東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第18話 リバースイデオロギー

 

ソルパレス

 

「!……チルノちゃん?」

 

回廊を進んでいた大妖精が一瞬立ち止まった

 

「どうしたの大ちゃん?何かいる?」

 

フランに問われた大妖精は少しだけ考えると頭を振った

 

「ううん、何でもないよフランちゃん!進もっ!」

 

進む6人

 

「……」

 

大妖精は酷く不安だった

 

(もしかしてチルノちゃん……)

 

親友に何かあったのではと

 

月に居ながら地上に居るチルノの事を朧気に感じていた

 

一番長くチルノと一緒に過ごしていた彼女だからこれだけ離れた距離でも予感めいた事を感じたのだ

 

(……大丈夫!)

 

振り払う様にまた頭を振り前を向いた

 

(だってチルノちゃんだもん!チルノちゃんは私より強い幻想郷で最強なんだもん!私が苦戦しちゃうような敵だって簡単に倒していつもみたいに「ブイッ!」ってしてるよ!)

 

一番近くで見ていたから大妖精は信じる、バカだけど本当に強くて、何より友達想いな大親友の事を……

 

 

「何かあるわ」

 

少し進んだ先、輝夜が気付き6人はその前に立った

 

「分かれ道ですね……」

 

今まで一本道を進んでいた6人の前には2つに分かれた通路が聳えていた、同じ造りで特に差異も無い

 

「どうしましょう?」

 

選択の時が来ていた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幻想と可能性の魔王軍の主力達が顔を会わせ、ゼッペルが二天と対峙する数分前

 

 

パキンッ!

 

 

無縁塚のある一帯が巻き添えを食らった敵味方まで凍らせてしまう魔氷の世界となっていた

 

「そーれっ!」

 

グレイツェルの唱えた氷の魔法、ヒャダインと呼ばれる大量の氷柱を弾幕のごとく乱れ撃つ全体魔法がチルノを襲う

 

「氷符「アイシクルフォール」!!」

 

チルノも同じく氷柱の弾幕を張りグレイツェルの弾幕に対抗し相殺する

 

「ふふ~ん……」

 

弾けた氷の力が辺りに飛散し凍気のフィールドは更に温度を下げる

 

(やるわねぇ……私の氷結魔法は簡単に相殺される程温くない、ソル様にだって氷でなら互角を誇る私の得意魔法を普通に相殺なんてね……ガキの見た目で侮ってはダメ、まだ本気じゃないみたいだし……本当に当たりみたい)

 

妖艶な笑顔でチルノを見つめる

 

「くっそー……」

 

対するチルノは焦っていた

 

(すぐ倒せると思ったのにずっと強い……パチュリーと魔理沙くらい?……あたいが本気出せば勝てる……けど皆が……)

 

グレイツェルの実力が思っていたより高く今のままでは長引くと考えていた、本気を出せば勝てるだろうが周囲に影響を与えてしまう強過ぎる力が災いし敵味方入り乱れる混戦での本気が出せない状況だったのだ

 

「ウッフッフ……そぅれ!」

 

またグレイツェルが氷の呪文を放つ

 

「こんのー!」

 

それを再び相殺してみせるチルノ

 

「フフッ……さっきより強くしたのに……楽しくなってきたわぁ!どこまでやれるか見せてちょうだい!」

 

傘を突き出し今までより更に強い氷の魔力を集中させる

 

「これなら~どうかしら?」

 

グレイツェルはマヒャドを唱えた

 

妖魔師団の軍団長であるグレイツェルの十八番である上級魔法、膨大な魔法力から放たれるそのマヒャドは並みの魔法使いが放つ物の数倍の威力を誇る、それをまるでヒャドを撃つ様に軽く放てる事がグレイツェルの実力を物語る

 

「……!」

 

凄まじい冷気がチルノに向かう!

 

 

パキンッ!

 

 

マヒャドはチルノの放った冷気に相殺された

 

「ふんっ!こんなのどうってことないわよ!」

 

視界が開けた場所から汗一つかかずに告げるチルノ、グレイツェルクラスのマヒャドでも難なく対処して見せた

 

「!?」

 

それを見たグレイツェルの笑みが消える

 

「……」

 

真剣な表情でチルノを見据えている

 

(私のマヒャドを軽く相殺するなんて……まだ底が見えない、見せてないのは私もだけど……まさか私より冷気は上?)

