東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第11話 絆想曲

 

 

紅魔館・図書館

 

バーン、レミリア、魔理沙、パチュリー、ミスト、小悪魔の5人だけがそこに居る

 

「さて……どうする?」

 

レミリアが問う

 

「一応、明確なタイムリミットがわかったのだけど……」

 

「あのガルヴァスって奴の言葉を信じれば……だけどな」

 

魔理沙が微妙な顔で答える

 

「ガルヴァスは姑息で狡猾な男だ……騙し討ちや汚い手を平気で行う卑怯者、信用に値しない」

 

ミストは言う

 

「そうね……わざわざ敵に合わす必要は無いわよね、でもこちらの準備も出来てないのも確かだし本当なら正直助かる……バーンはどう思う?」

 

レミリアに聞かれたバーンは答えた

 

「……嘘ではなかろう」

 

意外な答えにミストを筆頭に驚きの声があがる

 

「理由を聞かせて貰ってもよろしいでしょうかバーン様?」

 

「お前も感じた筈だミスト、あのガルヴァスは我等の知るガルヴァスとは次元が異なる者だった事が」

 

「……確かに違いました、我等の知るガルヴァスならビジョンとは言え堂々と宣戦布告などする輩ではなかった、むしろ不意討ちを行う様な奴です」

 

「それ故に嘘ではないと思わせる、奴には満ちていた……負ける気など微塵にも思っていない確固たる自信と誇りにな、少なくとも余は奴の言葉に嘘は感じられなかった」

 

バーンはつい先程の事を思い出す

 

「手強いぞ……あの覇気……まるで奴を見ているようだった……影であった奴にとっての光……そう、あの……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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  「我等魔王軍は幻想郷に戦いを挑む!!」

 

 

 

ガルヴァスは声高に告げる

 

「……」

 

それに誰も返す事はなく、明らかに嫌悪の目で睨んでいた

 

「勝手に攻めて来ておいてまた随分と勝手な事よ」

 

バーンが皆の思いを代弁した

 

幻想郷はただ平和に暮らしていただけ、そこに魔王軍が攻めてきたのだ

 

降りかかる火の粉だから払うつもりでいたがそもそも何処とも戦うつもりのなかった幻想郷からすれば正々堂々と挑むと言われても今更であり拒否も出来ないので迷惑な事この上無い存在なのだ

 

「そう勝手だ、我等は我等の都合で戦いを挑む……勝手なのは承知の上!」

 

それでもガルヴァスは退く事は無い

 

「今日より5日後!それが開戦の日だ!それまで無用な小競り合いをやめ互いに準備を済ませる事を提案しに来た!」

 

それが軍が、魔族が望む事ならば

 

「返答は如何に!?」

 

応えてやるのがガルヴァスの使命でもあるのだから……

 

 

「……拒否権が無いこちらには無意味な問いだな」

 

冷めた目でバーンは答える

 

「申し訳ないがその通りだ、だが半端な状態の幻想郷と戦いたくないのも事実……だからこそオレは来たのだ!万全の状態で戦いをする為に!我等魔王軍1万の精鋭を持って幻想郷に戦いを挑む!それだけだ!!」

 

言うだけ言うと魔力が切れてガルヴァスの体が透けていく

 

「こうなった以上は致し方ないが1つだけ言っておこう」

 

消える前にバーンは言い放つ

 

「幻想郷は強い……勝てると思わぬ事だ」

 

それを聞いたガルヴァスはニヤリと微笑んだ

 

「楽しみにしている……」

 

そしてガルヴァスは消えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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(ハドラーの様に……)

 

あの時見たガルヴァスにかつての部下であり誇り高き武人にまで登り詰めた漢の姿を重ね侮れぬ存在だと思い改める

 

「嘘じゃねぇとすれば5日の猶予か……」

 

時間は有るなと思う魔理沙

 

「だとしても不意討ちを警戒しないわけにはいかないわ、現状維持は変わらない、攻められる側の辛いところね……それよりも……」

 

