東方大魔王伝 -mythology of the sun-   作:黒太陽

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第10話 枕戈待旦

 

月の都

 

今や魔物の巣窟と化したその場所

 

「……」

 

それを離れた所から見つめる二羽の鴉が居た

 

(平行といえど流石はバーンの率いる魔王軍と言うべきかしら)

 

紫の放った式である

 

第二次月面戦争でも使用した前鬼と後鬼と呼ばれる鴉の式を用いて月の都の偵察が行われていたのだ

 

(無防備に見えるけどその実抜け目なく探知結界が張り巡らされている……何か建設中みたいだけどその作業員すら警戒を怠っていない、これ以上は進めないし潜入も無理……か……)

 

式から見る紫の目からして完璧と思わせる潜入対策、都はおろか都の中央で浮かぶパレスももう潜入不可能だと思わせる程に徹底されていた

 

(問題はここをどうしたいのか……ね、攻めたのは純狐の存在からだと推測出来る、けれど他に理由が有ったのだとすればあの建設中の物が鍵……簡単に考えれば幻想郷を攻める為の土台……前線基地と言ったところかしらね)

 

思考する紫

 

 

 

ザンッ……

 

 

 

その時、突然に前鬼の映像が途絶えた

 

「はいスト~ップ!」

 

途絶えていない後鬼で確認すると前鬼は鎌の刃によって貫かれていた

 

「覗き見はいけないねぇ」

 

側に立つ死神、キルが仮面に隠された顔で笑っていた

 

(チッ……)

 

紫は内心舌打ちする

 

(空間使いキル……迂闊……これが更に広く警戒していたなんて……これ以上は進めないから合流したのが裏目に出た……逃げれない)

 

前鬼を細切れに変えたキルは後鬼に鎌を向ける

 

「いけない子にはお仕置きしなくちゃね……バイバーイ♪」

 

振るった鎌に首を切り落とされた

 

「大人しく待ってれば良いのに空気の読めない奴だよねホント……絶対自分賢いですって勘違いしたオバサンに違いないね」

 

細切れにしようと鎌を構えたキルだったが切り落とした首が動いたのを見て腕を止めた

 

「一つ聞かせて欲しいのだけど……」

 

首から出たのは紫の声

 

「好きな言葉を教えてくれないかしら?」

 

首だけでキルに問う

 

「ストーカーが趣味かな君?ボクが答える必要ある?無いよねぇ~?」

 

馬鹿にした笑顔で笑うキルに式越しの紫は言う

 

「あら?貴方の墓標に書く言葉を聞いていたのだけど?」

 

その言葉にピクリと反応したキルの仮面の顔から殺気が一瞬出て引っ込んだ

 

「あらら……気付かなくて申し訳ない、さらっと挑発されちゃってたんだねボク……ゴメンねオバサン、歳取った人の言葉って回りくどくて分かりづらいんだよね」

 

「こちらこそ坊や相手に失礼したわ、でもやはり今のは忘れてちょうだい……だって坊やどころかガラクタに墓なんて贅沢過ぎるもの、野晒しで風化するのがお似合いだったのに気付かないなんて私とした事が……ごめんなさいね木偶人形さん」

 

「……」

 

キルの口が真横に一文字に閉じ、その先に相手が居るであろう鴉の首を睨む

 

「喋るしか出来ない癖にムカつくなぁ君……」

 

無表情に鎌をクルクル回しながらキルは首へ近付いていく

 

「それはこちらの台詞……人形風情が言語を使うものじゃないわ、ガラクタごときが身の程を知れ……」

 

「随分と粋がっちゃってるけど自分の格好わかってる?相当格好悪いよ君?」

 

「わからないのね……その私よりも更に下の程しか無い事が……まぁ良いわ、この私を侮辱した罪は必ず購って貰う……精々審判の日を怯えて待つ事ね」

 

「ホントにムカつくね君……」

 

鎌が上段に構えられいつ振り落とされるかわからない状態だったがそれでも紫は怯まずに言い放った

 

「貴様はこの八雲紫が直々に解体してあげましょう……この名前を覚えておきなさい、貴様を美しく残酷にこの地から往なす者の名よ」

 

「……またね……八雲紫……」

 

それを最後に映像は切れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・図書館

 

「……」

 

切れた映像の前で紫は沈黙していた

 

