東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第13話 戻り得ぬ時

 

藤原妹紅

 

人間として生まれた彼女は蓬莱の薬を飲み不老不死の化物となった

 

長い時を生き、数えきれない戦いと死を繰り返した苦難にして永劫続く生であったが7人の終生の友を得、後に神の奇蹟によってまた人間に戻るという数奇な運命を辿った幻想郷で最高と言われる頂点の内の1人

 

 

王の象徴と同じ皇帝の名を冠した不死鳥を異名とする彼女は血の流れの果てに出会った1人の赤子の親となった

 

 

そして月日は流れ……守ると誓った赤子が8歳となった時……その事件は起きた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2年前

 

「おーい起きろ!」

 

迷いの竹林にある小さな家でルナは布団を剥ぎ取られた

 

「あと10分……」

 

「こら!早く起きろ!」

 

「あと30分……」

 

「長くなってるじゃねぇか!いいから起きろ!」

 

体を揺さぶられてようやくルナは起き上がって目を擦りながら起こした相手を見る

 

「朝ごはんにしよう!」

 

母、在りし日の藤原妹紅がそこには居た……

 

 

 

 

 

「早く食べろって、今日は寺子屋に行く日だろ?遅れるぞ?」

 

「うるさいなぁ……間に合うよ」

 

妹紅が話しかけるがルナは機嫌悪そうに答える

 

「最近、呪文の方は上達したか?」

 

「……まぁまぁだよ」

 

「幽香に虐められてないか?」

 

「……大丈夫」

 

「……そんなに怒るなよ」

 

「……怒ってない!」

 

立ち上がったルナは荷物を持つ

 

「ごちそうさま!行ってきます!」

 

「送ってこうか?」

 

「いい!行ってきます!」

 

怒りながら足早に家を出ていった

 

 

「また怒らせちゃったな……」

 

残された妹紅が頬杖を付きながらごはんを食べる

 

「何言っても怒られちゃうな……反抗期ってやつかねぇ……」

 

ルナが相手にしてくれないのが最近の悩み

 

「そのうちなんとかなるか……さぁて、私も修行でもするか」

 

片付けが済ませ外に出ようとする

 

「……ッ!!?」

 

急に頭痛が起き頭を押さえる

 

(まただ……どんどん酷くなってくる……吐き気もたまにするし……近いうちに永琳に見てもらうか)

 

痛みを我慢しながら妹紅は修行の為に出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷いの竹林・道中

 

「あらルナじゃない、おはよう、寺子屋?」

 

「あ、おはようございます輝夜さん!」

 

ルナは輝夜と出くわしていた

 

「あいつは家?」

 

「あーはい……お母さんは家ですよ」

 

「そう……よし!勝負を挑んでくるわ!」

 

「頑張ってください」

 

通り過ぎようとしたルナだったが輝夜に呼び止められた

 

「貴方があいつの何に腹が立ってるのか知らないけど親は大事にしてあげるのよ?」

 

「……わかりました」

 

気の無い返事を返してルナは里へ向かっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人間の里・寺子屋

 

「えー……今日は満月で慧音先生が1000万パワーを誇る悪魔超人と串カツを食べる約束があるだかでお休みのため今日だけ臨時教師を勤める事になった博麗靈夢です、よろしくね」

 

今日はいつもと違う寺子屋の日であった

 

「靈夢さんが!?やった!」

 

幻想郷で一番仲が良い靈夢が教師と知ってルナは上機嫌になる

 

「何を教えてくれるんですかー?」

 

「オホン……!私が教えるのは将来とても重要になる事です!それはズバリ「上司の機嫌を伺う方法と下克上の方法」です!!」

 

目をキラキラさせながら靈夢は熱弁を始める

 

「先生質問でーす!先生の上司って霊夢さんの事ですかー?」

 

「……チガイマス」

 

「下克上するつもりなんですかー?」

 

「……ゲコクジョウッテヨリハアンサツカナ……リュウジンサマトサナエサントキョウリョクシテイッキニ……フヒヒ……!」

 

「先生怖ーい!」

 

「私の事は良いからノート取って!「変に暗さ……下克上に凝るとバーローが来るのでオススメしない」はいここテストに出まーす!」

 

「バーローって誰ー?」

 

「呪われた子です、その子が行く場所では99%誰か死にます、そして必ず解決する犯人泣かせの忌むべき子です」

 

