東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第15話 戦場

 

幻想郷の魔界

 

「大丈夫かな……」

 

「勝てるよね?幻想郷は勝てるよね?」

 

避難した住人が居る魔界、戦えない者が集まる一角で口々に不安を出している

 

「やっぱり俺達も行った方が良いんじゃないか?」

 

「微力にもなれないかもしれないけどじっとなんてしてられないぜ……」

 

中には夢幻異変の時に戦った者も居て自分なりに動こうとしている

 

「大丈夫だ!」

 

そんな皆に慧音は言う

 

「皆は強い!必ず勝つさ!」

 

根拠なんて無い

 

皆、敵の数は知っているし夢幻異変の時の敵より強いのも知っている

 

明らかに気休めである事はわかっていた

 

「信じるんだ!皆の勝利を!」

 

それがわからない慧音ではない

 

だからこそ言うのだろう

 

幻想郷の、皆の為に戦う者達を信じて

 

「……わかりました、では……祈ります!幻想郷が明日からも永久に続くと信じて!」

 

皆が手を合わせ祈りを捧ぐ

 

 

 

 

──届かないなら祈りなどしない

 

 

    ただ空しく響くだけだから

 

 

       叶うと信じるから祈るのだ……──

 

 

 

 

誰もが祈る、幻想郷の勝利を信じて

 

「さぁ、一緒に祈ろうルーミア」

 

一緒に避難していた幼い宵闇の妖怪に慧音が顔を向ける

 

「……ルーミア?」

 

様子がおかしい事に気付いた、誰かと話している様に独り言を呟いていたのだ

 

 

「どこぞの魔王がまた何の用よ?」

 

『オホホホホ!くだらないわねぇ!祈って勝てるなら誰も苦労しないわよバカバカしい!木偶人形や雑魚妖怪のする事は理解に苦しむわね!貴方もそう思うでしょう……?常闇ノ皇?』

 

「それは同意するけど……わざわざ話が出来るまで封印を解いてまで何の用かって聞いているのよオカ魔王」

 

『ホホホホッ!遊びのお誘いに来たのよ』

 

「遊び……?」

 

『そう遊び!バーンからの招待なんだけど私はあんまり興味が無くてね、そこで代わりに貴方に行って貰えないか相談に来たわけなのよ』

 

「……今、幻想郷に攻めてきている奴等の相手をしろと?」

 

『さっすが!もう状況を理解したのね!そういう事よ、封印で暇そうな貴方に娯楽を提供しに来たのよ、どうかしら?』

 

「……」

 

皇は暫し考える

 

「……封印は解けるのね?」

 

『ええ勿論!私は世界を征服目前まで封印したくらい封印術に長けているからね!でもさすがにバーンの会心の封印は完全には解けないから残念だけど制限が有るけどね』

 

「そう……」

 

皇は目を閉じ顔を下げる

 

「いいわ……やってあげる」

 

答えると顔を上げた

 

『助かるわぁ!』

 

「……別にお前の頼みを承けたわけじゃないわ、私の餌場を荒らすうつけ共を始末しにいかないとならないだけよ、利が一致しただけ……あまり調子に乗ってると食い殺すぞカマ野郎」

 

『フフフッ……頼もしい限りだ常闇の皇よ……では束の間の自由……精々謳歌してくるがいい』

 

ルーミアの付けているバーンのリボンから魔力が弾ける

 

「……ふん」

 

宙に浮きながら周囲を闇が覆っていく

 

「ルーミア!?何だ!?どうしたんだ!?」

 

慧音が呼び掛けると闇の中で一際映える赤い瞳の視線だけを向けて皇は告げた

 

「安心なさい白沢……少し塵を掃除しに行ってくるだけだから」

 

闇が覆いきるとルーミアの姿をした皇は魔界から消えた

 

「今のは……まさか!?常闇ノ皇か!?」

 

慌てる慧音が魔界の空を見上げる

 

(バーンが何かをやったのか?いったいどうなってるんだ……)

 

把握出来ない事態に憶測でしか考えれない事が不安を掻き立てる

 

(わからない……わからないが、それでも私が出来る事は……)

 

それでも慧音は手を合わせ、捧ぐ

 

それしか出来ないのだから

 

(勝ってくれ……!)

