fate/never surrender,s 作:R-boat
「バロンだ!」
バロン、そう名乗っただけなのに藤丸は目の前の英霊に刺し貫かれたような感覚に陥る。一見同じ人間で在ろうと、存在そのものの格が違うのだということを藤丸は本能で感じ取った。
「バロン…それが貴方の『真名』なのでしょうか?」
「…なんで所長敬語なの?」
「先輩は少し豪胆過ぎませんか…?」
先ほどまでとは異なる、『魔術師らしい』態度でなおかつバロンの機嫌を損ねないように質問するオルガマリーのその豹変ぶりに、『本能で感じ取った』とはなんだったのかと言わんばかりに口を挟む藤丸に、マシュは困惑する。
そんなこんなのうちに、バロンが口を開く。
「くだらん」
「…何がでしょうか」
「そのへりくだった態度がだ。お前は弱者の如く振る舞うことに納得してなどいない。強者を恐れ我を通すことも出来ないのなら、そこの能天気なマスター未満の方がましだ」
「!?」
嘗めていた訳ではないが、これまで自分の『弱さ』につけこんで甘い密を啜ろうとした魔術師たちを何度もあしらってきた本心をあっさり見抜かれたことにオルガマリーは驚愕する。
『あー、そのだね。きみが何処の英霊なのか教えてくれないかい?』
「弱者が俺に質問をするな!」
『話にならなかった!理性があるように見えてもやっぱりバーサーカーだったかぁ!』
オルガマリーのフォローも含め、気になっていたことをバロンに問いかけるロマンだったが、わりと理不尽な理由で一蹴される。
そんな会話からハブられながら藤丸は、なんか変なのを引いてしまったなぁ。なんて考えていた。
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そのあとは、汚染されたサーヴァント擬きであるシャドウサーヴァントとの戦闘や、利害の一致で共闘することとなったキャスター、『ケルトの光の御子』クー・フーリンとの出会いなど色々あったがその間バロンは、
「この程度の連中に遅れを取るやつに、俺は従わん」
と言ってほぼ傍観していた。それでも本当に危ない時は、何処からか取り出した植物の蔦で敵を薙ぎ払ったり、藤丸を引っ張り上げるなどしていた。
なんだかんだ言って見捨てはしない辺りが彼らしくはある。
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何度目かの休憩の際、マシュの宝具を使えるようにする為の特訓と称し、殺す気で襲ってきたクー・フーリンに対しギリギリで『
それを見てバロンは、マシュに対する評価を改める。
盾を主な武器とする戦士にあまり良い記憶がないのもあるが、そもそも守りに徹することに対しバロンは否定的である。しかし、他者を守る為に己の限界を乗り越えたマシュ、そしてそんなマシュを疑いなく信じた藤丸もまた、一つの『強さ』を持っているとバロンは感じた。
「マスター」
「どうしたの、バロン」
「何故、マシュを信じられた?」
「何故って…」
「あの時もし宝具を使えなかったら、お前は死んでいた」
「あー、確かに。でも…」
クー・フーリンの最後の一撃は宝具を用いたものだった。
全力には程遠いとしても、まともに食らえば即死だっただろう。それでも、
「先輩が後輩を信じるのに、理由はいらないよ」
「…」
「何か変だった?」
黙りこむバロンに対し不安になる藤丸。しかし、
「…クッ、ハハハハハ!」
「笑った!?」
「とんだお人好しめ!だが、認めてやる。お前は強い!」
ひとしきり笑った後、バロンはついに名乗る。
「俺の名は駆紋戒斗。2013年の、歴史に名を遺すことも無かったただの怪物だ」
少し続きます。
黒セイバー戦くらいまでは、試しに書いてみる。