東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第26話 境界の独唱曲

 

 

「これは……」

 

連れ去られた紫は何も無い宇宙の様な黒い場所で辺りを見回す

 

(閉鎖空間……閉じ込められた)

 

幻想郷から隔離された場所だと知り扇子を構える

 

(この程度の異空間で私が閉じ込めきれるとでも?私の能力を舐めて貰っては困るわ)

 

スキマを使い脱出しようとした紫だったが背後から響いた足音に動きは止まる

 

「無駄だよ、君程度の力じゃこの空間からは出られない」

 

「……おいでなすったわね」

 

振り向いた紫の前にはキルが立っていた

 

「この異空間は空間使い用にちょっと特別に作った場所でね……信じられないなら試してみるといい、無駄だと思うけど」

 

「……では遠慮無く」

 

紫はスキマを使った

 

(!……この人形……まさか……?)

 

驚いた表情でキルを見る

 

「ね?ダメだったろ?人の忠告はちゃんと聞いた方がいいよ」

 

「……そうね」

 

悟られない様に紫は口元を扇子で隠す

 

「それで?こんな場所に連れてきてなんなのかしら?デートのお誘いには見えないけれど?」

 

「そうだね、デートではないだろうね、どちらかと言われればダンスが合ってるかな」

 

死神の鎌を捨てたキルは携えていたサーベルを抜く

 

「君に決闘を申し込む」

 

望みは正々堂々とした戦いだった

 

「信用すると思って?お前の今までの所業を考えれば罠であるのは明白でしょう」

 

潔い申し出だったが紫は信じない

 

信じるに値しないが正しいか、バーンから聞かされていたキルの事と自ら接した経験から決闘がただの名目な事をわかっていたからだ

 

「舞踏場ではなく処刑場でしょう?」

 

だから誘いには乗らない

 

「ダンスと言ってるのに……疑り深いのは歳のせいかなオバサン?まぁいいか、これを見てごらん」

 

キルが指を鳴らすと空間が捻れ中から鎌を持った機械人形が現れる

 

「決闘には審判が必要だろう?これはジャッジと呼ばれる魔界の遺物、ボク達二人の決闘を見守ってくれるマシンさ、負けたら首を刎ねられる……ボクが作り直した奴だよ」

 

「物騒ね……だけれどそれが?お前が作り直した?自分が有利になる様に改造だって出来るじゃない、お話にならないわね」

 

「わかってるよそんな事、敢えて話したのさ……信じてもらう為にね、何なら調べてもらってもいい、神に誓って公平だと約束するよ」

 

「……」

 

紫はジャッジとキルを見ながら考える

 

(十中八九……いえ、十十で罠なのは間違いない、それよりも問題は……)

 

扇子で隠され表情は読めない

 

「それにね……」

 

そこへキルは畳み掛ける

 

「この異空間はどちらかが死んで初めて解放される様になってる」

 

仮面の下で死神は笑う

 

(やはり……)

 

逃げ場を無くす様に仕組むのは当然

 

Shall We Dance(一緒に踊りませんか)?」

 

紫は最初から決められていたのだ

 

死神との決闘(ダンス)を……

 

 

「……よろしい、相手をしましょう」

 

扇子を畳んだ紫の顔は不適に笑っていた

 

「人形らしく死の踊りを舞わせてあげましょう」

 

「グッド!じゃあ始めるとしよう」

 

対峙する妖怪と死神

 

「ただし……踊るのも死ぬのもお前が担うのだけどね……」

 

境界の大妖怪は妖しげな笑みを見せる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅符「スカーレットマイスタ」!!」

 

レミリアの発した強力無比な弾幕が無縁塚に蔓延る魔獣と魔物を貫いていく

 

「東の魔力結界には近付くな!おそらくパチェと魔理紗が戦っているわ!二人に任せて!西にある冷気のフィールドもよ!不用意に入れば凍死するわよ!」

 

指示を飛ばしながら敵を倒し続ける紅魔の王女

 

「こちらに援軍を!もう持ちません!」

 

しかし状況は芳しくない

 

「ッ……私が行くわ!」

 

「こっちもです!」

 

