「…わかった?このドラマのサマンサとキャリーのエロトークの中には難しい単語は少ないわ。」
うん、わかりやすい。確かに日常会話の英語術ならこれはいいんだけど、
題材が……中学生には……ハードルが……。
「どんな国でも日常会話なんてそんなもんよ。周りに一人や二人はいるでしょう?『マジすげぇ』とか『マジやべぇ』とかで会話を成立させちゃう奴。」
とビッチ先生が言うとすぐに前原が、
「あー、確かにいるわ~そういう奴。」
確かに小学校高学年あたりからそんなやついた気がする。
まぁ、中学生一年から二年は覚えてないが。
「でしょ?そしてその『マジ』にあたるのがご存知『Really』。木村、言ってみなさい。」
いきなり名指しで呼ばれてビクッとする木村。
「…リ、リアリー」
「はいダメー。LとRがごちゃごちゃよ、LとRの発音の区別ぐらいはつくようになっときなさい。外人の私としては通じはするけど違和感があるわ。」
「え?ビッチ先生外人だったの?」
俺が転校してきた時はすでにいたのでしらなかった。
「そーよ。あぁ、そうだったわね。あんたは途中から来たのだったわね。」
「それにしてもビッチ先生、外人なのに日本語上手くね?」
するとビッチ先生が「何言ってるの?こいつ。」と言いたげな目で見ながら、
「当たり前でしょ。私はね、日本人にとってのLとRみたいに相性が悪いものは逃げずに克服する。そういうスタンスでやってんのよ。だからこれから先、発音には常にチェックしてるわ。…LとRを間違えたら、公開ディープキスの刑よ。」
「え、マジかよなにそれマジやべぇ。」
「あ〜こんなことにも会話を成立させたやつがいる〜。」
俺の発言に中村が笑う。
「じゃ、拓実。Reality。言ってみなさい。」
「………ゴホン。Bitch。」
「むきっー!!なによそれ!!なんか発音良いしなんなのよー!!」
ビッチ先生がカンカンになったところでチャイムが鳴った。
「……じゃ、今日の授業はここまで。
……拓実、あんたいつか公開ディープキスの刑よ。」
「やだよ。」
「「「「「「ありがとうございました」」」」」
授業が終わってチラホラ帰り出した頃、俺は数学のノートを出しに行った。
すると職員室から、
「あーーーーーーもうっ!!ほんっとにめんどくさいわ授業なんて!」
ビッチ先生の雄叫び……声が聞こえてきた。
「…その割には生徒達からは好評だぞ」
「……なんの自慢にもなりやしない。殺し屋よ!私は!あのタコを殺す為にここに来てんの」
まー、殺し屋としてここに来てるからな。
「その肝心のタコはと言えば、私のおっぱいを景色に見立てて優雅にお茶まで飲んでいるわ!!」
「…焦るな。そういうやつだコイツは」
「そうですよイリーナ先生、もっとお茶を飲ませてくださいよ~」
「お前は黙ってろ…!」
「…fuck!やってられないわ!!」
そういってビッチ先生がズカズカと出ていった。
「…気が立ってますねぇ。イリーナ先生」
「全て誰かのせいだがな」
「では私は上海に杏仁豆腐を食べに行ってきます。」
そして殺せんせーが窓から出ていった。
「いいんですか?国家機密を外に出して。」
「坂上君か……。もうやつを止めれる気がしない。」
「あはは……」
と、話してると廊下の方から
ダンッ!
ともの音が、とっさに鳥間先生が出ていった。俺もあとについてって影からこっそりと見ていた。
見たところ、ビッチ先生の首にワイヤーが巻かれていて、そのそばに男の人が、
「子供相手に楽しく授業、生徒達と親しげな帰りの挨拶…まるで、コメディアンのコントを見ているようだ。」
「……師匠《せんせい》…!?」
とそこでたまらず鳥間先生が止めに入った。
「何している。降ろせ。女に仕掛ける技では無いだろう。」
「心配無い。ワイヤーに対する防御くらいは教えてある。」
ってかあいつが、喋ってるのは何語?
「…何者だ?せめて英語だと助かるのだが。」
「これは失礼、日本語でも構わない。別に怪しい者ではない…イリーナ・イェラビッチをココに斡旋した者、と言えばわかるか?」
「……!殺し屋ロヴロ!!」
………!誰!!
