東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第24話 アンバランスな……

 

 

過去・戸愚呂の世界

 

 

「元人間にしては楽しめた」

 

 

雷鳴が絶えず鳴り響く嵐の日

 

 

「…………」

 

 

その戦いは人知れず終わっていた

 

「バカな……弟が……」

 

ヴェルザーに組伏せられる兄、その周りにはガルヴァスに倒されたチームメイトの二人

 

「文明は素晴らしく発展しているがそれだけだ、そなたがこの世で最も強い者なのだろうな……この世界に攻める価値は無い、引き上げる」

 

相手をしてやった戸愚呂に背を向け無傷のソルは告げる

 

「やる……ねェ」

 

倒れたままの戸愚呂は言う

 

「トドメを……刺していけ」

 

「……」

 

それにソルは振り向いた

 

「戦っている時から思っていたが……やはり死にたかったのかそなた」

 

「……」

 

戸愚呂は何も答えない

 

「答えたくないのならば結構……そなたを殺すのは余ならば簡単に出来る、が……せぬよ」

 

「……何故?」

 

ソルは戸愚呂の前に立ち答えた

 

「殺すにも値せんと言う事だ」

 

「……そうか、ようやく俺を殺せる敵に会えたと思ったが……嫌なら仕方ないねェ」

 

戸愚呂は顔を背けそれ以上は言わない

 

「……そなたは弱い」

 

ソルは告げる

 

「自らの命運を決められるほどの強さを持たぬそなたの頼みを聞く必要は無い」

 

「……」

 

聞き入る戸愚呂へソルは言い放った

 

「それを望むのなら強くなるがいい……そなたは死に場所を求めれるほど強くない」

 

「……!」

 

兄を解放しソル達は大魔宮へ戻ろうとする

 

「頼みが有る……あんたなら出来ると思う」

 

「……言ってみよ」

 

戸愚呂はそれを言った

 

「俺を魔界に連れていって欲しい」

 

自らの世界の魔界に連れていって欲しいと

 

「ほぉ……こんな世界にも魔界は有るのか、ふむ……余はどうでもいいがお前達はどうだ?」

 

ガルヴァス達に聞くとヴェルザー以外一致で行きたいと返事が来た

 

「では行ってみるとしよう……妖怪、名は?」

 

「……戸愚呂」

 

「そうか……では戸愚呂よ、案内を頼む」

 

「……すまないねェ」

 

回復魔法を掛けられた戸愚呂は兄と共にソルへ着いていく

 

「話を聞かせてもらう、酒でも出そう」

 

「……酒はダメなんでオレンジジュースください」

 

そうして戸愚呂はソル達と魔界に行く事になった

 

ソルの大魔力で魔界への穴を強制的に広げ魔界に続く異空間にある結界をキルギルとグレイツェルが取り除き戸愚呂の世界の魔界への侵入に成功する

 

そこでは戸愚呂を遥かに凌ぐ妖怪達の世界であり魔王軍は三大妖怪を筆頭にする妖怪達相手に戦いを挑み渇きを癒す

 

望んだ戸愚呂もそこで魔界の妖怪を相手に戦いを繰り返し目覚ましい勢いで力を着けていった

 

 

 

 

 

 

「聞いたぞ戸愚呂、軀に善戦した様だな」

 

魔界に行ってから1年の時が経ち魔王軍は魔界の中でも一大勢力となっていた

 

人智を越えた太陽神の侵略に対し三大妖怪の派閥は同盟を結びこれに対抗し拮抗状態を維持していた

 

同盟を組んだのなら総力で決着を着ければいいのだがそれはなく、三国が団結しているにも関わらず何故か魔王軍の侵攻を抑えるに留まっていた

 

そうなったのは三大妖怪の中に謀略に長ける者が居たからだ

 

総力戦に紛れて動き漁夫の利を得ようとするのは間違いなかったのだ、だから同盟と言えど表面上だけて互いを一切信用していない為にこの状況から進展は無かった

 

「もう少しやれると思ったんですがね、不甲斐ない結果ですよ」

 

戸愚呂は出されていたオレンジジュースに手をつける

 

「三竦みの妖怪……ピンからキリまであるS級妖怪のなかでも最上位に居る者達か、その中でなら唯一雷禅だけが余に興味を持たせた、最も……闘神としての全盛期に、だがな……今は見るに耐えん」

 

「フッ……この世界の頂をしてもあんたの顔は揺るがんねェ……」

 

涼しく言い放つソルに戸愚呂はボソリと呟いた

 

「……強くなればなる程あんたが遠く感じるねェ」

 

この一年で以前に比べ遥かに強くなった、ガルヴァスやテリーに匹敵するほど強くなった

 

だがそれが朧気だったソルとの差を明確にわからせてしまいこんな言葉を落とさせる

 

「そろそろここにも飽きてきた……お前に決めさせてやろう」

 

それを聞いてか聞かずかソルは提案を出した

 

「ここの妖怪達に全面戦争を仕掛けるかどうかだ」

 

「……」

 

戸愚呂は黙る

 

ソルの言った全面戦争とは今までの消極的な小競り合いではなく総力を持って戦う文字通りの完全決着を意味していた

 

