東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第2話 情報戦

 

幻想郷の頂点の一人、藤原妹紅が行方不明になった2年前の事件

 

迷いの竹林にある妹紅の家で娘のルナが別れた時を最後に彼女は消えた

 

皆の必死の捜索も空しく今現在においても足取りすら掴めていない

 

 

 

皇帝不死鳥は幻想郷から消えていた

 

 

王から貰った御守りと……

 

 

守ると誓った娘だけを残して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠亭

 

「でーい!」

 

声を上げてルナが殴りかかる

 

「甘い」

 

その拳は輝夜に簡単に逸らされる

 

「このー!」

 

「もっと相手の動きを見て攻撃しなさい、適当に攻撃するだけなら誰でも出来るわよ」

 

ルナの拙い攻撃を潜って輝夜の拳骨が炸裂した

 

「いったぁ……」

 

「まだまだね」

 

頭を押さえるルナに澄ました顔で輝夜は構えを解いた

 

「うぅ……全然勝てない……」

 

「当たり前じゃない、あんたが奇蹟でも一撃を入れる事が出来ないくらい差があるのよ?」

 

「うぅぅ……」

 

「そう不貞腐れないの、どんどん良くなって来てるわ」

 

輝夜の言葉にルナは落ち込んだ様に顔を下げた

 

「私……早く強くなりたい……」

 

ポツリとルナは言った、それは幼い子ども心から来る言葉なのだろうか

 

「お母さんみたいに……」

 

違う、ルナは母を追いかけているのだ、物心ついた時から見ていた強くて逞しい背を

 

「……あいつが……妹紅がなんで強かったかわかる?」

 

輝夜は問う

 

「昔は私の方が強かった……だけどいつの間にか勝てなくなった、どんなに修行して何回やっても勝てなかった……どうしてだと思う?」

 

「……わかりません」

 

ルナはそう答えた、お母さんがもっと凄い修行をしたからとか考えたが違うと思ったからそう答えた

 

「それがわかった時があんたがもっと強くなれる時よ」

 

敢えて答えは言わない、まだ10歳のルナには早い事もあるし口で理解できる事でもない、これは心と魂の在り方の事だから

 

「はい……」

 

「あんたなら大丈夫よ、頑張りなさい」

 

「はいっ!」

 

元気良く答えたルナがもう一度お願いしますと構えたが輝夜が制止した

 

「そろそろ寺子屋に行く時間でしょ?」

 

「あっ!忘れてた!」

 

思い出したルナが慌てて準備を始める

 

「そうそうルナ、今日からしばらくは一人で行動しちゃダメよ」

 

「え?なんでですか?」

 

「理由はあんたには難しいから言わないけどとにかく一人で行動しないこと、里に行くのは鈴仙を付けるわ、わかった?」

 

「はぁ……わかりました」

 

よくわからないままルナは鈴仙と一緒に里へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

「魔軍司令殿」

 

廊下を歩いていた軍師は呼び止められ振り向く

 

「ゼッペルか……」

 

そこには壮年の人間の男が居た

 

「次の戦地はどうなっているのでしょうか?」

 

ゼッペルと呼ばれる男が問う

 

「有力地を見つけたところだ、今から更なる調査と査定に入る、その結果によっては早ければ近日中に開戦となるだろう」

 

「それは行幸ですな、私も部下達にまだかまだかとせっつかれて困っていたのですよ」

 

「それで魔獣兵団の長であるお前が直々に催促に来たのか……そう焦るな、我等は強くなり過ぎた、戦地を厳選せねば一方的な戦いになるまでにな……それはお前達の望む戦いではあるまい?」

 

「わかっておりますよ、では部下にはもう少しと伝えて吉報をお待ちしていましょう、それと必要ならば我が魔獣兵団の精鋭をお貸ししますのでその時はいつでも申してください」

 

「ああ、わかった」

 

ゼッペルが消えるのを見届けると軍師は歩き出す

 

(今度の有力地……攻める価値が有る地なのは決定している、我等が軍の精鋭達を成す術無く倒した時点で実力の程は証明されているからな)

 

(だが、それだけだ……情報収集をせねばな、どれ程の戦力が有るのかも測らずに攻め、直後に実は実力者は少数だった……では落胆する事になる)