何処も劣勢なのだ

 

「ッッ……!?」

 

一番の激戦区だった無縁塚、何とか一人で持たせていたが限界が見えていた

 

(どうしたら……)

 

歯噛むがどうにもならない、数は減るばかりで余裕は無いしフランの様に分裂出来ないレミリアはどちらかにしか行けない、だがどちらも行かなければ総崩れに繋がるのは明白

 

既に防衛線は崩壊の手前まで来ていた

 

 

「私が向かう!」

 

掛けられた声にハッとしたレミリアが顔を向ける

 

「神奈子!」

 

「すまない、遅くなった」

 

そこに居たのは純狐を押さえ戻ってきた神奈子

 

「ではオレがこっちに行こう」

 

更に声が聞こえ大柄の魔族が傍に降り立つ

 

「ハドラー……」

 

「総司令が情けない顔をするな、さっき妖怪の山から連絡があった、妖怪の山の防衛に成功したとな……ここの加勢に来るよう伝えておいた、直に来る筈だ」

 

幻魔司令が傷だらけの顔で微笑む

 

「……わかったわ、では頼むわ二人共!私は中央を死守する!」

 

「了解だ、疲れたなどと言うまいな!行くぞ神奈子!」

 

「無論だ、貴様こそ無様に鼻水を足らすでないぞハドラー!」

 

二人が飛び立つ

 

 

「……」

 

残ったレミリアは戦いを一瞬眺める

 

「ぐああああっ!?」

 

腕が、足が飛ぶ……

 

「うっ……ぎゃああああっ!?」

 

武器が刺す、牙が食い込む

 

「……ッッ!?」

 

肉片がそこら中に散らばり赤と青の混じった血の地獄を作り出している

 

「次だ!どんどんかかってこい!」

 

「ぐはっ!?へへっ……面白ぇ!」

 

魔王軍の攻勢は増すばかり

 

「……楽しそうにして」

 

呟くレミリアに魔物が襲いかかる

 

 

ズッ!

 

 

魔槍が貫き魔物は満足気に倒れ、生き絶える

 

「何が面白いんだ貴様等……?」

 

投合された魔槍が苦しく戦う妖怪に楽しそうに戦う魔物を何十と貫き大地に串刺す

 

「そんなに戦いたいなら私が相手をしてやる……」

 

自らの存在を示す様に紅い力を解放する

 

「私が頂点の紅き王女!レミリア・スカーレットだ!我こそはと思う者は来い!何人も拒まん!全てを相手にしてやる!」

 

望む強い者は此処に居る

 

総司令であるレミリアは敢えて名乗りをあげ敵を引き寄せる行動に出た

 

「何をしてるんだ!?……敵が来るぞ!レミリアを守れ!」

 

その重要な立場故に守る者でもあるレミリアを護衛せんと妖怪達が集まってくる

 

「下がりなさい、私が一匹でも多く相手をして貴方達の負担を減らすつもりなんだから」

 

「気を使うな!皆で戦うって決めただろ!」

 

「わかってる……だから貴方達は左右に展開して戦って欲しいの、指揮の事なら問題無いわ、戦いながらでも見れるくらいは出来るし何か伝える時は蝙蝠を飛ばすから」

 

「そういう問題じゃない!」

 

納得いかない妖怪が食い下がるがレミリアは首を振る

 

「総司令命令よ……頼んだわね」

 

発した紅い力が周囲を押し退ける

 

「おい!?ッ……!?レミリア!?」

 

抗えない妖怪達はレミリアから離れていくしかなかった

 

 

 

「……」

 

出来た一瞬の空間の中でレミリアは呟く

 

「死なせたくないのよ……」

 

幻想郷に住む仲間を出来る限り生かしたかった

 

謂れの無い凶刃で散って欲しくなかった

 

「だからって……やり過ぎかしら」

 

向かってくる大軍、これを一人で相手をし、食い止めねばならない

 

(私も随分甘くなっちゃったものねぇ……)

 

そこに気紛れで人間を殺し、力の誇示の為に妖怪を惨殺したかつての吸血鬼は居ない

 

ここに居るのは人間と妖怪を仲間とした頂点の吸血鬼

 