険しい顔でレミリアは言う

 

「そうね……想定を越え過ぎてるわね、1万か……」

 

パチュリーも困った声を出す

 

「雑魚なら物の数ではないけれどエスタークの連れてきた魔界深部の魔物より強いのが1万……」

 

そう、ガルヴァスが言った魔王軍の総数が問題だったのだ

 

想定した最低数は6千から多くて8千を見ていたが出たのは1万、それが本当なら幻想郷3千に対して3倍以上の数

 

実は嘘で実際は少ないのかもしれないが逆に多いかもしれない、どちらにしろ確かめる術が無い以上ガルヴァスの言った1万を目安に考えるしかなく、形勢は明らかに不利だった

 

「どうしたレミリア!パチュリー!まさか負けるなんて考えてんじゃねぇだろうなぁ?」

 

魔理沙がやらしそうな笑顔で言う

 

「頭でっかちがよ!やる前から負ける事考える馬鹿居るかよ!!」

 

勝つつもりなのだ

 

魔理沙とて不利なのは百も承知している

 

それでも勝つ気なのだ

 

当然だ、何人居ようと何が相手だろうと戦って平和を勝ち取るつもりなのだから

 

「そうだろうがよ!」

 

「……そうね」

 

魔理沙の一喝に二人は笑顔を見せる

 

「この戦力差を埋める方法を探すわ、勝つ為にね!」

 

「よっしその意気だぜ!じゃあ私はフィールドの続きをしてくるぜ!行くぜパチュリー!小悪魔!」

 

「私も出るわ、皆に相談してみるから」

 

「では私も門番に戻ります」

 

バーンを除いた5人が図書館から出ていく

 

 

 

 

 

 

「……」

 

一人残されたバーン

 

(1万か……)

 

どうしようもない差に色々と考えてみるが良い案を浮かべられず目を閉じる

 

(質と量を備えた兵……質は元よりそれ以前に数が足りておらぬ……)

 

暫し考えると目を開けた

 

(数を増やせぬ以上……覆すには質量を捩じ伏せる更なる個としての力が必要……それも生半可な者ではなく頂点達に匹敵する程の……)

 

熟考した末にバーンはある事を行うと決めた

 

(あやつ等は怒るだろうが表立てぬ余にはこれくらいしか……)

 

立ち上がり咲夜を呼ぶ

 

「手紙を書く、用意しろ……それが終わったら余に付き合え」

 

「わかりましたバーン様」

 

二人も図書館を出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妖怪の山・にとりの研究室

 

「げ……1万かよ……」

 

やってきたレミリアに聞かされにとりは顔を曇らせた

 

「厳しいなんてレベルの差ではないわね……」

 

紫も曇らせている

 

「何か良い案が有れば教えて欲しいのだけど」

 

「……ごめんなさい」

 

申し訳なさそうに紫

 

「にとりは?」

 

次にレミリアが問うとにとりは難しい顔で唸っていた

 

「う~ん……良いとまではいかないけど1つだけ有ると言えば有るよ、だけどねぇ……」

 

「何?どんな事?」

 

「いや、言っといてなんだけど本当にアテに出来る事じゃないんだよ、ちょっとだけマシになる程度だから案って程じゃないんだ」

 

「……?よくわからないけど頼めるかしら?」

 

「うーん……まぁ聞いてみるよ」

 

「とにかく任せるわ、転移装置はどう?」

 

「もうすぐ完成するよ、スキマに比べたら咄嗟に使用は出来なくて装置自体の利便性はそんなにだけどそこは紫が自分のスキマでカバーしてくれるから少数から大数まで完璧さ!」

 

「わかったわ、では引き続きお願いね」

 

レミリアは出て行く

 

「ねぇにとり、貴方の言ってたのってまさか……あの子かしら?」

 

作業を続ける途中、紫は聞いた、心当たりがあったのだ

 

「まぁね……あいつは私に頭が上がらないから言えば来るだろうけど出来れば巻き込みたくないんだよなぁ……あんなでも一応、王子だし……」

 

