東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第14話 戦いの歌

 

無縁塚

 

「いよいよね……」

 

ガルヴァスから予告があった5日後の朝、幻想郷の面々はここ無縁塚で既に布陣を終えていた

 

「各員準備は?」

 

「滞りなく終えてるわレミリア、月へ向かうメンバーはにとりの研究室にある転移装置の前で待機、地上部隊も不備無しよ」

 

最終的なメンバーは以下の通りになった

 

月(ソルの打倒)

 

フラン、パチュリー、魔理沙、大妖精、輝夜、美鈴、ルナ、青娥(芳香)、依姫、忍の11人と500人

 

地上(幻想郷の防衛及びソル打倒までの時間稼ぎ)

 

レミリア、チルノ、咲夜、ミスト、ウォルター、妖夢、幽々子、ロン、永琳、鈴仙、てゐ、映姫(小町)、神奈子、諏訪子、早苗、にとり、文、天魔、さとり、勇儀、白蓮(命蓮寺一派)、霊夢、靈夢、龍神、紫、正邪、レティ、アリス、霖之助、萃香、幽香、カメハ、ハドラー

 

34名と守り手2500とカメハの連れてきた魔物500を加えた3000人

 

「そう……ありがとう」

 

対するは1万、質と量共に上回る相手にこの戦力差は絶望的とも言える

 

しかし、誰も悲観はしていなかった

 

諦めたのではなく、前を見ているのだ

 

戦わなければ死なのなら戦う、戦って生を掴む為に意思を前に向ける

 

誰もが覚悟を決めた幻想郷は気高く美しく……光って見えた

 

 

「……バーンはどうしてるのかしら?」

 

ただ、幻想郷の中で1人だけ例外が居る

 

かつて大魔王と呼ばれたバーンである、幻想郷に縛られる最も強く最も弱いバーンはこの場には居なかった

 

「紅魔館で居るわ……まぁいくら危ないからと言って出ないなんて事はないわ、咲夜と何かしてたみたいだし隙を見て何かしらするでしょう、自分の事は一番わかってるし無茶はしないでしょうからアテにしてはダメよ」

 

「わかっているわ」

 

だからレミリアは気にしないし誰もアテにしない

 

それだけ余裕が無いと言う事だがそれだけ信用している証拠でもある 

 

「……後は向こう待ちね」

 

敵の攻撃に合わせ月部隊を向かわせる作戦の故に開始を待つレミリア

 

そして思い思いの方法で待つ幻想郷の者達

 

 

 

 

ブゥン……

 

 

 

にとりの研究室前でスキマが広がった

 

「ルナ!!」

 

「慧音さん!!」

 

出てきたのは慧音

 

「どうしたんですかこんな時に?」

 

「こんな時だからこそだ、始まってしまえばもう言えないからな、だから頼んで今来た」

 

寄った瞬間にルナを抱き締める

 

「聞いたぞ……戦うつもりだってな?全く……まだ子どもの癖に……馬鹿者が……」

 

強く抱き締める手は震えていた

 

「お前に何が出来ると言うんだ……子どもは子どもらしくしていたらいいものを……分不相応な真似をして……あいつに似て本当に馬鹿者だお前は……」

 

「慧音さん……」

 

叱責の言葉を借りた心配

 

妹紅と親友だった慧音にとってルナは自分の娘同然、危ない事はして欲しくなどないのは当然だ

 

だがルナがそう決めたのなら止めれないのもまた当然の事なのだ、妹紅の娘であるが故に

 

「本当なら私も付いていってやりたいが……私が行っても邪魔になるだけだ、だから……」

 

そう、だから……

 

「必ず生きて帰ってこい……!」

 

こうして抱き締めてやる事しか出来なかった

 

「慧音さん……お母さんの一番の親友の慧音さん!」

 

ルナも自分が邪魔になるなんて事は承知している、でもやはりやめたくないのだ

 

「絶対に勝って……帰ってきます!!」

 

自分の心に嘘はつけないのだから

 

「……気をつけてな」

 

覚悟を見た慧音は微笑みながらスキマへ戻る途中、輝夜と青娥へ向いた

 

「……輝夜!青娥!」

 

「言われなくとも……よ」

 

「わかってるわぁ!任せといて慧音叔母さん!」

 

「頼む……」

 

頼めるのは二人しか居ない

 