「怖ーい!」

 

「あぁ……なんか霊夢様が居ないから気が抜けます……決めた!自由時間にします!皆好きにしてください!先生は寝るので給食の時に起こしてね、食べたらまた寝るので帰る時間になったらまた起こしてね!」

 

「えー!?ちょっと先生ー!起きてよー!」

 

「起こさないで!死ぬ程疲れてるから!」

 

結局その日はまともな授業にならなかった

 

 

そして寺子屋が終わり帰る時になった

 

 

「お母さーん!」

 

「お疲れ様!楽しかった?」

 

「うん!今日はすっごく楽しかったよ!」

 

「そう、じゃあ帰りましょう」

 

寺子屋に親が迎えに来る、誰も彼もが嬉しそうに親子で家路に向かう黄昏の時

 

「……」

 

それをルナは眺めていた

 

とても羨ましそうな瞳で……

 

「どうしたのルナちゃん?」

 

気付いた靈夢が横に並ぶ

 

「……」

 

ルナは答えない、遠くなっていく親子を見つめているだけで何も返さない

 

「ルナちゃん?」

 

もう一度聞くとルナはポツリと呟いた

 

「良いなぁ……本当のお母さんって……」

 

「え……?ルナちゃん今なんて……」

 

靈夢が問い質そうとした時、二人に声がかけられた

 

「ごめんごめん!輝夜が何度もしつこくてさ!遅れた!」

 

それは妹紅だった、ルナを迎えに来たのだ、息が荒いのは急いだからだろう

 

「妹紅さんお久しぶりです!」

 

「おお靈夢!なんでお前がここに居るんだ?」

 

「今日だけ臨時教師だったんですよ」

 

「そうだったのか……良かったなルナ!楽しかっただろ?」

 

話しかけられたルナに目を向けるととても不機嫌に妹紅を睨んでいた

 

「……迎えに来ないでって言ったのになんで来るの?」

 

ルナは妹紅に迎えに来るのが嫌だった

 

「そう言うなって……良いだろ別に……親なんだからさ」

 

困った顔で妹紅は言うとルナの表情が怒りに激変した

 

「良くない!恥ずかしいからもう来ないで!!」

 

感情をぶつけそのまま走って行ってしまった

 

 

「……やれやれ、恥ずかしいところ見られちゃったな靈夢?」

 

「そんな事ないですよ、むしろ私が恥ずかしいです……昔の私を見てるようで……まだルナちゃんの方がマシですけどね」

 

二人は苦笑する

 

「難しいよ子育てってさ……全然上手くいかない、嫌われてばっかりだ」

 

「そういうお年頃なのもあるかもしれませんけど……ルナちゃんが妹紅さんに辛く当たる理由がなんとなく私はわかりましたよ」

 

「……なんか悪い事してたか?」

 

「そういうんじゃないです、多分……どうしようもない事で悩んでるんだと思います、でもいくら考えてもやっぱりどうしようもないから妹紅さんに辛く当たるしか出来ないんじゃないでしょうか」

 

「……どうすれば良いかな?」

 

妹紅もこの状況を良いとは思っていない、だから実年齢ではかなり年下の靈夢に素直に聞いた

 

「いつも通りで大丈夫ですよ!ルナちゃんが成長したら自然とわかる事ですから、今は変わらない愛情を与えてあげる時ですよ」

 

そんな悩みを払う様に靈夢は笑って見せた

 

「そっか……わかった」

 

間違ってないと言われ妹紅も苦笑混じりの笑顔を見せる

 

「頑張ってくださいね!私は母が居なかったからあんなに落ちぶれちゃいましたけどルナちゃんは妹紅さんが居るんですからね!たくさん愛情をあげてください!」

 

「うん……そうするよ」

 

二人で夕陽を見上げた時だった

 

「イッ……!?ツゥ……」

 

妹紅が頭を押さえた

 

「どうしたんですか?大丈夫ですか?」

 

「ッ……ああ、大丈夫だよ、ちょっと頭痛がするんだ」

 

「頭痛が?いつからですか?」

 

「半年くらい前かな……そのうち治ると思ってたけど最近酷くてさ」

 

「1回永琳さんに見てもらった方が良いですよ?」

 

「うん……そうしようと思ってる、今日は遅いから明日行ってみるよ」

 

「絶対行ってくださいよ?病気だったら危ないですから」

 

