fate/never surrender,s 作:R-boat
ー漸く、漸くだ。
ーずっと、この時を待っていた。
ー奴によって私の『黄金』は傷をつけられた。
ーだが、今度は奴によって私の願いは叶う。
ー今度こそ、私が新たな神になるのだ!
◼
ー…
朦朧とした意識の中で、声が聞こえる。
「おーい」
ー…?
その声は何度も繰り返され、少しずつ大きくなっていく。はっきりしない意識のまま起きようとしたとき、
「起きろー!」
ー耳がぁ!?
最大級に大きい爆音が至近距離から耳を襲う。
「良かった、ちゃんと生きてるな。死んでるかと思ったぜ」
ーおかげさまで、元気です。
「いやぁさっきは悪かった、て言うかあんたも案外いい性格してるな…」
いい性格、とは心外であるがローマ皇帝とか錬金術師とか油断も隙もないようなのとやって来たことを思えば否定は出来ない。そんな事を考えていると、青年から問いかけられる。
「で、あんたは何でこんなとこで寝てたんだ?」
言われてみて、覚えていることを辿ってみる。
昨日の朝は、当然のようにベッドに潜り込んでいた清姫をスルーして食堂へ向かった。エミヤさんちの朝ごはんは美味しかった。
そのあとはレイシフトしてノルマ分を稼ぐ。頼光さんと茶々が暴れてくれるから楽なものだ。
帰ってからはバロンが何故か用意していたフルーツケーキを皆で食べた。何名かバロンに対抗意識を燃やしていたが。
そのあとは…
やはりはっきりしない。それにこういうよくわからないうちに跳んでしまうことは珍しくないし、なんかもう考えなくて良いんじゃないかな。
「いや、良くないだろ!」
何言ってるんだコイツと言わんばかりに叫ぶ青年を見て、そういえばこの人の名前すら知らないことに気付く。青のパーカーを着た青年の姿はどうみても現代人であり、顔立ちから日本人であることは想像がつく。自己紹介したあとにそれとなく聞く。
ーあなたはどうしてここに?
「俺はそのぉ、何て言うか…」
ーもしかして、分かってない?
「すまねぇ、そっちは色々教えてくれたのになんも言えなくて。ここにいる理由どころか自分が誰だかすらハッキリしないんだ」
ー…つまり
「ぶっちゃけ何も覚えてない!」
ーそのパターンかー!
頭を抱える青年に対し、こっちも頭を抱えたくなる。そんなとき、茂みから物音がする。
ー後ろっ!
青年に呼び掛けるより早く茂みから飛び出してきたのはこれまでの特異点では遭遇した事の無い、まるっこい印象の人型エネミーだった。エネミーはどこか興奮した様子で襲いかかってくる。
「なんだよって、敵か!」
敵の存在に気付いた青年はどこに仕舞っていたのか、橙色がかっている白い片刃の大剣を取り出して構える。
「考えても仕方ないしまずは戦う、指示してくれ!」
ー任せて!
◼
「これでラスト!」
最後の敵を切り伏せた青年は大剣を地面に突き刺し一息つく。
ーお疲れ様
「あんたもアドバイスありがとな、助かった!」
アドバイスといっても、とくに指示らしい指示は出来なかったと思う。初めて彼の戦い方を見たのもあるが、彼の戦い方自体あまり馴染みの無いものであったのが大きな理由だ。あえて挙げるならバロンの戦いに近い印象を受けたが、具体的にどこが似ていると感じたのかは自分でもよくわからないが。
「いや、相手がどこから来るか分かるのはかなり戦いやすかった。さっすが世界を救ったヒーローだな!」
ストレートに感謝されると少し照れる。それにヒーローと言われるのは違う気がする。
人理修復だって、サーヴァント達の力が無ければ無理な事だ。俺に出来たことなんて…
「でもあんたは逃げなかったんだろ?弱くたっていい、諦めないで歩き続けるのが大事なんだ。
まだ自分のことは思い出せてないけど、俺もあんたと同じだった。
諦めの悪さが取り柄って言うかさ…、きっとそれが本当の強さってやつだと思う」
『お前は、あいつに似ているな…。例え、何度裏切られても信じることを止めないその甘さ。捨てるなよ、例えそれが弱さだとしても』
どうしてだろう。彼とバロン、雰囲気は全然違うのに似ていると感じるのは。弱さを弱さと認めたまま、歩く強さ。それは数々の英霊の強さの在り方の中でも特異な、バロンの語るもの。
ーねぇ、
「どうした?」
ーバロンって、知ってる?
「…!」
その言葉を聞いた彼は、大きく目を見開く。
バロンの話に出てくる青年のイメージと、目の前の彼が何となく近いように感じたから、思い付きで聞いてみたがどうやら当たりを引いたらしい。
「バロン…戒斗…!」
ー何か思い出した?
「駄目だ、まだ記憶がはっきりしない、けど…
そうだな、名前くらいは思い出せた」
「俺は紘汰。葛葉紘汰だ」
真名 葛葉紘汰
宝具
『超人類化・異界侵食』 EX
オーバーロード・ガイム
あるはずのない空想。
弱さを抱きながら進むという決意は、偽りの黄金により汚された。
『先立つ勝者の剣』B+
ソードオブロシュオ
生前の彼が持ち続けた大剣。
本来は並行世界において『森』の侵食を乗り越えた種族の王が所有していた武器である。
元々白かった刀身はややオレンジがかった色に変色している。
聖杯によって生み出されたIFの葛葉紘汰。
葛葉紘汰に破れたのち、執念のみでかろうじて存在を維持していたコウガネが、偶然魔神柱の死体を発見し、葛葉紘汰に対する復讐と自らの悲願を達成するために、かつて葛葉紘汰を操った時のように、聖杯の力で平行世界の葛葉紘汰にを乗っ取ったことにより誕生した。
コウガネにより人格を汚染され『黄金の果実』をひたすら求めた彼は、かつての友による断罪によりその人生を終えた。その末路は皮肉にも、本来の葛葉紘汰とは逆の立場であった。
サーヴァントとなったことで解放された今は、贖罪の意志と共に、本心からの願いで正しいことの為にマスターと戦うことを決めている。