 

自分の得意呪文すら軽く退ける実力を目の当たりにしたその顔

 

(慢心していたつもりは無かったけれど……相当侮っていた様ね……)

 

その顔にもはや油断も慢心も無い、ただチルノを強い敵として認識していた

 

「……いいわ」

 

チルノの放った弾幕を魔法で防ぎながらグレイツェルは告げる

 

「私の全てを持って相手をしてあげる」

 

構えた氷絶の大魔女は魔術を使用し2つの分身体を作り出す

 

「増え……!?フランとおんなじ技!?」

 

3人になったグレイツェルに驚くチルノに向かって3人のグレイツェルは同時に呪文を放つ

 

「メラゾストーム!」

 

「マヒャド!」

 

「ベキラゴン!」

 

異なる3属性の魔法がチルノに向かう

 

 

キンッ!

 

 

チルノは冷気をぶつけ押し留め相殺を図る

 

「ぬぎぎ……!?」

 

だが表情が歪んでいる

 

相性が悪い炎と熱が入った事によりマヒャドだけの時より遥かに相殺に負担が掛かっていた

 

「さすがに簡単にはいかないようねぇ」

 

苦戦している事に笑みを漏らす

 

グレイツェルは戦法を変えていた

 

得意とする氷の魔法だけを使用するのではなく己の持つ力の全て、扱える魔法を全て駆使した魔法使いとしての戦い方に

 

「貴方の氷の力は大したものよ、でもね?だったら有利な属性で勝負すれば良いだけの話……だからって別に冷気で負けを認めたわけじゃないのよ?ソル様の為に確実に勝てる方法で戦うってだけ」

 

大魔女として培った多種多様の力で戦う事にしたのだ

 

「ぎぎぎ……!?」

 

「力比べしてみたかったけど悲しいけどこれ戦争なのよね……無視出来ない力を持った妖精……残念だけど倒させてもらうわ」

 

熱の呪文を撃っていた分身が魔力を高める

 

「ギラ~~グレイド!!」

 

一気に肥大化した熱線

 

バーンの居た世界ではベギラゴンは最高位の極大呪文とされている、だがグレイツェルの居た世界ではベギラゴンは究極呪文とされこのギラグレイドはその更に上である最上位呪文として極大の位に位置する至高の呪文となっている

 

その極大閃熱呪文が他の2つの呪文と共にチルノの冷気を押していく

 

「こんの……!?」

 

更に、とは言うが要は注ぐ魔法力を高めたギラ系の呪文、ギラグレイドと名があると言ってもパチュリーやバーンからすれば威力の増したベギラゴンと言える、理屈で言えば同じ呪文でも魔法力によって威力が異なるのだから極端な話バーンがベギラゴンを使えばグレイツェルの世界ではギラグレイドと呼ばれるだろうという事である

 

ただ幻想郷から見ればそうなるというだけで凄まじい熱魔法には変わらない

 

「ぎぎぎ……!?」

 

チルノも踏ん張るが勢いが止まらずどんどん近付いてくる

 

「終わりね最強ちゃん……バイバイ」

 

3つの呪文がチルノに触れる

 

 

「だあーーーーーッ!!」

 

 

キンッ!!

 

 

瞬間の極冷が全ての呪文を凍りつかせた

 

 

「なっ……!?」

 

驚いたのはグレイツェル、防がれるとは思ってもみなかったのだ

 

(熱と炎の呪文とプラス1……有利属性を加えた3つの呪文を凍てつかせる冷気……私だって出来る……試した事ないけどおそらく出来る……それより、相殺の余波に隠れて一瞬だったけど今の冷気……まさか……?)

 

その目は強い警戒心に溢れていた

 

「どうだ!」

 

(ソル様の為に敗北は許されない……)

 

強過ぎるチルノの力が出した結果がグレイツェルに与えたのは魔女が本来持たねばならない冷静な思考だった

 

驕る事なくチルノを観察するその目に同じ属性を使う敵意は勿論、戦いの愉悦、果ては希望的な考えさえ捨て去りソルの為に勝利へ続く道筋を悪魔の知恵で探していた

 

「もう終わり!?大したことないわね!」

 

対称的にチルノに動きは無かった

 

軽い弾幕こそ撃つものの挑発を繰り返し自ら積極的に攻撃をするわけではなくむしろ攻撃をさせたいかの様な振る舞いをしている

 

(あたいにもっと攻撃しなさい!)