「わかってるって」

 

その後、少し話したあとに妹紅も買い物を済ませたあと家に帰っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠亭

 

「あー……今日も勝てなかった……」

 

永琳の手当てを受けている輝夜は愚痴ていた

 

「今日で何連敗でしたっけ?」

 

「1341連敗……今日は勝てそうだったのに……」

 

不貞腐れながら永琳に愚痴る

 

「最近ルナの事で悩んでる妹紅は動きが悪いですからね……そんな妹紅を狙ってでも勝ちたいのですか姫様?」

 

「勝ちたいわけないでしょ……とにかく連敗だけは止めたかったのよ、なんか生き恥積み上げてる気がしてきたからね……」

 

「今更過ぎるでしょう姫様それは……」

 

「やっぱり……?」

 

苦笑する二人

 

「まぁそんな事よりあいつは大変みたいね、今朝ルナと会ったけどあいつの事聞いただけで不機嫌になってたもの」

 

「みたいですね……妹紅は悪くはありませんけど原因になってますから……」

 

「永琳も気付いてるか……やっぱりルナは気付いちゃったのね、自分の事を何となく……だから妹紅にあんな態度を……」

 

二人は肩をすくませながら苦笑し合う

 

「だからと言って私達でどうにかなる事ではありませんけどね」

 

「そうねぇ……成長するに連れて理解して納得する事だからものね、私達はせいぜい間違った方へ行かない様に導くくらいしか出来ないわよね」

 

「大丈夫でしょう、里では不死鳥の雛鳥なんて呼ばれ始めているくらい似てきたらしいですから」

 

「子は黙っても親に似る、だけど親の心を子は知らず擦れ違う……難儀なものよねぇ」

 

「それが親子と言うものですよ姫様」

 

「……なんか知った風な事言ってるけど永琳に子どもなんていないでしょ」

 

「居ますよ現在進行形で」

 

「……それって私の事じゃないでしょうね?」

 

「働かないニートは子どもではないのですか?」

 

「……ニートじゃないもん!無に永久就職してるのよ私は!」

 

「はいはいそうですか」

 

「ムキー!」

 

不貞腐れて診察室のベッドに横たわる輝夜

 

「あー!私もルナみたいな子ども欲しいなぁ……」

 

「その前に殿方を見つけてください、永遠と生きる覚悟を持った人ですが……というかその前に働いてください……絶対拾ってきたりしないでくださいね?養うの私なんですから……と言うより妹紅に対抗心を抱いてるだけでしょう?」

 

「違いますー!ぶぅー!永琳のケチ!」

 

「可愛く頬を膨らましてもダメです」

 

「ぶぅー!ぶぅぶぅー!」

 

「ダメです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷いの竹林・妹紅の家

 

「……」

 

夕食の品を見てルナはうんざりしていた

 

「またこんなのばっかり……」

 

「ごめんなルナ……ちょっと頭が痛くてさ、簡単なのになっちゃった」

 

許してくれと苦笑して誤魔化す妹紅に怒りが溜まる

 

「紅魔館の咲夜さんに習ったら良いのに……他の子のお母さんはいつも凄いごはん作ってるよ」

 

嫌味たらしく聞こえる様に呟く

 

「……ごめんな、料理とか得意じゃなくて……恥ずかしいよな」

 

「ホントだよ……いくら強くても普段がこんなんじゃ恥ずかしいよ」

 

バツが悪そうに謝る妹紅に更に怒りが溜まる

 

「……ねぇ」

 

そんな妹紅にとうとうルナの我慢が限界になった

 

「私のお母さんって……どうしてるの?」

 

「……は?」

 

不意の問いに妹紅に動揺が走る

 

「な、何言ってんだよ……お前のお母さんは私だろ?」

 

「……違う!!」

 

今の反応で確信した

 

「私の本当のお母さんはどうしてるの!!?」

 

自分には本当の母が居るんだという事を……

 

「気付かないと思った!?寺子屋のみんなのお母さんは似てる……本当の親子って感じがする!でも……私だけが違う!」

 

ルナは幻想郷で同じ世代の子と生きる内に気付いてしまっていた

 

みんなは本当の親子に見える、血の繋がりを感じる、だけど自分だけが違う

 

見た目も似てない、血の繋がりなんて微塵も感じない

 

自分だけが全く違う事に

 