「だ……」

 

いや、よく見ると小刻みに震えていた

 

「誰がオバサンですってー!!」

 

紫は激怒し扇子を握り締める

 

「あっ……あのガラクタめぇ……!!」

 

バーンから贈られた扇子だと思い出し扇子を膝の上に置いてプルプルしてる

 

「どうしたのよ急に……」

 

怒声にむきゅっと驚いたパチュリーが困惑気味に問うと紫は怒りを露に答えた

 

「キルって木偶人形にオバサン呼ばわりされたのよ!!」

 

「若く見られて良かったじゃない」

 

「そうね、曖昧だけどババァよりは少しだけ若いニュアンスよね……って違う!そうじゃないの!」

 

「何が違うの?ほとんど合ってるじゃない、限りなく正解に近い答えと思うのだけど?」

 

「全然!全っ然違うわよ!!私は17歳!それも永遠の!エターナルセブンティーンよ!もぅパチュリーまで失礼しちゃうわ!」

 

「そうだったわね多分……ごめんなさい紫、確か17歳と146万日くらいだったわね、えーっと換算するとえーっと4千……」

 

「やめて!それ以上いけない!ゆかりん幻想郷で生きていけなくなっちゃうからお願いやめて!何でもするから!」 

 

「ん?今何でもって言った?」

 

「……あら?自分で言っといてなんだけど何かとても嫌な予感……」

 

「では跪きなさい、跪いて命乞いをすれば実年齢公表は許してあげる」

 

「丁重にお断りしましょう」

 

「ならば……死ねぇぇぇ!」

 

パチュリーは新聞にリークし抹殺を図ろうと文を呼ぶ為に魔力を高める

 

「遊んでいる場合ではないでしょ貴方達……」

 

呆れたレミリアが二人を止めた

 

「いつ何時でも心にゆとりは持っておくものよレミリア」

 

「同感だわ紫、レミィも少しくらいならバーンとイチャイチャしても良いのよ?」

 

「カリスマである私がこの非常時にするわけないでしょ!……したいけど我慢してるの!」

 

「イチャイチャはしたいのね……レミィ可愛い」

 

「ですってバーン!相手をしてあげたらどうかしら?」

 

「……二人共ちょっと向こうでガールズトークしましょう?……拳でねぇ!!」

 

からかわれて怒ったレミリアが二人に襲いかかる

 

「それぐらいにしておけお前達……」

 

バーンに諭され三人は喧嘩をやめた

 

 

 

「して、どうだった紫?」

 

「何かを建設していたわ、おそらくだけど基地にするつもりでしょう」

 

「だろうな、同時に地上に送る為の転移装置を平行して作っていると考えられる」

 

「パレスが有るのだから作らなくても問題無いのに作る?その根拠は何なのかしら?」

 

「幻想郷の狭さだ、今まではパレスごと転移させてそこから出陣だったのだろうが幻想郷は狭い故に安全地帯が少ない、見知らぬ土地なら尚更わからぬだろう……極端な話、現れた瞬間に余がバリアを無力化し弾幕を浴びせればパレスは崩壊し敵軍にも大打撃を与えられる」

 

「だから新たな転移装置を作るのね」

 

「にとりに聞いたがアレだけの大きさと質量を転移させるにはどうしても精度が落ち遥かに小さい者を送るには向いていないそうだ、月が落ちた以上、純狐達は間違いなく向こうの陣営に居るだろう、純狐から幻想郷の情報を得て多所に正確にかつ大規模に送れる物を作っている筈だ」

 

「なるほど……それに月の都を基地にされたお陰で攻めにくくなってしまった事もあるわ、距離が有り過ぎる……」

 

先に言ったソルが地上にパレスごと直接攻めてくるのであれば攻めも守りもすぐに切り換えられる、何故なら近いから

 

だが月と地上まで離れていれば話は違う、長い距離を転移装置で補う事になるので大勢が戦う場合はどうしてもスムーズには行かないのだ

 

もっともソル側も同じ事が言えるが先に言った極端な例も含め有利だった条件が対等になっただけに留まるがそれでも結果としてはこちらが不利を受けた形になっていた

 

「何か打てる手は有りそうか?」

 

「堅く守られていて手を出せそうにないわね……私とにとりが作ってるスキマ転移装置の標は式を通して打ってきたのだけれど都から離れた場所が精一杯、それだけなの……ごめんなさい」