 

勝利への祈りを……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうすぐ着くぜ!後続はどうだぜ!?」

 

包囲網を抜け突撃をする月部隊

 

「何人か捕まったけれどほぼ無傷よ!このまま行きましょう!」

 

近付くにつれ都の姿が鮮明に見えてくる

 

「……!やっぱり有ったか」

 

先頭を飛ぶ魔理沙が呟いた

 

「バーンパレス……」

 

都の中央に浮かぶ大魔宮、大きさ故に遠目からでも視認出来ていたが近付いた事で確実に有ると確認したのだ

 

「そんでその下に有るのが紫が言ってた新しく作ってた前線基地?か……」

 

それ故に決めなければならない事がある

 

「どっちだと思う?」

 

ソルがどちらに居るか?

 

大魔宮の方かソルパレスの方か、どちらに居るかを急ぐこの僅かの間に決めなければならなかったのだ

 

「昨日も話したけど正直どちらも有り得るわね……私は自分の城が有るバーンパレスの方が居ると思うけれど……」

 

片方に決め込んで全員で行くか分けるかを

 

どちらも居る可能性が有るからと敵の動き等で現場判断をする事で終わっていたが今だわかりかねていたのだ

 

「……バーンパレスには居ません」

 

その時、鋭い目をしながら美鈴が言った

 

「どうしてだ?」

 

「バーンパレスには気配が1つしかないからです、更にこの気配の持つ気を私は知っています、そして語りかけています」

 

「なんて言ってんだ?」

 

「……私に来い、と……来ないのならそれでもいい、そう言ってます……行かなければおそらく私達以外を狙うつもりでしょう」

 

「……後ろの奴等の事か」

 

大魔宮からの美鈴にのみ送られる気のメッセージは美鈴のみを呼んでいた

 

断るなら引き連れて来た妖怪達に攻撃を仕掛けると脅しを入れて

 

「チッ……厄介だぜ」

 

「そうね……一気にソルの居る場所に突入する為の突破力とソルを討つまでの時間挟撃をさせない為の500人……残っていた手練れが私達を狙うのじゃなくて500人を狙うのはよろしくないわね、そう持たず全滅して私達も危ういのは明白でしょう」

 

皆の表情が苦くなる

 

「私が行きます」

 

美鈴が言った

 

「……頼むわ」

 

誰も異を唱えずパチュリーが一言だけ言う

 

「任せてください!その代わり皆さんも頼みます!」

 

美鈴は笑顔で言った

 

「ああ!こっちは任せろ!!」

 

ソルに向かう者達が力強く頷く

 

「私に着いてきてください!」

 

「行くわよ皆!」

 

先頭を依姫と輝夜に代えて月の都に突入を開始した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無縁塚

 

「さぁ魔獣兵団!行きなさい!」

 

ゼッペルの指揮のもと参戦した魔獣兵団が戦線に入る

 

「くっ……!?怯むな!押し返せ!」

 

元から居た混成部隊に魔獣兵団、更に分けられた妖魔師団の部隊まで加わり一気に劣勢となっていた

 

(やはりレベル差が響いてる……このままでは崩されるのはすぐね……使わせて貰うわ!魔理沙!)

 

戦況を理解したレミリアは即座に宣言した

 

「氷炎結界呪法!発動!」

 

同時に無縁塚と幻想郷の各地で広範囲の結界が発生した

 

「むっ?なんだ……?」

 

結界の発生にゼッペルは身構えるが自分には何も影響は無い、何の効果があるのかと探っているとすぐにそれはわかった

 

(私以外の動きが鈍い……負荷を掛ける結界か!?)