戦術的にルナは重要ではない、実力的に寧ろ捨て石に近い、ルナを気にするほど余裕などないのだ

 

だからこそこの二人に頼む、自分と同じくらいルナに愛情を持ち私情でルナを守ってくれるだろう輝夜と青娥に

 

これが勝つには不要な事なのはわかってはいる、しかし無理なのだ、勝つ為に親友の子を犠牲にするなど……

 

「おら慧音!もう行けって!いつ始まるかわかんねぇんだからよ!」

 

そしてそれは誰もが同じだから咎めない

 

想いと絆で生きる幻想郷は非情にはなれないのだから……

 

「わかった……魔界で皆の勝利を祈っている」

 

嬉しそうに魔界へ戻った慧音を見送り月へ向かうメンバーは少し気が緩み軽い談笑を始める

 

 

 

 

 

その時!

 

 

 

 

 

 

『約束の日は来た……準備は良いか幻想郷よ?』

 

 

 

 

 

 

幻想郷に魔力を使ったガルヴァスの声が響く

 

 

『今すぐに……と言いたいところだがそれではフェアではない……』

 

 

「ちっ……勝手に攻めてきてどの口がほざくのよ……」

 

 

一方的な言葉にレミリアが舌を打つ

 

 

『5分後だ、我等は5分後に攻撃を開始する……それまで今一度戦気を整えていろ』

 

 

魔力は消えた

 

 

「皆!聞いたわね!わざわざ予告してくるなんて調子に乗った奴等の喉笛を引き裂いてやりなさい!!」

 

 

レミリアの激励で幻想郷の士気は最高潮になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館

 

「……いよいよか」

 

図書館の椅子に座るバーンは静かに目を閉じる

 

「頼むぞ……幻想に生きる者達よ……幻想を真の幻想にしてしまわぬ様に……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月の都・ソルパレス

 

「……出陣せよ」

 

ソルの命が下り

 

 

 

 

ヴンッ……!!

 

 

 

 

幻想郷各地に大量の魔王軍が転移させられ大地と空を埋める

 

 

 

 

「かかれぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

迎える様に幻想郷の一斉攻撃が始まり

 

 

 

 

決戦の火蓋は落とされた

 

 

 

 

「チルノ!!」

 

レミリアが叫ぶ

 

「まっかせなさい!!」

 

敵が見える最前線で居たチルノが飛び出し一番敵の数が多く見える無縁塚の方向へ手をかざす

 

 

「凍符「エターナルフォースブリザード」!!」

 

 

一瞬の極冷が広がり前方の全てを命すら凍らせる氷の世界に変えた

 

「あたいサイキョー!!」

 

「よし……!」

 

得意気なチルノと成功に頷くレミリア

 

まずレミリアが打った手は最初も最初、敵が出現して接触していない内に最大火力であるチルノの一撃を食らわせたかったのだ

 

強過ぎて敵味方関係無しに影響を与えてしまうチルノの範囲攻撃は混戦に向かない、だから一気に敵を倒せるその力はまだ誰とも接触していない今しか撃つ機会は無いと考えたから躊躇わず撃ち、成功させた

 

(流石はチルノね、このレベル相手にあの範囲でも問題なく倒せてる……だけど500を越えてない、精々が300、希望以下……やはり敵もやるわね、戦い慣れてる)

 

しかし成果としては芳しくはなかった

 

敵は幻想郷に広く散軍させており一番多い無縁塚方面も様子見なのだろう数が想定より少なかった

 

(わかっていたけど甘くはないわね……!)

 

それはソルの戦略でもあった

 

いくら屈強な軍とは言え絶対では無い、それを充分に理解しているソルは一網打尽になる可能性がある戦略を取らなかったのだ

 

「まだ接触はしてない……チルノ!もう1回……」

 

そしてそれを何度も許す筈も無いのだ

 

 

ヴンッ……!