 

魔軍司令でもある魔族の軍師は慎重に事を運ぶ

 

(願わくば我等を満足させる者達であり、オレを唸らせる者が居る事を願おう)

 

期待を込めた微笑をしながらその場から去っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の里・寺子屋

 

「藤原ぁ!10歳だったら読めるだろうこれぐらい!!」

 

慧音が黒板に書いた漢字を指して語気荒く怒鳴っている、黒板には大きく「吐露非狩古鬱」と書いてある

 

「読めません……」

 

慧音の威圧に弱々しく答えた

 

「ト☆ロ☆ピ☆カ☆ルフルーツだぁぁ!!」

 

慧音は激怒した

 

「そんな無茶な……」

 

ルナは涙した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつか時代が変わっても~♪僕は忘~れ~な~い~♪」

 

寺子屋の外では鈴仙がルナを待っていた

 

「~♪……?」

 

ピクリとウサ耳が動き目付きが鋭くなる

 

(異質な気配を持ったのが数人里に入ってきた……自警団と争った様子も無い……さっそく来たのか!)

 

武術を心得る彼女は気付いた、美鈴や妖夢程ではないがそう広くない里くらいなら感知出来るのだ、どうやらどうやったかはわからないが敵らしき者が今、里に堂々と侵入してきた様だ

 

(気配が落ち着いてる、襲撃目的……ではなさそう?……いや!軽く考えちゃダメだ!今まさに攻撃の準備をしているかもしれない!)

 

鈴仙は動き出す

 

(聞いた話では前の襲撃では捕まえた者が自殺をした……情報を得るのが難しいなら今、私がすべき事は里の安全!)

 

(里全体に注意喚起もしてあるから対応も大丈夫の筈……とにかく急がないと!)

 

一番近い気配の場所へと駆けていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山・にとりの研究室

 

「ヤバイ事になる前にこれを完成させとかないと……」

 

バチバチと音を立てにとりは自らのキラーマシンであるロビンを改造していた

 

「ニトリ……」

 

「どうしたのロビン?」

 

途中、ロビンに呼ばれ顔を上げる

 

「ダレカキタ、マリョクハンノウアリ、テキノカノウセイアリ」

 

「敵……?……魔力反応?何の呪文?」

 

「コノハンノウハ……」

 

ロビンが伝え終わるとインターホンが鳴った

 

「はいよ~」

 

オートロックの扉を開くとそこには河童が立っていた

 

「どしたの?」

 

「皆が呼んでるから呼びに来たんだ」

 

「違うだろ?捕虜にするかここを調べに来たんだろ?」

 

「!?」

 

河童の体が跳ね後ずさる

 

「生憎だけどモシャスじゃロビンは騙せない……捕虜になるのはお前だよ」

 

この河童はモシャスを使って変化した敵だったのだ

 

「ロビン」

 

名を呼ぶとにとりの後方に居たロビンがネットを発射し河童を捕らえた

 

「……くっ!?」

 

その瞬間、モシャスが解けて魔族の正体を現した者は懐からスイッチの様な物を取り出し押した

 

ヴンッ……

 

空間が歪むと魔族は消えた

 

「帰還用の転送機械を持ってたのか……あんなに小型のを……」

 

高い技術を持っている事を知りエンジニアとしての血が騒ぐも落ち着ける

 

「……一瞬だったけど座標の特定出来た?」

 

「ザヒョウノイチハコレダニトリ」

 

持った端末に送られた情報を見てにとりは顔を驚愕させた

 

(……え?これってもしかして……)

 

その後、顔をしかめつつロビンと共に研究室を出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地霊殿

 

「……」

 

お茶を飲んでいたさとりは湯飲みを下ろす

 

「全員部屋から出なさい」

 

数人居る雑用をしている者達に部屋から退去を命じる

 

「貴方は残りなさい」

 

妖怪一人だけが残された

 

「……」

 

「……」

 

二人きりの部屋、さとりは目を閉じお茶を啜り残された妖怪はおどおどしている

 

「あ……あの……」

 

「なんでしょう?」

 

「……バレてるみたいだな」

 

「ええ、バレてます」

 

その瞬間、妖怪の様子が怯えから不遜な態度に変わった

 