 

範囲内に居る魔王軍に制限が掛かっているようだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソルパレス

 

「……また懐かしいものを出してきたな」

 

ソルはそれを知っていた

 

(結界呪法……その昔フレイザードが使った搦め手、数と質に対抗するにはこの上ない策と言えるか……余の知っているものとは差異があるがな)

 

氷炎結界呪法

 

氷と炎を使う者の核を使用した禁呪法

 

範囲内の者の力と魔法を封じる強力な結界陣である

 

(……ゼッペルや軍団長前後に効いていないのを見るにある程度までのレベルに限定し力と魔法力の減衰をしているな、その分を範囲に広く取ってある、更に味方に影響が出ない様に識別までしてある、そして発生源は見る限り不明……)

 

思わず感心してしまう出来にソルの口元が緩む

 

(頂点の魔女の仕業か……成程、大した腕だ)

 

映像を見ながら魔王軍の様子を見る

 

(数が有利なのは依然として変わらぬが力関係は互角になったと言ったところか……粘られるやもしれんな)

 

苦戦していたが何も手は打たなかった

 

「思惑に付き合う形になったが寧ろこちらとしても望む事よ……圧勝など軍の誰もが望まぬ事……血肉を削る戦い……これこそが魔王軍の望んだ戦いなのだからな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……?」

 

戦いの最中、幽香が遠目に動く者達に気付いた

 

(馬鹿デカイのが小さいのを引き連れて飛んでる……アレは……ドラゴン?)

 

殴りかかる魔物の首を捕まえ傘で貫きながらもその目は動く者達を見据えている

 

(あっちは……紅魔館の方角……)

 

意図を察した幽香の心が急に沸々と煮える

 

「……少し抜けるわ」

 

さとりに告げると浮き上がる

 

「風見幽香!?どうしたんです!?」

 

ここで抜けられるのはキツイと指揮官のさとりが慌てて問うが幽香は構いないとばかりに言う

 

「トカゲが私の獲物を狙ってるのよ……」

 

そして飛んでいった

 

「……ッ!?急いでレミリア・スカーレットに援軍の要請を!」

 

「風見幽香はどうします!?」

 

「いいのです!彼女は逃げた訳ではないのですから!私達の為に敵の主力を討ちに行ったのです!私達はここを死守するのに全力を尽くすまでです!」

 

幽香と言う支柱が無くなり結界内と言えど押されていく人間の里方面

 

「では私が代わりを務めます!」

 

風の刃が吹き抜けた

 

「射命丸文!?どうして……」

 

「レミリアさんの命で来ました!「各地を飛んで戦況を見て加勢して」と!私が幽香さんの穴埋めをします!」

 

「……助かります!」

 

より一層戦いは激化する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「激しくなってきたな……」

 

敵を仕留めたハドラーがヘルズクローを引き抜く

 

「敵の本命が出た以上……出し惜しみは愚策、オレも本気で相手をしてやろう!」

 

闘気を解放すると兜の表面が砕けマントが吹き飛び筋骨隆々の魔族の肉体が姿を見せた

 

「使わせて貰うぞロン・ベルク!」

 

腰に携えられた大仰な鞘に包まれた剣を掴み構える

 

鎧化(アムド)!!」

 

鞘が分割されハドラーの体に装着されていく

 

最後に残った剣は右腕に向かい柄から伸びた触手の様な物がリストバンドのように巻き付き手首へ完全に固定される

 

「超魔武装形態!!」

 

これこそがロンがハドラーに有った用事の内容

 

幻想郷で生活をする内にロンは腕を鈍らせない為に鎧の魔剣を新たに作っていた、だがアテも無く作った故に使い手が居らず今まで倉庫の中で埃を被っていた不遇の武器

 

そこにハドラーが現れた事でついに日の光を浴びたのだ

 

技量が上がり完成度がより増した鎧の魔剣をハドラーに合わせ調整したハドラーだけの装備になった名工の逸品、その鎧を纏うその姿はまさに超魔生物と化したあの時と同じであった

 

「……どれ」

 

覇者の剣の意匠に作り変えられているも魔剣らしい妖しい光沢を放つ剣を構える

 

「超魔……爆炎覇ァ!!」

 

闘気を込めた一撃は爆発を起こし数十の魔物を粉々に葬り去る

 

「流石の腕前だロン・ベルク……強度的に劣る魔界の金属でオリハルコン製だった覇者の剣に匹敵する強度と切れ味!これならばレベルアップしたオレの力にも耐えられよう!」

 