「ねぇ……!私の本当のお母さんはどうしてるの!?なんで私に会いに来てくれないの!?」

 

子どもとはそういった事に敏感である

 

妹紅はもう少し成長して器が出来てから話そうと思っていたが先にルナが我慢出来ずに溢れてしまったのだ

 

「……私がお前の母さんだ」

 

だから妹紅は答えなかった、本当の母が死んでいるのもあるがまだ早いと思ったから

 

ルナの心が耐えられないと考えたから真実は言わなかった

 

「嘘だッ!!」

 

だがそれがルナを追い詰める結果になってしまった

 

「もう私わかってるのになんで嘘つくの!?あの指輪は誰のなの!?本当のお母さんのでしょ!!?」

 

感情に任せ叫ぶ

 

「嘘じゃない……」

 

それでも妹紅は言わない

 

「お前の母さんは私だ」

 

血は繋がってなくとも……ルナの母で在りたいと思うから……

 

「……」

 

言葉を詰まらせたルナが妹紅を睨む

 

「もうこの話は終わりだ……さぁ、冷めないうちに食べよう」

 

優しい微笑みを見せたその直後だった

 

「うるさい!!」

 

怒声と同時に振るった手がテーブルの食器を薙ぎ払う

 

「何やってんだ!!」

 

突然の事に妹紅が怒って怒鳴るがルナは止まらない

 

「うるさいうるさいうるさい!!」

 

小さな家に感情の嵐が吹き荒れていた

 

「やめろルナ!」

 

「命令しないで!!」

 

腕を掴んで止めるがルナは暴れるのをやめようとしない

 

「ッ……ルナ!!」

 

バシッ……

 

妹紅の平手がルナを打ち、ルナは止まった

 

「ハァ……片付けるぞ」

 

「……」

 

事情が事情だけに怒るに怒れない妹紅はこれ以上は言わず手を放して散らかった食器を片付け始める

 

「何やってんだルナ……また作るから早く片付けるぞ」

 

俯いたまま動かないルナを見る妹紅

 

「お前なんか……の癖に……」

 

「ん?なんて言ってんだ?」

 

小声で聞き取れなかった妹紅が聞くとルナは涙を流す顔をあげた

 

「お前なんかッ!!」

 

そしてその言葉は出てしまった

 

僅か8歳の子ども故に出てしまった、考えも無しに、それがどれだけ妹紅にとって辛い言葉なのかも知るよしも無く

 

ただそれを言ってしまえるから子どもである証拠とも言える、成長途中であるが故にまだ物事を深く考えられないのは当然の事だ

 

しかし、それは妹紅がルナから一番聞きたくなかった言葉だったのだ……

 

 

「お前なんか他人の癖に!!」 

 

 

今までを否定される言葉だけは……

 

「ッ……!?」

 

妹紅の顔がみるみる悲しみに染まる

 

愛した娘から本心で言われた言葉は母に深く突き刺さる

 

「……あ」

 

ルナはそこでハッとなる

 

妹紅の悲しみ様がとんでもない事を言ってしまったのだと今更ながら気付き罪悪感を感じてしまったのだ

 

「そっか……」

 

妹紅は消え入りそうな声で呟く

 

「お前の母さんには……なれないのか……」

 

ただただ深い悲しみだけが溢れてくる

 

「……ッ!!?」

 

もうどうしていいのかわからなくなったルナは家から飛び出した

 

「あ……ルナッ!」

 

追いかけようと立ち上がる妹紅、ああまで言われて咄嗟に動き出すあたりやはり心配なのだ、どんなに嫌われたって愛した娘なのだから

 

「……ッッ!!?」

 

その時、妹紅は急に頭を押さえてふらついた

 

(また頭痛が……頭が……割れるように痛い……!?)

 

立ってられず倒れる

 

(クソッ……罰か?私がルナの母親になれなかったからローラが怒ってるのか……?)

 

痛みは更に増していく

 

(そうだよな……お前なんて言われて……母親じゃないなんて言われてさ……やっぱり私には無理だったんだよ……)

 

意識が薄れていく

 

(でも……例え母親になれなくても……!ルナ……!私はお前を……!)