 

「お供します、レミリア様」

 

その王妃の横に並ぶ一人の黒き霧

 

「ミスト……」

 

「貴方様に何かあれば美鈴が悲しむ……それに何より貴方様は我が主の奥方、死なせる訳には断じていきませぬ」

 

「……ありがと」

 

王の一番の忠臣と共に紅き王女は行く

 

「失せろ……この幻想郷(せかい)からね……!!」

 

同胞達との絆の為にその力を振るう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

異空間

 

『キルVS八雲紫……バトル開始!』

 

ジャッジの合図で二人の決闘は始まった

 

「フフフ……よろしく頼むよ」

 

キルが微笑みサーベルを構える

 

 

ズドドドドドド!!

 

 

直後に弾幕が襲った

 

「ええ……よろしく」

 

妖しげに紫も笑った

 

「つがっ……!?」

 

『キルに284のダメージ』

 

呻くキルにジャッジの出す冷たい機械音声が響く

 

「ふ、不意討ちとは卑怯じゃないか……」

 

「あら?そこのジャッジとやらが開始と言ったから攻撃したのだけど……これは不意討ちだったのね、知らなかったわごめんなさいね」

 

「……!」

 

正論と皮肉を言われキルは返せない

 

「では改めて……始めても?」

 

「ああ、構わない……よッ!?」

 

答えるや否や弾幕がキルを襲い慌てて切り払うが数発掠める

 

『キルに37のダメージ』

 

「容赦無いね……オバサン呼ばわりされて怒ってる?」

 

嵐の様に撃たれる弾幕を回避しながらキルは声を掛ける

 

「容赦をする必要が有るのか逆に問いたいわ、貴様は幻想郷の敵、手心を加える理由は有れど生かす理由は全く無いでしょう?……別にオバサン呼ばわりがどうとかではないわ、確死が惨死になるだけの事よ」

 

「滅茶苦茶怒ってるよねそれ……うぐっ!?」

 

『キルに108のダメージ』

 

立ち会いのもと二人が戦う

 

 

確かにそれは決闘だった

 

 

『キルに180のダメージ』

 

だが内容は余りにも決闘とはかけ離れていた

 

『キルに78……66、合計144のダメージ』

 

片方だけの傷が増え続ける

 

『八雲紫に4のダメージ』

 

『キルに318のダメージ』

 

『キルに51のダメージ』

 

『キルに99のダメージ』

 

『八雲紫に10のダメージ』

 

『会心の一撃、キルに456のダメージ』

 

『ミス、八雲紫にダメージが与えられない』

 

それは一方的な蹂躙だった……

 

 

 

「つ、強い……」

 

頭部以外を隈無く痛め付けられキルはサーベルを杖に片膝を着く

 

「当然の結果、初めて真剣勝負をする様な者が勝てると思った事がそもそもの過ちだったのよ」

 

畳んだ扇子を口元に当て優雅に浮かぶ紫

 

「更には私をただの若くて美人な輸送係りと思った事」

 

今でこそ派手な幽香や萃香に隠れがちだが紫も歴とした幻想郷に数人しか居ない誰もが畏れた大妖怪の一人なのだ

 

ただでさえ強い力を修行により更に磨いたその力は頂点に次ぐ萃幽妖霊の4凶と同格

 

正攻法でキルが敵う相手ではなかったのだ

 

 

「どうしようかしら……取り敢えず頭だけ残してバラすのが安全かしらね?あぁ……審判がしてくれるのだったわね、それでは身動きすら出来ないくらいに壊せばいいかしら」

 

「ッ……!?バーン君が居るもんね、黒のコアが頭に有るのはやっぱり知ってるか……」

 

「だから頭を避けてたのよ木偶」

 

キルに勝ち目は無い

 

 

「……まだだよ!」

 

だがキルは諦めなかった

 

「ボクには君を倒す秘策が有る!」

 

自信有り気に告げる

 

「その頭のラインが消えているのと関係有りそうね?」

 

「……!!?」

 

秘策は次の瞬間に見抜かれた

 

一瞬理解が遅れたキルが驚愕して紫を見る

 

