東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第25話 刃の旋律

 

 

 

 

 

 

   ""強くなるから……姉さんを守れるくらい……"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ""なのに……""

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      ""姉さんが……何処にも居ない……""

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グギギギ……」

 

狭間の空間

 

幻の魔の王が創りし自らの世界

 

 

「貴様の様な虚ろな者に私が敗れてしまうとは……」

 

 

その最奥で創造主は死に瀕していた

 

「……」

 

瀕死の王の前に居たのは見下す巨大な魔獣

 

「勇者共さえ相手にしていなければ……」

 

忌々しく目の端に映るのは5人の人間と数匹の魔物の亡骸

 

「……余の勝ちだ、さらばだ幻魔王」

 

魔獣から姿を戻した太陽神は告げる

 

「い、意識が薄れてゆく……わ、私の世界が……崩れ……ぐはっ!!?」

 

夢と現実を支配した大魔王は太陽神によって討たれた

 

 

 

 

「ソル様!御無事で!?」

 

「うむ……幻魔王は討ち取った」

 

「……我等もこの狭間の世界に居た幻魔王軍の本隊を殲滅したので加勢にと急ぎましたが間に合いませんでしたな」

 

「よい、気にするでない……それよりも撤収の準備をせよ、幻魔王が死んだ事でこの世界が崩壊を始めた、逃げ遅れれば一緒に飲み込まれてしまう」

 

「はっ!ただちに!」

 

右腕たる魔軍司令が最奥から出ていくと同時に入れ替わりで一人の青年が入ってきた

 

「一応見に来たがやはり終わってたか……」

 

「お前か……」

 

魔王の人形となっていた青い剣士

 

太陽神が勇者達より先に出会った事でより強い力を求め着いてきた男

 

「もうこの世界に用は無い、帰還するぞ」

 

「了解」

 

最奥から出ようとした時、青年が太陽神の後ろに居た者達に気付き、止まった

 

「……」

 

何かを感じ無言で歩いていく

 

「……」

 

太陽神も感じ黙って剣士を見ている

 

「……」

 

剣士が辿り着いた勇者達の亡骸を見渡す

 

「……!?」

 

その目が金髪の女性を見た時、剣士の魂が反応した

 

「姉さん……?」

 

震える手で頬を触る、もう冷たくなって反応を返さない

 

「そんな……うぐっ!?」

 

急に苦しくなり胸を押さえる

 

「はぁ……はぁ……」

 

現実が心を蝕む

 

「嘘だ……嘘だああああああああああああッ!!?」

 

絶叫が木霊する

 

「……」

 

眺めている太陽神はふと考えていた

 

(余が介入した事で定められていた運命が螺曲がったのやもしれんな……本来なら幻魔王は勇者達によって討たれる運命(さだめ)だったのかもしれん)

 

太陽神の考えた通り、本来ならば導かれた6人の手により幻魔王は討たれる筈だったのだ

 

勇者達の中に青い剣士を入れて……

 

(……わかりはせんがな)

 

もしもを考えても意味は無いしわかる筈もない、もう本道から外れてしまっているのだ

 

否……既に変わっていたのだ

 

IF(もしも)は本道に、本道はIF(もしも)へ……

 

(これでこやつが終わるのならそれもまたよし……)

 

太陽神は悪くない

 

後の天空城で勇者達より先に剣士と会った事は罪ではない

 

知らなかったし知る必要も無いのだから

 

 

「うぅ!?うあああああああッ!!?」

 

より強い力を求めて太陽神に着いていった剣士にも非は無い

 

同様に知らなかったし自ら望んだ事だったから

 

 

 

 

これが本道になった以上、誰も悪くはないのだ

 

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……違う……!」

 

血の涙を流す剣士は断言する

 

「姉さんじゃ……ない」

 

目の前の死者は違うと

 

「姉さんじゃない!そうだ……姉さんなわけない!」

 

その顔には狂気が表れていた

 

「姉さんは生きてる……絶対にどこかで生きてる!」

 

事実を受け入れられなかった剣士の心は壊れていた

 

その為だけに生きていた剣士は自我を保つ為に心を壊し、狂気で埋めたのだ

 

「待っててくれ姉さん……もっと強くなって必ず姉さんを守るから……」

 

壊れた青き閃光の剣士は修羅となって自らの世界から出ていった

 

 

 

幻夢の姉を求めさ迷う……真実の姉を狭間の闇に捨てて……

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キィン!