爆風の中から新たな魔物がハドラーに迫る、強さに臆するどころか寧ろ強敵に挑める喜びで嬉々として飛び込んでくる

 

「オオオオッ!!」

 

迎え撃つ横薙ぎ

 

剣士ではないハドラーの剣は妖夢やロンの様な長い鍛練で培われた技ではなくただ力任せに振るう言わば素人の剣技

 

だが魔族の、それも魔王とまで呼ばれ更なるレベルアップを果たしたハドラーの膂力から繰り出される一閃は技の無さを補って余りある威力を持っていた

 

「蹴散らすぞ!このハドラーの後に続け!!」

 

幻魔司令ハドラー、その強さ今だ上を見続ける

 

 

「おーいキャプテーン!キャプテンハドラー!」

 

「む?早苗か……どうした?」

 

「どうしたっていきなり爆発が起きたから心配になって……」

 

「アレはオレが起こした、心配無い」

 

「そうだったんですかぁ……ってキャプテンその素敵な格好どうしたんですか!?格好良過ぎる!」

 

「似合うか?」

 

「とっても似合いますよ!あ、でも中ボス感が出てますね、ラスボス前の山場だけど惜しくも倒されちゃうみたいな感じがするのはなんでだろ……?」

 

「ぬぐっ……言いよるではないか早苗……!?」

 

『的を得てますね……鼻が垂れてますけど大丈夫ですか?』

 

(煩いぞ聖母竜……)

 

「……さっさと持ち場に戻れ早苗、合図があるまでお前にも頑張って貰わねばならんのだ」

 

「わかってますとも!では戻りまーす!」

 

早苗が戻るのを見送ったハドラー

 

「ふぅ……」

 

小さな溜め息を吐くハドラーに魔物が迫る

 

「ではやるか」

 

気を取り直し魔物を斜めから睨む

 

「いくらでもかかってこい」

 

その様はまさに戦士

 

「ウオオオオオオオオオッ!!」 

 

戦士の誇りを輝かせ、かつての魔王は戦場に生きる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこだ!灼熱と輝く息!!」

 

カメハが連れてきた魔物がマスターの指示のもと奮戦している

 

「補助呪文を絶やすな!隙があったら他の皆にもかけてやれ!……魔法使いが来たぞ!マホトーンで封じて近接組に任せろ!危ない奴はマホカンタで守ってやれ!体力と魔力の管理も忘れるなよ!」

 

モンスターマスターとして鍛え続けた才能は星降りの大会を優勝した後も休む事なく続けられたカメハのマスターとしての力は完璧と言われるまでになっていた

 

400という大勢の魔物でも問題なく操れている

 

「苦手な奴と無理して戦うな!得意な奴と交代して負担を減らせ!絶対に誰も通すな!」

 

魔物もカメハが丹念に育てたので1体1体が呪法抜きにした魔王軍と互角か僅かに上回る力を持っている

 

そして何よりその誰もがカメハを心から信頼していた

 

「いいぞ!流石だ皆!」

 

昔、にとりに教えられたモンスターマスターの本質

 

モンスターとの絆

 

それを忘れなかったカメハはどんなに弱くても誰も差別する事なく大事に育て、また魔物もそんなカメハに応えたくて頑張った

 

一番大事な絆をカメハと魔物達は育てたのだ

 

だからこんなに強い!

 

 

「……!!?」

 

そんな中、カメハは敵の妙な動きを見る

 

(あの後ろの方の奴等……機械系モンスターか?一斉に移動してやがる……)

 

わかりにくいが遠目に魔物の大集団がある方向に向かっているのが見えたのだ

 

「あの方向は……妖怪の山!?」

 

カメハは急に不安に駆られる

 

(あそこには転移装置が……それににとりが……!?)

