一重の回避を成功させた妹紅は己の間合いに入った

 

「ゼアアアアアアアッ!!」

 

出された拳がダイを打つ

 

 

ガウンッ!

 

 

「ッ……!?」

 

妹紅の顔が歪んでいる

 

「……」

 

片手で受け止めたダイを見て

 

「……!」

 

「!?」

 

ダイの剣を持つ手がピクリと動いたのを感じ妹紅が振らせまいと腕を押さえに手を伸ばす

 

「……」

 

「ッッ!?」

 

その意識を剣に向けた瞬間を逃さず受けていた拳を掴み引き寄せながら小さく跳躍し蹴りを打つ

 

「ぐあっ!?」

 

ガードは間に合ったものの打ち飛ばされる

 

(ロラン……お前はこんな化物からルナを守ってくれてたのか……)

 

今のだけで思い知る、あの少年の体に宿る力の凄まじさを

 

ダイの強さとは幻想郷の頂点ですら厳しい位置にある、総合ではロランとそう変わらない妹紅に勝ち目はあまりに少なかった

 

(だけど逃げないさ、ここにはお前も居て……何よりルナが居る、守って見せる!)

 

だが退く事は無い

 

(ルナを想う気持ちで負けられないもんな……私は母親だから……!)

 

如何な難敵だろうがその背に守る者が居る限り妹紅は不退転なのだから

 

 

「……」

 

ダイは拳を受けた手を見つめていた

 

軽い火傷をしている掌、妹紅の炎が焼いていたのだ

 

「……」

 

それがダイが動きを止めていた理由

 

竜闘気を纏った上での火傷、驚異的な熱なのは間違いない、皇帝不死鳥の炎は竜鱗を貫ける事を意味している

 

「……」

 

拳を握り妹紅へ向く、学習したダイはもう易々と触れさせる戦い方はしないだろう

 

「……」

 

呪文を放とうと手をかざす

 

「……!?」

 

だが気付いたダイは手を戻し代わりにアバンストラッシュのAタイプを放つ

 

しかし、距離が離れ過ぎていて容易に避けられる

 

「不死「徐福時空」!!」

 

直後に大量の弾幕を撃たれ切り払いつつ妹紅へ駆けながらまたAタイプを放つ

 

「!?」

 

それを妹紅は飛んで避けた

 

「……」

 

浮かぶ妹紅を睨み、舌打ちする様な表情でダイはトベルーラを唱え同じく飛翔する

 

「ウオオオッ!」

 

妹紅が弾幕を放つ

 

「……!」

 

高速で飛び回り避けるダイだが弾幕という慣れない物量攻撃は避けきれず数発被弾する

 

「……!?」

 

妹紅の弾幕は輝夜のモノより威力が高かったが纏う竜闘気によってダメージは殆ど無いに等しい、しかし衝撃までは殺せず被弾箇所が一瞬止まる程度の硬直が生まれた

 

「ウラアアアッ!!」

 

その隙を逃さず飛び込んだ妹紅の炎拳が顔面を打ち抜く

 

「……!!?」

 

追撃を繰り出そうとする妹紅に反撃すべく剣を振るが察知され距離を離されて剣は虚しく空を斬る

 

「ラアアアァ……ッ!」

 

再び弾幕

 

「……!」

 

火傷した頬を拭いながらダイは回避する、アバンストラッシュのAタイプを放つものの当たらない

 

「……」

 

ダイにとって妹紅は相性が悪い相手であった

 

遠近両方こなせるダイではあるが接近戦が主体であり遠距離はアバンストラッシュやエビルデインなど大味な技が多く小回りが効かない

 

妹紅のレベルで遠距離を保たれ弾幕を張られると苦しいのだ

 

「……!?」

 

ならばロランに放ったみたいにバギマ等の中位呪文を連射すれば対抗出来るのだがそれはある理由からダイは躊躇っていた

 

 

ドドッ!

 

 

妹紅の弾幕が命中し動きが止まる

 

「ラアッ!」

 

妹紅が飛び込む

 

 

ズガッ!

 

 

「ッ!?」

 

拳が命中したと同時に妹紅の腕が掴まれた

 

「……」

 

ダイが不適に笑っている

 

「ッ!?」

 

ならば間合いに引き寄せれば良いのだ、わかってさえいれば妹紅の攻撃をわざと受けてカウンターを食らわせるのは自身の防御力を持ってすれば造作も無い

 

 

ドガッ!