 

 

新たに転移させられた敵の大軍が今度は友軍のほぼ目の前に現れ直ぐ様突撃してきたのだ

 

「……うりゃああああっ!!」

 

衝突の間際にチルノが冷気を放ち大軍を氷砕するが咄嗟の為に先程より規模が小さい

 

「……迎撃!!」

 

よく機転を利かせてくれたと苦い笑みを見せながらレミリアは命を下す

 

最前線の部隊と敵がぶつかり後続の敵軍が間髪入れず突入し一気に乱戦へとその場は変貌した

 

 

 

「「「ウオオオオオオオオオオッッ!!!」」」

 

 

 

時の声があがる

 

 

 

 

 

──嵐が吹かねば太陽が輝かぬとするなら

         大地を走る無謀なる風となろう

 

  戦いの果てにしか安らぎは来ないものなら

         己の血のたぎりに身を任せよう

 

  それぞれの運命を担い

       幻想達が昂然と顔を上げる……──

 

 

「戦局を見て月部隊を送る指示を出す!耐えて!!」

 

 

そして放つ矢は、標的を射るか、月に散るか……

 

 

 

 

 

 

 

 

ソルパレス

 

「……ほぉ」

 

幻想郷の映像を見るソルが感心した声を出した

 

(強い事などわかっていたが余の想像を遥か越えている……万が一を考え動きを見る為まずは少数を送りこんでみたが見事にやられたな、あくまで個の力だったがそれだけに油断はならん……か)

 

酒を片手に小さく笑う

 

(短期決戦ならば今までで最強……油断大敵からくる誇張と思ったがガルヴァスの言っていた事も満更誇張ではなかったらしいな……余が関わっているからか)

 

背後に居る平行の自分を感じるその顔は愉快気

 

「まぁそれはそれとして……この布陣、この戦法……」

 

幻想郷の動きを睨む

 

(これは……壁か、成る程……時間稼ぎと言う訳か、幻想郷の戦力は多く居て5千から8千と純狐から聞いていたが少な過ぎるな、まぁ雑魚では足止めにもならんのは当然だが2千から3千程度しか居らぬ……アレが本当に壁だとすれば……)

 

その時、ソルに通信が入る

 

「敵か?」

 

「いえ!ソル様の安全を確認する為の通信です!」

 

(……送りこんで来たのではないのか)

 

「健在だ、下がれ」

 

「ハッ!失礼します!」

 

通信が切れるとソルは映像を見る

 

(攻防を同時に行うのかと思ったが違ったか……これはあちらの余の指揮ではない……?ならば誰だ?頂点とやらの一人か?ふんっ……読み辛いな、意図がわからぬ)

 

予測を外されたソルだったが焦りは無い、むしろ楽しそうに笑っていた

 

「くっくっ……駒の数も強さも異なる余にチェスを挑むとは……面白い、指す相手も居なくなって長い……たまには遊戯の様に指揮するのも一興か」

 

魔力を操るとマス目が入った幻想郷と月の地図を出現させ駒が並ぶ

 

「この差は将棋で言えば飛車角香車、4枚落ち、囲碁なら3子と言ったところか……これでは相手がいくら余だろうと敵いはすまい、誰かは知らぬが気の毒な事よ」

 

自軍の駒を1つ動かすとソルは見えぬレミリアへ告げる

 

「まぁ余を楽しませるのだな……足掻きながら精々と……な」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の里方面

 

「うおらあああああッ!!」

 

大地を踏み抜きながら繰り出された勇儀の拳が敵を撃つ

 

「中央が押されています!右翼援護を!空にも注意を!!」

 

さとりの指示のもと白蓮一派、アリス、靈夢、幽香が迎え撃っている

 

「せいッ!」

 

「行って!」

 

白蓮とアリスの力は強く勇儀と同じ多数を相手にしても引けは取っていない

 

「夢符「破邪封魔陣」!!」

 

靈夢の力は更に上を行き破邪の陣を広げて味方を援護しながら敵を倒していく

 

「……鬱陶しい」

 

そして一番目に惹くのは幽香、味方に当たらないよう器用に傘からのビームを撃ちながら敵を易々とくびり殺すその様は流石は花の大妖怪である

 

「……この敵の動きは……」

 

後方で眺めるさとりは違和感を感じる

 

(……ダメ、心を読んでみましたが誰も作戦は知らない……ただ目前の敵と戦う事だけを考えていますね)

 

思案したさとりは新たな指示を出す

 

「敵の数が予想より少ないです、全員少々退き気味で応戦してください、深追いは禁物でお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法の森方面

 

「もう少しもう少し……今!」

 

てゐが合図を出すと向かってきた敵は足元が陥没して出来た巨大な落とし穴に落とされた

 