「言うかどうかは任せるわ、私としても来てくれれば嬉しいけどやはり無関係だからね……」

 

「わかってるさ……」

 

悩むにとりだった

 

 

 

 

 

 

その後、レミリアは幻想郷を回り宣戦布告の内容を伝え打開策を探した

 

 

 

だが見つける事が出来ず時間だけが無情に過ぎていったのだった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3日後

 

ソルパレス

 

「……」

 

都に新たに建設された太陽宮の会議室でガルヴァスは居た

 

「全員揃ったか?」

 

「いえ、機甲師団がまだです」

 

ゼッペルが答えると会議室の扉が勢い良く開いた

 

 

「「「「待たせたな!」」」」

 

 

4人の魔族が順番に入ってくる

 

「天空の使者!バル!!」「大地の化身!ベル!」

 

エプロンの様なアーマーを着けた長身細身の長男と太った力士体型の次男

 

「知の翼!ボル!!」「力の翼!ブル!!」

 

身の丈より高い剣を構えた三男と末っ子

 

 

「「「「魔族4勇者推参!!」」」」

 

 

伝説の勇者が姿を現した!

 

これが機甲師団の軍団長

 

バル、ベル、ボル、ブルの4人

 

「ガルヴァス殿、遅参の段、御免あれ……こいつ等が寝坊してしまいましてな」

 

「起こしてくれと兄上に言ったではないか!」

 

「起こしたさ、しかしお前等は起きなかった」

 

「それは起こしたって言わないんだぜバル兄さん!」

 

「そうだそうだ!」

 

喧嘩を始める4人

 

「……いいから座れ」

 

ガルヴァスが止め座らせた

 

「軍団長や主な者を集めてどうされましたか司令殿?」

 

そしてその場には全ての軍団長とキルギルや戸愚呂など主力の長が揃っていた

 

「うむ……今回の戦地、幻想郷を攻めるにあたりソル様が直々に指揮を取られる事になった」

 

「ソル様自らが!という事は……」

 

「そうだ……一同控えよ!ソル様が姿を見せられる!」

 

ガルヴァスが告げると一番豪華な椅子の周囲の空間が捻れソルが座っていた

 

「おおソル様……」

 

主が見れた事による歓喜の声が漏れると同時に1名を除き一斉が立ち上がった

 

「魔獣兵団軍団長ゼッペル、ここに」

 

「青剣士団軍団長テリー、居るぜ」

 

「妖魔師団軍団長グレイツェル、ここに」

 

「機甲師団軍団長バベルボブル、ここに」

 

「魔導学士キルギル、ここに」

 

「拳客戸愚呂、居ますよ」

 

「……純狐、御身の前に」

 

「ヘカーティア・ラピスラズリ、居るよ」

 

ソルに向かい一人ずつ挨拶を交わす

 

「……お前は何か言わないのか?」

 

ガルヴァスが椅子から動いていない竜のビジョンへ向く

 

「我等が軍団において最強の力を誇る超竜軍団を統べし長よ……」

 

竜のビジョンの目が光る

 

「……超竜軍団軍団長、ヴェルザー……ここに……」

 

ヴェルザー

 

名乗りし異名は冥竜王

 

かつてソルと魔界を二分した最後の知恵ある竜

 

それが月を攻めた際に結界を破壊した黒竜の正体でありソルの擁する軍の中で最強の力と勢力を誇る超竜軍団を統べし者の正体だった

 

「……」

 

それ以上は喋りもせず立ち上がりもしなかった

 

ここにヴェルザーが居て超竜軍団を指揮しているのは遠き昔に交わした約定の履行であった

 

だがその意思はその為だけに居るのではないとの証明に見えるが胸中は誰も窺い知れない

 

 

「うむ……久方振りだなお前達」

 

凄まじい面子から挨拶を受けたソルだったがその表情を変えず事務的とさえ言える口調で応えた

 

「早速だが此度の戦、余からの命はただ1つ……全軍、余を気にせず好きに戦え、以上だ」

 