 

 

「ウガアッ!?」

 

引き寄せた妹紅に頭突きを食らわせ怯ませると剣と足を同時に動かす

 

「ッ……カアッ!!?」

 

防がなければならない致死の剣に意識を向け過ぎていた妹紅は足に反応が遅れ鳩尾に強烈な前蹴りを食らう

 

「……!」

 

そこへ間髪入れず剣を突き入れた

 

「ッウ!?ガア……アッ!?」

 

左肩を貫かれ妹紅の顔が苦痛に歪む

 

「アァ……ガアアアアアアッ!!」

 

「!!?」

 

咆哮をあげた妹紅が殴り飛ばした

 

「鳳翼!」

 

右手に巨大な炎翼を出現させ吹き飛び体勢を崩したダイに叩きつける

 

「肝試しの肝は富士の煙!月まで届く永遠の火山灰!」

 

炎翼から放出される極炎が床を溶かしマグマに変える

 

「蓬莱「凱風快晴 -フジヤマヴォルケイノ-」!!」

 

溜められた炎が噴火のごとき勢いでマグマと共に打ち上がった

 

「パゼストバイフェニックス!!」

 

炎が鳥の形に収束しダイを閉じ込める炎牢と化す

 

「ッ……どうだ?」

 

貫かれた肩を炎で止血しながら炎鳥を見つめる

 

「……!?」

 

炎鳥が僅かに動いたと思えば驚くべき速さで妹紅に向かって来た

 

「不死「凱風快晴飛翔蹴」!!」

 

迎え撃つ妹紅と交差する

 

「……」

 

炎鳥が佇んでいる

 

ピッ……

 

切れ目が入り、霧散した炎鳥の跡には剣を構えたダイが佇んでいる

 

「……クソッ」

 

同じく佇む妹紅が呟くと同時

 

ズバッ!

 

蹴りを放った右足が裂け血が吹き出る

 

「グウゥ……」

 

振り向きながら妹紅は距離を離す

 

(なんて奴だ……私の炎鳥を纏ったまま攻撃してくるなんて……炎鳥を斬ってからだと私が反応出来て避けられるからだろうけど、だからって……)

 

肉を斬らせて骨を断つごとき攻め方に妹紅は戦慄を感じていた

 

有効だろうが身を省みない無茶苦茶な攻め方が恐ろしいのだ

 

(……いや、そうか……違うな)

 

ダイの体から立ち昇るオーラを見てそうではないと気付く

 

(あのオーラが有るから無茶じゃないんだ……あのオーラを高めたら耐えれるからやった……分が悪いのは私だったのか)

 

ロランすら劣勢を強いられた攻防を兼備する異常な竜闘気のレベルが博打を有効な戦法に変えていたのだ

 

「……だけどな!」

 

妹紅が自信有り気に言うとダイが振り向き、その火傷だらけの肌を見せた

 

「ハッ……当然だ!皇帝不死鳥の沽券に関わるからな!いくらそのオーラが凄くても私の炎に包まれてタダで済むかよ!」

 

手痛い一撃を貰ったがまるで無駄だったという訳では無い

 

竜魔人になったダイの竜闘気でも妹紅の炎を完全に防ぐのは無理だったのだ

 

(それでも大したダメージじゃないか……ほとんど全力でようやく攻撃が通るって所か、厳しいな……)

 

竜闘気を貫けるとは言え大幅な軽減をされているのは確か、受けたダメージを見るにダメージでは負けている

 

だとしても無駄ではないが妹紅の思う通り厳しい状況だった

 

 

「……」

 

ダイは紋章閃を放とうとする仕草を見せるも撃たない

 

(なんだ……?)

 

それに妹紅は違和感を感じとる

 

(さっきからなんだ……?呪文が使えないのか?魔力が尽きた?いや……魔力はまだ感じるしそんな事はない筈だ……それに動きも微妙に悪く感じる、私の攻撃が当たっているのが証拠……ロランは中々当てられなかったのにだ)

 

様子がおかしい事を考えるもダイが突撃してきた事で応戦を余儀なくなせ思考が途切れる

 

「くっ……!?」

 

距離を取って戦うも魔理沙や大妖精のような弾幕のスペシャリストという訳ではない妹紅の弾幕は二人に比べると拙く、ダイを割りと容易に近付けさせてしまう

 

「ッ!?」

 

手刀が頬を掠める

 

「ウラアッ!」

 

全身から炎を出しダイを退かせた妹紅は荒めの息をゆっくりと整えながらダイを睨む

 

 

「やめた……性に合わない」

 

気を落ち着かせた妹紅は覚悟を決めた瞳でダイを睨む

 

「悪い皆……私は馬鹿だからさ……悪いけど……私らしく行く!!」

 