「お前や他の者達の為に時間は取ったがもう充分であろう、もう少し居てやっても構わぬがどうする?」

 

「……そうですね」

 

戸愚呂は決めた

 

「あんたを刺激しないように俺を見逃す……ここも随分温く感じられるようになった、俺の敵になれる者はもう居ないようだし見逃してやりましょう」

 

「そうか……お前がそう言うのなら何も言うまい」

 

帰還の準備を始める大魔宮

 

「戸愚呂よ、お前はこれからどうするつもりだ?」

 

「そこなんですが……あんたに着いていっても構いませんかね?相手には不足しないだろうし何より今はあんたしか敵が居ないもんでね」

 

「フッ……よかろう、ならばお前を拳客として魔王軍に迎え入れる、基本的には自由にしていればよいが有事の際は働いて貰う、こんなところでよいか?」

 

「ええ構いませんよ……今更ですが一応言っときますかね、よろしく」

 

「ようこそ魔王軍へ……注いでやろう、飲むがいい」

 

「前にも言いましたが酒はダメなんで勘弁してください」

 

 

そうして戸愚呂は魔王軍の終わりなき旅路に加わったのだ

 

 

自らの旅路を終わらせてくれる者を求めて……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では始めるかね」

 

組んだ腕を解き美鈴を見据える戸愚呂

 

「……そうですね」

 

立ち上がる美鈴

 

「始めましょう」

 

構えた

 

「行くぞ!」

 

聖光気を滾らせ戸愚呂が駆け筋肉の塊と化した豪腕を振るう

 

「……ツアッ!」

 

右手で逸らした反動を利用して回転からの左の裏拳が戸愚呂の顎を打つ

 

「効かんね」

 

「!?」

 

確実に入ったが僅かに揺らしただけでダメージは無い

 

「くっ……」

 

怯ませれなかった事と圧倒的な筋力からの掴みを嫌い飛び退く美鈴

 

「逃がさんよ」

 

「速い……!」

 

読んでいた戸愚呂が追い付き腕を振りかぶる

 

「……ハァッ!」

 

それは美鈴の罠、読まれる事を承知で退き戸愚呂を誘ったのだ

 

「フンッ!」

 

飛び退き着地した瞬間に前へ飛び込み拳を突き入れる

 

「うっ……」

 

振りかぶる一瞬を突いて美鈴の拳が先に入った、今度はダメージが有った

 

「そうだろう、そうでなくては生かした甲斐が無い、いいぞ……もっと力を引き出せ!」

 

ダメージを受けた事が嬉しいとばかりに笑う戸愚呂

 

「ッ……せあああッ!!」

 

余裕など無い美鈴は間を置かず連擊を食らわせる

 

 

ゴウッ!

 

 

振り抜かれた拳が衝撃波を伴いながら美鈴の胸元を掠める

 

「そうだ……一瞬たりとも気を抜くな、負けたくないのならな」

 

「~~ッ!ハァッ!!」

 

ニヤリと笑う戸愚呂へ側頭部へのハイキック

 

「ハアアアアアッ!!」

 

四肢を駆使した打撃の弾幕

 

「……」

 

何の駆け引きもなく繰り出された拳

 

(……!)

 

体に染み付いた技術が逸らそうと体を動かす

 

「!?動かな……」

 

しかし、拳を逸らす事は出来なかった

 

バキャアッ!

 

ボールの様に美鈴は飛んで行くが床に手を擦らせ踏み止まる

 

「ッ……」

 

口から流れる血を拭いながら戸愚呂を睨む

 

「意外と言った顔だな、なに……簡単な理由だよ、俺の力が技を越えている、それだけだ」

 

「越えている……?冗談を!!」

 

戸愚呂が詰め寄り剛柔が交わる

 

「うあっ!?」

 

力を利用した投げを繰り出したが押し勝ったのは戸愚呂、掴む手を力のみで弾き飛ばした

 

「技を越えた純粋な力……それがパワーだ!」

 

伸ばされた手が美鈴を掴む

 

「認めない!!」

 

その前に黄金の闘気を集約させた肘打ちが手を弾き飛ばす

 

「武とは力無き者の希望!貴方の様な者に負けない為に武とは在るんですッ!!」

 

聖光気を打撃部位に最大まで集約させた極攻

 

「力に負けて……なるものかァ!!」

 

それは戸愚呂の鋼鉄の様な体を傷つけ圧縮された血を霧の様に吹き出させる

 

「……ふむ」

 

打たれるままの戸愚呂、ダメージなど気にならず美鈴を見つめている

 

 

ガギンッ!

 

 

防ぐために動いた左手を打った美鈴の拳に今までの感触とは全く違う何か堅い物に触れたと気付いた

 

(!?……闘気の塊?)

 

下がって戸愚呂を見ると戸愚呂の両手に聖光気が集められ形を作っていた

 

「気鋼闘衣……高めた気は物質となり至高の武器にも防具にもなる、俺は防御があまり好きじゃなくてね、こればかり使っている」

 

拳に纏う黄金の拳鍔、一般にメリケンサックと呼ばれる武器を戸愚呂は見せつける

 

「やれば出来るのに火が点きはじめるのが随分と遅い……同じ妖怪の俺の経験から見て、今のお前に足りないものがある……危機感だ、少しお気楽が過ぎるんじゃないか?」

 

美鈴の徐々に上がっていく力に煩わしさを感じていた戸愚呂

 

「お前もしかして……」

 

だから問う

 

「まだ自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」

 

死ぬ気になれないのは死ぬ覚悟が無いからじゃないのかと

 

「……ッ!?」

 

威圧を増した戸愚呂に美鈴の表情は歪む

 

ズドッ!