「悪いが俺達の魔宮に来てもらう、色々聞きたい事があるんでな、なぁに手荒な事はしねぇ……」

 

「話した後に殺したりなんて事もしないから?」

 

「ん……?よくわかったな……まぁそういう事だから出来れば素直に来てくれたら嬉しいねぇ」

 

「お断りします」

 

「だろうな……お前が逃がしたから人質に出来なくなったし気は引けるが気絶してもらう、まっ観念してくれ」

 

侵入者がさとりに迫る

 

「人質に出来なくした……確かにそれは合ってます」

 

しかしさとりは乱れない

 

「でもそれは私に対して……ではないのです」

 

「……何?」

 

意味深な言葉に侵入者が止まった瞬間、ドアが開いた

 

「邪魔すんよ~」

 

入ってきたのは鬼、それも四天王の一人、力の勇儀だった

 

「貴方に対して……です」

 

さとりはニコリと笑った

 

「……謀られてたのかよ」

 

「そういう事です、観念するのは貴方ですよ」

 

「やられたな……それじゃばぶっ!?」

 

侵入者が何かを言いかけて懐へ手を伸ばそうとする前に蹴り飛ばされ壁を破壊し隣の部屋まで突き抜けた

 

「先手必勝……ってなもんさ!」

 

小細工やら面倒をする前に有無を言わさず黙らせる、勇儀に躊躇いは無かった、加減などせず鬼の怪力を持って殺すつもりで蹴り飛ばしたのだ

 

「頑丈に作ってるのですが鬼の……ましてや勇儀の力の前には脆過ぎでしたか」

 

「いやいや、ここから外まで飛ばす勢いで蹴ってこれだから頑丈過ぎるくらいだよ」

 

ケラケラ笑いながら勇儀が貫通した穴からモシャスが解けた侵入者の胸ぐらを掴んでさとりの前に放った

 

「ぐっ……ゲハッ!?」

 

「お?こいつはたまげた、生きてるよ、中々強いじゃないか」

 

侵入者は生きてはいたがかなりのダメージを負っていて動けない、さっきの衝撃で帰還用の転送機械も壊れてしまいもう逃げられない

 

「色々話してもらいますよ、貴方は何者ですか?前の者達は仲間ですか?」

 

「……拷問でも何でもしろよ……仲間は売らねぇ」

 

侵入者は覚悟を宿した瞳をさとりに見せる、間違いなく何も話さないだろう事は容易に読み取れた

 

「……なるほど、貴方達は魔王軍の斥候部隊でしたか、今回はお強い方が一人一緒に来ているようですね……氷炎将と言うのですか」

 

だがさとりの前では無意味だった

 

「お前……!?」

 

「ええ、私は覚妖怪……心を読む事が出来ます、隠し事は出来ませんよ」

 

そう答えた瞬間

 

「……!?勇儀!押さえて!」

 

心を読んださとりが叫んだ

 

ボウッ!

 

侵入者の体に炎が燃え上がる

 

「ッ!?」

 

攻撃の為の炎ではなかった、その証拠に侵入者の体を凄まじい勢いで焼いている

 

「仲間は……売らねぇ……」

 

それを笑顔で言い放つと侵入者は消し炭となって死んだ

 

「やられたね、聞いてちゃいたけどまさかあんな即座に自決するとはあたしも予想外だったよ……」

 

「……こうなってしまった以上仕方ありません、僅かな情報しか得られませんでしたが伝えねばなりません、使いを出しておきます、それとありがとう勇儀、助かりました」

 

「レミリアからの指示がなかったら危なかったねぇ、「最低二人以上で行動、一人では行動しない」効果てきめんだったね」

 

「流石と言うべきですね、いくら危ないとは言え1ヶ所に集まって生活なんて無理がありますからね、そこまで生活に支障を来さず尚且つ安全性を高める良い方法でしょう」

 

「それはそうとどうすんだい?」

 

「斥候部隊はまだ居ます、使いを出した後に旧都の住民を集めてまだ紛れてないか私が見ましょう」

 

「了解だよ、上は……まぁ大丈夫だろうさ」

 

「そうでしょう、上は私達以上の怪物と傑物に溢れていますからね、今のところ何も心配していませんよ」

 

二人は部屋から出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・門前

 

「……む?」

 