「バカな!?これはバーン君も知らない筈なのに……!?」

 

「気付かないとでも思ってたの?カマを掛けてみたけど見事に引っ掛かったわね……御目出度い奴」

 

「くそっ……どうして気付けた!?戦闘中にこんな小さな箇所にまで見れる筈が……!?」

 

「どうしてって?当然でしょう……私はお前を何一つ信用していなかったからよ」

 

「!!?」

 

告げられた言葉に狼狽えるキル

 

「お前が決闘なんて律儀な事する訳がない、私は最初から罠を警戒していた」

 

「ッ……」

 

「そしてお前は弱過ぎた……観察する余裕が充分に有る程に」

 

「ッッ!?」

 

キルの目に憎しみが宿り紫を睨む

 

「だが……!内容が何かまではわかるまい!ボクのファントムレイザーでバラバラになるがいい!」

 

叫ぶキル、しかし紫は微笑みを返した

 

「動揺が過ぎて余計な事を口走ったわね……バラバラになれ、その言葉から察するに刀剣の部類かしら?」

 

「!!?」

 

またも驚愕するキルの前で紫は大玉の弾を作り出しキルへ放った

 

 

ズバッ!

 

 

「成程……見えない刃を設置していたの、そう……」

 

切れた箇所から位置と角度を把握した紫は刃の腹に当たる様に弾幕を放ち粉砕する

 

「13本……頭のラインの数とも合うし全部ね」

 

「ぐぐ……ぐっ……!?」

 

秘策すら瞬く間に潰され後が無くなったキルに紫は近付いていく

 

「平凡、そして退屈な踊りだったわ、見る価値も無い……そろそろ閉幕としましょう」

 

「うっ……くそぉ!」

 

戦闘不能にしようと構える紫にキルは走り投げ捨てた死神の鎌を装備する

 

「死ねッ!死んじゃえー!!」

 

サーベルと二刀で斬りかかるキル

 

「愚かな」

 

紫は優雅に回避する

 

「真剣になるのが遅過ぎるのよ……なった所で変わりはしないけれど」

 

必死の攻撃は掠りもしない

 

「これで閉幕よ」

 

弾幕を発生させ扇子を向ける

 

 

ガシッ!

 

 

紫は背後から羽交い締めにされた

 

「!!?なっ……!?」

 

驚愕の顔で羽交い締めするジャッジに振り向く

 

「フゥ~!上手くいったよ、危なかった危なかった!」

 

ヘラヘラ笑いながらキルは鎌を回している

 

「貴様……やはりジャッジと……!?」

 

「そういう事!ジャッジとグルなのが一番恐い罠の1つだよね~!切り札は先に見せちゃいけない、見せるなら更にその奥を持てってね!」

 

悪どい笑みが紫の顔を歪ませる

 

「君の言った通り初めからボクは決闘なんてする気はなかったんだ、方法は任されてたからね、好きなやり方でやらせて貰った」

 

「……今までのも仕込み、と言う訳ね」

 

「圧倒的な実力差というのはそうなりやすい、事実君は追い詰めたピエロに勝利を確信して気が弛み足元を掬われた」

 

「くっ……放しなさい!」

 

「無駄だよ、君が腕力に頼る妖怪じゃないのは知ってる、今は空間も無意味だしね……おっと!ジャッジに攻撃は加えない方が良いよ?爆発しちゃうからね!」

 

「爆弾……!?」

 

「違う、メガンテさ!そう仕込んである……ちなみに最初に君がジャッジを調べようとしても爆発してた、決闘前に調べられた時の保険ってやつだ」

 

「……つまり、私は踊らされていた」

 

「大正解!華麗なダンスの御礼にメガンテをプレゼントしたい!是非とも受け取ってくれたまえ!」

 

キルが合図を出すとジャッジが秒読みを開始した

 

残り時間は10秒

 

「では仲良く死んでくれたまえ!じゃあね!」

 

「……!!?」

 

空間を開き中へ入ったキルは笑顔で手を振る

 

「……」

 

紫は顔を下げ項垂れている

 

(難しいものね……こうも堪え難いとは思わなかったわ……)

 