 

「うっ!?あぐっ!!?」

 

出された拳は防御を貫き打ち飛ばす

 

(威力を……殺しきれない……!?)

 

怯む美鈴に戸愚呂は容赦せず追撃する

 

「がっ!?うっ!?がはっ!!?」

 

そう、まだこの時美鈴は覚悟が足らなかった

 

「うっ……あああっ!!?」

 

死闘を予感しながらもどこか弛んでいた

 

「カッ……ハッ……!?」

 

死にはしない、勝てるだろう、負けないだろう……と

 

「ウブッ……ゲェェ……!」

 

それが明日を夢見る美鈴と今しか認めぬ戸愚呂との絶対的な差となっていた

 

「ハッ……ハァ……これで……!!」

 

劣勢を覆すべく美鈴は構えた

 

「構符……「天地魔闘」……!!」

 

己が奥義を

 

「さっきのか……」

 

中断されたが一度身を持って体感した技を前に戸愚呂は何の躊躇無く飛び込んで行く

 

「セアアアアアアアアアッ!!」

 

受けの秘技であるその技は発動した

 

ズンッ!

 

戸愚呂の拳を引き上げた剛脚が止める

 

「……!」

 

刹那に続くは発生させた弾幕

 

 

「渇ッ!!」

 

 

それは気合いだけで消え去った

 

「……!!」

 

無駄に終わったと知った美鈴は間髪入れず三擊の最後を放とうと飛び込む

 

「軽い……ねェ!」

 

アッパーが美鈴を打ち上げた

 

(技が……通じない……)

 

宙を舞う最中、美鈴に去来していた思いは怒りや悔しさではなく

 

(また……)

 

だった

 

(嫌になりますよね……武を嘲笑う様な力……)

 

戸愚呂は先程、技を越えた力に意外な顔と言ったが真実はそうではない

 

技が通じない相手、それを美鈴は15年前に経験している

 

そう、破壊神との戦いで……

 

だからあの時は意外ではなく寧ろ否定したかったのだ

 

妖生の殆どを費やした今までを力が凌駕するのを認めたくなかったから

 

武は無力ではないと証明したかったのだ

 

(……勝てない)

 

床に落ちた美鈴は倒れたまま悟る

 

「お前は想像していなかったんじゃないかね?自分が負けてしまった時の事を……?」

 

戸愚呂は語りかける

 

「俺は地上へ向かいお前の仲間達を殺して回るだろう、お前が敵わなかったんだ、死体の山が出来るだろうねェ」

 

「……!」

 

美鈴の体に力が入る

 

「さすがにバーンや頂点なんかには敵わんかもしれんがそれでも誰かが死ぬのは確実だ、居るとすればお前の姉弟、友人、果ては見知らぬ他人すらな……お前が負けてしまったばかりに!」

 

「……させるものか!」

 

立ち上がった美鈴が放った拳を戸愚呂は受け止める

 

「ぬぅ……ムンッ!」

 

更に増した力に手の骨が折れる、だがそれも飲み込み殴り飛ばす

 

「ようやく危機感が出てきた様だな……!それが100%の限界かね?まだ足りんねェ!」

 

戸愚呂の怒鳴り

 

「ツアアアアアアアーーーッ!!」

 

渾身を込めた拳を打ち込んだ

 

 

ズドウッ!

 

 

間違いなく最高の一撃、全霊が籠った今日最大の一撃

 

「ハァー……ハァー……!」

 

息も絶え絶えの美鈴がゆっくりと上を見上げる

 

「……終わりかね?」

 

無表情の戸愚呂が呟いた

 

「もういい……それでは誰も守れない……」

 

「ッッ!?」

 

天地魔闘の構えを取ろうとする美鈴の背後に回り頭に手を乗せる

 

 

「お前は無力だ……」

 

 

グシャ……

 

 

床に叩きつけられ、美鈴は倒れた

 

 

「……あのお前の相方」

 

倒れる美鈴を見ずに戸愚呂は語りかける

 

「……」

 

「アレも武術を心得ているみたいだったな、お前が教えたのか?」

 

「……」

 

「それは何の真似だ?何か意味が有るのかね?自己満足か?それとも哀れみかね?何にしろ無駄な事だ……」

 

「……!」

 

反応を示さなかった美鈴の体が一瞬震えた

 

「体を乗っ取らなければ強くなれない虫けらのクズにはな……」

 

(……ミスト!)

