「…………」
「…………」
今、俺は自宅でクリムと向き合っている。
というのも俺がクリムに問い詰めているのだ。
「今日シロが行っていた、記憶の事。どこまで知ってる?」
まだ黙るか。
「俺は小学五年から中学二年の5月ぐらいまでの記憶がない。クリムは事故にあったって言ってるけどあれ、違うよね?」
「……すまない。まだ話すことはできない。」
「理由は?」
「システム的ブロックだ。君が忘れている記憶の事を話そうとすると声が出なくなるプログラムが組み込まれている。」
やっぱだめか……。
だが今ので俺の失ってる記憶がただもんじゃないことだけはわかる。
おそらくシロとは長い付き合いになりそうだからな。あいつなら……。
「そんなことより、そろそろ行かないと遅刻だぞ。」
「あぁ…。」
少し重い足取りで校舎へと向かった。
教室に入ると、教室は球技大会の事で持ち切りだった。
「球技大会ですか〜。いいですねぇ……なのですが、なぜE組がトーナメントにないのでしょう?」
「俺らはここでもE組扱いだよ。クラス数が奇数って素敵な理由でね。」
「そのかわり、E組は最後にエキシビジョン戦に出ないといけない。」
「エキシビジョン?」
今年から担任になった殺せんせーや転校生の俺はよくわならないので説明を聞く。
聞くと、男子は野球部と。女子はバスケ部と。ボコボコにされるのを見て最下位の組も気持ちよくなれるってことらしい。
「はぁ、いつものやつですか。」
いつものやつだねぇ。
「勝てそうなの?」
俺が聞くと、杉野が
「無理だよ。うちの野球部、かなり強いんだ。あいつらは三年やってきてるけど、こっちは素人、部活も禁止されてる。」
なるほど、不利に不利ってわけか。
だが杉野は「でも」と置いて、
「勝ちたいんだ。E組のみんなで!」
「わかりました〜!ではみんなで特訓です!!」
殺せんせーが野球のユニフォームを着て叫んだ。
「殺せんせーは出れないよ?」
「わかっています。実は先生、昔から熱血コーチにあこがれているんです。」
「よーし!思いっきり盛り下げてやろー!」
というわけで殺監督との特訓が始まった。
「けっ!さらし者なんでゴメンだな!お前らだけでやってくれ!」
……寺坂組以外は。
--試合当日--
「両チーム整列!」
「杉野、選ばれた人間とそうでないやつの違いを見せてやるよ」
あれが昨日言ってた進藤か。
「あれ?殺せんせーは?」
「今日の指揮とるんじゃなかったの?」
菅谷の質問に渚が答えた。
「あそこ、遠近法でボールにまぎれてる。」
すると、殺せんせーの顔が三回変わった。
「なんて?」
「殺す気で勝てってさ」
その言葉に全員ニヤリと笑った。
「確かに、俺らにはもっとでかいターゲットがいるからな。」
「負けてらんねぇ。」
「ヌルフフフ……さぁ、味合わさせて殺りましょう。殺意と触手に彩られた暗殺野球を!」
「プレイボール!」
審判の声が響き、試合開始。
E組は先行だ。
「一番、バッター、木村君」
進藤の一球目。
ズドン!!
「ストライク!」
「やっぱ速ぇ〜」
「140キロ出てんだと」
本校舎の連中も驚き、歓声を上げる。
「いやぁ〜すげぇアウェイ感。」
チラリと殺せんせーを見ると、木村に指示を出した。
進藤の二球目……!
コン!
「なっ……」
木村は足を活かしてセーフティバント。
これには進藤も驚きだな。
だがこの程度で驚かれるのは心外だなぁ。まだまだ始まったばっかだってのに。
「二番、バッター、潮田君」
コン!
サード線へプッシュバンド。
「よっしゃー!ナイス渚ー!」
殺せんせー曰く、強豪校とも言えど中学生。バンド処理はプロ並みとは言えないらしい。
「三番、バッター、磯貝君」
とはいえ、素人がバントを思い思いに決めるのは、普通なら無理だ。そう、普通なら。
「へへっ、こちとらあの怪物相手に練習してたんだぜ?」
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「殺監督は300キロの球を投げる!」
「殺守備は分身で鉄壁の壁を作る!」
「殺キャッキャーは囁き戦術で集中わ乱す!」
「この間矢田さんの胸に目が言って神崎さんに睨まれていましたねぇ…」
「てめぇ!なんで……!読者の皆様にもいってねぇのに……」
「メタ発言だ!!」
渚よ……仕方ないんだ……。
みんなの体力がなくなった頃、対戦相手
こ研究を始めた。
「この3日間、竹林君に偵察を頼みました。」
「面倒でした。」
そういいつつ持っていたノートパソコンを開いた。
「進藤の球はMAX140.5キロ……球種はストレートとカーブのみ。練習試合も、9割がストレートでした。」
「あの速球なら、中学生相手ならストレート一本で勝てちゃうのよ。」
竹林の説明に杉野が付け足す。
「そう!逆にストレートを見極めれば、こっちのものです。今度は先生が進藤君と同じフォームと球種で、進藤君と同じようにとびきり遅く投げましょう。」
みんなほえ?っといった表情をしている。
「さっきの先生の球を見た後なら、彼の球など止まって見える。」
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コン!
