東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

32 / 86
第31話 不死身の敵に挑む

 

-無縁塚-

 

「チッ……キリが無い……」

 

中央地帯、味方を避け敵しか入れない様に区切られた紅壁内でレミリアは舌を打つ

 

「ッ……しぶとい!」

 

まだ向かってくる致命傷を与えていた敵にトドメを刺す

 

「くっ……ハァ……」

 

レミリアの実力からすれば雑魚だが絶え間の無い数はいかんともし難くついに息が切れ始める

 

 

「ヌッ……オオッ!」

 

ミストも拳を振るうも勢いを止められない

 

(……倒しきれん!このレベルの大人数は私では力不足……!技ならば倒せるが暗黒闘気を使い過ぎれば消滅が待つ……)

 

ミストの実力では辛い、手傷を負わせレミリアが一撃で仕留めれる様に援護するかレミリアの討ち漏らしの処理が精一杯

 

(今か……奥方たるレミリア様の為に!何よりバーン様の為に!私は……)

 

(死んでも本望!!)

 

ミストは動く

 

「闘魔滅砕陣!!」

 

暗黒闘気の糸を張り広範囲の敵を止めレミリアの前に立つ

 

「どうしたのミスト……?」

 

「レミリア様……」

 

その右手には闘魔最終掌を発動していた

 

「バーン様にお伝えください……先に逝く愚かな黒い霧をお許しください、と……」

 

「貴方……まさか!?」

 

何をする気なのかレミリアは察した、命を持って特攻する気なのだと

 

「やめなさい!」

 

「拒否します、私は貴方様に仕えている訳ではありません、聞く必要がありません」

 

「いいからやめろと言っているのよ!そんな事は許さないわ!!」

 

「……美鈴にもお伝えください、楽しかった、と……」

 

「ミストッ!!」

 

もうミストは止まらない

 

「行くぞ……!!」

 

幻想郷での日々を思い出しながら構えた

 

 

 

 

 

 

「待ちなミスト!」

 

 

 

 

 

 

それは現れた萃香によって止められた

 

「つれないねぇ……盟友の私にゃあ何も無いのかい?」

 

「……」

 

「盟友に言葉は要らん、ってか?寂しい事言ってると泣いちゃうよ私ゃ!」

 

カラカラ笑いながらレミリアへ萃香は寄っていく

 

「勝手して悪かったね、だけど魔軍司令のガルヴァスは……まぁ片付けたよ」

 

「……そう、別に怒ってないわ、元々貴方には遊撃を任せてたのだしね」

 

「すまないね」

 

許され気を良くした萃香はミストに並ぶ

 

「特攻精神のその意気は買うけどそれじゃ神風は吹かんねぇ……あんたじゃ精々つむじさね」

 

「ならばどうしろと言うのだ、手負いのお前に妙手が有ると言うのか?」

 

「有るじゃないか、つむじを神風に変える霧の妙技が……私とあんたなら出来る」

 

「……いいんだな?その傷では安全は保証出来んぞ?」

 

萃香が何を言いたいかを理解したミストは問う

 

「馬鹿、戦いに安全求める阿呆がどこに居るのさ……違うかい?」

 

「……わかった」

 

二人に余計な問答は無かった

 

ミストにとって初めての友と言える萃香にはバーンや美鈴とはまた違う言葉は無い信頼があった

 

 

ズズッ……

 

 

霧になったミストが萃香へ入っていく

 

 

「黒装「ミッシングブラックパワー」!!」

 

 

一人の霧の鬼となった萃香から暗黒闘気が溢れ出す

 

「そらあーッ!!」

 

萃香の拳から伸びた暗黒闘気の腕が魔物を貫く

 

「これが霧の妙技!私とミストの霧の力が合わさって最強に見える!その難しさは私以外がやったら逆に頭がおかしくなって死ぬくらいさ!」

 

二人の力が融合し暗黒闘気が萃香の力を引き上げ鬼の力が暗黒闘気を強める

 

美鈴に行った寄生とは違い互いを融和させて高めているので萃香に負担は少ない、萃香は光の闘気を持たないからミストの危険も無い

 

霧の誇りが成した珠玉の合技

 

「暗黒「百万鬼夜行!!」

 

更に100に分かれた黒霧の鬼はそれでも一人一人が魔王軍の兵士を上回る力を持っている

 

『行くぞ萃香!』

 

「ああ!やるよミスト!」

 

闘魔滅砕陣で動けない魔物達を一斉に殴殺し奥に控える魔物達を迎え撃つ

 

 

 

「……助かったわ萃香」

 

ミストを止めてくれた事に感謝しレミリアは礼を呟く

 

「レミリア様」

 

そこにチルノを見に行ったウォルターが現れた

 

「チルノは氷のフィールド内に居ました、おそらく無理に復活したのだと思います」

 

「そう……今はどうしてるの?」

 

「フィールド内で寝ています、八雲紫が仕掛けたスキマは一回休みで消えていたのか効果は確認出来ず、今は大魔王が看ているので心配は無いと思いたいですが……」

 

「大魔王……?どういう事?本当に無事なの?」

 

「おそらくは、ですが……その大魔王は私を甦らせた者の一人でした、断言は出来ませんがバーン様の関係者かと……その大魔王に看ているから行けと言われて……何分、私では太刀打ち出来る強さではなく従うしか……申し訳ありません」

 

「……そう」

 

レミリアは溜め息を吐く

 

「……チルノは倒したのね?」

 

「私が行った時には凍りづけにされた敵らしき者が大魔王に砕かれるところでした、敵主力を倒したのだと思われます」

 

「なら良いわ、チルノは無理矢理復活してまで使命を果たした……次は私達の番よ」

 

「承知しました、フランお嬢様の執事に恥じない働きを致しましょう」

 

鋼線を構え二人は萃香に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マジャスティス……」

 

結界の更に結界内でレティは顔を歪めた

 

『マホカトールを元に対マナスティス用に造り上げた専用破邪呪文、完全新規の呪文だし専用にした分、式はより複雑になってしまったけれどね……難易度は最上級よ、やれるわね?』

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

レティが手を前にして止める

 

「そんなの私に出来るわけが……」

 

パチュリーの説明を受ける前からレティは直感していた、とんでもなく難しい魔法なんだと

 