 

美鈴の内に言い表せないものが込み上げてくる

 

「正直見てられん、哀れ過ぎてな……地上に行ったら最初に殺してやろう、兄者に殺されてなければだが……今の俺なら一撃だ、一瞬で済むだろうねェ」

 

その時

 

「……ったな」

 

美鈴の声が戸愚呂に入り顔を向ける

 

「……!!?」

 

戸愚呂の目が見開かれた

 

 

ヒュウ……

 

 

いつの間にか立ち上がっていた美鈴から溢れる不安定な気が不気味な風を巻き上げていたのだ

 

(……寒気!?この俺が……)

 

本能が警鐘を鳴らす

 

「虫けらと……言ったな」

 

悲しげな雰囲気の美鈴が呟き

 

戸愚呂に目を向けた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「暗黒真空拳だと……?」

 

「そうだ、これが私の得た新たな力……恐れおののけ!我が闘気の前に!」

 

聖光気と対をなす黒き暗黒闘気が揺らめく炎の様に燃え上がる

 

「それが……どうしたァ!」

 

手を変化させ文字通りの手刀を作り伸ばして切りかかる兄、もちろん闘気を纏わせており触れればミストにダメージは免れない

 

「……」

 

ガッ!

 

手刀はミストの出した暗黒闘気を集めた掌底に横腹を弾かれ勢いを殺される

 

「ムッ……」

 

感覚を確かめる様に手を見つめるミスト

 

「しくじった、逸らすつもりが弾いてしまったな……美鈴の速さに慣れ過ぎて感覚がおかしい」

 

顔を上げ兄を見つめる

 

「俺が速すぎたか!何が暗黒真空拳だ、大した事はないな寄生虫ヤローが!」

 

愉快そうに笑う兄

 

「違う、貴様が遅過ぎるのだ「元」格闘家よ」

 

ミストは言い放つ

 

「……」

 

感に障ったのか青筋を浮かべて兄は睨む

 

「死ね」

 

全身から触手を大量にミストへ放つ

 

ピシッ……

 

同時に兄の足元に小さな亀裂が入った

 

「……フンッ」

 

鼻を鳴らしたミストは脚を踏み鳴らす

 

「闘魔滅砕陣!!」

 

踏み鳴らした脚から暗黒闘気が蜘蛛の糸の様に一定に広がった

 

「何がしたい!串刺しになるがいい!」

 

目前に迫る触手

 

「かっ……!!?」

 

それは目の前で止まった、同時に兄が苦しみだす

 

「ぐっ……動けない……何を……したっ……!?」

 

「なに、暗黒闘気を大地に流しただけだ……()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「気付いて……いたのか!?」

 

ミストの言葉通り兄は伸ばした体で地中を移動していた、目に付く大量の触手を目眩ましにして

 

「如何なる時も相手から気を逸らすな……美鈴から教わった武の基本だ」

 

触手を前にしても冷静に兄を見ていたミストはそれを読みカウンターで放った闘魔滅砕陣で見事に絡め取ったのだ

 

「この技に触れると暗黒闘気に縛られ身動きは出来ん……更に!」

 

ミストの目が光る

 

「ぐぎゃあああああッ!!?」

 

兄の体が捻れだす

 

「暗黒闘気の力を強めれば苦痛を与える事も出来る……今している様に捻り殺す事も、な」

 

「うぐああああああッ!!?」

 

苦悶の絶叫をあげる

 

「このまま貴様に無限獄を与えるのも可能だが……」

 

フッ……

 

ミストは闘魔滅砕陣を解き兄を自由にする

 

「これは暗黒真空拳に組み入れてはいるがあくまで私が元来持っていた技に過ぎん、貴様を宣言通り粉微塵にするのは暗黒真空拳の真髄だ」

 

「……舐めやがって!」

 

完全にキレた兄は妖力と闘気を全開にし体の全てを操作し造り変える

 

「そうなるのは貴様だ!!」

 

全身からあらゆる武器が触手に繋がれ伸びている、刀や剣、槍にハンマー、斧に弓、そして触手

 

それら全てにA級の妖力で強度と速さを与え暗黒闘気のガス生命体であるミストに有効な闘気を纏わせている

 

まさに動く武器庫

 

兄は本気でミストを殺そうとしているのだ

 

 

「いいだろう……」

 

圧倒的な数の暴力を前に

 

「引導をくれてやる」

 

ミストは静かに言い切った

 

 

「くたばれ寄生虫!!」

 

 

全ての武器が一斉に襲い掛かってくる

 

「……」

 

最初に迫った刀の腹に掌を合わせ後方へ返すと次に来ていた触手を切り飛ばし更に後ろの斧とぶつかり刃を食い込ませ止める

 

側面から来た槍を避けると同時に避けた剣と共に暗黒闘気を纏わせた手刀で両断し頭上のハンマーを逸らし大地に打ち込ませる

 

形成した四肢を駆使して全てを捌いていく

 

「オノレ生意気な……!!」

 

兄も全力を持って攻撃するがミストには通用しない

 

ジリッ……

 

ミストが近付いてくる

 

「なん、だと……!?」

 

それを確認した兄が驚愕を露にする

 

労せず避けるのなら霧になればいい、さすがの自分もそこまでの密度は無いのだから

 

それをせずにわざわざ武術で対抗しあまつさえ詰めてくる

 

「ふざけやがってぇーーッ!!」

 

それがかつて武を鍛練していた兄にはこの上なく腹が立つ

 

「昔ならば敵わなかっただろうな……」

 

更にミストは詰める

 

「改めて武の力を実感する……こんな私でも強者に勝つ事が出来るのだからな、運命だとすら思う……私の幻想郷での生は美鈴と出会う為のものだったのだと」

 