「…ここには何の用だ」
「…殺せんせーは今どこに」
「上海まで杏仁豆腐を食べに行ってる。30分前に出たからもうじき帰ってくるだろう。」
「フ…聞いた通りの怪物ぶりだ…来てよかったよイリーナ、答えが出た。今日限りで撤収しろ。お前はこの仕事に向いてない。」
…………確かにビッチ先生は色じかけの暗殺においては引けを取らない……いや、誰にも劣らないだろう。だが色じかけの最大の弱点は、【一度見バレしたらつかえない。】
「…?ずいぶん簡単に決めるな。彼女を斡旋したのはお前じゃないのか。」
「現場を見たら状況が変わった。最早コイツはこの仕事に適任ではない。素性を隠した潜入暗殺ならコイツの才能は比類ない。だが素性が周りに知れれば、コイツは一山レベルの殺し屋だ、そのあげく見苦しく居座って先生のマネゴトか…反吐が出る。こんなことをさせる為にお前をココに寄越した訳ではない。」
「…そんな!必ず殺れます師匠!!私の力で…!」
「ほう…ならば…」
そう言うと、ロヴロは素早くビッチ先生の後ろに周り、一瞬のうちに腕の関節を決め、右手の親指を彼女の喉元に押し当てる。
「お前はこんなことができるか?」
「…速い!」
あれが……プロの殺し屋!!
「お前には他に適した仕事がたくさんあり、この仕事に執着するのは金と時間と労力の無駄だ。この仕事にはお前じゃない適任者がいる。」
「…どういうことだ。」
「二人の転入生暗殺者のうちのあと一人が実戦テストで驚異的な数値を叩き出し、投入準備を終えたそうだ。」
あと一人ってことは、一人目は律か……。あの無茶苦茶を、考えるともう一人も無茶苦茶か……?
「…………」
「…暗殺の善し悪しは誰にでもある。さっきお前は発音について教えていたが、お前にとっては教室《ここ》こそがLとRではないか?」
「………っ!」
ビッチ先生が言葉をつまらせた時、
「半分正解で半分不正解ですねぇ」
殺せんせーだ
「…何しに来たウルトラクイズ」
「ひどいですねぇ…私には殺せんせーという生徒につけて貰った名前があるのに…いい加減呼んでくださいよ。」
思ったより早かったな。
「貴様が殺せんせーか。」
「はい。確かに彼女は暗殺者としては恐るるに足りません。クソです。」
「誰がクソだ!!」
見バレしてるからね。
「ですが、彼女という暗殺者こそがこの教室には適任です。殺し合ってみればわかりますよ。彼女とあなた、どちらが優れた殺し屋か…。」
「ルールは簡単。イリーナ先生とロヴロさんのうち、先に烏間先生を殺した方が勝ち。イリーナ先生が勝ったらこの教室に残る事を了承して下さい。」
「おい待て!なんで俺が殺されなきゃいけないんだ!!」
「烏間先生なら公正なターゲットになれるからです。第一、私じゃだ~れも殺せないでしょう?」
シマシマ顔……なめてやがる。
「武器に使用するのは人に無害なこの対せんせーナイフ!期限は明日1日!どちらかが先にこのナイフを烏間先生に当ててください。」
そう言い、二人に対せんせーナイフを渡した。
「互いの暗殺の妨害行為は禁止、また生徒達の授業の邪魔になっても失格です。」
「…なるほど、要は模擬暗殺か。いいだろう。余興としては面白そうだ。」
笑ってる……。プロの殺し屋が笑ってるよ……。
「…チッ、勝手にしろ!」
「フフフ…殺せんせー、なかなか出来るなあの男」
「それはもう、何せ私の監視役に就くくらいですから」
やっぱ見ただけでわかるよな…。
プロってのはほんとにすごい。
「…アイツにナイフを当てる事などお前にはできない。イリーナ、お前に暗殺の全てを教えたのはこの俺だ。お前が可能な事不可能な事くらい全て知っている。この暗殺ごっこでお前にそれを思い知らせ、大人しくこの仕事から降りてもらう。そして、誰も殺れない殺せんせーよ、お前を殺すに適した刺客、もう一度選び直して送り直してやるわ。」
そう言うと、ロヴロは歩いて姿の消した。
「………私を庇ったつもり…?どうせ、師匠が選ぶ新しい弟子より私の方があしらいやすいからでしょう?」
「ええ。そうです」
「そうはいくもんですか!カラスマもアンタも必ず私が殺してやるわ!」
「ヌルフフフフ…楽しみですねぇ…」
そして次の日の体育……なんだけど……
(…狙ってる…!)
(狙ってるぞ…!)
(((((なんか狙ってるぞ…!!)))))