「悪く思うなよ……こっちは必死なんでね」

 

落ちた敵へ容赦なく弾幕を浴びせる正邪

 

戦いに綺麗も汚いもないのだ

 

勝つ為ならば泥臭い行為だろうと何でもする、綺麗に勝つなど出来る時にすれば良いのだ、手段を選んでられない今は当然の事、差があるのだから尚更

 

だから罠を使う事に躊躇も迷いも無い、負けてしまえば終わりなのだから

 

「次来ます!皆さん準備を!」

 

「任せろ!やるぞ皆!!」

 

レティ、カメハの二人が身構える

 

「……少し相手の動きが気になるわねぇ……押しも退きもせず現状維持でお願いするわぁ」

 

指揮官の幽々子も敵の違和感に気づき指示を出す

 

「悪いけど私は機を見て抜けさせて貰うからそのつもりで頼むよ、敵の動き次第だけど今はまだ居られるから頑張る!」

 

弾幕を放ちながら言った正邪の言葉に皆は頷き臆せず向かってくる敵を迎え撃つ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社方面

 

「せいやぁぁぁぁ!!」

 

迫る敵に鈴仙が腰を深く落とし真っ直ぐ拳を打ち出す

 

「どこからでもかかってきなさい」

 

敵を薙ぎ払い祓い棒を肩に携える霊夢

 

「……霊夢、結界を張って敵の進行を押さえてちょうだい、敵が少な過ぎる、少し様子を見させて」

 

霊夢と共に結界を張る紫は敵の一挙一動に細心の注意を払う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山

 

「ぬぅぅん!ベギラゴン!!」

 

ハドラー放った極大の閃熱が敵を焼き払う

 

「世の為、人の為、妖怪の為!ソルの野望を打ち砕く東風谷早苗!!この御柱の輝きを恐れぬのなら!かかってこいっ!!」

 

早苗の弾幕が空の敵を撃ち落とす

 

「飛んでる敵は天狗部隊に任せてください!」

 

文に指揮された天狗達が戦場を飛び回り激しい空中戦を繰り広げる

 

「撃て撃てー!あ!コラ左舷!弾幕薄いよ!何やってんの!」

 

諏訪子率いる弾幕部隊が火を吹く

 

更には天魔に率いられる妖怪の山の妖怪達が勝手知ったる地の利を活かして有利に戦いを進めている

 

「……待て!」

 

指揮官のハドラーが制止する

 

「敵のレベルに対して手応えが妙に薄い……誘いの可能性がある、無闇に前に出るな!」

 

敵の違和感に気づくも意図を測りかねるハドラーは他と同じく突撃を禁じた

 

「絶対に近寄らせるな!!」

 

そして要である月への突入部隊の存在をギリギリまで知らさせないように部隊の居るにとりの研究室への道を暗に固く守らせる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無縁塚

 

「そぉれいッ!」

 

振りかぶった萃香の腕が打ち込まれると衝撃を走らせながら魔物を貫いていく

 

「ん?……ふ~ん……」

 

しかし衝撃を察知した後続の魔物の多くが防ぐか避けたので萃香の想像の半数以下しか仕留められていなかった

 

「なるほどね、確かに経験値が高いねぇ……なるほどなるほど、こりゃ厄介だ」

 

「しかもまだ本腰ではない様子です……気をつけてください!」

 

萃香・妖夢のレベルでさえ油断ならない敵が犇めく幻想郷で最大の戦場

 

「今だ!押し返せ!!」

 

指揮能力で言えば一番高い「軍神」神奈子を最前線に据え

 

「左翼に火力支援!ロン!行って!魔法使いも出てきたわ!レティ!お願い!」

 

総指揮にレミリアを置いた二重の指揮

 

ここが一番の激戦区になるからと二人の指揮官を置き戦力も集めている、それが幸をそうし現状では押している

 

「……他の場所はどうなってるの!?」

 

伝令役の鴉天狗を見たレミリアが直ぐ様聞く

 

「現在、各場所は拮抗状態を保っています」

 

「流石ね……皆も敵の違和感に気付いて備えてる」

 

「違和感……?」

 

「わからない?敵の数は1万前後、なのに今は私達地上の総数の半分程度しか居ないのよ」

 

「……敵の罠という事ですか?」

 

「違うわね、まぁ無くはないけど……私はこれをただ様子を見てるのだと考えてる、私達を慎重に観察しているのよ」

 