 

いつも肌身離さず持っていたバーンがくれた御守りを握り締める

 

(約束……したんだ……絶対に……お前を……)

 

独りの不死鳥の想いが燃える……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

博麗神社

 

「あら?どうしたのルナこんな時間に?」

 

縁側でお茶を飲んでた霊夢がルナを見つけた

 

「……」

 

「ふーん……妹紅と喧嘩して家出してきたってところかしら?」

 

雰囲気で察した霊夢は面白そうに笑っている

 

「親子なんだからたまにはそんな時もあるわよね、良いわ、今日は泊まっていきなさい……靈夢ー!ルナが来たから相手してあげてー!……さっ行ってきなさい」

 

「……ありがとうございます」

 

中へ入っていくルナを見届けると霊夢は少し機嫌良さそうに鼻を鳴らす

 

(そのうち妹紅が迎えに来るでしょ、家出なんて子どもの通過儀礼みたいなもんよ、上手くやってる証拠証拠!)

 

家出の背景を知らない霊夢は気にせずお茶を飲むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急にやって来てどうしたのルナちゃん?」

 

部屋に入れた靈夢だったがルナの様子がいつもと違い深刻そうに見えたので心配で聞いてみる

 

「……喧嘩したんです」

 

「妹紅さんと?」

 

ルナはコクリと頷く

 

「そっかー、喧嘩するなとは言わないけど内容によるよね、何が原因だったの?」

 

「……本当の事を言ってくれなかったからです」

 

「それって……」

 

理由を察した靈夢だがあえて詳しくは触れず黙ってルナの愚痴を聞く

 

「最悪ですよ……料理は全然出来ないし他の子に見られたくないから送り迎えしないでって言ってるのに来るし……本当のお母さんならこんな事にならなかったんだけどなー……」

 

本当の母、それを聞いた瞬間、靈夢の顔が変わった

 

「……ルナちゃん、妹紅さんに何を言ったの?」

 

とても険しい顔をしていたがルナは気付かない

 

「色々言ったけど最後は他人の癖に!って言って飛び出して来ちゃった」

 

そして言った

 

 

パンッ!!

 

 

乾いた音が響く

 

「え……靈夢……さん?」

 

叩かれた頬を押さえたルナが信じられない顔で靈夢を見る

 

「なんて事を言ったんですか!!」

 

靈夢は激怒しルナへ怒鳴る

 

「母親に向かって他人なんて……恥を知りなさい!!」

 

初めて見た靈夢の本気の怒り、いつも優しくて怒った事なんてなかった彼女が怒ったのだ、それは相当の事なんだと思い知らされる

 

「どうしてそんな事が言えるんですか!今まで育ててくれた母親にどうしてそんな事を言うんですか!!」

 

靈夢には我慢出来ない理由があった

 

捨て子だった靈夢は幼い頃に母を事故で無くしている、血の繋がりは無かったが自分を愛してくれた唯一の母

 

もっと一緒に過ごしたかった、親孝行したかった、でも出来なかった……

 

親の大事さをよく知る靈夢だからこそここまで怒るのだ

 

自分の親に他人なんて言ってしまうルナが許せなくて、境遇が似ているから余計に、生きているのだからもっと余計に……

 

「行きますよ!妹紅さんに謝りに!!」

 

ルナを引っ張りながら靈夢は言う

 

「や……ヤダ……」

 

気持ちの整理がついていないルナは抵抗するが靈夢は容赦しない

 

「何が嫌なんですか!貴方の心無い言葉で妹紅さんがどれだけ傷ついたか考えなさい!妹紅さんを母と思うなら来なさい!!」

 

それにルナは押し黙ってしまう、やはり思うところがあるのだろう

 

「……はい……」

 

靈夢に連れられルナは家に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私はここで見てますから行ってきなさい」

 

「……はい」

 

見守られながらルナは家の戸を開ける

 

「……?」

 

そこに広がっていた有り得ない光景に唖然とする

 

散らかした食器がさっきとそのままの状態である、片付けようとしていたのを見たから全く片付いてないのはおかしな事だ

 

「……え?」

 

そして何よりも……

 

「お母さん……?」

 

母が居なかった

 

「も……もしかして寝てるのかな?頭が痛いって言ってたし……」

 

何か言い様の無い不安にかられたルナは願う様に呟きながら家の中を探す

 

だが誰も居ない

 

(私を探しに行ってるんだ……そうだよ!きっとそう!)