居眠りをする美鈴の傍でミストは遠くからふよふよとやって来る人物を見つけた

 

(ルーミアか……)

 

近付いて来ているのはルーミアだった、相変わらず能天気な笑顔を見せている

 

「遊びに来たのだー!」

 

そのルーミアが少し離れた場所から声を上げた

 

「……今お前の遊び相手が出来るのは3人しか居ない、もう1人は里で勉強中だ」

 

ルーミアをまともに相手にしてくれるのはチルノと大妖精とフラン、そしてルナだけなのだ

 

「そーなのかー!」

 

ルーミアが門の前まで着いてミストが門を開けようと動き出した

 

 

「待て、それ以上進むのは許さない」

 

 

圧を含んだ言葉が二人を止めた

 

「……どうした美鈴?」

 

「なんなのだー?」

 

ミストとルーミアが言葉を出した者、目覚めていた美鈴を見る、その目は微塵の隙無くルーミアを射ぬいている

 

「動けば打つ」

 

普段の軽い様子からは想像も出来ない、決して寝惚けでは出せない気迫を出していた

 

「いったいどうした美鈴……」

 

それはミストには不思議な事、何故見知るルーミアにここまでするのかわからなかったのだ

 

「……まだまだですねミスト、これをルーミアと感じているなんて……気配と気ががまるで違いますよ」

 

「……まさか!?」

 

ミストが察し驚愕しながらルーミアを見る

 

「……」

 

ルーミアは喋らず二人を見ていた

 

「そもそも一人で居るのがおかしい筈ですがミスト?」

 

「ッ……!?正体を表せ偽物!」

 

半ば八つ当たり気味にミストは掌底を繰り出した

 

「ちぃ……!?」

 

避けようとしたルーミアに掌底が擦ると一瞬の煙を発し顔を仮面で隠しているが精悍な体躯を持つ魔族の正体を現した

 

「上手くいくと思ったんだが……なぁ!!?」

 

言い終わる前に殴り飛ぶ

 

「動けば打つと言いました」

 

打ち飛ばした美鈴が構えを解かず魔族を睨んでいる

 

(防がれた……今の身のこなし……武道家か)

 

解かないのは先の一撃を寸でとは言え防いでいたから

 

「ッ……くっ!?なんて鋭い一撃だ!」

 

魔族は更に距離を取り受けた右腕を擦る

 

「あのアホそうな妖怪の勢いに任せて潜入しようとしたのはいいが……まさかこんなに出来る奴が居るとはな!」

 

「姿形を変えた程度で欺けられるほど私は間抜けではありません……」

 

魔族の武道家はにとりを襲おうとした者と同じくモシャスを使いルーミアに化けて潜入しようとしていたのだ

 

しかし完璧に成りすました演技によってミストは騙したが気と気配を読む美鈴には通用しなかった

 

「それよりも……」

 

美鈴の威圧感が増していく

 

「ルーミアをどうした……?」

 

そう、成りすましたのなら本物のルーミアを見ていた事になる、危害を加えているのではないかと思うと自然に気が荒ぶった

 

「俺達の理念に誓って何もしていない、俺はたまたま見つけたあの妖怪が潜入に使えそうだったから観察していただけだ、それにあの妖怪には他の女が付いてたんでな、迂闊に手は出せなかった」

 

「……そうですか……では……!」

 

嘘は言っていないと感じた美鈴の闘気が静まった後、更に高まった、仕掛けるつもりだ

 

「待て美鈴……」

 

ミストがそれを止めた

 

「どうしましたミスト?」

 

「こいつの声……聞き覚えがある、生け捕りで行くぞ」

 

「あまり手心は加えられませんが……わかりました」

 

二人の門番は構えた

 

「……」

 

魔族の武道家は思案する

 

(これは……分が悪いな、あの影みたいなのも見るからに実力者、そして何よりあの女は俺より強い……!戦ってみたい、みたい……が、今はまだ時じゃあない、それに俺が勝手をしてやられでもすれば将軍の顔を潰す事になる……)

 

元々好戦的な性格をしている魔族だったが勝手をするつもりはなかった、それが如何に愚かな行為だと今までの経験で身に染みていたからだ

 

「悪いが今はまだ事を構えるつもりは無い、退かせてもらう」

 

懐からスイッチの様な物を取り出した

 

「次はとことんやろうぜ……」

 

告げると構える

 

「来るなら来るがいい……バーン様とレミリア様の住まうこの紅魔館は我等が居る限り落ちる事は無い!!」

 

絶対の自信を込めてミストが返した

 

「……」

 

魔族の武道家は一瞬止まった

 

(……バーン……だと?)