震えている紫を見たキルの表情は仮面でよくはわからないがとても嬉しそうな雰囲気から満足の笑顔なのは間違いない

 

『2……1……』

 

ジャッジの体が魔法力に包まれ光を発した瞬間にキルは空間を閉じた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

未曾有の大爆発が起きた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

霧の湖

 

「よっと!」

 

空間の歪みから出たキルが服に付いた埃を払う

 

「始末完了……♪」

 

一仕事を終えて上機嫌に鎌を回す

 

「気持ち良かったな~!見たかいピロロ?あの悔しそうな姿!笑いが止まらないよ!」

 

語りながら振り向いたキルは視界の先に誰も居ないのを見て口を押さえた

 

「おっと……ピロロは居ないんだったね、まったく紛らわしいなぁ……ヴェルザー様も適当だよ、新しく作ってくれるのは良いけど設定が楽だからってキルバーンをほぼ丸写しだもんなぁ、せめてピロロの設定は消しといて欲しいよ、今はボクがピロロでありキルなんだから」

 

軽い愚痴を言いながら鼻唄混じりに鎌とサーベルでジャグリングを開始する

 

このキルはガルヴァスが軍に不穏分子が出た場合に処刑の役割を持たせたもしもの芽を摘む抑止力の為にヴェルザーの協力のもとキルギルが作った機械人形

 

言わば2号機

 

不穏分子暗殺の為に空間操作の能力を与えられたキルバーンの改良型、最初はジャッジの様なまさに機械な受け答えだったがキルギルが戯れにヴェルザーから初代の事を聞きそのままを性格として入れた

 

だからキルは最初にバーンを見た時に知らない反応を示したのだ、本人ではないから当然の事

 

 

「さぁて、ソル様に報告しにいくかな」

 

鎌とサーベルを掴み取ったキルは空間を開けようと手をかざす

 

「ん……おや?」

 

すると遠目に何かが見えた

 

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

その妖精は飛んでいた

 

「あいつ……」

 

フラフラと力無く飛んでいた

 

「絶対許さない……!」

 

理すらねじ曲げて……

 

 

 

 

 

 

「あれは確か……なんだっけ、チ……チル……もう最強のバカでいいや、えらく弱ってるみたいだ、ふむ……」

 

空間を開けるのをやめ代わりに鎌を持つ手に力を入れる

 

「据え膳は食べとかないとね!行きがけの駄賃といっとこう!」

 

向かおうと鎌を構えた

 

 

 

 

「ふーん……本当にただの人形だったのね」

 

 

「!!?」

 

 

 

 

知った声が響きキルは驚き周囲を探す

 

 

 

ブゥン……

 

 

 

「ごきげんよう」

 

「や、八雲……紫……!?」

 

開いたスキマから無傷の紫が姿を現した

 

「その空間は……!?どうやって……いや!それ以前にジャッジのメガンテを受けた筈だ!何故生きている!!?」

 

確実に始末したはず!

 

信じられないとキルは怒鳴る

 

「答えは簡単、爆発する瞬間にスキマで脱出したのよ」

 

「バカな!あの異空間はボク以外脱出不可能な筈だ!」

 

「……やはりその様子ではわからなかったみたいね、まぁわかれというのが無理な話か」

 

呆れた様に紫は微笑む

 

「このスキマ……ただの空間操作ではないのよ、私の持つ境界を操る程度の能力の一端に過ぎない」

 

「ッ……!?どういう事か説明しろ!」

 

「よろしい、では御教授しましょう……物事の存在には境界が存在している、境界とは作れば創造、除けば破壊……私はその境界を操る妖怪、このスキマは空間の境界を弄っただけに過ぎないという事、星の数ほどある内のほんの使い方の一種……」

 

「……まさかァ!?」

 

「わかった様ね、支配空間ではどうにもならない格の差が……あの程度出ようと思えばいつでも出られたのよ」

 

「……何でもアリだと言うのか!?そんな神に匹敵する大それた力をまさか……!?」

 

「そうねぇ……私の許容を越えなければ神だって殺せる、いずれは破壊神すら殺せるくらいにはなるつもりよ」

 

「!?」

 

キルの衝撃は凄まじい

 

「じゃあ何故すぐに出なかった!?」

 

「お前を逃さない為、私が逃げて見失ったら腹いせに他の者を犠牲にするでしょう?私以外をあの空間に入れる訳にはいかなかったのよ」

 

「……!?」

 

 

ドウッ!