「……嫌らしい敵ですね、圧倒的なのに……」

 

「それも違うわね、嫌らしいのではなく優れている証拠、数はあくまで要素の1つと考えて絶対ではないと知っているのよ……一気に数で勝負する馬鹿なら強くてもチルノが総数の4割は倒してるわ」

 

敵を褒めた事で不安が募る伝令役にレミリアは問う

 

「紅魔館はどうなってるの?」

 

「……紅魔館へ向かう敵は今のところ居ません、さすがに今もバーン様が居るとは思ってないのでは?」

 

「かもしれないわね、もしくは最後にとってあるか……何にしても好都合ね、伝令を頼むわ、紅魔館方面を守っている咲夜、ウォルター、ミストを呼んでちょうだい、ここに厚みを持たせるわ」

 

「わかりました!」

 

「急いでね……おそらくもうすぐだと思うから」

 

「……?わかりました」

 

含んだ言い方に疑問を感じつつも伝令は全速力で紅魔館方面へ飛んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソルパレス

 

「……」

 

開戦から20分程、映像を眺めながらソルは通信係を呼んだ

 

「現状を報告せよ」

 

「はっ!月は異常無し!地上は押されています」

 

「……軍の動きを詳しく教えよ」

 

「各場所で目下戦闘中、斥候部隊の報告によると人里は無人の為放置、更に当初重要と思われていた博麗神社ですが不可侵の聖域が張られており侵入不可能、敵も多くは配置されていなかったので向かう価値無しと判断し各場所へ分散させました」

 

「そうか……わかった」

 

通信を切るとソルは映像を睨む

 

(当然だが重要箇所は手厚く守られておるか、まぁどうでもいいが……)

 

この戦いはただ軍が戦うだけのものなのだ、博麗神社を攻め落とすつもりが無かったソル軍からすれば誤って神社を破壊して大結界を崩壊させた末の勝利など望むはずが無い、だからそう言う意味では好都合だった

 

「……ふむ」

 

ソルは髭を擦る

 

(場は程好く、と言ったところか……頃合いだな)

 

手にしたポーンの駒を置く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヴンッ……!

 

 

 

 

幻想郷に広範囲の歪みと共に大量の敵が出現した

 

 

 

 

 

混成部隊だった一、二陣と違い綺麗に分かれ、統一された軍団

 

 

ゼッペル率いる魔獣兵団

 

テリーしか居ないが青剣士団

 

グレイツェル率いる妖魔師団

 

バベルボブル率いる機甲師団

 

ヴェルザー率いる超竜軍団

 

 

「行くがいいッ!魔王軍の戦士達よ!!」

 

そして五大軍団を統べる魔軍司令ガルヴァスに加えキルギル、戸愚呂兄、純狐、へカーティア

 

更にガルヴァスに付き従うダブルドーラとザングレイ

 

魔王軍の主力の殆どが地上に降り立った

 

 

「では私は無縁塚へ向かいます」

 

魔獣兵団と共にゼッペルは無縁塚へ

 

「俺は魂魄妖夢を探す」

 

異様な剣を背に携えたテリーは混戦の中へ消える

 

「私も兵を適当に遊ばせながら暴れてきましょうか」

 

グレイツェルも戦いの渦中に消える

 

「……!!妖怪の山に強力なマシン反応を見つけた!行くぞ機甲師団!!」

 

バル、ベル、ボル、ブルの4人は妖怪の山へ向かう

 

「フンッ……」

 

ヴェルザーは配下の竜と共に飛び立って行った

 

「ヒョッヒョ……!儂も行きますかね」

 

怪しい笑みを浮かべながらキルギルは博麗神社の方向へ向かって行った

 

「オレも好きにやらせてもらう」

 

兄は一人の魔族を脳裏に宿し消える

 

「……」

 

感情を感じさせない表情の純狐は何も言わず飛び去っていく

 

「あ、純狐ー……行っちゃったか、じゃ私も適当にやろうかな」

 

へカーティアもふよふよと戦いの中へ入って行った

 

 

「ガルヴァス様!」

 

残されたガルヴァスの元にドラゴンから降りた一人の魔族が膝を着く

 

「超竜将べグロム……只今戻りました!」

 

べグロム

 

ガルヴァスの直属の部下である魔族

 