 

「よい、それで充分だ、決戦の際にこちらから移動が出来れば良いのだからな……最後の手段としてロケットが用意されているがさすがにアレでは大した人数は乗れぬし時間が掛かり過ぎる」

 

「月に関してはこれで一先ずはこれくらいかしらね、では私はにとりの所へ戻って装置の完成を急ぐとしましょう」

 

「任せたぞ紫」

 

「その間、貴方達はどうするつもりなのかしら?」

 

「出来る事を出来るだけやる……そんなところだな」

 

「わかったわ、何かあったら呼んでちょうだい」

 

スキマを開き紫は図書館から消えて行った

 

 

「おーいパチュリー!ちょっと手伝ってくれないかー?」

 

紫と入れ違いに魔理沙が現れパチュリーを呼んだ

 

「どうしたの?」

 

「昨日思い付いてやってみるって言った魔術結界なんだけどさ、何とか根性で術式は構築出来たんだけど氷と炎の魔力の細かい調整が必要になっちゃってよ、私はそれ系が苦手だからメドローアを作れるくらい魔力の扱いが上手いパチュリーに手伝ってもらいたいんだぜ」

 

「わかったわ、得意分野だから任せて……こあ!貴方も手伝いなさい」

 

「助かるぜ!」

 

3人は図書館を出ていく

 

「……魔理沙達は何をしているのだ?」

 

「魔理沙は私達みたいに強くない妖怪や人間達の為に戦闘フィールドの作成を行ってるみたい、地力の差を埋めようとしてるのよ」

 

「確かにそれが出来れば大変楽になるだろうがさすがに幻想郷全域は不可能であろう?」

 

「そうね、魔理沙もそう思ったから限定的にフィールドを作るみたい、地形的に数がぶつかり合いそうな所や勝利の際に荒らされていたら困る人里みたいな場所を重点的に囲うみたいよ」

 

「そうか……性質から考えるにアレと同じ類の結界なのだろうな……他は?」

 

「大妖精とチルノは魔界に避難した非戦闘員に食べ物を渡しに行ってるところよ、フランはウォルターと一緒に幻想郷の見回り、ミストは門番ね」

 

「ではそれ以外はどうしている?」

 

「白玉楼はロンが新技の完成の為に妖夢と特訓中、幽々子には陣頭指揮を頼んでるからお菓子でも食べながら作戦考えてるんでしょ、永遠亭は回復関係担当の永琳が何か作ってるみたい、てゐは正邪と一緒に罠を幻想郷中に作ってくれてる、鈴仙は知らない、輝夜はルナを見てくれてるわ」

 

「ふむ……」

 

「幽香と萃香はいつも通りで特にね……英気を養ってると言ったところかしら、命蓮寺はもしもの時のロケットの代案で聖輦船を宇宙船に改造してるところよ、一番妖怪のレベルが高い旧都はさとりと勇儀の監修のもと練兵中、妖怪の山も同じく天魔が見てる」

 

「……博麗と守矢は?」

 

「2つの神社の巫女と神と神器を持つ霖之助が協力して博麗神社を一時的に干渉不可能の不可侵聖域にしてるところ」

 

「そうか……」

 

現状を把握し無言で考えるバーンにレミリアは聞いた

 

「貴方からは何か無いの?」

 

実は今までと今行っている事は幻想郷が話し合い考えて行っている事でありバーンからの指示ではなかった

 

美鈴とミストを潜入させた以外にはバーンからは何もなかったのだ

 

「有るには有る……今より遥かに有効な策もいくつか有る……だがそれは言えぬのだ」

 

「どうして?有効なら使えばいいでしょう?」

 

「出来ぬ理由が有るからだ」

 

答えを求めるレミリアにバーンは言った

 

「……ソルが余だからだ」

 

答えに一瞬レミリアは呆けるがすぐに意味を悟った

 

「読まれるから?」

 

「そうだ、余が考えつく事はソルも考えつくという事だ」

 

バーンが口出しせず何も言わないのはちゃんと理由があった

 

ソルは平行のバーンなのだから知識や思考も同じだと考えたからだ

 

当然ながら同じといえど経験に違いがあるので絶対に読まれるかと言えばそうとは思わない、幻想郷独自の物や知識があるのだから当然だ、それでも微細な誤差程度にバーンは考えている