だから説明前に顔を歪めたのだ

 

『……私達はアイツの相手に精一杯でとてもじゃないけどそんな余裕は無いの、貴方にしか頼めない』

 

「ですが私じゃ……」

 

俯くレティに轟音が聞こえる

 

パチュリーが七重に張った魔力防壁が砕かれ余波でパチュリーが吹き飛んだ

 

「ギィィィ……アアアアッ!!」

 

返す刃で魔理沙が撃った弾幕を突き抜け爪を突き入れる

 

「くっ!……があッ!?」

 

爪を何とか避けたが即座に来た尻尾に打たれ大地に叩きつけられそうになるがギリギリで踏み留まり追撃に急降下するゼッペルを飛び避ける

 

「先生!?魔理沙!?」

 

『ッ……見てわかるでしょう、やりなさい』

 

もはや頼みではなく命令、あのパチュリーがそうまで言う事態が深刻さを嫌でもわからせる

 

「私に……出来るでしょうか?」

 

『……貴方は……』

 

本当はそんな余裕の無い事態

 

『私達に並ぶつもりではなかったの?』

 

「……!!」

 

その言葉がレティの心に刺さる

 

『少なくとも私は出来ない事は頼まない……貴方なら出来ると思うから言うのよ』

 

にも関わらずパチュリーは無理にでもレティへ言うのは心から信用しているのだ、自らを慕う唯一の教え子の力量は可能なレベルに有るのだと

 

『レティ……貴方に足りないのは自信、本能型の貴方が私に師事してるからかしらね、無理に難しく考え過ぎてるのよ……魔理沙みたいに根拠の無い大口叩くくらいしてみなさい』

 

『オイ!今、私の悪口言ってたろ!ふざけんなよヒョロもやし!……おいレティ!失敗なんて気にすんな!もし失敗したら私達が一緒に謝ってやるからよ!死んでなかったらなぁ!だから思いきってやれ!』

 

「先生……魔理沙……」

 

二人の激励に拳を握るレティ

 

 

「ギアアアッ!!」

 

ゼッペルがイオナズンを無差別に乱射し爆煙に姿を隠し、身構えたパチュリーに向かって凍える吹雪が正確に吐かれる

 

「こいつ!魔法もブレスも出来んのか!?ッ……フバーハ!」

 

「くっ……助かったわ!」

 

ブレス耐性を付加する補助呪文が間に合い避けられなかったパチュリーは受けながらも範囲外に逃げる

 

「!!?魔理沙!!」

 

直後にパチュリーが叫ぶ

 

「……オラァ!」

 

咄嗟の声と本能から視線を戻す前に右手に持っていた八卦炉が正面にビームを放つ

 

「グギィィ……!?」

 

同時に強襲していたゼッペルがビームに飲まれた

 

「くおおおぉ……!!」

 

手応えからゼッペルがまだそこに居るのを知って両手で八卦炉を持ち力を込める

 

「ギアアアーーッ!!」

 

突き抜けた爪が魔理沙へ刺さった

 

「ぐっ……ぐあああ……」

 

貫かれた左腕の激痛でビームの威力が止まる

 

「ギィィ……イィッ!」

 

嘲笑う様に瞬時に傷が癒えたゼッペルが魔理沙の頭部へ狙いをすまして口を開く

 

「!!?」

 

ゼッペルが魔理沙を放し飛び退く、その数瞬後にゼッペルが居た場所を小さなメドローアが飛び抜けた

 

「やらせないわ」

 

パチュリーが睨む

 

これまでの戦いでゼッペルがメドローアを最警戒していると理解したパチュリーはそれを利用し最小限の魔力で魔理沙の危機を救ったのだ

 

「助かったぜパチュリー……」

 

「大丈夫?」

 

「……左腕が死んだ、だけどまだまだやれるぜ!」

 

「そうしてくれないと困るわ」

 

頂点二人でも敵わないどころか劣勢、だが二人は諦めない、諦める事を知らない

 

「ッ……!!」

 

それを見たレティは更に拳を強く握る

 

「……やります!」

 

レティは二人に言った

 

「やらせてください!絶対に成功させますから!」

 

魔法使いの頂点からの信頼が自信となり決意させた、自分がマジャスティスを完成させると

 

『それでこそ私の弟子よ……では魔法式の情報を送る!任せたわ!』

 

パチュリーから魔法式の情報が渡され難解な式に顔が一瞬歪むが顔を振り早速構築に取りかかる

 

「よしよし……さぁここからが正念場だぜ」

 

「レティが完成させて私達が生きてる、成功率は……1割有るか無いかってところかしら、賭けにもならないわねこれでは」

 

「1割……?ハッ!そんだけありゃ充分だ!分の悪い賭けは嫌いじゃないぜ!」

 

「賭けにもならないと言っているのに……」

 

「なら補えばいい!」

 

「何で……?」

 

「今更何言ってんだお前……勿論決まってんだろ!」

 

魔理沙は叫ぶ

 

「勇気でだよ!!」

 

劣勢を覆す大事なモノを!

 

 

 

「そうね、それが有るならもう何も怖くないわね」

 

 

 

ブゥン……

 

 

 

ゼッペルの攻撃はスキマ送りにされる

 

「私が確率を更に上げてもよろしくて?」

 

二人の隣に開いたスキマから紫が現れる

 

キルを倒した後に藍から状況を知った紫は物量と質を総合して判断し一番危険な場所への援護に来たのだ

 

「おうパチュリー!便利なババァが来たぜ!無敵のスキマで何とかしてくれよぉ~!」

 

「あら意外な助っ人ね、てっきり今頃……敵に捕まって「くっ……殺せ!」とか言ってると思ってたのに」

 

「……帰ろうかしら?」

 

二人の軽口に紫は呆れる

 

「そう言うなって、感謝してるぜ?本当は結界で耐えれる霊夢に来て欲しかったけどよ……まぁお前も使えるしちょっとだけだな」

 

「ええそうね、せめてあのスピードに付いていける妖夢は欲しかったから少しだけね」

 

微笑む二人

 

思わず軽口が出るくらいに紫の加勢はとても有難く、嬉しいのだ

 