「勝った気でいるんじゃねぇ!!」

 

凄まじい形相で兄は猛攻をかける

 

「シュワルツランツェ!!」

 

魔炎気に変えた暗黒闘気を放ちながら蹴り上げと同時に跳躍し武器を焼き払う

 

「なにぃ!?」

 

「まだ終わりではない」

 

驚く兄に向かって黒い槍の名の示す通りの黒き炎の槍が跳躍の最高点より放たれる

 

「チッ……この程度でやられる俺ではないぞ!」

 

炎を振り払いミストを視認しようと前を見る

 

「……!!?」

 

ミストは目の前に辿り着いていた

 

「チェックメイトだ戸愚呂」

 

「ヤロォォォ……ぐうっ!?」

 

吠える兄の顔が速拳により歪む

 

「それ以上喋るな」

 

「がっうっごおっ!?」

 

次々繰り出される打撃が兄に言葉も行動の余地も与えない

 

「シュワルツパンツァー!」

 

「うがはっ!?」

 

魔炎気を纏う突進が兄を打ち飛ばす

 

「シュワルツフレイム!」

 

「うぎああああっ!!?」

 

飛ばした魔炎気が兄に触れ燃やす

 

「ヒムリッシュ・ゼーレ!!」

 

神々しい魂と名付けられる暗黒闘気の塊が兄を打ちのめす

 

「ぐああぁ……あぐぁぁ……」

 

有効である打撃や炎による攻撃は兄に大ダメージを与え呻かせている

 

「ムッ……」

 

傍に立ったミストは気付いた、兄の傷ついた体が再生されていくのを見た

 

「ヒヒヒ……俺は無限の再生力がある!キヒヒ……俺は死なん!好きなだけやればいいさ……疲れた時がお前の最期だヒャハハハ!!」

 

笑う兄、再生能力の高さに自信が有るのか勝った気でいる

 

「貴様は再生能力が無限なだけだ、そんな牛歩のごとき再生速度で粋がるな……千切れた手を一瞬で再生させるレベルになってから粋がるんだな下衆よ」

 

無表情にそう告げられた兄の頭上に巨大な暗黒闘気の塊が出現した

 

「言った筈だ……粉微塵にすると」

 

「!!?」

 

冷や汗を垂らす兄にミストはかざした手を振り下ろした

 

 

「ヒムリッシュ・アーテム!!」

 

 

暗黒闘気の塊が押し潰し、爆発

 

兄の肉片を飛び散らせたのだった

 

 

 

「……これでは再生も出来まい」

 

暗黒闘気を収めたミストは踵を返し歩いていく

 

「……」

 

兄の肉片を置いて

 

(ヒャハハ……)

 

肉片は内心笑っていた

 

(まだ死んでねぇ!俺のしぶとさを侮ったな馬鹿が!殺してやるぞ!必ず!必ずだ!)

 

兄はまだ生きていたのだ、例え肉片になろうと死なない

 

それが無限の再生力を持つ兄の強みだった

 

(とは言え今すぐに再生は出来ん……時間は掛かるが完全に再生を果たしてからだな、せいぜい勝った気でいるんだなヒヒヒ……)

 

ミストの背を見ながらどう殺してやろうか考えていると不意にミストは立ち止まった

 

「まだ生きているな?そうだろう戸愚呂?」

 

振り向いたミストと兄は目が合った

 

(なっ……!!?)

 

「忘れたか?最初にお前をバラバラにしたのは美鈴の体を借りた私だという事を……この程度で死ぬ筈がないのはわかっていた」

 

(ぐっ……くそがァァァ!!)

 

ミストが脚を踏み鳴らすと暗黒闘気が大地に広がり兄の全てを絡めとる

 

「お前を放っておくわけにはいかん、しかしお前を滅する事も今の私には不可能……そこでだ」

 

暗黒闘気の力を強め肉片の全てに激痛を走らせる

 

(うぎゃああああああああッ!!?)

 

「一生死へ向かっていろ、さらばだ」

 

闘魔滅砕陣を展開したままミストは去っていく

 

(ぐぎがっ……さ、再生出来ない……!?再生した途端に細胞が死んでいく……こ、これでは一生……!!?)

 

暗黒の無限獄に囚われた兄

 

(だ、誰か俺を助けろ……!)

 

誰も気付く事は無い、理念に添わなかった兄を助ける者は居ないのだから

 

(弟よ~~~!!)

 

そして兄は知らない、とうの昔に弟に見限られていた事も……

 

 

「思い知るがいい、己の無力さを……終わり無き終わりの中で……」

 

 

無限の地獄はいつまでも続く

 

 

永遠に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

レミリアの元へ急ぐミスト

 

「勝ったぞ美鈴……お前に教えられた武で……」

 

本来なら勝てなかった

 

素の実力では幻想郷で下位に当たる自分が勝てたのは間違いなく美鈴のお陰

 

(お前に会えて心から良かったと思う……)

 

いつしかミストは美鈴に不思議な感情を持っていた

 

よくはわからないがそれは主であるバーンに持つ物とは違い、盟友である萃香に持つ物とも違う

 

「勝て……美鈴……」

 

黒い霧は大切な者の勝利を祈る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ミストを……!!」

 

不安定な聖光気が美鈴に収束する

 

 

「クズだと言ったな!!」

 

 

ズオッ!!