 

「効かぬならまだしも利用されては元も子も無い」

 

勇者なら奇蹟を信じて賭けるかもしれないがそんな何%有るかもわからない博打をバーンが打つ筈が無かった

 

それにこういった戦争に関する戦略では尚更に大差が無いと思っていたから

 

「だからあえて言わぬ、それに余ではないお前達の知略ならソルも読み難いと思ってな……しかしなレミリア、それは理由の1つに過ぎん」

 

「……?」

 

まだ理由が有ったのかと思いながら首を傾げるレミリアにバーンはうっすらと微笑んだ

 

「余に及ばぬお前達に任せる最大の理由……それはお前達を信じているからだ」

 

嘘も偽りも無い、本当に信じていると言わん瞳に射抜かれレミリアはドキリと心臓が高鳴り頬が朱に染まる

 

「お前達ならば……強く在ろうとするお前達ならば必ずやソルの想定を越え奴に届くと余は信じている」

 

恥ずかしがっているレミリアが愛らしいのか微笑ましいのかバーンも先程より強く微笑む

 

「……言ったでしょ?私達は最初から貴方をアテにした戦略は取っていない、って……」

 

「覚えておるとも……それも有るから何も言わんのではないか、わかりにくかったか?」

 

「何年の付き合いだと思ってるの?わかるわよ」

 

「……来いレミリア」

 

バーンに手招かれてレミリアが横に座ると頭を撫でた

 

「……な、何よ急に……」

 

「……」

 

だがバーンは答えない

 

「なんで頭を撫でるのよ……私が小さいから?子どもみたいだから?」

 

「……」

 

バーンは答えない

 

「何とか言いなさいよ」

 

「……」

 

バーンはただ微笑むのみ

 

「もう……バカにして……」

 

恥ずかしさと嬉しさが混じった顔は紅く火照っていた

 

「フッ……」

 

バーンは小さく笑う

 

「うい奴よな……」

 

二人だけの図書館で王は妃の願いを叶えるのだった……

 

 

 

 

 

 

 

「……入れないねウォルター」

 

「そうですねフランお嬢様、見回りを終えて帰ってきたは良いですがこれは入ってはいけないシーンでしょう」

 

「もう一回見回り行こ!」

 

「英断かと……お供します」

 

 

 

 

 

 

目撃されて気を使われていた事を二人は知らない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月・収容所

 

「入れ……お前で最後だ」

 

完成した収容所に捕虜の最後の一人、豊姫が入れられた

 

「悪いが暫くそこで大人しくしていろ、逃げようなんて思うなよ?ここは一切の能力が封じられる場所だから逃げたくても逃げれないだろうが一応な」

 

「……そうでしょうね」

 

睨みながら豊姫は言った

 

「来る地上との決戦に私達が加勢に加われば負けでしょうからね」

 

続けて豊姫は言う

 

「私達をどうするつもり?洗脳?人質をとって命令?地上の者を皆殺しにする駒にする気?それとも陵辱かしら?」

 

目に憎悪を秘めて

 

だが返ってきたのは意外な言葉だった

 

「何もしねぇよ」

 

その言葉と興味なく自分を見る目に豊姫は僅かながら驚いた

 

「では何が目的なの……」

 

「俺達は強い奴等と戦えればそれで良いのさ、それ以外はどうでもいい、宝や領地なんてのにも興味無い」

 

豊姫は複雑な顔で押し黙る

 

「心配するな、誰にも手は出さねぇし幻想郷との戦いが終わったら返してやるって俺達のナンバー2、ガルヴァス司令が言ってたからよ、だから少しだけ我慢してろ」

 

「……」

 

軽く言う見張りに毒気が抜かれた豊姫は言われた通り大人しく用意されていた椅子に座る

 

 

「ヒョッヒョッヒョ……」

 

その直後だった

 

「こやつが最後まで抵抗した月人ですか」

 

怪しい笑みを浮かべたキルギルが入ってきたのだ

 

「キルギル様……何か御用ですか?」

 

緊張の色を見せた見張りが問うとキルギルは豊姫の居る牢に近付いていく

 

「何……少し月人に興味がありましてね、今後の研究の為に調べようかと来たのですよ」

 

牢の扉に手をかけようとした時、見張りがキルギルに立ち塞がった

 