「……霊夢も妖夢も迎撃に手一杯だから無理、それにあの二人ではこの魔力結界は抜けれないわ」

 

ゼッペルが簡単に出れない強度の結界を外から侵入出来るのはスキマを使う紫のみ

 

「まったく……」

 

それをわかっている上での軽口だと理解しているから紫も微笑む

 

「貴方達は素直さを何処かに忘れているようね」

 

「食えんのかそれ?」

 

「素直だけじゃつまらないでしょう?」

 

3人がゼッペルに対峙する

 

「ギィ……」

 

ゼッペルは小さく唸りながら紫という新手を警戒している

 

「わかってるな?凌げば勝ちだ」

 

「……覚悟は出来ているわ」

 

「では……やってやりましょう」

 

魔理沙とパチュリーが構え、紫が弾幕を発生させながらゆっくりと浮かんでいく

 

「ギッ!!」

 

「「紫ッ!!」」

 

「ッ!!?」

 

凄まじい勢いで飛び出したゼッペルの爪が紫の頬を掠めた

 

「ギィィ……!」

 

ゼッペルが紫を睨む、その顔は「お前ごときいつでも殺せるぞ」と言っている様

 

「くっ……!?」

 

慌てて距離を離す紫だがその顔は既に冷汗が吹き出ている

 

(こ……これ程の者を相手にしていたの……!?)

 

今一度気を引き締め、魔獣との戦いが始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス「滅びの間」-

 

「なにお前?私を偽物って言った?」

 

「お主こそなんじゃパチモン!紛らわしいからイメチェンせい、ボーズがオススメじゃな!」

 

そこでは二人の王が睨み合いをしていた

 

「私は妖怪の王よ」

 

「儂は怪異の王じゃ!そんな所までパクるでない」

 

ピリピリと空気が荒む

 

「吸血鬼ごときが王?程度が知れるわね」

 

「お主こそ程度が知れるのう、儂が凄いんじゃという事を理解しておらん、凄いのは儂でありその儂が吸血鬼だっただけの事をの」

 

更に更に荒む

 

「あー……食い殺すぞ?」

 

「あーん?やるかパチモン?」

 

大きな胸を押し付け合い火花を散らす

 

「あわわわ……!危ないよフランちゃん!どうしよう!?」

 

「ん~?ほっといていいんじゃないかな~?」

 

一触即発の雰囲気に慌てる大妖精と気にしてないフラン

 

「だってあの二人……」

 

フランの言葉と同時に忍に殴り飛ばされた災厄の王が動きだし二人に襲い掛かった

 

 

 

ズドオオッ!!

 

 

 

衝撃波が吹き飛ばす

 

    失せろ

「消え     ……!」

    失せい

 

二人の皇と王が同時に攻撃していた

 

 

「ね?最初からエセタークしか見てないから大丈夫だよ!」

 

「本当だ……」

 

二人は王達の元へ降り立つ

 

「あの……」

 

「なに妖精?」

 

「さっき言ってたじゃないですか……あれが何なのか……」

 

「あ、それ儂も気になっとった!見たところ今はそこまでではないがヤバイ感じはビンビンしとる」

 

「今は……ね、アレは見た目以上にもっとろくでもないモノよ」

 

倒れる災厄の王に強力な闇の弾幕を撃ちながら常闇ノ皇は答える

 

「……ほーう」

 

飛び出して来た災厄の王へ向かい忍が怪異なら触れただけで滅する事が出来る妖刀・心渡を投げ刺した

 

「!!……そういう事じゃったか」

 

滅されぬ災厄の王に忍は理解する

 

「ソルはイカレじゃのう……」

 

「それはさっき私が言った」

 

迫った災厄の王を再び衝撃波で打ち飛ばした常闇ノ皇が抜けた心渡を忍へ投げる

 

「ねー!何なのー!」

 

「……フランよ、能力を使わなかったのは何故じゃ?」

 

「え……なんか嫌な感じがしてたから……」

 

「それで正解じゃ、アレはパチモンが言うように本当にろくでもない……儂等が居ぬ時に容器を壊していたら手遅れになるところじゃった」

 

「容器……?ねぇ何なの?わかる人だけで納得してないで教えてよ!」

 

フランががなるが忍は表情を苦くしただけで答えなかった

 

「……1つだけ言えるのは」

 

常闇ノ皇が前に立つ

 

「あんた達じゃ勝つけど負けるって事よ」

 

「そういう事じゃのう」

 

忍も横に並ぶ

 

「グゴッ……オオオオッ!!」

 

瓦礫を押し退けて立ち上がる災厄の王を前に

 

 

ズズッ……ズオッ!

 

 

二人の王の持つ力が臨界に達した

 

「……完全に封印が解けてないから8割ってところかしら、まったく半端な仕事してくれるわあのオカ魔王め」

 

「なんじゃ枷付きかい、まぁ儂は全力を出せるが10分が精々じゃから言えたザマではないがの」

 

二人共に不完全だがそれでもフランと大妖精を上回る王位の力

 

「じゃから呆けとる暇ではないぞ?フラン、大妖精よ?」

 

「手伝うって言ったでしょ?あんた達もやるのよ」

 

「あ……ハイ!」

 

「なんかはぐらかされたけど……りょーかい!」

 

意思が統一された4人が臨戦態勢に入る

 

「行きます!」

 

最初に動いたのは大妖精、風の弾幕を無数に放つ

 

「グゴゴッ!?」

 

強力な弾幕を一身に受ける災厄の王だが大妖精の弾幕をしても勢いを大きく減衰させるに留まり進みは止められない

 

「グゴオッ!!?」

 

次いで来た更に強力な闇の弾幕が押し返す

 

「フン……前より威力が上がってるじゃない……妖精ごときが生意気な」

 

対峙した経験を持つ常闇ノ皇が嫌味たらしく呟く、自身よりは劣る大妖精だが足手纏いとは思っていない証拠でもある

 

「アレをやるぞフラン!合わせい!」

 

「了解!トゥ!」

 

怯む災厄の王に向かい二人の吸血鬼は同時に飛んだ

 

 

「「ダブルヴァンパイアキィィィィィィック!!」」

 

 

ズドオッ!!