 

 

重なる剣の音が響く

 

「人符「現世斬」!!」

 

弾き合った刹那に合わせた突進切り

 

「火炎斬り!!」

 

火炎剣が迎え打ち相殺

 

「……!」

 

距離を取る妖夢

 

「その剣……」

 

テリーが持つ異形剣を睨む

 

(前の剣より格上なのは間違いない……しかしあの禍々しい気……魔剣?)

 

剣の枠からはみ出た異常な剣だった

 

大剣に近い両刃の剣、先端にも刃が鎌の様に伸び斧の印象も受ける、髑髏を装飾にした明らかに正常な者が作った剣ではなかった

 

『ギヒヒヒ……』

 

(!?……喋っ……!?)

 

突然剣が言葉を発し身構える

 

『久し振りの人間だぁ……しかも若い女……ギヒヒ!早く切らせろぉ~~!』

 

カタカタ震える剣は持ち主であるテリーに催促する

 

(魔物!?……しかしあくまで剣の姿を崩さない、それに呪いを感じる……魔剣というよりは呪剣)

 

剣を見ているテリーの様子を伺うが特に苦しそうでもなく無表情に剣を見下している

 

『早く切らせろぉ~!早くぅ~!』

 

せがむ剣

 

「……黙れ」

 

凄まじい剣気と殺意が剣に向けられ剣の動きは止まった

 

「お前は黙って剣をしていればいいんだ……死にたいのか?」

 

剣が異なる震え方をした、次は怯えている様な恐怖を感じさせる震え

 

『うぃぃ……悪かったァ……許ぢでぐでぇぇ……!』

 

「なら黙ってろ、わかってると思うが余計な真似をしてみろ……」

 

『し、しねぇ!あんたには逆らわないよぉ……』

 

誓った剣はそれきり黙り、微かな動きすら見せなかった

 

「待たせて悪いな……これがオレの真の剣、破壊の剣だ……察しの通り呪われた剣だよ」

 

テリーは異形剣を見せつける

 

「伝説の剣に匹敵するらしくてな、剣としては申し分ないんだが見ての通り鬱陶しい……前の時に持ってなかったのはそれだけの理由だ」

 

「……」

 

軽く話すテリーに妖夢は内心驚愕していた

 

(魔剣を屈服させている!?聖職者でもないのに……どんな精神力ならそんな事が……)

 

呪いなど歯牙にもかけていないテリーの様子が妖夢に畏怖すら感じさせる

 

「最初はもっと厳かな喋り方だったんだが服従させた途端こうなってな……」

 

言ってみたもののどうでもいい事だと気付き鼻で笑ったテリーは破壊の剣を両手で構える

 

「続きといこう」

 

閃光の速度で切りかかる

 

「くっ!?」

 

楼観剣で受けるものの押される

 

(威力が上がった!真の剣を持って本来の力が出せる様になったという事ですか……)

 

勢いを殺し切った瞬間に白楼剣を逆手で神速で抜刀し切りつける

 

「フンッ……」

 

それはテリーの持つ盾に防がれる、前回は使わなかったが伊達や酔狂で持っているわけがない、必ず攻撃の手段に用いると確信していたから出た淀みなき防御

 

「……!」

 

「……!」

 

鍔競り合いながら互いを睨む

 

「ハッ!」

 

先に動いたのは妖夢、破壊の剣を側方に逸らしながら小さく跳躍し引いた白楼剣で回転切りを放つ

 

「……チッ!」

 

屈んで避けたテリーの前には回転から来る次の楼観剣

 

「……!」

 

不可避と思われたそれを盾を使い逸らす、防ぐのではなく逸らす、これもテリーが並みの剣士を越えた至高の剣士故の芸当

 

「剣技、五月雨!!」

 