六将最後の一人、かつては六将最弱とまで言われたべグロムだったがドラゴンライダーの才をヴェルザーに見込まれ長い間預けられていたがこの戦いを期に戻ってきたのだ

 

「うむ……六将最強のその力、期待している」

 

今やその力は六将最強であったデスカールを越えるまでになっている

 

「はっ、デスカール、ブレーガン、メネロの分まで戦う事を約束します」

 

「よし……」

 

ガルヴァスは残る三将を見ながら次げる

 

「オレからの命令は1つ、お前達は思うままに好きに戦え……以上だ」

 

それを聞いた三将は一瞬戸惑うも顔を見合せた後、ガルヴァスに笑った

 

「本来なら我等が付き従うべきですが……承知しました、ガルヴァス様がそう言うのであれば我等は命を全うしましょう」

 

「すまんな我儘を言って……かつてない好敵手に会える予感がするのだ、誰にも邪魔はされたくない」

 

「期待しております、我等が主である豪魔将軍の勇猛なる戦い振りを……我等も豪魔将軍の名を辱しめない戦いをする事を誓います」

 

「頼んだぞ……べグロム、ダブルドーラ、ザングレイ」

 

ガルヴァスは一人飛び立っていき、それに呼応して残りの三将も各々に散っていった

 

 

 

ここからが本当の戦い

 

 

魔王軍の真の力達が幻想郷を襲う

 

 

 

 

「規模は!?」

 

「一、二陣合わせた数の倍です!総数は7千程に!!」

 

「来たわね……!」

 

レミリアが苦しくも不適に笑う

 

(接触して範囲攻撃による危険を極力無くした上での投入……間違いなく本命ね、軍団長クラスも確実に居る筈……)

 

こうなるだろう事をレミリアは最初の敵の出現から読んでいた

 

数で劣る幻想郷に弾幕戦はさせられない、弾幕は幻想郷の得意とするところなのだが物量で押しきられるのは目に見えている、だから白兵戦に持ち込みたかった、弾幕戦は不利だと誤認させるその為に切り札とも言えるチルノの力すら晒した

 

腰を据えられて戦われるよりは敵味方入り乱れた混戦で何が起きるかわからない運の要素を組み入れたかったのだ

 

(よし……)

 

どちらにしろ死路には違いないのなら僅かでも可能性に……死中に活を得る為に賭ける

 

「今よ!送って!!」

 

渾身の矢の発射を命じる

 

(後は……信じるだけね……!!)

 

3千対7千

 

絶望しそうな差だが誰もが前へ進む

 

幻想郷の明日を手にする為に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソルパレス

 

「敵が出現しました!」

 

通信主から報告が入るとソルは少々驚いた

 

(ほう、そうか……すぐに送らなかったのはこちらと同じ魂胆だったか、様子見……つまりこちらの本命を探っていた訳か)

 

「……数は?」

 

「500程度です」

 

(成る程……確かにそうならざるをえんか、たった500では兵を送るのに見極めを誤ってはならんのは当然の事だ)

 

幾分楽しそうに口元が緩む

 

(先程まではまだここに8千もの兵が居た、16倍もの差に送れる筈も無い……おそらくは精鋭だろうが500では死ににくるようなものだ……ふっ、この一手には意思を感じるな、自棄にならずあくまで勝つ気でいるのが良くわかる)

 

「如何なさいますかソル様?」

 

「そうだな……」

 

ソルは思案する

 

(ここの守りは3千、充分だと言える、万全を期すなら地上の兵を呼び戻せばよい、戻すのは簡単に出来るが……)

 

駒を取ろうとした手は止まり、代わりに酒を取った

 

「守備隊で処理せよ」

 

戻す事はしなかった

 

(敢えて付き合ってやろう……一息に終わっては面白くないからな、それに……)

 

見えぬ相手を思い微笑む

 

「不様な負け犬に触れた者も気になるのでな……」

 

分かれた可能性を見据えながら……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来るぞ!気を引き締めろ!!」

 

目を逸らしたくなる程の暴の大群が迫る

 

「臆するな!前を向け!恐怖に屈し何もしなければまさに何も始まらん!足掻け!ジタバタでも何でも良い!足掻け!!」

 

指揮官達の激が飛ぶ

 

「今一度問う……!何故お前達は今ここに居る!?」

 