鳥間先生の授業中、烏間先生を狙う怪しい影が二つ……ビッチ先生とロヴロである。
「と、言うことだ。迷惑な話だが君達の邪魔はしない。普段通り過ごしてくれ」
(…烏間先生も大変だな…)
いや、ほんとお疲れ様です。
「今日の授業はこれで終了だ」
「気を付け、礼」
「「「「「「ありがとうございました」」」」」」
すると、すぐに
「カラスマ先生~」
「あ、ビッチ先生だ」
「あ、ホントだ」
俺の言葉に矢田が反応する。
「ノド乾いたでしょう?はい!冷たい飲み物!」
矢田が小声で、
「ねぇ、拓実、どう思う?」
と聞いてくるので、
「絶対何か入ってる。」
と、苦笑いで答える。……ん?
「なんで名前呼び?」
「ん〜?いいじゃん!私も桃花でいいから!」
ま、いっか。
「…恐らく筋弛緩剤だろう。動けなくしてナイフを当てる」
そう言われギクッとなるビッチ先生。
「言っておくが、そもそも受け取る間合いまで近づかないぞ」
「そ、そう。わかったわ。じゃ…ココに置いておくから…」
すると、置いたビッチ先生がわざと、そう、誰でもわかるくらいわざと……転んだ。
「いったーーーい!カラスマ-、おぶって-!おんぶーー!!」
「…やってられるか」
鳥間先生は呆れて校舎に戻っていった。
「ビッチ先生…さすがに俺らまで騙されねーよ。」
前原がビッチ先生を立たせながらそういった。
「仕方が無いでしょ!?顔見知りに色仕掛けなんて不自然の塊でしょう!?」
「まぁな」
「キャバ嬢だって客が父親だったら気まずくなるでしょう!?それと一緒よ!!」
「「「「「「知らねーよ!!」」」」」」
「そうなの?桃花?」
「私そんなのしてないから!?」
矢田が涙目で抗議してくる。
その涙目で訴えてくる姿に不覚にもドキッときました。
その後俺は昨日出し損ねたノートを持って職員室にいた。
「はい、確かに。」
「じゃ、俺は……」
と言いかけた瞬間、
ガラッ!!
「!!」
うそっ!?正面から!?
鳥間先生がとっさに立ち上がろうとが、詰まった。
椅子を引きにくいように細工がされていた。
ロヴロは烏間先生に向かいナイフを振るう。
が、
烏間先生は即座にロヴロの腕を掴み、机に叩きつけた。刹那、ロヴロの目の前には烏間先生の膝が止められていた
は、速ぇぇぇ!
「…熟練とは言え年老いて引退した殺し屋が、先日まで精鋭部隊にいた人間をずいぶん簡単に殺せると思ったもんだな」
すると鳥間先生が殺せんせーを睨んで、
「わかってるだろうな…もし今日中に殺れなかったら…」
「「ひ、ひぃぃぃ!!」」
「…なんでアンタがビビってんのよ…」
「が、頑張って!イリーナ先生!!」
殺せんせー何言ったんだよ……。
「楽しみだな」
どしよ……関係ない俺まで冷や汗が……。
と、ロヴロが、
「…フッ相手の戦力を見誤った上にこの体らく…歳はとりたくないもんだな。」
「!師匠…!腕を!」
ロヴロの手首は赤く腫れあがっている
「これでは…今日中にはあの男は殺れないな。」
「にゅやッ!?そんな!!あきらめないでロヴロさん!まだチャンスはありますよ!!」
「いや、ほんと何言ったんだよ。」
「…そうよタコ。チアリーダーの格好して…」
俺らの質問に汗を流して黙る殺せんせー。しかしロヴロが、
「…例えば殺せんせー、これだけ密着されても俺はお前を殺せない。それは経験から分かる。戦力差を見極め、引く時は素直に引くのも優れた殺し屋の条件…イリーナにしても同じ事、殺る前に分かる。あの男を殺すのは不可能だ。…どうやらこの勝負、引き分けだな。」
ロヴロが諦めたように言う
「…そうですか。あなたが諦めたのはわかりました。ですが、あれこれ予想する前にイリーナ先生を最後まで見てあげてください。」
「…!」
「経験があろうが無かろうが、結局は殺せた方が勝ち…すなわち優れた殺し屋…なんですから」
「フン…好きにするがいい」
そう言い残し、ロヴロは職員室から出ていく。
残った俺たちは、
「…アンタは本気で思っている訳?私がカラスマにナイフを当てる事が出来るってり」
「もちろんです。あなたが師匠のもとで何を教わったのかは知りませんが、教室《ここ》で何を頑張って来たかは私はよく知ってます。ねぇ、拓実君?」
「そー。タコ用に出したくないのはわかる。実際、一度使った手はもう使えない。でも今は!出し惜しみする時じゃないよ。残りたいんでしょ?ビッチ先生。」
ビッチ先生は黙ってはいたが、何かを、決心したような顔だった。
ここで終わっとけばいいのに……
「…そういえば、昨日通販で発注してたこのブラ、頑張ってますねぇ。」
そう言い、殺せんせーは派手なブラジャーに大きく〇をつけてあるカタログを出す。
「あーーーッ!!このエロダコッ!!」
ほんっとにこいつは!