作り出した隙に放つは虚実混じった連続切り、破壊の剣の威力もありさながら破壊の豪雨

 

「人鬼「未来永劫斬」!!」

 

その隙を隙でなくならすのは幻想郷唯一の剣士、妖夢、初太刀を紙一重で避け自身も連続切りにて虚実を纏めて対抗する

 

「いいぞ……それでこそ倒しがいがある!」

 

切り結ぶ両名、次第に小さな切り傷が増えていく

 

剣士とは武道家と違い殺傷力のある剣を使うため一撃が致命に成り得る可能性が遥かに高い、それだけに見極めとそれを活かす集中力は武道家とは比にならない

 

「ウオオオッ!」

 

「ハアアアッ!」

 

剣閃を薄皮一枚で避けるまでに回避を詰めなければ後手に回る

 

それだけ二人の剣士の力量は高く、拮抗しているのだ

 

(このままでは埒が……!!)

 

動かない形勢に攻められる幻想郷側の妖夢が痺れを切らし動く

 

「……雨斬!」

 

五月雨を切り払う白楼の刃

 

「!?……火炎大地斬り!」

 

焔纏う渾身斬りが相撃つ

 

「空裂!」

 

「真空斬り!」

 

空気を切り裂く楼観剣と闘気纏う破壊の剣が火花を散らす

 

「時断!!」

 

「魔人斬り!!」

 

時間すら断ち斬る秘剣に魔人の如く斬りかかった修羅の奥義がぶつかり衝撃を走らせる

 

「ッ……魂魄流奥義!!」

 

全てを防がれた妖夢は白楼剣を納め楼観剣を強く握る

 

「冥空斬翔剣!!」

 

魂魄家に代々伝わる奥義、雨、空気、時を斬る事が出来た者が会得出来る冥府へ斬り送る魂魄流最大の剣技

 

「……刀殺法奥義!」

 

テリーも剣に力を込め大地、空、魔を合わせた雷鳴の剣では耐えられなかった極意を向かってくる妖夢に振り下ろした

 

「ギガスラッシュ!!」

 

 

ドウッ!

 

 

弾けた衝撃が周囲の妖怪と魔物を押し退ける

 

「~~ッッ!?」

 

「クォォ……!?」

 

二人の剣士の剣は止まっていた

 

「これを防ぐなんて……」

 

「それはこっちの台詞だ……この技と互角だったのはソル以外にお前が初めてだ」

 

互いに忌々しく睨み付ける

 

二人の剣技に差は無い

 

そして唯一の差であった剣、それを真の剣で埋めた今、二人の力は完全に互角となっていた

 

 

「いいぞ魂魄妖夢……だからこそオレはお前を倒さなければならない!」

 

再び剣を交差させる最中にテリーが声を荒げる

 

「お前を越えて……姉さんを守る力を得る為に!」

 

「ぐっ!?」

 

剣を弾かれ怯まされる

 

「姉さん……?うっ!?」

 

振り下ろした楼観剣を盾で防ぎ体当たりを食らわせる

 

「そうだ……姉さんの為に死ね魂魄妖夢!」

 

踏み込みからの横薙ぎが妖夢を両断する

 

「……残像か」

 

力みを無くし離れて構えている妖夢に顔を上げ見下す様に妖しく微笑んで見せる

 

「……姉さんとは……貴方のお姉さんですか?」

 

「そうだ……オレの生き別れた実姉だ、オレ達が子どもの頃に王への献上品として連れていかれた」

 

「なら……何故貴方は魔王軍に属しているんですか?こんな事をする前にお姉さんを探す方が先でしょう!?ここに貴方のお姉さんは居ない!」

 

テリーの背景を僅かながら知った妖夢は間違っていると指摘する

 

「居なかったんだ姉さんは!オレの世界には!幻魔王を倒した後も探し回った!だがどこを探しても居なかった……きっとオレの様に次元を越えたか異世界をさ迷ってるに違いない!」

 

しかしテリーは意に返さない

 

幻夢の姉を追い求めているから既にどこにも居ないなんて信じない、油断させる為の戯れ言、その程度にしか思っていない

 

(バカな……そんな事がそう都合よく起きるものなの……?)