 

チルノはグレイツェルの魔力切れを狙っていた

 

攻めに特化しているチルノがそんな事をするのは理由が有る

 

一緒に戦う皆を巻き込みたくないのだ

 

それも戦略的にではなく個人的な想いで

 

だから例えレミリアに皆の了承を得た上で指示されたとしてもチルノが本気を出して攻撃するなんて事は絶対に無い

 

ここにきて強過ぎた力と幼くも優しい心が弊害を持たらしていたのだ

 

「もうおしまいなのオバサン!ビビってんの!全然大したことないわね!」

 

これはレミリアにとっても予想外の事態、いかにまだ幼いと言え、完全に割りきれないとはわかってはいたが勝つ為にはと割りきれると思っていたからこそチルノを幻想郷の守備に抜擢したのだから

 

幻想郷が信じる絆によってそれは采配ミスとなってしまっていた

 

「……ふぅん」

 

そしてそれは魔女の頭脳を働かせる手助けをし

 

「貴方の負けよ……最強ちゃん」

 

勝利への方程式を導き出させてしまっていた

 

「貴方は本当に強い……もしかしたらソル様にすら届く力を秘めているのかもしれない」

 

分身を消し一人に戻ったグレイツェルは妖艶な笑みを向ける

 

「でもそれは冷気ってだけ……貴方それしか出来ないんでしょう?」

 

「それがどうしたー!」

 

チルノはそうだと答えた、そうだから炎でも熱でも良いから撃ってこいと挑発の意味があったがそれはグレイツェルの考えを確信に変えただけだった

 

「結構……では御開きにしましょうか!」

 

グレイツェルは動く

 

魔力を高め術式を組んでいく

 

「……来なさいよ!」

 

また新たな攻撃をしてくるのだと身構えるチルノだがグレイツェルのしようとしている事に警戒はしているが何をしようとしているかまでわからない

 

もし仮にこれがチルノではなくパチュリーか魔理沙なら気付けた、グレイツェルがいったい何をしようとしているのか術式から読み取り妨害もしくは抵抗が出来た

 

だがチルノにはそれは不可能、故にこの結果は当然の事だったのだ……

 

 

「行くわよぉ……?」

 

術式を組み終わったグレイツェルが妖しい笑顔を見せ

 

「ハイッ!」

 

その両手を天高く開き掲げた

 

 

「パンパカパーン!!」

 

 

その瞬間、見えない魔力がチルノへ浸入した

 

「……あんた何やってんの?バカなの?」

 

意味不明な行動に見えたチルノが問う

 

「ウッフッフ……それはどうかしらねぇ?おバカな最強ちゃん?」

 

「は?何言っ……て……!?」

 

チルノに異変が起きる

 

体を謎の光が纏い自由が利かなくなっていく

 

「パンになぁれっ!」

 

 

ポンッ……

 

 

そんな……この場に似つかわしくない軽い音を響かせて

 

「……」

 

チルノはパンに変わってしまった

 

「キャハハハハッ!どうかしらパンになった気分は!初めての体験でしょう!アハハッ!」

 

凍りついた大地に落ち、喋る事も動く事も、ましてや冷気も出せないただのパンになってしまったチルノにグレイツェルは楽しそうに近付いていく

 

「聞こえてるか知らないけど教えてあげる、貴方を見てわかったのよ私は……貴方が冷気だけしか使えない、そう魔術や呪いに全く耐性が無い抵抗の術も知らないただ冷気に尖り過ぎてるだけの不器用な子だってね!」

 

グレイツェルがチルノに行ったのは魔術、相手に直接干渉しパンに変えてしまう恐ろしい魔術を掛けたのだ

 

「ね?バカは貴方だったでしょ?」

 

受け身だった事に加え何より魔術に知識が無いチルノにこれを防ぐのは絶対に不可能な事だった、更に耐性も抵抗の術も無い為にもし先に効果を告げられていたとしても防げない

 

グレイツェルは見事にチルノの弱点を突き無力化に成功したのだ

 

 

「ウフフ……安心して?その状態は長く続かないから……すぐ解けるから心配しないで」

 

パンに着いたグレイツェルは乗っている球体からチルノのパンの前に降り立つ

 

「あ~んでも困ったわねぇ……復活しちゃったらどうしよ~怖いわぁん!」

 

わざとらしく怖がる振りをするグレイツェル

 

「あ!そうだ!」

 

閃いたグレイツェルはそれを実行した

 

「踏んじゃえ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グチャ!