 

その名に関心を示した後、スイッチを持つ手に力を込める

 

ヴンッ……

 

空間が歪み魔族の武道家は消えた

 

 

 

「……逃げられたか」

 

「ええ……手練れでした、私が一足で詰めれる間合いを見抜き阻止出来ない距離まで下がっていました、欲求を自制し逃げの一手を打ったのも敵ながら見事です」

 

「気は抜けんな……報告してくる、美鈴お前は休んでいろ」

 

「すいません、お言葉に甘えます」

 

「間抜けな私にはそれぐらいしか出来んからな……」

 

「あはは……ごめんなさい」

 

美鈴を残し門を開けてミストは中へ入っていく

 

(私は奴を知っている……誰だ?会った事が……ある……?)

 

残った疑問だけを感じながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の里

 

「受験間に合うかな……」

 

授業が終わり憂鬱な顔で寺子屋から出たルナ

 

「あれ?鈴仙が居ない」

 

キョロキョロ見回すが鈴仙はどこにも居ない

 

「買い物してるのかな……?」

 

首を傾げていると急に話しかけられた

 

「ねぇ君」

 

「あ、はい!どうしました?」

 

爽やかな青年が笑っている

 

「少しお話しないかい?いやね、友達と待ち合わせしてたんだけど遅れてるみたいでさ、来るまで暇だから良ければ話相手になって欲しいと思ってね」

 

「そうなんですか、良いですよ!私も一緒に来た人が居ないから待ってるところだったので!」

 

知らない人だったが困ってる人を放っとけない親譲りの優しさと何も知らない無知からルナは受けてしまった

 

「ああ良かった、誰も相手にしてくれないから困ってたんだよ」

 

二人は並んで会話を始める、天気だとかルナの愚痴みたいな他愛ない事を話し、時に笑いながら会話は続く

 

「そういえばさ、皆ピリピリしてないかい?さっきも言ったけど誰も相手にしてくれないんだよ、どうしてかな?」

 

「あー、それ私も思ってました、私にもわからないんです……何でだろ?」

 

「敵が来てる訳でもないのにね」

 

「ですね~、来たって頂点や萃香さん達が居るから返り討ちですけどね~」

 

「……強いらしいねその頂点って、僕はあんまり知らないんだけど知ってるなら良ければ教えてくれないかな?」

 

「ふふん!良いですよ!私は結構詳しいですから教えてあげます!」

 

上手く乗せられたルナは自慢する様に話始めた

 

「まず頂点って言っても一人じゃないんです、7に……今は6人居るんです!」

 

「6人……ちなみにその萃香って人は頂点達の次に強い人?」

 

「はい!同じぐらい強い人があと……いち、にい、さん……これも6人くらいかな?その次に強い人が3人?5人?咲夜さんとウォルターさんがよくわかんないや……他にも居ますしとにかくたくさん居ますよ!」

 

「……へぇ」

 

ルナに見えない様に青年は笑っていた

 

「凄いね……その頂点ってどれくらい凄いんだい?詳しく聞きたいな」

 

「聞いてビックリしないでくださいよ~?まずは私の親分の……」

 

更に情報を引き出そうとしたその時

 

 

「ルナ……」

 

 

離れた場所から声が掛けられた

 

「あ!妖夢さん!」

 

ルナが気付いて手を振る

 

「……!?」

 

視線を向けた青年は妖夢と目が合うと体が凍りつく様に止まった

 

「……」

 

自分だけを刺す殺気を向けられていたから

 

「さっき言ってた萃香さんと同じくらい強い人ですよ!」

 

何も気付かないルナが行きましょうと手招く

 

「……」

 

その手を掴もうと青年の腕が動く

 

 

ズッ……

 

 

その瞬間、胴が刀により両断された

 

「……ッ!?」

 

青年は思わず体を見る、切れてはいない

 

「ッ~~!?」

 