 

それに対し妖夢は疑っていた

 

普通なら誰かが異世界に行くだけでも稀なのだ、その中でも来やすい場所である幻想郷でさえ迷い込んでくる外来人は年に数人なのだから

 

ましてや次元を越えるなどソルでさえ座標がなければ行けないのに自然になどとてもではないが不可能な事なのだ、可能性が無いとは言わないが限りなく低いと思っていた

 

有り得ないと確信するくらいに

 

(……お姉さんの話になってからテリーに狂気を感じる、いえ……これは心が壊れ……?もしかしたらお姉さんは既に……)

 

憶測の域は出ないがそんな可能性が頭に過る

 

「では……尚更こんな事をしているわけにはいかないでしょう!?お姉さんを想うなら戦うのではなく見つけてあげるべきでしょう!?」

 

だが真実を知らないしテリーが嘘を言っている様にも見えないから否定はせず道を示す

 

「探しているさ!だが姉さんが見つかった時に力が無ければまた姉さんを見失ってしまうだろうが!だからオレは強くならなければならないんだ!」

 

それが正しい道だと信じるテリーに妖夢の言葉は届かない

 

「貴方は既に強い……もう充分でしょう!これ以上お姉さんを待たせてどうするんですか!?」

 

妖夢は決して戦いから逃げているわけではない、テリーの姉を思う想いは本物だとわかるから戦いよりも姉を優先して欲しいのだ

 

「ハハハハハ!悪いがオレの魂はこう言っている……姉さんの為に……」

 

開いた左手を目前にかざし、強く握り締める

 

 

「もっと力を……!!」

 

 

飽くなき力への渇望

 

強い力が欲しい……姉さんを守りきれるくらいの強い力を……

 

 

修羅と成り果てた男が目指す力は姉の為

 

「お喋りはもういいだろう……行くぞ!」

 

「ッ!?うぅ……!?」

 

青い閃光と呼ばれた剣士は行く

 

「セアアッ!」

 

「強く……!?うあっ!!?」

 

幻想の剣士を喰らい更なる高みへ行く為に

 

「ウオオオオオオオッ!!」

 

「くあっ!?……ッウ!?うぐっ!?」

 

二度と辿り着けない幻夢の彼方の姉の為に……

 

「うああああああッ!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズンッ!

 

凄まじい衝撃音が鳴り響く

 

「チッ……やはりか」

 

衝撃音を鳴らした武器職人ロンが窪んだ腕から剣を引き抜いた

 

「ただの超魔ゾンビなわけがないとわかっていたがまさか星皇剣すら無力化するとはな」

 

振るわれた腕を避け距離を取ったロンはキルギルの遺した最高傑作、超魔ゴリウスを見据える

 

(操縦者は無し……自動で動いているか、攻撃自体は脅威ではない)

 

繰り出される攻撃を軽く避けるロン、攻撃力は確かに高いのだが自動故の単調さでは魔界で最強の剣士だったロンに当たるわけも無かった

 

(となると問題はやはり防御力、ゾンビにスタミナ切れを期待するわけにいくまいしこれを崩さんといずれ敗北か……)

 

ゴリウスの肩を蹴って飛び退いたロンは目を閉じた

 

「フン……願ってもない」

 

嬉しそうに微笑み、己の専用武器を構えた

 

「時間を掛けるつもりは無いし掛けさす気も無い……一撃で決めてやる」

 

太陽の光を受け輝く2本の剣

 

未完成だったそれを弟子が完成させたこの世に一組しかない究極の専用剣

 

楼観剣と同じく心が折れない限り決して砕ける事の無い心剣一体の双剣

 

その想剣の1本を上段から背に回し、もう1本を居合いの様に脇に構える

 

「フフッ……悪いな、年甲斐もなく興奮している、剣士として改めて磨いたこの技がどれ程の威力があるか楽しみなんだ」

 

妖夢と共に特訓して完成した新たな技、厳密には同じなのだがより洗練されたその技はロンからすれば新技にも等しい

 