更なる大炎が噴き上がり、圧縮され、形を成す

 

「見せてやるよダイ……!これがッ……!!」

 

妹紅を中心に燃え上がる首有りの炎鳥

 

 

「私の炎だッ!!」

 

 

炎火旺盛にしてその姿、雄々しくも美しき王鳥

 

永遠を生きるとされる不滅不尽の不死の鳥

 

 

皇帝不死鳥

 

 

それは……絆の証明

 

目指した友を越える為に磨き上げ、認められた幻想郷最高の炎の形

 

 

 

「凄い……これがお母さんの炎……」

 

これこそルナが無意識に追い求めた母の姿であり、幻想郷の頂点たる妹紅が持つ、想像を絶する威力と優雅なる姿を顕現させた至高の炎形

 

 

 

「……」

 

それを見たダイは先程より更に警戒した感じで構えを取る

 

「……行くぞ」

 

妹紅が動いた

 

「ラアッ!!」

 

ダイ目掛け直進し拳を振るう

 

 

ガッ!

 

 

「……」

 

剣の腹でダイは微動だにせず受けていた

 

如何に見た目が派手とは言えロラン程の威力は無いと見切った上での防御、そこから炎を切り裂き妹紅を斬る為に刃を返そうと動く

 

「……オオオオッ!!」

 

「!!?」

 

 

ドオッ!

 

 

直後に妹紅の拳から凄まじい炎がビームの様に噴き上がる

 

「……!」

 

反撃する間も無く炎に飲まれ吹き飛ばされたダイが脱出する

 

「……」

 

ダイの左腕が軽く焦げている

 

咄嗟に竜闘気を高めて対応したものの間に合いきらず左腕だけが他より少しだが強く焼かれていた

 

「……!」

 

だが大したダメージではないからダイはすぐに動く

 

「チッ……速い!?」

 

広い空間をトベルーラを使い縦横無尽に動き妹紅の機先を制する

 

「クッ!?」

 

斬るより当てる事を優先した攻撃はそれでもオリハルコンの剣と強力な竜闘気によって皇帝不死鳥の炎に影響されず容易く斬り抜け肌を刻む威力を持つ

 

「……オラアッ!!」

 

負けじと殴り返す妹紅の拳を剣で防ぎ炎が来る前に離脱

 

「クソッ……!そういう戦り方か!?」

 

遠距離戦から近~中距離戦を挑んできた妹紅にダイは応えつつも一撃離脱という有効な戦法を取ってきた

 

「ウアッ!?」

 

「……」

 

剣闘技のみだったロランはダイにとっては戦い易く、近接戦闘だけ注意してさえいれば言ってみればどうにでも出来る相手だったが妹紅は違う

 

近距離が特に強く中~遠距離も及第点の力を持つ妹紅はダイにとってやはりやり辛い相手だった

 

「……」

 

「グッ!?……クソオッ!」

 

更には竜闘気でも完全に防げない炎を纏う為に超接近戦に軽々には付き合えない、捨て身等で押さえ込まれてあの炎で焼かれ続ければ無尽蔵ではない竜闘気を考えても焼き殺される可能性が高いからだ

 

「ッッ……!?」

 

「……」

 

だからこそこの一撃離脱

 

遠距離はある理由から躊躇っており、かと言って接近戦を長く付き合いきれないからこうするのだ

 

「コノ……ヤロォッ!」

 

一撃離脱を捉えきれない妹紅が弾幕を放とうと炎を集中させる

 

「ッ!?」

 

弾幕を形成する前に飛んできた斬撃に飛び退く

 

「今のままを続けたいって訳か……」

 

再び弾幕を形成しようとしたが次々来る斬撃がその間すら与えてくれない

 

「だからってよ……」

 

拳に力を入れ、斬撃に裏拳を振り抜く

 

「こんなもんが!」

 

斬撃を焼き消した妹紅が怒鳴る

 

「……」

 

ダイは構わずアバンストラッシュAタイプを動き回りながら連射する

 

「通用するか!」

 

時計回りに来る斬撃を焼き消しながら妹紅は背後から迫る斬撃を消す為に振り向き、拳を突き入れる

 

「なっ……!?」

 

だが次は消せなかった

 

(なんでだ!?さっきと一緒の筈……ッ!?違う!斬撃が……重なって……!?)