強大な敵を前に

 

 

「幻想郷を守る為だろうが!!」

 

 

心を1つにする為に

 

 

「良いのか!?お前達の楽園が滅んでも!?良いと言うのか!?友や仲間が!愛する者が死んでしまっても良いのかァ!!?」

 

 

全ては勝つ為に

 

 

 

魂の叫びは幻想郷の民を奮起させる

 

 

「行くぞォォォォォォ!!!」

 

 

地上は今、真の地獄と化した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっし、着いたな」

 

ソルの居る月の都から離れた場所

 

「結構離れてるわね、距離の長さは敵の優秀さの証……油断しないでね魔理沙?」

 

「誰に言ってんだぜ紫もやし?お前こそへばったら放ってくから精々頑張れよな」

 

魔女の二天、魔理沙とパチュリー

 

「皆、準備は出来てるわね?」

 

転移させられた勇士達が月の都を見据える

 

「いつでも大丈夫だよー!」

 

「私も大丈夫です!」

 

王の妹・フラン、大いなる妖の精・大妖精

 

「ちょっと小腹が空いちゃった……なんか無いかな……?あ!ルナがくれた涙のどんぐりが有ったんだった!あー……でもやっぱり後に取っときましょっと!」

 

「私にくれー!」

 

「ダメよ芳香!あんなの食べるのはご飯抜きが日常になって草とか食べてる可哀想な子だけよ、貴方が食べてはいけないわぁ」

 

「おー!そっかー!じゃあ要らなーい!」

 

「……ちょっと青娥さん酷くないですか?……事実ですけど」

 

美鈴、芳香、青娥

 

「ルナ、ここからは一瞬の油断も禁物よ、常に神経を張り詰めてなさい……死にたくなければね」

 

「わかってます輝夜さん!」

 

「時間が惜しい、さっさと行くとしよう……月の嬢ちゃん案内しておくれ!」

 

「わかりました、では皆さん私に着いてきてください!」

 

輝夜、ルナ、忍、依姫

 

 

「……待った、お出迎えが来たらしい、早いな」

 

魔理沙が呟くと囲う様に魔物が周囲に現れる

 

「この対応の早さも優秀さの証ね」

 

「ハッ……面倒臭いな、まぁ良いぜ……」

 

魔理沙は八卦炉をソルパレスに向かって突き立てる

 

「行くぜぇぇぇぇぇ!!」

 

撃たれたビームが包囲網に風穴を空けるとそこに向かって全員が駆けた

 

「やぁぁぁぁってやるぜ!!」

 

月の戦いも始まり全てを懸けた幻想郷の戦いは始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まったか……」

 

戦いの開始を感じたバーンが呟く

 

「……」

 

バーンは目を前に向けるとそこには2つの影が椅子に座っていた、闇の影と竜の影、更にその後ろにもう1つ影が控えている

 

「フッ……そんな顔で見るなバーンよ、言われずとも行ってやるとも」

 

「気になる者も居るみたいだしな……ちょうどここへ向かって来ている、ワシが行こう」

 

2つの影が椅子から立ち上がると外へ向かっていく

 

「……様」

 

「どうした?」

 

控えていた影が闇の影へ願い出る

 

「月に行く事をお許しください」

 

「月にだと……?」

 

主である闇の影はすぐに理由を察した

 

「そうか……お前は不死人に借りがあったのだったな」

 

「はい、借りは返さねばなりません……どうか月に行く事をお許しください!」

 

「構わぬ、好きにするがいい……そう長くは居れんのだ、お前の望むままにするとよい」

 

「温情感謝します!」

 

主に頭を下げると影は消えた

 

「無理を言ってすまぬ……」

 

「何、気にするなバーン……暇潰しがてら遊びに興じるだけだ、互いの利が一致しただけなのだから気にせずともいい」

 

既に出ていった竜の影を追いながら闇の影も歩いていく

 

「天魔王もそろそろ動くだろう……まぁ楽しませて貰う、そこで見ていろ」

 

「……頼む」

 

幻想郷もソルもレミリアですらもこの事は知らない

 

バーンだけが知り、バーンだけが打てる至上の一手が静かに放たれ戦場はより混沌へ向かっていく……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




開始です。

さぁここから長い戦いが始まります……あと20話くらい掛かりそう……ww

次回も頑張ります!

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