 

ゴゴゴゴゴ……

 

 

膨大な力が凝縮され剣が地鳴りの様な音を出す

 

「来い……!」

 

「グルルル……!?」

 

秘められた威力に本能が警戒しているのかゴリウスは動かない

 

「賢明な判断だ……だが俺にこの構えを取らせた時点でお前の命運は尽きている……」

 

フッ……

 

「!!?」

 

構えていたロンがゴリウスの間合いに瞬間移動のごとき速さで詰め寄っていた

 

「グルアアアアア!!」

 

叩き潰そうと両手を振り上げた瞬間、ロンの構えは解かれる

 

 

北十字星剣(ノーザンクロスブレード)!!」

 

 

眼前の敵を切り裂く星皇の闘気剣

 

由来は今は亡き弟子の最大の必殺剣から来ている

 

星皇剣が弟子が完成させた絆の宝剣だったからこそロンは新たな技にその名を入れた

 

心はいつも供に在ると想いを剣に込めて……

 

 

「!?!!?」

 

ロンがすり抜けた様に通り過ぎゴリウスは振り向き攻撃の意思をみせる

 

「……やめておけ、既に勝負は着いた……お前の死でな」

 

パチンッ

 

「グギャ!!?ギャアアアアアアッ!!?」

 

ロンが納刀するとゴリウスの強靭な肉体が縦横に裂け始める

 

 

「あの世で精々自慢しろ……俺がくれてやった、その北十字星の餞別をな……!」

 

 

十字の餞別を貰い、最強の超魔は黄泉へと送られた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フン……上出来か」

 

難敵が消えた場所でロンは一休みとばかりに酒瓶に手をつける

 

(まだ少し興奮してるな……フッ、本職は武器職人だと言うのに……アイツに当てられたか)

 

まだ戦いは続いているこの非常時に呑気な……と思うだろうが実はそうではない

 

ロンの消耗は実際にはかなり大きい、当然だろう、二の太刀を考えないロン・ベルク流剣術の最強奥義なのだから

 

顔に見せないだけでかなり疲れているのだ、もっとも……昔の様に腕が壊れないだけ御の字とも言える威力が有るのだから当然なのだ

 

 

 

(ノヴァが死んでから俺は不貞腐れていた昔に戻りつつあった……平和になって武器が必要なくなり使い手がいなくなったからだ……)

 

染々と昔を思い出す

 

(武器職人は使い手が居るからこそ生きれる……もう彼処に俺は必要無いと悟った俺は彼処を故郷とし旅に出た……)

 

魔族の寿命は長い、人より長く生きれるがそれだけ死を見てきた事でもある

 

「……」

 

可愛がった愛弟子や共に戦った仲間達との別れ、今や故郷に残るのは同じ魔族の数人の友人だけになった

 

それもロンを旅立たせた原因でもあった

 

(……様々な場所をアテもなくさ迷った、異世界や天界……だが何処も俺を立ち止まらせる事はなかった)

 

(何処にも居場所は無いと知り、帰ろうとした時だった……迷いこんだ此処、幻想郷で俺は出会った……)

 

忘れもしないあの日

 

「妖夢……お前に……」

 

今や専属の鍛治師となり生涯の伴侶にもなった幻想の剣士

 

「ククク……色々と振り回されたな、俺ともあろう者が……だがアレにせがまれると中々嫌とは言えん……惚れた男の弱みか」

 

自嘲気味に笑うロン、その時何かを感じ取った

 

(楼観剣の声……妖夢が危ないのか)

 

自らが打ち直した剣からの危機を知らせる声

 

「……フンッ!」

 

ロンは動かなかった

 

「俺が打ち直した心剣一体の剣を持つんだ……泣き言は聞かんぞ?負けるなんざ許さん」

 

それは誰よりも信じているから

 

「お前は負けない……そうだろう?」

 

妖夢の勝利を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ザンッ!