 

かなりの数が妖怪の山に向かっているのを知り大事な転移装置と何よりにとりの心配が出たのだ

 

「ッ……!?」

 

行きたいがここを任された責任故に行けない葛藤に歯噛む

 

「行ってきて良いわカメハ」

 

そこに幽々子が言った

 

「私もアレは確認した、部隊を送ったからもう転移装置は必要ないかもしれないけど使うかもしれないものね、ついでに好きな子を助けに行ってきなさいな」

 

「……良いのか?」

 

「良いわけじゃないけど仕方ないじゃない、でも悪いのだけどお仲間は置いていってね?彼等に抜けられたら負けちゃうから……お気に入りだけ連れていって」

 

「……わかった!行くぞ!」

 

呼び掛けで3匹の魔物がカメハに寄り添う

 

グランスライム、ヘルゴラゴ、ダークマター

 

夢幻異変の際ににとりと戦った時に居たメタルキング、キングレオ、ゴールデンゴーレム、その昔から連れ添った3匹が配合を重ねられて生まれた今のパーティー

 

一番信頼が強かった3匹の絆を受け継ぐカメハの最高のパーティーを連れてカメハは行く

 

「悪い皆!任せるからな!」

 

残る魔物に指示を残すとカメハはヘルゴラゴに乗って走っていく、そのマスターからの頼みに果たすと誓うべく魔物達は咆哮を持って答え大好きなマスターを送り出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ私達も動くわよ、てゐ!準備は出来てるわね!」

 

「あいあいさー!」

 

永琳率いる医療部隊が動き始める

 

「回復魔法を扱える者はすぐに散って負傷者の回復を!」

 

カメハの連れてきた魔物達が各地に散っていく

 

「では私達も出るわ!回数を間違えないように気を付けて!」

 

続いて永琳達も戦場へ向かい手に持った柄が付いた青い石を振りかざす

 

「悪いけれど……頑張って……!」

 

石から淡い光が傷付いた妖怪達を癒していく

 

これは永琳が作った賢者の石

 

石に込められた癒しの力が広範囲の仲間の傷を癒す事の出来る伝説の道具、医療部隊全員にあたる様に用意されたその数150

 

(……これだけの数でも回復が追い付かない、このままではすぐに壊れて……)

 

そんな物が都合良くそれも150も有る訳がない

 

これは永琳が文献から作った模倣品だった、本来の賢者の石は外的要因で壊されない限り使用回数に制限は無い、だがこの賢者の石には制限がある、その数100回

 

更に回復量も本家より低くベホマラー並の回復量はベホイミ程度になっている

 

天才の永琳なら完全な模倣品を作る事は出来たが無理な理由があったのだ、それは製作時間

 

完全な模倣品を作るには流石の永琳と言えど時間が掛かる、5日では精々2個が限界だったのだ、その2個では回復範囲を大幅に越える戦場の全域を癒すには無理がある

 

そこで無制限と回復量を犠牲にして個数を量産したのだ、これなら多数に持たせれるので散らばって全域をカバー出来るからそうした

 

言うのは簡単だが文献のみから量産品を作るのは並の者では不可能、永琳だからこそ出来た天才の所業なのだ

 

「……ごめんなさい」

 

傷を癒された味方が立ち上がりまた魔物に挑んでいく姿を見て永琳は申し訳なく顔を下げる

 

ある意味、この行為が一番残酷だったから

 

ダメージに呻く者を回復させまた戦えと暗に促し、倒れた者を癒し立ち上がれと告げる、勝てない相手に許す限り何度でも挑めと無言の圧を掛ける

 

医者である永琳には辛い事であった

 

「助かった先生!ありがとう!」

 

戦闘の最中にあった妖怪が永琳に礼を言う

 

「よし……これでまた戦える!行くぜ!」

 

倒れていた妖怪が立ち上がり戦意をみなぎらせ突撃していく

 

「貴方達……」

 

誰も残酷だなど思っていなかった

 

幻想郷の為に戦う統一された意思は勝つ為に前を向いている、悲観などする暇などなく寧ろ喜んでいる程に誰もが前を目指していた

 

求めて止まない明日をこの手に掴むのに全力で進む皆にとって永琳の行為はとても有難い事だったのだ

 

「……!!」

 

意思を知った永琳は回復させながら今や中堅どころまで落ちたがそれでも強力なその力を駆使し敵との戦いに身を投じる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の都

 

「大した被害もなく着けたな」

 