「なりません、捕虜は丁重に扱えとガルヴァス司令より承っています、いくらキルギル様であろうとご勝手は許されません」

 

軍団長と同等の権限を持つキルギルにすら退かない見張り、軍の理念を誇りとしているのがよくわかる

 

「ふーむ……困りましたな」

 

困った顔を見せながら内心予想通りの反応だなとキルギルは髭を擦る

 

「ではこうしましょう」

 

杖を突き出すと見張りは倒れた

 

「何をしたの!?」

 

「なーに、少し眠ってもらっただけですよ、簡単な記憶操作の魔術も掛けたので起きてもバレません」

 

キルギルが牢に入りゆっくりと豊姫に近付いていく

 

「こ、来ないで……」

 

「さぁ行きますよ……なるべく痛くはしませんから安心してください、ですが死んでしまったらすいませんねヒョッヒョッ……!!」

 

手が豊姫の腕に伸ばされる

 

 

「それ以上やれば殺すぞキルギル」

 

 

いつの間にか現れていた異形な剣がキルギルの喉元に突きつけられていた

 

「テリー……!?」

 

キルギルは邪魔をする者、テリーを睨む

 

「捕虜に手を出すなと下知があった筈だ、命令違反だキルギル……手を引け」

 

「……そんな命令が有ったのですか?儂は聞いてませんが……はて?伝達ミスでしょうか?」

 

「とぼけるなよ……違反を理由に処刑する事だって出来るんだ、言葉は選べ」

 

「若僧が……貴様こそ調子に乗らないでください、殺しますよ?」

 

一触即発の空気で二人は睨み合う

 

 

「そこまでだ」

 

 

それは新たに現れた魔族の男によって止められた

 

「勝手はするなとオレは言った筈だぞキルギル?聞いてなかったのか?」

 

「司令殿……」

 

そこにはガルヴァスが立って居た

 

「何か弁明はあるか?」

 

「……ありませんよ」

 

答えたキルギルは背を向け牢屋を出ようとする

 

「命令違反の沙汰は幻想郷との決戦が終わった後に告げる、今は休め」

 

「わかりました、失礼します……」

 

キルギルは収容所を出ていった

 

「怖い思いをさせてすまんな、見張りを増やしておいてやる……それで許せ」

 

豊姫の言葉も待たず二人は眠らされた見張りを起こしケアをした後に出ていく

 

(一体何なの……こいつ等は……)

 

落ち着いたその場所で豊姫は一人驚いていた

 

(私に何もするつもりが無いと思えばあの老人……嘘かと思えばあの見張りは私を守ろうとしてくれたし今の二人……例外は居るみたいだけど本当に何もするつもりが無いのね……)

 

軍の在り方を間近に感じ見方が変わってきていたのだ

 

(戦いだけの野蛮人の集まり……そう思ってたけど違う……その中に信念と誇りが有った……)

 

都を攻め落とした敵であったのにそれを感じて自分でも戸惑うくらいに敵対心が薄れていた

 

(……依姫、もし貴方が上手く助けを求めれていたのなら気をつけて……)

 

どんなに待遇が良く、尊敬出来る者達だとしてもそれでも侵略の事実は変わらないし敵である事も変わらない

 

(こいつらは貴方や幻想郷が思う以上に手強い……)

 

だから願う

 

勝ってくれと……

 

 

 

 

 

 

 

 

「何故キルギルを処刑しなかった?」

 

都へ戻る途中テリーが問う

 

「あんな奴はさっさと殺しておくべきだ!」

 

先程下した罰にテリーは不満があった

 

幻想郷との戦いが終わった後に告げると言う事は少なくとも処刑ではない、キルギルが嫌いなテリーからすればそれが気に入らないのだ

 

「お前がキルギルが嫌いなのは知っているがそう言うな……」

 

困った様にガルヴァスは答える

 

「何故あんな形だけの処罰なんだ」

 

「奴なりのソル様を想っての行動なのだ、今のアレにしてもな……オレには奴を処刑する気にはなれん、奴には何度も助けられた……奴が居なければ戦いを続ける事も出来ず、卑劣な罠で全滅も有り得たのだからな……そうだろうが?」

 

「そうだが……」

 

確かな事実にテリーは反論出来ず苦い顔を作る

 