 

交差されたAタイプの重ね十字

 

アバンストラッシュAX(アロークロス)とでも言うべき神業、遥かな時を戦い続けた竜騎士の受け継がれてきた遺伝子がそれをこのハイレベルな戦いの中ですら可能とさせるのだ

 

「グッ……このッ……!!?」

 

AB複合の本家ストラッシュXに比べれば威力で大幅に劣るのは確かだがそれでもロランより膂力の劣る妹紅には充分な威力

 

「ウアアッ!?」

 

一番威力が集中する交差点だけが焼き消せず極少の斬撃が右腕を貫き激痛が襲う

 

「~~~ッッ!?」

 

痛めた右腕を押さえながら妹紅は睨む

 

状況に応じて己の手札で千変万化に対応し、その時々に適した攻め方を成せる戦神の系譜からなる力

 

ロランを苦しめた竜の騎士が代々受け継ぐ闘いの遺伝子は例外無く妹紅に牙を剥く

 

 

「……」

 

「ウゥ……ッ!?」

 

ダイが妹紅へ向かう

 

 

ズドッ!

 

 

「ウグッ……ゥ……!?」

 

剣を避け、次に繰り出されていた蹴脚も見えていたが痛みに右腕の対応が遅れ横面を蹴り飛ばされる

 

(クソ……なんて強さだ……)

 

竜魔人の肉体からなる打撃は気を緩めたら一撃で終わってしまうくらいに速く重い

 

「ガア……アッ……!?」

 

畳み掛ける好機と見たダイが炎のダメージを気にせず怒濤の攻撃を始め致死の剣だけは食らえない妹紅を手玉に取り一撃ずつ確実に、尚且つ多大に削っていく

 

(おまけに容赦なんて全く無いときた……そりゃそうか、そういう風にさせられてるんだもんな……)

 

肘打ちを受け怯んだ直後にそのまま出された裏拳を受け打ち飛ばされる

 

(……ハハッ、なんて顔で見てんだルナ……)

 

追撃に飛んでくる斬撃を辛うじて避けながら妹紅の視界に一瞬だけ、とても心配そうで今にも泣きそうなルナが目に入る

 

(知ってるかルナ……?母親って……子どもを守る時は誰にも負けないんだってよ……)

 

既に目前に迫っているダイを見つめながら妹紅は問いかける

 

 

ドスッ……

 

 

ダイの手刀が腹に突き刺さる

 

「ッゥ……!?」

 

口から血を流す妹紅がダイを覚悟の瞳で睨みつける

 

「だから見てろ……ッ!!」

 

腕を掴み、纏うその炎が烈火の如く更に燃え上がり、炎色が赤から真紅に変位する

 

 

 

()は負けないッ!!」

 

 

 

限界すら越えた異常炎

 

「!!?」

 

その凄まじさたるや竜闘気を集中させたダイの手刀を直接触れているとはいえ溶かしかける程

 

「ウオオオオオオ……!!」

 

その炎は太陽に迫らんばかりの超炎熱

 

妹紅は今、太陽に匹敵する炎を纏っていたのだ

 

 

「アアアアアアアアアアッ!!」

 

 

雄叫びをあげた妹紅がダイを防ぐ剣ごと殴り飛ばす

 

「……!」

 

余りの熱に受けた箇所が赤熱する剣を構え直し妹紅を迎え撃つ

 

ザンッ!

 

妹紅より先に剣が斬った

 

「!!?」

 

だが浅い、両断出来る筈なのに薄く肉を斬るに留まっていた

 

異常な炎圧に威力を殺されているのだ

 

「オアアアアアッ!!」

 

予想と違う結果に隙を見せたダイに放った拳は見事に顔を打ち抜く

 

「……!?」

 

足で床を削りながらブレーキをかけて止まったダイの頬から焼け爛れた紫の溶肉が滴る

 

「ハ……ァ……ウオオオオオオッ!!」

 

「!!」

 

不死鳥と竜の凄絶なる死闘

 

「ガアアアーーーッッ!!」

 

斬られる事など気にもせず、雛鳥を守る為に死力を尽くすは再誕の親鳥

 

「!!」

 

その炎圧にもはや飛び道具は奥秘を除いて無意味だと悟り、溶けぬ己の剣で斬り刻むは親を亡くし……友も仲間も亡くした天涯孤独の操仔竜

 

 

「!!!」

 

 

今のダイにとって妹紅は昔の自分と言えた

 

大好きな者を守る為に戦う姿はソルに敗北する前のダイと同じ、更にそれがルナと言う自らの子の為だという想いは父・バランが持っていた愛情と同じ物も感じる

 

本心ではそんな妹紅を斬りたくない、誰も傷つけたくない

 

でもどうしようもないのだ……体を改造されて無理矢理戦わされているのだから……

 

 

「アアアアアアアアアーーーッ!!」

 

 

妹紅に迷いは無い

 