月の部隊は依姫と輝夜の的確な案内によりほぼ無傷でソルパレスの入り口まで辿り着いていた

 

「……行ってきます」

 

美鈴がパレスの上空に鎮座する大魔宮へ建物を伝いに跳び上がっていく

 

「よし……打ち合わせ通りにお前等はここを守っててくれ、私達がソルを倒してくるからよ!」

 

魔理沙の言葉に頷く500の精鋭

 

「行くぜ皆!!」

 

ソルの討伐を任された11人がパレスの入り口へ向かって行こうとした

 

「儂、残る」

 

だがそれは忍の一言で中断される

 

「ここまで来てどうしたんだぜ忍!?ビビったのか!?さっさと行くぞ!」

 

出鼻を挫かれたのもあるが時間との戦いでもある事態に魔理沙の語気が強まる

 

「阿呆……誰に向かって言っとる、儂がバーンと同じソルとやらに怖じ気づくか……儂もここで敵を食い止めると言っておるのじゃよ」

 

「……お前まで要るのかよ?」

 

「ここに来るまでに敵の力量を測ったが儂が思う以上に想像以上じゃった、如何に手練れを集めたと言えこのままでは30分と持つまいよ……じゃから儂が残って時を稼いでやる」

 

「……そんなにか」

 

「少々見積もりが甘かったのぅ……それに儂がソルを討つのはなんか違う気がしておったしの、やるならやはり幻想郷に住むお主達だろうよ」

 

忍は軽くウインクしながら微笑む

 

「まっそんな訳じゃから早く行けい、すぐに追っ手が来てしまうぞ?」

 

「……わかったぜ」

 

忍が残る事を承諾した魔理沙達はパレスへ突入していく

 

「華を持たせるなんぞ儂らしくなかったかのぉ……」

 

苦笑しながら振り返る忍に背後から一人並んだ

 

「良いのではないでしょうか?素敵な事だと思いますよ」

 

「月の嬢ちゃん……」

 

並んだのは依姫、彼女も自分の意思で残ったのだ

 

「私も御一緒します、案内は出来ましたしこの先は私では力不足ですから……」

 

「仕方ない奴じゃの……足を引っ張るでないぞ?」

 

「精一杯頑張ります」

 

二人が笑うと外に居た追っ手が姿を現す

 

「さぁて……やるのはよいがこのままでは厳しいのう、ふむ……ちょっと驚かせてやるか」

 

妖怪達の先頭に立った忍が目を閉じ念じる

 

 

……ブツッ

 

 

何かが切れる音が響き忍の体を魔力が覆う

 

 

ドウッ!

 

 

黒い魔力が弾けるとそこにはドレスを纏い、長い金髪を靡かせた絶世の美女が立っていた

 

キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード

 

忍が全てを発揮出来る吸血鬼としての真の姿

 

またの名を怪異の王

 

「カカッ!懐かしいのぉこの姿、この力!」

 

忍がこの姿になるのは自力では不可能、なるには暦と言う運命共同体の死が必要なのだ

 

だが暦が死ななくともなる方法は有った、バーンがその昔に忍と出会った時に行った方法を使えば良いのだ

 

すべからく準備を怠っていなかったバーンの策により忍は幻想郷の中のみで本気で戦う事が出来る様になっていたのだ

 

「カカカッ……!」

 

忍の手にはいつの間にか一振りの日本刀が握られていた

 

妖刀・心渡

 

怪異なら切るだけで滅する事が出来る必殺刀、常闇の皇に匹敵する力を持ちながら遠慮する気は一切無いらしい

 

 

しかし、その力を見ても魔王軍は全く怯まず更に増す勢いで忍等に迫ってくる

 

「やるかのう……皆の衆よ、抜かるでないぞ!」

 

「ハイッ!綿月依姫、参ります!」

 

遠く離れた月でも戦いは開始された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……侵入されたか」

 

パレス内部と地上の映像を見ながらソルは思案する

 

(もう少し時間が掛かると思ったがすんなり来られたな……ああ、そういえば一人逃げた月人が居たな、それでか……外に大部分を出していたため内部に兵は殆ど居らぬ、大魔宮並の広さを誇るがこれといった罠も無い、進むのは容易であろうな)