たったそれだけ告げ微笑んで見せた

 

「なりません!」

 

それに直ぐ様ソルへの忠誠が高い数名が声を荒げる

 

「ソル様を気にせずなど出来よう筈がありません!我等の意思を汲んでくださるのは嬉しく思いますがそればかりはソル様の命と言えど承諾出来ません!」

 

「ガルヴァス殿の言う通りです!私も承諾しかねます!」

 

「そうですよソル様、ソル様は魔王軍にとっての心臓であられます、例えソル様にとってはそうでなくても貴方様は私達の理念より上の存在なのですから第一に考えるのは当然の事です」

 

ガルヴァス、ゼッペル、グレイツェルが反論するとソルは予想通りの反応だと笑った

 

「そう言うだろうと思い余の守護にはあの帝王を呼ぶつもりだ」

 

「ッ……!あの王に……!?」

 

「天魔の塔の最上階を守るフロアマスターを配置なさるか……」

 

答えに反論した3人に加えキルギルも驚きを見せた

 

「ですがアレは理性無き獣……如何に強かろうとそんな者だけでは……」

 

「ほう……アレだけでは守りきれぬと言うのかガルヴァス、随分と買っている様だな幻想郷とやらの者共を?」

 

「……短期決戦においてはおそらくは今まで戦った者達の中で最強かと思っております」

 

「いくら平行の余が居るとは言えあの小さき世界がお前にそこまで言わすか……ふむ」

 

持ってこさせた酒を飲みながらソルは言った

 

「ならば出し惜しみせず魔王軍の全てを出すとしよう」

 

その次に出た言葉でその場は凍りついた

 

 

騎士(ナイト)を出す」

 

 

一瞬の硬直の後にざわめきが起こる

 

(噂には聞いていた……が、まさか実在したのか!?オレとキル以外にソル様を守護する最強の側近……!!ナイトバーン!!)

 

(一説にはその正体は究極の戦闘生物だと言われている……姿は壮年の男だとも子どもだとも言われているが何より噂されたのはその強さ!魔王軍三強と言われるヴェルザー、ゼッペル、帝王の3人すら凌ぐかもと言われているオレも見た事が無い謎の者……)

 

ざわめきが収まらない中

 

(ヒョッヒョ……ついにアレをお使いなさるか……)

 

「……フン」

 

キルギルとヴェルザーだけは違っていた

 

「後は各々が持ち寄った精鋭達を都とここにいくらか配置すればよかろう……これでもまだ異論はあるか?」

 

そこまで譲歩されてはさすがのガルヴァスやグレイツェルや誰も異を唱える事は出来なかった

 

「無い様ならこれまでだ、基本はお前達の好きにせよ、余はここから戦況に応じて戦いやすいように指示を出す……細かい事は任せる」

 

空間が歪み

 

「楽しむがよい……存分にな……」

 

ソルは消えた

 

 

「……全員、理解したな?」

 

ガルヴァスが言うと皆頷く

 

「では分担を決めるとしよう……キルギル、測量した幻想郷の地図を出せ」

 

大きな地図の映像が出現し説明を始める

 

「これが幻想郷の大雑把な地形だ、何分測る時間が限られていた為に正確とは言い難いが大体は合っている、そして純狐とヘカーティアの情報を足すと……こうなる」

 

地図が広がり更に名称が刻まれ各施設や建物の名が追加された

 

「……この白玉楼ってのは施設か何かなの?あら?ああ……この紅魔館って言うのが平行世界のソル様が居るって所ね」

 

「そう、それで白玉楼とは……」

 

純狐とヘカーティアの注釈を交えながら地形や施設などの重要度や注意すべき人物について見解を深めていく

 

「場所的にこの地底にある旧都と地霊殿は放っておいて良いだろう、幻想郷側も地上が戦地になると思っているだろうしそれなりに距離があるここに戦力を置くとは考えにくい、実際我等もそのつもりだしな」

 