ダイの何もかもを奇蹟の親友から知らされたから躊躇わず非情の拳を振るう

 

それが一番の救いになると誰よりわかっているから

 

情を感じる故に非情に徹するのだ……

 

 

 

ピシィ……

 

 

 

望まぬ想いが悲しき音を奏でる……

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァー……」

 

「……」

 

どちらかの死で終わる死闘に佳境の時が近付いて来る

 

「ハァ……ハァ……」

 

全身痛んだ体、身に刻まれた斬り傷は大小含め100を越える、左腕はもうまともに動いていない、それでも覚悟の意思で今だ倒れぬ妹紅

 

「…………」

 

声も出せず、表情にも出ないがダイもロランに斬られた胸の斬り傷を中心に全身に酷い火傷を負い、攻防の最中でやられた右足を引き摺っていた

 

「ウッ!?ウウゥ……!?」

 

妹紅が急に苦しみだし炎の勢いが僅かに落ちた

 

「……」

 

それを見てダイの闘いの遺伝子が反応する

 

時間制限か体力か、あの炎を維持する限界が来たのだと判断した

 

「……」

 

ダイが剣の腹を見せて水平に構える

 

力の低下を待ってから仕留めようと防御に徹するつもりなのだ

 

「……ッ!!」

 

その隠すつもりのない構えに妹紅は顔を歪める

 

(わかってる……本当のお前がそんな真似をする奴じゃないのは……)

 

ただ悲しいのだ

 

本来のダイなら絶対にしない勝利だけしか見てない戦い方に

 

(やるしかない……やってやるさ……!)

 

力を入れて右腕を構える

 

「起こしてやるよ……奇蹟を!!」

 

妹紅が飛び込み

 

「ラアアアアアアッ!!」

 

渾身の拳を打ち込んだ

 

 

ズドオッ!!

 

 

炎が舞い上がる

 

「チ……ィィ……!?」

 

苦い声が染み出す

 

奇蹟が起きる筈などない……

 

「……」

 

剣によって拳は完全に防がれていた

 

「クゥゥ……ガハッ!?」

 

吐血し炎勢がみるみる落ち、炎色も元に戻ってしまう

 

「ハァ……ハァ……ク……ソォ……」

 

苦しみ喘ぐ妹紅の炎は更に弱まり、体の力が抜けていく

 

「……」

 

それを見てダイは……笑っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな……そんなッ……!?」

 

ルナが絶望の声を出す

 

幼いルナにもわかったのだ、母にもう勝ち目が無い事が……

 

「ヤダ……ヤダよ……」

 

涙が溢れてくる

 

「帰ってきてくれたんだよ……?ようやく帰ってきてくれたのに……こんなのッ……あんまりだよぉ……」

 

既にわかっていた

 

生きた母を見れる時間が僅かしか無い事を……

 

だからもう叫ぶしかなかった

 

 

「お母さんッ!!」

 

 

妹紅()の名を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フッ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダイの剣に付いている宝玉が突如光を失う

 

 

ピシィ!

 

 

「!?!?」

 

驚愕するダイの目の前で妹紅が触れている刀身の部分にヒビが入り広がっていく

 

 

ギィン……

 

 

剣は……ロン・ベルクがダイの為に作った生きた剣は……

 

その生命を終わらせた

 

 

「!!?」

 

ダイは狼狽え後退る

 

さすがの竜の騎士と言えど己の力に応えられる半身とも言うべき剣が折れては動揺は隠せなかった

 

「……まさか」

 

妹紅は振り向き見る

 

「お前が……やってくれたのか……?」

 

ルナに抱き抱えられているロランを

 

「……」

 

答えはしなかったがロランは微笑み頷いている様に見えた

 

 

 

 

ロランはダイと戦っている時に狙っていた事が有った

 

それは武器破壊

 

ダイの手刀すら斬れるロトの剣を防ぐダイの剣を破壊して遮る物の無い状態を狙っていたのだ

 

 

その為に破壊の礎として亀裂の入った箇所と同じ箇所を狙って幾度も攻撃したのだ、狙いを悟られぬ様に徒手やダイ本人を狙いながら……

 

 

同じオリハルコン同士とはいえダイを上回る膂力を持ったロランの攻撃、勝算は有ったが誤算に気付かなかった

 

 

それこそが竜闘気、剣に竜闘気を流して扱う竜の騎士の剣は竜闘気により想定よりも遥かに頑丈だったのだ、竜魔人の闘気なら尚更に

 

 

それ故にロランでさえ最後まで破壊出来なかったのだ 

 

 

 

しかし、楔は打ち込めていた

 

 