 

 

紫の放った弾幕がキルの顔面を撃ち仮面を半壊させる

 

「血迷ったか!?黒のコアが爆発しても良いのか!?」

 

「有り得ないわ、何故ならそれは黒のコアではないのだから……ただの魔力炉でしょうそれ?」

 

「そ、そんな事がわかる筈が……!?」

 

「そうね、さっきまでは私も黒のコアと信じていた……けれどお前がこの幻想郷に居る事が何よりの確証になった」

 

「次から次へと……今度はなんだ!?」

 

「幻想郷は現在、ある有名な魔法使いが施した魔術が張り巡らされている……その効果は黒のコアの原材料である黒魔晶に反応して宇宙に飛ばしてしまうのよ」

 

「ッ!?」

 

パチュリーが施していた黒のコア対策

 

キルの頭に有るのが本当に黒のコアならキルは今宇宙に居なければならないのだ

 

「ボクを作ったのはザボエラ君を越える天才のキルギル様だ!そんなチャチな妨害が効くとでも思うかい……?」

 

「舐めるな」

 

キルの揺さぶりは両断される

 

「幻想郷の誇りが組んだ紫天の魔術……易々と抜けると思うな!」

 

信じているから僅かも疑わない、アレは黒のコアではなくただの魔力炉なのだと

 

「後悔しても知らないよ?」

 

「する様に見えるかしら?」

 

「……チッ!」

 

キルは諦め距離を取った、取ったのは紫が本当に躊躇しないとわかったからだ、そして本当にただの魔力炉だったから

 

「これは使いたくなかったけど仕方ない……」

 

ザンッ!

 

鎌がサーベルを持った左腕を切り落とす

 

「必殺技というやつさ!これで地獄へ送ってやる!」

 

切り落とした左腕が高速で乱回転し血である魔界のマグマを撒き散らし巨大な火の球を作り出す

 

「バーニングクリメイション!!」

 

紫を火葬する死の弾が放たれた

 

「もう理解なさい木偶人形……」

 

 

ブゥン……

 

 

火球はスキマに消えた

 

「お前はずっと私の掌で踊っていた哀れなピエロだったのよ……」

 

境界の大妖怪は抑えきれない笑みを出していた

 

ジャッジが爆発する刹那、キルが消える刹那

 

滑稽過ぎて堪えきれず頭を下げて出していたその妖しい笑顔を……

 

 

ブゥン……

 

 

スキマに手を突き入れる

 

 

「そろそろ往ね」

 

 

ズッ……

 

 

スキマから伸びた扇子がキルの胸に刺さった

 

 

ズゥゥゥ……

 

 

「うぎゃああああああああッ!!?」

 

 

扇子が奥に刺さるにつれキルの体が崩壊していく

 

キルという存在の境界を溶かしているのだ

 

「貴様の敗因は知らなかった事……」

 

妖しく、艶に、背筋を凍らす妖艶な笑みで紫は笑う

 

「女は言葉を発さずとも嘘をつけるという事をね」

 

嵌まった道化に向かって……

 

 

「終符「境花水月!!」

 

 

境界を取り払われたキルは存在を泡の様に飛沫させ、まるで今まで居た事が儚い幻だったかの様に残酷に、そして幻想的に消滅した

 

「これにてフィナーレ……いい道化っぷりでしたわ死神ピエロ君」

 

激戦の隙間で行われていた大妖怪と死神の戦いは境界を操る大妖怪の完勝に終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……これ以上は何もなさそうね」

 

紫は浮かれる事なく周囲を探る、確定されていた勝利故に感情は動かない、有るとすれば民が犠牲にならなかった事への安堵くらい

 

「……」

 

確認を終えた紫はある一点を見つめていた

 

(先程、一瞬だけ傍目に見えたあの後ろ姿……アレはまさか……何故こんな場所に……?)