 

 

爆発する様に美鈴の体から凄まじい聖光気が溢れだす

 

 

「許さない……!!」

 

 

美鈴は普段から怒る事は無い

 

それは彼女の生来の能天気さ故に怒らない

 

例え死ぬ程の痛みを受けたとしても彼女は怒らない

 

仮に仲の良い者や主を貶されても嫌悪こそするが怒らないだろう、誰にも仲良く接するが誰にも一線を引いている、だから怒らない

 

彼女はそういう性を持っている

 

そう……誰も美鈴が激怒したところなど見た事が無かったのだ

 

 

「お前だけは許さない!!」

 

 

怒り

 

それが100%を越えさせた

 

 

「怒りが真の力を引き出したか……良いぞ!ようやくお前は真に俺の敵になれた!!」

 

喜びに戸愚呂は笑う

 

「ソル以来か……この緊迫感!これこそ俺が望む戦い!!」

 

嬉々として戸愚呂は美鈴を殴り飛ばす

 

「立て!そんなに効いていない筈だ!」

 

まるで恋人に会えたかの様に戸愚呂は急かす

 

「……確かに、さっきほど体は痛くありません……悔しいですがね」

 

少し落ち着いたのか立ち上がった美鈴は悲しげに呟く

 

結局は力に頼る事になってしまった事が悔しいのだ

 

「悔しいかね……くくくくくく……はしか、みたいなものだ、超えれば二度と掛からない」

 

戸愚呂は感情高く告げる

 

「お前は俺に限りなく近い力を持つに至った……それはお前が武を捨て怒りのままに力を求めたからだ!」

 

「……違います」

 

否定する美鈴

 

「違わないね!何か一つを極めるという事は他の全てを捨てる事! それが出来なかった半端者だったお前は誰かの為の怒りと理由を付けて武を捨てた事を直視出来ていないだけだ!」

 

「……違う!!」

 

尚も否定する美鈴

 

「それだけの力を持ってまだ認めないのか……甘いねェ!甘い甘い甘い!!」

 

煮え切らない態度に罵声を飛ばすが美鈴は堪えない

 

「私は捨ててない……!武を持って貴方を倒し……証明してみせる!」

 

確固たる意思はブレない

 

「ミストの為に……!!」

 

遥かなる想いが支えていたから

 

「フンッ……出来るかね?お前に……?」

 

戸愚呂が鼻で笑った直後

 

 

ドッ……!

 

 

顔が変形する威力の拳で殴り飛ばされた

 

「ッッ……!?……ルアァッ!」

 

踏み止まった戸愚呂が殴り返す

 

「かっ!?……ゼアアッ!」

 

「ヌッ!?……オオォッ!」

 

互いに一歩も退かずの殴り合い、打たれる度に血が飛散し強固な間を崩壊させていく

 

「あれだけ大口を叩いておいて今使ってるのはなんだ!同じじゃないかね!?」

 

殴られた戸愚呂が殴り返す

 

戸愚呂の目には美鈴が自分と同じ戦い方をしている様に見えるのだ

 

「そう見えるのは貴方が捨てたからだ!」

 

殴り返された美鈴が蹴り返す

 

限界を越えた美鈴ではあったがその実、純粋な力では戸愚呂には及んでいない、聖光気を武器に出来ていない事がそれを表している

 

その差である攻撃力を力を正確に通す武の技で埋め、ダメージを武の体捌きで散らし、流して軽減しようやく互角の殴り合いをしていたのだ

 

知識としてだけ残り、武を捨てた元格闘家の戸愚呂には見切れない技術を駆使し渡り合っているのだ

 

「ハアアアアッ!!」

 

美鈴の連続殴打、ここから様式は変わっていく

 

「ぐっ!?おっ……オオッ!!」

 

合間を縫って殴り返す戸愚呂

 

「ツアアッ!?……アアアアッ!!」

 

「グオオッ!?……ヌンッ!!」

 

手数と一撃

 

美鈴が圧倒的な手数で攻め、戸愚呂が強烈な一撃を返す

 

数十に対し一発

 

対称的な攻め方の二人だが増え方が異なるだけでどちらも激しいダメージが蓄積されているのは間違いない

 

「ゴフッ……!?」

 

「グゥゥ……!?」

 

 

なら軍配が挙がるのは別の所

 

攻守ではなくもっと根源的な数値

 

それだけは決して互角にはならないだろう生命の位

 

それは……

 

 

「か……はっ……」

 

崩れ、膝をついたのは……美鈴

 

「体力が尽きた様だな……」

 

そう、それは体力

 

体を維持する生命力にこそ差が有ったのだ

 

(怒る前に……良いのを貰い過ぎましたね……)

 

「ぐぅ……」

 

前のめりに手を着き痛み過ぎた体を両手で支える

 

「……残念だったな、終わらせてやろう」

 

戸愚呂が右手に力を込めながら歩いてくる

 

(……勝つには……アレしかない、しかし……!この体力では決める前に完全に尽きる……)

 

美鈴にもう打つ手は無いように見えた

 

 

……コンッ……コロコロ……

 

 

(これ……は……)

 

その時、破れた服の隙間から小さな木の実が落ち、転がった

 

(ルナちゃんが……くれた……)

 

涙のどんぐり

 

食べれば雀の涙ほど体力が回復する薬草以下の最底辺の回復道具

 

ルナから貰い、取っておいた見舞いの品

 

(フフッ……!それを捨てるなんてとんでもない!……食べずに持ってて良かった……やっぱり絆って……最高ですね……!)