-昼休み-
「ちょっといいかしらカラスマ」
「なんだ?模擬暗殺ならもう手加減はしないぞ」
「ナイフを持ってますね」
生徒達と少し離れた所で俺と殺せんせーとロヴロは見ていた。
「正面から行く気か…?バカ者が。そもそもアイツには高度な戦闘技術は教えてない。素人相手なら正面からでも殺せるが、あの男に通用しないのは承知のはず。だから結局は…」
「ねーぇ、いいでしょカラスマ?♡」
ロヴロが言う間にも、ビッチ先生は服を脱いで烏間先生を誘惑する。
「…色仕掛けに頼る他ない。フン…これではさっきと同じただの道化だ」
「私はどうしてもココに残りたいの。わかるでしょ?ちょ~っと当たってくれればいい話よ…見返りはイイコト。あなたが今まで受けた事ない極上のサービスよ」
と言われた
鳥間先生は呆れたように、
「いいだろう、殺れ。どこにでも当てればいい」
「…ふふ、嬉しいわ」
といった。完全に油断してる。今なら殺れるかも。
「…ロヴロさん、昨日のイリーナ先生の授業を聞いていましたね?」
不意に殺せんせーがロヴロに訊く。
「…あぁ。とても滑稽だったが、それが何か。」
「苦手な発音から克服して行くのが彼女の流儀。実際、彼女の日本語もかなり流暢です。」
「…………」
「外国語を覚えるのは挑戦と克服の繰り返し…10ヶ国語を操る彼女のたくさんの挑戦と克服をして物にしたでしょう。そして彼女はココで教師という未経験の仕事ですら臆せず挑んで克服しました。そんな挑戦と克服のエキスパートが…ココに来てから何もしてないとお思いですか?」
えぇ!?十カ国!?
「拓実君、あれを。」
と言われて、俺は一つのバッグを手渡した。
「…?……………!!これは!」
それを、見たロヴロは完全に驚愕の顔を、あらわにした。
「…じゃ、そっち行くわね…」
ビッチ先生はそう言い烏間先生にゆっくり近づいていく。
そして、ついに出した。
ワイヤートラップ。
ワイヤーを服で隠し、色じかけと思わせて一気に吊り上げる。
油断してた烏間先生も反応できず、ビッチ先生が烏間先生の上に乗った。
「…彼女はターゲットの私を殺す為に必要な技術を自分なりに考え、外国語と同じように挑戦と克服を繰り返しているのです。元殺し屋であるあなたならこのバックを見るだけで彼女の見えない努力が見えるでしょう?」
そう殺せんせーが問いかけた。
しかし、
ぶんっ!
ばしぃ!
「…く…危なかった…」
ビッチ先生が振り下ろしたナイフを烏間先生はギリギリで止める。
力勝負ではビッチ先生に勝ち目はない……。
それがわかっているのか、
「…カラスマ、殺りたいの。ダメ?♡」
「殺させろとすがりつく殺し屋がどこにいる!諦めが悪い!!」
そりゃねぇぜ……。
だが、
「…もういい。諦めが悪い奴に今日一日付き合えるか!」
溜息をつき、諦めた烏間先生が手を放す。
「苦手な物でも一途に挑んで克服して行く彼女の姿。それを見て生徒達が挑戦することを学べば一人一人の暗殺者としてのレベルアップにつながります。だから、私を殺すならば彼女のこの教室にふさわしいのです」
殺せんせーはそういった。それを、聞いたロヴロはビッチ先生のもとへ行く。
俺は力が、ロイミュードと戦う力があると少し天狗になってたかもしれない。
たとえマッハの力があったとして、鳥間先生やロヴロ、プロの殺し屋と対峙した時、そのスキルに負けるビジョンだって見える。
こんなんじゃ駄目だ。戦う力があるないなんて、関係ない。この教室にいる以上個人それぞれの刃を磨かないといけない。
「…………」
「…!師匠…」
「…出来の悪い弟子だ。先生でもやってた方がまだマシだ。必ず殺れよイリーナ」
「……!!はい!もちろんです師匠!」
そう言い残してロヴロは去っていった。
「やった…やったわ!ホホホホ!!」
「なんつー笑い方してんだよビッチ先生」
「でもさすがだねービッチ先生ー、烏間先生に勝つんだもん」
ビッチ先生とクラスメイトは笑いあっている。
あと気にするべきは……二人目の転校生……か……。
今回は戦闘はせず決意を固める回にしました。
夏休みの島と死神戦。あとオリ回をどんなのにするかはだいたい決まっています。