 

「あぐっ!?」

 

テリーの剣が肩を切る

 

「~~ッ!ぐっ……!?」

 

刃先が頬を掠める

 

「ラアッ!」

 

「かっ……ごほッ!?」

 

蹴りが腹を打つ、咄嗟に身を退いたものの深く入り息が乱れる

 

「剣舞「竜殺」!!」

 

直後に襲うは強き竜すら斬り殺す秘剣・ドラゴン斬りの連斬

 

「……!!」

 

逆手で白楼剣を抜き半身に構えた

 

「空観剣「六根清浄斬」!!」

 

返しの奥義で迎え撃つ

 

「ハアアアッ!!」

 

連斬を受け流し決められるカウンター

 

 

ギンッ!

 

 

それは斬る事なく盾に防がれた

 

(必中の間合いが防がれ……!?鋭さが増して!?)

 

距離を取ろうと離れる妖夢だが知っていた様に同じタイミングでテリーも詰め寄り剣の応酬は続く

 

「くあああッ……!?」

 

しかし妖夢だけが一方的に傷が増える

 

(まさか……私との戦いをもう経験として昇華させて……)

 

それは心滅の修羅故か

 

力を求めるテリーは戦いの間にも成長を続ける

 

相手が強ければ強い程その速度は早くなるのだ

 

ギャリ……

 

「!!?」

 

破壊の剣の先端に有る鎌の部分に白楼剣が絡め取られる

 

「捕まえたぞ!」

 

「くっ……!」

 

引き寄せようとしたが妖夢が躊躇無く手を放した為に白楼剣だけが引っ張られテリーの前で宙に浮く

 

「流石の判断だな、もし放さなければ……こうなっていた!」

 

上段に構えたテリーは重力に引かれ落下していく白楼剣に向かい剣を振り下ろした

 

「……ッ!?また折られた……」

 

大地に真っ二つで横たわる白楼剣を見て顔を歪める

 

「また……?ククッ!呪われてるんじゃないのか?」

 

「ぐぐぅ……そ、そんな事は……」

 

否定したいが言い返せなかった

 

 

「礼を言う魂魄妖夢、俺のレベルを高めるのに丁度良い相手だった……お陰で更に強くなれた」

 

もはやテリーにさっきまでの真剣さは無い、妖夢を越えたと実感した事で余裕すらある

 

「これなら姉さんを……いや、まだだ……こんな程度では姉さんを守りきるには足らない!」

 

それでも満足ではなかった、壊れた心が目指すは最強の力

 

相手が誰だろうと守りきれる力を求めているのだ

 

「……バーンなら、そうだな……よし、次はバーンだ!ソルの前に奴を喰らう!」

 

テリーは剣を納める

 

「……家に帰るんだな、お前にも家族が居るだろう」

 

越えた妖夢はもう用無しとばかりに背を向ける、殺戮が目的ではないから生死に興味は無い、妖夢より強い……それだけで充分だったのだ

 

「……」

 

去っていくテリーを前に妖夢は頭を垂れ黙る

 

「…………」

 

死を覚悟していながら見逃された事が屈辱だったのか震えている

 

 

「ふざけるな!!」

 

 

怒声がテリーを引き留める 

 

「いい加減にしろ!!」

 

違う、負けを認めてなどいない、妖夢に限ってそんな事は有り得ない

 

敵意を向ける妖夢の目は敗北者のものではない、許せない者へ向ける憤怒の目だった

 

「力とお姉さん……貴方はどちらが大事なんですか!?」

 

妖夢はテリーが許せない

 

「姉さんだ、当然だろう」

 

「嘘を言うな!!」

 

どうしても許せない

 

「なら先にお姉さんを優先すべきでしょう!!」

 

テリーの今が

 

「さっきも言っただろ、姉さんを二度と見失わない様に力を着けるんだ」

 

「それはお姉さんを守る理由で逃げてるだけだ!力なんかより先にお姉さんでしょう!?」

 

本当に大事な者を二の次にするテリーを許せない

 

「五月蝿いぞ!お前に何がわかる!知った風な口ででしゃばるなよ!」

 

「……確かに私は知らない……」

 

詳しい事はわからない妖夢は次に確かめるべく考えていた疑問を口にする

 

 

「貴方のお姉さん……本当にまだ生きているんですか?」

 