 

微笑んだ美鈴は立ち上がり、告げる

 

「最後の勝負をしましょう」

 

「……自棄ではないな、良い目だ……そんな目をして挑んできた奴の屍を乗り越えて俺は勝って来た……そんな時は相手がどんなに弱くても全力を出したよ」

 

覚悟を見た戸愚呂も応えた

 

「ヌゥゥゥゥゥ……!オオオオオオオオッ!!」

 

筋肉が更に変異し装甲の様に膨れあがる

 

 

「フルパワー!100%中の100%!!」

 

 

完全に人間を止めた男の覚醒した姿はまさに異形を越えた異形、元格闘家だったからこそ会得出来た聖光気を更に高め突撃する

 

 

「……アアアアアアアアアッ!!」

 

 

美鈴も雄叫びをあげ残るありったけで迎え打つ

 

 

「ヌオオオオオォ--ッ!!」

 

受ければ確実に死は免れないまさに必死の剛撃

 

人であった頃に捧げていた武を捨てた鬼の拳

 

そして友や仲間、更には兄弟や恋人……それら全ての繋がりすら捨てた孤高の男が見せるかつてない極めた力

 

 

「フゥゥゥ……!!」

 

大きく息吹を吐き、僅かを越えた粆の見切りでそれを回避するは誓いし不敗の武

 

しがみついてでも守り、捨てなかったからこそ至れた力に信じた武を乗せ最も華麗に死と踊る

 

自分の為ではなく、ただ……同じ場所で同じ時を過ごし、同じものを選び高め、そして不滅の絆を育て合った……

 

(必ず勝ちます……ミスト……!!)

 

心から大切と思う者の誇りと約束の為に!!

 

 

「~~~~ッッ!?」

 

触れれば死

 

極限状態の中、飽き果てるまでに続けられる刹那の攻防

 

「それでこそだねェ紅美鈴!だが……!!」

 

戸愚呂の顔に笑みが見え美鈴は気付く

 

(動きを読まれ……!?)

 

何十と成功させた回避、それは美鈴の命を繋ぐ行為であったが同時に戸愚呂に動きを読ませる事に繋がっていた

 

「期待には一歩足りなかったか……惜しかったねェ」

 

終の一撃が放たれた

 

「……」

 

美鈴は目を閉じ、構えを解く

 

「その潔よさに敬意を評し……楽に送ってやろう」

 

拳が命中する……

 

(……我が心、明鏡止水……)

 

その瞬間!

 

(されど……この拳は烈火の如く!)

 

口内に潜めていた涙のどんぐりを飲み込み

 

美鈴は最終奥義を使用した

 

 

「紅符「天地魔闘」!!」

 

 

心に構える無構の武神技

 

受け継ぎ、昇華させた天地魔闘を越えた天地魔闘

 

己が武の極至を持って最後は飾られる

 

 

「ゼアアアアアアアーーーッ!!」

 

 

彩光蓮華掌

 

回避していた間に最大限まで凝縮された力から繰り出された掌底は戸愚呂の腕を弾くに止まらず180度にへし折る威力

 

 

「地龍……天龍……!!」

 

 

地龍天龍脚

 

無防備な状態の戸愚呂へ放った第二の矢、聖光気を集中させた襲蹴が腹に炸裂し血反吐を流しながら戸愚呂を浮かばせる

 

しかし体力が尽きかけた美鈴の顔も苦しく歪んでいる

 

 

「ハアアアアアアッ!!」

 

 

最後を決めるべく美鈴は力を全て右手に集めた、黄金の気の全てが集約されたその右手は神々しく光輝いている

 

 

「闘魔……最終掌ォォォ!!」

 

 

決め手に選ばれた技は美鈴の技ではなかった

 

それはミストの奥義とも言える技、闘魔最終掌

 

侮辱された事が許せなかったからか無意識にそれを模倣していた

 

「これでぇ……決まりだぁーー!!」

 

大切な者と共に飛び込んだ

 

 

「……ルアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

咆哮をあげた戸愚呂が即座に折れた腕を治し深く腰を下げ右手を前に伸ばし構えを取る

 

「こい……!!」

 

受ける気だった、美鈴と同じく全霊を以て

 

 

ズドウッ!!

 

 

衝突した力のぶつかりに帝王の間全体にヒビを入れ徐々に崩壊させていく

 

「ぎっぎぎぎ……!!」

 

美鈴の掌底を潰そうと右手に力を込める

 

「!!?」

 

右手が押され始め戸愚呂は左手を手首に添え踏み留まる、完全に防御に回っている

 

「ヌッ……ヌオォッ……オオオオオオオオッ!!」

 

完全に防御に回った事が幸いしたか圧が弱くなっていくのを戸愚呂は感じ美鈴を見る

 

「戸愚呂……」

 

ミストから聞いた名を呼び美鈴は告げた

 

「願いは叶いますよ……」

 

「フッ……そうかね」

 

聞いて戸愚呂は微笑んだ

 

ズンッ!