汗が落ちる、殺されたと錯覚する程の殺気を受けたのだと悟ったのだ

 

「行きましょうよ~」

 

呑気に急かすルナを端目に顔を上げた青年はもう一度妖夢を見る

 

 

『子どもに手を出すのか外道!!』

 

 

そう圧が増した殺気と目が語っていた

 

「……悪かった」

 

そう呟いた青年は懐からスイッチを取り出す

 

「そんなつもりは無かった……あんたの殺気に気圧されて助かる為に人質にしようとしちまった……退かせてもらう」

 

空間が歪み青年は消えた

 

「あれ……?え……?」

 

状況が理解出来ないルナが妖夢に駆け寄る

 

「よかった……無事で何よりですルナ……」

 

「え?え?」

 

抱き締められたルナはなお混乱していた

 

「ルナーーー!!」

 

そこに慌てて鈴仙がやってきた

 

「大丈夫ですか!怪我はないですよね!?」

 

妖夢から引き剥がしたルナの体をペタペタ触って確かめる

 

「ルナは無事ですよ鈴仙」

 

「あぁ……よかったぁ……」

 

安堵する鈴仙に益々ルナは混乱している

 

「助かりました鈴仙、私と椛だけでは間に合わないところでした」

 

「それは私の台詞です妖夢、ルナを守ってくれてありがとう」

 

「……そちらはどうでしたか?」

 

「こっちは二人見つけました、逃げられましたが里の皆が上手くやってくれたので情報は与えてません」

 

「私と椛も一人ずつ見つけましたが同様です、気付いた瞬間に逃げられました、みょんな……ごほん、妙な気配もありませんし一先ずは大丈夫でしょう」

 

二人が話しているとルナが急に叫んだ

 

「もー!なんなんですかー!」

 

自分だけ蚊帳の外なのが気に入らなかったのだ

 

「……子どもまで不安にさせる必要は無いと伝えなかったですがここまでやられたなら伝えておかないといけませんね」

 

「ですね……」

 

鈴仙がルナの前で屈む

 

「今、幻想郷に謎の敵がやって来てるんです」

 

「敵っ!?」

 

大層驚くルナに鈴仙は続ける

 

「そうです、まだ完全に敵と決まってなかったから幻想郷は子どもを除いて警戒体勢中なんです」

 

「な、なんで……?」

 

「いつ敵が来ても大丈夫な様に、それと情報の流出を防ぐ理由があるんです」

 

「情報……?」

 

「そう情報です……ルナは相手がどれくらい強いとかどんな能力を使うって知ってると有利だと思うでしょ?」

 

「うん……」

 

「そういう事なんです、相手が何人居るかわからない、どれくらい強いのかもどんな能力があるのかもわからない……今はそうしているんです、一人で行動しないのもそれです、ちなみに里は常時2人は交代で誰かが警備してて稗田阿求さんには常時3人、鈴奈庵は休業にしてもらってこちらも常時3人が見張ってます」

 

「なんでそこまで……?」

 

「夢現異変……ルナも授業で習ったでしょ?その時に情報が持たれてしまったから頂点が負けた事があったんです、ルナにはまだ難しいでしょうがそれだけ先に知ってるというのは脅威なんですよ」

 

「そうなんだ……」

 

知らない間に大変な事になっている事を理解したルナは萎縮し大人しくなる

 

「……あっ!?」

 

そこで思い出した

 

「私……さっきの人に色々教えちゃった……」

 

「「え"っ……」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

「将軍」

 

戻った魔族の武道家が軍師に会っていた

 

「……今は司令でしたな」

 

「構わん、そう呼べるのは今やお前達6人だけだ、好きに呼べ……では報告を聞かせろ」

 

「俺の方はそこまでは……紅魔館と呼ばれる場所でミストと美鈴と呼ばれる実力者に会ったくらいです」

 

「どうだった?」

 

「ミストと呼ばれる方ははっきりとは言えませんが実力が高い方なのは確かです、美鈴と呼ばれる方は俺より強いです」

 

「ほぉ……氷炎将のお前にそこまで言わせる程か」

 

「他の斥候部隊はどうでしたか?」

 

「それなりと言ったところだ、主な実力者の数を知れたくらいだな、お前の言ったそれもその中の二人だろう……だがなにせ聞いたのが子どもだ、信憑性はわからん」

 