「そうですね、それに人間の里、太陽の畑、命蓮寺の3ヵ所も除いても良いと思います、里は隠されるか無人らしいですし非戦闘員を相手にするのは理念に反します、畑は言わずもながら……寺は良くわかりませんが純狐の話を聞く限り要所ではなさそうなので」

 

「幻想郷の戦力が集まりそうな場所を纏めると……まず博麗神社、大結界の要であるここが最優先だろう、次に紅魔館、ここは幻想郷でのバーンの立ち位置が不明なのでハッキリとは言えんが居城にしているため可能性として次点、残りは微妙な所だな……妖怪の山は数こそ地上で一番だが我等に対して幻想郷全域に布陣していると思われるからな、他の各施設もおそらくは同じだろう」

 

「では今出た事を踏まえてこの一番広い無縁塚に送る各軍団の混成部隊を除き各軍団長はお好きな場所を指定してください、と言っても受け持つ範囲の話になりますが」

 

荒れる事無くスムーズに決まり会議は終わり少しばかりの雑談に入った

 

 

「頂点って言うのが居るらしいわね」

 

「らしいですね、吸血鬼に魔法使い、妖精も頂点と聞きました」

 

「魔女の二天……面白そうねぇ」

 

「私は最強と呼ばれる妖精に興味があります」

 

 

 

「魂魄妖夢は俺の獲物だ、手を出すなよ」

 

「なら紅美鈴はオレが予約してあるんで手出し無用で願いたいねぇ」

 

「俺達は河城にとりが使うキラーマシンに興味が有るのでお譲り頂けると嬉しい」

 

 

 

「バーンは早い者勝ちにしておきましょうか?」

 

「そうね、貴方達の理念なんて知らないから罠を警戒して出てこないでしょうしそれで良いと思うわ、むしろ余計な介入が入らないから願ったりじゃないかしら?そうでしょうヘカーティア?」

 

「ん?あぁ……そうだね純狐」

 

 

 

そしてその場は解散となった

 

 

 

「……」

 

二人となったその場所でガルヴァスは地図を睨んでいる

 

(ソル様は好きにせよと仰られた……ならオレは何処へ行くか……)

 

幻想郷の地図を見ながら考える

 

(……ここは先程は重要では無いと結論が出た、だが確かここはキルギルの報告で世界樹らしき苗木が有ったと言っていたな……それが本当に世界樹ならある意味で重要な場所だ……)

 

ある一点を見つめる

 

「ガルヴァス」

 

すると残っていたもう一人が話しかけてきた

 

「暫く見ぬ内に随分と貫禄が付いたな……オレに脅え機嫌を伺っていたあの頃の卑屈な小心者が大した躍進だ」

 

ヴェルザーのビジョン、魔力を切らさず彼だけは残っていたのだ

 

「……そう見えるのなら、近付けたと言う事だ」

 

ガルヴァスは遠い目をしながら答える

 

「光と影は表裏一体、それが光に追い付こうとした影の結果か……」

 

「……もう追い着く事も追い抜く事も叶わんがな」

 

会話の途中、ガルヴァスはふと思い出しヴェルザーに向いた

 

「そうだヴェルザーよ、オレもソル様に倣い持てる全てを出す事にする……お前に預けていた者を返して貰う時が来た」

 

「ほぉ……ついにこの時が来たか」

 

ビジョンの顔に変化は無いがヴェルザーは笑っているのがわかる

 

「良いだろう……お前に返す、我が超竜軍団最強のドラゴンライダーをな……」

 

「今まで見てくれた事、感謝する」

 

ガルヴァスとヴェルザー

 

二人だけの時はヴェルザーも饒舌に言葉を語りガルヴァスも本音を出す

 

「ソルは相変わらずの様だな」

 

「ああ……相手に平行のソル様が居ると知り機嫌は良くなられたがこの戦いが終わればまた戻られるだろう……」

 

それはこの二人は今の魔王軍の中で最古の二人だったから

 

最初こそ色々あったが今や気心知れる戦友にまでなっていたのだ

 