 

キルが見つけた者を紫も一瞬だけだが見ていた、有り得ない事だと考えさせる

 

(まさか負けたというの……?もしそうだとしても復活には1日掛かる筈……わからないわね、早く状況を把握しなければ……)

 

動こうとしたと同時に念が飛んできた

 

『紫様!御無事ですか!?』

 

「藍……もちろん無事よ、ちょうど良かったわ……状況を知らせてちょうだい」

 

スキマを開き紫は危うき戦場へ戻って行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オオオッ!!」

 

向かった救援箇所でハドラーは敵勢を削いでいた

 

「……」

 

素晴らしい活躍で劣勢を戻したハドラーだったが何か感じたのか集中しきれていない

 

(誰かが……オレを呼んでいる?いや、これは求めている感覚か……戦争が始まった当初から感じてはいたがこの場所に来てより強く感じる様になった)

 

この戦場は一番近い場所に在った、だからだろう

 

「ハドラー殿!」

 

「天魔か……」

 

「妖怪の山は完全に制圧した、東風谷早苗も戻り今駆けつけたところだ、指示を頼む」

 

催促を受けたハドラーは少し考える

 

「……頼みが有る、構わんか?」

 

「どうされた?」

 

「少しの時間、ここをお前に任せたい」

 

「!?」

 

驚く天魔だったがハドラーの真剣な表情に何か特別な事情が有るのだと察する

 

「……わかった、任されよ」

 

「頼んだ……すぐに戻る」

 

踵を返したハドラーは鎧の魔剣を括る右手首を握りその方角を見据える

 

「……!」

 

空に居る魔物を蹴散らし飛び立って行く

 

(おそらくは……お前か……)

 

因果を感じる場所へ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォ!!

 

 

戦場から遠く離れた更地で衝撃と轟音が響く

 

「そぉらぁ!」

 

萃香の拳がズンッと鈍い音を立てガルヴァスの腹にめり込む

 

「ヌオオオッ!」

 

槍の柄で顎を打ち上げ返す振り下ろしが萃香を切り裂く

 

 

「ぐおおおッ……!!」

 

「うおおおッ……!!」

 

 

水平にされた槍を中心に2体の妖魔は猛烈に押し合う

 

「ヌゥリャア!」

 

膝蹴りが萃香の脇腹を打ち、続けた肘打ちが仰け反らす

 

「ッ……やってくれるねぇ!」

 

踏ん張った萃香がガルヴァスの頭を掴み大地に叩きつけ更に追撃せんと拳を振り上げる

 

「グオオオッ!」

 

ガルヴァスが唱えたイオナズンが自分もろとも大爆発を起こし互いを吹き飛ばす

 

「ハハハッ!ここまでやれるたぁ思わなかった!楽しくなって来たねぇ大将!」

 

「ククク……同感だ!」

 

すぐさま立ち上がり互いに笑っていた

 

「だけど勝つのは私だ!」

 

「オレも負けるつもりは微塵も無いぞ!」

 

二人は敵同士には違いなかった

 

だがガルヴァスの正々堂々とした気持ちの良さを萃香は気に入り、ガルヴァスもまた豪快な萃香を気に入っていた

 

二人は戦争の事など忘れ戦いの愉悦に浸っていたのだ

 

「いんや、勝つのは私だ……霧の名を背負って負けるなんざ私が許さない、誇りを懸けて勝たせて貰うよ!」

 

「オレとて魔王軍の司令!この名に懸け……そして散っていった部下に恥じぬ為にオレが勝つ!」

 

霧と豪魔の戦いは佳境へと向かっていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ゆかりん圧勝!

ムンドゥスに倒されたりエスタークに捕まったり色々と不幸だったゆかりんが遂に輝きました。
これでオバサンなんてもう言われない筈……!


・現在の主な犠牲者(リタイア含む)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ?、にとり、霖之助、アリス、美鈴?

魔王軍 ザングレイ、ダブルドーラ、キルギル、親衛騎団(3/6)、純狐、へカーティア?、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)?、テリー、ゴリウス、キル


次は萃香になると思います、多分……

次回も頑張ります!

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