 

 

  

 

 

 

ピチューン……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成す術無く魔女に踏みにじられたチルノは命が消える音を鳴らしながら粒子となり、霧散する

 

「あら消えちゃった……変な死に方ねぇ、いつもなら潰れたまま戻るか体がバラバラなんだけど……妖精だからかしら?まぁ別にいいかしら!」

 

こうして……

 

幻想郷が誇る最強は魔女により敗北を喫したのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館

 

「……なんだと」

 

バーンの顔が露骨に歪んだ

 

(チルノが敗れるだと!?いくらソル側に手練れが居ようとチルノがこうも容易く敗れる事など有り得ぬ!)

 

この敗北は幻想郷にとっても更にバーンにとっては殊更に予想外

 

それだけチルノと言う妖精の強さを知り信頼していたのだ、チルノなら例えゼッペルやヴェルザーを相手にしたとしても簡単に倒される事は無い、それどころか勝つ可能性すら見ている

 

そのチルノが早々に敗北した事がバーンに理由を考えらせる

 

(……考えられるのは不意討ちか搦め手、だが余に幾度となく不意討ちを食らい身に染みたあのチルノが不意討ちでやられるとは考え難い、高いのは後者か……)

 

(冷気以外に特筆すべき点が無いチルノは魔術や呪い、そう言った搦め手に無防備……チルノの実力に近い魔術士が相手だったならば納得がいく……一芸に特化した故に……)

 

「チルノ……」

 

バーンは急に拳を握り締めた

 

(ぬかった……!その可能性を余は考慮していなければならなかった!妹紅にやった御守りのような物を持たせていればこんな事にはならなかったと言うのに!?出来る事を出来るだけやるだと……?大事な友すら守れておらぬではないか!!)

 

自身への怒りに身が震える

 

これはバーンの責任ではない、だが……だからこそ悔しいのだ

 

共に戦えないから色々と手を回した、しかし一番大事な者を疎かにしてしまっていた事が許せれない

 

共に戦えないから余計に……

 

 

(……チルノの復帰は……無理か、定められた復活を持つ妖精は生と死の理の中庸に立つ妖の精、言わば仮死状態にある死んでいながら生きている妖精にザオリクだろうと効果は無い、復活まで1日……諦めるしかあるまい)

 

もはやチルノの事を考えても仕方がないバーンは気を静め再び瞑想に入る

 

(チルノの穴から崩されると思ったが戦況はまだ持っている……誰かが綻びを埋めているのか、レミリアか?……むぅ!?これは……常闇ノ皇!?デミーラの仕業か!……フンッ、奴を連れてくるとはやってくれるな天魔王……)

 

状況は悪くなったが良くもなっていた

 

オルゴ・デミーラが代理で行かせた常闇ノ皇が動き出し敵を虐殺し始めたのだ

 

流石は妖怪の王だけありチルノの様に遠慮が無い分凄まじい勢いで綻びかけた形勢を盛り返し更に押し返そうとまでしている

 

(幻想郷が変わらぬ明日を迎える為にはお前達が勝たねばならん……勝つのだ)

 

少しの安堵を得たバーンは既に戦いを始めていた者達の勝利を祈る……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガァンッ!

 

 

拳と拳がぶつかる音が鳴る

 

「……ムンッ!」

 

白蓮は腰を深く落とし真っ直ぐ突いた

 

「……!?」

 

胸に直撃した兵士が地を擦りながら後退する

 

ズドォ!

 

「……ッ!?」

 

突いた腕を戻すより早く兵士の拳が白蓮の横面に触れ打ち飛ばされる

 

「ッ……せああああッ!」

 

「……!!」

 

もう何度目かの乱打戦を繰り広げる白蓮と兵士

 

(くっ……!?)