「おっと!またバント!」
ライン上にぴたりと止まってオールセーフ!
「よっしゃー!!ナイス磯貝!」
「四番、バッター、杉野君」
ここでようやく進藤が気づいた。
今これは野球ではないことに。
殺せんせーの指示をみた杉野はニッと笑って、
バントの構え。
「進藤君投げたー!」
バントと見せかけた杉野は構えをとき、ヒッティングに変えた。
カキィィン!
「う、打ったー!右中抜けたー!走者一掃……!これで…3対0〜…調子でも悪いんでしょうか……!」
「殺ったぜ杉野ー!」
こっちはお祭ムード。
だがそんなムードを壊すように一人の男が選手を集めた。
「理事長……!」
「もうボスが出てきた…!」
理事長がお話を、終えると。さっきまでの野球部の姿ではない…。
もう殺る気がちがう。
おまけに外野を捨てて全身守備。
「ありゃ、バントしかないって見抜かれたな。」
と、そこに
「男子〜どう〜?調子は」
「今は勝ってる。が、もうそー簡単にはいかないかな。」
女子全員が試合を終えて様子を見にきた。女子は惜しくも負けたようだ。
「げっ、理事長じゃん。」
ズドォォォォォォン!!
「す、すごい進藤君!完全復帰!」
5.6.7番が三者三振に抑えられた。
あ、俺5番ね?普通に速かったから。
「よっしゃ!この三点守りきろう!」
「「「おう!」」」
マウンドには杉野。俺はライトだ。
「頼むぞ杉野。飛んできたら取れねぇよ」
「あはは、わかってらい」
一番が殺る気で構えた。
「プレイ!」
「杉野君なげたー」
おい実況、真面目にやれい
が、そんな実況気にせず変化球を使って三者三振に抑えた。
「すげえな、杉野。」
「殺せんせーに手首の使い方教えてもらったんだ。」
ほんとなんでもするな、あの先生は。
二回表。カルマからだが。
「ね〜ずるくない?理事長先生。こんな邪魔な位置で守ってんのにさ、審判の先生もなにも注意しないの?お前らもそう思わないの?あ、そっか!お前ら馬鹿だから守備位置とか理解してないんだね。」
そこまで煽ると、
「小さいことで、がたがた言うな!」
「エキシビジョンで守備にクレームつけてんじゃねぇ!」
荒れてる荒れてる。
結局。二回表無得点でチェンジ。
「うぉぉぉ!」
「打ったー!」
センターのフェンスに当たった打球、クッションボールは取れない。守備にそこまで練習を避けなかった。
野球部はこれでは終わらない。続けてタイムリーを打ち、この回同点まで追いつかれた。
三回表、渚、磯貝が三振するも杉野がヒットで一塁へ。
あいつら、杉野のときだけ定位置に戻りよる。
「拓実君、がんばって?」
「がんばれ〜!」
まぁ、なんですか?有希子と桃花に応援されちゃ、殺るしかないですよね?
杉野すんごい睨んでるけど。
ちらっと殺せんせーの方を見るとサインで
「本気でやりなさい。」
……はい。
ズドォォォォォォン!
「ストライク!」
守備は相変わらず前進守備。
ズドォォォォォォン!
「ストライク!ツー!」
球は全部ストレート。
杉野はリード取ってるし、進藤もランナーに興味を持っていない。
いいあたりでなくていい。
杉野が帰ってこれるだけの距離を。
「進藤君投げたー!!」
俺は思いっきり振り抜いた。
ググキィィィン!
E組が、野球部が、観客が、ボールを追った。
ぐっーと伸びてくボール。
そのまま
「入った……入ってしまったー!坂上君ホームラン……!」
「す、すごい!!すごいよ拓実君!」
「ほんとに……かっこいい……!」
理事長……。抑えることに専念しすぎましたね。俺は戦闘時マッハで動くからスピードには困っていない。問題は距離。俺が使っているのは金属バットで当たったらある程度は飛ぶ。ピッチャーの球が早ければ早いほど、反発はでかくなる。だから長打力がなくても筋力あって当たればなんとからかる……。
俺らのような素人には、スローボールのほうが抑えられたかもな。
「ナイスバッティン!!坂上!」
「うそ……だろ…?」
ショックの受けた進藤はさらに……凄まじい……。
二点を追加で三回裏。
これを抑えたら勝てる。
が、理事長もそう簡単にはいかない。
俺らが最初にやったバント攻撃で攻める。ノーアウト満塁。
バッターは……進藤……。
「やべぇな……」
だが、焦っていたのは俺たち生徒だけだった。
この時点で、殺せんせーは勝ちを確信していた。
カルマと磯貝司令をだし、全身守備をさせる。これは先にそっちがやったと挑発をかけ、さらに接近。ゼロ距離だ。
カルマが進藤に何か言ってるが……まぁ、おおかた殺す気で打ってみろとからそんなんだろう。
進藤は理事長の洗脳についていけず腰砕けの内野ゴロ。カルマがホームになげ、サード、進藤が走れていないファーストになげ、トリプルプレーで試合終了。
E組勝利ナリ!!
その後、杉野が進藤と会話をして握手を交わした。和解できたようで良かったよ。
最後駆け足になってしまいました。すみません。