「どうされますか?」

 

「お前はどうしたい?」

 

「戦いたいですな、期待に沿う戦地と思います」

 

「そうか」

 

「それと……」

 

「なんだ?」

 

「いえ……気になる事を聞いたので……」

 

「なんだ?言ってみろ」

 

「その紅魔館に住む者の中に……「バーン」と言う者が居るようなのです」

 

ピクッ……

 

軍師の肩が震えた

 

「バーン……だと?」

 

その顔が急に引き締まり問う

 

「確かか?」

 

「確かに「バーン」と言っていました」

 

「……」

 

軍師は暫し考える

 

「……わかった、休んでいろ」

 

武道家へ命令するとその場を去っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・図書館

 

「紫」

 

バーンは紫を呼び出す

 

「どうしたの?」

 

「……ロランはどうした?」

 

「ええ、今少し彼の故郷で厄介事が起きてそっちの収拾に向かってる、それで私だけ来たのよ」

 

「捜索中にすまぬな……お前に頼みがある」

 

「何か進展があったのね?」

 

「そうだ、にとりの手柄だ……幻想郷にちょっかいをかけてくる者達の居場所がわかった」

 

「流石にとりね……それでどうすればいいのかしら?」

 

「こちらも手を打とうと思ってな、人を送り込む」

 

「わかったわ、いざという時の脱出も含め準備しましょう」

 

紫が準備の為にスキマに消えるのを見届けるとバーンは頬杖をつき思案する

 

(にとりは時空が異なる場所に有る可能性があると言っていた……)

 

妙な感覚が強くなっていく

 

(まさか……な……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

「失礼しますソル様」

 

「どうした……手に余るのか?」

 

軍師は神と会っていた

 

「いえ……お願いがあって参りました」

 

「なんだ?」

 

「「死神」の使用許可をいただきたい」

 

「何の為にだ?」

 

「どうしても気になる事があり確かめたいのです」

 

「処刑ではなく諜報に使うか」

 

「よろしいでしょうか?」

 

「構わぬ、好きにせよ」

 

「ありがたく!」

 

礼をして去る軍師に太陽神は言った

 

「楽しそうだな」

 

「ええ、この結果によってはもしかすると私にとってもソル様にとっても楽しみな事になるやもしれません」

 

振り向いた軍師の口元が吊り上がる

 

「そうか……楽しむがよいガルヴァスよ……」

 

興味を示さず太陽神は軍師の名を呼んだ

 

「はっ……」

 

それを聞いて魔軍司令であり将軍でもある豪魔軍師ガルヴァスは謁見の間から出ていった

 

 

「……」

 

誰も居なくなったその場所で太陽神は一人呟く

 

「楽しむがよい……存分に……それがお前達が望んだ戦いならば……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

交差していく可能性の運命糸

 

幻想に生きる王と太陽と謳われる神

 

その二人が互いを知った時、そこで初めて物語は終焉の時を決定するのだろう……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想郷・某所

 

「知っているかしら?最近、幻想郷に妙な連中が現れてる事?」

 

「みたいだね、ここは定期的に危険が来るね……それがどうしたの?」

 

「……会いに行ってみようと思ってるの」

 

「どうして?」

 

「……不倶戴天の敵を討つ為に」

 

「私も行く」

 

「いいの?幻想郷全てを……あの大魔王を敵に回す事になるかもしれないのよ?」

 

「いいよ、やろう!」

 

「……ありがとう」

 

「なんで謝るのさ!私にとっても許せない敵なんだよ?しばらくは襲わないって約束したけどもうあれから10年以上も経ってるしね!本当はまだかまだかって待ってたんだから!」

 

「……」

 

「そんな顔しないの!私達、神友でしょ?」

 

「ふふっ……そうね……行きましょう」

 

 

 

 

 

 

そして……終焉に導く為の新たな糸が人知れず交差する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




物語が進みました。

それに伴い敵陣営の一部が判明、ゼッペルとガルヴァス!
ゼッペルはⅦのあの人です。ガルヴァスはもちろんダイ大のあの方です。

もうストーリー性は無いので小出しせずバンバン判明していくと思います、次は大物かもしれません……

次回も頑張ります!

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