 

敵が迫ってきているのにソルに焦りは一切も無い

 

「倒せれば……の話だがな」

 

自身の場所までに居る2体の守護者の存在、それがソルと敵の間に有る

 

「くっくっくっ……」

 

否、それすらも理由では無い

 

仮に2体を突破しようともソルの余裕は崩れないだろう

 

「全てを見た訳ではない、だが強いのは充分に理解出来る……」

 

何故なら……

 

「それでも余には及ばぬな」

 

自身の敗北を微塵にも感じていないのだから……

 

 

「それよりも……」

 

パレス内部の映像から地上の映像に目を移す

 

(少々押され始めたか……慣れぬ呪法に優秀な指揮官による勝てる場所で戦う有能な指示、途切れぬ回復、更に兵士長クラスを優先して倒す者の存在もある……)

 

現在の魔王軍は僅かながら劣勢、幻想郷の策が上手く機能し数の差を感じさせない奮闘を見せている

 

(一応はやるなと言っておくか、一応、な……フンッ、この程度の事、過去に幾度も有った、苦戦にも入らぬわ)

 

それもソルからすれば大した事ではなかった、だが考える

 

(放っておいても各軍団長がどうにかするだろうが戦い易い様にと言ってしまったからな……しかし余り手を入れて大きく覆すのも面白くない、どうするか……)

 

それは如何に道中を楽しむか

 

勝つのがわかっているからどうすれば愉快に結果に向かえるかを考えていたのだ、それに魔王軍の戦いを求める理念を叶えると言う責任もある

 

(……拮抗状態に戻す程度でよかろう、親衛騎団の面子を出すとするか……余の守護は騎士が居れば充分に事足りる)

 

ソルは地上に向かい魔力を飛ばした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無縁塚

 

「儂に何か用ですかな?儂は行く所があるので御遠慮願いたいのですが……」

 

無縁塚の範囲ギリギリの場所でキルギルは幻想郷の妖怪達に囲まれていた

 

「知った事か!恨みは無いが倒させてもらう!」

 

攻撃しようと妖怪達が構える

 

「ヒョーヒョッヒョッ!!」

 

不気味な笑い声をキルギルはあげる

 

「では儂の最高傑作が相手をしましょう」

 

持った杖を振ると空間が捻れ中から腐臭を放つ巨大な黒い魔獣が姿を現した

 

「これはゴリウスの怨霊と言いまして儂の居た世界で魔物化した人間の成れの果てです」

 

説明をした瞬間に妖怪の一人が構うかとゴリウスに殴りかかるがダメージは無く返す拳で殴り飛ばされ一瞬で戦闘不能にされてしまう

 

「話は最後まで聞いた方が良いですよ?このゴリウスにはある改造を施してあります、超魔生物と言うある研究者が造り出した生物学を組み入れているのです」

 

言うやいなやゴリウスが暴れだし妖怪を一蹴する

 

「ゴリウスはゾンビなので本来は超魔生物には出来ない筈でしたが儂の研究成果と合わさる事により可能となりました、更に改良を加え超魔ゾンビを遥かに越えた超魔生物が完成したのです……この超魔ゴリウスは強いですよ?」

 

倒れる妖怪を踏み潰す超魔ゴリウスの力に後ずさる妖怪達

 

「おや……?」

 

その直後、妖怪達が背後から真っ二つ切られた

 

「これは……」

 

血の海に立つ真っ黒なシルエットにキルギルが目を細める

 

「何者かを象ったシャドー系のモンスター……真っ黒でよくわかりませんが鎧と槍を装備した人間に見えますね」

 

キルギルもこの魔物は知らなかった

 

「……ソル様の魔力を感じます、成る程……ソル様が使わした援軍ですか、見たところソル様の記憶から象っていますね、さしずめ「大魔王の影」と言ったところですか」

 

理解したキルギルはゴリウスに暴れろと命令を下しその場から離れ一人向かっていく

 

「……あと2体居ますね、どんな者か気になりますが儂は儂の仕事をしましょうか」

 

博麗神社の方角に向かって……

 

 

 

 

 