度重なる攻撃でダイの剣の内部に小さな亀裂を作っていた

 

そこを妹紅は知らずの内に打っていたのだ

 

 

いや……導かれていたのかもしれない

 

 

ロランの持つ不死鳥の剣がそこを打てと……

 

 

 

 

「……ありがとう」

 

笑みを向けた妹紅は前を向く

 

ロランが打ち込んだ楔はそれだけではなかった

 

小さいながらも蓄積させたダメージ、胸の傷、それがダイを弱わらせ動きが悪くなったと感じさせたのだ

 

更に強敵と連戦を想定していなかったダイは呪文や竜闘気を放つ紋章閃をペースを考えずに使っていた、それが妹紅との戦いの時に使わなかった理由、強敵とは言えロランだけに使い過ぎたのだ、その為に闘気、魔力とも最低限だけ温存し使わなかった

 

もし、ダイがロランと戦わずに妹紅と戦っていれば妹紅はここまで戦えず殺されていただろう、本来なら限界を越えていても厳しい相手なのだから

 

「!!?」

 

ロランが楔を作り、妹紅が打ち抜いた

 

ダイをここまで追い詰めたのは二人の絆が合ったからなのだ

 

 

 

「お前が奇蹟を起こしてくれたんだ……ここで私がやらなきゃな!」

 

ルナを守る為にここまでしてくれていた

 

その想いが妹紅の体に再び力を戻す

 

「そうだよなァ!ロラン!!」

 

真紅超炎の皇帝不死鳥を纏いダイを見つめる

 

「……!」

 

落ち着きを取り戻したダイは剣を捨て両手を合わせる様にして構える

 

「コロ……シテヨ……!」

 

ダイの竜闘気が全て高まり両手に収束されていく

 

「コロシテヨォォォーーーッ!!」

 

開かれた手が竜の口を模す

 

竜闘気砲呪文(ドルオーラ)

 

これぞ竜の騎士の、剣を失った今のダイが出せる最高技

 

竜闘気を魔法力で圧縮し打ち出す竜の騎士専用にして唯一の呪文、剣が折れる事は想定外であったが保険の最終手段として全力のドルオーラを1発分撃てるだけの竜闘気と呪文を温存していた事が今、活きた

 

 

「……まだやらされるのか」

 

妹紅は言う

 

「辛かったよな……親も友達も仲間も皆殺されて……ずっと無理矢理戦わされて……」

 

その顔に喜怒も楽も無い、有るのは哀しさだけ

 

「疲れたろ……?願いは叶えてやるよ……私が……終わらせてやる」

 

不死鳥が炎翼を広げる

 

「子守唄でも歌ってやりたいけど、生憎苦手なんだ……だから、不死鳥(これ)が代わりだ……ごめんな……」

 

 

 

ゴゴゴゴゴゴ……

 

 

 

終曲の音が重く鳴り響く

 

 

 

「!!!」

 

ダイがドルオーラを撃つ

 

竜魔人の残る全ての竜闘気を圧縮した超密度のビーム

 

下手をすればソルパレスごと月の都そのものを吹き飛ばせる威力を持つまさに超位呪文

 

 

「ハアアアアアアッ!!」

 

そのビームへ妹紅は飛び込んだ

 

 

「不死「火の鳥-鳳翼天翔-」!!」

 

 

バーンからも認められた最も高き炎から成る天翔る不死鳥の葬技

 

 

ズガガガガガガガガッ!!

 

 

魔人となった双竜の超騎士が放つ究極呪文の威力は当然凄まじく、超密度の竜闘気が浴びせるではなく叩きつけていると表現されるまでに凶悪

 

「ッッ……!?」

 

絶対防御不能な呪文、これを食らって生きている方法は堪えるか避けるしか無い

 

そう言われるまでの呪文

 

 

「オアッ……アッ……!?」

 

ましてや最強の竜騎士の全て、絶対生還不能な竜技として昇華している

 

そんな広げられた絶死の空の中に妹紅は居るのだ

 

「……アアアアアアアアアアッ!!」

 

突き進む

 

ひたすらに前へ飛ぶ

 

 

絶対に死ぬのがダイのドルオーラならば、死から何度でも甦るのが妹紅の皇帝不死鳥

 

 

不尽の火から何度でも甦る皇帝不死鳥に通れぬ道理は無い

 

 

「もういい……」

 

絶死の中で妹紅が呟く

 

「もう……いいだろ!!」

 

悔やむ様に唇を噛み、拳を握り締める

 

「お前の負けだ!!」

 

衰えていく圧威の中、妹紅は一気に突き抜けた

 