 

 

剛力を誇る二人の同時攻撃が炸裂する

 

「やったか!?」

 

「全然やってないですよ!わかってて言ってますよね忍さん……」

 

呆れたツッコミを入れる大妖精等の前で蹴り飛ばされた後に爆発しなかった災厄の王が口を開き紫色のレーザーを吐いた

 

「当たるでないぞ!フランでも死ぬ程痛いからの!」

 

「わかってるよ!」

 

狙われたフランと忍が回避した直後に間の床全体から闇の力が溢れだす

 

「バリアを張ります!」

 

全体攻撃の予兆を感じ大妖精が皆に風のバリアを張ろうとする

 

「フン……」

 

鼻を鳴らした常闇ノ皇が勢い良く足を床に叩きつけると闇の力が消える

 

「私相手にその程度とは片腹痛い……容器ではそれが限界か、それにやっぱり私だともわかってないのね……」

 

大玉を放ちすかさず大妖精とフランが攻撃する

 

「えぇおい……?久し振りに会ったんだ、何とか言え……」

 

「……」

 

常闇ノ皇の小さな呟きを忍だけは聞いていた

 

(やっぱり……これしか無いみたいね……)

 

(……ど阿呆が)

 

そして秘めた想いにも気付かれていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス「騎団の間」-

 

「燃え上がれ!私の炎!」

 

ルナの体を火の魔力が纏うと収束され背に翼が生える

 

「これが私の本気!」

 

母である妹紅を倣ったかの様な炎翼

 

「……ふぅぅ!」 

 

だが妹紅とは天と地の差が有る

 

幻想郷で最高の炎を持つ妹紅に比べればルナの炎は拙い、炎というよりは火、簡単に言えばメラガイアーとメラ程の差が有る

 

全てにおいて妹紅の完全劣化、ただそれが普段ならばまだ10歳だからで済むが今は負ければ終わりの戦いの最中、これでは余りに拙い

 

(私の実力で長期戦なんて出来ない……だったら短期決戦!それも超短期決戦!一撃に懸けるしかない!!)

 

それをわかっているからルナは今、全てを出しきるのだ

 

「!?」

 

そんなルナに拳が迫る

 

「ウッ!?」

 

防御するも体勢が崩れ、そこへ巨腕からなる裏拳が命中し打ち飛ばす

 

「ウウッ!?イッツ……!?」

 

痛みを堪えながら打ちのめした二人の影を見る

 

(こんな相手に……一撃……出せるかな……?)

 

自分の本気でも全く敵わない敵に泣きそうになるが諦めはしない

 

「……ハッ!!?」

 

気付いたルナが慌ててその場を離れると剣士の回転する剣が床に綺麗な穴を空けた

 

(速過ぎてほとんど見えなかっ……ッ!?)

 

剣士の速さと技の威力に戦慄するルナを獣王が放った闘気の渦が閉じ込める

 

 

ズドッ!

 

 

武道家が放った蹴りがルナを壁へ強烈に叩きつけた

 

「……ッ!?」

 

倒れたルナは立ち上がろうとする

 

(ダメだ……一撃どころじゃない……)

 

圧倒的に力が足りていない、3人の影が本気を出したルナをしなくてもいい警戒して様子見程度の攻撃だったにも関わらずルナを上回るのだから

 

(こんな時って……皆ならどうするのかな……)

 

立ち上がろうとするが体が震えるだけで力が入らない

 

「ッゥ……」

 

心が折れそうになる

 

(お母さんなら……どうしたのかな……?お母さんみたいに……強くなりたいよ……)

 

今は居ない、強くて優しかった母を想う

 

『お母さんはなんでそんなに強いの?たくさんしゅぎょーしたから?』

 

まだ今よりもっと幼い頃に母に聞いた時の事を思い出す

 

『そうだなぁ、修行はたくさんしたなぁ……けどそれだけじゃあんまり強くなれないんだな実はさ』

 

『じゃあ……なんで?』

 

『……ルナには特別に教えてやろうかな、って言っても幻想郷の皆全員知ってる事なんだけどな』

 

『教えてー!』

 

『わかったわかった、私が強くなれたのはな……』

 

母との追憶の言葉が浮かぶ

 

(……!)

 

ルナは妹紅から聞いた言葉を思い出す

 

「……そうだ!」

 

体に力が入り起き上がっていく

 

『皆の為に頑張れたからさ!』

 

「お母さんが教えてくれたんだ……!」

 

立ち上がり拙き火を全開にルナは叫ぶ

 

 

「誰かの為に強くなれ……!それが……本当の強さだって!」

 

 

強さの在り方、自分の為ではなく、他人の為に使う力こそが真の強さなんだと

 

「ようやく……わかった」

 

さっきより力強く立つ

 

ルナは頭では理解していた、誰かの為に戦う優しさも気高さも

 

だがそれだけだった

 

今はそれを真に理解した、言葉ではなく……心で!

 

だからいつもなら立ち上がれないダメージでも立って見せたのだ

 

「ウアアアアアッ!!」

 

火翼を羽ばたかせルナは一直線に翔た

 

「「!?」」

 

武道家と剣士が反応し拳と剣を振るう

 

 

ゴウッ!

 

 

ルナの体から吹き出た火が拳を弾き、軌道を変えられた剣が肩を切るも火圧で押し退ける

 

「アアアアアアアッ!!」

 

火が形を成す、小さな鳥の姿に

 

皇帝不死鳥である妹紅の子であると証明するような……雛鳥のような小さな火鳥

 

「!!?」

 

狙われた獣王が身構えるも構わずルナは突撃した

 

 

「鳥符「火の鳥-緋翼天翔-」!!」

 

 

渾身の一撃が獣王を打ち飛ばした

 

「ハァ……ハァ……」

 

息荒く燃え上がる獣王を見つめるルナ、力を振り絞った反動で火が収まっていく

 

「やった……私でも……やれた……!」

 

一人を倒したのだと確信し顔が緩む

 

 

ドオオッ!!