「責任を感じておられるのだろう……オレも今になって御心がわかる……だがもはや止められん、魔界の意思のままに魔王軍は戦い続ける……全滅でもせん限りはいつまでも……」

 

「……難儀な事だな、奴も、我等もな……」

 

 

今の魔王軍は暴走列車

 

魔族の闘争本能の赴くままに走り続ける意思の群体

 

行き着く場所は無く、ただただ戦いを求めて勝ち続ける終点無き旅路

 

 

もし終わる時があるとするならばそれは負けた時なのだろう……

 

 

 

 

 

だがそれは有り得ない

 

 

数、質共に上回る魔王軍が敗北する事は現時点では皆無と言えた

 

 

それだけの経験と裏打ちされる力を持ち、油断も慢心も無いまさに歴戦の古強者

 

 

事実、現時点での幻想郷の勝目は限りなく低いのだ

 

 

(……幻想郷は我等の事をほとんど知らん、それに引き換え純狐から持たらされた情報により最低限には抑えてあるが有利なのは事実、だが……)

 

だがガルヴァスは何故か言い様の無い何か予感めいた事を感じていた

 

(幻想郷には……いや、直感を信じるならバーンにか……バーンは……純狐も、それどころか幻想郷すら知らぬ何か切り札を持っている……そんな気がしてならん……)

 

現時点では有利、それは間違いない

 

間違いはない、が……

 

それはあくまで現時点……ではの話なのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

「よし、美味くできたな」

 

とある次元を越えた先の家で精悍な魔族は料理をしていた

 

(咲夜から聞いた紅魔館のレシピにアバンから習った料理術を加え更にオレのセンスを組み込み作った新作スイーツ!その名も「超魔爆炎ドーナツ」!!)

 

お菓子を作っていた様で満足のいく仕上がりだったようである

 

『なんというネーミングセンスの無さ……呆れて言葉もでません』

 

「煩いぞ聖母竜、そこまで言うなら良い名前があるのだろうな?」

 

『当然です!「聖母流ドーナツ」!どうですか?』

 

「ほう……聖母竜と聖母流を掛けたのか、やるな……よし却下だ」

 

『よしまで言って却下ですか!?酷い!!』

 

「何故オレが作ったドーナツにお前の名を入れんといかんのだ、寝言は寝て言うんだな」

 

『ぐぬぬ……この三流魔王!ハナタレ!!』

 

「フン、何とでも言え……しかし大量に作ってしまったな、どうするか……バーン様にお裾分けでもするか……?」

 

お菓子の処理を考えていると突然頭上が光り何かが落ちてきた

 

「これは手紙……」

 

『貴方宛でしょうね、しかし転送までして誰からでしょう?』

 

「わからん……だが罠の類ではなさそうだ」

 

手紙を取り中身を開け目を通す

 

『誰からですか?何が書いてあるのですか?』

 

聖母竜が問うが聞こえていない程に魔族の男は手紙を真剣に見入っていた

 

「……ジゼル!!」

 

読み終えた直後に娘を呼ぶ

 

「はーい!何ですかー!!」

 

元気な仔竜が走ってやって来た

 

「急だが家を空ける、いつ戻るかわからん……お前の事はマシェルに頼んでおく」

 

「ふえっ!?えっ!?何で!?何があったんですか!?」

 

「……お前も良く知るあの地が、オレやお前の幻想の友が困っているのだ、義によってオレは向かう」

 

「幻想郷が!?私も行きます!」

 

「ならん!お前にはまだ早過ぎる!」

 

怒鳴られ涙を浮かべる娘だが泣いて頼まれても連れていくつもりは無い

 

それだけ危険であり命の保証は無い事態だったのだから

 

それを娘も幼いながらも察したから我儘をグッと堪えて黙った

 

「案ずるなジゼル、オレは必ず帰ってくる」

 

「……絶対!絶対ですよ!約束!約束してくだい!!」

 

誓わせようと小指を突き出す

 

「ああ……約束する」

 