 

一見互角に見えるが苦しいのは白蓮の方だった

 

(この堅さ……私の攻撃力では厳しい……)

 

白蓮の攻撃は当たっている、当たってはいるのだが致命打どころかダメージすら与えているか怪しい、現に兵士にダメージを与えた感じは無いし動きも鈍らない

 

「うっ!?かっ……!?」

 

逆に兵士の攻撃は白蓮にダメージを与えている、そのどれもが確実なダメージとして蓄積していく、更に生命体ではない兵士と違い白蓮には疲労もある、ダメージと疲労から受ける攻撃が増え消耗し更に増えていく

 

(このままでは……)

 

白蓮の敗北は目前だった

 

「くっうぅ……はぁ……はぁ……」

 

距離を取った白蓮は息を荒げながら疲れもダメージも見えない兵士を見据える

 

(負けるわけにはいかないというのに……しかしどうすれば……どうすればこの黒き闘士に……私の力では緋緋色金並みの堅さは砕けない……)

 

打開策を探すも自分の力では倒すのはどう考えても不可能だった

 

「……!」

 

その時、白蓮に天啓が下りた

 

(これならば緋緋色金を砕く事も可能かもしれません、しかし……それが出来る領域に居るのは魂魄妖夢か紅美鈴くらい、武の下地すら無い私では百に一……いえ、千に一度も出来ないでしょう……勝つのは不可能……)

 

しかしそれが出来る可能性は限りなく低かった

 

「……」

 

白蓮は考える

 

相性が良い者に代わって貰うという選択肢も有った、オリハルコンを砕けるだろう者に助力を願う、近くならレミリア、チルノ、妖夢、ロン、遠くならハドラーと言った様に兵士を倒せる者は確かに居る

 

だが白蓮はその選択肢を最初から捨てていた

 

何故ならその倒せる者達の今がわからないのだから、今自分が相手をしているこの兵士より更に強大な敵と戦っているかもしれない、無尽に感じる敵の数に手一杯かもしれない、更には考えたくないが倒されているかもしれないから白蓮は助けを呼ぶ事を一切考えなかったのだ

 

そして現に誰もが手一杯でありチルノに至っては倒されているのだ

 

「……それしか手がないのなら、この場はあえて不可能に挑戦させていただきましょう」

 

白蓮は覚悟を決める

 

「超人「聖白蓮」!!」

 

肉体強化の魔法を最大まで高め三点に集中させる

 

「ハアアアアアッ!!」

 

右腕と両の足に集中された強化により三点が光を放つ

 

「!?……!!!」

 

それを見た兵士も闘気を高め右腕に一点集中させ光を放つ、オーラを込めた拳

 

応える様に渾身の一撃を放つつもりなのだ

 

「それを出させるまでをどうするか考えてましたが……どうやら私の覚悟が決め手だったようですね」

 

白蓮の覚悟にツキも乗った、白蓮の覚悟が準備を整わせた

 

 

「……いざ!」

 

「……!!」

 

 

二人が大地を蹴り相手に向かい真っ直ぐ飛び込む

 

 

「ぜああああああッ!!」

 

「!!!」

 

 

同時にその拳を放つ

 

 

ズドォ!

 

 

兵士の拳が白蓮の顔を打つ

 

オリハルコン並みの体に闘気を込めた拳の威力は尋常ではない、白蓮の体など一撃で粉砕してしまう

 

「……!」

 

先に直撃させた事実からなのか兵士の表情は喜びに笑っている様に見えた

 

 

ピシッ……

 

 

「残念ですが……」

 

拳で隠れた白蓮の顔が言葉を発した

 

「先に当てたのは……私の方です……!」

 

 

バギィン……!