 

 

「!!?」

 

次の瞬間、獣王から放たれた闘気の渦がルナを閉じ込めた

 

「そ……そん……な……」

 

信じられない者が映る、獣王が闘気を放ちながら普通に立ち上がったのだ

 

「……!」

 

獣王がもう片方の手から逆回転の闘気の渦を放つ

 

「あっ……アアアアアアアッ!!?」

 

螺切られそうな激痛がルナを襲う

 

「うあ……あ……」

 

ルナは確かに頑張ったと言える、戦いの中で成長し一撃を食らわせた

 

だがそれでは全く足りなかった

 

簡単には覆せない実力の差、一番弱い獣王でさえ今だ足元にも及ばない

 

先の渾身の一撃も本当の意味でただ一矢を報いたに過ぎなかったのだ

 

 

「「……」」

 

捕らわれたルナに武道家と剣士がゆっくりと近付いてくる

 

闘気の渦でバラバラになって死ぬか先にトドメを刺されるかしか選択は残されていない、そして選択権も無い

 

(輝夜さん……私じゃ……やっぱり……ダメだった……)

 

約束を果たせなかった事を悔いて……目を閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闘気の渦が消えた

 

 

「目を開けろ皇帝不死鳥の子よ」

 

 

知らない声にルナがゆっくり目を開くと獣王が鷲掴みにされて悶えていた

 

「その弱き身で果敢に戦ったか……藤原妹紅の子なだけある」

 

掴んでいたのは法衣を纏った巨大な魔物、佇まいから只者ではないのだけはわかった

 

「あ、貴方……は……?」

 

「……母から聞いてはいないのか、ならば答えてやろう」

 

掴んでいた獣王を放り投げると魔物は告げた

 

「我が名はバラモス、藤原妹紅に受けた恩義を返すべくお前のもとへ来た」

 

バラモス

 

夢現異変でエスタークによって甦らせられ戦いを強要されていたゾーマの配下である魔王、妹紅により救われた異界の知人

 

それが絶体絶命の危機を救った

 

「お母さん……の……?」

 

「そうだ、では進むがいい藤原妹紅の子よ」

 

警戒する武道家と剣士など何の気にもせずルナの前に立つ

 

「この場は預かる、先へ行け、すぐに追いつく」

 

「あ、あの……」

 

まだ混乱しているルナだったが1つ、1つだけどうしても確認したい事があった

 

「本当に……お母さんの……?」

 

こんな強そうな魔族が本当に母の為に来てくれたのかと

 

「……お前の母は優しくも強き女だった、今となっては過去の話だが藤原妹紅と出会えたから意地を貫けた……感謝している」

 

「……ッゥ!?」

 

ルナは思わず泣きそうになる

 

母の為にこんな威厳ある魔族まで来てくれた

 

母がこんなにも慕われていた事が自分の事の様に嬉しかったのだ

 

「お願いしても……良いですか?」

 

もうバラモスはルナにとって知らぬ魔族ではなかった

 

頼れる大切な仲間の様になっていた

 

「任せておけ」

 

バラモスは当然の様に応え、立ち上がった獣王に並ぶ3人の影にルナを庇う様に立ち塞がった

 

「ありがとうございます……」

 

体を引き摺りながらルナは先に続く通路へ進んでいく

 

 

 

「……礼など要らぬというのに」

 

ルナが進んだのを確認するとバラモスは今にも飛びかからん勢いの3人の影に意識を向ける

 

 

ズンッ!

 

 

振られた拳が剣士を打ち飛ばした

 

「ムンッ!」

 

逆手に構えた手を弾く様に開くと魔王の魔力が獣王と武道家を床へ圧し倒す

 

「すぐに追いつくと言ったのでな……瞬く間もなく塵殺してやろう」

 

開いた手を握ると獣王と武道家の影は粉々の塵になり消え去る

 

「フン……他愛ない」

 

バラモスも主であるゾーマと同じくバーンが作った仮初めの肉体を使っている

 

その力の高さ故に全力が出せない大魔王達とは違い大魔王の域に達していないバラモスは全力を出しても問題は無い

 

大魔王達と比べると大した事の無い様にも思えるがそれは断じて違う

 

「次はお前だ」

 

力が劣れど魔王なのだから

 

魔王を経て超魔となり更なるレベルアップを果たしたハドラーに引けを取らぬ魔族の王たる力、頂点たちにも匹敵するだろう力を余す事なく全力で出せるのだから……

 

「……!?」

 

剣士など歯牙にもかけぬ怪物がその王威を見せつける

 

「消えろ」

 

バラモスの体から異様な波動が放たれ剣士に向かう

 

「暗黒の中へ……」

 

飲み込まれた剣士はネクロゴンドの悪しき波動の中へ消え、親衛騎団はナイトを残し全滅した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!」

 

専用に作られた結界内でレティが巨大な魔方陣を展開している

 

(七階層八芒黒紫魔方陣、作成……次は破邪式の組み入れ……)

 

出来る限りの最速で完成を目指すがレティには正直荷が重い

 

(!……工程が8192!?完成までの全工程……65536!!?)

 

気が遠くなる長さと難解さ、勿論間違いは許されない

 

(組み方はわかるから出来なくはない……だけど私なら30分は掛かる……でもそれは普段の時、普通にやってが大前提!そんな時間……)

 

思わず諦めを考えてしまったレティは自分を戒める様に戦う3人を見る

 

 

 

「ぐあっ!?……再生は卑怯だろクソッ!」

 

「不規則過ぎて動きが読めな……あうっ!?」

 

「攻撃が激し過ぎる……スキマでもカバーしきれないなんて……ッウ!!?」

 

一方的に追い詰められている3人

 

「~~~~ッ!?」

 

その中でも紫が一番危うい、魔理沙とパチュリー程の実力が無い紫は二人が避けれる攻撃を食らい、軽減出来る攻撃を数割増しで受けていた

 

「ゴフッ……!?」

 

強烈な膝蹴りで腹部を打ち抜かれイオナズンを零距離で放たれそうになるが間に合った二人のフォローで難を逃れる

 

「大丈夫か……?」

 

「……かろうじで、ね……ごめんなさい、私では力になれない様ね……」

 

「んなこたぁない!居なきゃ私かパチュリーか今頃死んでるぜ、すげぇ助かってる」

 

「……そう」

 

素直な言葉が苦痛の中に笑みを浮かばせる

 

 

 

 

「……違う!!」

 

レティは覚悟を決める

 

(私はやらないとならないんだ!望まれた以上の事を……信じてくれた皆の為に!)