「奴は魔王軍に貢献してくれている、考え方や方法は我等の理念からは遠いのはわかるが綺麗事だけでは軍は成り立たん事はお前にもわかるだろう……?事実、お前の居た幻魔王の支配していた狭間の世界は奴の知恵と研究が無ければ突破出来なかった、違うか?」

 

「チッ……わかった、だがやはりキルギルと戸愚呂の兄は好きになれん事は言っておく」

 

「仲良くしろとは言っていない、それでいい……我等はソル様の威光の元にただ戦いの為だけに生きる集団だ、戦いの時は一丸となるがそれ以外は好きにしろ」

 

二人は戻っていく

 

「それにしてもキルギルが動く事をよく気付いていたな?」

 

「俺は女や弱い者に非道をする奴が嫌いなんだ、キルギルと戸愚呂の兄みたいな俺達の理念を気にしていないクズには目を光らせている……月人なんて珍しい人種を前にキルギルが動かないわけがないからな、ここを落とした時から監視していた」

 

「……そうか」

 

月の都の中心で建設中の建物に向かって

 

太陽宮(ソルパレス)の完成までまだ3日は掛かるか……キルの報告で偵察が来ていたみたいだし準備が整うまで手を打っておくとするか……テリー、お前達は待機だ、休息も含め開戦は5日後に行う、それまで剣を研いでいろ」

 

「わかった」

 

テリーは答えると先にガルヴァスが都に入るのを見届けた後、立ち止まる

 

(キルギルを止めたのはもう1つ理由がある……)

 

誰にも言っていない自分だけの理由、強くなる目的、存在意義でもあったある理由が起因していた

 

「守ってやりたかったんだ……」

 

掠れる様な小声でテリーは呟き宙を見上げる

 

(あの女の髪が……姉さんに似てたから……)

 

いつか再会すると決め、守ると誓った遠い日の姿を思い浮かべて青い剣士は進む……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

永遠亭

 

「……」

 

「……」

 

居間でルナと依姫は無言で見つめ合っていた

 

「……」

 

ルナが目を逸らす

 

行くアテが無い依姫は永琳が終わるまで面倒を見るとここに居たのだ

 

だがどうにも話しかけ辛い雰囲気の依姫に見つめられて明るいルナも知らない人であるのも手伝って困っていた

 

「貴方……幻想郷の住人ではないですね?」

 

ずっと見つめていた依姫が不意に問う

 

「……それはどういう意味ですか?」

 

「言葉通りです、ここで生まれた純粋な幻想郷の住人ではないでしょう?異世界から来たのですか?」

 

依姫は感じていたのだ

 

ルナの毛色が幻想郷の者達と少し違う事を

 

「……なんでそんな事を聞くんですか?」

 

「貴方……「皇帝不死鳥」の娘でしょう?月にまで届いたあの7人の頂点、その中でも特に有名だった藤原妹紅の娘がどんな子なのか何となく知りたかったのです」

 

ただの興味本意で納得出来る理由ではなかったが母を褒められた気がしたルナは答える事にした

 

「……わからないんです」

 

答えを顔を落としながら言う

 

「誰も教えてくれないし……でも私も何となくそんな気がしてたけど何でか怖くて聞けなくて……」

 

「何故怖いのですか?知りたくはないのですか?」

 

「知りたいですよ!!」

 

急に語気強くルナは叫ぶ

 

「私はどこから来たのか……私はお母さんの本当の子どもなのかって、もしかして本当のお母さんが居るんじゃないかって……聞いてみたいですよ!」

 

泣きそうな顔でルナは言う

 

「でも……恐いんですよ……」

 

「どうしてですか?」

 

「実は捨てられた子なんて言われたらって考えると怖くて聞けないんです……だけどそれ以上に……!」

 

ペンダントにされたそれを強く握り締める

 

「お母さんが悲しみそうだから……答えられたら……今までの事が嘘になっちゃうんじゃないかって思って……だから聞きたくないんです……」

 

母、妹紅の御守りを強く……

 

「お母さんが大好きだから……」

 

「……!?」

 

その時、依姫はある事に気付いた

 

(光ってる……?)