 

 

白蓮の拳が触れていた兵士の胸から亀裂が広がりバラバラに崩れていく

 

「ハァ……ハァ……まさに……ッ!?……紙一重……」

 

左顔面を赤く腫らしながら白蓮は倒した兵士を見る

 

白蓮が行ったのは相手の力も利用した刹那のカウンター

 

オリハルコンを砕く威力を持たない白蓮が砕くには相手のスピードを利用して破壊力を増す博打をするしかなかったのだ

 

強化を行った自分の身体能力とほぼ互角の兵士のスピードを僅かに上回るその為に両足の強化を高め必殺の一瞬を作り出す小細工まで労して

 

「ハァ……ハ……ァ……」

 

その博打に見事白蓮は勝ったのだ

 

「うっ……」

 

白蓮の体が大きくふらつく

 

(やはり私では……完璧には……無理でしたね……)

 

賭けには勝った、だが薄氷の勝利

 

確かに白蓮の拳は先に兵士を打った、しかし兵士の拳も白蓮を打っていた、白蓮に比べれば浅いが確かにその拳は白蓮を捉えていたのだ

 

この刹那のカウンターを完璧に出来るのは幻想郷では妖夢と美鈴のみ、本来なら武に長く身を置く者にしか出来ない神業なのだ

 

「ぐっ……うぅ……」

 

オリハルコンを更に闘気で高めた必殺の拳、その威力は白蓮よりも遥かに高い、それが浅いとはいえ白蓮が行ったカウンターと同じ事をしたのだ、赤黒く腫れる左顔面がそれを物語る

 

(このままでは満足に動く事もままなりません……近くの医療部隊に回復を……)

 

勝利した白蓮が体を引き摺る様に歩き始める

 

 

 

 

 

 

ドッ……

 

 

 

 

 

 

突如強襲したワイバーンの一撃で白蓮は倒された

 

 

「ちっ……さっきのより強いと確信したが満身創痍だったか、運が無い……悪いなお前」

 

 

超竜将べグロムは倒れた白蓮を掴み敵陣の奥へ放り投げる

 

「次だ」

 

新たな獲物を求めガルヴァスが誇る六将最強のドラゴンライダーは戦場を翔んでいく

 

 

 

勝者が勝者のままでいるとは限らない

 

呆気なく勝者が敗者に変わるのは何も珍しくないのだ、これは戦争なのだから

 

幾度となく勝者と敗者は入れ替わり、最後の勝利を得た者達が真の勝者となるのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソルパレス・正門前

 

「状況を知らせい!」

 

挟撃を防ぐべく奮闘する忍と依姫率いる月部隊

 

「30減少!残存310です!」

 

「ぬぅ……」

 

報告に忍の表情が苦く曇る

 

(儂が居っても厳しいか……1000は減らしたが地力の差が強く響いておる、儂ならば全滅出来ようが魔力が有限な以上そう力を振るえん)

 

忍が全力を振るえる時間には限りが有った

 

以前はバーンが傍に居てリンクを切る魔力を供給してくれていたが今回は違う、流石に月まで常時魔力を贈る事はバーンにも不可能だし地上で戦う場合だったとしても居所がバレるし供給を切られる可能性は高い、だから一定の魔力を持たせた状態で忍は居たのだ

 

時間にして6時間、十分な時間だと言えるがバーンにもわからぬ穴が有った

 

忍の本来の力、常闇ノ皇に匹敵する怪異の王としての力が予想外の不干渉を生み全力に近い程多く時間を削る事態を招いてしまっていた

 

(今のままなら後2時間は持つの……全力なら20……いや、15分か……全滅は可能じゃが何が控えているかわからぬ状況で使いきるのは躊躇うのぅ……かといって今の状況で残る2000を相手は際どい、全滅か僅差の勝利、後には続かん……さて困ったのぅ……)

 

周りを見ればやはり誰もが苦しく戦っている、無傷な者など誰も居ない

 

「瀬戸際か……んむ?」

 

忍が苦しい決断をしようとした時、同時に敵陣の遥か後方から異質な力を感じとった

 

(なんじゃ……?何者かが後方から敵を蹴散らしながら真っ直ぐ此方に向かっておる……バーンとは違うが魔族の持つ強い魔力じゃ……味方か?)