 

覚悟したレティはもう悩む事もせず脇目も振らず呪文の完成に着手する

 

(やってやるわよ!!)

 

 

 

 

 

 

(……それでいいのよレティ)

 

応戦しながら横目で見ていたパチュリーが視線をゼッペルに戻す

 

「いけそうだな」

 

同じく見ていた魔理沙が問う

 

「あの子なら心配要らないわ」

 

「よっし……んじゃ問題は私等だな」

 

示し合わせた様に二人の魔力が高まる

 

「時にパチュリー……時間稼ぎってのは大事だ、ああ大事だ、とっても理解してるさ……けどよ?やられっぱなしってのは性に合わねぇんだよな……」

 

「全く同じ意見よ魔理沙……このままじゃ二天の沽券に関わる事態だもの……大した事ない、なんて思われるのも癪だしね」

 

白と紫の二天が魔力の全てを解放する

 

「ッ……」

 

紫が息を飲む

 

(その力はソルの為に温存していた力の筈……覚悟を決めたのね……)

 

後を考えず目の前のゼッペルに全力を出す決意を読み取った

 

「行くぜぇぇぇ!」

 

魔理沙が飛び出し展開した八つの魔方陣からレーザーを無規則に乱射する

 

「ギィィ……ギッ!?」

 

狙わない攻撃が功をそうしたのかゼッペルが避けた所へ違うレーザーが直撃し体を焦がす

 

「オラオラオラー!」

 

ただレーザーを乱射している様に見えるが実はそのレーザーの威力は魔王軍の兵士なら纏めて葬れるマスタースパークと変わらない威力、それを何十、何百と乱射しているのだ

 

弾幕戦においては大妖精が一番強いがこと威力に関しては魔理沙が一番強い

 

「オラァ!」

 

力の大魔導士の本領が激しく光を発する

 

「ギギガッ!?」

 

止まった一瞬を逃さず集中砲火を浴びせその場所に縫いつけた魔理沙は八つの魔方陣から同時にレーザーを撃った

 

「魔符「フォーチュンテリングスパーク」!!」

 

八つのレーザーが重なり1つの大光になったレーザーがゼッペルを貫く

 

「ギ……ガッ!?」

 

半身を削り取られたゼッペルが呻く

 

「……ギッ!」

 

次の瞬間に半身が再生される

 

 

ボウッ!

 

 

更に次の瞬間に火球が直撃した

 

「次は私……」

 

10の火球を構えるパチュリーが宣言する

 

「炎符「十指爆炎弾」!!」

 

全ての火球が命中する

 

「ギィィ……アアアッ!!」

 

燃えながらゼッペルがパチュリーに向かう

 

「……ベタン」

 

唱えた最大威力の重圧呪文がゼッペルを大地に落とす

 

「右手にメラゾーマ、左手にバギクロス……」

 

大幅に動きを抑えたゼッペルに深淵の呪文を放つ

 

「「火炎竜巻」メラゾロス!!」

 

燃え盛る炎嵐が包み込む

 

魔理沙が力なら賢者たるパチュリーの持ち味は多彩さ、全ての属性を扱え知識も有りあらゆる局面で不利なく戦える対応力が最大の強み

 

更には一撃必殺のメドローアまであるパチュリーは戦闘能力でいえば頂点でも随一を誇る天の魔法使い

 

 

「やってやるぜ!!」

 

「楽に勝てると思わない事ね」

 

 

力と技、幻想郷で最上の魔法使いである二天のタッグの全力の前では並以上であろうが敵ではない

 

 

「ギアアアアアアアーーーーーーッ!!」

 

 

咆哮がベタンの重力と火炎竜巻を打ち払い、次いで撃たれていたレーザーを掻き消し更に二人を弾き飛ばす

 

「ッゥ……うおっ!?がっ!!?」

 

直後に魔理沙をブレスが襲い防壁で防ぐが貫かれ肩を掠める

 

「!!?……ぐぶっ!かはっ!?」

 

妖夢のスピードと文の持久力を兼ね備えた魔速で詰め寄ったゼッペルの爪を何とか避けるも薙がれた尻尾が腹を捉え、打ち飛ばされ胃液を吐かされる

 

(やっぱ……キツイな……)

 

(これ以上は細工されてて進まないみたいだけど……それでも力尽きる前に殺される方が先かしら……)

 

相手は並以上を数十段越えた怪物

 

あのバーンに限りなく近付いたエスタークの最終進化状態と同等の強さなのだ、それが遊びもなく全力で殺しに来ている

 

頂点と言えど二人では勝ち目は無かった

 

 

「……私を忘れてもらっては困るわ」

 

僅かに回復した紫が二人に並ぶ

 

「忘れちゃいねぇよ……」

 

「アテにしてるんだから頑張って貰わないとね」

 

「……精一杯はやるつもりよ」

 

そこからの戦いは短かった……

 

 

「ギアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 

時間にして10分にも満たない時間

 

「くっ……チクショウが!?」

 

終始ゼッペルが優位に立ち3人を追い詰める

 

「カハッ!?ごっ……ごふっ!!?」

 

ダメージは限界時間を急速に早め、可能性を押し潰していく

 

「ハァ……ハァ……ウアアアアッ!!?」

 

そして、その時が来た……

 

 

 

 

 

ズシャアッ……

 

吹き飛ばされた紫が大地に倒れる

 

「ガッハッ……ハァー……ハァー……!!?」

 

存分に痛め付けられた紫はもはや立つこともままならない、なまじ強い分、地獄を味わっていた

 

「紫……クッソ……!!」

 

「……フゥ……フゥー……!!」

 

魔理沙とパチュリーも限界を迎えていた、勢いもかなり衰え肩で息をしふらつく程ダメージを負っている

 

(まだなのか……!)

 

(早く……こ、殺される……!?)