 

御守りがルナが気付かないくらい小さく淡く光を放っているのを見たのだ

 

(不思議な光……穏やかなのに強い決意が混じった母性の様な……優しい炎みたいな光……)

 

目を凝らさなければわからないくらい小さな光なのに見蕩れる程に惹かれてしまい依姫は言葉を失う

 

「……」

 

また沈黙が二人に訪れる

 

「配慮に欠けた質問でした……申し訳ありません」

 

「いえ!気にしないでください!」

 

頭を下げた依姫に慌てて手を振るルナ

 

「もしよろしければ稽古に付き合ってくれませんか?私も戦いの際には参加しますので可能な限り鍛えておきたいのです」

 

「もちろんです!私も勉強やお稽古が休みになってする事が無くてウズウズしてたんです!よろしくお願いします!」

 

「では行きましょうか」

 

二人は外で親交がてら修行をするのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・門前

 

「……」

 

話し相手も居らず今は一人で門番をするミストは神経を集中させて番をしていた

 

「退屈そうだなミスト」

 

「!?」

 

誰も居ないのに声が聞こえミストは一瞬驚くも知っていた魔力の様式から危険は無いと咄嗟に構えた手刀を下ろし待ち構える

 

「何の用だ……」

 

問うとミストの前にバチバチと稲妻の様な魔力が走り声の主が姿を現した

 

「幻想郷の代表に話があって来た、ここに居ると思ったが合っているか?」

 

「……」

   

ミストに攻撃の意思は無い、今現れた者がある理由から危険が全く無いとわかっていたからだ

 

「構わないのならば案内を頼みたいのだが」

 

「……」

 

暫しミストは考える

 

(罠の可能性は無いか……今は少しでも情報が欲しい、何のつもりか知らぬが何も出来ないのも事実……ここは私が応対するよりレミリア様やバーン様にお任せする方が有益に繋がるか……?いやしかし独断をするわけには……)

 

悩むミストがどうするか決めかねていると頭上から知った声が響いた

 

「入れてやれよ」

 

それは魔理沙だった

 

箒に跨がり横にはパチュリーと小悪魔も居る

 

作業をしながらも警戒を怠っていなかった3人は紅魔館に知らない魔力反応が出たのを感じて駆けつけたのだったが魔力様式を見て警戒を解いていた

 

「……敵だぞ?」

 

「そうだけどよ、そいつ魔力使って送ったただのビジョンだろ?何も危なくないぜ?そうだろパチュリー?」

 

「ええ、本当にただのビジョンよ、私が見たのだから間違いないわ、話す事しか出来ないのを保証するわ、いざとなれば魔力を消せば良いのだしね」

 

「……ぬぅ」

 

魔理沙はともかくパチュリーにまで安全と言われたミストだったがそれでも少し考える

 

「……いいだろう、着いてこい」

 

だが結局は会わせる事に決め敵であるこの男、魔軍司令ガルヴァスを紅魔館に入れるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅魔館・図書館

 

「まさか貴方が会っていただけるとは思いませんでした、一応お初に御目にかかります、ガルヴァスです、更にこちらも一応ですが、バーン様……とお呼びした方が?」

 

「……思ってもおらん事を囀ずるな、余の世界のガルヴァスは勇者に討たれ死んでいる、妙な物言いになるが余とお前は互いをそれなりに知ってはいるが他人であり敵だ、畏まる必要は無い」

 

「ですが無理を聞いて貰った以上は最低限の礼は尽くさねばなりません、平行とは言え一応は我が神と同じ存在なのですからな」

 

「……格が違うと言いたげだな」

 

「フッ……それはどうでしょうな」

 

微笑するガルヴァスと無表情のバーン

 

二人は出会っていた

 

もう存在がバレているし危険の無い通信魔力を使っていた為に会ったが直に見ると互いに自分の知っている者との違いがよくわかっていた

 

「それで……?敵のナンバー2がわざわざいったい何の用なのかしら?」

 

そこへ不適な笑みでレミリアが問う

 

「何……簡単な事だ」

 

同じくレミリアを見て笑ったガルヴァスは不敵にもそれを告げる

 

 

 

 

 

 

 

      宣戦布告に来たのだ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は特にと言った事は無いですね、決戦までの最後の一幕と言ったところです。

短いなんて言いながらもう10話なのにまだぶつかってないや……思いの外長くなりそうです。

次は未だ正体不明の超竜軍団と機甲師団の団長が判明するかもしれません、超竜はまぁ御察し……機甲は情報も無いし絶対わからないと思います、多分……残念系?

次回も頑張ります!

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