 

「……!!?」

 

 

テリーが驚愕し狼狽えた

 

「……どうして狼狽えるんですか?生きていると信じているなら即答出来る筈です」

 

両手で顔を覆うテリーを見つめる

 

「……言ったな」

 

ポツリと出た一言、それだけだったが妖夢はそれから激しい憎悪を感じる

 

 

「姉さんが……死んでいると言ったな!!」

 

 

覆っていた両手が下がると凄まじい形相で血の涙を流すテリーが睨んでいた

 

(……尋常ではない殺気、やはりお姉さんは既に……そしてテリーはそれを知っている、ですがその現実を受け止められずに心が壊れ、狂気が繋ぎ止めて生きているという幻のお姉さんを心に作った……)

 

哀れむ瞳でテリーを見つめる

 

「お前は殺す……魂魄妖夢!!」

 

殺意の修羅が剣を抜く

 

(もはや……問答は無用……)

 

もうどちらかの死しか決着はないと悟った妖夢は楼観剣を握り直す

 

「殺す……殺してやるぞッ……魂魄妖夢ゥゥゥゥ!!」

 

破壊の剣を構えたテリーに妖夢は叫ぶ

 

「黙れッ!そして聞けッ!!」

 

「!!?」

 

強く握った心剣一体の剣を構え告げる

 

 

「我が名は妖夢……魂魄妖夢!妄執を断つ剣ッ!!」

 

 

八相の構えを取り集中力を極限まで高める

 

 

「この切っ先に、一擲を成して乾坤を賭せん……!!」

 

 

妖夢が最後に繰り出すは魂魄流ではなく己が磨き上げた最高の一太刀

 

持てる力の全てが余す事なく楼観剣に注がれ刀身を白光させる

 

 

「オレの全霊で斬り殺す……!」

 

 

同じくテリーの破壊の剣に闘気と魔力が込められ黒く光らせる

 

 

「行くぞ……死ねぇ!!」

 

 

「いざ……参る!!」

 

 

刃の旋律が鳴り響く

 

「ギガスラッシュ!!」

 

テリーが先に剣を振り、振り抜かれた剣から強力な斬擊が放たれる

 

「覚悟!!」

 

次に妖夢が動く、神速を持って斬擊に突撃する

 

「……!!」

 

同時にテリーも動いた、妖夢に負けぬ速さで上段に構え先に飛ばした斬擊に追従する

 

「ウオオオオオッ!!」

 

常人には立ち入れない剣士だけの刹那の時間

 

妖夢が斬擊に触れる瞬間を寸分違わぬ神業で構えた破壊の剣を重ねる

 

 

「秘剣・ギガクロスブレイク!!」

 

 

斬擊のアロータイプと直接斬るブレイクタイプの合技、交差する箇所の威力はテリーの力量も合いまり通常の10倍以上の威力を誇るまさに必殺剣

 

 

 

 

相撃つは至高の剣技

 

(認めますテリー……貴方は私より実力は上でした……本来ならこの技を使うのは恥とし敗北を受け入れるのが剣士としての私の在るべき姿なのでしょう……)

 

元は数ある中の技の1つに過ぎなかったその技

 

(ですが今の私は幻想郷を守る剣……負けられないのです、何があろうとも、是が非でも勝たねばならないのです……故に私は使います、恥知らずにも使います……この……貴方に勝てる唯一の剣技を……)

 

天地魔を統べる魔技を越えようと決意した時を境にその技は特別になった

 

(だから……先に謝っておきます……すいません……)

 

愛する者のお陰でその技は更に磨かれた……魔倒を越え……その鋭さは……

 

 

「……ハァアアアアアアアアッッ!!」

 

 

神すら斬るに至る妖魔剣の一刀!

 

 

 

 

「奥秘「西行春風斬・神断(かみだち)」!!」

 

 

 

 

二人の剣士が交差する……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

剣を振りきった姿で静止する妖夢とテリー

 

「……貴方の言った通りです、勝敗を分けたのは実力ではなく……剣の差」

 

妖夢の楼観剣が美しい刃音を響かせ、鳴り止む

 

『オォ……オオオオォ……』

 

テリーの破壊の剣が呻きをあげ、刀身がズレた

 

「そんな……バカ……な……」

 

剣士としてはテリーが上手を行き軍配があがった

 

だが結果は敗北、それは何故か?