 

自分に言い聞かせるルナは床に落ちていたある物を見つける

 

「これ……お母さんの……死ぬまで離さないって言ってた……お母さんの宝物……」

 

バーンの御守りだけがそこには有った

 

「れ、靈夢さん!!?」

 

御守りを持って外に飛び出す

 

「お母さんが!?お母さんが!!?」

 

「どうしたのルナちゃん!?」

 

必死なルナが御守りを見せながら叫ぶ

 

「お母さんが居なくなっちゃった!わたっ……私が!他人なんて言っちゃったから……!お母さんが悲しくなっちゃって消えちゃったぁぁぁぁぁぁ!!」

 

大粒の涙を流しながら靈夢に抱きつく

 

「……それを貸してください」

 

靈夢は御守りを受けとると能力を使う

 

「……大丈夫ですよ」

 

笑顔でルナを落ち着かせる

 

「この御守りからはルナちゃんへの愛が籠ってました、妹紅さんはルナちゃんを捨てたりなんてしてません」

 

自ら持つ想いを感じ取る能力で御守りに籠った想いを知って伝えたのだ

 

「……ホント?」

 

「ええ、本当ですよ!妹紅さんはきっとルナちゃんを探してるんですよ、探しに行きましょう!」

 

そうして二人は妹紅を探しに幻想郷を走り回った

 

最初はルナがよく行く場所を探しに行った、紅魔館や人間の里……

 

だが見つからなかったし誰も来ていないと言う

 

そこで幻想郷の施設を全て見て回ったがそれでも見つからない

 

「お母さんを……探してください!!」

 

嫌な予感が現実になったルナは再度紅魔館へ向かいレミリアに協力を頼み妹紅の友や知人を含めて捜索したが見つからない

 

「どこに行ったの……」

 

あげくには幻想郷全てを総動員して捜索に当たったが妹紅は見つからなかった

 

「お母さん……」

 

たった数十分、ルナが見たのを最後に妹紅は幻想郷から行方不明になったのだ

 

 

「お母さぁぁぁぁぁん……!!」

 

 

夢であるようにと何度も願う

 

 

人も妖怪も大事なものは失った時に初めて気付くものだ

 

ルナはこの日、己の心にある母への愛を自覚し、同時に失ってしまったのだ

 

 

これが幻想郷で起きた2年前の事件

 

 

皇帝不死鳥は幻想郷から消えたのだ

 

友から貰った御守りと、守ると誓った娘を残して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……後はバーンさんが知ってる通りです、紅魔館に引き取られる筈だった私を輝夜さんが引き取ってくれて……」

 

「……あの時の輝夜は頑なに譲ろうとしなかった、あやつにとって妹紅はライバルであり一番の友だ、その娘であるお前も妹紅と同じく特別だったのだろう」

 

話が終わりバーンは空を見上げる

 

(何も得られず……か……)

 

本人から聞いて何か手がかりを得ようとしたがやはりダメだった結果に小さく溜め息を吐く

 

(お前はいったいどこに……)

 

想いを馳せるとルナがバツが悪そうに話しかけてきた

 

「……怒らないんです……か……?」

 

ルナが言いたいのは自分が妹紅を追い込んでしまった事に対して、何かを言われる事は覚悟していたのだ

 

「既にくどいほど言われておるお前に何かを言うべき必要は無い、それに母との愛と絆に気付いたお前に尚更言うべき事は無い」

 

結果だけを見ればルナは皆の望む方向に向かったのだ、今更バーンが何かを言う事も無い

 

「妹紅が言っていた……」

 

有るとすれば……

 

「ルナ、お前のその名は月からとったそうだ」

 

「お月様からですか?」

 

「そう、その名には願いを籠めていると言っていた」

 

「……どんな願いですか?」

 

「月は太陽の光がなければ輝かぬ……だから月であるお前にとって太陽となる者が見つかる様に……と……」

 

「……お母さん……」

 

どれだけ妹紅がルナを大切に想っていたかだけ……

 

「辛い事を思い出させて悪かった、もう遅い……明日に備えて休むがいい」

 

「はい……あの、バーンさん!」

 

「どうした?」

 

「絶対……絶対勝ちましょうね!」

 

「当然だ、ここは妹紅が戻る場所なのだ、勝つ以外の事は考えておらん」

 

「はい!ではまた明日ですバーンさん!」

 

ルナが戻っていくとバーンは椅子に腰掛ける

 

「困ったものよね、本当に小さな妹紅よ……誰かの為に命を懸けて……10歳の生き方じゃないわ」

 

それに合わせて現れたレミリアが対面に座る

 