 

震脚が踏まれ戸愚呂を押す

 

 

「……ハアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

両手を貫いた掌底が戸愚呂を打った……

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

さっきまでが嘘の様に静かになった間の中央

 

「……」

 

「……」

 

そこには胸を打った美鈴に打たれた戸愚呂が覆い被さる様に立っていた

 

「いい……死合いだった……こんな力を出せたのは初めてだ……礼を言うぞ……紅美鈴……」

 

戸愚呂の体がヒビを入れ崩壊していく

 

「他の誰かの為に120%の力が出せる……それがお前達の強さ……か……」

 

支えられていた掌底から崩れる様に床に倒れる

 

「……満足ですか?」

 

美鈴は問う

 

「ああ……満足……だねェ……」

 

戸愚呂は笑う

 

「……貴方の拳からは深い後悔と悲しみしか無かった、戦いの愉悦なんてどこにも無かった……ずっと自分を倒してくれる者を望んでいたんでしょう……?非道な振りを徹してまで……そうでしょう?」

 

哀れむ様な顔で問う美鈴に戸愚呂は微笑む

 

「さぁ……ね……お前には関係無い……事だ……ね……ェ……」

 

筋肉が崩壊しきり真っ白になって

 

戸愚呂は息絶えた

 

 

 

「……」

 

戸愚呂の亡骸を見つめた美鈴は目を閉じる

 

「勝ちましたよ……ミスト……」

 

約束を守れた事を報告し微笑む

 

「喜んで……くれる……か……な……」

 

戸愚呂の横に倒れた美鈴はそれきり動く事はなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソルパレス

 

「……」

 

不意にソルは目を閉じ玉座に持たれた

 

(望みを叶えたか戸愚呂……)

 

戦いを見ていた訳ではない

 

死ぬ為に強さを求めた男に敬意を持っていたから知ったのだろう

 

(最後まで付き合う事はなかったなお前は……)

 

酒を掲げ別れの言葉を思う

 

「面白い男であった……さらばだ」

 

別れの酒を飲み干し死を願った妖怪を送った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

""全てが終わった後の遠い一場面……""

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

平行の異世界に有る霊界

 

そこを一人の男が絶壁の一本道を進んでいる

 

「ようやく来たのかい……随分と待たせてくれたじゃないか」

 

道の先に居た薄紅色の髪をした小柄な女性が話しかけた

 

「……」

 

男は女性を知っているが何も返さない

 

「あんたが10年前に魔族と空けた界境トンネルのせいでこっちは大変だったんだよ?人間界に下級妖怪は溢れるわ霊界が異次元砲を使うやらなんやら大混乱だったってのに涼しい顔して腹が立つね」

 

「……その様子じゃ無事に済んだ様だな」

 

ようやく口を開いた男だったがサングラスに隠されて表情は読めない

 

「まぁね……あたしの弟子の三代目霊界探偵が頑張ったからね」

 

「そうか……強いみたいだな」

 

「ああ……魔族だったのが判明してうんと強くなった、今じゃあんたより強いかもね?」

 

「俺より強い奴なんざごまんと居る……俺もその一人に倒された」

 

「……そうかい」

 

男は女性を通り過ぎ道の先へ行く

 

「行くんだね……」

 

男の背に語りかける

 

「大したもんだよ、あんたのバカも……死んでも直りゃしないんだから」

 

男の足が止まる

 

「……すまなかったな、俺の身勝手の尻拭いをさせちまって……」

 

振り向いた男がサングラスを外した

 

「世話ばかり……かけちまったな……」

 

嘘の様に穏やかな顔でそれだけ言うと男はもう振り向かずに進んでいった

 

 

 

行く場所は冥獄界と呼ばれる地獄の中で最も過酷な場所

 

ありとあらゆる苦痛を一万年かけて与え続けられ、それを一万回繰り返す

 

そして待つのは完全な無

 

 

 

そんな所に男は行くのだ

 

かつて格闘家だった頃に、弟子が殺される事を止めれなかった無力な自分が許せなかったから

 

 

 

何もかも失った男に救いは無い

 

ただ……強いて救いがあったとすれば

 

 

 

望みを叶えてくれた幻想の武道家に出会えた事だけ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    ""君の涙も悲しい嘘も僕の心で眠れ……""

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




美鈴・ミスト編……決着!

見てわかる通り暗黒武術会決勝のオマージュが多分に入ってます、ミストは餓狼MOWのカインですね。

美鈴が主役の様な戸愚呂が主役の様な感じもしますが……美鈴が主役です。
やっぱり格闘とか近接戦闘が出来るキャラって書きやすいです、格好良く書けていると願います。

・現在の主な犠牲者(リタイア含む)
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ、にとり、霖之助、アリス、美鈴?

魔王軍 ザングレイ、ダブルドーラ、キルギル、親衛騎団(3/6)、純狐、へカーティア?、バベルボブル、戸愚呂、戸愚呂(兄)?

次は萃香、幽香、妖夢、紫の誰かです、頂点とルナはもう少し先です。

次回も頑張ります!

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