 

「だからもう……おやすみ……」

 

 

不死鳥が……竜を通り抜けた

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

互いに背を向け立ち合う

 

「……」

 

炎が消えた妹紅が振り返る

 

「!!?」

 

同時にダイが燃え上がった

 

胸に受けた殴打跡から炎が吹き出ている

 

 

「……」

 

微動だにせず焼けていくダイを妹紅は見つめる事しか出来ない

 

「……ア……」

 

体の半分近くが燃えようとした時、ダイが声を出し、妹紅へ振り向く

 

「アリガトウ……」

 

本心から出たとわかる言葉

 

死を間際にしてようやくダイの体は自由を得れたのだ

 

「……」

 

何も言えない妹紅の瞳から一筋の涙が流れる

 

 

どうしようもなかった、こうする以外に……

 

何もかもを失ったダイを助ける事は妹紅には出来なかった、地獄を見ていたダイを傀儡から解放出来たとしても故郷も親も友も仲間も無い地獄が待ち受けているだけだったから

 

だからこうするしかなかったのだ……それが救いであり

 

ダイ本人がずっと望んでいた願いだったから……

 

 

 

 

 

「……」

 

疲れた様に床に倒れ、ダイは目を閉じる

 

 

カッ……!

 

 

その時、ダイの頭上に光が現れ、1本の剣が傍らに突き刺さり、ダイの炎を消し、折れたダイの剣を引き寄せる

 

「竜の……剣……?」

 

妹紅は知りはしないがその剣こそ竜の騎士の正統たる武器・真魔剛竜剣

 

ソルとの戦いで折れたまま消えた剣が何故か今、再びダイの元に姿を見せた

 

『礼を言う……バーンの友よ』

 

真魔剛竜剣から壮年の男の像が浮かび上がる

 

「……ダイの親父さんか」

 

『如何にも、私はこの子……ディーノの父、バラン……異次元のマザーの導きでこの子を迎えに来た』

 

このバランはバーンが居た世界のバランではなく平行世界のバラン、ダイの真の父親

 

ハドラーの中に居る聖母竜がダイから辿り、平行世界へ呼び掛けてみていたのだ

 

「悪い……救ってやれなかった」

 

『貴方が気に病む必要は無い、この子もこうなる事を望んでいた』

 

「だけど……それでも救ってやりたかった」

 

『優しい人だな貴方は……神の涙もこれを望んでいたのだろう?』

 

「……」

 

『謝るのは私の方だ……この子がこんなになってしまっていたのに……傍に居てやれなかった……親だというのに……』

 

「……」

 

『いや……居ても私では無理だっただろう、こんなに優しくは寝かせられん……とても安らかな顔をしているものな……』

 

「……」

 

『だから貴方は気にしなくていい、この子にも言われた筈だ……「ありがとう」と……』

 

「……ああ……わかった」

 

バランはダイの遺体を優しく抱き上げる

 

『振り返らず進めバーンの友よ、竜の無念は私が連れていく……立ち止まるな、明日を求めて進め、勇気有る……優しき不死鳥よ……』

 

妹紅に頭を下げるとダイへ微笑んだ

 

『行くとするか我が子よ……向こうで皆が待っている、お前の友、仲間……そして……太陽の様だった……母が……』

 

強い光が二人を包み、消えていく

 

 

 

 

これもまた可能性の一欠片だった

 

バーンの可能性が見せるそうなったかもしれないもしものダイ

 

中にはバーンが勝利した別の平行世界では殺されているダイも有り得ただろう

 

 

その中でこのダイは最悪と言えるダイだった、ただそれだけの事……

 

 

 

 

それだけの事だが……因果によって幻想郷に導かれ、皇帝不死鳥によって最期に救われたこのダイは……

 

まだ幸福だったのかもしれない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

不死鳥の子守唄は疲れきった仔竜に永遠を与えた

 

二度と起きない永遠の眠り……

 

 

 

でも大丈夫、心配しなくていい……父が優しく連れていってくれるから……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

""

 父さん……ごめんなさい……

 

 

 ……ゆっくりと休め息子よ、もう悪夢は終わったのだ

 

 

 うん……

 

 

 好きなだけ甘えるといい……母に……

                        ""

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        眠れ、()のもとで……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フゥ……終わったか」

 

見届けた妹紅はルナへ振り向く

 

「大丈夫か?怪我の具合は平気か?」

 

ルナへ歩いていきながら笑顔を見せる

 

「……ッ!?ヒグッ……お、お母さんの方が……大丈夫じゃないよ……!」

 

「こんなもんへっちゃらだ!」

 