「真の母にも似てるのかもしれんな、我が子の為に命を懸けたローラのな……妹紅もローラも似た魂を持っていたのだろう」

 

「真のなんて言っちゃダメよ……ルナにはどちらも本当の母親なんだから」

 

「そうであったな……」

 

月明かりに照らされ二人は微笑み合う

 

「明日……勝てるかしら……」

 

「勝つ以外に道は無い、お前がそんな弱気でどうする」

 

「わかってるわよ、でもね……どうしても思っちゃうのよ、ここに妹紅が居てくれたら……って……」

 

「……紫とロランが継続して探してくれてはいるが今だ手掛かりすら……」

 

「今それを考えてもしょうがない、けど……妹紅が居てくれるだけで皆は勇気を貰える、それは私には……貴方にだって出来ない事……だから今一番居て欲しかった、差を勇気で補うなんて笑われちゃうけどね」

 

「笑うものか……勇気を心の力にした大魔道士に一泡吹かされた余からすれば全く笑えぬ事だ」

 

自嘲気味に苦笑したバーンは懐から小さな石をレミリアに渡した

 

「御守りと言うものになる、何も施してはおらぬが持っていろ」

 

レミリアは石を眺めるが何の変哲も無い事を確認すると微笑んだ

 

「あらあら、心配してくれるなんて嬉しいじゃない」

 

「せん筈がなかろう、お前を想わぬ日は無い……死ぬなよ」

 

小さな事だが嬉しく思うレミリアは上機嫌に立ち上がり歩いていく

 

「じゃあ、明日に備えて休むわ……おやすみなさい、バーン」

 

レミリアが自室に戻り、1人残されたバーンはソルが居るだろう月を見上げる

 

(明日、幻想郷が終わるとしても……変わらぬ強さでお前を守れるだろうか……)

 

既に幻想郷の滅びは決まっているのかもしれない、だがその時にいつもの様に愛した者を守れるのだろうか……

 

それがバーンには疑問だった

 

(いや、愚問か……終わらせはせん、この無限の幻想は……)

 

例え滅ぶとしてもする事に変わりは無い、ただ王は己の好きで愛した者と友の為に戦うのだから

 

(……出来る限りの手は打った……ほぼ成功したと言えるがあやつだけ音沙汰が無い……無理だったか……)

 

ゆっくりと立ち上がり踵を返す

 

(あやつにも事情はあるのだ、無理強いは出来ぬ……有るだけでやるしかあるまい)

 

ある1人の姿を思い浮かべながら紅魔館の中へ戻っていく

 

 

 

 

 

 

勝者と敗者

 

 

同じ存在でありながら異なる道を進んだ可能性の王と神

 

 

 

 

 

引寄せられる様に二人が出会ったのも同じ存在だから故の必然だったのかもしれない

 

 

もう賽は投げられたのだ

 

 

残されるのは雌雄を決した後に決まる勝者と敗者

 

 

ただそれだけ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレフガルド

 

深々と雪が降り積もるローレシアの城、寒季である(ドラゴン)の月の元、アレフガルドは白い雪化粧を施されていた

 

「……」

 

そのローレシアの城のテラスで佇む一人の青年

 

「……」

 

落ちる雪を見ながら想いを馳せていた

 

 

 

""君を見つけられない

   苦しくて眠れない

 

 「逢いたい……」逢いたい気持ち抑えられない

 

   夢にもたれて静かに泣いて

      君を探し続けている

 

       神様が居るのなら

        奇跡が起こるのなら

         僕の願い一つだけ叶うなら……""

 

 

 

「もう一度だけ……君に逢いたい……幻でも良いから……」

 

その顔は泣いている様にも見えた

 

「……」

 

彼女が居たから自分は立ち直れた、前に進む事が出来た

 

君の笑顔を見るだけで強くなれた、どこまでも……

 

「……」

 

だけど今は居ない、どこにも居ない

 

「妹紅……」

 

世界を救った勇者の燻る想いだけが空に昇る

 

 

「あら?王子?」

 

使用人に話しかけられて血の勇者である王子は振り向く

 

「どうしたんだい?」

 

「王子こそお見合いの最中なのにこんな所でどうしました?」

 

「……もう戻るよ」

 

渇いた微笑みを返す王子に使用人は思い出した様に懐を漁る

 