 

紫に避ける力は残されていないし自分達も次の攻撃を耐えきれるかは自信が無い

 

「ギィィ……イィ……」

 

ゼッペルが低く唸りをあげる

 

「アアアアーーーーーーーッ!!」

 

攻撃が仕掛ける為に前のめりになり爪を煌めかせる

 

 

 

「待て!!」

 

 

 

希望の声が響いた

 

「レティ……!!」

 

「待たせてくれたわね……」

 

二人は顔を向けた

 

「完成……しました!!」

 

完成させた魔法式を掲げるレティへ

 

「お前はもうおしまいだ!観念しなさい!」

 

「……」

 

叫ぶレティへゼッペルは一目だけ見ると視線を逸らした

 

「行きます……!」

 

レティが唱えようとした瞬間

 

「ギッ!!」

 

「あぁ!!?」

 

ゼッペルが消えた

 

「ッ!!?」

 

狙いはパチュリーだった

 

得体の知れない魔法式に獣の本能は反応しなかった、それよりもメドローアと言う一級の危険を持つパチュリーを一番に始末する為にゼッペルは駆けた

 

(しまった!!?)

 

油断と言う他無かった

 

希望が完成し勝ち目が見えて出来てしまった緩みから反応が遅れてしまった

 

回避も防御も間に合わない、紫のスキマも間に合わない

 

「……!!」

 

パチュリーは死を覚悟する

 

 

 

 

 

ズドオオオッ!!!

 

 

 

 

 

突如、横から飛んできたブレスがゼッペルを飲み込み離れた場所で大爆発を起こした

 

「なんだ今のは……ドラゴンのブレス……か?」

 

魔理沙が飛んできた方向を見る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン……」

 

結界の外、そこで真の姿になっていた竜王が鼻を鳴らしていた

 

「御膳立てはしてやった、これで勝てねば無能よ」

 

竜王は結界の外から最大威力のブレスを放ち、結界を突き破ってゼッペルを狙っていたのだ

 

「ムッ……」

 

竜王の体にヒビが入り崩れていく

 

「限界か……願いは叶えてやったぞバーン、これで異論はあるまい……」

 

魂だけになった竜王が透けていく

 

「良い暇潰しになった、楽しかったぞ……」

 

王の魂は幻夢空間へと帰っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガギアッ……ギギッ!?」

 

爆煙の晴れた中でゼッペルは呻いている

 

竜王の全力のブレスをまともに受けた体は崩壊寸前まで到達しており動く事が出来ない

 

「……ギィィ!!」

 

邪悪な魔力が高まると体が一瞬で再生され立ち上がる

 

 

キンッ!

 

 

「!!?」

 

 

ゼッペルを魔方陣が囲んだ

 

「もう好きにはさせない」

 

レティが立っていた、竜王が作り出した最大の好機を逃さず発動させたのだ

 

「ギィ!?ギィィィィィィ!!?」

 

ゼッペルは逃れようともがくが専用の魔方陣からなる破邪の力に縛られ脱出出来ない

 

 

 

「破邪大星「マジャスティス」!!」

 

 

 

魔方陣がゼッペルに取り込まれた

 

 

「……!?」

 

破邪呪文を受けたゼッペルだったが特に変化は無い

 

「……ギッ!」

 

レティを殺そうと飛び掛かろうと羽を広げる

 

「あー……成功と失敗だなこりゃ、やっぱマナスティス知ってるだけじゃ限界があんな」

 

「そうね……成功だけど失敗でもあるわねこれは」

 

そこに魔理沙とパチュリーの二人が降り立つ

 

「ギアアアアッ!!」

 

ゼッペルは二人に襲い掛かった

 

「オイ……」

 

魔理沙が八卦炉をかざす

 

「いつまで調子に乗っとるかーーーーッ!!」

 

撃たれたレーザーがゼッペルを吹き飛ばした

 

「ギッ!?ギギギッ!!?」

 

別段威力は変わっていないレーザーに容易く吹き飛ばされ再生が異常に遅い体に異変を感じたゼッペルが困惑している

 

「マナスティスの力を弱めたのよ、SSSからAくらいかしらね今の力は」

 

「ギギィ!!?」

 

「野獣に言っても無駄だぜパチュリー?体でわからせなきゃな!」

 

「そうね……」

 

「!!?」

 

パチュリーが軽く唱えたベタンがゼッペルを大地に縛り付ける

 

「私が決めてもいいか?」

 

「譲ってあげるわ」

 

魔理沙が前に立ち八卦炉を構えた

 

「完全に消してやるよ……あばよバカヤロー!」

 

八卦炉が火を吹いた

 

 

「魔砲「ファイナルマスタースパーク」!!」

 

 

極大の閃光が魔獣を包む

 

「ギィィィィィ!!?」

 

ゼッペルは昔、ある国の王だった

 

「ギィィィ……ィィィィ……」

 

弱小国家を強大な魔法軍事国家にまで押し上げた力の王

 

「ギィィ……ィィ……」

 

王になる前に愛する女性を失ったゼッペルはテリーと同じく力を求め始めた

 

王になり戦争が終結した後も力を求め続けたゼッペルはマナスティスを知り、使用する

 

「ギィ……ィ……」

 

理性を失い破壊の獣となって暴れまわっていたその時にソルに出会い、倒された

 

「ギ……ィ……」

 

マナスティスに細工され洗脳までされたゼッペルは洗脳の影響か口調まで変わり魔王軍の最高戦力の一人になった

 

「ィ……」

 

そんな虚しき破壊獣の旅はここで終わる

 

「ルーシア……」

 

ゼッペルは閃光の中へ消えた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとかなったな……」

 

「ギリギリだったけどね……紫、大丈夫?」

 

「……なんとかね」

 

紫を起こしながら少しばかり一息つく

 

「皆さん無事ですか!?」

 

「レティ……よくやってくれたわ、ありがとう」

 

「にしてもよ?半分成功して良かったよな」

 

「どういう事ですか?」

 

「マジャスティスの構築が甘かったのよ、本来ならマナスティスを打ち消す呪文として作ったのに弱体化止まりだったからね」

 

「また完璧にしとかねぇとな、完璧にしたら名前も変えるか?破邪巨星「ギガジャティス」!とかどうだぜ?」

 

「え?マジャスティスなんだからギガジャスティスではないの?」

 

「あー……文字数が足らないからダメなんだよ」

 

「え?文字数……?え……?」

 

「大人の事情って奴よ、察しなさい」

 

「そ、そうですか……あー!でも成功して良かった!失敗って聞いた時は焦って変な汗出たし……」

 