 

 

楼観剣と破壊の剣、本当の差は剣にこそあったのだ

 

共に生きると決めた心剣一体の剣と強いだけの力の剣

 

心の限り不滅を誇る絆の剣に敵う道理は無い

 

 

 

剣士を剣士足らしめる唯一にして絶対の要素が勝敗を分けたのだ

 

「成敗……」

 

そして……妖夢はその心剣一体の剣を究極へと至らせる技を持っていたから

 

「…………!!?」

 

切れた破壊の剣の刀身と共にテリーの腕が落ちる、そして切れた脇腹から血が噴き出す

 

 

「我が楼観剣に……断てぬもの無し!!」

 

 

至高の剣士の戦いは終わりを迎えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……姉さん……」

 

倒れるテリーはうわ言の様に姉の名を繰り返す

 

「……」

 

もう助かりはしない、例えベホマだろうと治りはしない、致死を受けたテリーに死以外の道は無かった

 

「……」

 

妖夢は折られた白楼剣を拾い背を向ける

 

「……」

 

妖夢は何も言わなかった

 

死闘を制した嬉しさもなく静かにその場を去っていく

 

(さようなら……)

 

哀しき青い閃光の剣士に別れを告げ戦場へ戻って行った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソルパレス

 

『テリー様、敗北!もう助からないかと……』

 

連絡を受けたソルは盤上の駒を1つ消す

 

(キルギル、戸愚呂に続きテリーまでもか……予測不能な戦局だ……中々に面白い……)

 

度重なる軍団長クラスの敗北を知ってもソルは顔色1つ変わらない

 

(テリーか……良い目をした小僧だった、生きる理由を彼岸の彼方に追いやった生ける屍、成仏を忘れた地縛霊のごとき剣鬼……ようやく成仏するのか)

 

「哀れな小僧だったが……せめて安らかに眠るがいい」

 

ほんの少しだけ羨ましそうにソルは微笑んだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん姉さん……」

 

一人の剣士が死に瀕している

 

「見つけられなかった……」

 

泣きながら何度も謝罪する

 

「うぅ……姉さん……」

 

意識が途切れていく

 

(姉さんを守りたかった……それだけだったのに……)

 

青い剣士の目の前は真っ黒の闇に包まれた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"テリー……"

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

声が聞こえ目を開ける

 

「あ……あぁ……」

 

剣士の瞳から大粒の涙が止めどなく溢れる

 

 

 

"ごめんね……貴方を見つけられなくて……"

 

 

 

目覚める様な綺麗な金色の髪をした女性が立っていた

 

「ごめん姉さん……オレが弱かったから……姉さんが辛い目を……!」

 

謝る剣士に女性は微笑む

 

 

"いいのよ……こうしてまた会えたんだから……"

 

 

「こんな近くに居たんだ……こんな……近くに……!」

 

 

女性の胸に顔を埋め剣士は泣き続ける

 

 

"行きましょう……天空よりも少しだけ高い所で皆待ってるから……"

 

 

二人は浮かび上がっていく

 

 

 

本当に望んだ者はすぐ近くに居た

 

修羅道の果てには絶対に居ない宝物

 

 

 

最期にようやく辿り着いたのだ

 

幻夢の姉ではなく

 

 

「これからはずっと一緒だ……ミレーユ姉さん……!」

 

 

本当の姉に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




妖夢、ロン、決着!

オリジナルとは言えテリーがかなり崩壊していた気もします、Ⅵ勇者パーティーも含め救われない話でした。


・現在の主な犠牲者(リタイア含む)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ、にとり、霖之助、アリス、美鈴?

魔王軍 ザングレイ、ダブルドーラ、キルギル、親衛騎団(3/6)、純狐、へカーティア?、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)?、テリー、ゴリウス


次は……萃香か紫かな?

次回も頑張ります!

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