 

依姫に確認する様に顔を向けると依姫もわからないと頭を振る

 

「ふぅむ……」

 

こんな事は聞いていない、だが今更第三者が居るとも考えられない忍はこの状況を考える

 

「まっ敵を倒しておるし今は味方と思うかの、もし敵ならその時対処すればいいんじゃし」

 

今はこの場を制する好機だと捉え現状維持で戦いを再開する

 

(此方も気掛かりじゃが……)

 

忍にはもう1つ不安が有った

 

(中にも妙なのが居る……抜かるでないぞ)

 

鋭敏な感覚からパレス内に居る存在を感じ取っていた

 

(いざとなれば……だの)

 

行動の指針を決め怪異の王は刃を振るう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山

 

「天魔!居るか!」

 

ハドラーが叫ぶ

 

「どうしたハドラー殿」

 

天狗を従える妖怪の山の主の天魔がハドラーの傍に降り立つ

 

「お前も気付いているだろうがここは現在敵が少ない」

 

「ああ、機械モンスターの大軍が来たが何故か沈黙を保っている、楽観は出来まいがこの様子が続くならここは今大した脅威ではない」

 

「そうだ、そこでお前に指揮を頼みたい」

 

「それは構わんが……貴殿はどうするのだ?」

 

「オレはいくらか引き連れ他の戦場の援護に向かう、オレの位置がわかる探知魔法球を渡しておく、連絡を受けた早苗も抜け今は手薄だ、何かあれば伝令の鴉天狗を寄越せ、すぐに戻る」

 

「承知した、貴殿の奮戦を祈る」

 

妖怪の山を天魔に預けハドラーは行く

 

(機械モンスター達が居るのはにとりの研究室の辺り、動かない理由は不明だがにとりが何かしたのだろう、オレが介入して不測の事態を起こすよりは確実に援護になる方へ行く)

 

ハドラーがそう動いた事も必然か……

 

(負ける事は許さんぞにとり……!)

 

彼もまた過去から出でる可能性と深い因果を持つ一人

 

意図せずその場所へ近付いていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社

 

「おやおやおや?どうしたのですかなそんな所で這いつくばって……」

 

キルギルが笑っている

 

「うぐっ……!?」

 

正邪が地に伏している

 

「ああこれは失礼、砂が好物とは儂とした事が浅慮でしたね……好きなだけ食べて一緒に噛み締めてください!儂に二度目を挑んだ己の愚かさをね!ヒョッヒョッ!」

 

「ッ……ノヤロー!」

 

口から伝う血を拭いながら正邪は立ち上がる

 

「やるじゃんかよジジィ……」

 

「ヒョヒョッ!厄介な能力さえどうにかすれば貴方程度造作もないんですよ!」

 

キルギルが呪文を正邪目掛け放つ

 

「つあッ!」

 

正邪は能力を使いひっくり返そうとするが呪文は返る事なく向かってくる

 

「くそっ!?……うぐっ!?」

 

避けきれない呪文を身に受け吹き飛ばされる

 

「まだ理解出来ないのですか!能力(それ)は無効化しているのですよ!」

 

諦め悪く試す正邪にキルギルは告げる

 

キルギルは正邪の能力の無効化に成功していた

 

「勝てる自信があったのでしょうがところがどっこい!これが現実ですねぇ!」

 

身を持って正邪の能力を受けていたキルギルはその体験を基に正邪の能力の無効化を成し遂げていた

 

能力自体を封じる事は出来ない、それは正邪に直に干渉しなければならないがそれは正邪自体を無力化しない限り不可能、そこで逆転の発想、キルギルは自分の体に能力の対策を施したのだ

 

それも至極簡単、ひっくり返す能力を受けたら予め自分に掛けた反転の魔術で正常に戻す、当然呪文にも組み入れ反射を防ぐ

 

魔導学士の異名を持つキルギルだからこそ出来る研究者の魔技

 

(全力でひっくり返してみたけど意味無かったな……能力の強さは関係無いって事か、ハッ!こいつは……)

 

倒れる正邪、その顔は何故か笑っていた

 

「楽に死ねると思わないでくださいね?幾度も邪魔をし儂に一瞬でも死を予感させたのですからね……モルモットにしてあらゆる実験を行った末にぶち殺してあげます」

 

狂気の笑みでキルギルが近付く

 

「大ピンチってやつじゃねぇか……」

 

正邪は呟く

 

「よっと!」

 

軽い動作で立ち上がった正邪はキルギルへ向く

 

「昔だったらね」

 

服に着いた汚れを叩きながら言う姿に昔の弱く怯えていた面影は無い

 

「楽しようと思ったけどそう上手くいくわけないよなぁ……まぁでも無効化は予想外だったよ、精々阻害くらいと思ってたから驚き桃の木ってね」

 