終わった安堵感とボロボロなのに嬉しそうに笑う母の顔に感極ったルナの目から涙が止まらない

 

「どうして……私……!お母さんにあんな酷い事言ったのに……!どうして……!」

 

こんなになってまで助けてくれた事が妹紅を他人と言ってしまったルナには堪らないのだ

 

「……お前がまだ赤ん坊の頃だ、お前を育てるって決めた時にさ……勝手だけど……どんな事があっても必ずやるって一緒に決めた事が有るんだ……」

 

ルナの頭をそっと抱き寄せ、ルナが知らない妹紅が心に決めた想いを話す

 

「お前だけは絶対に守る、って……」

 

愛する娘への限り無い愛情を……

 

「うぅ……うー……!うぅー!」

 

それを聞いてもうルナは我慢など出来なかった

 

「ごめんお母さん……!他人なんて言ってごめん……!違うの……本気なんかじゃなかったの……ごめんなさいお母さん……寂しかった……!怖かったよぉぉ……!」

 

わんわんと泣き喚きながら妹紅へしがみつき何度も謝る

 

「……お前の母さんでいて……良いのか?」

 

「うん……!う"んっ……!だから……もうどこにも行かないでよ!お母さぁぁぁん……!!」

 

「そっか……私はお前の母親でいて良いのか、ルナ……無事で良かった」

 

妹紅も泣いている

 

「おかえりなさい……おかえりなさい……お母さん……!!」

 

「ああ……ただいま……ルナ……!」

 

再会した親子はしばらくの間泣き続けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ……と……イテテ……」

 

妹紅はルナを抱き、ロランを背負う

 

(輝夜は蓬莱人だから永遠亭で甦るから大丈夫、青娥と芳香は……ダイとの戦いの最中に時間が来てスキマで魔界に行ったみたいだな、なら大丈夫か……)

 

泣きつかれて寝ているルナを見つめる

 

「相変わらず寝かし付けるのが下手だなぁ……」

 

苦笑した妹紅は引き返す為に間の扉へ向かい歩いていく

 

「悪い、後は任せる……」

 

呟いた瞬間、妹紅の横を2つの影が通り過ぎる

 

 

「よくやってくれたわ妹紅、休んでなさい」

 

「しゃあねぇから任されてやるぜ!なんたってダチだからよ!!」

 

 

パチュリーと魔理沙

 

豊姫が連れてきた月の軍隊1500名の識別を終えて戻って来たのだ

 

「頼む……」

 

絆で繋がる頂点達に再会を祝う余計な言葉は無い、それは全てが終わった後ですればいい、妹紅が帰って来た、それだけわかっていれば良いのだ

 

互いに最優先しなければならない事を理解し最低限の言葉だけで済まされる

 

 

 

 

 

 

 

いよいよ終末の時が近付いていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、本当にまさかだ、ナイトが倒されるとはな……大したものよ、うぬらには驚かされてばかりだ」

 

ソルが佇んでいる

 

「ごふっ……!?」

 

膝を着き、手が着かれ、見上げる

 

「言った筈です!妹紅さんは負けないって!」

 

「次はお前だ!」

 

大妖精とフランを

 

「ふっ……わかっていた、わかっていたとも……強い事など、な……」

 

敵わぬ強さを誇る二人の頂点に()()のソルは笑う

 

「フフッ……」

 

その笑みは崩れない

 

配下手駒の殆どを倒されても決して崩れない

 

 

「フッフッフッ……」

 

 

太陽神の魔笑が不気味に響く……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お待たせしました。
一周年は逃しましたがダイ決着編になります、テーマは母の愛と親子です。

結構な難産でした、何せダイが強過ぎて……4人撃破(内、最高クラスのロラン)と実質妹紅の5人ですからね、流石は真バーン様を圧倒できる竜魔人(剣装備の完全状態)ソルに次ぐ強さでした。


・現在の主な犠牲者(リタイア含む)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ、にとり、霖之助、アリス、美鈴、幽香、竜王、紫、青娥、芳香、輝夜、常闇ノ皇、忍、バラモス、靈夢、正邪、カメハ、ロラン、ルナ、妹紅? 計23名 

魔王軍 六将(5/6)、キルギル、親衛騎団(6/6全滅)、純狐、へカーティア?、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)?、テリー、ゴリウス、キル、ガルヴァス、グレイツェル、ヴェルザー、ゼッペル、災厄の王(ジャゴヌバ)、ナイト(ダイ) 計26名


前話に少し追加してます、ロランが倒された後にゾーマ様のシーンを追加してラストに1文追加しました。

次回も頑張ります!

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