「そういやえらく組むの早かったよな?10分ぐらいだったろ?30分くらい掛かると思ったのに……急にどうした?覚醒でもしたのか?いや嬉しかったから良いんだけどさ」

 

「違うわよ魔理沙、何も考えないで急いで適当に組んだだけ……あ!?」

 

やってしまったと口を塞ぐレティ

 

「何も考えないで……?適当に……?」

 

もう遅かった、理の魔法使いであるパチュリーの目が光る

 

「貴方……もしかして間違いがないか確認せずに使用したの?」

 

「あの……急いでましたから……それに私、本能型だから考えながらが難しくて……それでセンスに任せてとにかく組む事だけ考えて……」

 

「そりゃ早いわけだぜ……いや私もそれやる時あるけどよ?さすがに命預かった時に適当はしないぜ……なんか今更寒気がしてきたぜ、よくミスってなかったもんだ……」

 

「……貴方にはまた魔法使いの基礎から叩き込んであげるわ」

 

「ひーん!勝てたのにー!」

 

レティの叫びが木霊した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス-

 

「ゼッペルが敗れるか……」

 

その事実は流石のソルも顔をしかめた

 

(対抗呪文を編み出していたとはな、準備が良過ぎる……過去に似た存在が居たか?)

 

推測通り魔理沙とパチュリーは過去に破壊神の前身となる進化の秘法を使ったエスタークを知っている

 

その経験から二人はそういった邪法や禁呪を深く知っておくべきだと悟り可能な限り知識と対処法を身に付けた、マナスティスはその中で一番危険で一番注力したに過ぎないのである

 

(まぁいい、代わりに王竜が落ちた……王魔は動く気配も感じれぬし地上の形勢は覆るまい、そして……ここも……な)

 

滅びの間の映像を見る

 

(ゼッペルとヴェルザーが矛ならば帝王は盾だ、同時に無慈悲な災厄でもある……正攻法では勝てぬし大惨事を起こす可能性すらある諸刃の盾)

 

「……」

 

ソルが注視する

 

(あの妖怪……気付いておるな、知ったところで余でなければ抑えれまいがな、これは彼方の余でも不可能だろう)

 

「……!」

 

もう1つの映像を見てソルは微笑んだ

 

「これはこれは……ククッ!流石は余の誇る最強の騎士……魅せてくれるではないか」

 

見える光景は赤く染まっていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「外の状況はどうなってる?」

 

「厳しいと言わざるを得ないわね……ここに来る前に藍に聞いた時点では全域で劣勢、既に総数は1000を下回ったそうよ……」

 

「そうか……これからどうする?」

 

「決まっているわ、勝つ為にはソルを討つのが最短最良の解答……月に戻りましょう……紫、送れる?」

 

「大丈夫よ、貴方達二人くらいなら問題は無い……私はもう戦えないからサポートに徹する事にしましょう」

 

「そうしてくれ、よし……行くぜパチュリー!」

 

月へ戻るため紫の出したスキマ入ろうとする二人

 

「……あ?……おい!なんか変なのが沢山現れたぞ!なんか見た事あんな……」

 

魔理沙が気付き空を指差す

 

「アレは……」

 

戦場に見覚えある来訪者達が空に佇んでいた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-ソルパレス・通路-

 

 

ドドッ……

 

 

「音が聞こえる……きっと輝夜さん達だ……」

 

痛む体を引き摺りルナは先を急ぐ

 

 

ズドドドドッ!ドオッ!!

 

 

近付くにつれ音が激しくなってくる

 

(誰かと戦ってる……凄く激しい戦いだ……)

 

すると扉が見えた

 

「……!」

 

扉の前に立った時、ルナは気付く

 

(音が……止んだ……)

 

何故か、何故かとても嫌な予感がしてルナは扉を急いで開けた

 

 

「……!!?」

 

 

その瞬間にルナの視界に広がったのは血溜まりを作って倒れる青娥とバラバラにされた芳香と思われる肉の塊

 

 

「か……輝夜さんッ!!」

 

 

そして広い間の中心で立っていた輝夜の背中

 

「ルナ……ッ!?」

 

気付いた輝夜は振り向きながら叫んだ

 

 

「逃げなさいッ!!」

 

「え……?」

 

 

その直後に……

 

 

 

 

 

          ザンッ……

 

 

 

 

 

 

輝夜の首が切り離され床に落ちた

 

 

「え……あ……輝夜……さん……?」

 

 

突然の出来事に理解が追い付かずただただ恐怖感だけがルナを支配する

 

「あっ……」

 

頭が無くなり制御を失った胴体が倒れた時、そこにもう一人居た事を知る

 

(私と同じくらいの……男の……子……)

 

ルナと変わらぬ年齢の少年が剣を持って立っていた

 

「……」

 

まるでゾンビの様な紫の肌、目は虚ろな死んだ目をしており生気をほとんど感じない

 

「……コ……」

 

親衛騎団の長であり秘隱されていたソルの騎士(ナイト)である少年はルナに剣を向け一言だけ呟いた

 

 

「コロシテヨ……」

 

 

少年は神々が造り上げた人間の体と心、魔族の魔力、龍族の強大な戦闘力を併せ持った世界の抑止力たる竜の騎士と呼ばれる存在だった

 

 

 

そして……ナイトと呼ばれる少年はかつてダイと呼ばれていた

 

 

ダイ……それは……

 

 

かつて……ソルに敗れた勇者の名……

 

 

太陽神の照らす光に隠れた業の闇……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ギリギリ間に合った……

三場面を終わらすつもりでしたが予想より文量が増えてしまいこのままでは2万を越えてしまうので変更、二場面終わって一場面追加となりました。

そして遂に魔王軍の最後の一人である騎士が登場しました、予想されていた方も居ましたがダイです、やっちまった感もありますがどうでしょう?

・現在の主な犠牲者(リタイア含む)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ、にとり、霖之助、アリス、美鈴、幽香、竜王、紫、青娥、芳香、輝夜

魔王軍 ザングレイ、ダブルドーラ、キルギル、親衛騎団(全滅)、純狐、へカーティア?、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)?、テリー、ゴリウス、キル、ガルヴァス、グレイツェル、ヴェルザー、ゼッペル


皆様良いお年を……次回も頑張ります!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。