能力を無効化された事がまるで大した問題ではないと言う様に語る正邪にキルギルは嘲笑う

 

「くだらないハッタリはやめなさい、貴方の強み……その強さの根源が無効化された今、貴方はそこらの雑魚と大して変わらない小娘妖怪に過ぎないというのに」

 

「おーおー言ってくれるねぇ……」

 

正邪はケラケラ笑っている

 

「じゃ聞くけどさ……」

 

フッ……と笑みが消え失せた正邪がキルギルを睨む

 

 

「お前は私をどれだけ知ってんだよ?」

 

 

ズッ……!

 

 

正邪から高い妖力が溢れだす

 

「なっ……!?こ……れは……」

 

感じる力の高さにキルギルは驚愕する

 

「前に言ったよな?100と15年鍛えたゲスロリの力を思い知れって?私だって鍛えてたんだよ……他が凄過ぎて目立たないけどね」

 

計算外だとキルギルは焦る

 

(くっ……純狐にもっと詳しく聞いていれば良かった!?想定外ですこの力……他の者達に合わせたのが裏目に!?いや……純狐は鬼人正邪の事は何も言わなかった……恨みの相手のみ見ていた純狐、興味が無かったのか単純に知らなかった可能性が高い、おそらく聞いていた所で無駄だったでしょう)

 

事前に知る事の無意味を悟ったキルギルは焦りの色を残しながらも正邪へ杖を向ける

 

「およ?やる気なんだ?意外だね……前みたいに逃げると思ったよ」

 

からかう様に言った正邪の顔は次の瞬間、凶変した

 

「まぁ逃げても捕まえて殺すけどな」

 

正邪はキルギルをかなり危険視している、力もそうだが何よりその小賢しい頭脳を魔王軍の中で一番危ないと見ていた

 

実際に単独行動で博麗神社を落として人質にしようとしていたのだ、元から倒すつもりでいた正邪に僅かな可能性すら消す為に殺意を持たせるには十分過ぎると言える

 

「儂も自分を異端とわかっていますがそれでも魔王軍でしてね……前哨で撤退はしても本番で逃げる程ゲスになったつもりはありません」

 

「あんた案外……私が思うよりゲスじゃないかもしれないね」

 

キルギルの男らしく戦う姿勢を見た正邪は軽く微笑む

 

「言ったでしょうゲスロリの鬼人正邪……儂はゲスではありませんと?」

 

「抜かせゲスジジィ!お前は歴としたゲスだよ!私とおんなじな!」

 

「今まで卑怯な振る舞いをしなかったゲスから程遠い貴方に言われましてもね……」

 

「ケッ!うるせぇよ!」

 

二人の力が高まっていく

 

 

「引導を渡してやるよジジィ!」

 

「叩き返してやりますよ鬼人正邪!」

 

 

天邪鬼と魔導士

 

決着の時が迫っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あるぇ?チルノ関連に文量取られて予定より進んでないぞ?
予定では文VS陸戦騎まで終わらせるつもりだったのに……

白蓮対兵士の決着はご存知原作ヒュンケル対ヒムのラストバトルのオマージュです、と言っても人が違うし一緒になる訳がないので白蓮の薄氷の勝利で終わりました、その後運悪く倒されてしまいましたが……

そして正邪ですが今思うに彼女がある意味一番出世したキャラですね、最初はストーリーに関係無い位置だったのがムンドゥス戦で最後の決め手になったりエスターク軍に潜入したり……似た位置では美鈴ですね、ただの門番だったのが天地魔闘を覚えたりして今では上位勢ですから、戦わせ易いのもあってお気に入りです。

・現在の主な犠牲者
幻想郷 永琳、咲夜、白蓮、チルノ
魔王軍 ザングレイ、ダブルドーラ、大魔王の影2体(親衛騎団・大魔道士、兵士)

最近ぎっくり腰やってしまって辛い、お盆なのに……

・余談(ちょっと考えた使われる事の無いネタ)

チルノパン「残念だったわねオバサン!なんか知んないけどこうなっても強さは変わらないみたいね!どうする?あんたの相手は幻想郷一強いパンよ!」

グ「なっ……!!?」

次回も頑張ります!

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