誓いは交わされ二人は微笑んだ

 

「準備する……聖母竜!!」

 

顔を上げ、エプロンを取り払った次の瞬間にその顔は漢の顔になっていた

 

『何となく事情はわかりました、アレを着けるのですね?良いでしょう、行きましょうあなた……』

 

「うむ……行くぞ!!」

 

かつての魔王は義によって幻想の地へ向かう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

「のうお前様?ミスタードーナツ食べたくない?」

 

またある次元の世界では幼女と青年が話していた

 

「お前が食べたいだけだろ……僕はこれから戦場ヶ原とデートなんだ、そんな所に寄る時間は無い!」

 

「ではでぇとでミスタードーナツに寄れば解決だの!」

 

「なんで僕と戦場ヶ原のデートにお前の都合を入れなきゃならないんだよ、行かねぇよ!」

 

「ぬぅ……お前様のロリコン!」

 

「なんでだよ!ロリコンが何の関係があるんだ!それに僕はロリコンじゃない!偶々気に入った子が小学生だったってだけだ!」

 

「人、それをロリコンと言うのぅ……」

 

「違ぇって言ってんだろ!!」

 

言い合う仲良さそうな男女

 

「ったく、遅れたら何て毒吐かれるかわかったもんじゃないから行くぞ」

 

「……!?ちょい待ちお前様!」

 

突然、幼女が何かを感じ視線を下に向けると手紙が足元に落ちていた

 

「ん?手紙……?葉書じゃなくて手紙だな、この御時世にえらく古臭いな……」

 

青年が手紙に手を伸ばす

 

「待てお前様!迂闊に触れるでない!」

 

幼女が叫びビクッと手が止まる

 

「な、なんだよ突然、どうしたんだよ……」

 

「……お前様にはわからんだろうがその手紙には魔力が籠っておる、見たところ攻撃の為では無いが万が一を考えるとお前様は触れん方がよい」

 

「は?魔力?なんだよそれ……ッ!?」

 

青年が頭を押さえる

 

(なんだ!?魔力って聞いたら急に頭痛が……何か知ってる感じがする……なんでだ……)

 

知らない筈なのに何故か知ってる感じがする、でもわからない

 

思い出せない事にもどかしさを感じる青年、その青年の前で幼女は手紙を手に取った

 

「……大丈夫なのか?」

 

「ああ、この魔力は儂宛に込められておるからの、触るなと言ったのはそれよ、別の者が触れば異常を来す類だったら不味いからのぅ、それに内容も儂宛だろうしの」

 

そう言った次の瞬間、魔力が幼女の中へ入った

 

「……!!?」

 

顔が僅かに歪み何か思い出す様に暫く無言で佇む

 

「……」

 

次に動いた時は手紙を開けて読んでいた

 

「……ほぅ」

 

幼女の口元が吊り上がる

 

「まさかあの大魔王が儂に助けを求めるとはのぅ……いや、それだけの事態と言う事か……レミリアが……儂の友が危ない……か」

 

「大魔王?レミリアってあのレミリアか?何が書いてあるんだ?」

 

青年が問うと難しいなと頬を掻く幼女

 

「別のレミリアじゃよお前様、妹分ではなく友の方のな……家に有るあの紅い薔薇をくれた方じゃよ」

 

「確かスカーレットローズ……だったか?いやいや待て待て!方とか何言ってるかわかんねぇよ!」

 

「わからぬのは無理ないしわからんでも良い……ただ言えるのは儂は用事が出来たと言う事じゃ、お前様は来んでよい」

 

「……訳がわからないけどとりあえず僕も行く!お前だけ行かせられるか!」

 

無理矢理でも着いてくると言う意思を見て幼女は溜め息を吐く

 

「でぇとはどうするんじゃ?」

 

「そんなもんいつでも出来る!今はお前の方が大事だ!」

 

「そうか……」

 

嬉しい事を言ってくれると微笑む幼女は手紙に念じると空間が歪み扉が現れた

 