「そうでした!実は王子宛に手紙が来ていたんですよ、差出人が不明で検閲に時間が掛かってしまったので遅れてしまいました……どうぞ、こちらです、中身は見てませんので大丈夫ですよ」

 

「ありがとう」

 

手紙を受け取った王子は中を見る

 

「……!?」

 

「あ!?王子!?」

 

表情が変わりすぐに走って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし……早く行かないと」

 

準備を終えて足早に自室を出る

 

「何をしている!!」

 

その時、知る声に止められた

 

「……父上」

 

止めたのは王子の父であるローレシアの現国王

 

「何をしているのだ息子よ?見合いの最中だぞ……?まさか抜け出す気ではなかろうな?」

 

「……」

 

怒りを滲ませた言葉であったが王子は答えない

 

「いい加減にしろ息子よ……お前はもう27になるのだぞ?いずれ王になるというのに国の事など考えず放浪しおって……いつまで勝手な事をするつもりだ、王族の自覚を持て」

 

「……」

 

尚も答えない王子に王は呆れた溜め息を吐く

 

「お前はワシに恥を掻かせる気か?せっかくの見合いだと言うのに……ワシどころか相手にも恥を掻かせるのをわかっていてお前は我を通すと言うのか?」

 

「……わかっています父上」

 

ようやく答えた王子だがその顔には決意が表れていた

 

「これが国を想うならいけない事なのだと……ですが……それでも僕は……!行かなければなりません!!」

 

やめる気は無いと言った

 

「痴れ者が!!」

 

王は怒鳴る

 

「お前は国を捨てると言うのか!?偉大なロトの先代達を裏切ってまでお前は好きに生きると言うのか!!」

 

強い叱責が飛ぶが王子は一切怯まない

 

「申し訳ありません父上……僕は!僕の信じた道を行きます!!」

 

「愚か者ッ!!」

 

凄まじい怒声を浴びせるが王子には全く効かなかった

 

「……」

 

「……」

 

暫し見つめ合う王と王子

 

「……どうしても行く気か?」

 

「ええ……もう決めた事です」

 

揺るがない瞳を見て王は深い溜め息を吐いた

 

「一つだけ聞かせよ……何の為に行くのだ?」

 

問いに王子は少しだけ考え、言った

 

「愛する者の為に」

 

答えを聞いた王は目を閉じ考える

 

「……これから言う事はローレシアの王としてではなく、お前の父としての言葉だ、よく聞け」

 

目を開けた王の険しい表情に王子は縁を切られるのではと覚悟をしていた

 

「好きにしろ」

 

「……父上?」

 

思ってもみなかった言葉に王子が逆に焦る

 

「好きにしろと言ったのだ、お前の好きな様に生きろ」

 

先程とは全く異なる言動に王子は若干混乱している

 

「……思えばお前には過酷な運命を背負わせてしまっていた、ロトの子孫だと言うだけで……自由が無かった、世界を救った後も国のしがらみと血の重圧に囚われお前は己を殺していた」

 

「……」

 

「お前がカンダタの討伐に向かった時だったか……あの後からお前は変わった、何かは知らんが生きる目的を持ったのだと思って嬉しく思ったものだ……」

 

「……」

 

「そうか……お前にも心から愛すると思える者が居たのか……」

 

父は笑っていた

 

「すまんな、お前の為によかれと思い見合いを考えたのだが余計な世話だった様だ……許してくれ」

 

「父さん……」

 

父は息子へ言う

 

「今ようやくわかった、息子の心を殺してまで国を存続させようと思わん、そんな国は滅べばいいのだ……国も血も関係無い、お前はお前の好きに生きろ……行け」

 

「……ありがとう父さん!行ってきます!」

 

王子は走って行く

 

「子の幸せを願わぬ親はおらん……これでよかったのだろう?」

 

息子を見送った後で王は自らの血に問いかける

 

「ロトの祖先達よ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今行く……無事でいてくれ……!」

 

勇者は向かう

 

(バーン、皆……)

 

己の為に

 

(ルナ……!!)

 

愛する者の為に幻想の郷へと……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




過去話が意外に長くなったけどなんとか出張前に書けた……久し振りにもこたん書けたから満足です。

結局のところ明確な原因は不明のままですがとにかく決戦前に書くべき事は全て終わりました。
次からはいよいよ決戦です。

出張が始まるので更新ペースは落ちるかもしれませんが次回も頑張ります!

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