 

 

 

ソルの送った残る大魔王の影は狙った者の前に現れる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……!!?」

 

兵士長クラスを狙って倒していた白蓮は悪寒を感じて振り向く

 

「……」

 

そこにはオールバックにした長い髪を生やす真っ黒な大柄の影が立っていた

 

「皆……下がりなさい」

 

一目で力量を察した白蓮が命蓮寺の皆を下がらせソルの記憶から造られた最後の兵士(ポーン)と相対する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バギィ……クロース!」

 

レティの放った風が魔法使いを吹き飛ばす

 

「!!?」

 

突然撃たれた火球を寸でで避けたレティは撃った者を見た

 

「ッ……!?」

 

杖を持ち、頭に鉢巻きをしているであろう黒い青年の姿がそこにはあった

 

(あの魔物からバーンさんと同じ魔力を感じる……ソルが送った刺客ね……出来る……!)

 

すぐに黒い青年の魔法使いとしての力量を察知したレティは直ぐ様メラゾーマを放つが青年も同じくメラゾーマを放ち相殺され火の粉が散る

 

(魔法使いを優先して倒す私の始末が目的……倒してやる!)

 

かつて大魔王すら畏怖させた大魔道士の影が二天の弟子を襲う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

至る場所で戦いの火花が散る

 

 

 

しかしこれでもまだ本格的な戦いとは言えない

 

 

 

何故ならまだ幻想郷と魔王軍の主力達がまだ誰も顔を合わせてはいないのだ

 

 

 

敵の主力を討つ、これもまた勝利に繋がる重要な要素であるのだ……お互いに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズドォッ!!

 

 

 

無縁塚のある一帯が爆発を起こす

 

「これは……」

 

近くで戦っていた神奈子が駆けつけ目に写った異様な光景に顔を歪める

 

(味方すら巻き込んだ大規模攻撃だと……幻想郷の者がする訳が無い、敵の仕業なのは間違いない……だがこんな事をする奴が……?)

 

まだ僅かしか戦っていないが敵がこういった無差別な攻撃をしないのは戦ってわかっていた神奈子は味方ごと攻撃した事実が信じられず攻撃者を探す

 

「おや……?八坂じゃないか、久し振りね……」

 

治まりかけた爆煙の中から声が聞こえる

 

「純狐か……」

 

爆発の中心には月を売り、魔王軍に加担した純狐が居た

 

「……何故味方まで巻き込んだ?」

 

嫌悪の瞳で神奈子は問う

 

「うふふ……別に誰でも良かったのよ……誰でも良いから滅茶苦茶にしてやりたい気分でね……」

 

狂気を感じさせる純狐の瞳に神奈子の顔は更に歪む

 

「お前が月を売ったのね……?」

 

「ええそうよ……フフッ……滅茶苦茶にしてやったわ……直されちゃったけどねぇ」

 

純狐は歪な笑顔を見せる

 

「……今なら、まだ間に合う……!幻想郷を守り、皆に謝罪し償いをすれば許してもらえる様に私から取り次いでやる……!これ以上の罪を重ねるな」

 

「罪……?おかしな事を言うわね八坂……私の復讐は正当な行為……罪と言われる謂われが無いのよ」

 

純粋な恨みにもはや言葉は通じない

 

「目を覚ませ!」

 

それでも神奈子は叫ぶ

 

「目など……覚めているわ……」

 

だが虚しく響くだけ

 

 

「純狐ッ!!」

 

 

「やるのね……貴様から消してあげるわ八坂……純なる恨みに抱かれて消えろ!!」

 

 

最初に出会ったのは幻想の軍神と裏切りの怨神

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ほとんど進んでませんね……だって多いんだもん、かと言ってダイジェストにはしたくない……次も進まないかもしれません。

大した余談ではありませんがカメハのモンスターはイルルカ基準です、3DじゃなくGBの方です。
だからどうした訳でもないですが……

そのうち外伝で意図せず今作の発端を作ったザボエラが幻想郷にやってきた話でも書こうかなと思いましたがやめました。
よくよく考えると誰も得しないよなぁと気づいたのでww

次回も頑張ります!

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