「お前様よ……その気持ちは嬉しいがやはり儂だけで行く、大魔王もお前様を巻き込む事を望んでおらんのでの」

 

「ふざけんなよ!そんなの関係あるか!大魔王だかなんだか知らないが僕は行くぞ!」

 

扉に飛び込もうとする青年

 

その青年を幼女は押した

 

「なぁに、すぐに帰ってくる……心配するでない」

 

扉に入ると歪みが小さくなっていく

 

「でぇとを楽しむのじゃぞ」

 

「忍!!?」

 

青年の叫びと手は虚しく空を切り、伝説の吸血鬼の成れの果てはこの次元から消えたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

何も無い空間

 

邪悪な魔力だけが充満する異様な空間

 

そこはかつて世を震撼させた強大な力を持つ者達が復活の時を待つ空間

 

 

「久方振りだ……壮健か?4人の王よ……」

 

 

そこに声が響く

 

「……お前がここに来るとは珍しい、いや……訪ねて来るのは初めてか」

 

浮かび上がったシルエットが巨大な竜の姿を象る

 

「オホホホホ!久し振りねぇ!貴方こそ元気かしら?」

 

小柄だが翼が生えた人外の異形

 

「世間話……と言う訳ではなさそうじゃな」

 

球体に乗った世界有数の高名老人である魔族

 

「どうした……?奇蹟を起こし、無限へ至った幻想の大魔王が今更我等に何の用だというのだ……」

 

最後は闇を統べ、絶望を啜り、憎しみを食らい、悲しみの涙で喉を潤す起源たる大いなる魔の王

 

4人の王がこの空間に入ってきた生者である大魔王を囲んだ

 

「此度は相談に来た……この様な事を頼む間柄でも無いし受けてくれるとも思っていない……情けない話だがそれでも僅かな可能性に賭けるべくここへ来た次第だ、聞いては貰えるだろうか?」

 

元より大魔王も叶うとは考えていなかった、それでも来たのはやはり幻想郷と友や仲間が大切だったから

 

望み薄くとも出来る事を出来るだけやる為に直接頼みに来たのだ

 

「……聞くだけ聞いてやろう」

 

闇の大魔王の言葉に大魔王は話し出す

 

「幻想郷は今……破滅の道を歩まされているかもしれん、そこでだ……」

 

そして、誰にも下げる事が無かっただろう頭を静かに下げ、出る筈の無いだろう言葉を紡いだ

 

 

「そなた達の力を貸してはくれぬだろうか……」

 

 

これが原因で幻想郷全てから蔑まれようと構わない

 

守りたかった友に嫌われたとしても構いはしない

 

何よりも、何においても生きていて欲しいのだから

 

 

 

その為ならば何でもしよう……

 

 

例え己が誇りを捨てる事になっても……

 

 

ただ……友の為に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とにかく風呂敷を広げていくスタイル!
収拾つくかな……(遠い目)

とりあえず名有りキャラの説明を……

・バベルボブル
Ⅶから参戦の雑魚キャラ、ボスでもなんでもないただの雑魚キャラが機甲師団の軍団長にして今作のネタ枠。
このキャラをネームド扱いにしたのはこのキャラに偉大なる勇者の可能性を見たからです、何をさせたいのかの具体的なヒントは私の嗜好するネタから、もう少し言うと妖夢にさせているネタ繋がりですね、機甲なんて名前もそれから来てます。
そのうち取って付けたソル軍に居る理由も明らかになると思います。

・ヴェルザー
ご存じダイの大冒険から登場の冥竜王。
この方がラスボスと予想されていた方もいましたが超竜軍団の軍団長としての登場でした。
性格なんかがいまいちよくわからないので私好みとなっております。
ヴェルザーがソルの配下に居る理由はわかりやすいと思います、約束してたのでそういう事です。

一応、最後の方で出た魔族と幼女は作者様から許可を得ています、コンセプトの1つに今までのオールスターが有るので無理を言って出演願いました、ありがとうございます!

次回も頑張ります!

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